自由すぎる芸術 サウンドアートの冒険

#33 2022.09.24 /
#34 2022.10.01

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今回は<音>を題材としたアート、サウンドアートの世界を冒険する。とはいえ、ひと言で「サウンドアート」といっても簡単には定義されづらく、括り切れない世界。しかし、まだ体系化されていないジャンルだからこそ面白い。現在進行形のアート。自由すぎるサウンドアートの世界を探る――。

学生時代から<音>を使ったアートに取り組んでいたというDJのLicaxxxさんとラッパーの環ROYさんのお二人が、サウンドアートの世界をのぞく。

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■Licaxxx(DJ/Beatmaker)

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■環ROY(Rapper/Beatmaker)

まず最初は、Licaxxxさんと関わりの深いスペシャリストの方とともにサウンドアートの基本から。

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■魚住勇太さん(電子音楽家・メディア表現者)

■小林良穂さん(サウンドアーティスト・音楽情報学者)

「私の大学のときに教わっていた教授たちです。緊張してます」とLicaxxxさん。彼女に多大な影響を与えた大学講師のお二人にズバリ、こんな質問からうかがった。

【結局サウンドアートって何?】

小林さん 大きく言うと、美術のほうで、彫刻だったりという、伝統の中での表現の素材として<音>を使ったというのをサウンドアートって呼ぼう、というのが一つの流れとしてあって、あともう一つ流れとしては、音楽のほうで、伝統的な音楽の作り方だったりとか表現の仕方からも外れてしまった<音>の表現だけど、これは音楽とも呼びづらいし、何と呼ぼうかというものをサウンドアートと呼んだという、そこがオーバーラップしたもので。だから、なかなかくくりきれないものを全部ひとまとめにサウンドアートと呼んでおこう、と。

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魚住さん 『サウンドアート』という本が何年か前に出て。そこから一気に学生とかみんな自分でサウンドアートって言っていいんだ、という感じで、名乗り出してる感はあるんですけど、ただ本にも最初に書いてるんですが、実は明確なものがあるわけじゃなくて、同時多発的にみんながどんどん越境していくという。その中で一旦サウンドアートって呼んでおこうとか、みんなが呼び出してるって状況がありますね。

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『サウンドアート』アラン・リクト著 ▶ アメリカの音楽家/ジャーナリストが<音>をめぐる<アート>の事象を書き尽くしたサウンドアート研究本

美術/音楽にはくくりきれない<音>の表現。ここからはそんな自由すぎる様々なサウンドアートの世界を具体的に教えていただく。

サウンドアートの世界①
楽器じゃないものを楽器にする者たち

楽器じゃないものを使った表現っていうことで挙げられるのは、ベルナール&フランソワ・バシェの<バシェ兄弟>。1970年の大阪万博を機に制作されたという“楽器じゃない楽器”による作品は、「音響彫刻」といわれる。

バシェ兄弟 ▶ パリで生まれた彫刻家の弟と音響工学の兄。作曲家・武満徹に招聘され、1970年「大阪万博」で製作・展示された作品

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環ROYさん 楽器としてまず音デカいですね。

魚住さん (蓮の花のような形をしたものが)覚醒装置のような仕組みになっているので、叩くとその音が四方八方に飛び回るんです。

小林さん 展示作品としても面白い形をしていたりとかっていうのもあるし、音も面白い音が鳴るし、美術と音楽の境界にあるような象徴的な作品かなと。

続いては日本のアーティスト<伊東篤宏>さん。

伊東篤宏 ▶ 蛍光灯の放電ノイズを出力する“音具”「OPTRON」(オプトロン)を開発。ライブハウスから美術館まで国内外でパフォーマンスするアーティスト

魚住さん 蛍光灯を使って演奏する方です。蛍光灯って放電を使って明るくしてるんですけど、あれ自体すごい不安定な現象なので、古い蛍光灯って段々点滅していきますけど、あれって安定器が劣化して“ブブブ”って鳴ってるんですけど、あれをエフェクターに繋いでパフォーマンスして見せている。

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環ROYさん 非楽器を楽器として扱ってどれだけ演奏できるか。蛍光灯的なルックがあって面白い。

魚住さん 蛍光灯なんで、光るので照明でもあり、映像でもある。同時に音。全部同じ回路から出ている。普通はDJがいてVJがいて出るものが、同じものから生まれてるっていうところがすごく面白い。

環ROYさん なんか批評性がちゃんとありますね。“同じ回路から出てる問題”大事ですね。

魚住さん 大事。だから分けられないんですよ。サウンドアート。サウンドとアート。

環ROYさん その解釈なかったのでしっくりきました。伊東さんスゲー。

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新たな楽器を作り出してしまうアーティストたち。その原点にあたる人物は、なんと100年以上前に活動していたという。その名は<ルイジ・ルッソロ>さん。

ルイジ・ルッソロ(1885-1947)▶「イタリア未来派」の作曲家/楽器発明家/画家

小林さん ルイジ・ルッソロは、イタリアの未来派の作曲家。機械や工場が発展した社会の中で、強いもの、速いものは美しいんだ、という思想性を持っていて。機械的だったりするいわゆるノイズが美しいんだ、音楽になり得るんだ、ということを言い出したのがルッソロだったんです。

環ROYさん ジョン・ケージより前?

小林さん だいぶ前です。だから、音楽っていうのが美しい楽器的な音でなければいけないというものもぶち破った。実際にそういう騒音ノイズを発生するための楽器というのを自分でいろいろ作っていて。このシリーズをINTONARUMORI(イントナルモーリ)と言っています。

ジョン・ケージ(1912-1992)▶ 1950年代に活動開始した現代音楽家。「4分33秒」という沈黙する楽曲を作り、ノイズも音楽であることを提唱

サウンドアートの世界②
計算から生まれる音楽

次に紹介されるのは、計算から生まれる音楽。取り上げられるのは、作曲家であり建築家の<ヤニス・クセナキス>さん。その代表作は<音>ではなく、ブリュッセル万博のフィリップス館(1958)。

ヤニス・クセナキス(1922-2001)▶ 作曲家/建築家。電子音楽の先駆者として知られ、建築家・ル・コルビュジエの弟子でもある

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魚住さん この建物って面白いラインがあるじゃないですか。あれってよく見ると直線がいっぱい引かれた結果、この曲線になってるんです。これは楽譜になっていて、各演奏者がここのグラフに応じてグリッサンドっていう音程をバーっと変わっていく演奏をするんです。何十人か集まってその直線の動きをちょっとずつ傾きを変えて演奏すると、その曲線が現われるっていう、そういうコンセプトで演奏を作ってる。音楽と建物の境界をまたいじゃってる。

環ROYさん カッコいいですね。

魚住さん カッコいいですね。僕も大好きです。

小林さん 日本人だと高橋悠治さんっていう人がクセナキスの曲を…。

環ROYさん 先生だったんですよね。

魚住さん 彼しか弾けない音楽があるとか。

環ROYさん YouTubeとかで見れたりするんですよね。不安になりたい方は(笑)。

小林さん ピアノ曲なんですけど、弾くと血が出るということで。

Licaxxxさん 余計不安になってきました(笑)。

高橋悠治(1938-)▶ ヤニス・クセナキスに作曲を師事された経験を持つ作曲家/ピアニスト。作曲・演奏両面で多彩な活動を展開

計算や確率から導く、まったく新しい方法で音楽を作ったクセナキス。以降、そのような音楽の作り方はすそ野を広げ、現代にもデータをもとに作品を作っているアーティストがいる。その代表格が<池田亮司>さん。

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DNA情報や宇宙といった科学領域に関するデータを収集、変換、加工し、サウンドとビジュアルに構成した作品制作を続けている。

小林さん 天体の動きとか気象データとか、いろんなものの中に音楽性っていうのを見つけることができたりするんですけど、特に最近はコンピュータを使ってそういうデータを集めたり音に変換をするというのがやりやすくなってるので、広がってるかなというジャンルです。

サウンドアートの世界③
インスタレーション

続いてはインスタレーション。場所や空間全体を含めて作品として体験させる現代アートにおいて重要な表現方法の一つ。山口県で行われたLicaxxxさんの展示もインスタレーション。ここではまだ日本での展示予定はない注目のアーティスト<Zimoun>を紹介する。

Zimoun(1978-)▶ スイスを拠点に、いま世界に活動の場を広げているアーティスト。ダンボールなど産業的な素材とモーターを使用し音像を作り出している

小林さん 雨、1粒1粒が出してる音って、いろんなバリエーションを出していて。まとまった量の雨が降り出すと、その1粒1粒はもう聞こえなくなって全体でザーって音を作り出す。だからこの作品がどの瞬間にどういう音を鳴らすのか全く制御ができてないはずで、たまたまぶつかったときにカチッて音が鳴って、それがものすごい数、同時になることでザーってなっていって表情が付いていく。

魚住さん まさにサウンドスケープ(音の風景)。本当この音の中に没入したような感覚。

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Licaxxxさんの恩師のラストのご紹介は魚住先生が携わった、映像作家<林勇気>さんによる作品。
「思い出の写真」が人工生命体となり、それぞれ異なる個性が生まれ、それに応じて音も生成される。さらに、生命体の音と動きに合わせて演奏者がセッション。来場者も写真を送ることで、どんどんと増えていく生命体との即興演奏で次第に音楽が生まれていく。そしてこの人工生命体はセッション終了後もサウンドを変化させていくという。

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魚住さん 僕、こういう楽器を作るとか音楽を作るっていうより、こういう空間で人がいて、線で結ばれていくというような、音楽が巻き起こってくる環境とか条件を作るというのをテーマにやってって、それを僕は「Creface」って呼んでるんです。
元々サウンドアートって、楽譜/楽器/リスナー/コンサートホールというところから逸脱することをずっとやってきてるので、即興的な演奏とか、その場で起こっているものは操作できないと思われてたり、あるいは操作しないことがいいって思われていたんだけど、あえてそこを鑑賞することでデザインできたり設計できたりするというのがテーマになっています。

環ROYさん 猛烈に音好きな人たちの集まりですね。僕どっちかって言うと、わりとポピュラーミュージックが好きで作ってるタイプなので、そこまで音大好き人間じゃないですけど、そういう僕と相対化すると、音が好きな人たちなんだって。

Licaxxxさん そうですね。そういう授業を受けて育ってきたから今こう…。

環ROYさん ……。

Licaxxxさん 謎のまとめみたいですね(笑)。

サウンドアートの世界④
感覚に刻まれるような体験

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続いて、お二人を迎えてくれたのは、サウンドアーティストの<細井美裕>さん。
文化庁メディア芸術祭新人賞や雑誌「Forbes Japan」の30歳未満の30人に選出されるなど、多方面から注目される存在。その細井さんが舞台の作品やサウンドインスタレーションを作るときに、借りているという計測器会社の「小野測器」さんの音響棟に伺うことになった。

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まず向かったのは、無響室。マイクなどの正確な性能を計測するため、音の反響をなくし、無音の状態を作った部屋。音の反射をなくすため床はなく、立つのはピアノ線の上。吸音効果を高めるため、吸音材の入った170センチもの大きさのくさびが360度設置された部屋となっている。

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環ROYさん 電気消すとやばいんですよね。電気消してこの中で1時間いてずっとフリースタイルするっていうやつやったことあります。

電気を消すと、重力しか位置が把握できるものがなくなるので、通常とは違う感覚を得られるという。

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そして、続いて向かったのは無響室の対極にある部屋、残響室。この部屋では発せられた音が響き続けながら全体に広がるので、お互いが何を喋っているかわかりづらい。細井さんはここでレコーディングもしたそうで。この場で歌声も聞かせてくれた。
自然にエコーやリバーブが作れるこの残響室や、その対極にある無響室で細井さんはこれまで様々な実験録音をしてきたという。

細井さん たぶん一番最初に作品を出したのは、NTTインターコミュニケーションセンターにある、ここと同じような無響室で自分の声を多重録音して、いろんなところから聞こえる、みたいな作品を作ったんですけど、そこからその音だけじゃなくてそれを鳴らす場所についても考えるようになって、最近の作品は、鳴らすもの、というよりはその場所についてどう思えるか、どういう可能性を提示できるかのための音という感じになってます。

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そう語る細井さんは展示場所によって全く異なる作品を制作。昨年、羽田空港第2ターミナルに設置された『Crowd Cloud』はまさにそういった作品。アーティスト・スズキユウリさんとの共作で、細井さんがサウンドのパートを請け負った。

細井さん 空港という場所を考えたときに、最初にその国に来たなと思うのって、その国の言語が聞こえてきた瞬間だなと思ったので、日本語の断片、つまり「あいうえお」っていうのを私の体から出る限りの全部のピッチで録ったんです。

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その収録された膨大なひらがなの音声でアルゴリズムを組むことで、常に違う音の組み合わせが鳴る仕組みを作った。

環ROYさん 気持ちいい感じですね。

細井さん 喋ってるようにも聞こえるっちゃ聞こえるんですけど、でも意味はわからない。何か日本語の音が流れてるなっていう感じで。

環ROYさん 特に質問が生まれないぐらい明快。

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そんな細井さんの環境や場所から現れる表現。その最たるものが今年挑戦した横須賀沖にある猿島という無人島で制作した作品。

細井さん まず条件として電源がなかったんです。「電源がない状態で音の作品できますか?」という話があって、これは“この喧嘩は買わねばならない”と思って。別に誰も喧嘩売ってないですけど(笑)。

電源がなく、スピーカーや機材が使えない無人島。その会場は弾薬庫の穴が残った円形の砲台跡地。細井さんはこの穴を使うことにした。

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細井さん 入る部屋によって聞こえてくる音が変わるんですよね。例えばフェリー乗り場が向かいにある場所に入るとズズズズって音がしたり、船の音がなんとなく聞こえたり。既にもうここにたくさん音があるじゃないか、ということで。

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向いている方向によって聞こえる音が変わる弾薬庫に目をつけ、この中に高性能の吸音材を設置。穴の中に入り、聞こえてくる島の音に耳を澄ます作品を制作した。

Licaxxxさん サウンドアートって音を出す、みたいなところがテーマになりがちだけど、これは「聞く」っていう行為をもう1回考えるみたいな感じの作品。

環ROYさん 鈴木昭男さんの壁立てて聞くとか、仲間ですよね。サウンドアートのけっこうエッセンシャルな部分。

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鈴木昭男《日向ぼっこの空間》1988 ▶ 子午線の通る最北の町<京都府丹後市>に1年半かけ2面の壁を制作「秋分の日に、一日、北壁に座して自然に耳を澄ました」自修イベント

細井さん 自分の目標としては、感覚に刻まれるような体験…体の経験になるような作品が作れたらいいなと。

Licaxxxさん サウンドアートって突き詰めていくと結局インスタレーションの中の一部のジャンル。ってなると、やっぱり環境に左右されたりとか、ちゃんと生かせてるのが大事かもって思ったし、そっちのほうがアップデートがある。

環ROYさん そうそう、めっちゃいいこと言いますね。

Licaxxxさん 急にまとめ出した(笑)。

サウンドアートの世界⑤
音楽とサウンドアートの境界線

サウンドアートへの認識を深めつつ、最後はミュージシャン<大友良英>さんのもとへ。

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大友良英(音楽家)▶ 朝ドラ『あまちゃん』、大河ドラマ『いだてん』の音楽制作で知られ、アヴァンギャルドな作品からポップスまで多種多様な音楽を作り続けるなか、2005年からアート作品も制作

大友さんが、アートの世界にのめり込んだきっかけはなんだったのか、からうかがった。

大友さん 毛利悠子、梅田哲也、堀尾寛太による作品を大阪でたまたま見て、あまりにも面白くて。その時、45~6だったんですけど、本当に面白くて、仲間に入りたいなと思って相談して、すぐに作りだしたんです。

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毛利悠子・梅田哲也・堀尾寛太によるグループ展「Sun and Escape」 ▶ 2005年、大阪築港赤レンガ倉庫にて行われた

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そんな大友さんの最初の作品が《without records》。2005年に制作して以降、アップデートを重ねながら、様々な場所で展示された作品。レコードを置かないまま、レコードプレーヤーそのものが発する音で作られる、見た目のインパクトも強いインスタレーションとなっている。

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大友さん 元々ポータブルのターンテーブル好きで、ターンテーブルの演奏もするので、それにレコードを乗せない演奏っていうのをちょうど20世紀の終わりくらいからやりだしたんです。
クリスチャン・マークレーの影響を受けてターンテーブルを始めたんだけど、どうしてもレコードをコラージュすると、海外ではジャパニーズ・クリスチャン・マークレーと言われちゃうなというのがあって、それは嫌だったので、自分は何が好きなのか考えて、レコードの音以上にプレイヤーだなと思って、それでプレイヤーだけに特化しようと思ったあたりから始まって、それでそれを展示に置き換えた感じですね。

クリスチャン・マークレー ▶ 70年代末、ターンテーブルを使ったパフォーマンスで音の実験を開始。前衛的な音楽/アートの重要人物として活躍。大友氏との共演・共作も多数

環ROYさん すごくわかりやすいお話でした。

大友さん わかりやすいんだよ。あんまり深く考えてない(笑)。

Licaxxxさん 純粋で見た目も回転してループになって音楽になっていて、というのがめっちゃ直感的で、子供でもわかるというか。

大友さん たぶん元々美術とか展示を目指してたわけではないので、音楽からこうなったからそういう感じなのかなって思うんですけどね。

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そして同時期に制作されたのが7名の音楽家との作品『quartets』。演奏される音と影絵となっている演奏パフォーマンスが融合する。

環ROYさん これパフォーマンスに見えるんですけど。

大友さん 見えますよね。でも全部影絵。でも、本当に小っちゃい子が来ると、中に人がいると思って壁触ったりするぐらい。で、これはさっきのと対照的でなるべく良い音にして実際その場にいて、奥でやってるように、見えるように作ったんです。

環ROYさん その場に来た本物の人間の影が映り込んで、そうすると次元が重なったりしてちょっとゾクっとしました。

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大友さん ソロで10分程度の即興演奏を数バージョン録ったのが7人分あって、それがランダムに流れる形で、一緒に演奏してるように聞こえるけど、実は一緒にやってないんですよね。延々と同じ組み合わせがないように作ってて、今でもネット上でずっとやってます。なので、始まりも終わりもないイメージ。

環ROYさん シンプルでめちゃくちゃカッコいい!

Licaxxxさん 気づきが半端ない。すごいです。

自身も現在、サウンドインスタレーション作品を展示中のLicaxxxさん。その経験から鑑賞者を立ち止まらせることの難しさを感じていたという。

Licaxxxさん ただ音が鳴ってる空間ってやっぱり、どれくらい滞在させるかって結構難しいと思うんです。それをこの影があるだけで、ライブしてるように見えるじゃないですか、そうなると長く居ちゃうと思うんですよね。サウンドアートの見た目の装置としてめっちゃすごいなって今気付かされました。

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二人に衝撃を与えたこの作品。その始まりは大友さんがキャリアを通して取り組んできた即興演奏に抱いたある疑問からだったという。

大友さん 普段、即興演奏をやってるんだけど、即興演奏ってそもそも何だろうって自分への問いがあって、即興って言ってるけども、自分が経験したものを使ってその場で作曲してるとも言えるわけで、だから決して新しいものが出続けてるわけではないんですよ。だけど、作曲されたものをスコア見ながら演奏するのとは、違ってて、その即興演奏と同じような構造をここに持ち込むにはどうしたらいいか、って。
この(『quartets』の)形は収録なので、収録しちゃったら即興じゃないのに即興演奏のように聞かせるにはどうしたらいいんだろうって考えたときに、「関係性だ!」と思って。自分一人じゃなくて何人か関係する人がいると、会話も思わぬ方向に進むように、だからこれ、もちろん会話してないんですけど、何人もが勝手に喋ってる人たちが全くランダムに組み合わされると、まるで会話してるかのように聞いてる側が錯覚してくっていう。聞いてる人の脳内で即興演奏が成立するっていうことなのかなと、思いながら…。

環ROYさん 人間のパターン認識の話ですね。

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大友さん 普段自分がやってることも誰かと一緒にちゃんと合わせてやってるように聞こえるけど、別に合わせなくても合うんだなって、段々思い始めて、自分の演奏もこれをきっかけに結構変わったかも。

環ROYさん すごい話。鳥肌だ。

大友さん それってでも、結果的には「即興演奏なんてないんだ」っていう僕の結論なんですけど、結局ね。だから自分でやってることにとどめさすみたいな感じなんですけど。

環ROYさん そういう結論に至ったんですか。

大友さん 至ったというか、もっと言っちゃうと、即興とかぐちゃぐちゃ言わんでもええわ、って思うようになったかな。その時やりたいことをやればいいやって。

環ROYさん 深すぎる!

最後は、そんな大友さんの最新作「バラ色の人生」を拝見することに。つぶれた温泉旅館のカラオケ会場のような場所が舞台。様々な家電が奏でるオーケストラ作品になっている。

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《バラ色の人生》 ▶ 2015年初演の古い家電で作ったオーケストラ作品。会場地で募集した黒子が操作する約15分間のショー。

大友さん 僕が電気技師の家で育ったってことへのオマージュもどこかにはあるような気もする。なんか個人史なのかもしれないこれは。

Licaxxxさん 何かのノイズだろうがなんだろうがどこから出てるか、何が起こってどうやって出てるかみたいのが見えるって…。

環ROYさん そこにめちゃくちゃ食いついてるね。自分の作ったやつと相対して。

Licaxxxさん そうそう。早く修正したい(笑)。

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大友さん これ、個人的にはミキサーが…。僕ら普通に(音響機材の)ミキサーって使いますけど、そうじゃなくてジューサーミキサーがあるとこが自分の中でずっとネタなんです(笑)。

環ROYさん ミキサー違い(笑)。

大友さん 普通に音楽作る感じに近いかな、これ。インスタレーションで音楽って何だろうって考えながら作っていたのが、段々段々それがごっちゃになっちゃって。音楽作りとインスタレーションが一緒くたになっちゃったのがこれのような気がする。

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最も自由なアート、サウンドアートの冒険はお二人に多くの刺激をもたらした様子。最後のこの1日の感想をうかがった。

Licaxxxさん 自分の中で考え方を1日でめっちゃ変わったし、早く(自分の)作品をアップデートしたいです。

環ROYさん よくそんなすらすら出ましたね。

Licaxxxさん 即興(笑)。

環ROYさん 楽しく過ごさせていただきました。ありがとうございました!

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出演者

Licaxxx
環ROY