第51回「会津駒ケ岳 冬」

 標高2133メートル、尾瀬の北方にそびえる会津駒ケ岳。東北・会津を代表する名峰です。たおやかな山頂付近には湿原が広がり、点在する地溏と高山植物が咲き誇る様は“山上の楽園”とも称えられますが、それは夏の姿。
 12月、本格的な冬の到来とともに、おだやかだった会津駒ケ岳は雪と風をまとい、人を拒むような厳しい山へと変貌します。しかし空気の澄んだ冬は大展望と出会うチャンスでもあります。12月の初旬とは思えない、腰まで達する深い雪をかきわけ、吹雪にたたかれながら山小屋へ。
 そして、2日間をかけてたどりついた山頂、そこには信じられないような大パノラマが広がっていました。まさに真冬の千載一遇、360度、雪を戴いた山々が放つ白い輝き。地元ガイドの方ですらめったにないという絶景でした。
 登山口は温泉と民衆歌舞伎で有名な檜枝岐村。村の小学校の校歌にも登場する会津駒ケ岳ですが、実は村からはその姿を見ることが出来ません。ふるさとから見られないふるさとの山、しかしたとえ見えずとも、人々と会津駒ケ岳との間には、かって秘境と言われた時代からの、長く意外な歴史があったのです…。