•  奈良市郊外の山里に“幻”の野菜があるという。
     「大和伝統野菜」。古来より奈良に伝わる野菜だ。特徴は、その個性的な形や名前、味だ。まるで野球のグローブのような形をした仏掌芋(ぶっしょういも)や、糸を引く様な強い粘り気を持ち、最高級の里芋と呼ばれるウーハン(鳥播)。むこだまし(婿だまし)というユニークな名前の粟の一種など。昭和30年代までこの地域で栽培されていた大和の伝統品種は、時代の流れとともに絶滅しようとしていた。

     大和野菜を復活させようと自ら研究し、栽培、レストランで提供しているご夫婦がいる。

     もともと医療・福祉関係の仕事をしていた彼らの人生を大きく変えた食卓があった。それは、新婚旅行で訪れたネイティブ・アメリカンの村で、村人と共に囲んだ食卓。村でとれたトウモロコシを、子供からお年寄りまで皆で一緒に食べる。それは、決して特別なことではなく、田舎で生まれ育った二人が子どもの頃に囲んだ食卓そのものだったという。
     「子どもの頃のような懐かしい地域づくりをしたい」
     帰国後、夫婦はそれまでの仕事を辞め、地元でも忘れられつつあった大和野菜の伝統品種の種をこつこつと集め始める。そして、3年をかけて手作業で山の斜面を開墾。大和野菜の種をまき、栽培し、増やしていった。さらに、収穫した大和野菜を味わってもらうためのレストランも開いた。
     二人の熱意に、周囲の農家の人々も賛同し、今では集落がひとつになって伝統野菜を育て、皆でこのレストランを支えている。
     「都会の人や、村の人、子供からお年寄りまでみんなが集まる食卓を目指したい。」
     二人のさらなる“夢”を追った。