メーカーから反発が来ることもありますか。面と向かって「お前たちに車を与えることほどいまいましいことはない。なにを言われるかわかっているんだから」などと言われることはありますか。
ごくごくたまにね。そういう場合、メーカー側もその車がダメだと自覚しているんだろうね。

正直に言うけど、ぼくは自動車産業のなかで今と正反対の立場で働いていたことが少しあるんだ。

ラジオ業界で働こうと必死だった頃で、食べていくこともできなかったから、自動車会社の広報室で働いた。それで自動車産業を反対側から見ることになったんだ。ダメな車というのはすぐにわかる。本社かどこかから新車が発表されたとたんに、「冗談だろう、こんなのを売らないといけないのか」となる。ダメだってわかるんだ。

でもたいていのメーカーは、車に全然注目してもらえないよりは、注目してもらえるほうがいい、と喜んでくれるよ。たとえ酷評されたとしてもね。違う意見を持つ人だっているだろうし。みんながジェレミーやぼくやジェームズと同意見とは限らないからね。番組を見て、「こいつは間違っている」とか、「なかなかかっこいいじゃないか」とか、「ヘッドルームは必要だ」とか、ぼくたちとは別の考えをもつ人がいるかもしれないし。気を悪くするメーカーはごくごくまれだけれど、全然いないとは言えないね。痛いところを突かれて、ムッとされることもときどきあるよ。
それでもまだ、あなたたちにどうしても車を見てほしいと熱望して、「こんな車を作ったので、大砲でぶっぱなしてくれませんか」なんて電話をかけてくるメーカーもいますか。
メーカーが出してくるアイデアは、たいていはとんでもなくひどいからね。そういうことは彼らの本業じゃないから、提案されても取りあわないだろうね。自動車産業は巨大だけれど、そこで働いている人の提案といえば、たいていの人とたいして変わらないものばかり。ときには――困ったことに――アイデアを持っていて、さらにそれを人に聞いてもらいたがる。でもぼくらはそれを取り入れるつもりはない。なぜかって簡単なことさ、「トップ・ギア」のための最高のアイデアは、「トップ・ギア」自体のなかから生まれてくるからなんだ。それほど大きな組織じゃないから、関係者みんなが意見を言える。

番組を始めたばかりの10年前、今はもうほかへ移ってしまったけど、ジム・ワイズマンというメンバーがいて、確かまだ21歳の調査スタッフかなにかだったと思うけど、オフィスに座って鉛筆を噛みながら、ふと思い浮かんだことをつぶやいたんだ。「バスは何台のバイクを飛び越せるかな?」とね。みんなが「知りたい!」って言ったんで、やることにしたんだ。実際にバスに何台かのバイクを飛び越させてみた。そういう調子でやっているんだ。

ほんの一例として今の話を挙げたけど、番組スタッフなら誰でもアイデアを出すことができて、だからこそ「トップ・ギア」らしいアイデアが生まれるんだ。同時に、いいアイデアかどうかは、直感的にわかる。テレビ番組の制作にしても、ほかの分野にしてもそうだけど、誰かがアイデアを出して、それが番組にふさわしいかどうか、すぐに全員が満場一致で判断できるなんてことは、めったにないことなんだ。ところがぼくらは、あるアイデアが「トップ・ギア」向けかどうか、ものの数秒でわかるし、みんなある種直感的にわかっているもんだから、話し合いもほとんどしなくてすむ。「いや、それは『トップ・ギア』には向いてない。やめておこう」という感じにね。手短にかいつまんで説明する必要もないんだ。
「トップ・ギア」の番組スタッフは何人ですか。
制作室の実際の人数はわからないけど、たぶん……数えたことはないけど、多くはないよ。制作室には、10人ぐらいしかいないと思う。

ボスのアンディ・ウィルマンは、ハゲで口ヒゲを生やしていて、肩マントにシルクハット、というタイプだね。陰でうろうろ歩きまわって、ぼくらを手ひどく扱う。ジェレミーの一番の旧友だっていうけれど、胡散臭いよね。彼と長い間友人でいられるなんてね。それも120年も前からだっていうし。そのほかにも、チームにはアイデア満載で意気揚々とした、目をキラキラ輝かせた若い連中もいるよ。ぼくらはすぐにそいつらの鼻っ柱をへし折ってやって、24歳までには、ぼくらと同じようにシニカルで乾ききった抜け殻にしてやるんだ。それではじめて、自分自身のアイデアを提案できるようになって、悪の組織に貢献できるようにもなる。
数シーズン前に、番組の新鮮味が少しなくなってきたとアンディが懸念していました。
長寿番組にもかかわらず、新鮮味がなくなってきたとは全然感じないのですが、あなたにとっては、やはり最高にエキサイティングな番組なんでしょうか。たとえば、毎日仕事にとりかかるときに、「今でも夢中だな」みたいなことを感じるんでしょうか。
そうだね、みんな昔と変わらず今も夢中だよ。思うに、アンディの仕事は、ぼくの仕事とはすごく違っていて、プロデューサーの仕事なんだ。アンディは重要な独自の役割を担っている。ぼくらは本質的に大きなチームじゃない。だからその点で、それぞれの個性が重要になってくる。で、アンディはと言うと、テレビの仕事を初めて任された24歳の若者みたいに、のべつまくなしに心配するタイプなんだ。シーズンごとに、「どうしよう、改革しないと、変わらないと」と考えている。「これが自分たちなんだから、気に入らなければ見てもらわなくてもいい」と大らかに構えることがアンディにはできないんだ。

一方、チームには大らかな人間もいるんだ。たとえばぼくなんかは、そういう切迫感は薄い。こんなことを言うのはすごく悪趣味だとわかっているけど、切迫感を生みだしているのはアンディ自身なんだ。チームというのは、少しずつ違う方向を向いた人間が必要だし、それらをまとめる立場でものを言う人間も必要だしね。いつも全員が一致して振る舞うわけじゃない。それによって、ほかの人の意見について考えてみることもできる。

「ああどうしよう、人気を維持するには番組を改革しなきゃ」というアンディの考えには、イラつくこともある。そういうときは「かまわないじゃないか、もう10年もやっているんだ、こういう番組なんだ」と思う。だけど、その中間あたりに、まさにやるべきことが見えてくるんだ。シーズンごとに内容を見直して、はじめから、まったく違う番組を作りあげるわけにはいかない。「トップ・ギア」は人気があるからね。でも同時に、人間というのはすごく飽きっぽい生き物だから、いつまでも同じというわけにもいかない。だから、アンディにそう言われたらこう思うんだ。番組に新鮮味がなくなったと心配するのは、アンディの性分なんだとね。今も彼は、「ああ、番組に新鮮味がなくなってしまった」と考えて夜も眠れずにいるだろうけれど、彼は第1シーズン終了後からそうだったからね。
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