第16回「宮之浦岳・冬」

 北緯30度、東経130度に位置する亜熱帯の島・屋久島。島の面積の約21%がユネスコの世界自然遺産に登録されているこの島には、名高い屋久杉を始めとする広大で豊かな自然を讃える一方、ほぼ全域が山岳地域となっており、海にそびえる急峻な岩稜の嶺々は、『洋上のアルプス』と言わしめるに相応しい。その主峰・宮之浦岳は、九州で最も高い山として登山者を惹き付けている。

 島内からは仰ぎ見る事の出来ない主峰・宮之浦岳は、永田岳・栗生岳と共に古来より屋久島山岳信仰の対象とされてきた。神住む山に登る事で、一年の無事と豊作を願い、祈り続けて来た。

 しかし、海から一気に迫り上がる山岳地形は、「ひと月に35日雨が降る」と言われる程の厳しい気候条件を生み出し、登山者を悩ませる。冬には、亜熱帯の島ながら山岳地域は雪に染まり、「白い屋久島」の様相を呈する。この山は、麓から山頂に至るまでの間に、四季を感じ取る事の出来る希有な場所なのである。

 雨に留まらない、目紛しく変わり続ける天候は、登山者を一喜一憂させる。だが、その厳しい気候に育まれた豊かな自然が、訪れる者の目を捉えて離さない。縄文杉を始めとする屋久杉の巨木、それらを育む苔の森。そしてその場所に生きる動物たち。深い霧の中、そんな生き物の営みに目を向けながら登り詰めると、そこには、奇跡の様な絶景が広がっていた。

 今回、そんな冬の宮之浦岳に誘ってくれるのは、登山ガイドの吉原哲士さん。10年前に屋久島に移住した吉原さんは福岡出身で、屋久島に来る以前は北海道に生活の拠点を置いていた。様々な山を巡る内に、惹き付けられる様に戻って来た思い出の地・屋久島。山と自然をこよなく愛する吉原さんと共に、冬の宮之浦岳の絶景を目指す。