•  徳島県三好市、大歩危(おおぼけ)・祖谷(いや)。
     ここに、日本三大秘境の一つと言われる場所がある。
     切り立った断崖絶壁に囲まれた渓谷、大歩危峡。
     奇岩や吊り橋など、美しい景観は古くから観光名所として親しまれてきたが、急斜面の畑では限られた作物しか栽培できず、暮らしていくには厳しい土地だ。
     現在、住民の過半数が65歳以上。ここ大歩危・祖谷は「限界集落」と呼ばれ過疎化が深刻な問題となっている。
     この危機を乗り越えようと毎日のように行われている不思議な食卓があった。
     通称『キッチン会議』。
     「食卓での雑談の中でこそ、良いアイデアが生まれる!」そう話すのは、40年前から自宅のキッチンを開放してきた山口さん(70)。
     多い時は12畳ほどのキッチンに30人以上が集まり、町おこしについて熱い議論をたたかわせている。
     地元に伝わる妖怪伝説をもとに妖怪めぐりコースを発案。
     無人駅となった大歩危駅には柴犬を助役に任命。
     駅舎も自分たちで費用を募り、2ヶ月をかけて模様替えした。
     キッチンから生まれた町おこしのアイデアは、次々と実現されてきた。
     5月下旬。お邪魔した『キッチン会議』では、新たなイベントの計画が話し合われていた。
     毎年観光シーズンに大歩危駅へやってくるトロッコ列車に合わせ、他所の地域からやって来る人々へ向けた、サプライズの食卓会を開催するというのだ。
     山深い秘境の里で、人と人とをつなぐ食卓会が始まる。