『鬼平外伝　老盗流転』

　時は宝暦、江戸。盗賊・桑飼の弥右衛門一味に属す、黒塚の駒吉と水鶏の松蔵という二人の男がいた。仲間の裏切りに遭い、命を狙われる身となった二人は逃亡の末、「これからは、道で行き会っても赤の他人だ」という言葉と共に別れた。
　
　そして時は流れ、35年後―。駒吉は徳 兵衛と名を変え、江戸・深川で年の離れた女房・おもんと小間物屋を切り盛りしていた。平穏な日々を送っていた徳兵衛はある日、松蔵と偶然の再会を果たす。３５年前の約束を案じ、身の上を隠しながらも、昔話に花を咲かせるが、そこで松蔵が妙な話を口にした。「井筒屋の主人の徳兵衛を知っているか。そいつの殺しを頼まれている」しらを切るも、詳しい話を聞けぬまま松 蔵と別れた徳兵衛は、底知れぬ不安と対峙する。自分の命を狙うのは、一体誰なのか。望まぬ再会が、二人の老盗の人生を流転させてゆく。