大竹伸朗の大回顧展に潜入

#41 2023.1.21 /
#42 2023.1.28

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東京国立近代美術館で、今年2月まで開催された『大竹伸朗展』。1980年代初頭より絵画を中心に音や写真、映像を取り込んだ立体作品など多彩な表現を展開し、異分野のアーティストとのコラボレーションでも知られ、現代美術のみならずデザイン、文学、音楽などあらゆるジャンルで活動してきた大竹伸朗。その創作活動の全てが詰まった大回顧展は大きな反響を呼んだ。
2006年に東京都現代美術館で開催された『全景 1995-2006』以来となる16年ぶりの大回顧展。およそ500点の作品を堪能しながら半世紀にわたり作品を作り続けてきた大竹伸朗の目には何が映っていたのか、その神髄に迫る。

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大竹伸朗展▶ 愛媛県美術館 2023年5月3日(水・祝)―7月2日(日)
富山県美術館 2023年8月5日(土)―9月18日(月・祝)

この展覧会には7つのテーマが設けられている。

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大竹伸朗さん 「テーマっていうとちょっと大げさなっちゃうんだけど、50年分を圧縮した全体像を見て、振り返って、その間、自分の中から消えなかった流れっていうのを、探っていったら、その7つが残ったっていう感じで」

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「第55回ヴェネチア・ビエンナーレ」や「ドクメンタ13」といった国際美術展への参加や、道後温泉本館の保存修理工事現場を覆う「素屋根テント膜」作品など、現代日本を代表するアーティストとして海外でも評価を得ている大竹伸朗。日本の美術史を研究しているキュレーターのガブリエル・リッターさんはこう語る。

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■ガブリエル・リッターさん(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 美術学科准教授・大学美術館館長)
伸朗がアートの世界で注目されているのは、現代アートのグローバル化が進んでいるから。伸朗は1980年代初頭から活動し、独自の美学を確立し日本だけでなく、ヨーロッパつまりロンドンでもその名を知られるようになりました。

今回、アートの冒険に向かうのは、大竹伸朗との交流もあるミュージシャンの木村カエラさん。

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■木村カエラさん(ミュージシャン)
(大竹さんが)ライブに来てくださったり、私は私で直島に行って「I♡湯」とかそれこそ「はいしゃ」とか見に行かせてもらったり、「ニューシャネル」のTシャツ着たりとか、そういうふうに勝手に応援させていただいてた、という感じです。

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今回、「大竹伸朗展」を案内してくれたのは東京国立近代美術館の主任研究員・成相肇さん。成相さんは大竹伸朗と何度も打ち合わせをし、今回の展覧会を構成した中心人物。

成相さん 最初のコーナーは「自他」というキーワードです。「自分と他者」。大竹さんの自画像も入っていますし、大竹さんを形成してきたもの、大竹さんが影響を受けたもの。主に若い頃の作品が中心になっています。

このコーナーには、切って貼って重ねる、という大竹伸朗の原点ともいえる作品「黒い」「紫電改」(1964年)が。

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カエラさん これはコラージュですか?

成相さん はい。1964年の作品で、大竹さんは1955年生まれなので9歳のころの作品なんです。

カエラさん 9歳?鳥肌立ちました。

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大竹さん 「あれができたときの感覚ってなんとなく残ってて。はさみで表紙の部分を切り抜いたときに、なんかもうこれ描かなくても出来上がってる、って感覚があったんです。結構描き写すのって大変だし、それとは違う何か感覚を覚えたっていうか。マンガを写すだけじゃない世界が見えたっていうか。ちょっと大げな話になっちゃうけど、描くのとは違うけど、満足がいったという」

9歳で出会ったコラージュは芸術家大竹伸朗の原点になり、貼って重ねて、密度を上げていくという形を作り上げていく。

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大竹さん 「20歳過ぎに貼るっていうことが自分の性に合ってるって気づいてから、振り返って見てみると、無意識のうちに既に貼ってたっていうのに気づいたんだよね。そこで自分の方法として、自然に行けばいい、というのわかるんだよね」

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そんな大竹伸朗の高密度に貼り重ねた作品が『モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像』(2012年)。圧倒的な存在感を放つ。

成相さん もはや家です。重ねて重ねて大きくして、というのが大竹さんの作り方ですけど、ついに家になっちゃった。

ドイツ・カッセルで5年に一度開催される世界が注目する国際美術展「ドクメンタ」。2012年に参加した大竹伸朗に与えられたテーマは「家」。「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」は、日本独自のスナック文化と掛け合わせて制作した作品であり、日本のあの災害に対する思いが込められている。

大竹さん 「ちょうど震災が起きたと同時に依頼が来たわけ。放射能で家を奪われた人がいっぱいいる。なんでこんなに風景が変わってない人が、町ごと去らなきゃいけないのか、みたいな初めて見る風景が流されたよね。だから自分にとって「人と家」、「家族と家」みたいなテーマが、すごく必然的に浮上してきたというか、それがカッセルのテーマとリンクしたんだよね」

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大竹伸朗の強烈な思いが込められた「モンシェリー:スクラップ小屋としての自画像」。世界のアートシーンからはどのような反響があったのか。

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■ガブリエル・リッターさん(カリフォルニア大学サンタバーバラ校 美術学科准教授・大学美術館館長)

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ほとんどの人が知らない日本のスナック文化を日本から持ってきて、ドイツの庭に落とし込むというのはシュールでしたね。今まで見たこともないような光景でした。そして多くの人が大竹を理解し、大竹に興味を持つようになりました。

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大竹伸朗は廃材を使用して作品を制作する。この作品もドイツで得た廃材で制作された。なぜ廃材にこだわるのだろうか。

大竹さん 「拾ったものにグッとくるっていうか、新しいものにあまり興味がない。覚えてるけど小学校の入学式に新しいランドセルを買ってもらったんだけど、もうそれが嫌で嫌でカッコ悪くて、壁に擦り付けて、ボロボロにして帰って家でむちゃくちゃ怒られたの覚えてて(笑)。それは何かすごい生理的な感覚じゃない?エイジングみたいに簡単に古く見せるのはできるけど、自然に、時間が積み重なったものってやっぱり絶対違うと思うわけ。そこに蓄積された記憶みたいなことが…そういうのに惹かれるのかも」

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現代日本を代表する芸術家・大竹伸朗。どのように世界的芸術家となる歩みを見ると、北海道での出来事は大きかったと成相さんは語る。

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成相さん いろいろな転機があるんですけど、若いときに北海道に行ったことが、大きかったとおっしゃってます。

カエラさん 大学の途中で行った、とか。

成相さん 19歳のころ北海道に住み込みの労働者として1年ぐらい働いた経験がありまして…。

カエラさん なんで、行ったんでしょうね、北海道に。

成相さん 外に出て自分を変えていくっていう経験をしたい、というときにたまたま雑誌で見かけたのが北海道だったそうです。

カエラさん 新しい自分を探すために、北海道に行ったと。そこでたくさんのことを得て、今があるんですかね。

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大竹さん 「今10代の子も同じだろうけど、芸術家を目指すと、世の中と断ち切れちゃう。芸術家になるマニュアルって世の中にないから、それで漠然と美大に行こうって思うのかもしれないけど、それは違うと思うんだよね。俺の場合は芸術家になるためには、人と違う経験をするのが一番手っ取り早いと思ったんだよね」

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続いてのテーマは「時間」。時間にまつわる作品を集めたコーナーへ。

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成相さん ここにかかってる作品はちょっと特殊な方法で作られてるんですけど、2点(「赤いヘビ、緑のヘビ」、「4つのチャンス」)とも30分ずつで描いた作品なんです。

カエラさん えー、面白い(笑)。

成相さん 全く何も計画せずに裏返したところから考え始めて、材料もそのとき考えて描く。30分でゴールが来るっていうことが大事で、自分のコントロールじゃない時間で、「はい、おしまい」ってなることが大事で。

カエラさん それはすごく興味深いですね、その言葉って。

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大竹伸朗にとって「時間」とはどのようなものなのか。

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大竹さん 「(時間というのは)10代の頃からものすごく得体の知れない、不思議なものであり続けてるっていうのは、あるんじゃないかな。そういうのが作品に反映されるというか…。若い頃、死生観と言っていいのか、自分はいつか死ぬんだなっていう思いは強かったような気がするんです。人って自分が何で生まれてきたのかわからないでしょ。なんで自分が男で、日本人で、アートに興味を持っていくのか。そういうのはどう考えてもわからない。自分はこの世から去るわけだし…。それは別にネガティブなことを言ってるわけじゃなくて、自分に与えられた時間で自分のやりたいことを見つけて、やりきりたいっていうような思いがものすごい強かったんだよね」

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作品を作り続けられる限り、芸術家を続けると、言う大竹さん。「時間」の部屋には膨大な時間をかけた作品もあった。

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成相さん この作品(「網膜/太陽風1」)は制作年が1990年から2020年って描いてあって、30年間かけて作ったっていうふうになってます。

カエラさん へえ、なんでだろう。そんなに長く時間をかけて。

成相さん 30年かけて劣化した写真を使ってるんです。ポラロイドフィルムの露光ミスで、モヤモヤっとしたものが写ったフィルムを大きく引き伸ばして貼ってあるんですね。その上から透明の樹脂を塗ってるんですが、30年間放置しておいていい具合に劣化してきたフィルムの傷とかの化学変化を利用しています。

カエラさん 時を感じますよね。

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大竹さん 「娯楽的なものに全く興味がなかったんですよね。作ること…作ると、それが芸術作品とか、そんなことは抜きに、作れば何かできる。そのことがその日の過ぎる1日の自分の証明というか。そういう手応えっていうのが一番自分の喜びになってたんだよね。だから無為に時間が過ぎていくってことが、すごく嫌で。そういう思いは結構異常だったかもしれない」

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そして、大竹さんにこんな質問をぶつけてみた。「なぜ沢山の作品を作り続けているのか?」

大竹さん 「理由ないのよ。自分の生理的なことだよね。残すことで自分が生き残るというか。一つの自分が生き残るための方法みたいなこと。若い頃から、上司がいて部下がいてっていう世界じゃないから、もう完璧に一匹狼の世界だから。この世界って、年齢関係ないんだよね。すごいヤツがすごいわけ。高校生でもすごいヤツはすごい。反射的に感覚で受け止めるもんだから、その瞬間年齢は関係ない。そういうのを海外のアートフェアとかで見ると、やっぱ俺って才能ないなと思うもん。30でここまでいっちゃうんだってヤツが世界にうじゃうじゃいるからね。だから、今の若い人たちは海外出ないって言うけど、絶対出たほうがいいよ。勿体ないよね。時間が」

大竹伸朗の有名なグッズの一つ「ニューシャネルTシャツ」。映画『モテキ』で森山未來さんが着用していたり、ゲストの木村カエラさんも愛用していたりと、様々なシーンでお目にかかる。この「ニューシャネル」の文字は大竹さんが作ったものではなく、「あったもの」だという。

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成相さん こういうドアがあったんです。

カエラさん 拾ってきたってことですか?

成相さん だそうです。誰か知らない人が棒でただ組み合わせて「ニューシャネル」って描いただけなんですけど、この字が大竹さんはすごく気に入ったと。

カエラさん それを見れて、すごく光栄な気持ちになります。なんでしょうね(笑)。

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このコーナーは「移行」がテーマになっている。場所を移すことで作品にする。「宇和島駅」(1997年)は、まさに「移行」の作品。「まるで東京国立近代美術館が大竹作品になったようだ」と成相さんは言う。

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大竹さん 「十代の頃に牧場から炭鉱町に行って、そのときに、東京の交通標識みたいのが載ってる本を見て、グっときちゃったんだよね。自分が知ってる地名というのは、自分の心に入り込むんだと。だいたい生まれ育った場所って愛憎入り交じるじゃない。でも、自分がそこを離れた途端に、実はその自分が生まれたところの地名との関係っていうのが蓄積されていくというか、それが何かのきっかけに出会うと、自分の中でいろんな感情が弾けるというか」

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続いてカエラさんが向かったのは大竹伸朗のライフワークの一つである「スクラップブック」が展示されているコーナー。半世紀近く制作し続けることでそのスクラップブックの密度は年々高くなっているという。

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成相さん これが71番目(「スクラップブック#71/宇和島」)。3年かかってます。

カエラさん 貼りまくってるとはいえ、やっぱり作品ですよね。なんか塗られてたりとか…。

成相さん そうですね。貼るだけじゃなくて塗ったりもしてます

大竹さん 「ロンドンに行ったとき、絵を描くことというのは、自分の中で好きなこととしてあるんだけど、そこから先がないわけよ。自分にしかできないものは何なんだろうっていう大きなテーマっていうか、壁があって。そこで9割がたみんな挫折するわけよ。自分にしかできないものに到達しないまま諦めちゃうっていうか」

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20代の頃、「そこから先がわからなかった」という。そんなときロンドンで出会ったのがスクラップブックの原型。

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大竹さん 「ある日、蚤の市に行ったら現地の人が、透明のビニール袋2つにマッチラベルをぱんぱんに詰めたものとノートに貼られたものを数冊売ってた。それを見たとき自分のやるべきことはこれだろうっていうのがわかったんだよね。その男の佇まいとぱんぱんに詰め込まれたマッチラベルと印刷物と、ノートブックに貼られたその全体の雰囲気を見て、その全体像に俺のやるべきことを見つけたんだと思う」

ロンドンで見つけたスクラップブックの原点。他にもロンドンでは今の大竹伸朗を作るきっかけとなったラッセル・ミルズとの出会いもあった。彼との出会いが音とアートを結ぶきっかけに。

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ラッセル・ミルズ ▶ ブライアン・イーノやナイン・インチ・ネイルズなど、数々のミュージシャンのレコードカバーを制作してきたイギリス人アーティスト

大竹さん 「彼と出会って、本腰入れるようになったっていうかね。(刺激があった?)そうだね。“もうこのままじゃ終わるな”っていうのは感じたよね。21のとき。これやばい、みたいな」

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続いてカエラさんが向かったのは「音」がテーマになったコーナー。大竹さんは1982年、前衛的なライブパフォーマンス「クルバ・カポル」に参加されたことがあり、これも創作活動の大きなきっかけの一つとなっている。

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ライブパフォーマンス「クルバ・カポル」▶ ロンドンの若手アーティストDOMEがラッセル・ミルズと共に手掛けた作品

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大竹さん 「パフォーマンスをちょっと手伝ってくれって頼まれたんですよね。そういうことって、若い頃はものすごくデカい自信になるでしょ。自分が信じてる人間から“お前よろしく”、“これやってくれ”って言われると、自分に才能があるかどうかはわからないけど、頼まれたということは俺にも何かできるかもしれない、と思えたんだよね」

さらに、大竹伸朗が1970年代に結成した伝説のバンド「JUKE/19.」は日本のオルタナティブミュージック史にも名を刻んでいる。

大竹さん 「ロンドンから帰って、1978年にJUKE/19.の原型みたいなのを作るわけ。そのときはまだ趣味レベルというか。でも、80年にラッセルたちとのクルバ・カポルのパフォーマンスに参加したことで、やっぱりレコードにしないと駄目だなっていう思いが一気に振り切った、というか、絵と音というものが自分の中で合体したんだよね」

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JUKE/19.▶1970年代に結成。日本のオルタナティブミュージック史になお刻む伝説のバンド

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大竹伸朗の貼り重ねる作風に音が融合した超大作、「ダブ平&ニューシャネル」。その前に待っていたのが大竹伸朗さん。ここで大竹伸朗さんと合流し、カエラさんとトークセッション。

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大竹さん 90年代半ばぐらいから作り出した「ダブ平&ニューシャネル」という作品なんですけど、無人遠隔操作バンドで…。

カエラさん めちゃくちゃ楽しみなんですけど。

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と、ここで即興セッションを披露してくださった大竹さん。カエラさんも「なんか見たことないものを完全に見たな、って感じがします!」と興奮が止まらない。

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そして、大竹さんとカエラさんのトークは最新作『残景0』(2022年)の話へ。

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カエラさん 作品名に「0」がついてて。

大竹さん このシリーズっていうのは、コロナ禍に入ってから始まったシリーズで。宇和島から移動ができなくなって、予定が全くないままスタートし出したんだけど、これを見ると、過去の「残景シリーズ」がこの後に出てきたような気分になったというか。「1」から始めたんだけど実は「0」があったなという感じがして。

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カエラさん 面白いですね。でも、今回の作品はテーマで分けられてはいますけど、出来上がってる年はバラバラで、時間を超えてじゃないですけど常に流動的に動いてるというか。

大竹さん おっしゃる通りで、40年間分ぐらいの作品が今回圧縮されて、時間軸ではない並びで並んでるので、観た人がそのそれぞれの組み合わせを自由に観ていただければと思いますね。テーマとかあまり考えずに自由に歩き回って、観られるような会場構成になっているので。

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まさに唯一無二、他の追随を許さない不思議なアート体験。大竹伸朗展は、およそ500点の作品によって私たちに様々な感情を運んでくれる。そんな大竹さんにカエラさんからどうしても聞きたいことが。

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カエラさん 自分の中の「完璧」ってあるじゃないですか。それをどこまで求めて作品を作ってらっしゃるのかな、っていうのはすごい気になっていたんです。

大竹さん 「完璧」なんか求めたことはないですよ。

カエラさん あはは(笑)。

大竹さん 本当にない。全くない。いいものができたなと思うときって大抵トゥーマッチなんだよね。物足りないところで終えると時間が経つごとにそこがちょうどいい塩梅になるっていうか。

カエラさん よく止められますね。自分で作ってると…。

大竹さん 僕の場合は一点ごとにやらないんですよ。数点同時だから。だから一点で迷ったらもう次のほうに行って忘れるっていうかね。やっぱりやってたことを忘れるのは大事なんだよね。学習してっちゃうから。色とか位置を覚えちゃう、そうするとやっぱり段々欲が出てきて、そのうまくいったところを残そうとしだすんです。そうするともう駄目なんですよ。面白いものはできない。

カエラさん もう今の言葉はきっと私の中で一生ずっとものを作るときに残ります。

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常に密度の高い作品を作る大竹伸朗は決して完璧を求めない、これぞ大竹伸朗の美学であり大竹伸朗たる所以。
今日1日を振り返って、カエラさんは何を思ったのかーー。

カエラさん 今の年齢になるまでずっと作品を作り続けて、しかもそれを「楽しいんだよね」って「楽しみたいんだよね」って言ってる大竹さんがカッコよすぎて、私もできるかもという気持ちにもさせられましたし、やっぱり楽しいこと、人にとって、それはアーティストじゃなくてもすごく大事なことなんだなっていうのは改めて気付かされました。

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最後に大竹さんにぶつけた質問は「大竹伸朗にとってアートとは?」。大竹さんの神髄が垣間見える答えをいただいた。

大竹さん 「アートっていうのは、何か自分なりに思う疑問を形にしていく手段ってことかな。それが一番楽しいのよ、やっぱ。そういう自分だけの答え。何か発見感があるっていう」

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出演者

木村カエラ