アートコレクター入門編

#27 2022.6.18 /
#28 2022.6.25

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近年、「アートコレクター」の数は急増し、アートギャラリーやアートオークションでの取引額は、2020年に比べ、2021年はおよそ17億円増大している。
「アートコレクター」とは美術館で作品を鑑賞するだけでなく、生活の一部として作品に寄り添う存在。アーティストにとっては、活動を支えてもらう重要な意味を持つ。コレクターはなぜアートを買い求めるのか。今回、そんな「アートコレクター」について迫るのは、女優の野村麻純さん。野村さんが7人のコレクターのもとを訪れ、お話をうかがった。

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野村麻純さんがアートに興味を持ったきっかけは、20代半ば、曜変天目茶碗を目にしたことから。「茶碗の中の宇宙というか、そこに広がる景色に心が震えました」という野村さん。そこから「いろんな作品を見たいと思うようになった」とアートへの興味が高まったそう。ただ、「見る専門。わからないことだらけで、(購入の)一歩が踏み出せないでいます」とのこと。まずは、ギャラリーを経営しながらアートを収集しているコレクターの牧正大さんにお話をうかがい「アートコレクター」の世界にアプローチする。

なぜ、アートを買うのか —— 
ギャラリストであり、コレクター 牧正大さんの場合

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牧さんがオーナーを務めるMAKI Galleryは、20年間収集したコレクションが鑑賞できるように、コレクションルームとギャラリーが併設され、常時無料でアートを楽しむことができる。
そもそもギャラリーとは、アート作品を展示販売するスペースのこと。ギャラリーには、アーティストが最初に作品を発表する「プライマリーギャラリー」とオークションなどで一度売り出された作品を買い付けて販売する「セカンダリーギャラリー」の2種類があり、MAKI Galleryは「プライマリーギャラリー」。伺ったこの日はbaanaiやタムラサトルを含む5名のアーティストの作品が展示、販売されていた。

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■牧正大さん(MAKI Galleryオーナー)
「今回いろいろな作家さんを展示してますが、基本的にはそのアーティスト1人の個展という形で、空間を使って表現するというのがギャラリーの仕事で、一つ一つの作品もそうですし、全体としても、そのアーティストの思いが伝わるような展示をしてアーティストに代わってお客さんに届けてあげる、という仕事をしています」

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ギャラリーを運営しながらご自身のコレクションを公開している牧さん。なぜ「アートコレクター」になられたのだろうか。

■牧正大さん(MAKI Galleryオーナー)
「自分のギャラリーでお客様に紹介するじゃないですか、その時に“牧さん、それだけ好きだったら、ご自分で買ったら”ってよく言われるんですけど、“持ってます。全部自腹で購入して好きだから持ってますよ”っていうんですけど、そうするとお客さんとフラットというか、ただ単にギャラリーは売る、コレクターは買う、という壁じゃなくて、フラットな形で“牧さんも持ってるんだ。いいね”と、安心したから買う、みたいな形になるんです」

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そんな牧さんのコレクションの中でもひときわ異彩を放つのがテニスコートの作品が並ぶ部屋。
ロサンゼルスで活躍しているジョナス・ウッドが3年をかけて、24点のテニスコートを描いた「Tennis court drawings」。ジョナス・ウッドは、自ら収集、撮影した資料を用いて、ドローイングやコラージュで画面の再構成を繰り返し、日常生活の中で触れる植物や果物、器などを配置した室内静物画や、テニスやバスケットボールなどのスポーツ、動物や人々を独自の構図で描く作家。

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ジョナス・ウッド ▶ ロサンゼルスで活動しているアーティスト。日常生活で触れるものを描く室内静物画やスポーツ、動物などを独自の構図で描く作品を制作

ギャラリストであり、コレクターでもある牧さんとジョナス・ウッドとの出会いは、彼が売れる前から。牧さんの真摯にアーティストと向き合う姿勢に感銘を受けたジョナス・ウッドが牧さんを指名し、販売したのがこの「Tennis court drawings」。そこには、こんな特別な思いがあったという。

■牧正大さん(MAKI Galleryオーナー)
「(アートが)お金儲けのため、というふうに見られる…好きなアーティストがそういうふうに思われるのが嫌だなというのがあって。ジョナスは“地元の美術館に自分の作品をコレクションしてもらうのが夢”だったんですね。じゃあ、それをやろうと思いまして。その24点を全部寄贈しようと決めたんです。資本主義社会で、アートがお金=資産という動きもある中で、違う考え方もあるんじゃないかと思って。それを一番好きなアーティストと、歴史に作品を残すというか、一緒の夢を持って達成するというのは、お金出してもできないことだと思うので、それをやろうとジョナスと話しました。(アートを)持っては死ねないので。何かを残していくっていうのも一つの選択肢かな、と」

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牧さんは、資産運用としてアート作品を保持するのではなく、アーティストとの絆を大切にし、後世に作品を残していこうとしている。牧さんのように、人生を変えるようなアート作品と出会うためには、どのようにしたらいいのだろうか。

■牧正大さん(MAKI Galleryオーナー)
「アートって、ものすごく深いものなんですよ。いろんな歴史があって文脈があって、政治があったり、経済があったり。その上に私たちがいて、アーティストたちがその思いをその文脈のもとに活動していたり。これを読み解いてから買おうと思うと、一生買えないですね。だから、まず初めは、自分に一番似てるものを買ったほうがいいと思います。アートって人間が作り出すものじゃないですか。何かメッセージ性があるんですよね。それってもう“人”そのものなんですよ。だから、自分が友達にしたいとか、彼氏にしたいとか、人間的なものを感じ取って、躊躇せず買ってみてください。アートに正解はないので」

なぜ、アートを買うのか —— 
アートのために家を改装したコレクター 松葉邦彦さんの場合

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続いて野村さんは、アートはどのように、「アートコレクター」の生活に溶け込んでいるのかに迫るため、マンションという限られた空間にアートを展示している建築家の松葉邦彦さんのお宅へ。松葉さんは、人生で初めて設計した建物が、東京の文化施設で様々な賞を受賞。他にもブロックを積み上げたような歯科医院をデザインするなど、アーティスティックな建築物を多く設計。そんな松葉さんのお宅には、アートを飾るためのこだわりがあるという。

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■松葉邦彦さん(株式会社TYRANT 代表取締役)
「こだわったのが照明なんですけど、美術館でも使っているものでして、光がとても綺麗で、かつ調光ができる。ギャラリーだったら当たり前なんですけど、自宅でそこまでやっている人はあんまりいないだろうっていうので、そこはどうしてもやりたかったんです。やっぱり、海外に比べて日本の一般的な住宅は圧倒的に狭いんですね。ですので物理的に場所がないマンションだと、エレベーターに大きい絵が乗らない。自宅に飾れない、オフィスに飾れない、なので倉庫に保管したままっていう方が多いです」

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限られたスペースでアートを楽しんでいる松葉さん。部屋の中でひときわ目立つところに展示されているbaanaiの作品がお気に入りだとのこと。松葉さんがこの作品に惹かれた理由とは…。

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■松葉邦彦さん(株式会社TYRANT 代表取締役)
「黒いところに白で“ありがとうございます”って書いてあるように見えるんですけど、実は1回下絵を描いて、それを黒で塗りつぶして、さらに白で“ありがとうございます”が描かれてて、この“ありがとうございます”が何層にも重なっているんです。彼(baanai)の場合はコンセプトが重層性だと言ってたと思うんですけど、ただカッコいい絵を描いているのではなくて、その裏には努力とか、そういったものの結晶があるんだろうなと思っていて。すごく好きなアーティストです」

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baanai ▶ 反復された文字によって画面全体を埋め尽くすという独自のスタイルによって作品を生み出す

アーティストを理解することで作品の理解も深めている松葉さんのコレクションは、どのように形成され、どのような思いが込められているのだろうか。

■松葉邦彦さん(株式会社TYRANT 代表取締役)
「やっぱり好きなものがありまして、まず、同世代…40前半ぐらいの人、もしくはそれより下の世代を買う。あとは、カラフルな作品が好きなので、色を多用してあるものを買う。もう一つ、ストリート系なんですけど、そこに何か知性やコンセプトをきちんと持っている人を買う、その三つのうちの二つぐらいに引っかかってる人を中心に買っています。アーティストが成長し、売れていく過程を見ていくことができる。ある意味運命共同体だなっていう話をしてるんです」

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野村さんは、ここで「初心者の私が部屋に飾る。作品が欲しいとなったときに、まず何をしたらいいですか」と質問。それに松葉さんは、「何か気になるアーティストの方がいらっしゃるようでしたら、その方が所属してるギャラリーとか作品を扱っているところに事前に連絡をして、この人の作品が見たいからいついつ行かせてください、みたいなこと言ってアポを取ってからいくと、ギャラリーもある程度作品を用意してくれると思います」と明快なレスポンスをくださった。

なぜ、アートを買うのか —— 
3000点保有するビッグコレクター 高橋龍太郎さんの場合

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続いて野村さんは、およそ3000点のコレクション数を誇るビックコレクター、コレクター歴25年、精神科医・高橋龍太郎先生のもとへ。

■高橋龍太郎さん(タカハシクリニック院長 高橋龍太郎コレクション代表)
「病院の待合室に飾るリトグラフから始まって、セカンダリーで草間彌生さんとか、ほぼ50万円以下で買っていったんだけど、オリジナルと本物を飾りたいなと思ってる頃に、草間彌生の30年ぶりのオイルの展覧会があるというのを聞きつけて、草間さんの30年ぶりのネット作品を200万円ぐらいで…グッと気合を入れて購入しました」

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高橋先生が草間彌生に出会ったのは、全共闘運動に参加した1960年代後半。入学していた医学部を中退し、映像事務所に出入りしていた頃のこと。その頃の思いを野村さんとお話しいただいた。

高橋さん 当時、草間彌生のニューヨークのハプニングをやったビデオとかフィルムを見てたので、草間の言ってみれば反抗心とニューヨークを相手に戦ってるっていう画像が、自分の中にその作品を買うことで蘇ってきて、草間の作品を買ったときに、この瞬間の喜びのために生きてきたのかなって思うぐらい、気分が上がりましたね。

野村さん 3000点所有していても、やっぱり一番最初に買ったときの思いは色あせないものですか?

高橋さん 特に初期の頃のものの思い出はみんな強いですね。ちょうどその買ったときとほぼ同じ頃に会田誠や山口(晃)さんの個展もちょうど1年以内に開かれるようになって、それで草間と会田誠、山口晃というような、僕のコレクションの前身の作品群が、急速に集まり始めて、それでも、これがコレクションになっていくっていうふうには思いませんでした。

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高橋先生のコレクションは、2008年には美術館でコレクション展として開催されるほどに成長。その後、この展覧会をきっかけに、国内外の美術館で高橋コレクション展が開催されるように。そんな高橋先生のコレクションには、あるこだわりが…。

高橋さん ほぼ99%、現代アートに特化してます。しかも、日本の若い世代の現代アート。時と場所を共有している、天才的な才能を持った現代作家の描いてる作品ということで、僕はそれに随伴してるだけで、言ってみれば同時代性みたいなことを、ヒリヒリした彼らの感覚を共有しているという…。

野村さん 自分では表現できないけどそれをアーティストの方が表現してるという。

高橋さん そういうことです。

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野村さん アーティストの方と「アートコレクター」の方の関係っていうのは?

高橋さん 現代アートの場合は特に作家たちと、その作品の意図とか、作家の個性など、そういうものを全部含めて1票を投じる、みたいなところがあるので、本当は(作家と)会話をしたほうがいいんだけれど、本当にアーティストって僕にとったら神様みたいなもんだったから、その人たちと対等に口を利くなんていうのはおこがましいと思っていて。その代わり、アーティストがどう思ってるかっていうのをギャラリストから聞いて勉強するってことをずっとやってました。

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野村さん ただ、作品を収集するだけじゃなくて、そのアーティストの方のコミュニケーションが大切…。

高橋さん 特に現代作家のコレクションって、そこに意味があると思っていて、現代作家と会話をして初めて買うというふうに、決めてるコレクターもたくさんいます。

野村さん 確かにもう亡くなった方とかは、会話できないですもんね。

アーティストが生きているからこそ、作品に込められた思いを聞くことができる、それが現代アートの魅力の一つだと語る高橋先生。若手作家たちの作品をどういう視点で購入しているのだろう?

■高橋龍太郎さん(タカハシクリニック院長 高橋龍太郎コレクション代表)
「アートって、好きで集めてれば、そんなにバックグラウンドを考えなくてもいいよ、という考え方もある。ただ、好きなものだけ集めて、例えば100点とか200点集めたけど、10年後20年後には新鮮さを失ってしまって顧みられないコレクションになってしまう、というのも寂しい話。やっぱりその作品の美術史的な意味も背景に聞きながら、少しお勉強のつもりで買うコレクションと、本当に自分が好きなだけで買うコレクションの二通りを比べて、自分の好きなものがアート市場で意味がある作品に絞り込まれていくというような体験をすると、すごくコレクター冥利に尽きる」

なぜ、アートを買うのか —— 
新世代のコレクター コバヤシマヒロさんと柵木頼人さんの場合

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続いては、若い世代の「アートコレクター」たちはどのようにアートを購入しているのか。コレクター歴7年ほどの新世代の「アートコレクター」コバヤシマヒロさんと柵木頼人とさんのもとに伺った。

■コバヤシマヒロさん(「Bur@rt」編集長)
■柵木頼人さん(株式会社ませぎ型紙製作)

野村さん お二人が初めて購入した作品というのは何ですか。

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柵木さん 私は会社をやってるんですけど、事務所のインテリアとしてアートを買ってみたいなというのがあって、当時はアーティストというと、ピカソとかアンディ・ウォーホルしか知らなかったので、アンディ・ウォーホルでGoogle検索して自分でも買える値段の作品を見つけたり、ウォーホルについてすごい勉強した経緯が結構楽しくて、そこからアートを買うということにのめり込んでいきました。

コバヤシさん 私は通販で買った(Oumaという作家の)2500円の小さな作品が最初。実際実物見てない状況で購入したのがきっかけでした。

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Ouma ▶ 元獣医師で細胞をテーマにした作品を製作。「癒し」をアート見いだせないか模索しながら活動する現代アーティスト。

2500円の作品で、アートコレクターデビューをしたコバヤシさん、今ではギャラリーを経営するほどのアートコレクターに。またコレクター活動の一環として、アートコレクター仲間の柵木さんと一緒に、定期的に展覧会を開催している。

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コバヤシさん 「Collectors’ Collective」…“コレコレ展”と僕ら呼んでるんですけど、私たちのコレクション作品を展示するっていうのが一つで、それと同時に、その作家の新作を展示して販売するという企画です。

柵木さん 僕らが最初に「Collectors’ Collective」をやった頃は、まだコレクターの数もそんなに多くなかった印象もあるんですね。アートといっても何を買っていいかわからない、というところを改善するためにも「Collectors’ Collective」をやらせてもらいました。僕らが持ってると少し安心してもらえるのかな、というのもありました。あと、僕らも会場で立って、そのアーティストの魅力を説明して、それで販売に繋がって、これからコレクターになってもらえればな、というのもある企画でした。

コバヤシさん アートコレクションって、お金持ちの楽しみの一つみたいな、ちょっと敷居が高い存在になっている。それを僕らでやってみよう、という思いが原動力になったというのはありますね。

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Collectors’ Collective ▶ コレクターたちのコレクションを公開するとともに、注目のアーティストたちの新作を展示販売

野村さん アートコレクターとしてアート業界全体としてこうなってほしいというような思いはありますか。

柵木さん 美術館には行くけどギャラリーには行かない人って多いと思うんです。入りづらいかもしれないけど、もっとギャラリーに自然に行けるような業界にしたいなと思いますね。

野村さん (ギャラリーには)世界観があるから、初心者が入っていいんですか?という感じがあるんですよね。

柵木さん 最初はきついです…きついですね(笑)。今でも僕らも心が折れそうになる瞬間はあります(笑)。でも、受付の人に“プライスリストをお願いします”っていうと話が始まるかもしれないですね。まずはそこを臆せずに言うと、(プライスリストを)出してくれて、値段も見られるし、そこで買うきっかけになるかもしれないです。

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プライスリスト ▶ ギャラリーで取り扱っている作品の価格表。作品名と関連情報が一緒に記載してある

コバヤシさん アートを買うもんじゃない、高いからみたいな、そういう精神的なハードルってあると思うんですけど、2500円でも買えるし、旅行に行く感覚でアートって買えるので、買えるものとして見る、と考えると、すごく鑑賞体験が面白くなると思います。

なぜ、アートを買うのか —— 
展覧会を開くコレクター 桶田俊二さんと桶田聖子さんの場合

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続いて野村さんは、寺田倉庫で開催している展覧会へ。出迎えてくれたのは、アートコレクターの桶田夫妻。天王洲のWHAT MUSEUMで開催された、OKETA COLLECTION「Mariage -骨董から現代アートー」展(2022年7月3日まで開催)の会場。まず見せてもらったのが、以前番組でお宅に伺った際にお部屋にあった桶田さんお気に入りのあの作品。

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桶田俊二さん クララ・クリスタローヴァさんの作品。女性アーティストなんですけど、これ、たまたま香港のギャラリーにお伺いしたときに、応接室にあって、見て、すごくかわいいというか、癒し系というか、ホッとするという感じで。

野村さん お腹のフォルムとかたまらなくかわいいですね。

今回展示されたおよそ40点のOKETA COLLECTION。桶田さんがこれまで購入してきた作品の他に、アーティストに作品制作を依頼したコミッションワークも。目に飛び込んできたのは、大きな鹿の作品、名和晃平の代表的なPixCellシリーズで、こちらの作品を展示するにあたって、桶田さんにはこんなこだわりがあったそう。

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桶田俊二さん 名和さんに、ぜひ舞台を作ってほしい、ってお願いして。こういう舞台で周りもちょっとグレーっぽくして照明がシカにあたるように。神秘的な感じで…。

野村さん 私、名和晃平さんの作品でもう少し小さいサイズの見たことあるんですけど、大きい作品ですね。

桶田俊二さん これは大きいです。

様々な現代アートを見せてもらい、今度は、コレクション展のもう一つのテーマである骨董作品へ。曜変天目の第一人者・桶谷寧さんによる作品で、上から見ると、宇宙のよう。野村さんにとって、アートの入り口となった曜変天目茶碗を前にテンションも上がる。

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曜変天目茶碗 ▶ 中国・福建省で焼成されたと考えられる茶碗。椀の内外に青や緑に光る曜変と呼ばれる斑紋がある

自身のコレクションを一般に公開する桶田夫妻。なぜこのような展覧会を開催しているのか、ということをうかがうと、「自分たちがアートを集めて心地よくて楽しい。我々はコレクションすることによって、見ていただいて、皆さんが同じ感動を得ていただけたらすごく嬉しいことだなと思ってます。ですから、皆さんと一緒にアートを盛り上げて行きたいなと思ってます」と桶田さん。最後にアート購入のアドバイスをうかがうと…。

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■桶田俊二さん
「やっぱり最初は一歩を踏み出すのは勇気いる話で、我々もそうでした。でも、一歩踏み入れればそこから道は広がっていくし、あとは、自分がいいと思う作品を購入するのが一番じゃないかなと思います」

なぜ、アートを買うのか —— 
野村さんもギャラリーへ

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7人のアートコレクターのお話を聞き、野村さんは最後にギャラリーへ。
訪れたのは、「画廊くにまつ青山」。若手作家の作品を中心に扱うギャラリーで、この日は、毛利美穂、阪本トクロウなど3人のアーティストの作品が販売。野村さんは、ここでアートコレクターへの第一歩として、「すみません。こちらの作品のプライスリストはありますか?」と勇気を出して声を掛けるところから。果たしてアートコレクターの第一歩を踏み出せたのか?

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野村さん 今回はちょっと見送りました。でも予行練習としては、かなり足が震えるところまでは行ったので。とてもいい経験ができました。(コレクターの皆さんは)自分の“好き”だったり、“心が安らぐ”というのを一番大切にされていて、そういうお話を聞いてアートを身近に感じることもできました。また、現代アーティストの方との交流も大切にされてるというお話は、私も今後アートを鑑賞するにしても、購入するにしても、自分と同年代のアーティストをもっと発掘して、交流できたらいいなっていうふうに思いました。新たな楽しみ方を教わりました。

なぜ、アートを買うのか —— 
現在の日本アート事情

7人のコレクターの皆さんのお話をうかがった今回。最後に、長年アートシーンでコレクターとして活動している高橋先生と牧正大さんに、現状のアート業界についてお話をうかがった。

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■牧正大さん(MAKI Galleryオーナー)
「海外に行くと、もっとアートは身近なもので、大きいスペース、展示スペースを作って、そこでアート作品を無料公開し、そこにまた仲間たちが来たり、アーティストが来たり、ギャラリーが来たり、美術館が来たり…そこにディスカッション交流があって、いろいろなものが情報として周りに広がっていく。そうして情報が広がると、クリアになっていくというか、一番純粋な伝え方に近づいていくと思います。日本の場合はなかなか一般のコレクターが作品を第三者に見せない。例えばアーティストの道筋として収入になったり、先のステップが見えやすい世の中になってくると、野球選手とかサッカーとかYouTuberとかじゃなくて、“アーティストになりたい”と思う人が少なからず増えてくると思うんです。それでアート作品がいっぱい生まれることによって競争も激しくなるし、クオリティも高くなると思います」

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■高橋龍太郎さん(タカハシクリニック院長 高橋龍太郎コレクション代表)
「“アートはお金持ちの道楽みたいなものだから、それを優遇するのはどうよ”とか、“優遇税制なんてとんでもない”、という動きがある一方で、現代アートって必ず体制批判みたいなものがあるものなんだけど、保守層が長い間ずっと政権についてるから、アートの持っている切れ味の良さとか、体制批判っぽいものをやや嫌ってるところがあって、それと日本の現代アートが継続して流れてるっていうことと、うまく合致してなくて、コレクターがその狭間で苦しんでるっていうようなことはどうしてもあると思います。アートを持っていても、外国のように祝福された存在とは思われてないっていうことですかね。だからもう少し、コレクターの果たしてる役割をポジティブに捉えるような行政的な配慮があれば、最近の若いIT系のコレクターたちも、もっとさらに前向きにコレクションしてくれるような気がします」

「アートコレクター」。彼らはただアートを買うだけではなく、そこにはそれぞれの思いやアートへの愛があふれていた。コレクターの皆さんの思いを知ることで、また少しアートを身近に感じられたのは間違いない。

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出演者

野村麻純