「西の富士、東の筑波」とも称された、関東平野東に位置する筑波山。逸話では、昔、就職のため汽車で東京へ向かう車窓に映る筑波山を富士山と間違えた学生もいたという。平野から見る筑波山はどっしりと腰をおろし、風格を感じさせる山容だが、その標高はわずかに877m。この低山が百名山に選ばれた理由はその長い歴史にあるという。
古くから山そのものが神として崇められ、男体山、女体山二つの峰には本殿があり、中腹には拝殿を擁している。筑波山麓に住む人々にとって、1年の始まりは、4月1日に行われる御座替祭(おざがわりさい)という、年2回だけ行われる筑波山の例大祭。これは親子の神が本殿と拝殿の神座を替える神事で、なんと御神輿が地元の人々の手によって筑波山を一周するというもの。冬を越え、このお祭りを契機に筑波山は本格的な春を迎える。
一見地味にも映る筑波の峰は、春から初夏にかけて、実に多彩な花々に彩られる。まさに“花の山・つくば”、その美しい移ろいを2か月間、カメラは追う。
筑波山をエスコートしてくれるのは、地元つくば市に住み、登頂歴なんと2600回超を数える曾田林三さん(74)。定年後の健康維持と足を向けた曾田さんだが、筑波山は想像以上の楽しさと出会いをもたらしてくれたという。平安時代から続く歴史の一端に寄り添いながら歴史、伝統芸能、味、温泉、そして低山ならではの人と人のつながりを知る山歩きを曾田さんと堪能する。