•  横浜市白楽の六角橋商店街。小さな商店が立ち並ぶ一角に、昔ながらの銭湯・千代田湯がある。ここの主人は開発勝二さん、妻・富喜子さんと交代で番台に上がる。そもそも夫婦2人とも、生まれも育ちも風呂屋。幼い頃から家業を手伝って来た2人は、“風呂屋の役割”を今なお守り続けている。
     銭湯は人が集まるコミュニティの場所。一番湯には常連さんがシャッターの前で待ち、必ず終電で駆け込む人も。そうした人々が顔見知りになり、裸の付き合いになってゆく。昔に比べて銭湯が少なくなる中で、その文化が千代田湯では未だしっかりと残っていた。
     今では子供も家を離れ夫婦2人で暮らす日々だが、大切にしているのが朝食だ。営業が始まると入れ違いになる2人にとって、そこが一緒に過ごせる唯一の時間。料理好きで陽気な富喜子さんの手料理を、無口にほおばる勝二さん。ご飯を一粒も残さないのが美味しい証。言葉数は少ないが、2人からは長年連れ添ってきた昭和の温かさが感じられる。
     実は、千代田湯では2か月に1度、定休日を利用して寄席が開かれている。子供の頃よくラジオで落語を聞いていたという落語好きの勝二さん。二ツ目と呼ばれる若手落語家が人前で話す機会が少ないことを知り、人が集まる銭湯での「銭湯寄席」を提案したそうだ。会場はなんと脱衣所。さらに、寄席の後には富喜子さんの手料理が振る舞われる。
     会場作りから大勢の料理の支度は楽ではないが、地域の人に喜んで欲しいと、友人に助けられながら10年間続けてきた。さらに、食卓会には意外な人たちも加わるのだった。銭湯で行われる食卓会は、人情味あふれる、大切な地域のコミュニティの場となっていた。