山好きに、もしも山の番付を作ったら…と問うと、おそらくこんな答えが返ってくる。東の横綱は富士山、西の横綱は槍ヶ岳と。登山をしない人でもその名は聞いたことがあるというほど、日本を代表するにふさわしい名峰。その見事な三角錐の姿はもとより、標高、位置、歴史すべてを兼ね備え、多くの登山者を魅了し続けている。だが、ここまで惹かれてしまったという人も希有かもしれない。福田浩道さん45歳。高校生の時に見た槍ヶ岳の一枚の写真に心奪われ、その後の人生は一筋と言っても過言ではない足跡の持ち主。
今回は誰よりも槍ヶ岳を愛す山岳ガイドの福田さんと東鎌尾根・表銀座コースの縦走にチャレンジ。ひたすら槍ヶ岳の絶頂を目指す長大なルートだが、そこは福田さんが、槍ヶ岳のそばにいたい一心で、かつて働いていた山小屋が点在する人生の尾根道。なぜ槍ヶ岳はそこまで人を惹きつけるのか、朝夕の絶景に癒されながら、槍ヶ岳の魅力を体感する3泊4日の長き山旅。8月下旬、3000mの稜線は、盛夏からほんのりと秋の気配が漂いはじめていた。