木々の緑が輝き、キタキツネが冬毛を脱ぎ捨て、神秘の湖・オンネト―がコバルトブルーに染まり始める6月初め。道東・阿寒に、ようやく初夏の気配が訪れる。 特別天然記念物のマリモで有名な阿寒湖。この湖をはさんで対峙するのが、アイヌの伝説で夫婦とされている雄阿寒岳、雌阿寒岳の二つの秀峰。 雄阿寒岳は標高1371m。男性的な立派な山容で、山麓一帯は日本でも有数の原生林が覆い、往く人は手つかずの自然に浸ることが出来る。 一方、標高1499mの雌阿寒岳は女性的な、なだらかな山裾を延ばすものの、いまだ勇壮に噴煙を上げる活火山。日本離れした絶景が広がっている。 この対称的なふたつの“阿寒岳”を、湖畔に育ち、アイヌ文化をルーツに持つ、西田憲一郎さん(45)、西田晋介さん(37)の二人の地元兄弟ガイドと共に登る。 アイヌの人たちが培った自然との対話を感じながらたどる北の名峰、それは現代に生きる人たちがつい忘れてしまっていた、優しさと厳しさを思い起こさせてくれる貴重な時が流れる山旅となった…。