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2018年7月20日(金)
『遺産相続』大幅改正 新設『配偶者居住権』

ゲスト

本郷尚
税理士
常岡史子
横浜国立大学教授

『遺産相続』大幅法改正 何が変わるのかを徹底検証
斉藤キャスター
「事実上、国会が会期末を迎えています。今国会では遺産相続に関する民法がおよそ40年ぶりに大幅に改正され、注目されています。そこで専門家を迎え、大幅改正によって何が変わって、遺産相続にどう影響するのか、詳しく聞いていきたいと思います。まずは遺産相続に関して現行とどう変わるのか見ていきましょう。残された配偶者が自宅に住み続けることができる権利というのが『配偶者居住権』というもので、これを新設しました。法務局で自筆証書遺言の保管が可能になると。また、相続人以外でも金銭の要求が可能になります。上川法務大臣なのですが、相続分野の民法をおよそ40年ぶりに改正した理由についてこのように述べています。『相続法の分野については昭和55年以来、大きな改正は行われていない。その間、社会の高齢化がさらに進展し配偶者の年齢も相対的に高齢化しており、その保護の必要性が高まっている。今回の見直しは社会経済情勢の変化に対応するもの』と述べています。まず常岡さんに聞きます。ちょっと聞きなれない言葉『配偶者居住権』というもの、あらためてどんなものなのか教えていただけますか?」
常岡教授
「今回の改正では居住権に関して、ここに挙がっています長期の配偶者居住権というのが非常に注目されていますけど、それ以外にも実は配偶者の短期の居住権というものも新設されていて、2種類あるということを最初にお伝えしておきたいと思います」
松山キャスター
「短期というのが、遺産分割協議がまとまるまで自動的に付与されると」
常岡教授
「はい」
松山キャスター
「長期は遺産分割協議で相続人の合意を得れば終身居住可能ということで。配偶者、片方がお亡くなりになった時に残された配偶者の方が協議をして、合意が得られれば、そのまま自身がなくなるまで住み続けられるという権利ということですよね?」
常岡教授
「そうですね。短期の方は協議とかをしなくても自動的にここにありますように配偶者に与えられるもので、条件があるのですけれど、たとえば、夫が亡くなった時に夫が所有していた建物に無償で、無償ということが要件になっているのですが、無償で妻が居住していた場合に最短で6か月、通常は遺産分割協議がまとまるまで住み続けられる。夫が亡くなったから急に出て行かなくてよいという安心を確保したという点では、短期の居住権は意味があると思います。一方、長期の方は、そういうふうに自動的に付与されるものではなくて、遺産分割協議を行った際に、これまでですと建物についても所有権を遺産分割協議で相続、誰が取得するかということが問題になっていたのですが、今回は、所有権とは別にこの配偶者居住権、長期のものを新設して、所有権ではない居住権という物件という権利を配偶者が得ることができるようになったという特徴があります」
松山キャスター
「現在の段階でこういう改正がなされた、特に配偶者居住権という権利が定められたということですけれど、これは社会的背景があるということを上川法務大臣も言っているようですけれど、どういう要請があって、こういう動きになってきたのですか?」
常岡教授
「実は、この居住権というのは今回いきなり出てきたものではなく、40年ぶりの改正と言われていますけれど、昭和55年、1980年の改正の時にも、長期の方ですけど、こういうふうな居住権を新設してはどうかという議論はあったんですね。ただ、所有権との関係とか、民法にこういうふうな新しい権利を創設することは、社会で受け入れられるかどうかという点も含めて、あと取引の問題も含めて、無理ではないかということで見送られたのですが。そのあと40年を経て、高齢化した社会の中で、年老いた妻がその場所にずっと住み続ける必要があるということが今回また見直されて、今回の法案につながったのだろうというふうに考えています」
斉藤キャスター
「本郷さんは40年ぶりに改正されたに民法制度をどう見ていますか?」
本郷氏
「たぶん普通の方がこの話を聞いた時に何それという感じではないですかね」
斉藤キャスター
「ちょっと難しい…」
松山キャスター
「初めて聞いたという感じがしますよね?」
本郷氏
「うん、日本の民法はもっと遡ると、昭和22年、現在から70年前以上ですけど、この時初めてですよ、いいですか、奥さんに相続権が与えられたんです。それまでは長子相続と言って長男家督相続だったんですよ。奧さんは何にももらえなかったんです。その時だって3分の1ですよ」
松山キャスター
「はあ…」
本郷氏
「嫁は出て行けというぐらいですよ」
斉藤キャスター
「ああ、そうなんですね…」
本郷氏
「そういう法律ですから。昭和55年になって、その時にようやく2分の1、今回もう少し、2分の1もそれもないだろうと、もうちょっと増やせよと。増やせよと言うのはおかしいですけれど、夫婦で築いた財産を2分の1、刷り込まれていますよね、2分の1、…子供は2分の1…」
松山キャスター
「そこはだいたい皆、知っているところですよね…」
本郷氏
「でも、それもちょっと違和感が、私は違和感を、感じていますよ」
松山キャスター
「配偶者にもっと厚くてもいい?」
本郷氏
「うん。夫婦で築いたものを2分の1と思っているけれど、夫婦で築いた財産は生前から、たとえば、離婚した時ですよ、財産分与で2分の1と決まっているんですよね。と言うことは、夫婦の共有財産は、2分の1はもう既得権というか、事実上、奥さんのものですよね。相続の時に2分の1ですと言われたって、それは事実上、自分のものですから。その2分の1というのは相続権ではないですよね。それで2分の1と言ったら…」
松山キャスター
「共有財産をただ2分しただけということですね?」
本郷氏
「相続離婚みたいなものですよね。だから、おかしいですよね。そのぐらい日本の民法は非常に遅いというか、ちょっとそんな感じが私は実感として持っていますけれど。もっと女性が大きな声を出さないと。それで今回、こういう、追い出されるような話までしているわけですけれども、何それ?というのが私の実感です」
松山キャスター
「配偶者居住権というのが今回制度化されたということの背景に配偶者の権利というのはこれまであまり重視されていなかった面があって、たとえば、その財産を、旦那さんが亡くなった時に家しか財産がなかった場合、家を売らないとそれを金銭に換えないとする、きちんとした相続の分配ができないという。それでその家に住み続けていたら、その奥さんがそのまま住めないのではないかという、そういう時代的要請というのが…」
本郷氏
「財政的に、家がほとんどで預金が少なければ、現在の2分の1という、刷り込まれたような権利関係だと、そういう分け方しかできません。ですから、時代でちょっと見ていただきたいと思うのですけれども、ですから、自宅が3000万円で預金が1000万円、4000万円、これを2人で、子供と2人で分けると、遺言がなくて、これだったら自宅を売らざるを得ないですよね」
松山キャスター
「自宅を、そうですね」
本郷氏
「たぶん…」
松山キャスター
「現行だと、これを売って現金化して、奥さんが2000万円、お子さん2人の場合は残り1000万円ずつという形で…」
本郷氏
「それで数字でいけば、そうなっちゃうわけですね。そうすると、家から出て行くしかなくなりますよね。それを今回、この配偶者居住権というものをつけて、居住権というのに一定の評価をして、それを持たせて、現金も持たせて、分けましょうというのがこの数字ですね」

自筆証書遺言と公正証書遺言
斉藤キャスター
「ここからは遺言制度の見直しについて聞いていきます。現在は、主な遺言は自分で遺言の全文、日付、氏名を書いて押印して作成する自筆証書遺言というものと、公正証書遺言の2種類があるんです。これは公証人に作成してもらって、原本を公証役場で保管するというもの。今回の改正法では、自筆で書かれた遺言書について法務局での保管が可能になります。目録はパソコン入力が可能になると。本郷さん、実質証書遺言と公正証書遺言、この2つの違いを詳しく教えていただけますか?」
本郷氏
「自筆証書遺言というのは、字の通り、現在では自筆は頭から尻尾まで全部自分で書くんです。全部自分で書くんです」
松山キャスター
「それは書式がある程度決まったものがあって、それに従って書く?」
本郷氏
「いや、もう自由です」
松山キャスター
「自由なのですか?」
本郷氏
「基本は自由です。ただ、要件としては財産をキチッと書いて誰に渡すと、日付も書いて、しかも、自分の名前を書いて、しかも、それを封して開けてはいけないですね。母艦を押しておかなければいけない。それを最終的には、検認という手続きをとらないといけないです」
松山キャスター
「検認というのは誰か第3者がということですか?」
本郷氏
「裁判所で…検認を経て、相続人が全員集まって開封すると。こういう、だから、実質は一見、自分で書いてしまえばいいのだろうと言うけれど、あとで検認という手続きがある。結構ややこしいです。書く時は自分で書けばいい」
松山キャスター
「なるほど」
本郷氏
「ところが、この自筆証書は普通、専門家はあまり勧めないです」
松山キャスター
「あぁ、それはなぜですか?」
本郷氏
「まず誤字脱字、漏れ、それから、保管ですね。いろいろと問題点が多いです。まあ、自分で書くものですから、どうしたってそういう問題が起きちゃうんですね」
松山キャスター
「たとえば、名前の漢字がちょっと違っている、そういうこともダメ?」
本郷氏
「ちょっとくらいならいいですけれども、それから、財産目録のところに、たとえば、不動産の表示をどうやって書くか、普通の人は書けます?」
松山キャスター
「いや、もうわからないですよね」
本郷氏
「わからないですよね。うん、そういったいろいろな問題があったので、今回の改正では、たとえば、目録、財産目録については、たとえば、この不動産を1目録、どこ、どこの不動産については誰に渡す、預金については誰に渡すと、そういうふうに書きますよね。ですよね?その目録のところをパソコンで入力していいですよとか、あるいは写真の貼付をすればいいですよという、より簡単にできますよ、というということで改正が行われたのですけれど。それから、保管は自分で保管しないで法務局で保管していいですよと。検認の手続は要りませんよということで。自筆証書遺言を簡単にと言ってはおかしいですけれど、非常に楽にできるようになって、進めようとしているというのが今回の改正の大きな動きだと思いますね」
松山キャスター
「常岡さんは今回のこの改正、どういうメリットがあると考えますか?」
常岡教授
「できれば、公正証書遺言です、交渉人の専門的な知識を得た方がミスのない遺言書ができるということは確かですが。ただ、遺言書というのは、何回でも書き直しができるんですね、もちろん、ですけれど。1回書いたらおしまいではなくて、亡くなるまで何回でも書き直しができるのですが。場合によったら書き直しを想定している時に、その都度、公正証書遺言を書く度の費用が、公正証書遺言だったら費用がかかりますので…」
松山キャスター
「どれぐらい費用がかかるのですか?」
本郷氏
「一般的に言えばだいたい公証人役場で10万円以下です、一般的に10万円以下ですね。それで専門家に頼むと立会人が2人要るんですよね。これを実費として、10万円から20万円、2人ですから。それから、弁護士や税理士や司法書士に頼みますから、全部ひっくるめて50万円そこそこかなと」
斉藤キャスター
「結構高い…」
松山キャスター
「結構かかりますね」
本郷氏
「でも、ここが大事なところですよ。我々、仕事でやっていますけれども、でも、相続の中で何が大事かは遺言書ほど大事なものはないんですよ。これがあるかないかでは天国と地獄ですから。相続のトラブルというのは財産分けで揉めるんです。公正証書遺言であれば、揉めることはもう95%ないと思いますね」
松山キャスター
「ここでちょっと1つ紹介しておきたいデータがあるのですけれども。公正証書遺言の作成件数というのを表したグラフがあるのですけれども、これを見ると、日本は年間、亡くなられる方が100万人以上ということなのですけれども、それに対して公正証書遺言の作成件数というのがおよそ10万件ということですね。だから、実際には亡くなられている件数よりもずっと少ない件数になっていますけど。これは諸外国に比べて日本のきちんとした公正証書遺言の作成件数はかなり少ないようですけれど。このあたりを本郷さんはどう見ていますか?」
本郷氏
「馴染んでいないのでしょう。私は仕事柄のせいもあるのでしょうけれども、人の顔を見たら遺言書ですね」
松山キャスター
「もう遺言書をつくっておきなさいと?」
本郷氏
「ええ。遺言書をつくらない…、特に男性に言いたいのですけれども、遺言書をつくらない人は責任を果たしていないですね」
松山キャスター
「日本で、そういう遺言書文化がなかなか浸透しないというのは、何か文化的背景があったりするのですか?」
本郷氏
「昔は書く必要がないですよね、長男家督相続ですから」
松山キャスター
「もうだいたいわかっているから…」
本郷氏
「わかっていて何も必要がないです。それから、3分の1、2分の1と、2分の1というのは、遺言書がない場合は民法の権利で分けなさい、というわけでしょう。遺言があれば、それは無視しちゃうということですね。あと残るのは、あとで話題になる遺留分というのがあるわけです。法定相続分の半分の権利がありますというのですから。だから、奥さんを大事にしようとするのだったらば、極端に言えば、奥さんに渡せばいいわけですから。そうすると、奥さんは先ほどの配偶者居住権ではないけれど、奧さんが自宅を相続できるというふうに言えば、もうそれでおしまいですから。あと預貯金もどうぞと」
斉藤キャスター
「なるほど。でも、たとえば、奥様を大切にしたいのだけれども、遺言書を書くのがちょっと億劫だなとか、ちょっとどうなのだろうと思っている方というのはどうしたらいいですか?」
常岡教授
「いろいろなところで法律相談のような機会がありますし、自治体でもやっているので。そういうところを気軽に利用されて相談されるというのも1つの手段だと思います。もちろん、信託銀行でも遺言の相談をされますけれども。もっと身近に本当に地方自治体のそういうふうな機会を利用されれば、費用も安く基本的な知識は得られますので、そういうものを活用していただきたいなと思います」

法定相続と遺留分
斉藤キャスター
「ここからは遺産相続におけるトラブルについて聞いていきます。遺産相続は亡くなった方の遺言がある場合は、原則として遺言で指定された人が遺産を受け継ぐことになります。一方、遺言がなく、話し合いもまとまらない場合は、民法のルールで決められた法定相続人が遺産を受け継ぐことになるということなんです。たとえば、例で見てみますと、配偶者と子供の場合、配偶者と子供で半分ずつということになりますので、配偶者が2分の1、さらに子供が2人の場合はさらに半分ずつということなので、4分の1、4分の1ということになります。こちらの場合、子供がいない夫婦の場合、さらに親が存命の場合ということです…は配偶者が3分の2、さらに親が3分の1ということになります。また、子供がいなく、親も亡くなられている場合というのは、血のつながった兄弟に今度は権利が発生するんですね。配偶者が4分の3、兄弟、1人の場合ですが、4分の1ということになります。常岡さんに聞きます、遺産をめぐる争いが起きるというのはどのようなケースが多いのでしょうか?」
常岡教授
「お子さんが、自分の子供でなかった、そもそもお子さんがいらっしゃらないケースというのは、非常にトラブルが起きやすいというふうに言えると思います。夫が亡くなって、子供がいなくて、自分と夫の両親が相続人になる。お嫁さんと夫のご両親です、それが相続する時にどういうふうに分けるか。ちょっとトラブルになりがちなのが、夫の兄弟姉妹と、それから、奥さんが相続人になると。兄弟姉妹になるとかなり仲がそれほど親しく交流していたかどうかもわからないし、それこそ家は売って4分の 1は兄弟姉妹がほしいと言えば、奥さんとしてはそれに抗うことができないようなことも起こるというのはあるとは思います」
松山キャスター
「本郷さんは実際、実務に携わっていて、どういうケースが特に多いと感じますか?」
本郷氏
「こういう数を目の当たりに見ちゃっていますから、もう悲惨ですよ。なぜですかと泣いて叫ぶわけですよ。要するに、お子さんのいらっしゃらない夫婦で相続が起きた時に、兄妹に財産を持っていかれたというふうに言います、とられたと言いますよ。なぜ払わなければいけないのだと?要するに、家を売って払わなければいけないのだと。 そうすると、ご主人に対して恨みを持ちます。ご主人がなぜ遺言書を書かなかったと、だから、私が人の顔を見たらもう遺言書と言うのは、そのことですよ。責任を果たさなかったと。知らないで済む問題ではないわけですよ。いつそういうことが起きるかわからないのに、それを果たさなかったと。もちろん、専門家としても、それを言われたことを恥じるわけですけれども。あの時、なぜ揺さぶってでも書かせなかったかということを、一筆書けばいい話ですから。全財産を妻に譲ると書けば、それでことが済んだ。兄弟姉妹は遺留分がないですから。それで…、まして公正証書だったら、そのまま法務局に行って全部名義が変えられちゃいますからね」
斉藤キャスター
「まさに『遺留分』という言葉が出ましたけれども。遺留分というのは、亡くなった人が全財産を特定の相続人などに贈与や遺贈した場合に、兄弟姉妹以外の法定相続人が原則として法定相続の半分の額を請求できる権利ということです。遺留分で請求できる割合は法定相続の2分の1、つまり、4分の1なら、8分の1、8分の1ということですね。また、3分の1ならば、6分の1の額まで請求することができるということです。これまでは現金を用意できない場合は、土地や建物の持ち分を請求して、共有名義にすることが可能でした。ところが、今回の改正では、遺留分の請求は金銭のみになったということですね。常岡さん、なぜ今回は金銭のみになったのですか?」
常岡教授
「原則として現在の状況が、実は現物返還が原則です。だから、遺留分を行使すれば、土地の持ち分相当のものが遺留分を行使した相続人に戻るということで、物件、法律的には物権的な共有状態になっていたのですが。そういうふうになるとそれこそ処分が非常にしにくくなる。妻に家を与えるというふうな遺言を書いたのだけれども、それが遺留分の減殺請求の対象になって子供達が減殺請求してくると…」
松山キャスター
「遺留分はくれと?」
常岡教授
「そうですね」
松山キャスター
「それを現金化して何とか自分の分をほしいと」
常岡教授
「ほしいと言うと、その遺留分を請求した段階で、その家の物権的な持ち分がその子供に戻ってしまうんです。だから、妻の単独所有にするために遺言を書いたのに、子供達が、減殺請求と言うのですけれども、遺留分を請求してくると家自体が共有状態に戻ってしまうんです。もちろん、持ち分は法定相続の半分でしょうけれども。そうなると、家の処分とか、今後の利用について、妻の単独所有ではなく、子供達の権利がくっついた状態になるので、非常に処分や取引において妻の行動が制約されると。妻の方から現金で払いますということは現行法でも可能ですが。その場合には妻が現金を用意できなければいけないので、そうなると結局、家が子供達の共有状態になってしまって子供達が共有物分割請求をしてくれば、家を換金せざるを得ないという状況に現在の法律だとなるんですね。それを今回の改正で遺留分の請求は金銭原則ということになりました。そうすると、少なくとも遺言で妻が与えた家について、遺留分を請求されたために家がまた共有状態になる、他の相続人と共有状態になるということが防げます。妻の方は金銭で遺留分相当なものを子供、ないし他の遺留分権利者に払わなければなりませんけれども、これも今回の改正で加わりましたけれども、もしも現金をすぐ用意できなければ、裁判所に申立をしてちょっと猶予を得ることができるんですね、現金の支払いについて。仮に現金でどうしても払えなくなってという時には、それはやむを得ないという形で、遺言で財産をもらったものに手厚い結果に、今回の遺留分の改正によって、そういうふうなことにもつながっているということが言えます」
松山キャスター
「本郷さん、今回の改正で、この遺留分の改正部分については今後どういうことが起きそうですか?」
本郷氏
「先生がおっしゃったことは、現実的に金銭で払うということはいいし、それをもらう方もそれでいいのですけれども、現実論として我々、払う側にいるのですけれども、さて、現金をどうしようかと。正直言って、結構きついです」
松山キャスター
「その額に達しないこともありますよね?」
本郷氏
「ええ。不動産を持っているとか、株を持っているとか、遺留分を減殺請求する時は弁護士さんが出てくるんです。すべからく時価ですよ、評価額が。そうするとすごい金額になるんです。税理士がやる時は相続税評価額でやっているのですけれど、株から、不動産から、全部時価をベースにして遺留分…からすごい金額になるんです。そうすると、そのお金を用意するというのが大変だなというのが正直なところです。これまでちょっと駆け引きがありまして、いや、払えないからさ、これを持ち分で持っているとか、では、株で持ってという駆け引きをしながら、いや、持ち分は嫌だよと、株もあったってしょうがないではないか。では、そこのところを現金で払うからこのぐらいにしてよと、これが現実的な解決法だったけれども。今度は金銭でやるとなったものですから、いや、これは大変だなというのが我々実務家としては、この条文ができたね、キレイだね、良かったねと言うけれども、現実が現金になっちゃったわけですから、これは大変だなというのが…。だから、もらう方はいいだろうなと思うけれど、払う方は大変だというのが正直なところです」

相続人以外の金銭要求とは
斉藤キャスター
「これまでの遺産相続は相続人以外が遺産を受け取ることができませんでしたが、今回の改正で相続人以外も金銭の要求が可能になるということです。3親等以内の配偶者、6親等以内の血族も、介護などで亡くなった際に貢献した場合、金銭を要求できる制度が新たに設けられたということです。常岡さんは新制度ついて、どう見ていますか?」
常岡教授
「うーん、そういうふうな社会の要請があるということで、今回の法案に取り込まれたのだろうと思いますけれども。これを認めることによって本来の相続人達の遺産分割に影響が出るということはあるのではないかなと思うんですね。今回の制度ではこの相続人以外の親族の寄与、特別の寄与として寄与料の請求ですけれども、これは遺産から前取りするとか、そういうことではなくて、額が決まれば個々の相続人が相続分の割合に応じて、金銭的な請求をこういう親族から支払債務として受けるという、そういうふうな状況ですね。そうなると、これまでだと遺産分割で、遺言がない場合だと一応、法定相続分でということですけれども。遺産分割の中で、たとえば、お母さんには家をあげるから自分達は法定相続分よりも少なくていいよ、という遺産分割もたくさんされてきていたんですね。子供達は、別に家は要らないし、お母さんは相続分を超えても構わないからと。そういう遺産分割をしていたのに、もしもこうやってあとから個々に特別の寄与料を他の親族から請求できるということになると、法廷相続分だけは遺産分割で確保しなくてはと、そういうふうなことを考えるような相続人の方達も出てくるでしょうし、そうなると寄与料が決まるまで遺産分割も終わらないということが起こり得るのではないかと思います」
松山キャスター
「これは実際、こういう改正がなされたというのは、背景として、たとえば、亡くなった方の亡くなる直前まで実は介護していたのは私なのだということを主張して、だけど、私は法定相続人ではないと。そういうケースの場合に、ここまで苦労して介護していたのだから、その分はきちんと対価をいただきたい、みたいな、そういう声があちこちで起きていたということなのですか?」
常岡教授
「1番多いのはお嫁さんですよね。長男とかのお嫁さんが介護を実質的に担っていて、長男は仕事があるから…」
松山キャスター
「長男の、たとえば、親を…」
常岡教授
「…代わりに介護していたというケースですね。その時にお嫁さん自身は相続人ではないので、現在の法律だと寄与分は当然認められません。ただ、そういう時に長男の寄与として、お嫁さんの寄与を長男の貢献と考えて、遺産分割の時に長男の寄与分を増やすと」
松山キャスター
「長男が相続する分に、それを上乗せすると…」
常岡教授
「上乗せするという、そういう形で対応していたのですが。お嫁さんだとそうやって相続人の分に上乗せをすればいいのだけれども。たとえば、そういうケースで長男がもう先に亡くなっていて、お嫁さんだけが残って、長男のご両親を介護したとか…」
松山キャスター
「そういうケースもありますよね」
常岡教授
「そういう時には、まったくお嫁さんの寄与は勘案されないわけですね、遺産分割の時に。あと子供以外に親戚で、兄妹とか、従兄妹とか、権利としては相続権が後の方だったり、まったくなかったりする人達が実質上介護をしているという状況もあるので。そういう人達に個々に応える必要があるという声が増えてきたということは言えると思います」
松山キャスター
「本郷さん、こういったケースについては実際に目の当たりにしたことはありますか?」
本郷氏
「数字を扱う我々、職業としては、気持ちはよくわかるんですよ。実際に介護をして苦労して、介護をする人としない人といるわけですよね。だから、やった人はすごく苦労しているしし、疲れているし。では、今回の特別寄与というのですか、ということで、法律上こういうのができるんだという制度ができたわけですね。実際にこれをどうするかと言ってみると、これは何か文章を読むと、6か月以内に請求しろと言うんですね。期間が短いですよね」
松山キャスター
「そこもそうですね、短いですね、意外と」
本郷氏
「では、どうやって算定するのだと?ね?そうすると、日当いくらみたいな計算になるんですよね、たぶん…」
松山キャスター
「たとえば、ヘルパーさんがやっていたとしたら、これぐらいの金額の経済行為だったから、それに対価をという計算だと?」
本郷氏
「ええ、ですね。感謝と言うよりも払ってあげるぞみたいな感覚になってくるんですよ。よく私が使う言葉で、相続には、金銭の感情とハートの感情が入り混じっちゃうんですよ。感謝ではなくて、こう…」
松山キャスター
「日本人が最も苦手とするところ…」
本郷氏
「そう。デリケートですね」
斉藤キャスター
「その介護の資格を持っている、持っていないで算出は変わったりするのですか?」
本郷氏
「あまりないですね」
斉藤キャスター
「あっ、そうなんですね」
本郷氏
「本当にヘルパーさんの介護費用の金銭で換算して、最後は家裁で裁定をくだすんですけれども。では、この金額ではないですか、そうですか、では、これでいいですかで、バサッとくるんですけれども。で、チャンチャンと終わっちゃうのですけれども」
常岡教授
「最初に調停を家庭裁判所では必ず通常しますので、調停で話し合う時に寄与分の主張も出てきて、それで決まらなければ審判で決めるのですけど、ケースバイケースですけれど、たとえば、13年、お嫁さんが介護をして、その寄与分が家裁で認めたのが200万円とか、そのぐらいです」
本郷氏
「そうです」
松山
「13年分全部入れて…?」
常岡教授
「200万円。だから、そんなに思われているほど高い額が決まるわけでは現行法でもないので。新しく決まった特別の寄与もそんなに自分の労に報いるような高額のものということは考えにくいと」

法学者×税理士 遺産相続と法律のあり方
斉藤キャスター
「さて、遺産相続の大幅な改正について聞いてきましたが。実は今回の法改正の対象というのは法律婚、いわゆる入籍をしている夫婦だけです。常岡さん、法学者の立場から見て、法律婚だけを対象とした改正というのはどうですか?」
常岡教授
「たぶん法案をつくる時に審議会などで事実婚をどうするかということは十分議論をされたのですけれども、結果としては盛り込まれなかったのですが。事実婚をこういうふうな相続の場面に取り込むというのは技術的にも、社会的にもかなり問題は残るんですね。1つ目は相続人の範囲は明確である必要があるので、事実婚の配偶者を妻と認めるためにどういう要件があれば妻と認められるのかというところの判断が明確でない。現在であれば、戸籍の届け出をした法律婚の妻が配偶者であると、配偶者相続権の2分の1等々決まっていますけども、もしも事実婚でいいということになれば、場合に寄ったら、いろいろな女性が出てきて、自分こそが事実婚の妻であるということを申し出るケースだってあり得るでしょうし、場合によったら法律婚の妻がいるのに別の女性とずっと長らく同居していた夫が亡くなった時には、法律婚の妻ではなくて自分こそが本当の配偶者であって、配偶者相続権があるべきだという主張をしてくる可能性があります。そういうケースですと、法律婚の妻は放っておいていいのかということになりますし、2人で分けるというふうなことになると、それは一夫一婦制の根底事態を覆しますから、問題があります。あと、もう1つ大きいのは、相続というのは皆さん積極的なプラスの財産をもらうことばかりと思っておられるのかもしれないけれど…」
松山キャスター
「負債もありますよね?」
常岡教授
「負債も承継しますので。負債を承継するということは、もちろん、相続人は放棄の手続きがとれますけれど、債権者からすれば、自分が貸した債務者が亡くなったら、誰に次、回収を請求すればいいかというのが明確である必要がありますよね。ですから、現在、戸籍で決まった人が相続人であって、債権者が相続人に請求していくということで取引社会が安定的にまわっていますけれど。もしも事実婚の配偶者がそこで相続権があるとなったら、債権者がそういうふうな相続の債務をどの配偶者に請求したらいいかというところから、法律で決まっていないわけですから、訴訟でこの人が本当の配偶者なのかということを確認していく、そういうふうな手間も増えます。そういうふうなことを考えると今回、本来は事実婚であるとか、場合によったら将来的な同姓のカップルとか、片一方が亡くなった場合も当然考えていかなければいけないのですけれども、現在の段階でそこまで取り込むのは難しいということで法律婚にとどめられたのだろうと思います」
松山キャスター
「本郷さんはいかがですか?現行の法改正、現在の法改正では、正規の法律上の結婚ということに限るということになっているわけですけれども…」
本郷氏
「私は、実務としては、事実婚がある人だったら、もう先ほど言いましたように、もう遺言書しかないですよね。いく場がないですから。そうすると、AからBに遺贈しかないわけですよね。相続権がないですから、法律上。ですから、AからBに渡すと。もちろん、遺留分の請求があるなんていうことも百も承知ですけれども、渡すしかないですね。でないと、もらう権利がどこにもないですから。もちろん、籍を入れればいいですけれど、入れようとしないですから。あるいは保険に入れて受取人を指定するとか、もうやるべきことを生前にやらない限りは絶対にいかないですからね」

税理士 本郷尚氏の提言:『ヨコの相続を大切に』
本郷氏
「今日冒頭に、配偶者居住権の創設というか、新設とありましたけれども。実は税法の世界ではもうとっくの昔に配偶者に対しては特典を十分与えているんですね。それは、私は申し上げているのですけれども、縦より『ヨコの相続』。配偶者へ、奧さんへ相続をさせても、皆さん、ご承知の通りだと思うのですけれども、居住用財産については自宅ですね、330平方メートル、100坪までは8割評価減、つまり、ほとんど相続税評価の対象にしていない。相当高い土地であっても、2割ぐらいしか評価しない。マンションに至っては土地がほとんどありませんから、財産としての評価はしない。それを奥さんが相続した場合は、財産の価値はほとんど評価しないですね。それから、奥様が相続した場合、法定相続分、仮に2分の1、またはここからが大事なところですけれど、1億6000万円までは課税しないんですね」
斉藤キャスター
「1億6000万円?」
本郷氏
「うん、1億6000万円までは税金課税しないですね。自宅は課税しない、1億6000万円までは課税しない、あるいは生命保険金は相続人の頭数、1人500万円、3人いたら1500万円、これも非課税ですね。という具合に、奥さんの居住用財産、あるいは1億6000万円ですね、ここまで課税しないですから、ほとんどの人は、奥さんは課税しないで横に相続しても何にも税金がかからないです。だから、一時相続というのは税金がかからないですね。ただし、ここには条件がありまして、申告期限10か月ですね。10か月までに分割協議がまとまって申告をすることが条件ですね。だから、ご主人は奧さんに渡しますよということを、遺言書でも何でもキチッと書いてやれば、奥さんは守られるんですね」
松山キャスター
「なるほど、そこで遺言書…」
本郷氏
「ええ、これは税法の、要するに、もうとっくの昔に税法は済んでいるんですね。民法がこういうふうに今回なりましたけれど、税法は奧さんの生活の安定をはかっているんですね。子供さんは次に相続すればいいでしょうという考え方ですね」

常岡史子 横浜国立大学教授の提言:『目の前の利害だけでなく 長期的な視点で考える』
常岡教授
「目の前の利害だけではなくて、長期的な視点から考えることが大事だろうと思います。先ほど、配偶者居住権ということを、本郷先生もおっしゃったように、最初に出てきましたけれども、配偶者に居住権を相続開始したあと、遺産分割で与えるかどうかを考える時に、将来何が起こるかということ誰もわからないわけで、妻がそのまま住み続けられるかどうかということも何の確証もないと。そういった時に、こういうふうな手段があるということは1つのメッセージにはなると思います。配偶者が高齢化社会の中で、現在ある状況のままで生活が続けられるということが何より大事なので。それを尊重するというふうな意味では、配偶者居住権を設けたということについては一定の意味は認めていいと思いますが。ただ、それが絶対ではなくて、柔軟な対応を常に迫られていくわけであって。そういうふうなものを、家族間で、お父さんが、たとえば、亡くなったあと、奧さんや子供達でそういうふうなものを常に相談しながら対応できるような体制を普段から築いておくということが何より大事であろうと思います。ですから、遺言とか、あるいは法定相続分というのは、それを補佐するものであって、実際に相続の時にそれまでの生活が全部反映され、感情であれ、財産状態であれ、そういうのが全部出てきます」
松山キャスター
「話し合いの時には全部出てきますからね」
常岡教授
「はい。そういうふうな体制を考えて