•  ノンフィクションライター・野地秩嘉(のじつねよし)。人物ルポルタージュを得意とし、著名人や料理人に関する本など様々な作品を発表してきた。彼が雑誌で新たに始めた連載のテーマは「まかない料理」。本メニューに比べて手早く安く作れる「まかない」のレシピを紹介し、キッチンの裏側の人間模様も伝えるという。
     野地は徹底した取材を行い、食べ物や食卓を通じて、時に料理人の心の奥底にあるものを引き出す。料理人という厳しい世界の中で生まれる父と子の絆、修行時代のほろ苦い思い出、師匠の弟子に対する想いなど、様々な人生が見えてくる。
     野地自身も食を大切にする家庭で育った。子供の頃家族と過ごした、取り戻すことのできない、ひとつひとつの食卓。そんな想い出を持つ彼は今、食を通じて人間の物語を描写し伝えている。
     ある日、野地が取材先の有名フレンチレストランに向かった。オーナーは日本のフレンチ界を代表するシェフ。そこでは、若手がオーナーシェフにまかない料理を作り、従業員みんなで食卓を囲む。そこに野地も参加した。まかないに妥協は許されず、若手にとっては挑戦の場。しかし、一旦まかない料理を前に食卓を始めるとみんなに笑顔が広がる。可愛い弟子だからこそ愛情を持って叱る、そして食べる時は互いに笑い、励まし合う。そこで野地が見たものは、家族の風景に似たものだった。
     彼が発見する「まかない」には、人と人の重なり合う想いがあふれていた。