•  北陸新幹線が開通し、今、注目を集める地、石川県の能登地方。ここには世界農業遺産としても認定された「能登の里山や里海」が今なお昔ながらの風景を残している。
     そんな能登に、“やまんば”と呼ばれ地元の人々から愛されるおばあちゃんがいる。
     谷口藤子さん御年83歳。能登の山を50年以上歩き続けている谷口さんは、山に生息する2000種類もの植物を知り尽くす里山の生き字引。2007年には第一回の日本特用林産振興会認定の全国山菜アドバイザー資格を取得。山菜採りの名人として、83歳になった今でも毎日山に出かけ、とれた山菜の調理法を研究し続けている。
     山菜は昔から保存食として重宝され、食べる物が少なかった昔の人々の生活を支えてきたが、いつしかその伝統は忘れられかけていた。
     「山菜には良い面がたくさんあることを、ここに暮らす地元の人に知って欲しい。」
     そう語る藤子さんの夢は、ふるさとの恵みを大切にして、それを次の世代に伝えていくこと。そんな藤子さんを慕って、藤子さんの山菜教室には多くの人が集まる。中には能登の豊かな食材を学ぶために東京から移住してきた若者もいる。皆一様に、食べられるとは知らなかった道端の植物が料理へ変わっていくさまに驚いていた。
     娘の章子さんも山菜アドバイザーの資格をとり、母のサポートをするようになったという。藤子さんの教えをより多くの人に伝えようという思いから、昨年には山菜を紹介する本も出版した。今では毎日のように、料理教室や山歩きなど藤子さんの活動に付きっきりだ。
    更に、勤め先の東京から能登に戻り、地元で結婚した孫に山菜料理を教えるのも最近の楽しみの一つだという藤子さん。孫は待望の男の子を授かったばかり。藤子さんにとってはひ孫となる赤ちゃんの誕生を祝う食卓会も開かれた。都会ではなかなか味わえない新鮮な山菜を、親子三代で調理する。藤子さんは立派に成長した孫に自分の知識を伝えられることが何よりも嬉しいという。母から娘へ、娘から孫へ。そしてひ孫へと。山菜を使った伝統食が、未来への思いを紡いでいる。
     そして、またある日のこと。藤子さんと章子さんはライフワークとして続けている、近くに住む若い親子たちを連れての山菜とりへ。自分たちの身近にある自然を学び、とれたての山菜を使ったピザ作りに親子で挑戦。道端に生えている植物が立派なごちそうに変身した。
     初めての経験を共にし、みんなで山菜を囲む食卓に、藤子さんの次世代への思いが詰まっていた。