第18回「至仏山・春」

 「夏が来れば思い出す…」と歌われる尾瀬。その象徴に、水芭蕉の群落と、尾瀬ヶ原を挟んでどっしり構える二つの百名山がある。ひとつは福島県側の燧岳(ひうちだけ)。そしてもう一つが今回ご紹介する群馬県側の至仏山(2228メートル)。花々に癒されながら木道をゆったり歩くイメージの尾瀬だが、それは夏。今回は、道路が開通し、至仏山が植生保護のため登山禁止となるわずか10日間だけ見ることのできる、希少な早春の尾瀬に足を踏み入れる。

 登山規制に入る直前の至仏山は、多くの登山者でにぎわう。その半数以上が、至仏山の斜面を縦横無尽に滑降しようというスキーヤーやスノーボーダーたち。晴れれば尾瀬ヶ原を眼下に爽快な滑りを楽しむことができる。尾瀬ヶ原は、見渡せばまだ豊富な白い雪が有名な湿原をおおおっている。木道も雪の中。しかしこの雪のある季節だからこそ原を好きなように歩け、またこの早春の尾瀬だけが見せてくれる絶景が待っていた。

 今回、尾瀬を案内してくれるのは、地元で旅館を営むご主人で、ガイドでもある萩原勲さん。代々尾瀬と共に生き、尾瀬に行かないと落ち着かなくなる“尾瀬病”だと笑う。

 雪の至仏山の豪快なスキー登山、尾瀬ヶ原で出会ったのは、この10日間でしか出会えないカラマツの大木、可愛らしいミニチュア水芭蕉、夏期には絶対見ることのできない逆さ至仏山、雪解け水を集めた豪快滝、凍った尾瀬沼の大横断など、春の息吹を感じながら、まさに地元のガイドだけが知る奇跡の絶景めぐりの山旅となった。