第10回「剱岳・秋」

 越中富山に伝わる立山信仰。その布教のために作られた立山曼陀羅には、“地獄の針の山”が描かれている。それが剱岳だ。新田次郎著「剱岳点の記」は映画化され、その名を知る人も増えたが、この山を剱岳たらしめんとしているのはやはり曼荼羅にも描かれた峻厳な山の様相である。北アルプス北端に位置し、厳冬期には稜線上でも4〜5Mの積雪を見ることは珍しくなく、その雪は岩肌を削り、谷には融けることのない雪渓が横たわることから、剱岳は「岩と雪の殿堂」と称される。
 「点の記」の壮絶な近代登山初登頂を経て、剱岳は一年を通じ、稜に、岩壁に、谷筋に、多くの初登攀の記録が打ち立てられた。その陰でこの山の持つ厳しさに身を投じた登山者も少なくはない。番組は、一般ルートとなった現在でもクサリ場の続く別山尾根を登路に頂上を目指す。秋の風がそよぐ好天の中を展望を楽しみながらの登山。そしてさらに剱岳頂上から、熟達者のみに許される剱岳の北面ルートへも足を伸ばす。
 まさに“針の山”そのものの景観の中を進み、「点の記」の初登頂ルートとなった長大かつ急峻な長次郎雪渓に至り、剱岳登頂に注がれた往時の情熱に触れる。取材が行われた9月中旬は、剱岳にとってはすでに秋。普通ならば木々の紅葉などで知る季節の移ろいだが、ここ剱岳では切り裂かれた雪渓の悪絶さに秋を知る。
 この剱岳に鍛えられ、愛してきたのが、山麓に住み、立山・剱連山を熟知する立山ガイドである。古くは「点の記」の測量官を案内し、近代登山の興隆期には多くの歴史的なガイドが誕生した。その伝統を受け継ぐのが、今回のナビゲートとなる立山ガイドの佐伯岩男さん、北村俊之さん。ともに「剱岳は特別な山」と語る二人。それはやはり多くの仲間をこの山で失ったことを含む言葉であった。
 重厚な姿でそびえる剱岳。一般にはなかなか見ることの出来ない剱岳本来の厳しい絶景をとらえた今回の映像は必見。