NFTは世界を変える?

#11 2021.10.16 /
#12 2021.10.23

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今年に入り急速に世界のアートシーンで注目を集めるキーワード「NFT」が今回のテーマ。アートの世界とその価値観を一変させるとも言われているNFTとは一体なんなのか、NFTが持つ可能性や魅力、そしてこれからをさぐる旅。

NFTとは、Non-Fungible Tokenの略で、日本語では<非代替性トークン>と訳される。
仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーンのシステムが使われており、情報の改ざんが不可能であることが、これまでのデジタルアートの管理システムとは大きく異なるところといえる。

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ブロックチェーンとは情報通信ネットワーク上にある端末を直接繋げ、複数の端末でデータを処理、記録していく技術のこと。インターネット以来の発明とも言われ、近年注目を集めている。
つまり、NFTの登場によって、作品鑑定の偽造ができなくなり、作品の所有者を明確にすることができるようになった。ただし、ブロックチェーン上でやりとりされるため仮想通貨の取引が中心となる。

簡単にコピーができ、デジタルデータの所有権を記録できる、いわばデジタル上の台帳ともいえるNFT。そんなNFTをめぐるアートの冒険に今回出かけるのは、アーティストのコムアイさん。

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コムアイさんとミュージシャン・オオルタイチさんとのプロジェクト「YAKUSHIMA TREASURE」が、映像作家の辻川幸一郎さんとコラボレーションした映像作品「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」が今年の「カンヌ国際クリエイティビティ・フェスティバル」でデジタルクラフト部門においてブロンズを受賞するなど、フィジカルの舞台だけでなく、デジタルの作品を作り続けるコムアイさんだが、NFTへの印象は「近づきづらいな」という思いもあり、距離感もあったという。

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「仮想通貨だけど、大きな金額になるので、バブル過ぎて近づきづらいなという感じはしてました。自分の懐にそのお金を入れるのが何かしっくりきてないみたいな、という感じもあって…。でも最近やるかもしれないという話があったんです。植樹を進めている『we MORI』というものなんですけど、この『we MORI』のアプリをダウンロードすると、プロジェクトに参加したり、支援したりできるんです。(村田)実莉ちゃんというアートディレクターとやっている「HYPE FREE WATER」というプロジェクトがあって、そのコラボレーションで映像を作って出しました。そういう使い方だったらNFTいいな、って思ってるところです」

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we MORI ▶ 簡単な操作で「植樹」や「環境保全」の活動に参加できる世界初の環境アクションアプリ

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HYPE FREE WATER ▶ コムアイとアートディレクター・村田実莉によるユニット。水をテーマにしたフィールドワークを中心に、地球環境と水を愛するすべての人に送る架空の広告アート作品を制作。

NFTプラットフォーム「OpenSea」の2021年8月の月間取引量は3718億円になり、これは今年3月と比べても8倍に増えている。この1年だけでも大きな変化を生んでいるNFTの世界。
代表的な作品といえるのが、CryptoPunks。NFTの創世記に生まれたもので、2017年に1万個のデータが作られ、無料で配布され、NFTの盛り上がりとともに価値は上昇、現在は1枚4000万円以上で取引されている。

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これらはデジタルデータなので、誰でも簡単にコピーすることはできるものの、NFTと紐付けられていることで、オリジナル作品であることが証明される。また、所有者の利益も残るため、取引も公正に行われ、さらに、NFTの特徴として、同じプラットフォーム上での取引では、2次販売でも発行者へロイヤリティも還元される。

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ニューヨークコンテンポラリーアートデイセール部門長、Phillips Auctioneers senior specialist、Rebekah Bowlingさんは、このCryptoPunksの広がりは、「Twitterやクラブハウスなどのソーシャルメディアで、誰かがアバターを作るような、一種のデジタルコレクションであり、一種のステータスシンボル。パンデミックによってオンラインでの活動が増え、オンライン上での人格がますます重要になってきている」と解説。また、NFTは「国際的な関心を集めていて、現時点で国際的にかなり知られている現象となっている」と話す。

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一方日本での状況は、Phillips Auctioneers日本代表・服部今日子さんによると、「既存のアートをコレクションしてた人たちという視点でいうと、正直まだまだ浸透していなくて、デジタルアートと何が違うの?という意見も多い。ただ、一方で、最近買い始めた人たちの中ではNFTが局地的に盛り上がってるという印象は受けます」と分析する。

この「フィリップスオークション」で最初に提供されたNFTアートは、Mad Dog Jonesの『REPLICATOR』と題された1台のコピー機を描いた作品。28日ごとに新しい作品が自動生成されるという、まさにデジタルテクノロジーでしか作れないものであり、Bowlingさんも「NFTでなければ機能しなかったというところに惹かれた」と話す。この作品はおよそ4億円で落札。NFTアートの広がりを象徴するひとつの作品だ。

NFTはアートマーケットにどんな進化を生んでいくのか。Bowlingさんはこう話す。

Phillips Auctioneers senior specialist/Rebekah Bowlingさん
「美術史に残る画期的なニューメディアアーティストがこの技術を手にして、新しい市場を見つけたり、作品を配信する新しい方法を見つけたりするのではないかと期待していました。しかし私たちが知っているニューメディアアーティストの多くは、実際には経済的な成功を収めていません。なぜならNFTのコレクターが好むような層にはあまり知られていないからです。時が経てばこの分野の先駆者であるアーティストたちがより多くの利益を得られるようになると期待しています」

では実際にNFT作品をリリースしているアーティストは、このアート界の進化をどう捉えているのか。小学3年生でありながら、人気作家となったZombie Zoo Keeperの母親でアーティストの草野絵美さんによると、今年3月ごろにこのNFTの存在を知り、息子さんに声を掛けたところから動き出したという。最初は「2000円ぐらいからスタート」したものの、出品スタートから1週間ほどはノーリアクション。Twitterを立ち上げ、英語で発信して、初めにアーティストのたかくらかずきさんが購入。そこからコレクターの方が全部の作品を買い占めたり、反響が広がり、その後、Zombie Zooは、どれもがすぐに完売する人気作家になった。

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アーティスト・草野絵美さん
「NFTでは設定画面でコミッションを設定できるんです。私の息子の作品の場合2000円で最初売れたんですが、その2000円のものを誰かが80万円で売りました、となると、8万円がうちに入ってくる。それがまた今度、例えば1億円でもし売れたとしたら1000万円が入ってくる。自分のアートで生計を立てられる人が、これからもっと増えていくのかなと思うと、すごくワクワクします。今バブルだからとちょっと冷ややかな目で見てる人もいるかもしれないですけど、私はすごく希望を感じます」

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実は草野さんは、コムアイさんと同じ大学出身。「まさかの同級生が出てきてびっくりしました(笑)。転売で作家にお金が入ってくることが今までなかったから、それをどうにかしてほしいと思っていたので、それはNFTの面白いところですね」とそのシステムに興味を深めたようだ。

アートマーケットを変革しつつあるNFT。では、そもそもデジタルのアート作品はどこにどう展示されているのか。3DCGで作られた仮想空間で展示を行っているコレクターの方に会うため、コムアイさんと一緒に仮想空間の世界へ向かった。

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訪ねたのは、プラットフォーム「Decentraland」。ここでは、広大な土地を区画ごとに購入することができ、ユーザーは自分の土地にNFTアートを展示することができる。

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Decentraland ▶ ブロックチェーン上で起動する仮想現実空間のプラットフォーム。アバターと名前を登録すれば、誰でもログインすることができる。

ご案内いただくのは、コレクターのLevさんとアーティストのMisoshitaさん。

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LevさんがNFTアートのコレクションを始めたのは2019年。そんなLevさんのイチオシのアーティストが「XCOPY」。

コレクター・Levさん
「彼はイギリスのアーティストで。GIFアニメを作ってたデジタルアーティストだったんです。こういうデジタルアートを10年間ぐらいGIF動画サイトに投稿し続けてたんですね。それ自体って特にそのお金にならないじゃないですか。でもこうやってNFT化することによってそのGIFアニメを販売することができるっていうのがすごい革新的だなと思ってます」

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このXCOPYのデジタルアートは、2021年9月、ラッパーのSnoop Doggが3.9億円で購入したことがニュースとなるなど、大きな話題にもなった。激しく変化するNFTをめぐる状況、コムアイさんとLevさんが語り合う。

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コムアイさん「Levさんは2019年に作品を初めて買われたとおっしゃってましたけど、ここ数年でNFTをめぐるマーケットが変わってきていますが、この“NFTバブル”みたいな状況をどう見ていますか?」

Levさん「昔から触ってる人間としては、少し冷静に見ているというか、少し市場が過大評価みたいなところになっているのかな、というのは感じています。NFTというのはアートとすごく似ていて、価格が急激に下落するかというと、おそらくしないと思うんです。何が問題なのかというと、その流動性が下がっていくと思うんですよね。買い手が現れなくなってしまう。売りたい時に売れないという状態に、おそらくこのバブルというものが弾けた時になるんじゃないかなと思っています」

コムアイさん「なるほど。今は買いたい人がいっぱいいるけど、買わなくなっちゃうんじゃないかってことですか」

Levさん「はい。ただ、このNFTの世界って、すごく歴史が浅くて、いわゆるバブルが弾けた時を経験してないんですね。すごいスピードで進化はしてるんですけど、ある程度その資産性みたいなところは、やっぱりバブルを何回か経験してからわかるものだと思うんです。現実世界のアートもそうだと思うんですけど」

コムアイさん「確かにそうですね。面白い。そこまで見越してらっしゃると思わなかったです」

進化を続けるNFT。アートシーンにおける存在感も大きくなりつつある。SBIアートオークションは現代アートを中心に、絵画や彫刻などフィジカルの作品のオークションを行ってきたが、今年10月から日本のアートオークションでは初めてNFTアートの取り扱いを始めた。一体、アートマーケットに何が起きているのか。SBIアートオークションの塚田萌菜美さんにお話をうかがう。
初めてNFTアートをオークションに出すことになったSBIアートオークション。ただ、既にNFTの作品は「OpenSea」「SUPER RARE」「Nifty Gateway」など、代表的なプラットフォームで仮想通貨によって取引されている。その中でSBIアートオークションが取り扱いを始める意味とは。

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SBIアートオークション株式会社 塚田萌菜美さん
「やっぱり、今までアートオークションをやってきているので、そういうものとは別のことをやりたい、というのがありまして。やはり、アーティストが直接出せる場ですと、数がすごいあるんですよね。やろうと思えば、アーティストが自分で作品売買ができる場が出来上がってきてるわけなんですけれども。弊社としては、アートの文脈から見た“面白いものを専門家がピックしました”という、そういうキュレーションを一つかませることで物語を見せて紹介していくということをやろうと思っています」

ここで、SBIアートオークションが取り扱うNFTアートの中から、ケニー・シャクター「MONEY, MONEY, MONEY」(2021)、ウダム・チャン・グエン「Waltz of The Machine Equestrians」(2012)、スプツニ子!「The Moonwalk Machine-Selena’s Step」(2013)などを見てみることに。

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SBIアートオークション株式会社 塚田萌菜美さん
「今ご覧になったように、いろんな作品があったと思うんですね。今のいわゆるNFTアートを揶揄してるようなものもありますし、現代アートって、そういう問題提起してくれる作品が多いんです。こういったものをネット上で盛り上がってるムーブメントの人たちに見せたいな、というのもあります。また、過去の作品で後からこうやって、唯一性を与えられるっていうのもありますよね。埋もれそうになってるものを発掘もできるんです」

作品を観たコムアイさん、「ネット上にいる時、“作品を見る”という感覚になってないっていうことが私の中であったんですけど、何かこれから大きな変化がくるのかなと思いますね」とNFTアートがもたらす影響について思いを寄せた。

SBIアートオークション株式会社 塚田萌菜美さん
「たぶん全体的に社会がデジタルに移行していくっていうことは見えているわけですよね。そういう時にアートはどういうふうに(変わるのか)。既存のものに対しては、今まで通り接していいと思うんですけども、今まで全然スポットライトが当たってこなかった、いわゆる画面上でやってたものは、その流れに乗せることで、もっと光が当たるんじゃないかと思っています」

これまで光が当たらなかったところに新たなスポットライトが当たる。そんな変化と同様に、新たな試みも生み出しているのがNFTアート。

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2021年6月、Perfumeが初のNFTアートをリリースしたことが大きなニュースになった。こちらを制作したのがPerfumeの映像演出制作チームであるRhizomatiks。
こちらのNFTアートをリリースするプラットフォームは、Rhizomatiksが独自に作ったもの。作品のみならず、プラットフォームをも制作したのは、どういった経緯だったのか。Rhizomatiksの中心人物、真鍋大度さんにお話をうかがった。

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Rhizomatiks ▶ メディアアーティスト 真鍋大度を中心に、あらゆるジャンルで新しいクリエイティブを実践しているチーム。

Rhizomatiks 真鍋大度さん
「NFTの作品を出そうと思った時には既にマーケットもたくさんあったんですけど、どういうことが行われているかきちんと把握するために、一度マーケットを作ってみたほうがいいかなと思ったんです。デジタルデータを使ってる作家だったら、やっぱり一度は考えると思うんですよね。仕組み自体に興味が僕はあったので、作品を出すということだけじゃなく、今実際何が行われているのかということを。もっとわかりやすくいうと、誰が儲かっていて、誰が損してるのかみたいなことをちょっと俯瞰して考えたいなと思ったのがきっかけでした」

「Perfumeは、以前から3Dスキャンのデータを公開して、フリーでダウンロードしてもらったり、モーションキャプチャーのデータをダウンロードしてもらって二次創作をOKにしたり、わりとこれまでも、データ自体に作品価値があるものとしてリリースをしていくというのがあったので、その流れで、NFTで彼女たちをモチーフにして、オーディオとビジュアルの作品をリリースするっていうのはわりと自然の流れとしてありました」と真鍋さん

また、Rhizomatiksからは、2021年9月にアーティスト藤原ヒロシが自身初となるNFT作品をリリースすることも発表されるなど、さらに広がりを見せている。

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Rhizomatiks 真鍋大度さん
「NFTじゃなきゃできないとか、ブロックチェーンの仕組みをうまく生かしてるとか、そういう作品が面白く盛り上がってるなという気がします。Hashmasksというプロジェクトは、その命名権…その作品に名前を付けるという権利に価値があったり、あとは二次創作するものに関して本当に自由で、グッズを作って売ってもいいとか。そういう今までのライセンスの中で考えられない自由度があったりするんですよね。少し前までは、面白い映像と画像を作るっていうことに作品の価値が置かれてたと思うんですけど、今はそういうことだけではなかなか評価されにくくなってきてるな、という気がします」

デジタルアートはどこまで進化するのか。コムアイさんと、8K映像で表現されるアートの世界を見るために、アストロデザインへ。

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アストロデザイン ▶ 超高解像度映像の処理装置などを製造・販売。

コムアイさんとやってきたアストロデザインは、8Kの超高精細映像の開発を行っており、このオフィスの環境でしか再現できないデジタルアート作品を見ることができる。迎えてくださったのは、メディアアーティストで、慶應義塾大学 環境情報学部教授の脇田玲さん。

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「見させていただきました。ご無沙汰しております。私が出身の大学のキャンパスの学部長でいらっしゃいます」と一礼するコムアイさん。脇田さんの作品を通して、デジタルアートとNFTの今後、の話へ。

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コムアイさん「脇田さんの作品って、ゼロからプログラミングして、人間の心に引っかかるような景色まで持っていったものなのか、それとも、元々あるデータから海の波や雲の動き、人間の動きなど、そういうデータから拾ってきたものなのか、どちらですか?」

脇田さん「私の作品は前者のほうで、1個の数式から、全部の絵をジェネレートしてるんです」

コムアイさん「数式なんですか」

脇田さん「そう。だから究極の抽象画というか。それが人間の身体の奥深くに響くところのパラメータをひたすら追求してるっていう、そういう作業なんですよね」

コムアイさん「数式があってそこに入力する数値ってことですか」

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作品で描かれるチューリングパターンという独特の模様についての話になり、「チューリングパターンは何かすごく惹かれるものがあって、秘密の箱開けたみたいな、何か全てのものに共通している数式みたいな感じがする模様ですよね。貝の表面や指紋とかも似てるようなって思ったりしますし」とコムアイさん。

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チューリングパターン ▶ 反応を活性化する物質と抑制する物質が相互作用して出来上がる模様。

コンピュータを使い、知覚できない情報を可視化することで、新しい世界へといざなってくれる脇田さんの作品。コムアイさんは「脇田さんはNFTに作品を出されてるんですか?」と投げかける。

脇田さん「いや、まだ(NFTに)出してないんです。迷ってるところですね。自分が作った作品が、今後死んだ後に流通するみたいなことを考えると少しロマンがあって。誰かが買ってくれてそれをまた娘とか、孫に引き渡したりとか…」

コムアイさん「私、むしろ何か作ったら、こう消えていくものであって欲しいなって思います。(作っているものが)音楽だからっていうのはあるかもしれないですけど」

脇田さん「僕はエゴが強いから(笑)、残したい」

コムアイさん「永続的に」

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脇田さん「でも、死んだ後は消えちゃっていいんだろうね」

コムアイさん「発酵しながら何か残っててほしいなとか」

脇田さん「発酵、いいね(笑)。熟成されて」

コムアイさん「熟成されてちょっと形が変わったり、匂いが変わったりとかしながら。いいですよね。なんかそういう他者に食われながら、存在するみたいなことがあったらすごくメディアアート素敵だなって」

脇田さん「素敵ですね」

デジタルアートが持つ永続性と、そのロマンに思いをはせながら二人のトークは続いた。

コムアイさん
「NFTに対して、苦手意識みたいなものがあったんです。何か、今は触らないでおこうというか、自分のフィールドじゃないな、みたいな感じで遠くに追いやってたところがあったんですけど、NFTの中にも、好きな作品があったり、嫌いな作品があったり、こういう系の作品が好きだなとか。同じ趣味の人もその中にいたりして。そういう未来が描けたりしました。面白かったです。勉強になりましたし、自分の世界が広がりました」

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出演者

コムアイ