新シーズンについて、これまでと変わらず斬新な内容をキープするのは難しくはないですか。
新たな設定や車種を取りあげることで、また新たな機会に恵まれると思いますか。
いい質問だけど、不思議なことに、斬新な質問じゃないね。よくそう聞かれるんだけど、番組をキープできている理由もその方法も、よくわからないんだ。新シリーズや新シーズンが始まるたびに、どうにかこうにか……。
3人の間でどのように仕事を分担しているのか、誰がどの車に乗るのかなどをどうやって決めているのか 、教えてください。
「仕事を分担する」なんてかっこいい言い方をしてくれてうれしいね。鉱山か何かにでもいるように聞こえるよ。
さて、乗る車が3台あったとしたら、たいていは企画の内容を大雑把に把握して、それぞれどの車に乗りたいか言い合うんだ。3台とも全然タイプが違っていることが多いので。この間アメリカで撮影をしたときは、メルセデスSLSとフェラーリ458、それにポルシェGT3 RSの3台だったんだけど、そのときには誰がどれに乗りたいか、じつにすんなり決まったね。それ以外のときは、ほんとうにすごい言い争いで、喧嘩になるときもある。
ジェレミーがリーダーなのですか。そうでなければ、誰の意見を通すか、どうやって決めるのでしょうか。
その質問をジェレミーにしたら、間違いなく答えはイエスだね。でも、それ以外のほとんどの人間にとっては、答えはノーだ。
ぼくら3人は本当に対等な関係で、それぞれ独自の考えを持ち、好きなだけ自分の意見を言える。ジェレミーは一番デカくて声も大きいけど、実は臆病なんだ。ぼくらの激しい話し合いの様子は、めちゃめちゃおもしろいよ。実際に見たら絶対楽しめるだろうね。
そういう対等な立場の3人だから、こんなに長い間番組がうまくいっているのだと思いますか。はっきりとしたリーダーはいなくて、誰もが意見を言えるということですよね。
それもやっぱり、こういうことだと思う――番組がなぜここまで長く続いて、うまくいっているのか、しっかり分析しようとしたことはないんだ。理由を見つけてしまうと、意識してそうしようとして、かえってうまくいかなくなってしまいそうな気がしてね。
ぼくたち3人は、ほんとうにばらばらなんだ。車に対する関心もね。3種類の車を見ると、たいてい誰がどれを運転すればいいか、もっともな理由が見つかる。ほかの議論をするときも同じで、それぞれ見方が違う。ぼくらは役者じゃないし、素のままの自分を出しているから、物事に対する見方もばらばらになるんだ。
そうやって個性が自然にかみ合ったり、時にはぶつかりあったりして、うまくいっているんだと思う。
ほかの人には真似できない魔法みたいですね。
魔法じゃないね。パブの飲み仲間と変わらないよ。ぼくたちはじつにラッキーだったんだ。
10年前、番組を始めた頃はほんとうに誰も見てくれていなかったけれど、ぼくたちはみんな正しいと信じてやってきた。できるかぎり、最高の自動車番組を作りたいと思ったんだ。その目標は、当時も今も変わっていない。ぼくら全員、中年になりかけの3人の男があれこれやって、それが世界中でウケることになるとは、全然思っていなかった。ただベストを尽くそうとしただけで、チームとして組織的に成長できたのは、ラッキーだったね。
ぼくらは仲間だから、言い争いも、嫉妬も、意地の張り合いも、喧嘩もする。愉快なときも、笑えるときもあれば、怒鳴りあうときもあるよ。それが必然さ。まさに仲間だからね。つまり、互いに憎みあったりもするけれど、一緒にいて楽しかったりもする。
10年前には、自分が世界中のスタジアムで自動車サッカーをすることになると予想していましたか。
全然、まったく考えもしなかったね。
10年前、ごく最初の頃にした会話をいくつか憶えているんだけど、それまで作られていた自動車番組や、続けられていた自動車ジャーナリズムを中心に話を進めていて、それを踏襲しようと考えていたように思う。スーパーカーも外国旅行もなしの、実用本位で正統派なものを作ろうと、ありとあらゆるアイデアを練っていたんだ。でもそのうち、待てよと思った。その路線じゃだめだろうと。なにが言いたいかというと、シニカルな態度で始めたわけじゃないということなんだ。あれをやってこれをやれば、世界中でウケて、最終的には世界中で自動車サッカーをすることになるだろう、みたいに、座りこんで分析していたわけじゃない。自然に浮かんできたんだ。こんなことを実現できた番組に関われたことは、ぼくらみんなにとってものすごくラッキーなことだね。
この先のぼくらのキャリアのなかでも、こんな体験は二度とできないと思う。 どんな理由であれ、世界中の視聴者に見てもらえることになって、前よりもずっと大きな舞台でやれる機会をもらえて、ほんとうにすごくラッキーだと思うね。
そのおかげで、独自のテレビ番組をいくつも持つ機会にも恵まれていますね。時間的に、どうやって全部をこなしているのですか。
ぼくは働き者だからね。ぼくらは3人とも、「トップ・ギア」以前から放送界での経験があった。ぼくは前にも車の番組をやっていて、放送界でのキャリアは23年になる。自動車番組は一番のお気に入りだけれど、関わっていたのは全部が車関係というわけではなくて、エンジニアリングについての番組もやったし、じつはガーデニング番組までやったんだけど、そっちはあまりうまくいかなかった。きっと、ひとつの番組がうまくいくと、足を伸ばして、ほかのものに挑戦する機会にも恵まれるんだろうね。
そう思うとやっぱり、ぼくはほんとうにラッキーなんだって考えさせられるね。ほんと、それがまさに重要な点だね。3人とも、ときには軽率だったり、怒鳴ったり、罵りあったりするし、ぼくらだけじゃなく番組の関係者もみんなそうだけど、こんなふうにうまくやっていけていることがラッキーだと、みんなちゃんと気づいている。嘘じゃなく、どんなふざけたことをやっているときでも、ふと立ち止まって顔を見合わせて、「仕事ができて、ラッキーだよな」と言い合わない日はないんだ。与えられた機会に、みんな感謝しているよ。
わたしたちのほうも、貴重な機会を与えてもらっています。世界中のどこにも、あなたたちのようなパワーのある番組はないですから。あなたたちのように率直に車の批評ができる人は、ほとんどいませんよね。自動車会社からもかなり重要視されていますが、それは意外ですか。
ひとつには、これがBBCの番組だということがあるね。商業的利益に関して基準がある局だから、自分たちの意見を発言できているんだ。そこはすばらしいと思う。
ぼくら3人を含め、番組関係者は、どのメーカーにも偏ることがないように、みんなすごく気をつけている。ぼくはポルシェに乗っているけれど、パナメーラはひどいと思う。それは自分でポルシェを買ったから、心底そう思っているから言えることなんだ。みんな自立性を保つよう、精一杯心がけている。やっている内容からすれば大げさすぎる表現かもしれないけれど、ジャーナリストにとって、それはとても重要なことなんだ。
確かに、ぼくらほどはっきりと率直に、公然と意見を言える番組というのは、ほんとうに珍しい。でもそれこそ、この番組の核心なんだ。だからこそすごくおもしろくなることもあるしね。
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