東日本大震災で被災した鉄路を見つめ続けてきた「甦れ!東北の鉄路」シリーズ。
 三陸鉄道に象徴されるように、鉄路はたとえ赤字のローカル線であってもその地域で暮らす人々の重要なインフラ(社会資本)であり、特に交通弱者である高齢者や高校生にとってはなくてはならない移動手段であることをこの番組で伝え続けてきた。
 更にJR山田線のように鉄路を廃止しBRT(バス高速輸送システム)に転換しようとしたJRに対し、岩手県や沿線自治体は拒否し続け、紆余曲折しながら至った結論はJRで復旧するが復旧後は三陸鉄道に譲渡するというものであった。
 県や沿線自治体の経済的負担は増えるが、住民の足を確保すること、そして何よりも鉄路が無くなれば交流人口が減少し、やがて町は衰退していく危機感があった。
 かつて三陸鉄道の社長だった望月氏は「鉄路が消えて栄えた町はない」と語っていたが、東日本大震災で鉄路が消えた町がある。
 大船渡線の陸前高田市と気仙沼線の南三陸町だ。
 この路線は大船渡市や気仙沼市にとっても仙台方面へ結ぶ重要な鉄路であった。
 震災から12年、被災した町は復興へと進んでいるが、鉄路が消えた町は、いま。
 去年、JR各社(東海を除く)は赤字ローカル線の収支を発表し、対象地域は「廃線ありきでは」と危機感を募らせている。特に甚大な自然災害で鉄路が流された地域は戦々恐々だ。
 しかし一方で、復旧を果たした鉄路がある。福島県の山岳を走る只見線だ。
 只見線は東日本大震災から4か月後、新潟福島の豪雨で鉄路は各所で寸断された。数年たっても流された橋梁は放置されたまま。
 福島県や沿線自治体はJRに対し早期復旧を迫ったが、大船渡気仙沼線と同様に多額の復旧費と赤字路線を理由にBRT(バス)への転換を地元に迫った。
 JRとの交渉が長期化する中、福島県は大きな決断を下した。復旧費は県が負担し、被災した区間は復旧後、上下分離方式にする。つまり線路から下は自治体が持ち、JRは列車の運行だけをするというものだった。
 ここまでして鉄路を守ろうとした福島県。その理由として奥会津は冬場、しばしば豪雪や路面凍結で通行不能となる。鉄路が消えれば陸の孤島になり、ますます過疎化がすすむ。
 住民の暮らしを守り、県外の観光客を受け入れるインフラを整備しないと奥会津の将来はないと判断した。つまり鉄路が消えれば町は衰退することを物語る。
 2022年10月1日、11年4か月ぶりに只見線が全線開通し、奥会津の山々に再び警笛がこだました。
 ローカル線は地域再生に生かせるのだと語るのは、えちごトキめき鉄道(新潟県)の鳥塚社長だ。いすみ鉄道(千葉県)の再建にかかわり、実践したのは県外から人を呼び込む列車を走らせることだった。
 えちごトキめき鉄道には富山や石川の3セク鉄道のように大きな観光都市がない。あるのは大自然、地元の人にとっては見慣れた風景だが、都会に住む人には魅力ある沿線風景だ。そこに観光列車が走り、懐かしいSLもある。当然、観光客を呼び込むことで飲食や宿泊、みやげ等で地元に金が落ちる。沿線の町と「トキ鉄」の距離感が近くなり、いまや鉄路がシンボルになっている。それは三陸鉄道も只見線も同様だ。
 ローカル鉄道は地域への愛着を育んでいる。
 効率や採算性を過度に追求するあまり、廃線の道を選ぶなら郷土愛がないがしろになっていくのでは…。東北の鉄路は、それを私たちに伝えている。