第7回「九重山・夏」

 今回は、色鮮やかな花が咲き乱れる九重山の夏の風景をお届けする。

 大分県玖珠郡九重町から竹田市にかけて広がる九重山。九州本土最高峰となる中岳を擁するこの山群は、現在もその活動を続ける火山群である。1995年には硫黄山が噴火し、現在も入山禁止区域が設けられている。人々は、その脅威にさらされながらも、その地熱を利用した温泉や発電所など、その恩恵に与りながら山と共生してきた。
 九重は他の山に類を見ない程広大な草原を有し、それが魅力の一つとなっている。周囲を山で囲まれた坊がつるでは、年間を通じ200種類以上もの花が咲き乱れる。その草原美は、春に草原を焼き払う「野焼き」によって維持されている。人の手によって保たれ続ける自然の景観は、山と人の共生を感じさせる。
 九重に咲く花で一際耳目を集めるのが、初夏に山肌を赤く彩るミヤマキリシマである。火山活動などで生態系が攪乱(かくらん)された山肌に優先種として自生できるこの花は、九州の各地に見られるが、九重山のミヤマキリシマは、山肌をピンクで覆い尽くすほどに咲き乱れる。その美しさは、歌手・芹洋子が歌った「坊がつる讃歌」にも歌われ、広く知られることとなっている。今回はそんな花の絶景を求める旅に出る。
 今回は麓の飯田高原でロッジを営む、山岳ガイドの長尾武彦さんに初夏の九重を案内して頂く。自身も「九重に始まった」長尾さんの、30年に及ぶ山への思いが語られる。