第6回「大台ヶ原・春」

 今回は、水・緑・渓谷が織り成す大台ヶ原の春の風景をお届けする。

 奈良県吉野郡上北山村、川上村および三重県多気郡大台町にまたがる大台ヶ原山。尾鷲の海風を一身に受けるこの山は、世界でも有数の多雨地域でもあり、日本では屋久島と並んでトップクラス。その厳しい気候から、明治の頃まで「魔の山」として恐れられ、人間を寄せ付けなかったと言われている。その雨こそが、この大台ヶ原山の絶景を作り出してきた。
 大台ヶ原を取り囲むかのような急峻な渓谷と断崖。清冽な水の流れ、豪快に岩肌を滑り落ちる滝。水と岩の織り成す厳しくも美しい絶景は、見るものの心を捉えて離さない。
 そして、恵みの雨がもたらす深き森。原始の姿を今なおとどめる大台ヶ原の原生林は、オオダイガハラサンショウウオなどの希少な生物にその生息地を与えている。
 しかし近年、かつての森は衰退し、大台ヶ原の自然の均衡は崩れつつある。今も原生林が残る西大台地区は、日本で初めての「利用調整地区」とされ、入山を規制するに至っている。
 そんな大台ヶ原を案内してくれるのは、大台ヶ原ビジターセンターの職員、田垣内政信さん。幼少の頃から大台ヶ原に親しみ、刻一刻と進んでいく森の衰退を目の当たりにして来た田垣内さんが、山への思いを語る。
 さらに、日本三大渓谷のひとつ・大杉谷へも足を伸ばす。ほとんど手つかずの自然と数多くの滝、渓谷の巨石でその名を知らしめる大杉谷だが、2004年の台風21号の影響で壊滅的な被害を受け、その登山道は一部が未だに閉ざされている状態である。今回は大杉谷を愛する森正裕さんのガイドのもと、その脅威の爪痕と、自然の圧倒的な存在感を求めて、秘境の奥深くに入る。