•  献立はその日の畑次第。食卓にのぼるのは、どれも“我が家”で採れた食材ばかり。そんな昔ながらの農家の暮らしを味わえる場所がある。のどかな田園地帯の一本道を進み、畑に挟まれた緩やかなスロープを上ると、まるで昔話に登場しそうな立派な茅葺きの長屋門が出迎える。その先には築300年という、どっしりとした母屋を構える。見るからに歴史を感じさせる佇まいは、なんと江戸時代から14代続く農家、稲葉さん(60歳)のお宅だ。
     屋号を「じろえむ」という。
     現在はおよそ10ヘクタールの広大な敷地で米や野菜、果物を栽培し、1200羽の鶏を平飼いにする。鶏には畑の野菜クズを与え、また、フンを肥料として還元する循環農法が稲葉さんのこだわり。毎朝早くから畑や鶏と向き合う稲葉さんの日常に触れると、私たちの周りには命あるものが溢れているのだと改めて気づかされる。
     18年前、稲葉さんは農家レストランを始めた。完全予約制で、手塩にかけて育てた食材・山の恵みを、外から来た人にも味わってもらう。
     調理を担当するのは妻。手間と時間と愛情を惜しまず育てた野菜は、そのままでも十分美味しい。野菜嫌いだった子供が皮のまま茹でただけのニンジンをペロリと平らげ、芋から作ったコンニャクを「懐かしい」と食べてくれるのが嬉しいという。“和製カッテージチーズ”と呼ばれる珍しい一品や、かまどで炊いたツヤツヤのご飯など農家の伝統と知恵が詰まった料理が並ぶのも人気のひとつだ。
     「食べるとは感謝」。そう稲葉さんは常々語る。食材への感謝、作る人への感謝、生きることへの感謝…。じろえむの食卓は様々なものへの感謝に溢れていた。