•  瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)は、今、まさに実りの季節を迎えようとしている。
     湧水と豊かな大地に恵まれ、美味しい米や野菜が採れることで昔から有名なこの島は、最近、「アートの島」としても脚光を浴び、島外からの観光客も増えてきた。
     そんな豊島で、今、一軒のレストランが話題を呼んでいる。5年前、民家を改築して食堂としてオープンした「島キッチン」だ。オープン以来、島外からも人々が絶え間なく訪れ、いつも賑わっている。島のお母さんたちからなる8人のスタッフを率いる店長は、藤崎さん、35歳。豊島生まれ豊島育ちの藤崎さんは、岡山で働いていたが、5年前、10年ぶりに島に帰ってきて、この食堂の立ち上げに参加した。
     高齢化が進む豊島では、漁師や農業を引退してから家に引きこもってしまうお年寄りも多い。「島キッチンを、なんとかして島の人たちの交流の場にしたかった」という藤崎さんとスタッフたちが考えだしたアイデアが、「島のお誕生会」だった。毎月、その月のお誕生日の人を島キッチンに招待し、島民も観光客も、みんなでいっしょに祝いの食卓を囲む。
     2年前に開催して以来、参加者は徐々に増え、今では100人を超す人が集まる大きなイベントになった。一人でも多くの人に来てもらうために、藤崎さんは毎月、「お誕生会のお知らせ」を手書きで作り、島中を一軒一軒回り、手渡していく。今では、藤崎さんの訪れを楽しみに待つお年寄りも多い。
     10月18日。10月生まれの人たちの「島のお誕生会」の日がやってきた。島キッチンに続々と集まってくる人たち。藤崎さんとスタッフは、この日のために腕によりをかけてお誕生日のご馳走を作った。さて、どんな料理が出てくるのだろうか?この小さなレストランに込められた藤崎さんの強い思いと、島の人たちの絆が作り出した、夢の食卓がそこにあった。