【アートフルワールド特別編】
このアート、なにがすごいの?
~すごい6人~

#37 2022.11.19

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初心者にもわかるアートの疑問を探る「特別編」。今回は誰もが知っているアーティストのどんなところがすごいのか?を女優の若月佑美さんとともに紐解いていく。

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解説していただくのは、アートの常識を打ち破ってきたアーティストの作品を紹介しながら、自分なりの見方、考え方を授業形式で解説していく著書『「自分だけの答え」が見つかる13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が話題の末永幸歩さん。

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■末永幸歩さん(美術教師/東京学芸大学個人研究員/アーティスト)

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ピックアップした6人のアーティストを都内の美術大学生のインタビューによるコメントと、末永幸歩さんの解説で読み解く。

「このアート、なにがすごいの?」
【フィンセント・ファン・ゴッホ】

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フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)▶オランダ生まれ。37年の生涯のうち、画業を行っていたのは10年間。ポスト印象派の画家として知られ、没後、世界中で高く評価される。

●東京藝術大学 工芸科 大学院2年生●
「視覚に障害があった作家だと思うんですけれども、少し人と違っていても、タッチの勢いとか作家の息づかいというか、そういうものが絵に表れていて、とても素晴らしいなと思います」

●武蔵野美術大学 建築学科3年生●
「同じ構図を写真で撮ったときを想像してみると、多分あそこまで輝いていないと思うんですけれども、それをあんなにきらびやかに表現できるというのは、彼の感性がすごい優れていて、色彩感覚が相当豊かでないと描けないなと思います」

●多摩美術大学 芸術学科4年生●
「自分の表現を突き詰めているし、人生の最後まで表現というか、美術を突き詰めた方だなと思います」

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若月さん VTR中でもありましたけど、写真で見たら実際はそこまで輝いてるわけではないけど、ゴッホの目にはそう映って、それをもっとより豊かに絵画に表現するというところがゴッホのすごさだ、と。

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末永さん そこは本当にすごいと思います。たぶん、ゴッホが19世紀のうちに20世紀のアーティストたちがこの後、いろいろ考えて探求していくことを一人先取りしていたようなところもあるのかな、というふうには思っていて、ゴッホが絵を描くときに、色彩にすごく特徴があるけれど、現実に目の前に見えているものをそのまま、色を使って描こうって全く考えてないんですね。色を使って自分の感情を表現しようとか、色を使って見る人に感情を引き起こさせようとか、そんなふうに考えながら色を使っているんです。

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若月さん 何か勇気をもらえますね。やっぱり目の前のものをよりリアルに描くことが、絵が上手いというふうに思いがちですけど、例えば、リンゴだったら赤っていう印象を持つけど、それは赤で決して描く必要はなくて、ということを改めて教えてもらった気がします。

「このアート、なにがすごいの?」
【パブロ・ピカソ】

パブロ・ピカソ(1881~1973)▶スペイン生まれ、幼少期からデッサンの才能を開花させる。作風を目まぐるしく変化させ、生涯で多くの作品を残している。

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●多摩美術大学 芸術学科4年生●
「ピカソは誰が描いたかわからないっていうぐらい、ものすごく作品数があって、それこそ『青の時代』っていう言葉があるんですけど、その時代がすごいと思っていたら、今度はその次の時代のものがすごかったりとか、とにかくピカソは誰が描いたかわからないというのがすごい特徴的で、自分の枠にとらわれないというところが私はとても好きです」

●多摩美術大学 芸術学科2年生●
「ピカソはキュビズムだったり、新しい描き方というところに注目されると思うんですけれども、写真が登場したことによって、絵を描くという必要性というのは格段に落ちてしまったので、そういった工夫がされたというのは非常に注目することだと思います」

●武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科3年生●
「私が彼のすごいなと思うところは、3次元的なものをあえて2次元に落とし込むことで、3次元だったらわからないような面白さとか、形の突出してるところっていうのをあえて平面で起こすというところに着目した方なので、そこは批判ももちろんあったと思うんですけど、徹底してずっとやってるのがすごいなと思います」

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末永さん 今男性の方が「キュビズム」とおっしゃってたじゃないですか。絵をリアルに描くならどうするか、と考えたときに、通常、遠近法を使うと思うんですよね。遠近法って手前のものを大きく描いて、奥のもの小さく描く技法。実はその遠近法で描かれた絵を遠近法に全く馴染みがない本当に山の奥の森の奥に暮らしてるような人たちに見せると、わからないそうなんですね。それが立体的に見えないというか。例えばあの遠近法で描かれた鳥の絵を見せると、片方の羽が大きくて、反対側が小さくて、そういう鳥なんだっていうふうに思うみたいなんです。このエピソードからわかるのは遠近法って自然なものの見方ではなくて、人が人為的に作ったものの見方である、と。だからこの作品(『アヴィニョンの娘たち』)では、いろんな角度からものを見た記憶というか、ものを全部この一つの2次元の画面の中で再構成して描いてるんですね。だからガタガタってチグハグな感じで、いろんな角度から見たものを構成して一つの画面にしている。

若月さん リアルさって本当に必要なのかみたいなところに疑問を持って、こういう絵にたどり着いたんじゃなくて、リアルさを追求した結果、脳の中で補正を勝手にして綺麗にまとめた絵じゃなくて、そのまま自分の中で見たあの景色を固めていったらこうなるという。

末永さん そうなんですよ。

若月さん すごく面白いですね。

キュビズム ▶ 対象をひとつの視点から描くのではなく、複数の視点からイメージを一枚の絵に集約させる表現。

「このアート、なにがすごいの?」
【アンディ・ウォーホル】

アンディ・ウォーホル(1928~1987)▶アメリカ生まれ、商業デザイナーとして活躍後、アーティストへ。商業製品や映画スターといったシンボルを作品化し、アメリカ社会を体現するポップアートを数多く残した

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●武蔵野美術大学 日本画学科2年生●
「ウォーホルは、絵画は一部の才能がある人しか描けない、みたいなのを覆した人」

●多摩美術大学 芸術学科3年生●
「高尚な美術というものがどんどん可能性を失っていく中で、「マリリン」であったりとか、「ブリロ・ボックス」であったり、作品が非常に無意味というか、非常に空虚なものなんですけど、それも現代美術としてのあり方として提示したっていう上で、美術史的にも重要な作家だと思います」

末永さん ウォーホルがしたことって、そもそもこれがアートですよ、という枠組み、そんなのもあったっけ?というようなことを投げかけてると思うんです。その枠組みに何を入れるかではなく、枠組みすらないんじゃない?っていう。今、ピカソもウォーホルも20世紀のアーティストですが、20世紀のアートって、その時点であった常識を打ち破って新しいアートの可能性を開いていくみたいな積み重ねなんですよね。それがすごくエキサイティングで面白い。

「このアート、なにがすごいの?」
【長谷川等伯】

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長谷川等伯(1539~1610)▶石川県生まれ、安土桃山時代に活躍した画家。千利休や豊臣秀吉にも重用され、当時主流だった狩野派と肩を並べた

●多摩美術大学 芸術学科3年生●
「中学校のときに見て“すげー”と思って、緻密な設計というか、描写というか、それを見てすごく驚いたのを覚えてます」

●多摩美術大学 芸術学科4年生●
「一番有名なものに、『松林図屏風』と『楓図』というのがあると思うんですけど、すごく表現の幅が広くて、画風にとらわれず、いろんな画風に挑戦したり、表現の本質を追求した人なのかなって思います」

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末永さん 長谷川等伯はゴッホみたいに一匹狼で出てきた人で、この作品(『松林図屏風』)でとっても興味深いなって思うのは、この余白の多さなんですよね。こういった考え方って、西洋の美術には全くなかったんです。西洋の美術でこれをやったら、未完成の作品なんですよね。

若月さん 勝手に自分の頭の中で奥にもこういうのがあるんだろうなとか、自分の想像で埋めていこうとする力が、全てきっちり埋められてるものよりあるな、と私は思っちゃいます。

末永さん まさにその通りだと思います。この作品ってその描かれてる松の部分を見るというよりは、余白の部分を見て、鑑賞する人たちが想像して作ることができるというのが面白みの一つなんじゃないかなと思っています。

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若月さん なんかおしゃれさんですね。粋な感じというか。

末永さん 粋ですね~。

「このアート、なにがすごいの?」
【葛飾北斎】

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葛飾北斎(1760~1849)▶ 東京都生まれ、江戸時代後期の浮世絵師。浮世絵だけでなく、漫画や挿絵にも取り組む。生涯、30回以上雅号を変えた

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●武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科3年生●
「『富嶽三十六景』だったり、波の描写や山の描写という大きな自然の描写がすごく魅力だと思うんですけど、今、日本で流行ってるものとか、彼の作品から発展していったものなので、サブカルチャーであったりとか、アニメだったりとかっていうのの橋掛けになってるような方かなと思います」

●多摩美術大学 芸術学科2年生●
「西洋の影響も受けて遠近法だったり、色彩の材料も自ら研究して、最先端の技術を取り入れていったというのはとても素晴らしいことだと思います」

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若月さん 『富嶽三十六景』もそうですし、自分が静岡県出身なので、富士山の絵というと、葛飾北斎の絵を挙げる人も多かったな、っていう思い出があります。

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末永さん この時代の日本の作品に、西洋のアーティストたちはすごく衝撃を受けて影響を受けますよね。先ほどのゴッホもそうですし、それって、日本という珍しい小さな国の富士山とか着物の柄とかそういうものがエキゾチックで面白いな、というのももちろんあったと思うけど、それだけじゃなくて、さっきの等伯の話と重なりますけど、絵の中で全てが完結してるという考え方じゃなくて、絵の周りに広がっていくというか、それを私たちが想像する、見る人にも想像の余地を与えてくれる、そういう考え方がゴッホをはじめ、西洋の画家たちは吸収していったと思うんですよね。

「このアート、なにがすごいの?」
【岡本太郎】

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岡本太郎(1911~1996)▶川崎市出身、絵画、立体、パブリックアートと様々な作品を残す。メディアにも多く出演し、芸術とは何か?生きるとは何か?を強烈な言葉で語り続けた

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●多摩美術大学 工芸学科1年生●
「岡本太郎作品って、すごくダークですごく色鮮やかで、絵画も好きなんですけど、岡本太郎の彫刻っていうのが憧れてて。どうやったら岡本太郎みたいな迫力が出るか、というのは意識してます」

●多摩美術大学 工芸学科1年生●
「僕は『午後の日』という作品が好きなんですけど、形がすごくカッコいいのに、見た目的にかわいいし、気持ち悪さもあって、絵画で作るような流れるようなタッチみたいなのを立体的に造形で表してるのがすごいなと思ってます」

●武蔵野美術大学 建築学科3年生●
「作者の力と作品の力の両方が優れていると思っていて、普通、有名な作品であっても、作家名が出てこないっていうこと結構あると思うんですけれども、岡本太郎さんの作品って、作品見ただけで岡本太郎さんが作っただろうなっていうことが明確にわかるので、どちらの力もあるなと思います」

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末永さん 岡本さんは、芸術って絵を描くとか、音楽を奏でるとか、文章をひねくりまわすとかそういうことじゃないって言い切ってるんです。そうじゃなくて、素っ裸で豊かに強烈に生きること。その生きることが芸術であるっていうふうな考え方に立っていて。その芸術を美術界の人たちの中に閉じ込めておくんじゃなくて、大衆の人たちも全ての人たちがそういう本当の意味での芸術に触れて芸術家として生きていくことができるというか、そうすべきなんじゃないかっていうふうに考えている方なんですよね。

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駆け足で触れてきた6人のアーティストの世界。若月さんはどんなことを感じたのか。

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若月さん 思想家じゃないですけど、芸術家ってだけで収まってなくて、その方の考えとか、なぜその絵を描くまで至ったのか、というのを聞くと、人生としてもいろんなことを教えてもらえるなと思いました。ただただ心を豊かにするだけじゃない、芸術って生き方も教えてもらえるものなんだな、というのも感じましたし、とても充実した時間になりました。

多くの人に愛されるアーティストたちの作品の後ろにあるもの、その思いまで知ることで、見え方、感じ方も変わってくるのがアートの楽しさであると再発見させられる今回の特別編。また新たな魅力に一歩、近づきたくなる。

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出演者

若月佑美