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2018年7月2日(月)
AIは東大に入れるか 林文科大臣×新井紀子

ゲスト

林芳正
文部科学大臣 自由民主党参議院議員
新井紀子
国立情報学研究所教授
尾木直樹
教育評論家 法政大学特任教授

人口知能は東大に入れるのか? AI時代の教育と人材育成
生野キャスター
「今週は、竹内キャスターは夏休みです。さて、こちらの本。『ロボットは東大に入れるか?』『AI vs教科書が読めない子どもたち』。この本の著者でゲストの新井紀子さんは、人工知能で東京大学の入試問題に挑むプロジェクトを主導され、大きな注目を集めました。今夜は、AI(人工知能)技術が進歩する中で求められていく教育、人間としての強みをどう育てていくか議論していきます。新井さんの『ロボットは東大に入れるか?』ということですけれども、そのプロジェクトの話を聞く前にそもそもAIとは何なのかについてですが、人工知能、AIを用いた技術について、その基本原理を新井さんはこのように説明されています。『膨大なデータを蓄積し、統計的に正しそうな答えを導き出す。設定された目的や条件に沿うように試行錯誤して適切な答えを導き出す』ということなのですけれども、新井さん、最適な答えを導き出すということなのですが、正しそうな答えですとか、試行錯誤して最適な答えを出すということで、明確な答えを出すというわけではないということなのでしょうか?」
新井教授
「そうですね。膨大なデータが2000年代に入りましてから急速にデジタル社会と共に増えてきた。そういう中で蓄積されたデータを用いて、統計的に正しそうな答えを導き出すというのが1つ、あります。それ以外には自動運転等で少し使われたり、エネルギーの最適化に使われたりするような設定された目的とか、目標に向かって、こうすれば、1番いいんだというのを試行錯誤で教師データなしに求めるという、その2つですか、現在、人工知能のAI技術として1番着目されているのは、その2つだと思います」
松山キャスター
「AIというと、もう人間の能力を超えた、コンピュータがコンピュータをつくり出して、ある意味、人間社会を侵食していくのではないか、みたいな、SF映画のようなイメージがありますけれども、そういうことではないわけですよね?」
新井教授
「ええ、そういうことではないですね。少なくとも今回の第3次AIブームの中はそういうわけでは全然なくて。ただ、囲碁であるとか、将棋であるとか、人間の知性を代表するようなものにAIが名人とか、チャンピオンを負かしたりしたので、そういうことで大変注目されていますけれども。将棋や囲碁というのは、何が勝ちなのかということがはっきりしているとか、ゲームのルールがある事前にはっきりしているとか…」
松山キャスター
「一定の条件が狭められたあとということですね?」
新井教授
「そうですね、ええ。たとえば、本当にこういうスタジオでこんなお話をするというようなことというのはルールもなければ答えもないことですので、これがなかなか代替されるというのは難しそうだなという感じがいたしますね」

人口知能が人間を超える? AIの可能性と『進歩のカベ』
生野キャスター
「先ほどの教師データというのはどういうものなのですか?」
新井教授
「教師データというのは、たとえば、画像ですと、この写真というのはリンゴが写っていますとか、これはサルが写っていますというような、答えになるデータですね。ですから、東ロボくんの場合、たとえば、センター入試の過去20年間の問題の、この問題は、これが答えですとか、この英語翻訳は、これです、というような問題と答えのセットになっているものを教師データと言いまして。そういうものを大量に集めてきていると、うまく画像認識であるとか、Siriのように、音声で聞いて答えるとか、そういうことができつつあるということですね」
松山キャスター
「教師データという部分については、人間がある程度方向性を決めて、こういうデータを集めて入れるという、そういう作業が必要になるものなのですか?」
新井教授
「そうですね。ですから、人間が教師データをつくっているので、それが100点と思ってがんばりますから、それを超えるというのは教師ありだと考えにくい話なので。そういう、なぜか知らないけれども、突然、人間を超え出してというのは、そこのロジックというのは現在、全然わからない、まだSFかなというふうに思いますね」

人口知能『大学受験』調査 解ける問題・解けない問題
生野キャスター
「新井さんが手がけられた人工知能プロジェクト、どのようなものなのかをここから聞いていきたいと思います。2011年から始まりましたプロジェクト『東ロボは東大に入れるのか?』。このAIは東ロボくんという愛称で呼ばれています。初めて受験したのが2013年の模試だったのですが、5教科の偏差値が45だったのですが、2016年には57.1と上昇しました。最も良かった教科は、世界史で偏差値が66.3です。以下、物理、数学と続くのですが、最低は英語のリスニングということになっています。まず『東ロボプロジェクト』のそもそもの目的は何だったのでしょうか?」
新井教授
「2011年の段階では、まだ人工知能のブームが来ると、どなたもまだ認識していらっしゃらなかったんですよ。新聞とか、メディアでも、人工知能とか、AIとか、AIと書いてあると、これは『愛』ですかと聞くような方がいらっしゃるぐらいの時代でした。日本には大きいAIのプロジェクトが1つもなくて、でも、国立情報学研究所としては第3次AIブームが来るだろうというふうに思っていて。日本でもきちんと、研究所だけでなく、企業も連携して何か大きなプロジェクトをしないといけないなというそういう認識がありました。特に海外から、今回のAIブームはアメリカから入ってくるのはもう明らかだったんですね。GAFAと呼ばれているグーグルとか、アップル、あるいはフェイスブックとか、アマゾンとか、そういうところから入ってくることは明らかだったので。プレスリリースでは必ず良いこととか、こういうことができましたというのは大々的に発表がされるわけです。なんですけれど、何ができないかとか、どこにつまずくかとか、どこが課題かとか、そういうのはなかなか外に出てこないことなので、むしろ可能性とともに限界というのを自分達が、日本の中で、ああ、ここはできないな、これを使ってもできないなというのを認識するということが、特にモノづくり大国ですので日本は、モノづくりに必要な精度を人工知能が出せるかというのが非常に重要なことだったので、どうしても私達は、これをやらなければいけないというふうな、そういう意識でやりました」
松山キャスター
「ある意味、AI技術の限界みたいなものもきちんと示すために、それも研究目的の1つとなっている?」
新井教授
「そうですね、はい、まさにそうです。加えて、今日の話題もそうですけれど、入試というのは人間との相対的な知能ということになりますね、絶対的なことではなくて。ですので、それは労働市場にどういう影響があるかということを見るうえでもとても重要だなと思っていたんです。1番嫌だったのが別に東大には入ると最初から思っていなかったのですけれども、実は、なんですけれども、ボリュームゾーンと言うのですか、ホワイトカラーになるつもりの大学受験する子達の偏差値50、あるいは50ちょっと上というあたり、つまり、中央値とか、平均値を超えることというのが1番怖かったので。この最後の、57…、偏差値50の後半というのは自分でも大変ショックを受けましたね。これではちょっと労働市場が混乱するだろうなというような数字だなというふうに受けました」
松山キャスター
「それは、ボリュームゾーンの人達のレベルがAIとかなり拮抗していて」
新井教授
「そうですね」
松山キャスター
「将来、それは仕事がAIに取って代わられる可能性があるというふうに計算できるということですか?」
新井教授
「そうですね。ですから、本来だったら、人工知能にはいろいろな限界がありますので、人間はこれをうまく使いこなして生産性を向上できれば、大変ハッピーな結論になるので。AIというのは、本当に計算機が入って、電卓が入って、そろばんはあまり使わなくなったけれども、そう失業が出たわけではありませんねと、かえって生産性が向上しましたね、同じようなことが起こるためには人間の方がAIを使いこなせるだけの、あるいはAIに助けてもらうことで生産性が向上できるような基盤的な能力が必要だったのに、どうもそうではないらしいというのが、その結果から受けた印象でしたね」
生野キャスター
「新井さんは著書の中で、AIが苦手とする分野については『人間の領域』だと話されています。たとえば、『高度な読解力や常識』『柔軟な判断や発想力』、それから『コミュニケーション能力』となっていますけれども。コミュニケーション能力については、先ほど、あったように会話するロボットがいたりしますが、それはまた別なのですか?」
新井教授
「ええ。ですから、会話をすると言っても、雑談をしたりするとか、ちょっとその場でというのならいいのですけれども、そうではなくて、何か個別・具体的な問題を解決するために、こう話をしましょうとか、そういうことは無理ですね。ですから、何か良さそうに見えるので、もう先に一歩と言うと、とんちんかんになっていく感じがあるんですね、統計だけだと。本当のコミュニケーション、真のコミュニケーションというのは一期一会なものですから、統計ではなかなかカバーが難しいですよね。一期一会ですよね」
松山キャスター
「尾木さん、逆に見ると、このAIが苦手なことの部分に特化して、人間がドンドンこういう教育を積んでいけば、逆にAIとすみ分けがうまくできていくという、そういうことなのですか?」
尾木氏
「そうですよね。そのすみ分けが大事かもわかりませんよね。このへんのことというのは、本当に人間であれば、生活年齢が上に上がっていけば、ドンドンできることで。だから、こういうのを見ると、まだまだだというか、何か優越感もちょっと持てるわね」
生野キャスター
「人間とAIとの差というのは、こういうところになってくるのですか?」
新井教授
「そうですね。常識をAIに持たそうとか、そういう状況判断ができるように、しようみたいなことというのは本当にもう何十年もずっと研究はされているのですけれど、なかなか成功しない分野ですね。ですから、状況というのは本当に、画像認識でも、犬猫を見分けるのに何か画像を100万枚ぐらい見せたりするのですけども、子供って、2、3匹見たら、わかる。2、3匹でわかるのはなぜかなというのは、本当に不思議だなと思って。だから、人間は無理にあまり人間に不得意ことをAI的に詰め込むのではなく、むしろ人間に本来備わっていたはずの機械にはできないことを伸ばすにはどうしたらいいかというのが、このあとの教育の設計になってくるのかなと思ってはいます」

試験問題が読めていない? 子供達の『読解力』調査
生野キャスター
「では、ここからは『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』について聞いていきたいと思います。新井さんは、中高生を対象にその実態調査をされているということなのですけれど、児童の正解率が低かった例題なのですが、『次の文を読み、メジャーリーグ選手の出身国の内訳を示す図として適当なものを全て選びなさい。メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが、その出身国を見るとドミニカ共和国が最も多くおよそ35%である』。この文章が表している円グラフを、この4つの中から選ぶというものです。この問題、中高生の正解率が低かったということで、中学生が12%、高校生28%の正解率だったのですが。これは新井さん、どうでしょうか?」
新井教授
「AIはそんなに高い読解力があるわけではなくて、だいたいキーワードで統計的に当てにいっているとか、そういうような状況なので。もしもきちんと子供達に常識があって、状況判断ができて、そしてきちんとした深い読解力、読解力というと国語みたいな難しい感じがありますけれども、そうではなくて、普通にきちんと読めていけば『Society 5.0』というか、AIが来る時代も怖くないなと思っていたのですけれど。何か子供達の誤答を見ているうちに、あら?この人達もしかしてAIと似ているように文書を読んでいるのはないかなというような一抹の不安がだんだん出てきまして。それで、こういう調査をしてみようと、ふと思い立ったんですよね。これまで5万人、小学校6年生から実は一流企業の大人の方まで受けていただいて、特に中高校生を多く受けていただいてもらっているのですけれども、その結果が、ちょっと驚くべきことだったというようなことでした。特にこの問題が大変興味深くて、これは絶対、AIは解けないですよ」
尾木氏
「解けない…」
新井教授
「AIが解こうとすると、たぶん28%、アメリカ合衆国、ドミニカ共和国35%、みたいなキーワードを拾っちゃうので、たぶん4番のグラフを選んじゃうのだろうなと思うんですね。だから…」
松山キャスター
「そのデータが全部入っているグラフとして?」
新井教授
「ええ、そうです」
松山キャスター
「それはこの設問のうち、メジャーリーグの選手の『うち』とか、そういう部分が認識できないということですか?」
新井教授
「ええ。『アメリカ合衆国以外の選手のうち』というのもわからないということですよね。なんですけれど、まさに先ほど、中学生12%で、高校生は28%ですけど、多くの間違えた人が、実はAIと同じで4を選んだ…。だから、『以外の』とか、『のうち』とか、というようなところが実は読めていなかったというのがわかったんです」
生野キャスター
「尾木さん、どうですか?」
尾木氏
「いや、僕、この間、ほんの1か月も経たないのですけれど、大阪のある番組でこれを実際やってみたんですよ。アイドルの子達21、22人ぐらい、高校生から大学生まで入って。それで新井先生がいつも言っているからというので実験してみたの、アレをそのまま。もうぶっつけ本番ですけれど。そうしたら、なんと2番と答えた子、正答が出た子がゼロです。ビックリして、それで順番に聞いていったら、その会場では、1番多かったのは3番で、その次に4番でした。3番、4番というところなんですよね。それで、僕は高校の教師を長年やっていましたから、なぜ間違えたのかというのがどうしてもわからないんですよ。僕が教えていた時代は、あれぐらい皆、解けたんですよ、ええ。だから、これはどうなったのかと…、焦って、それで新井先生の解説を読んでいたものですから、『うち』とか、『以外』というところで引っかかったのかな、本当なのかなと思って、この『以外』というところでわからなかった人と言ったら、7、8割が手を挙げるの。ヘーッと思って。では、『うち』というのもわからなかった人と言ったら、また手を挙げるんですよ。それで、なぜ『以外』がわからないのともう一歩突っ込んだら、何と答えたかと言うと、高校生の子、お姉さんは、アメリカ合衆国というのに気をとられていたら、何もわからなくなったと言うんですよ」
新井教授
「そう」
松山キャスター
「それは、普段の生活の変化がそういうところに、たとえば、スマホをしょっちゅういじっているとか、何か検索ばかりやっているとか、そういうことによって脳の動きが、単語、単語だけを拾うような仕組みになっちゃっているとか、そういうことなのですか?」
尾木氏
「いや、それは、僕はまだわからなくてウチの研究所のこれからの課題にしようと思うのですけれども。メチャクチャ、僕にとっては不思議な感じで。これまでも本当にずっと教えてきましたから、44年教壇に立っていますから。そんなことはあり得ないですけれども、起きているんですよ、現実に」
生野キャスター
「林さん、どうですか、この現状は?」
林文科相
「いや、この話を大臣懇談会の中で新井先生に聞いたんですよ。そのこと自体もショッキングなのだけれども、AIと同じ答えになっちゃったのはもっとショッキングで。AIと同じ思考回路で先ほどの問題だと『以外』とか、そういうところが全部わからなくて、名詞だけですよ、28とか、外国人とか、アメリカ人とか、そこだけで、先ほどの問題を出してもらうと、たぶん28とアメリカは近くにあるんですよね。で、今度、ドミニカと35は近くにある。近くにあるところで見ちゃって、たぶん4番になるのが第1のショックで。第2のショックはそれが機械学習と同じ論理だから、と言うことは、AIがない頃は、それでも仕事があったと思うんですよ。わからなくても。だけど、これからAIがドンドン出てくると、AIと同じことしかできないと、仕事をAIにとられちゃうということですよね。それが2番目のショックで。これは非常に…、ただ、良い勉強をさせていただいたので、では、どうするかという、この懇談会の報告書ではいろいろ考えて出しているのですけど。先ほど、いろいろスマホをいじっているから、ちょっとわからなくなったというよりも、最初にたぶん、小学校の高学年から中学校ぐらいの時に、読解力を習う時から、ちょっとわかっていないままいっちゃったのではないかという気がしているので。そこがポイントではないかなと思います」
松山キャスター
「それ以前の教育と比べて、いつぐらいから、そういう傾向が見られ始めたとか、そういうデータはあるのですか?」
林文科相
「いや、それは新井先生に同じ質問をしたんです。過去のデータはないのですかと。過去20年ぐらいね。残念ながらないんですと。従って、我々の感覚とか、先ほど、尾木先生がおっしゃったように自分が教えていらっしゃった時と比較して、個人の、個人のそれぞれの記憶で言えば、昔が現在よりもっと悪かったと言う人はおそらくいないと思うんですね。従って、何らかの原因でちょっと落ちているし、PISAの、PISAというのはOECD(経済強力開発機構)で皆やっている調査ですが、これも若干、ちょっと読解力が落ちているというデータは出ています。よく思いつくのは、あまり長い文章を書くのが減って、手紙はあまり書かないし、メールだし、SNSだしというのは言われていますよね」
松山キャスター
「データとしてなくても、たとえば、教える側、小学校・中学校の教師の方から、いや、最近いろいろ教えているのだけれども、どうも子供達の理解が、文章を集中して読んでいないみたいだ、みたいな、そういう感想が上がってくることというのはないですか?」
林文科相
「それは、直接は聞いていませんけれども。新井先生が全国の学校にこの調査に参加しますかと問いかけをして、何高でしたか?」
新井教授
「189校で5万人ですかね」
林文科相
「189校でね。それぐらいの学校がちょっと調べないとあかんかなと思っているということだと思うんですよね。だから、現場はそういう認識が薄々あるのかなと思っています」
生野キャスター
「どうですか?現場で教えている…」
尾木氏
「現場ではそういう声は聞くのですけれども、僕は本気にしていなかったんですよ。恥ずかしいのですけれども。ほら、自分の経験、経験主義になっちゃうのね。そんなことはあるわけがないと思っていて。だから、新井先生の本も疑いながら読んだの、本当に。でも、おっしゃっていることには説得力があって、早く会いたいと思っていたんですよ」
林文科相
「どうしても、そんなバカなというね…」
新井教授
「ええ、私もそんなバカな…」
尾木氏
「だって、それがわからなかったら生活できないという感覚が僕なんかにはあるんですよ」
林文科相
「ですよね」
尾木氏
「男子以外はこっちへ行っていないさいと言った時、女子も一緒にぐちゃぐちゃになっちゃうのかと思ったら、恐怖ですよ、これは」
松山キャスター
「新井さんは、この調査結果が出た時に衝撃的だったと話していましたけれど、なぜこういうことに現在なっているのだろうと、その原因についてはどう感じていますか?」
新井教授
「1つは、情報の入り具合が非常に過多になっているのだろうなとは思うんですね。インターネットとか、スマートフォンとかですごい量の情報は入りますから。飛ばし、飛ばし読まないと間に合わないのかもしれないなという。そういう中で、LINEとか、そういうようなもので飛ばし、飛ばし読んでも、読まないと間に合わないような状態になってくると、その読み方が定着しちゃうのかなということは思わないではないですけれども」

人材育成と学校の将来像
生野キャスター
「文部科学省では、昨年11月から林大臣のもとで『Society 5.0』という、AIやビッグデータなど最先端技術が産業や社会生活に取り入れられる新しい時代の学校や学びのあり方などの議論が行われ、先月、今後の教育政策の方向性がまとめられました。新たな時代における人材育成について、共通して求められる力は、基礎的読解力、数学的思考力、情報活用能力などです。また、新たな社会を牽引する人材としては、技術革新や新たな価値を創造できる人材、社会的な課題と技術革新をつなげる人材、AIやデータの力をフル活用できる人材などです。こうした人材を育成するための例としては、現在、文系理系と分断されている状況を融合させていくことなどが挙げられています」
松山キャスター
「後段の部分で理系と文系の分断、これを解消していくことが処方箋になる?」
林文科相
「これは逆に今度はこの『Society 5.0』になった時にかなりAIとか、そういうものを使いこなしていかなければいけなくなると思うんですね。そうしますと、その基礎になる数学とか、そういうところが、ちょっと数学は得意ではないからと言って、受験の時に、我々の時は私立文系みたいなクラスが…」
生野キャスター
「分かれてしましたね?」
林文科相
「数学はやらなくてもいいんだみたいなことになっちゃうと。もうそれはなしで、分離というよりも全部やりましょうと、ちゃんと。なるべくまんべんなくやってもらって、今度、理科系の人も僕は数学だけをやっていればいいですということでは必ずしもなく、できれば高等教育で哲学とか、そういうものがわかった人が技術の分野でいろいろなことをやってもらう。そうとうなのとは、個人名、個社名を出すと、グーグルを引けば、いろいろな知識はあるわけです。だから、それを、どれとどれを組み合わせて、どの人にどの仕事を割り振って、というのを実際に引っ張って、やらなければいけないので。どれか1つだけできるというのでは、ちょっと困るなというところがかなり…」
松山キャスター
「日本のこれまでの経済発展の経緯からすると、ある意味、文系理系がきっちり分かれていて、理系だったら化学技術の分野に特化した専門分野を極めて極めて、職人技みたいなところまでいって、新しい技術を生み出すと、そういう効用みたいなものもあったと思うのですけれども」
林文科相
「そうですね、いわゆるビューロクラシーというやり方で、分業して専門家をつくってということですが。では、その法律を学んで、弁護士になって、知財が専門だという人が出てきますよね、現在、商法だと思いますけれど。ただ、知財の分野でこういう判例があるとか、アメリカでは現在、最新の判例はこうなっているということは、たぶんグーグルを引いて出てきますし、その中でこの問題についてはどういう判例が1番近くて、こういうたぶん判例が出そうだというのをたぶんAIで出せるようになってくるので。では、そういう時にどうすべきか、倫理感として、科学技術としては別のリサーチをすべきなのかとか、いろいろなところにまたがった判断を人間がする必要が出てくるということで、その細分化された専門家というのが、たぶんAIに置き換わる確率が増えてくるだろうと、こういうことだと思うんですね」
松山キャスター
「新井さん、『Society 5.0』の方針、大まかな方針を見てどう感じますか?」
新井教授
「いや、これは拝見した時にすごく感動して、林大臣だからこそこれは出せたものだなというふうにはすごく思いましたね。特にAIということで騒いでいると、すぐに何かAI学部をつくりましょうとか、あとは1年生からプログラミングをこうやりましょうとか、そういう話になりがちなところだったのを、共通して求められる力というのは全員に必要で、それがまさに公教育の使命なので。そこのところはしっかり全員、少し時間をかけて、手をかけなければいけない子は手をかけてでも、きちんと中学校を卒業するまでに公教育の中でなんとかしようということですね。お話があった、その脱文理というのは、文理分断というのは、えっ、この時にAIをすごく極めた人をつくるのではなく、文理融合なのというのはすごく意外性があったと思うのですけれども、まさに、本当にこれが必要なんです。なぜかというのを申し上げると、たとえば、EU(欧州連合)が現在、AIの戦略を練っているんですね。その時にどういう人が活躍するかと言うと、AIとか、ロボットの中身をよく知っている法学者とか、哲学者がまさに法律をつくって、GDPRのようなものをつくっているわけなんですね。ですけれど、日本だと法学部の方に言うと、いや、自分は数学はよくわからないので、みたいな話になってしまう、それがまた問題。もう1つは、今度はAIの側も男性比率が本当に95%以上なんですね、エンジニアの世界は。でも、これからはサービスをつくらないといけない、AIというのは。半導体の頃はあまりジェンダーとか、関係ないですけれど、サービスと言うと半分は女性が消費者になりますよね。そうすると、女性の気持ちとか、女性が困っていることとか、女性がどう受けとめるかとか、弱者がどう受けとめるかということに寄り添う方がつくった方がサービスにしても、特許にしても、その生産性が高いんですね。そういう意味で、あまり分離を早い段階に分けて、特に片方は男性が95%で、あるところは女性が95%、みたいなことにならないようにした方が実は生産性が高い包摂型社会に近づけるというのを見抜かれたというところの慧眼はすごいなというふうに思いましたね」
松山キャスター
「尾木さんはいかがですか?」
尾木氏
「いや、これは本当に素晴らしいなと思いますよね。それで僕ら教育の領域では、『Education2030』というのがキーワードになっていまして、これはOECDが2015年、3年前に立ち上げたプロジェクトですけれど。今年あたりから翻訳した結論が出始めましたけれども。その中で言っているのは、これからの時代は、2030年、つまり、AIが49%の仕事をやっちゃうよと言われる、その時代において必要な力は何かと言うと、一言で言うと生き延びる力と、こう言っているんですよ。これは日本の文科省『生きる力』とかいう表現をしてきましたけれども。生き『延びる』がついているわけ。非常に切迫した表現になっているのですけれども。で、学力を構成する要素というのは3つあるというので、1つは新しい価値を創造すると、まったく創造性の問題ですよね。それから、2つ目は緊張とか、このジレンマの、個々の調整能力と言うわけですよ。これは経済のところを見ても、政治を見ても、米朝会談とか、いろいろ、ドキドキするようなことばっかり起きていますよね。それから、3つ目が、自分で責任を取る能力というふうにまとまっているんです。そういう力というのをどうしてつけていくかということをじっくり考えていくと、なるほど、良くできていると僕は思っているのですけれども。そういう考え方と、今回のこの『Society 5.0』というのは、きれいに重なり合っているというふうに思います」

人工知能AIが描く 残される『ヒトの領域』は?
松山キャスター
「新井さん、本の中で、僕チラッと読んだ中では『半沢直樹さんは将来いなくなる』ということを書かれていましたけれども」
新井教授
「半沢さんみたいな、数字で判断をするというか、与信審査みたいなのはだんだんAIに代わっていくと。だけれど、起業をするとか、起業を助けるというタイプの半沢直樹さんの別の側面もありますね。そこは決してなくならないので、半沢さん自身は失業しないとは思うのですけれども。ああいう生き伸びる力の強い方は大丈夫だと思います。そういうふうな新しい価値をつくり上げていくようなタイプの方というのがこれからドンドン求められていくとは思いますね」
松山キャスター
「林さん、そういうことも含めて、これからの教育の方向性というのは、そういう方向に変わっていくべきだと」
林文科相
「そうですね。我々がこの中に出したヤツはもうちょっと中長期的な、モデル事業でやっていこうということですが、現に新しい学習指導要領でプログラム的思考とか、英語とか、いろいろなものが入っていて、その内実は、アクティブラーニングというものが入っていまして。これをこれからやっていくのですけれど。たとえば、いじめの、このことを学ぶ時、いじめた人、いじめられた人、見ていた人、3つの人がいました。こうこう、こうなって、この子がこうなって、かわいそうなことになりました、こういうことがないようにしましょうと先生が言って終わるのと、では、あなたはこの役、あなたはこの役、3人でやってみましょうと。こういう言葉を言われたら、どう自分が感じたかというのを、実際にやってみて、今度は役を入れ替わってみましょう、そうすると、いじめられた子の思考が今度、いじめた方にまわるとか、傍観している子にまわれば、変わってくるんですね、やることが。それを何回か繰り返して皆でそのあとディスカッションすれば、たぶん授業が始まった時と終わった時でかなり深い学びができているんです。自分がなにげなく喋った言葉が、ああ、こういうふうに受け止めちゃうのだ、自分でもその受け止める経験を実際にするわけですから。そういうことでやっていくというのが、知識ではなくて、知識がもとにあるのですけれども、それをさらに深くしていくというのは、人と人同士がやりとりをして、実施に感じてみるというのが加わることによって深く学べる。そういうものが今度は、大人になって、そういう場面に出てきたり、いろいろな人達と一緒に強調して働いたり、このグループをリーダーとして率いていくという時になると役に立つと、こういうことだと思いますね」
松山キャスター
「尾木さん、林さんが話された1つの例ですが、アクティブラーニングという文科省が推進しているものの1つですけれど、これについては教育の現場ではどういうふうに?」
尾木氏
「これは、大賛成ですね。これでないと、本当に深い学びにつながっていかないということはもう明らかです。だから、昔から体験学習的なことは現場ではずっとやってきたのですけれども、それを全ての教科に学び方まで、アクティブラーニングが良いよと。主体的・対話的で深い学びという日本語でも置き換えているのですけれど。それはすごく重要だと思うんです。もう本当にこれは絶対にやっていかなければならない学びで。知識をただ覚えていて、テストになったらそれをずっとアウトプットしていけばいい、これが学力だと思われていたのですけれど、これは本当にAI時代においてはまったく通用しないですから、それを超えたものをやっていかなければいけないし、それから、大事なのは、自分1人ではなくて、グループでとか、皆で協力していくというところが大きなポイントですよね。答えは1つとは限らない。いくつも出てくるような問題にどういうふうにしてチャレンジしていけるかという、そこがすごく重要で、大転換しなければいけないと思います」
松山キャスター
「新井さんは、このアクティブラーニングについては、最低限の知識、最低限の学習をしてからやった方が効果的だという考えですか?」
新井教授
「アクティブラーニングにもいろいろなレベルがあるんだと思うんです。1時間ずっとアクティブということと、あと小さいアクティブというのがあって。現在、戸田市や板橋区といった、このリーディングスキルテストは、先ほどご紹介した短い文をきちんと読む、メジャーリーグの問題、ああいう問題を読めるようにするために、どういう授業をつくっていくかということで、いろいろな先生方と一緒にやっているのですけれども。そういう時に、こういうふうに読みなさいというふうに教えるのではなくて、たとえば、この間あった、面白い授業があって、文に書いてある通りに図形を並べてみようという、そういう授業があったんですよ。その中に、たとえば、二等辺三角形の右側に長方形を描きましょうというような課題があって。それをいろいろなタイプの二等辺三角形と長方形がありますから、それを子供達がそれぞれ作図しても、もうそれでアクティブなんですよ。それで隣の子のを見て、それは合っているかどうかというのをお互いに交換する。それで決まらなかったら、今度は6人のグループでそれを見て、それでも決まらなかったなら、クラスで見る。それで1番議論になったのが、正三角形の真横に正方形がある図だったんですよ。二等辺三角形の横に、右隣に長方形がある。だけども、それなのだけど、正三角形の横に正方形がある絵があった。そうしたら25人だか、26人のクラスだったんですけど、1人残らずして皆これは間違っていると言うんですよ。これは合っているんです。どうしてかと言うと、正三角形も二等辺三角形で、正方形も長方形の1つ。でも、4年生にはそれがわからなく、いや、これは変だ、変だみたいに皆、言うんです。それで先生が最後に二等辺三角形はどういうことだったっけと。3年生の教科書にこう書いてあるよね、この書いてあることから見て、これはどうだろうというのを吟味させるという。それはパッと聞くと、そんなにアクティブではないように思うかもしれないですけれど、徹頭徹尾、アクティブラーニングなんですよ」
林文科相
「そうですよね」
新井教授
「だから、自分で考えさせて、この定義に合っているのか、合っていないのか。自分で書いて他の子と交換して、そういう授業もあり得るので。なので、ただ体験授業をするというのだけがアクティブラーニングではなくて、そういう細かいアクティブというのを積み重ねて、それがアクティブに至れるような、その基礎的な力をつけていくということが、小学校とか、中学校の早い段階は重要かなと思いますね」

急進する高度情報社会 ヒトと人工知能の共存は
松山キャスター
「あらためまして議論の中でずっと出ているAI技術がこれから進化していくとますますそのAIの優位性というのも出てくると。データの分析ですとか、あるいは集積ですとか、そういった部分ではなかなか人間が太刀打ちできない分野も出てくると思うのですけれども。そういう社会の中で、今後AIと重ならない別の意味で、ヒューマンな部分でどういう特性を伸ばしていく教育が必要なのか。どういう生き抜く力を教育の中で育むべきか。そのあたり、林さんはどう考えますか?」
林文科相
「産業が10年後、20年後どういう産業になっているかというのは、とても予測は難しいと思いますので、どういう産業になって、どこまでいっても、人がやらなければいけない仕事があって、それをやるために必要なスキルは何かというのが、先ほどの報告書の基本的な考え方なんですね」
松山キャスター
「新井さんはどう考えますか?」
新井教授
「現在、たとえば、AI人材が足りないので、急いでAI学部をつくりましょうと言うと、たぶんその時にはもう遅すぎるということなのだと思うんですね。ですので、重要なのはAIの本質というのを見極めたうえで、2030年代以降の人材ということを目指して文部科学省はお考えだと思いますし、尾木さんもそういう問題意識でいらっしゃると思うので。目先のことにとらわれずに、少し長いスパンで考えた時に、人間力というのが大事だったなと。人間力というのは、むしろ、私、最近よく京都大学の山極総長に習って、ゴリラ力と言っているのですけれど。むしろゴリラに学んだ方がいいのではないかというようなそういう助け合う力とか、コミュニケーションする力とか、集団で育てていくとか、そういうむしろ戻っていった…」
松山キャスター
「人間本来の生活…」
新井教授
「ええ。どうしてもAI中心の生活というのは、画像と音声なんですよね、画像と音なんですよね。だから、五感のうち二感しか使っていないので。実はそのあとの三感を含めて、もしかしたら第六感も含めて、動物というのは非常に何か複合的な能力があるので。その二感だけでやるのではなく、もう少し総合的な人間力をどうやって育てていくかなというのが、実は公教育ですごく重要な課題かなとは思いますね」
松山キャスター
「尾木さん、いかがですか?」
尾木氏
「いや、新井先生がおっしゃったのはすごく重要だと思うんですよね。僕ら古い世代というのはIQ、IQと言って、IQが30も上がったとか…」
松山キャスター
「テストを受けさせられましたね、学校で」
尾木氏
「現在、あれはもう学校でもやりませんけれど、義務づけられていませんけれど。これからの時代はHQの時代と言われるんですよね。ヒューマニティ・クォーシェントということで。人間性指数というか、うん、人間性と社会性が出てきているという、そこに喜びを感じていくのは人間だけが持っている能力ではないかと言われていますね。だから、そこのところが勝負になってきて。まさにAIとまったく違うところで、そこがすごく重要だと思うんです。それから、もう1つ、創造性のところはどうしても欠くことができないと思うんですよね。ところが、悲しいことに創造性の調査というのをやってみると、日本は非常に低いんですよ。もう極端に低くて、たとえば、ここにもあるのですけれど、ある調査ですと、昨年の調査ですけど、日本と、それから、アメリカ、英国、オーストラリアとドイツと、この5か国の調査をやってみたら、日本の子供達は、自分は創造性があるというふうに、創造的な人間だと思える子は、他の国で言いますと、ドイツとか、イギリス、アメリカは30%、40%を超えているんですね。高いところは、アメリカは47%もありますが、我が国は8%しかないんです」

新井紀子 国立情報学研究所教授の提言:『リアルで切実な学び』
新井教授
「『リアルで切実な学び』ということなのですけれど。AIがいつまでもできないこととして、データというか、信号というか、記号を設置する、リアルに設置するということがいつまで経ってもできないんですよ。ですので、リアルであるということですね。ですから、学んだことが、表層的で、詰め込みではなくて、このことが、ああ、どういうことを意味しているのだって。先ほどの二等辺三角形型の話もそうですけれど、リアルに、ああ、こういうことを意味しているのだという、ストンと腹落ちをして、そのことというのは忘れないというような、切実な学びとか、切実な生活体験、それを是非してほしいなと思います」

教育評論家 尾木直樹氏の提言:『生涯学習手段としての大学』
尾木氏
「生涯学習手段としての大学にするということで。これは中学生・高校生・大学生までの学習世代というのは恵まれていくと思うのですけれども。日本の社会、まだ52%ぐらいですから、大学進学率は。半分の方、それから、もっと昔はもっと大勢の方がそういう十分学問も身に着けていないという中で、生涯学習の手段として、いつでも行ける、無料で行ける、大学改革を学歴社会から生涯学習社会のつくる手段にしてしまうという中で、皆が得をするって言うかな、成長できる社会をつくりたいなっていうふうに思います」

林芳正 文部科学大臣の提言:『I thinkのくせ』
林文科相
「『I thinkのくせ』と、ちょっとわかりにくいかもしれませんが。現在、習うと、これが正解ですと言われるから、それについて自分がどう思うかではないですね。だから、常に私はこう思うということを教室であれば言ってもらうとか。自分がなぜこれはこうなのかというのを自分で考えるという癖をつけるということが、AIと違った人材につながっていくのではないかなと」
松山キャスター
「自分の考え、自分の主張をしっかりと」
林文科相
「常に持っている。それを他人とすり合わせるということですね」