プライムニュース 毎週月曜~金曜よる8:00~9:55(生放送)

テキストアーカイブ

2018年9月12日(水)
安倍首相×習主席会談 中露の接近に日本は?

ゲスト

宮家邦彦
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
興梠一郎
神田外語大学教授
小泉悠
未来工学研究所政策調査分析センター特別研究員

プーチン氏『年内に平和条約』 ロシアの思惑に日本の対応は
斉藤キャスター
「今日、ロシアのウラジオストクで行われた日中首脳会談をはじめ、一昨日行われた日露首脳会談、昨日行われた中露首脳会談を徹底分析します。接近する中国とロシアに日本とアメリカはどう対応すべきなのか、大国の思惑が渦巻く東アジアの現状と行方を専門家の皆さんと共に読み説きます。プーチン大統領の発言内容がこちらです。『ここで思いついたのだか、条件をつけずに年末までに平和条約を締結しよう。平和条約のあとに争点を解決しよう』と。これは小泉さんに聞きたいのですが、どうしてプーチン大統領はこのような思いつきと取れる発言をしたのでしょうか?」
小泉氏
「『思いついたのだが』と言っていますけれども、これは相当重要なことを言っているので『年末までに』という具体的な日程を区切って言っているので、こういうことを、たとえば、外交当局であるとか、安保会議でまったく諮らずにいきなり言い出すような人ではないのではないかと思うんです。もう1個は『年末までに平和条約を締結しましょう』と、すごくセンセーショナルな発言に聞こえるのですけれど、重要なのは『条件をつけずに』だと思うんですね。これは何かすごくオープンに見えるようでもあるのですけれども、ロシアの言う条件をつけない平和条約というのは、つまり、これまで日本側が方針としてきた四島の帰属を解決して、それから、平和条約を結んで、平和条約が結ばれたら、日ソ共同宣言の線に従って、歯舞・色丹は引き渡されるんですよねというものの流れの、その四島の帰属を解決してという部分を抜きにしてやりましょうという話をしているわけですよね。ですから、ここでプーチンさんが言っている平和条約というのは日本政府が言っている平和条約とは違うものであると思うんです。実際にプーチンさんは『平和条約のあとに争点を解決する』、つまり、帰属の問題はあとからよ、と言っているわけですから、この点からも明らかだと思いますし、実は昨日、プーチンさんは『領土問題がすぐに解決すると思ったらそれはナイーブだ』ということを言っているわけです。ですから、こういったその一連の発言を全部総合すれば、領土問題は後まわしにして平和条約と呼ばれるもの、これまで言っていた平和条約と違うものを結んで、とりあえず手打ちにしましょう、と言っているように聞こえるんですよね」
松山キャスター
「日本は現在のところ、これまでの公式コメントを繰り返すだけという反応をしているわけですけれども。これは今回のプーチン大統領のこの発言、これ自体は、プーチン大統領は意図的に今日を狙ってこういう発言をしたというふうに?」
宮家氏
「そう思います。基本的には平和条約と領土問題を切り離そうというのがロシアで、それを関連づけながら、というのが日本の考え方でしょうね。そうだとするとロシアは基本的に方針を変えていないと見るべきだと思います」
松山キャスター
「今日のプーチン大統領の発言のあとに記者に囲まれたロシア側の報道官などが『まだ安倍総理からの正式な今回の提案に対する回答を得ていない』ということを言っていて、ただ、『ロシアとしてはこのことも含め今後日本と協議をする準備ができている』ということまで言っている。となると、用意周到にやっているというふうに見た方がいいと思うのですけれども」
宮家氏
「思いつきとは思えないですね、はい、そうですよ」
松山キャスター
「では、日本として、その協議みたいなものが持ちかけられた時、どういう対応をしていくべきなのですか?」
宮家氏
「まず、これは別に新しい提案でも何でもない。これまで散々議論してきた中で、いろいろ繰り返される中で、また出してきたわけですから。それはこれまでの基本に戻るしかないですよ。ここで新しい状況で新しく動く必要は私はないと思うので、我々はこれまでやってきたことの積み重ね、これを重視していくしかないと思いますよ」

『北方領土問題』解決の行方
松山キャスター
「一昨日の日露首脳会談でどういう議論が交わされていたかというのを、もう一度ちょっと振り返っていきたいと思うのですけれど。共同経済活動と北方領土問題についてということで。共同経済活動では、海産物養殖など5項目について実現に向けたロードマップで合意したと。10月初め、日本が北方領土に官民調査団を派遣ということで合意したということです。北方領土問題については一昨日の時点でプーチン大統領、『双方が受け入れ可能な解決策を模索する用意がある』と。これ自体は従来の発言とそれほど、大きく外れていない、従来の方針に則ったような発言をしていたということですけれども。小泉さん、今回の北方領土での共同経済活動については一応、一昨日の会談ではこういうところまで合意がされていたというところなのですけれども、これは粛々とこの通り合意内容を履行していくということになるのですか?」
小泉氏
「ええ、今回、海産物とか、ゴミを減らすとか、あとイチゴをつくる、風力発電をする、そのへんの話が出てきたわけですね。これ自体はもうずっと前から言っている話であって、本当だったら8月に、日本から官民調査団が行って具体的な場所も決めてくるはずだったんです。それが海の状況が悪くて入れなかった。しかも、出発する前にロシア側から択捉は来なくていいみたいな、結構厳しいことを言われながら出発するはずだったというようなことですね。ただ、それでも、それさえ行けていれば、一応もうちょっと細かいことは詰めたうえで、やります、やりません、ぐらいのことまでを今回決められたのでしょうけれども、それがあったので、やることだけ確認して詳細は10月にあらめてビジネス調査団を送り込んでという。本当だったら夏までにできているはずだったことを、秋までにやりましょうねということを確認しただけで終わってしまっているんですよね。1番重要なのは、ウニでもイチゴでもいいのですけれども、そこで何か共同で経済活動をする時、合弁会社をつくりますと話をする時に、それは日本とロシアどっちの会社法でつくるのですか、あるいは、もしそこの従業員が何か問題を起こして警察に捕まった場合にそれはどういう刑法で裁かれるのですかという、法的な問題が一向に解決しないわけですよね」
松山キャスター
「特別な制度のもとでということを…」
小泉氏
「…と日本は言っているけども、ロシア側は意外と強硬。私もその特別な制度というのでいけるのかなと思っていたし、実際に日本から向こう行っているビザなし交流団もある種、特別な制度のもとで行っているわけです。だけど、ロシア側はこの点に関しては非常に強硬で、あくまでロシア側の法律でやるのだと。日本がこの前、成立させた北方領土特措法に関しても非常に強硬な反応を示しているわけですよね。ということを考えると、安倍さんは確か今回の会談に関して、北方領土の未来に関してはっきりしたビジョンを描くことができたということを言っているのですが、結局ビジョンが決まったのは何をつくりますかという話だけで、どうやるのですかという、入口論のところでまだ足踏みをしているように見えてしまうのですけれども」
宮家氏
「小泉さんがおっしゃった通り、この問題は主権の問題だから、最終的に。それは、ロシアはなかなか降りないわけですよ。これを見ると、5項目はいいですよ、『実現に向けたロードマップ』でしょう。ロードマップということは、ああして、こうして、こうして、ああしてと、こんな感じかなという程度のものですよね。だから、実現を…」
松山キャスター
「ある意味、まだ道のりがある…」
宮家氏
「実現をするための道のりを決め、それに合意しただけであって。詳細はどこに、何が決まっているのですかと言えば、それは決まっていない。だから、これは本当に苦肉の…と言ったら失礼、がんばった人達には申し訳ないけれど、こういう言葉でやっと合意できたということだと思うんですね。と言うことは、それ自体以外のことについてはなかなかまだ時間がかかるということでしょう」
松山キャスター
「プーチン大統領は実際に、この共同経済活動、日本としては共同経済活動などを行うことによって信頼を醸成して、その信頼が醸成された先には領土問題解決、平和条約締結という道筋が見えるということを建前でやっていると思うのですけれども。ロシアは本当にそういう道筋を信じてやっているというふうに見えますか?」
宮家氏
「さあ…、小泉さんがどう思われるかわからんけれども、私は、彼が信頼でこの仕事をしているとは思えないですね。国益を考えて、ロシアの国益を最大化するために、どのようにして相手の譲歩、日本側の譲歩を勝ちとるのか、ということを考えているはずだから。そうであれば、信頼をと言うだけでは、彼らは説得されないだろうと思いますよ」
松山キャスター
「小泉さん、このあたり、日本の中でロシアの対応には疑念というか、あると思うのですけれども。共同経済活動をいかにやったとしても、最終的に領土問題とは実はまったく関係ないのではないかという考えも一方にはあると思うんですけれども。そのあたりはどう見ていますか?」
小泉氏
「これについても、2016年にプーチンさんが来る時に、彼が何と言っているかと言うと『我々は、島は売りませんよ』と言っているわけです。つまり、経済援助をいくらしてもらっても、そのことが直では領土問題にリンクしませんよ、という姿勢は最初から示していて。日本政府としては、それはもうわかっているのだけれど、まずはやれることから始めましょうというものの第一歩がこれとロシアとの経済協力だったわけです。ただ、それは直で紐づいていないわけですから、こういうことをやって、その次に何か政治分野であるとか、安全保障分野であるとかの信頼醸成につなげて、機が熟したところで領土の帰属を解決してというふうに本当は進んでいかなければいけないと。だから、入口の前のドアマットみたいな感じですね、この共同経済活動というのは。ところが、なかなかドアマットで足を拭けずにいるという状況ですよね」
宮家氏
「先ほどはちょっと厳し目に言いましたけれど、要するに、ドアマットかもしれないのだけれども、最終的にプーチンさんが政治判断をするかどうか、こっち、おそらく日本側からすれば、それに賭けているわけですよね」
松山キャスター
「そうですね」
宮家氏
「それに対して、現在のところ彼らはまだ…自分が政治責任も含めて、それを賭けて、政治決断をする状況ではないですよ、という答えをしているんだと思います」

徹底検証…日中首脳会談 関係改善の背景と米国
斉藤キャスター
「今回の、日露・中露・日中の首脳会談が次々と開催されている、その舞台となったのが東方経済フォーラムということで。その東方経済フォーラムは各国首脳の外交の場にもなっています。まずは今日午前に行われた日中首脳会談について。会談のポイントはこちら。首脳間の相互往来を『加速させることで一致』し、『10月の安倍総理の中国訪問を実現するための最終調整を進めることでも一致』しました。北朝鮮の非核化に関してですが、『日中共通の目標として実現へ緊密連携を確認』。中国の経済圏構想・一帯一路を踏まえて、『第三国で日中協力を推進する方針で一致』しました」
松山キャスター
「安倍総理は『日中両国の協力の地平線は広がりつつある。日中関係は正常な軌道に乗った』と、今日の日中首脳会談の冒頭、このように発言しました。一方、習近平国家主席の方は『中日関係は正常な軌道に入り発展改善する重要な機会に恵まれている』と発言しています。まさに一時期、歴史認識問題などでギクシャクしていた時代に比べると、現在の日中関係は非常に良好に見えるということですけれども。一方で、中国はアメリカとの間で貿易摩擦、貿易戦争とまで言われていますけれども、そういった事情を抱えていて、アメリカとここまで対立しているという状況からすると、逆に日本はある程度、ちょっと近くに置いておいた方が得策なのではないかという意識が働いて、日本にアプローチしてきているのではないかという見方もありますけれども。そのあたり、興梠さん、どのように見ますか?」
興梠教授
「それはもう伝統的なやり方で。たとえば、アメリカと揉めるとヨーロッパと団結したり、日本と団結したり、世界を第一、第二、第三世界と分けて、アフリカだとか、そういったところで票を集めたり、これは伝統的に毛沢東時代からやってきたことになるので、教科書通りにやっているんですね。ただ、今回もそうですよね。つまり、アメリカと非常に現在まずい関係にあるので、他に投資先がほしいと。あと中国の製品を売るマーケットがほしいと。だから、アフリカもそうです。だから、アフリカの要人を呼んで大々的にやったり、ロシアもそうですよ。ロシアをその見返りに、中国に投資してほしいわけだから、これはお互いに困っている同士でくっつくのは当たり前で。だから、日本も中国にとっては、いわゆる統一戦線という戦略ですが、アメリカと揉めている時にはアメリカでない国々と団結して一緒に戦おうということ。ただ、日本は乗ってきていませんけれど、今回の会談の内容を見てもなかなか、ちょっとそれほど日本側が乗っているという感じではないです。だから、プーチンさんも同じですよ、今回。プーチンさんも非常に欧米から制裁されて経済的にも困っているし、困っている同士で一緒に集まってやろうと。だから、日中の会談のテキストを読みますと、いわゆるアメリカの保護主義に反対するとか、日中のヤツはそこまで言っていないですね。これは日本側に遠慮したのか、日本側はそれを嫌だと言っているのか。でも、中国とロシアの、いわゆるプーチン・習近平会談のテキストを読むと『反対』という言葉が入っているんですよ、ちょっと強いですよ。これはだから、演習も一緒にやるというのはそういうことで明らかにアメリカに対するメッセージ。ただ、その演習の話はあとであるかもしれませんが、ちょっと温度差がかなりあるんです。実は中国の方が結構引けているところがあって。でも、ロシアも結構アメリカとそれほど対立したいという面もなく、結構、政治ショーのようなところが今回の演習もあって。細かい武器、装備の問題とか、そういったミクロの問題を見ていくとそういうところがはっきりわかります」
松山キャスター
「宮家さん、今回の日中首脳会談で、日本も中国と一緒にやっていくという協調路線みたいなものがかなり前面に押し出されている感じがするのですけれども、これをどう見ますか?」
宮家氏
「もう興梠先生がおっしゃった通りだと思いますよ。アメリカとの…、要するに、過去6年間で、ふり返ってみると、私の読みですよ、安倍政権の2期目ができた時に中国が潰しにきたんですよ。日本を孤立させようとして全世界的なキャンペーンを張りました。それに対して日本も対抗して、がんばって、そのうちに、徐々に欧米における安倍政権の評価が上がってきて、むしろ孤立させようとした中国が孤立してしまった。それが数年前ですね。これは日本との関係改善をしないとまずいということになってきて、徐々に徐々に改善、関係の改善を始めたのだけれど。それは彼らもプライドがありますから、そんな簡単にはいかないので、いや、歓迎しますよ。しかし、本音は中国との関係、経済関係を見捨てないでね、と。彼らがおそらく読み間違いをした最大の失敗はアメリカのトランプ政権の出方を過小評価していたと思います。つまり、これまで彼らの頭というのは、アメリカは政権が新しくできたら皆、反中だと。だけど、そのうちに中国の経済力、それから、中国の人口、市場、これを考えたらアメリカは考え方を変えるんだと。こういう形で…」
松山キャスター
「無視できないと」
宮家氏
「はい。確かに貿易黒字があるかもしれない。それはいろいろなものを買って、減らしゃいいのだと。これがこれまでのやり方、日本もそうだったのですけど。おそらく今回のアメリカのやり方、これは単なる貿易戦争ではないと思っています。私は大国同士の戦略的な対立、もしくは競争、もしくは覇権争いと言っていいのかもしれない、…の始まりだと私は思っていて。それにしては中国のやり方があまりにも稚拙でケンカをもろに受けているわけですよ。だけど、これは中国としてもこれを受けて立たないわけにはいかない部分があって、メンツが潰れちゃいますから。だから、非常におそらく困っていると思います。ですから、ただ単にこれまで中国が日本と関係改善しなければいけないというのは、日本との関係もあったのかもしれないけれど、おっしゃる通り、アメリカとの関係を考えた時に、これで日本からも見捨てられるようなことになれば本当に中国に投資する国がなくなりますから。そうすると、マーケットからドンドン見放されていって、中国の経済にとって極めて大きな問題になるということを私は気がついていると思うんですね。だからこそ、こういう形の変化に出てきたのだろうなと思います」

米中&日米…貿易摩擦の行方 両国の思惑に日本の対応は
松山キャスター
「日中首脳会談では、米中貿易摩擦を念頭に置いて、保護貿易ではなく、自由貿易や開放的な経済が重要であるというやりとりも行われたと言われています。これはまさにその米中貿易摩擦を念頭にした発言だということですけれども」
斉藤キャスター
「興梠さん、この米中の貿易戦争、貿易摩擦、行方はどう見ていますか?」
興梠教授
「私は貿易摩擦という言葉を使わないですよ。そんな生ぬるいものではなくて。貿易摩擦と言うと、日米の…」
松山キャスター
「1980年代によくやっていた…」
興梠教授
「うん。どっちが多く勝ったらどうのこうの、トランプさんはそういうつもりではないから。中国は初期段階で、いつものように、大豆を買いましょうかとか、言ったわけですよね。そうではないのだと言って突っ返したわけですよ。それはもう大きな違い。それは昨年12月ですか、国家安全戦略のレポートが出て、アレを熟読すれば、これは本気でロシアと中国を脅威と感じているなと、名指ししました。プラス北朝鮮もそうですよ。北朝鮮も同時に締め上げると、中国とくっついちゃうので、そのへんは、トランプさんは頭をなでたり、殴ったりしながら金正恩氏を引きつけたりしているではないですか。あれは、要するに、中国というものを最大の脅威と限定したということですね。北朝鮮とか、日本とか、周辺の国というのが、中国からそれを引っ剥がしたいわけですよ。すると中国が孤立するではないですか。それをもう着々とやっていると。それはもう中国もわかっているから『封じ込めだ』という言葉も人民日報は使い始めたし、もう貿易摩擦という問題をはるかに通り越えて、これはソ連とか、日本に対してやった封じ込めなのだと、言葉を、公式に人民日報で、論評で出していますよね。やっと気がついたんですよ。昨年の12月の時は、先ほどおっしゃっていましたけれど、舐めていた。アレを本気に読んで、どういうことが書いてあるかと言うと、『中国やロシアというのはアメリカがつくった秩序を塗り替える修正主義勢力』。要するに、アメリカが戦後つくりあげてきた、いろいろな秩序に挑戦する。それであとは、この中に経済が、安全保障で入っちゃったということですね。中国をここでまた名指しをして『知的財産権を盗む』、…盗むですよ、『競合勢力からアメリカ経済を守る必要がある』。ですから、外交・情報・経済というものに関してちょっとモノを買ってくれて、赤字を減らしてくれたらOKよ、ではもうありません。これは中国という国を放っておけば、アメリカのテクノロジーを手に入れ、軍事大国・経済大国・外交大国になって、かつてのソ連以上、ソ連に経済のエンジンがついたような、とんでもないことになっちゃうと。それは本気で思っているんですね。ですから、それに中国はやっと最近気がつき始め、慌てて一生懸命いろいろやろうとしているのだけれど、たぶん気がついたのは、これはトランプさん1人の問題ではないと。前はトランプさんがいなくなったら、また元に戻るだろう、次の大統領は違うだろうと思っていたかもしれないけれど、それはアメリカのメディアを読んでいればわかるわけですよ。トランプ以上に厳しいですよ」
松山キャスター
「議会も厳しいですよね?」
興梠教授
「議会も厳しい。トランプさんがZTEという中国の企業に制裁を、ちょっと生ぬるい制裁をしようとしたら、議会が、それは生ぬるいと。あとは中国の定義がシャープパワーという定義になっちゃったんです。これは、つまり、これまで中国がソフトパワーを取り入れて、割と文明、いわゆる西欧文明の中に入ってくるのではないのかなと。ところが、それがシャープパワーになってきたということでジョセフ・ナイさんは言っているわけですよ。割と中国を好意的に見ていた人達、エンゲージメントで関与すれば、中国がWTO(世界貿易機関)に入れれば似てくるだろうと、我々と、いずれ柔らかく民主化していくのではないかと思ったのが、とんでもない。むしろパワーをつけ、旧ソ連を上まわるような力になりつつある。これは現在のうちに…、だから、一種の経済制裁ですよ」
松山キャスター
「ある意味、自由主義経済の弱点も突きながら、鋭くそういったところにえぐって入っていって…」
興梠教授
「そうです。これは我々の価値観が揺らいでしまうと、自由とか、民主とか、いわゆる市場経済とか、これは、実はヨーロッパも共有していて、中国は最初、EU(欧州連合)は一緒にトランプさんと戦ってくれるだろうと思っていたわけですよ。ところが、EUも非常に最近は中国の知的財産権の問題に厳しいし、一帯一路にも相当反発していますし、あとオーストラリア、ニュージーランド、こういった中国と非常に仲の良かった国々が、周辺の国…島々を、かなり中国に取り込まれちゃっているので、安全保障上、これは怖いと。また、ドイツとか、オーストラリアの、いわゆる政界の中にチャイナマネーが入ってきたり、欧米ではもうとっくの昔に、こういう議論が始まっていて、中国資本の投資制限をしようとか、これはEUでも始まりつつあります。その音頭をとっているのが実はドイツですよ。1番中国と仲が良かったはずのドイツが、お家芸を奪われちゃうと。これは日本になかなか伝わっていないのですが、頼みにしていたヨーロッパとか、そういった国々が実はそれほど中国の思うようにお金で動いてくれないという流れが、ここ最近、非常に強まっています」

露軍事演習『ボストーク2018』 ロシアの狙いと中国の思惑
斉藤キャスター
「ロシアは東方経済フォーラムと並行して、11日から17日まで7日間に渡って過去最大の軍事演習を実施しています。それが『ボストーク2018』というものです。演習は極東やシベリアなどで非常に広い範囲の地域で行われています。参加するロシア軍兵士はおよそ30万人、航空機が1000機以上、戦車など3万6000台、艦船は80隻です。さらに、今回は中国軍、モンゴル軍が、東シベリアのザバイカル地方の演習に初めて参加しています。中国軍の規模は、兵士が3200人、航空機が30機、車両は900台です。小泉さん、この東方経済フォーラムと並行して過去最大の軍事演習を実施するロシアの狙いは何でしょう?」
小泉氏
「このボストークという演習を2018年9月頃になるということ自体、実はずっと前から決まっていたんですね。これは定期演習ですので、これ自体は別に珍しくはない。それから、2018年の9月に、今年も東方経済フォーラムをやりますよね、ということは決まってはいたわけですね。ですから、ロシアにしてみれば、いやいや、偶然ですよということになるのだと思いますけれども、ぴったり同じ9月11日にスタートをすると。しかも、そこに習近平さんが初めて参加している時、軍の方では中国人民解放軍も初めて参加してきていて、となると、これはかなり政治的に日程を合わせてこういう舞台装置をつくっているんだと考えざるを得ないと思うんですね。特に東方経済フォーラムは、昨年は9月のもっと初旬の方にやったと思うんですよね。一方、この軍事演習の方はなかなかいつやるのだか発表がなく、いつからやるのかなと思ったら、ようやく11日から17日という発表があったということですから。政治的に一緒にやりましょうと、それによって中露の連携を世界的に見せつけましょうという意図があったことは間違いないと思うのですが、問題は、その見せつける相手は誰なのですかということだと思うんです。現在、興梠先生からお話があったように、アメリカが2018年1月の国家安全保障戦略の中で、国防戦略の中で、中国とロシアを長期的な大国間競争の相手であるというふうに位置づけ、いわば新たな封じ込めみたいなことを始めたわけですよね。ですから、それに対して中露は、いや、我々は連携していますよ、という姿勢を見せるのもそうなのでしょうし、もう一方においては今回、安倍首相がやって来て北方領土の話をするという中で、こういった中露の軍事的連携を見せつけてくるわけですよね。結構、ロシア側の新聞とか、論文を読んでいると、結局、日本がこれだけ現在熱心にロシアにすり寄ってくるのは、中国の台頭が怖いからなんだよね、という理解が結構見られるんですよね。そうすると、ロシア側の理屈からすれば、では、我々は中国への接近をアピールしてやれば、日本からいろいろなものを引き出せるのではないのというところまで簡単にロシア側の思考は進むわけですよね。ですので、大状況としてアメリカに対する牽制というのもあるかもしれませんけれど、ただ、舞台装置を考えると日本に見せようとしているという部分も結構大きいのかなと。ただ一点だけ、ロシア側が日本に配慮したのだろうなというのは、北方領土を含む、千島列島と北方領土…、千島列島と北方領土を日本側で分けていますけれども、ロシアは全部まとめてクリル諸島と言っているのですが、クリル諸島で今回は一切、軍事活動しませんと、向こう側の参謀総長がわざわざ言っているんですね。8月にこの演習のための準備演習、演習のための演習みたいなことをやっているのですけれども、その時にはロシア側の発表を見ると、この国後島が演習エリアに入りますということをはっきり言っていたんですね。地図にも国後島のラグーンノエという駐屯地の名前がはっきり書いてありました。それに先立って、以前この番組でもお話をしましたけれど、択捉島には戦闘機が配備されているということも…」
松山キャスター
「はい、航空写真が映っていましたね?」
小泉氏
「そうですね。ということを考えると、たぶんこの7月とか、夏ぐらい段階ではまだ千島列島も普通に軍事演習に含むつもりでいたのではないかと思うんですよ。だけど、そこであとから何らかの政治決断があって、さすがに安倍さんを呼んでいる時に北方領土でやると話が完全に壊れちゃう可能性があるから、ちょっと我慢しておけとか、そんな話があったのではないかと思います」
松山キャスター
「ロシアと中国はもともとそんなに仲がいい国という印象はなかったのですけれども、ここへ来て中国がその演習の中に入ると。もともとロシアにとってはその軍事演習の仮想敵国の1つだったのではなかったのかなという話もありますけれど。それがなぜ中国が今回から大々的に一緒に演習をやるということになったのですか?」
小泉氏
「まず確認しておかなければいけないのは、中露が合同軍事演習をやるのはこれが初めてではないということですね。2005年に上海協力機構の枠組みで初めて『平和使命』というのですか、中国語で、ロシア語で『ミールナヤ・ミッシア』と言っていますけれど、演習を行って。それから、定期的に海上、あるいは陸上で演習をやってきているんです。陸上で8回、海上で6回。あとミサイル防衛を想定したコンピューター演習を2回ですか、やってきていて。実は結構な頻度でやっているんですよ、演習。ただ、ボストークという演習の中に中国軍が入ってきたことはなくて。なぜかと言うと、ボストークという演習は対中国戦争と対日米戦争を想定した演習ですね。ですから、ボストークに限って言えば、これまでは中国はまだまだ敵であって、前回の『ボストーク2014』でも、おそらく中国を想定しているのでしょうと思われる軍事訓練が行われているわけですよ。たぶん今回は、『ボストーク2018』でも、全体として見ると、軍人さんがつくったプランの中では中国は敵扱いになっていると思います。ただ、そこに人民解放軍を入れてくるということは政治的にはもう敵ではないですよと、むしろ友軍ですよということをアピールすることになるわけですから、軍事的な細かい実態は別としても中露関係の大きな転機ですよということを見せる非常に格好の場であるわけですよね。そこに習近平さんがウラジオに入ってきて、一方で、そのちょっと奧の方では中露両軍が合同で訓練をしていて、というのをなぜこのタイミングで見せたかったのかはわかりませんが。たとえば、先ほどのアメリカが中国を敵視し始めたみたいなお話なのかもしれないし、日本との関係が動きそうな、転機であるからなのかもしれませんけれども。何らかの理由で、この段階で中露関係をプレイアップする必要性を政治の側が認めたということなのだろうと思うんですね」
松山キャスター
「興梠さんはこのあたり中国の側から見るとロシアの方は、中露の接近を敢えて対日米ということも含めて、共闘したいという意図があるようですけれど、中国がこの段階でこの軍事演習に共に入っていく、中国にとってもメリットがあるということですか?」
興梠教授
「これはロシアでも報道されていると思いますし、いくつか読みました、中国でも報道されている…。公式にはロシア側から招待されたとは言っていませんが、公式には。しかし、中国のいろいろな報道を見ると、招待されたと書いてある。と言うことは、中国にとっては行かないオプションもあったわけでしょうね。これはアメリカを刺激するし、日本も刺激する。そこがどこに表れているかと言うと、中国の、いわゆる公式の報道では『第三者に向けたものではない』ということをしつこく言うんです、公式に。つまり、日本とか、アメリカがこれを気にするのを嫌がっているということ、つまり、気を遣っているんですよ。先ほどおっしゃったけれども、北方領土に関係したところではやらないというのは、ロシアも気を遣っているし、一種の政治ショーですよね。制限された範囲内でちょっとプレッシャーをかけようと。だけど、本当にこれが真剣に捉えられて、アメリカとか、日本が、なおさら警戒するようになると嫌だと。そこにちょっと後ずさりしながら進もうとしているというか。それはプーチンさんと習近平さんの現在の立場をはっきりと物語っていて。いかなる国際的なステージであっても使いたいと。そこで中国とロシアがしっかりと連携してアメリカに負けないという、お互いに困っている同士ですから、そういう姿勢を見せようではないかと。もう1つは、技術的な問題で中国は、シリアでロシアは結構うまくやっていると。大がかりな攻撃、巡航ミサイルとかを使わずに、市街戦とか、あとは政治的ないろいろな戦略で、それなりに抑え込んだのではないかと。中国はそれにすごく関心を持っていて。ですから、中国軍はずっと戦争を、対ベトナム戦争以降やっておりませんので、習近平自身も、戦える軍隊になれ、とハッパをかけているぐらいだから。ちょうど軍の改革もやったあとですし、ちょっと実戦をどうやってやるかを学んでこいということです。ロシア側は今回、中国でいくつか出まわっている報道によると中国の車両、中国の装備ですね、装備がロシア側のメディアに出ているんですよ。ロシアに入ってきたヤツを、ロシアのスプートニクですか、あそこが撮った写真、中国側は自分で撮った写真がなく、ロシアのこういった中国語版の報道を利用して報道しているんです。これを見た人達が、この装備を見て、だいたいどこから行っているかわかると。これは北部戦区の、北部戦区の第78集団軍ではないかと。そこの某旅団であると。某旅団、それ以上、書いてしまうとまずいですから、軍事機密ですから。でも、それでこの戦車の車両とかを見て、この後のヤツというのは確か86式歩兵戦闘車というヤツですね。もう1つの戦車が写っているヤツがあって、これは確か99A式だったと思うのですけれど、中国語では99第2期というヤツで…」
松山キャスター
「列をつくって、戦車が…」
興梠教授
「これを見てわかるらしいです、軍事に詳しい人は。ここで面白いのは…」
松山キャスター
「だって軍事情報がロシアにダダ洩れになっちゃうのではないですか?」
興梠教授
「そういうことですね。86式をちょっと出してもらえますか、この86式を見て、ちょっとこういったものに詳しい人は、これは古いと言っているんです。こんなちゃちな装備を持っていってどうするのだ、現在はもう04A式なのだと。もっとハイテク化された、電子化されたヤツがあるのだと…」
松山キャスター
「では、敢えて旧式のものを…」
興梠教授
「そこにはっきりと書いてあるんですよ。これはロシア最先端を持っていくとやばいからと」
興梠教授
「だから、同床異夢というか、連携しているように見えて、中露なんですよ」
斉藤キャスター
「温度差がある…」
興梠教授
「中露というのは常に相手を使える時だけ連携するんです。構造的にはロシアも中国も歴史的経験からアメリカを怖がっていないですよ。アメリカは絶対に攻め込んでこないと思っている。だから、今回の中国と演習をやる場所、あれを見て中国人は、これはネット上でも結構騒いでいまして、消されていないですよ。そうしたら…」
松山キャスター
「地図まで示されちゃっている、ネット上に…」
興梠教授
「それは出ています。あっ、これはまた攻め込んでいくのだなと。かつて国境紛争をやったではないですか、ロシアと、あっ、ソ連と。だから、今度はこっちが攻め込んでいくのだなと。そういう醒めた目で結構、中国人は見ていて。もしかしたらロシア人も同じかもしれない。短期的なアメリカとかからのプレッシャーを受けた時…、短期的に戦略的につながるんですよ。しかし、腹の底から信頼している関係ではないですね」
宮家氏
「ご指摘がありましたけれども、中露は決して戦略的な同盟国家同士ではないということです。これは敵の敵は味方、敵の敵は友達ではあるけれど、もっとぶっちゃけて言えば、中国がロシアを守るためにアメリカと戦いますか、戦うはずがないです。また、逆も然りです。と言うことは、彼らは同盟という言葉を敢えて使えば弱者同盟、もしくは同盟という言葉を使うべきでないと思うから、戦術的には連携関係にあっても、戦略的な利益を共有する同盟国にはなり得ないと思っています。しかし、ここでやらなければいけないことはもちろん、アメリカ、敵の敵は味方なわけですから、その意味で、アメリカに対してメッセージを送らなければいけない。ですから、軍事的にどの程度詰められたことか、私はまだ調べられていないからわからないけれども、いずれにせよ、本当の軍事演習であれば、本当はちゃんとオペレーションプランがあって、どういうふうな形で敵がどう来るかというのがくるはずだけれども、おそらくそれではない、おそらく政治的なデモンストレーションの要素が大きいというのはおっしゃる通りだと思います。最後に言わせてもらうと、ロシアと中国が本当に戦術的に何か協力をしなければいけないとすれば、おそらく中央アジアのイスラムの過激派の動きとか、もしくはシリアでもありましたけれども、おっしゃる通り、市街戦での戦い方は、中国は勉強しなければいけない可能性が、必要があるので。そういったところで、もし何か新しいことをやっているのであればボストークにも意味があるのかもしれない。そうでなければ基本的に政治的なデモンストレーションだと思います」

小泉悠 未来工学研究所政策調査分析センター特別研究員の提言:『過不足ない中露関係観』
小泉氏
「『過不足ない中露関係観』とさせてもらいました。先ほどの話とつながるのですけれども、一方で、中露の関係は実はすごく悪く、いずれ離間してくれるんだという期待論がある一方で、今回の演習に見られるように、ついに中露同盟になったのではないか、みたいな極端な過大評価もあるわけですね。でも、実際はその間の非常にこんがらがった複雑なものであって。では、それは一言で言うと、中露関係とは何なのだ、と言われるとなかなかうまく言えないのだけれど、うまく言えないことに耐えて、過不足ない中露関係観を持つというのが、我々の戦略を練る時は第一歩なのだろうというふうに思います」

興梠一郎 神田外語大学教授の提言:『独裁と民主』
興梠教授
「ちょっと抽象的な話になりますが。現在起きていることを新しい冷戦だって言う人達もいるぐらいで、米中の。ロシアと中国が戦略的につくっていくことになるので、東と西という構図になりますよね。日本の場合は、常に目先のどっちが、こっちに、いわゆるすり寄ってきたとか、これだと目先のビジネス面で利益があるとか、目先の利益ではなく、日本という国家がどういったものを基盤に成り立っているのかということを常に考えないといけなくて。民主主義とか、自由とか、言論の自由、こういった根本的な部分の価値というのは我々の生活の基盤ですから、市場経済も。それと合わないシステムの国とは、根本的に和解するのは難しいですよ。だから、これはアジア版のベルリンの壁だと思っているんですよ、38度線の向こう側は、氷のようなアレが残っているわけです。中国は経済的には緩和されたように見えますが、節目、節目で政治的な体質が出てくるでしょう。だから、これは相当時間がかかると。でも、日本の立ち位置というのを、惑わされずに、戦後つくりあげてきた民主主義国家、これを続けていくと。誰と関係を強くしていくのかというのも、それによって考えていけばいい話だと思います」

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の提言:『対象を絞り 正しい同盟国を選ぶ!』
宮家氏
「簡単です。戦略論というのは簡単で、敵が複数あったら1つに絞る。『対象を』と書いたけれども、敵を1つに絞る、正しい同盟国を選ぶ、これに尽きます」