第9回「丹沢山・夏」

 私鉄小田急線や、JR中央線の車窓から、ゆるやかな山体が目に映る。それが神奈川県西部に広がる丹沢山地。標高は、最高峰の蛭ヶ岳でも1673Mと、高さではさしたる山ではないものの、尾根と沢・谷が織りなす地形は複雑で、独特の様相で登山者を楽しませてくれる。
 今回は、表丹沢のメインルート・大倉尾根から、もっとも登山者を迎える展望の山・塔ノ岳、そして山塊の由来となった丹沢山まで足を伸ばし、尾根のプロムナードを楽しむ。
 ナビゲートは、丹沢一途に30年の山岳ガイド・下越田功さん。海上自衛隊楽隊、神奈川県警と異色の経歴を持つ下越田さんは、丹沢から登山の楽しみを覚え、日本国内の山にとどまらず、ヒマラヤやアフリカの山を渡り歩いて来た。正に「丹沢に始まった」下越田さんが、1泊してこそ見ることの出来る丹沢の絶景へと誘ってくれる。
 そして、丹沢の“タン”とは谷のこと、さらに沢の字が冠されるほど、この山塊は谷と沢で構成されている。この“沢”をさかのぼってこそ、丹沢の本来の素顔を見ることができるといっても過言ではない。とはいえ、沢登りはクライミングと同じで、登山初心者が容易に足を踏み入れることは難しい。
 番組では今回、丹沢山麓にキャンパスを構え、丹沢をホームグラウンドとする東海大学山岳部の沢登り山行に密着。表丹沢の人気ルートである「勘七沢」を彼らと共に遡行する。
 次々に現れる滝に感嘆の声をあげながらの遡上は、展望だけではない、丹沢に隠された水の絶景をめぐる旅でもある。そして15Mにも及ぶ垂直の滝を、苦しみながらも超えて行く山岳部1年生。彼らはこの都心近隣の山・丹沢をトレーニングの場として、世界の山々へと夢をつないでいる。