•  日本で一番最後に電気が通った村がある。
     岩手県の早池峰山麓に位置する“タイマグラ”集落。戦後の食糧難の時代に出来た開拓地は、古くからアイヌ語で“タイマグラ”=“森の奥へと続く道”と呼ばれてきた。一時は10軒程の農家が住んでいたが、高度経済成長と共に人々は村を離れていった。最後まで村に暮らしたのが、自給自足で生活を続けた“タイマグラばあちゃん”である。
     やがて“タイマグラばあちゃん”を慕って“第二の入植”組が住みついた。婆ちゃんが亡くなった後も、彼女が残してくれた「生活の知恵」や「山の味」を受け継ぎながら、今 4世帯が暮らしている。初めてタイマグラに移住したのは、現在山小屋民宿を営む奥畑さん一家だ。その後、奥畑さんの弟夫妻、奥畑兄弟の両親、そして井上さん・・・。彼らの心には、今も婆ちゃんの教えがしっかりと刻まれている。それは、真冬日はマイナス15度を下回る、タイマグラの厳しい冬を乗り越える“生きる知恵”。
     11月初旬、朝の気温は零度を少し下回った。
     この日、タイマグラに暮らす4世帯が、充幸さんの山小屋に集まった。冬が訪れるとみんなで食卓を囲むのだ。薪ストーブの上でグツグツと煮るのは、婆ちゃんから教わったこの地方に伝わる鍋。凍らせたジャガイモの粉でつくる「凍みホドこっこ」と呼ばれる団子汁だ。温かい鍋をすすり、薪ストーブの火を囲みながら、優しかった婆ちゃんの思い出話に皆が目を細める。
     一人では生きられないタイマグラの冬に、どこよりも温かい食卓があった・・・。