•  奥羽山脈を望む山形県最上郡真室川町。面積の8割ほどが山林で、冬は雪に閉ざされる。この地域に、古い時代から伝わる野菜がある。「最上伝承野菜」。約30の野菜が栽培されているが、その多くが、それぞれの農家で先祖から種と育て方を受け継いできたものだという。その中に、一流の料理人も惚れるという里芋、「甚五右ヱ門芋」(じんごえもんいも)がある。普通の里芋に比べ、長く、独特の柔らかい粘り気があるのが特徴。先祖の名を取り、400年以上もの間、ひっそりと守り伝えられてきた。その里芋を受け継ぐのは佐藤春樹さん(32)。室町時代から続く農家の二十代目だ。
     他にも「最上伝承野菜」を代々守り伝えてきた農家の方々を取材。300年続く巨大な「畑なす」に、さやが30センチ以上にもなる「弥四郎ささぎ」というインゲン豆の一種…。遠い昔から家族の命をつないでくれた数々の野菜から見えてきたのは、「絶やすわけにはいかない」という農家の人たちの強い使命感だった。
     10月。町をあげてのイベントが開かれた。その名も、「芋祭」。「最上伝承野菜」を多くの人に知ってもらいたいと、町の皆さんが開いた手作りの食卓会。「甚五右ヱ門芋」を大鍋に入れ、集まってくれた人たちと“芋煮”を囲む。来場者は、県内外から約150人。「最上伝承野菜」を初めて見るという人も少なくない。先祖代々、大切にしてきた野菜での町おこし。“芋煮”をよそう手にも力が入る。
     まもなく冬が訪れる真室川町。この日、伝承野菜の食卓が、北国の山里を温めた。