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2018年8月20日(月)
習政権にほころびか? 米中貿易戦争の深刻度

ゲスト

津上俊哉
日本国際問題研究所客員研究員 津上工作室代表
興梠一郎
神田外語大学教授
小原凡司
笹川平和財団上席研究員

中国で広がる『習近平批判』 一強体制に隠された実像は
竹内キャスター
「中国の現状を徹底分析します。7月頃から中国のインターネット上では習近平国家主席の写真に墨をかけたり、落書きする写真が次々に投稿されています。国家主席の任期を自ら撤廃し、政権基盤をしっかり固めたと思われてきた習近平政権ですが、国民の間に現在どんな不満が広がっているのか。中国の政治・経済・軍事分析の専門家を迎えて、日本からは見えにくい中国の内情を多角的に検証していきたいと思います。中国国内では習近平国家主席に対する様々な批判の動きが表面化してきています。主なものを見ていきますと、7月4日、上海の街頭で20代の女性が『習近平の専制と暴政に反対する』と叫びながら、習主席の写真に墨汁をかけるツイッター動画が拡散されました。ネット上で同様の抗議映像が次々に投稿されています。7月24日には、北京にある習主席の母校・清華大学の教授が国家主席の任期撤廃について『毛沢東時代に戻るような滑稽な個人崇拝、知能レベルの低いことが行われた』と批判文を発表しました。さらに、今月1日には政府の外交政策を批判した元大学教授がアメリカのラジオ局の取材中に治安当局に連行され、その模様が世界で報じられました。問題視された批判は『国民は貧しい。バラマキ外交をやめよ』という習近平政権の一帯一路構想を批判した内容となっていました」
松山キャスター
「通常、中国の中では政権批判をする時に、昔からツイッターに勝手に書き込んだりとか、掲示板にも批判を入れたりということがありましたけれども。今回、たとえば、墨汁で習近平主席の顔に墨を塗ったりする映像は実際に女性が顔を完全に晒す形で流れていると。これは従来の中国だったらあっと言う間に弾圧されて、すごく厳しい処分を受けるのではないかなと思うのですけれども。こういうことがだんだんできているようになっているという、この背景というのは、どういうことなのですか?」
興梠教授
「まず、この真ん中の教授の場合はまだちょっと結果がわかっていないですね。ただ、最初の女性、董さんという女性ですけれども、病院に入れられたと言われているんですね、彼女は。それも精神病院に入れられたのではないかと言われている。確かそこは、確認はできていないですが、ボイス・オブ・アメリカは取材した結果そう言っています。ですから、それだけの代価を支払ったと。それから、最後の孫元教授の場合も、一時拘束され、釈放はされましたが、監視されている状態なので。捕まる、ラジオに出る前にもう論文、評論を出しているわけですね、ネット上に。ですから、これも完全に許されているわけではない。真ん中の許教授の場合はある程度、弾圧の対象になっている天則研究所という研究所のサイトに載せたと言われていて、清華大というのは習近平氏の卒業した学校ですから、そこがちょっと現在、嵐が吹き荒れていて。胡鞍鋼さんというかなり体制側に近い人も、卒業生から辞めさせろという署名が学校側に提出されていたり、ちょうどこの習近平氏に対する不満がこういった胡鞍鋼さんに逆に攻撃…向いているということもあるのですが、一方で、こういった現在、大学の中もちょっと嵐が吹き始めているので、政府は既に知識人対象の愛国教育をもう1回強化しなければいけないような、そういう指示も出ていると聞いています。これから反撃というか、ある程度押さえ込みに入ると思うので。これを野放しにするということはあり得ないのではないかと思います」
松山キャスター
「津上さん、こういった中国国内での動きをどう受け止めていますか?」
津上氏
「この1年、2年、習近平さんの、上り竜という、こういう感じがすごく強く印象づけられてきたと思うのですけれども。流れ、潮目が変わったなという感じはするんですね。これは別に習近平さん個人の権力・権勢がどうこうというだけではなく、中国全体について、いろいろなところで潮目が変わりつつあるという感じがします。経済についても、実は結構問題が大きくなっていて。米中貿易摩擦というのもあるのですけど、それ以外に成長率をかさ上げするために、とにかくそれが目的で、公共投資をたくさんやるみたいな、だけど、そんな公共投資をやっても経済開発効果なんかないでしょう、みたいな。そんな投資が止まらないです。なぜそんなことやるのだと言うと、いや、だって成長率のノルマがありますからということになっているのだけれども。こんなことをやっていたら、もう国の全体のバランスシートがダメになっちゃうのではないかという、その危機感、これでちょっと過去1年については、むしろ景気がある程度悪くなるけれども、仕方がないと、ブレーキを踏もうというそういう経済運営だったんです。それについては、経済のわかる人達はある程度しょうがないなという認識はあったのだけれども、でも、米中貿易摩擦がその上に重なってくるというのは、これは全然、想定外だったんですね。やってくるぞとは思ったけれども、交渉で避けられると思っていたら本当に始まっちゃった。政府も想定外で打つ手がなくて困っているぜという雰囲気が、民間経済界でも伝染して…」
松山キャスター
「民間経済の人は、米中貿易摩擦がこうやってエスカレートしているということを逐一ちゃんと理解して、把握されている、情報を得られている状況ですか?」
津上氏
「うーん、今年に入ってから、アメリカの様子がおかしいぞというのがバーッと広がったと思います。だから、逆に言うと、昨年までも相当悪化していたところについては、皆、能天気で、大丈夫なのかという感じだったのですけれども。今年に入ってから、アメリカの対中感情はすごく悪化しているというのは、急速に皆が、らしいねというふうに情報をシェアしたところです。そうしたら、そこへ、とうとう貿易戦争みたいなことになってきて。そうなると、経済も何か想定外で困っちゃっているし、外交は何か不手際でこんなことになっちゃったのではないのかみたいな形で皆、しばらく習近平さんに対してちょっと権勢が強いと言うから、こうやって頭を下げていたのだけど、あんた、ちょっとやり方がおかしいのではないのというふうな、そこは中国の人達は結構勇敢ですね。日本人よりも何か言う時は言うみたいな…」
松山キャスター
「言う時は言う、下から突き上げると」
津上氏
「そういうふうな、様子を見ていると、ちょっとバイオリズムのこの変わり目がきているなという感じがしますね」
竹内キャスター
「もう1つ中国国内で気になる動きが6月下旬にありました。中国東部、上海に近い江蘇省鎮江市で起きた退役軍人によるデモの様子です。参加者は数千人規模に膨れあがり、警官隊によって武力鎮圧をされた模様ですが、中国国内ではほとんど報道はされていません。小原さん、中国で、他の地域でも退役軍人のデモがこのところ頻発しているということなのですが…」
小原氏
「はい」
竹内キャスター
「この怒りの矛先はどこに向けられているのでしょう?」
小原氏
「退役軍人のデモが1番最初に問題になったのは2016年10月ですが、その時に退役軍人達が2016年の最後の方に北京の八一大楼という中国軍事委員会の事務室なども入っている象徴的な巨大な建物なのですが、この前でデモを行ったことが話題になりました。これは町の真ん中ですから皆の目にも触れたということですけれども。そのあと2017年に入ってもう一度、また各地で起こっていたデモが北京にまたきたんですね。この時は中央規律検査委員会の建物の前でデモをしました。このデモの意味が単に自分達の待遇を改善しろというだけではなくて、その対応が悪いのは官僚達が腐敗しているからだという意識もあるということだと思うんですね。こういったことに危機感を覚えた習近平政権というのは、昨年の19回党大会、10月に行われましたけれども、この時に最初、初日に、習近平主席が行った報告、13項目あるのですが、この10番目が軍事に関するところで、この中で関心のある4つの項目を挙げたんです。これの1つ目は退役軍人の管理と補償で、2つ目が軍属の待遇改善にあたるもの、補償というものですけれども、3つ目が軍人を社会から尊敬される職業にすること、4つ目が人民武装警察、武警と言われる組織の改革です。4つ目は4つ目でまた非常に大きな意味があるのですけれど、最初にこの退役軍人のこのデモを何とかしろと言ったのは意味がありまして。中国では社会にある不満というのが横に広がるのをとても怖がるんですね。1つ1つの不満というのはそこにあって、個々に抑え込まれる間は何万件起ころうが大丈夫と。現在でも年間15万件の群体性事件という暴動に近いような事件というのが起こっているというふうに、これは国家統計局自身が言っていますけれど」
松山キャスター
「個別の小さいデモに抑えておきたいということですね?」
小原氏
「はい。ただ、退役軍人というのは現役でいた頃からのネットワークというのが退役したあとも生きているんですね。どこの国でも軍人というのはネットワークを持っていまして。ですから、退役軍人のデモというのがあっという間に横に広がるという非常に強い恐怖感があります。4月に退役軍人事務部という、部というのは日本で言う省ですから、省庁に相当の組織をつくりました。にもかかわらず、6月にこういった事件が起こっているということは政権が退役軍人の保障なり何なりというものを改善しようとしても、うまくいっていないのだということです。しかも、昨年の党大会の時に言った言葉の順番が問題で、管理と補償と言っていて管理が先に来ている、コントロールしろと、抑えつけよと。先にそれがきて、それから同時に補償もしていくということなので、この体制は退役軍人の中では不満は残っていますし、実際に中央が指示をしても、地方というのはなかなか動かないということも非常に根深い問題として残っていると思います」

米国の『重圧』にあえぐ巨龍 中国・習近平体制の実相分析
竹内キャスター
「習近平氏が中国のトップに立ってから現在までの経緯を振り返って見ていきます。2012年11月の中国共産党大会で党内の最高職である中央委員会総書記と軍を統帥する中央軍事委員会主席に就任し、翌年3月の全国人民代表大会、全人代で政府のトップである国家主席に就任しました。2016年に開かれた共産党の全体会議、6中全会では歴代指導者のうち、毛沢東、鄧小平、江沢民の3人に使われていた『党中央の核心』という表現を明記。翌年の党規約にこれまで毛沢東、鄧小平だけだった自らの名前をつけた思想が盛り込まれました。『習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想』というフレーズです。これは国際会議等でも用いられています。今年3月の全人代では憲法改正によって従来2期10年までだった国家主席の任期を撤廃しました。これで、1強体制を固めたと見られていました。毛沢東、鄧小平に続く指導者を目指して1強体制を築いてきたように見えるのですが、興梠さん、この実情をどのように分析していますか?」
興梠教授
「これは何をやってきたかと言うと、1番大事なのは、その任期で、国家主席の任期も撤廃しましたが、同時に国家副主席の任期も撤廃したんですよ。王岐山さんという一緒に腐敗退治をやって、政敵を二大派閥、江沢民の派閥、胡錦涛の派閥を潰してきた、最大の功労者、王岐山さんという人。この人はもう政治局常務委員という党中央のトップの組織に入っていないのですが、特例で副主席になったと。従来、この副主席というのは後継者がなるんですよね。ですから、次の2022年に後継者になって習近平さんと交代する総書記が本当はこの時期に副主席になっていなければいけないです。王岐山さんは年齢も習近平さんよりずっと上ですし、どう見ても後継者ではないですから、李克強さんは首相ですので、その任期は撤廃していないです。だから、これは10年で終わっちゃうんです。つまり、任期を撤廃した結果、国家主席の習近平さんと王岐山だけが残る形になっちゃう。これは完全に派閥を潰しているなという、共産主義青年団、李克強さん…」
松山キャスター
「習近平さんが国家主席になる前、総書記とか、中国軍事委員会の主席という肩書がありましたけれど…」
興梠教授
「はい」
松山キャスター
「こちらの方は、任期はどうなっているのですか?」
興梠教授
「ないです」
松山キャスター
「ここも任期は撤廃されている…」
興梠教授
「これはないです。ないのですけれど、党内の紳士協定で鄧小平さんが、権力闘争になってお互いに党が分裂するようなことはよくないから、一代先の人間を後継者で決めておけと。ですから、次の5年、2期目の5年は副主席のところにそれがなるわけですよ。…それは、習近平さんも副主席でやったし、胡錦涛さんもやったわけです。ところが今回、習近平さんは後継者らしき人をそこに置いていないから、そうすると、一応、党のトップである総書記と軍のトップである主席です、これは、任期は書かれておりませんが、一応10年で辞めるということ。江沢民さんは軍のトップを2年ぐらい延ばしちゃったけど。一応なんとなく、そういう集団指導体制というか、権力の移行を平和にやろうというのがあったんですよ。ところが、今回の主席、副主席、李克強さんの任期は10年、この主席、副主席の任期はなくなったというのを見ると、どう見てもこれはルールを壊した。だから、これからは何でもあり」

政治・経済・軍事から読む 中国共産党政治は『今』
松山キャスター
「津上さん、現在、米中経済摩擦によって、だんだん中国国内の力学にちょっと変化が出始めているという話がありましたけれど、こういった布陣にもそういう影響は今後出てくると思われますか?」
津上氏
「このチャイナ7と言われるような、指導者の中の個人と個人の権力のせめぎ合いみたいなものよりも、むしろ私は党中央、習近平さんの本当にお膝元の腹心の部下達と、国務院というのは李克強さんの配下なわけですけれど、随分毛色が違う感じですね。経済政策に関していうと、国務院の方が守旧的です」
松山キャスター
「あぁ、なるほど」
津上氏
「国務院の方が公共投資をもっとドンドン、ボンボンやろう、という感じで。習近平さんのスタッフの人達の方は、そんなことやっていると長期的には中国の経済が活力を失うからダメだと、むしろ改革をもっと進めて経済の効率を上げてかなければいけない、みたいなちょっとアベノミクスに似ているのですが、そんな意見の食い違いというのは、この中南海の中に南側と北側というのがあって、南側に党中央ですか、北側に国務院と、こうあるのですが、南院と北院というような言い方をして、そこの間に随分と何か毛色の違う意見があるんです。現在もまさに公共投資をもっとドンドンやるべきなのかどうなのかということについて、また新しい動きが起きていて。米中貿易摩擦で経済がこうやって下向きになっているぞということで、また、公共投資のアクセルを踏もうとか、財政出動しよう、金融緩和しなければいけないというふうな動きが、国務院の側から起きているんです。そういうふうな動きの上に乗っかっているのは総理の李克強さんで。なんとなく李克強さん、最近また元気になってきたように見えるのだけれど、これは李克強個人がどうこうということはなくて、むしろそういうふうな組織対組織、それがどういうふうな利権だとか、後ろの勢力だとかを背負っているかということによるのですけれども。おそらく国務院の後ろには、公共投資をやらせてもらえなければもう経済成長なんかできないよと言う地方政府がいっぱいいるんですよね。あんたらにがんばってもらって、もうちょっと公共投資の予算を増やしてくれみたいな、そういうふうなことを言われて、国務院は何かアレしているのでしょうけれど。劉鶴さんというのは、どっちかと言うと、それに真っ向から対立する改革派ですね。対米交渉もちょっとうまくいっていないしみたいなことで、劉鶴さんの失政を、ミスを追及するという声も上がっているのですが。それはきっと、心は対米交渉がうまくいってないということではなく、公共投資に冷たい劉鶴さんをここで勢力を削いでやろうみたいな…、腹があってやっているのかなと」
松山キャスター
「公共投資に積極的な人は現在のメンバーの中にいるのですか?」
津上氏
「うーん、だから、1番それがはっきりしているのが、李克強さんなのだけれども。もともとはリコノミクスなんて言って…」
松山キャスター
「言っていましたね」
津上氏
「改革思考の人だという印象があったのですけれども、最近はどちらかと言うと充て職ではないですけれど、守旧派の強い国務院の代表みたいな顔が強いです、イメージとしては」
松山キャスター
「なるほど。興梠さん、たとえば、前に国家主席を経験していた胡錦濤さんとか、江沢民さん、それぞれの勢力というのが中国国内にはまだ活躍していると思うのですけれども、そういった勢力は現在の習近平体制というのをどういう目で見ているのですか?」
興梠教授
「面白くはないと思いますよね。あれだけ虎退治と言って、派閥を切り崩していったので、江沢民派ももうズタズタにやられましたし、胡錦涛派も、たとえば、胡錦涛さんの側近であった令計画さんという番頭さんみたいな人ですけれど、中央弁公庁主任という、これも捕まりました。李克強さんも胡錦涛さん直系ですから、本来ならば、李克強さんが習近平さんのところにいないとおかしいわけですよね。でも、江沢民派とのせめぎ合いで結局、習近平さんが両方と仲良かったのでそこにうまくいったと。ところが、彼がなった瞬間にドンドンその二大派閥を切り崩していくということは皆想像できなかったと言われている。だから、李克強さんも本当は自分がここにいるのはおかしいと思っていると思う。本当は自分が上にいっていないといけないと思うし、胡春華さんというのは、副首相になっていますけれども、これは本来ならばもう副主席になって次の総書記への道を歩んでもおかしくなかった人ですよね。胡錦涛さんが次の次になれよと言う。だけども、副首相のところに置かれちゃうと国務院の系統になっちゃっているのでなかなか難しいと。だから、完全に封じ込められているんですよ、胡錦涛派が。前の国家副主席の李源潮さんという人なんて、もう本当に最後は捕まるかもしれないと言われたぐらいで、年齢的にはまだ大丈夫なのに政治局から出されちゃいましたね。それは激烈な戦いを習近平・王岐山のこの2人でやってきたので、やられた人達というのはかなり刑務所にも入っていますし、どう思っているかというと、それはチャンスがあれば巻き返しをはかりたい。たとえば、重慶のトップだった薄熙来さんという人がいますが、彼も刑務所に入っているわけですよね。入る間際に、手紙が流出しました、本当かどうかは別として、いつかまた返り咲くのだという。この人達というのは、習近平さんのお父さんもそうですし、薄熙来のお父さん、皆、1回は粛清されているわけですよ。また、そういった牢屋から出てきて返り咲いた人がかなり共産党にはいるので、節目、その潮目が変わると復活できるというのは鄧小平さんだって、そういう経験をして…」
津上氏
「だから、元老と言われるような人達は、個人崇拝はやめてほしいという話と、それから、側近の意見ばかりを重視して、他の人の意見を聞かないという、そこは、あんた、直さないかん、みたいな、そこは習近平さんに対して相当意見を申したのではないかなという感じがするんです。と言うのは、そのあとで急に何か個人崇拝的な話はやめろという…」
松山キャスター
「党内の習近平批判にちょっと聞こえますけれども?」
津上氏
「うん、だから、ちょっとそこは反省の色を示したみたいなことにたぶんなっているのだと思うんですよ」
竹内キャスター
「アメリカ・トランプ政権との間で激しさを増す貿易での対立について、これまでの応酬をまとめて見ていきます。まず米中とも第1弾となる総額3.8兆円規模の関税引上げは7月6日に発動されています。アメリカは中国からの自動車や情報通信機器、中国はアメリカからの農産品や自動車が対象です。その一方、7月13日には、アメリカが4月から行っていた中国の通信機器大手ZTEとの取引や輸入停止の制裁措置を解除するという動きもありました。8月1日には、アメリカが対中制裁の第3弾を発表。これは総額22兆円にのぼる輸入品を対象に関税引上げを検討中という厳しい内容です。今週23日には、追加関税の第2弾が米中双方で発動する予定です。それぞれ半導体や燃料など総額1.8兆円規模の輸入品が対象となっています。津上さん、アメリカは中国に対し関税措置の攻勢を緩める気配がないように見えるのですが、中国側のダメージをどのように見ていますか?」
津上氏
「2000億ドルという話になってくると…」
松山キャスター
「すごい規模ですね」
津上氏
「かなりこれは効いてきますよね。アメリカの輸入総額が中国から5000億ドルという、その4割になるわけですね。それで終わりではなく、それでもまだウンと言わないのだったら、4000億ドル、5000億ドルまでいくぞという、全部にかけるみたいなことを言っていると。それから、2000億ドルというのも最初は10%の関税と言ったのが、途中からトランプさんが25%に上げると言い出したんですね。10%であれば、ちょっと輸入課徴金が乗っかったかなぐらいのイメージですが、25%というと、これは相当な実害が出ていると思うので。そういう意味で、これは本当に対米輸出の4割がそういうふうな制裁に遭うということになると、これはかなり厳しいことになってくると思います。ただこれは対岸の火事ではないということを、ちょっと話が脱線しますが…」
松山キャスター
「日本にも影響がある?」
津上氏
「5000億ドルの裏側には、日本・韓国・台湾の、部品だ、素材だ、工作機械だの輸出がいっぱい隠れているんですよね。だから、これが4000億、5000億になってくると、これは東アジア、北東アジア全域がアメリカの制裁措置で撃たれるという…」
松山キャスター
「日本メーカーが中国の、たとえば、工場を使ってつくっているもので、アメリカに輸出しているもの、そういったものも影響を受けてくるということですよね?」
津上氏
「最終組み立ては中国だけれども、そこに部品としていっぱい日本製・韓国製・台湾製が入っているわけですよね。そういうものも輸出できなくなるということになると相当大きな影響があるので。これは他人事ではないということはちょっと言っておかないといけないと思います」
松山キャスター
「あと米中貿易摩擦の話で言うと、トータルでの輸入額はアメリカの方がまだかなりキャパシティとして広いという部分があって、本当に関税報復合戦がずっとこのまま進んでいくと、中国の方が先に額が少ないので損をしてしまうという、いずれは負けが確定しているのではないかという見方がありますけれども、それについてはどう考えていますか?」
津上氏
「逆にそれをトランプ政権の高官がよく言うわけですね。勝負はもう見えているのだ、みたいな…」
松山キャスター
「使いますね、よく」
津上氏
「ただ、それを聞くと非常に不安になるのは、中国はそういうソロバン勘定で、アメリカの圧力に対して、ごめんなさいというふうになって頭を下げるのではないか、どうもそういうイメージでトランプ政権はいるのではないかと思うのですが、中国はそういう国ではありませんと。外国の恫喝に下手に、膝を屈するような態度を示せば、国賊と罵声を浴びるというのが中国の900年の歴史ですから。そういう民族主義的というか、排外主義的な側面というのを考えたら、経済でどんなに痛くても、降りたくたって降りられないという、そういうふうな束縛が中国の指導者にはあるというところはおそらくトランプ政権の高官で、中国はそういう国だと理解をしている人は誰もいないのだろうなと」

トランプ政権の『中国叩き』 米国を本気にさせた背景
興梠教授
「もう貿易戦争という定義ではないと思うんですね。中国の最近の人民日報の評論にもついに封じ込めという言葉が出てきたので。ソ連とか、日本と並べているんですよ。アメリカは、自分に追いつき追い越すようなパワーが出てくると、それを、その力をそぎ落とすということをやってきたではないかと。旧ソ連がそうではないか、日本もやられたではないか、…評論がついに出ましたよね。つまり、当初の、目測…、見誤ったわけですよ、習近平政権は。どうせまたボーイングをいっぱい買ってあげればアメリカは落ち着くだろうと、これまではそうだったではないかと。爆買いをすれば…」
松山キャスター
「北京でのトランプ大統領との首脳会談の時に1回そういうようなのが」
興梠教授
「はい。今回、なぜアメリカが全然折れないかと言うと、そうではないのだと、構造的な、おたくの経済は間違っている、国家資本主義ではないか。トランプさんのブレーンのナヴァロ…」
松山キャスター
「ピーター・ナヴァロさん…」
興梠教授
「…国家通商会議委員長も必然的に、あの経済体制はおかしいのだと。要するに、市場経済ではないではないかと。国家がバックにいて、国家が経済を取り仕切って、補助金を出したり、知的財産権の問題もありますし、あとは技術移転を強要し…。これは実はEU(欧州連合)も相当これに対して反発していて、中国がEUを取り込んでアメリカと戦おうとしたんですね。ところが、EUもそっぽを向いっちゃっているわけです。この件に関してはアメリカと組むと。トランプさんもなかなかうまく、EUと貿易協定を進めたりして、分断工作をはかっているので。今回、これは中国側が間違ったのは、初期段階で。もう1つは、日本とか、韓国の企業にとばっちりがくるというのもあるかもしれませんが、もしかしたらアメリカは生産地も変えさせようとしているのかもしれない。中国から出て行けばいいではないかと。マレーシアに行ったらどうなのだとか、実はそういう動きも起きていますよね。中国は最近、8月1日の人民日報に出ていましたが、外資を安定化させるというのが中に入っていると。要するに、外資が出ていくことをすごく怖がっています。アメリカに中国から輸出しなければいいではないかというふうに外資が判断すると、外資が出ていくと雇用にすごく打撃を受ける。そのへんまでもしかして計算してやっているのかもしれない」

『一帯一路』に潜む巨龍戦略 習近平政権が狙う『覇権』は
竹内キャスター
「習近平国家主席の看板政策『一帯一路』について見ていきます。海と陸、2つのルートを提唱している構想ですが、実際に動き出している計画のうち、各国との港湾整備をつなげて見ていきますと、2013年の構想の発表以来、ベトナム・マレーシア・インドネシアなどASEAN(東南アジア諸国連合)諸国が中国と一緒に港を整備。さらに、インド・スリランカをまわるシーレーン、UAEアラブ首長国連邦などの中東諸国、ジプチ・ケニアなどのアフリカ諸国との港湾整備も実際に計画が進んでいるということです。津上さん、これらの一帯一路構想の進捗なのですが、どのように見ていますか?」
津上氏
「私は一帯一路というのは、外交プロパガンダとしては大成功を収めたんだと思います。ただ、経済的な面で見るとあまりうまくいっていないのではないかと思うんですね。と言うのは、一帯一路は2013年から一応始まったということになっていますが、実は21世紀の初めぐらいから、そういう看板は立てていないけれど、同じようなことは随分と、やってきているわけです。たとえば、現在、借金返せない時に港の運営権をカタにとってとか、何か酷いことをやっていると言われていますが…」
松山キャスター
「スリランカなどでよく…」
津上氏
「ああいうのというのは一帯一路の看板をかける前にもう既にやられていたプロジェクトの話ですよね」
松山キャスター
「そうですね、確かに」
津上氏
「そこで起きたことというのは、これはわざとそうやって罠に落としたなんて、そんな交渉だ、なんとかという考え方はなくて、豊満融資をしたら返せないと言われて、中国の国内でも先ほどのバラマキという話…」
松山キャスター
「批判が出ています」
津上氏
「あれが、相当不満が高まっているので。現在の現役の担当者達は、アッ、あれ、焦げつきましたと言うと、自分達がすごく批判を受けるということで相当怖がっているんですよ。だから、いや、債権はちゃんと保全されていますから、大丈夫、という証を立てなければいけないという、そういうプレッシャーは相当受けているんです。だから、何かこの運営権をカタにとるだとか、何とか、要は、債権保全活動だと思うんです。だけども、それがまたすごく海外の評判を落としているということで、いろいろなところから警報が、伝わってきて、それもできないということで、現在もうどうしようと困っているという、そういう状況だと思います」
松山キャスター
「小原さんはどう見ますか?」
小原氏
「はい。まず中国は最初に押さえかかったのはホルムズ海峡の出口、パキスタンのグワダル港、2012年ですね。中国はとにかくホルムズ海峡をアメリカに封鎖されるのは嫌だと、すぐ出口に自分の拠点をつくりたいということですし、ここから新疆に向けて、石油ガスのパイプラインと高速道路・鉄道なども建設をしたと。もう1つ、ミャンマーのチャウピュ港から昆明へもパイプラインや高速道路などをつくっている。これはもう1つ、一帯一路のマレーシア・インドネシアに挟まれたマラッカ海峡、有事と言うか、アメリカが思えば、ここはいつでもアメリカに閉められると。そうすると中国にエネルギーや物資が入ってこなくなるという恐怖感からその代替路としても使っているのです。スリランカはお金の流れを見ていると、実は開発が1期と2期に分かれていまして、1期と2期で性格が違うのではないかと思います。1期は開発銀行が事前の調査などもして融資の額もそんなに大きくないと。ただ2010年に一気にこの融資額が膨らむのですけれど、この頃、これが関係しているかどうかは明確にはわからないのですが、中国の軍のトップがスリランカに行ったりしている。この融資、実は先ほど、バラマキという言葉があったのですけれども、スリランカだけが特別なのか、他のところもそうなのか、これもずっと見ていかなければいけないのですけれど、お金をちゃんと中国国内に回収しているんですよね。開発銀行が地元へつけてでも、そこで、地元で建設するのは中国の国営企業の港湾建設の会社。港湾だけではなくて、その近くに空港までつくりました。そこを結ぶ高速道路、全部この港湾を建設する会社がとったんですね。結局、地元にお金が全然落ちていないと。もちろん、前大統領のところにはたくさん入ったみたいですけれど、それが原因で大統領が交代したのですが。中国はそういうふうにお金をまわして、実は地元に落ちていないという批判も地元で聞かれるところもあります。東南アジアもいくつかあります。それが軍事的にどう関わってくるのかということがわからないのですが、インドは大変これを怖がりまして、この空港、中国のその港湾建設会社がつくったのですが、インドが運営権を獲ってしまいました。中国としてはスリランカのハンバントタという南端にある港ですけれども、孤立したような状態になっていて、現在ちゃんと使えているのかどうか、これからも使えるのかどうかというのがよくわからないです。スリランカにはもう1つ、コロンボという港があって、こちらは現在、商用港としても成功しているのですが。このように中国はやろうとしていることが必ずしもうまくいっているばかりでもない。ただその中で1つだけ中国が軍事基地だと認めている港…基地があって。これがジプチです。他にもジブチには日本もそうですし、アメリカ・フランス・イタリア等が基地を持っているのですが、全て空港の傍に基地を持っています。しかも、コンテナを積んだような簡易の基地でいつでも撤退できる。ところが、中国だけは空港の傍ではなく、港の傍に基地をつくりました。しかも、鉄筋コンクリートで半永久的に使えるような建物をつくって、しかも、これを幾重もの塀で囲って、非常に厳重な警戒をしている」
松山キャスター
「ちょうど先週の16日、アメリカの国防総省が報告書として発表して。まさに東アフリカのジブチに中国が初めての海外基地を設置しているということを中国に関する年次報告書に国防総省が初めて明記したと。これはある意味、あまりこれまで注目されていなかったエリアだと思うのですけれども…」
小原氏
「中国は今年、既に試験航海を始めましたけれども、中国初の国産空母をもう持っています。訓練空母『遼寧』というのを持っていて、あと2隻、上海でつくっています。これらは中東方面、アフリカ方面に軍事プレゼンスを示すということが1つの大きな目的だと思いますが、そういったためには前方展開基地がほしいということなのだろう。それを考えるとアメリカの太平洋軍司令部のような、ハワイのような、…といったところまで中国は何とか前方に海軍を展開するための拠点というのがほしいのだろうと。そういった空母を、そういった各地域に展開をして、軍事プレゼンスを示すということは既に言っていますから、これを実現するための基地として使いたいのではないかと思います」
松山キャスター
「興梠さんは一帯一路の現在の状況をどう見ていますか?」
興梠教授
「外交戦略上イメージ的に間違っていると思います。これによって欧米で中国脅威論がかなり広がったという感じが私はしていて。習近平さんは『中華民族の偉大なる復興』とか、『中国の夢』とか、かなり復興調のナショナリズムを全面的に出したと。そういったスローガンで国民をまとめようとしているのでしょう。それがこの中華帝国の偉大なる復興というイメージに…」
松山キャスター
「アヘン戦争の前までの中国に戻そうと」
興梠教授
「そうですね、俺達の時代が来たと。秩序を書き換えると、欧米では捉えて、通常防空識別圏の引き直しとかもそうです。彼自身は、国内的に自分が勢いをつけていく中では政治的にはかなり良かったのでしょうが、対外的には非常に大きな中国を警戒する動きが強まったと。私は今日の米中貿易摩擦も、それだと思うんですね」
松山キャスター
「なるほど」
興梠教授
「IMF(国際通貨基金)も、これは世界の金融秩序を壊してしまうという懸念を出しているし。実はつい最近、トンガが、債務を帳消しにしてくれということを首相が言いましたでしょう。あのあたりというのは、もうオーストラリアがすごく嫌がっていて、パプアニューギニアとか、フィジーとか、サモアとか、オーストラリアの東側を取り囲むようにお金を貸し付けているんですね。だから、オーストラリアが最近、非常に反中的な論調が強まってきているんですね。政界にチャイナマネーが入ってきて政治家を買収したということがあったものですから」
松山キャスター
「債務帳消しと引き換えに別な要求を中国がしてくるということに?」
興梠教授
「そこは今後の問題でしょうけれど。とにかく、帳消しにしてくれということは、実は中国の国務院の人達も恐れていたことです。レポートはもう随分前から出ているので、読んだのですが、そういう国が出てくるだろうと。どうせ返せない国なのだから、最後は開き直っちゃうのではないのということを、実は中国の中でも心配している人達がいて、習近平さんをまだ批判してよかった2年前とかは習近平さんを批判する書簡の中に入っているんですよ。返せない国に貸すのだろうと、だから、どうせ返せないよね、それは全部、中国が被るのではないのと。それは、ですから、世界の金融秩序を壊してしまうという懸念は、IMFが言っているのは簡単に借りられるということになっちゃうと、それはモラルハザードが起きるのではないですかと。これは今回のトンガが、そういう動きが出てきているので、これは1つ懸念すべき…」
松山キャスター
「中国国内でもそういう経済政策をとったことに対する批判が?」
興梠教授
「もう早くからありました。前からあったんです、2年前からもうそういう批判はあったのですが、全部もみ消されて、1強化の中で。まだ、ありますよね、政権で」

津上俊哉 日本国際問題研究所客員研究員の提言:『月満則虧』
津上氏
「これは中国語なのですが、月が満ちれば即ち欠くと。満月のあとは月が陰っていくということで。これは必ずしも習近平さんはもう落ち目だということを言ったというだけではなく、中国全体についても、この1年、2年のブイブイというのが、随分潮目が変わってきたという感じもします。と同時に、現在はトランプさんが絶好調で、今度はトランプさんがブイブイやっていますが、これもやがてバイオリズムの変わり目はくるだろう。万物はこうやって流転していくので、あまり一時のアレに捉われてはいかんなと思います」

興梠一郎 神田外語大学教授の提言:『複線』
興梠教授
「日中関係に限定して言えば、いろいろな線路ができてきている。たとえば、尖閣問題、軍事問題。経済は経済で、インバウンドで、地方に行くと、それを非常に期待する向きもあって。中国人が年間1兆円以上を使っていくとか、700万人も来ているとか、延べで。あとは日本のアニメが大好きで留学している子というのはもうかなり増えている。これは文化、市民、あとは政治関係、外交関係、いろいろ問題がありますよね。日中関係は本当にそういう意味では多面体。1つ気をつけなければいけないのは、同時にいろいろな線路があるのが嫌になってきて1本にしたくなるというのが1番怖いので」
松山キャスター
「単純化してはいけないと?」
興梠教授
「そうですね。それを混線しないように是々非々で対応するというのが、大事かなと。そうすると、日本は尊敬される成熟した国家であるということになると思います」

小原凡司 笹川平和財団上席研究員の提言:『台湾周辺における軍事行動に注意』
小原氏
「安全保障の面から言えば、台湾有事を念頭に置いた議論をしなければいけないのではないかと思います。アメリカが台湾を支援する必要を明確にしていますけれども、中国にとって台湾問題というのは共産党の統治、正当性にかかわる問題で、ここだけは引けないということを1つ念頭…考えなければいけない。それと中国国内では習近平総書記の権威の低下に伴って、人民解放軍の中に溜まっている不満が何らかの形で出る可能性がある。解放軍の中には現在でも反腐敗の目にされていますから。この反腐敗が吹っ飛んでしまうような軍事的な衝突でも起こせばいいのではないかという言動さえある。アメリカと直接対峙しなくて済むのはまずは台湾ということになりかねない、そういったことは考えておくべきだと思います」