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2018年6月20日(水)
米朝会談から1週間 北朝鮮の次なる行動は

ゲスト

田中均
元外務審議官 日本総研国際戦略研究所理事長
木宮正史
東京大学大学院総合文化研究科教授
李柄輝
朝鮮大学校准教授

北朝鮮にとっての米朝会談
斉藤キャスター
「先週シンガポールで行われた歴史的な米朝首脳会談から昨日で1週間が経ちました。北朝鮮の政治事情に詳しい専門家の皆さんとともに、完全な非核化を約束した北朝鮮は今後どう動くのかを読み解いていきます。北朝鮮の労働新聞は会談翌日の13日、1面トップでトランプ大統領と金正恩委員長のツーショット写真を掲げて『朝米関係の新たな歴史を開く世紀の出会い』と報じました。北朝鮮にとって米朝首脳会談は大成功という評価のようですけれども、李さんも同じような受け止めですか?」
李准教授
「6月の11日の、この労働新聞の2日前の労働新聞に、金正恩委員長が平壌を出発したという報道がありました。その報道の中で初めて朝鮮側から見た今回の朝米会談の意味づけが提示されたわけですね。今回の首脳会談の議題というものは、これはまずは朝米の新しい関係を築く、2つ目は朝鮮半島に恒久平和を築く、3つ目は朝鮮半島の完全非核化及び双方の懸案問題を論じる、こうなっているんですね。これが11日の時点ですので、結果的に出てきた声明はほぼ同じなんです。つまり、朝鮮側からすれば、金委員長が平壌を発つ前の時点でアメリカ側と基本的な合意が見い出されていたし、また朝鮮側の要求というものをある程度アメリカが受け入れたと見ることが可能と思うんです。そういう意味では、朝鮮側にとっては非常に満足いく結果であり、長く続いてきた対米不信、対米敵対関係を解消する一歩として位置づけて評価していると思いますね」
松山キャスター
「北朝鮮から見ると、こういう内容は満額回答に近いものなのですか?」
李准教授
「満額回答とは言い切れませんけれど。ただ、長く続いてきた交戦関係を解消するのは、そんな早急にできないということなので、リアリティで見るならば。なので、最初の一歩をどう踏み出すか、その最初の一歩を首脳同士の信頼関係の構築と、その信頼を深めることによって敵対関係を解消していくという朝鮮側の論理ですよね。核武装主体がアメリカとの対峙の中で、戦時体制を強いられる中に出てきた問題なので、この根底を転換させなければ非核化もあり得ない。これは金正日総書記の時代からずっと言い続けてきた問題なのですが、それをアメリカの大統領が受け入れたわけですから、朝鮮からすると大きな扉を開けた、そのように思いますね」
松山キャスター
「田中さんはどう見ていますか?」
田中氏
「李さんがおっしゃったのは北朝鮮の論理かもしれない。だけども、それは国際社会の論理ではないですよ。国際法に違反して核兵器を開発していったのは北朝鮮だから。基本的には国際社会の要求に従って北朝鮮が核兵器を放棄するということが必要なのだと。だけど、目的はこれだけではなく、要するに、朝鮮半島に平和をつくろうと思えば北朝鮮が核放棄することはマストですよね。そういう行動をとっていく時にどういうアプローチが必要だと。要するに、アメリカが従来から言っているような、頭からCVID、一種、武装解除を迫るようなアプローチが結果をつくることができるのか、このアプローチは、トランプさん、アメリカがとるアプローチとしてはすごく新しいですね。おっしゃったような、信頼をまずつくろうと、共同作業で非核化という結果をつくりましょうと。これ自身は非核化を達成するために、実は唯一のアプローチかもしれないんですよね。だって、共同でやっていくより他ないわけだから。だから、信頼関係がないとそういう結果はつくれないし、実はこういうアプローチというのは日朝平壌宣言もそうなんですよね。私達があの時に交渉したのは、まず信頼関係をつくりながら、その中で正常化に向けていろいろな問題を解決していきましょうというアプローチをとったんですね。共同作業なんですよ、全部」
松山キャスター
「木宮さんは以前、当番組に出演いただいた時に、米朝会談の見通し、そんなに楽観はできないということを話していたと思うのですけれど、いざ、この結果を見てみてどう感じますか?」
木宮教授
「非核化について、要するに、4月27日の南北の板門店宣言とほぼ同じような内容であって。あの時には、これは米朝でもう少しやるのではないかということだったので、そういう期待水準から見ると正直ちょっと落胆はいたしました。もうちょっと具体的な、それこそ手続きとか、期限とか、それから、表現、CVIDがいいかどうかわかりませんけれども、表現ですね。それがもう少し書き込まれるのではないかなというある種の期待はあったのですけれども、それはちょっと正直言うとなかったと」

北朝鮮の次なる行動は? 『完全な非核化』に向けて
松山キャスター
「北朝鮮側の公式メディアがこのように伝えているのですけれども、『両首脳が朝鮮半島の非核化を実現する過程で
「段階的・同時行動」
の原則の遵守が重要との認識で一致』したと、これは従来の北朝鮮の主張にかなり近いものだと思うのですけれど、段階的・同時的措置というのをずっと言ってましたので。ある程度の非核化に向けた作業が進めば、その機に応じて制裁の解除などの見返りを要求するということだと思うのですけれども。この関連で言うと、先に中国をまた訪れた金正恩委員長も『双方が首脳会談での合意を一歩一歩実現すれば、朝鮮半島の非核化は新しい重大な局面が開ける』と。この『一歩一歩』というあたりにまだ段階的というニュアンスがちょっと入っているのかなという気がするのですが。結局、米朝首脳会談、アメリカ側が当初言っていたCVIDという主張については、アメリカ側の解釈では究極のゴールはそこを目指していくということを現在もシグナルとして発していると思うのですけれども、北朝鮮としてはそこは最初から応じるつもりがなかったということなのですか?」
李准教授
「いや、これは朝鮮からすれば完全な非核化、それがCVIDのレベルにいくかもしれない。つまり、現在の朝鮮側の表現では完全な非核化ですね、しかも、朝鮮半島の。それは出口だと思うんですよ。朝米の和解交渉の中で、ある時期に正常の国家関係になり、戦争の可能性が完全になくなる、そうなった段階で、結果論としてはCVIDにいくと思うのですけれども、これを、ましてやボルトン補佐官が言っていたように入口で縛っているのは論外ですし、現在の段階でまだ入口に入った時点でこれを明記するというのは朝鮮側からしたら受け入れられなかったわけですよね。今後、同時行動をやっていきますけれど、たとえば、アメリカ側は制裁の解除とか、米韓合同軍事演習の中止だとか、そういうものは瞬時に復活可能なわけですよね。朝鮮の場合は持っている手札というものが今現存の核ですから。これを一気に解除してしまえば、中途の過程で、こちら側の手札はなくなってしまうわけですよ。だから、共同作業でありつつ、前段階においてはまだディールという性質も残ってはいますので、そのへんは慎重にやっていく。ただ、ベクトルとしては最高指導者が必ず完全非核化にもっていくと言うことは、周辺国に約束しているわけですから。今後の流れは、そこに向かっていくというのは事実と思います」
松山キャスター
「田中さん、これはどう考えますか?」
田中氏
「最初にCVIDでない完全な核放棄はないですよ。究極的にはそれを達成しないと非核化の意味はないし、再び我々は誤魔化されるということになるから、結論はそこに着地するんですね。それが1つと。果たして、同時行動の原則と言うが、非核化に伴って現在の経済制裁を解除するということも含まれるかどうかということですけれども、私は、それは含まれないと思うんですね。なぜこういうことを申し上げるかと言うと、今の話というのは、非核化というのは安全の保障とか、平和体制の構築と対なんですよ。だから、たとえば、平和条約をつくっていくとか、正常化していくということは視野に入ってくると思いますよ。だけど、経済制裁というのは相当、明確な核の廃棄に向けた道筋が見えてこない限り、制裁を解除することはないと思いますよ。それはなぜかと言うと、あの制裁というのは国連安保理の制裁なんですね。ですから、よっぽど明確な非核化というものについての確証がない限り、それは、国際社会は許さないですよ。それから、他にも問題があるんですよ。たとえば、ミサイルの問題だとか、それから、他の大量破壊兵器の問題もあるわけだから。これは何も米国と北朝鮮が相互に同時行動をしていくということはさることながら、国際社会対北朝鮮なんですよ。国連の安保理が制裁を打っていることを勝手に解除するわけにいかないですよね。ですから、平和条約をつくるとか、それから、正常化のプロセスを始めるということはやるべきだと思いますよ、それは。究極的な核がない朝鮮半島をつくるということだから。だけども、経済協力をドンドンやりますとか、そういう話はないと思う」
松山キャスター
「そうなると、李さん、完全な非核化がある程度達成されない限り一切制裁を解除しないというアメリカのスタンスが変わらないとすると、北朝鮮側が主張しているような、段階的・同時的措置という流れにはならないと思うのですけれども。それは北朝鮮としては、そこは不服ということになってくるのですか?」
李准教授
「まず優先順位からすれば、朝鮮側はもちろん、経済制裁の問題は少なからず影響を及ぼしていますよ。しかし、金委員長の訪中なども通じまして、南北、朝中、朝露、このへんでは、国連制裁決議が解除されなければ実行できないプログラムもありますが、可能な限りの経済交流というものはもう稼働し始めているわけですね。そうなってくると、1990年代のように朝鮮側が兵糧攻めに遭ってしまう、そういう状況ではもうないわけですよ。今後はプラスの、テイクオフをいかに目指していくかという段階においては制裁解除は必要ですけれども、現存の社会を維持するにおいては国連制裁決議を無力化と言うのは少し語弊がありますけれども、そういう具合にやっていけると思うんですね。ただ、朝鮮が現在アメリカに求めているのは、まず安全の保証ですね。停戦体制という厳しい熾烈な状況の中で、圧倒的な力の非対称性の中で軍事にこれ以上、力を費やさなくていいような状況をつくらなければ、まず国内のポテンシャルもありますので、それを引き出すためにも軍事のプライオリティを下げなければならない。そういう意味で、朝鮮はアメリカと交渉しているわけですね」
松山キャスター
「木宮さんはどういう方向にいくと思いますか?」
木宮教授
「たとえば、北朝鮮の金正恩委員長自身が本当に戦略的に非核化ということを決断しているのであれば、たとえば、CVID、もしくはそれに近い表現を受けたということも私は選択としては十分あり得たんではないかと思うんです。ただ、金正恩さん、北朝鮮は、それはしなかったと。それは依然として本当に、いわゆるアメリカ、主にアメリカに対してそこまでの信頼はまだないと。まだ依然として北朝鮮のカードというのか、カード、核を保有しているというカードをとっておきたい、そういうことがあって、このCVIDというアメリカの、いわゆる提示した言葉には乗ってこなかったと思います。そのうえで、問題なのは、非常にこれは悩ましい問題ではあるのだけれども、ただ、もちろん、目に見える形で非核化に関する行動を北朝鮮がこれからドンドンとっていくということであれば、それに応じて、ある意味では可能な部分で、ある種の制裁を緩和していくということも、北朝鮮の非核化の原動力を失わせないためにはある程度、必要になってくると思うんですね。ただ、もちろん、たとえば、いわゆる本当の意味での無償経済協力だとか、そういう問題についてはかなり確信的な非核化に関する具体的な行動がない限りなかなか、これは国内世論、国際世論の問題もありますから、できないと思いますけれども。ただ、0か100かという問題ではなくて、現在の北朝鮮の非核化への原動力を我々はそれを頭から、お前が非核化しない限りはもう何もやらないぞ、ということではなくて、むしろエンカレッジして、それをある程度、萎えさせないためにある程度のことをしていくということは重要ではないかと思います」
松山キャスター
「田中さんは、非核化の具体的行動、そのあたりはどういうふうに?」
田中氏
「その前にちょっと誤解があるようなので、よく認識しておかないといけないと思うのですけれど。制裁は大量破壊兵器、ミサイルとか、核の開発に使われる、あるいは使っている人達をリストアップして、そこにお金がいくの止めましょうということですよ。だけど、石油だって、ある程度、人道的な目的のために石油が流れているわけです、現実に。だから、何か経済制裁はトータルに貿易を遮断するとか、トータルにお金を遮断するということではないです」
松山キャスター
「経済封鎖ではない、ということですね?」
田中氏
「ないですよ。だから、あまり制裁を解除するということの意味を、いや、これまでトータルに経済が孤立していて、あるいはそれを変えていくことで理解されていれば、それは違うでしょうということですね。それから今、木宮さんが言われたように、それは大きな流れが出てきた時に、これは交渉ですから、打ち出しのポジションはありますよね、それは。だけど、交渉だから誠意を持って非核化という方向に流れていけば、それは国連安保理制裁に触れなくてもできることはあるわけですね、実は。経済協力もあるわけですよね。ですから、そういうものというのは、私はあり得ると思う。だけど、何よりも大事なのは、今おっしゃった、いったい非核化のプロセスの中で、何が大事と思われますかということに対し、私が申し上げたように、核の弾頭、それから、核の生産設備、とりわけ濃縮ウランの製造設備、それから、プルトニウム型再処理施設、それから、ミサイル基地、そういうものについて全てを申告するということ。と言うのは、非核化というのは、あるいはベリファイアブル、検証できる非核化というのはどこに何があるかがわからなくてはできないんですよ。だから、先ほども共同作業ということを申し上げたけれども、それを査察していく人が出てくる。それはアメリカがやるのか、リビアの時にはアメリカ、それから、イギリスがやったわけですよね。ところが、たぶんこういうのはIAEA、国際原子力機関がやるべきことなのかもしれないです。だから、本当に北朝鮮が誠意をもって非核化をやっていくとすれば、我々も誠意をもって安全の担保をやらなければいけない。だけど、いったいその誠意をどこで測るのですかと言われれば、私は全ての施設を申告することだと、それに対して査察を認めることだと思います。それが最初にくると」
松山キャスター
「アメリカのトランプ大統領は非核化の費用負担について記者会見の中で、『日本や韓国が北朝鮮を支援することになるだろう』ということで、アメリカは直接の費用負担をする意思がないということを明らかにしていますけれども。一方、日本の安倍総理は『核の脅威がなくなることによって平和の恩恵を被る日本が費用負担するのは当然だ』と言って、非核化の特に初期段階の検証とか、査察などについてかかる費用については日本も応分の負担をするという考えを示しています。田中さん、アメリカ側のスタンス、『日本や韓国が支援するだろう』という、日本からすると、一方的に言われているような印象があるのですけれども、このあたりはどうですか?」
田中氏
「はい。非核化のための費用というのは、いったいどこまでをカバーするのかと、現在の段階ではわからないし、全部をカバーするのだったら、すごく膨大なお金がかかるわけですね。だから、ある意味、それは公平な負担をしなければいけないと思う。それは1990年の枠組み合意の時もそうだった。要するに、軽水炉2基を北朝鮮に提供するので、その費用は全部、日本と韓国で負担してくれとアメリカ政府は言ってきた。そんなことはあり得ないと、私は当時担当者だったのですけれども、アメリカに押し返して、結果的にどうなったかと言うと韓国と日本とアメリカが、傾斜がありますけれど、それぞれ公平な負担をするという結果になったんですね。ですから、非核化というのは当然のことながらアメリカの利益でもあるわけで、日本がお金を払わないということではなく、公平な分担をしましょうということであって、アメリカがまったく払わないということは、まったく意味をなさないと思います」
木宮教授
「確かに過去、枠組み合意とか、6者協議の時にも、アメリカは、なかなか負担は、ツケは他の国にまわすということ、そういう選択をとりがちだったので、ああ、またかといういうところはあったわけですけれども。ただ、受益者は誰かと言えば、これは、もちろん、日本も韓国も受益者ですが、しかしながらアメリカだって、これは受益者で。しかも、交渉を1番主導してやっているのはアメリカなわけですから。これは当然、アメリカにももちろん、日本も私は負担するべきところは負担してもいいと思うのだけれど、アメリカにももちろん、負担してもらわないと日本としても、韓国としても納得いかないと思います」

中朝関係の行方
斉藤キャスター
「昨日、中国を訪問した金正恩委員長ですけど、首脳会談後に開かれた宴会で演説しました。『朝中は同じ家族のように苦楽を共にし、心から助けて協力する姿は古今東西に類のない特別な関係に発展していることを内外にはっきり誇示している』と述べました。北朝鮮はアメリカと中国とどのようなバランスで今後付き合っていこうとしているのでしょうか?」
李准教授
「中国との朝鮮の関係なのですけれど、よく血盟関係と言われますよね。血盟関係なのですけれども、とりわけ1960年代の文化大革命の時代は相当激しく対立しました。しかし、そのように朝鮮労働党と中国共産党との関係は度々こじれるのですけれど、これが修復するというのは、必ずアメリカを前にした時なんですね。つまり、朝中の血盟関係の内実とは対米共同戦線なんですよ。ここ数年、なぜあの朝中関係がこじれたのか、その血盟関係を、朝鮮からすれば、習近平主席がアメリカのトランプさんと組んで朝鮮に制裁を加えたと、対米共同戦線が崩れたと認識して朝鮮は強く反発してきたわけです。しかし、現在の情勢の流れの中で、中国側から疎外感を感じているというメッセージが出てきて、金委員長は現在こそ修復の時期と思い、それで3月に電撃訪中し、これまで3回目という、こういう経緯にあるわけですね。なぜ朝中関係の修復が必要なのか、第1には、アメリカとの交渉の中で、いわゆる後ろ盾論。これはあながち間違っていないと思います。他方、もう一方では、朝鮮戦争終結に向けるためには締結国である中国のコミットメントは必ず必要になってくるわけですね。この朝鮮戦争の終結に向けた東アジア冷戦の解体の作業の中で、たとえば、アメリカとこじれた際に中国に介入してもらうと。そういうシナリオを持ってやっていると思います。ただ、今回の訪中に関しては対米戦線、対米協調のレベルを超えて今回、随行員が朴奉珠と崔龍海副委員長が共に行きましたので、常に朝中2か国の経済協力問題も今回、議論されたと思いますね」
田中氏
「北朝鮮という国は100%中国を信頼しているわけではまったくないです。あまり中朝関係が親しくなっていく、血の同盟、現在は両方から見ればそうではないのではないかという気がしますね」
松山キャスター
「一時は冷え込んでいたわけですからね」
田中氏
「うん。そのベースというのは、非核化ということで元に戻されつつあるけれど、本当に元へは戻らないです。中国というのは国際社会の中で失うものが大き過ぎますから、北朝鮮に表裏一体になっていくことについての、失うものは大き過ぎるから」

今後の日朝関係『拉致問題』
斉藤キャスター
「トランプ大統領は米朝首脳会談の直後に行われた電話による日米首脳会談で拉致問題に関して『金正恩委員長は解決済みと言及しなかった』、また『金正恩委員長は安倍総理と会う用意があると述べた』と、安倍総理に報告しているんです。しかし、15日、北朝鮮のラジオ、平壌放送は、論評で『日本は既に解決された拉致問題を引き続き持ち出し、利益を得ようと画策している』と報じて、拉致問題の解決を目指す日本を批判しています。李さんに聞きますけれども、金正恩委員長は拉致問題に対して解決済みと考えているのか、それとも話し合って解決する意思があるのか、どちらなのでしょうか?」
李准教授
「ですから、そのラジオ放送の『解決済み』というのは敢えて、ああいう報道を出したと思うんですね。現在、朝鮮側の公式的な立場、たとえば、平壌宣言というものを遵守するなら、平壌宣言というのは拉致問題の解決というものを確認し合った文書なんですね。ただその後、日本の世論が相当反発し、それは朝鮮の外務省側も検証といいますか、その結果に対しての十分な根拠が乏しかったということは認めておりまして。なので、ストックホルム合意で、日本側がこれまでの朝鮮の拉致に取り組む姿勢を評価したので、もう一度再調査をやってみると。だから、再調査の余地というものは示しているわけですよ。ストックホルム合意を見ますと、そこには仮にその生存者がいれば返す、また、日本の当局、関係者が朝鮮に入っていって調査をする、そういう項目も入っているんですね。だから、現実的には解決済みなのだけれども、ストックホルム合意以降は解決済みを固定化するのではなく、柔軟に対応しようという形にいますので、金委員長の決断次第だと私は思っていますね」
松山キャスター
「ただ、日朝平壌宣言の中でも『日朝間の諸課題・諸問題について誠意を持って取り組む強い決意を表明した』とありましたけれど、これは基本的には拉致問題も含めてというふうに日本で理解されていると思いますけれども。今回の米朝会談の中で、トランプ大統領に実際に言った内容、それほど多くは伝わってきていませんが、金委員長自身は『解決済み』という表現は使わなかったと…」
李准教授
「はい」
松山キャスター
「『安倍総理とも直接会う用意がある』という趣旨の発言をしていると。これは拉致問題解決に向けた何らかの前向きなシグナルと捉えるべきなのか、あるいは北朝鮮の拉致問題に対するスタンスは変わっていないと見るべきか、そのどちらですか?」
李准教授
「拉致問題、ワンイシューだけが日本では突出してしまうのですけど、朝鮮側から見ればトータルな朝日関係なんですね。そのトータルな朝日関係は、金委員長は必ずこれはいずれあって、国交正常化に向かうべきだという考えは、これは明白に持っていると思います。ただ、その入口に、このサミット外交に日本だけが蚊帳の外なのですけれど、私は、それは決して望ましい姿ではないと思っているんです。必ず金委員長は、いずれは日本の首脳と必ず会うと思います。ただ、会うためにも、拉致問題というのが必ず越えていかなければならない。それをどうしていくのかというのが現在、問われるわけですね。だから、私は現実的にはストックホルム合意の線に帰るという。安倍総理は平壌宣言には言及しておりますが、ストックホルム合意についてはまだ言及していないですよね。そこに立ち戻るのか、もしくは新しい枠組みをつくるのか、そういう具体的な行動がこれから必要だと思いますね」
田中氏
「私達の目から見れば、北朝鮮がやる調査だけを信頼するわけにいかないというのがあるんですね。大事なのは、合同調査をやるということですね、合同調査。要するに、日本の権限ある当局の人達と北朝鮮側の権限の当局の人達が行って現実に個々の事実関係を綺麗にして洗い出して、事実をまずつくるということです。アメリカだって何をやっているか。今度の米朝首脳会談の合意文書の中に遺骨を探すというのがあるわけですよ。それで、私が北朝鮮と交渉していた時もアメリカの海兵隊員が平壌に行くんですよ。私は飛行場で、あなた方は何のために行くのと言ったら、遺骨をとり返しに行くんだと。自分達の目で見て、自分達で拾うんだと。だから、私は、この拉致問題を総理はじめ重要な課題だと、最も重要だとおっしゃるわけだけれども、まず事実関係を確認するために合同調査をやるのだと。合同調査は、1か月、1回やってもなかなか出てこないですよ。私は、平壌に連絡所をつくるべきだと」
松山キャスター
「日本の連絡事務所を?」
田中氏
「連絡事務所。そこをベースにして拉致問題の事実関係を綺麗にしていくということを、本気になって取り組むということだと思いますね」
松山キャスター
「木宮さんは、この拉致問題解決へ向けた動き、現在の北朝鮮の金正恩委員長の一連の発言などを見て、前に進みそうだという感触は得られますか?」
木宮教授
「私は、金正恩委員長自身としては、日本との関係で言えば、日朝国交正常化、それから、日朝国交正常化に伴って、いわゆるこれは日朝平壌宣言の中で言及されているわけですけれども、いわゆる経済協力ですね、それは金正恩委員長としては是非ほしい。従って、日朝国交正常化交渉に向けた前向きな姿勢は、これから選択をするということになると思います。しかも、そのために日本政府が、いわゆる前提条件として、拉致問題の解決ということを位置づけているわけなので、私は北朝鮮としては可能であればというか、可能な限りこの問題に取り組むということはこれからしてくる可能性が高いと思います」
松山キャスター
「その拉致問題については、安倍総理はこのような発言をしています。これは今月18日の参議院決算委員会での発言ですけれども、『拉致問題が解決しなければ国交正常化はない。拉致問題の解決なくして経済協力を行うことはない』ということで、トランプ大統領が日本と韓国は経済支援するということを一方的に言っていますけれど、日本としてはあくまで拉致問題、拉致・核・ミサイルの全てが解決することが前提という言い方をしています。田中さん、安倍総理は、スタンスとして拉致問題についてはずっと強固にこの主張を繰り返しているわけですけれど、このアプローチをどう見ていますか?」
田中氏
「これは間違っていないと思うのは、平壌宣言にも書いてありますけれど、日本は経済協力、これは本格的な経済協力、これは韓国との正常化に伴ってやったような経済協力、こういうものをしていくためには実際問題として国交正常化がならないとできないですよと。なぜかと言うと、日本の国交正常化というのは国会承認条約ですよ。拉致とか、核とか、ミサイルの問題が解決しないまま国会に政府が持っていって、それで国会で承認されるわけがない。それを私は交渉の時に北朝鮮に明確にしたんですね。そんなことを言ったって、現実的に北朝鮮が求めたのはお金なんですよ、あの時。だから、私は拉致問題でお金を取引することはない。だけど、基本的にこれから誠意を持ってお互い協議をしていきましょうと、その中には国交正常化の話し合いも含まれるということを言い、それで現在、お金を明示するとか、経済協力をやるということを明確な具体的な形ですることはできないよと、あくまでも国会によって承認されたあとであるということを言って、それがスタンドしているわけですよね。ですから、そういうことから言えば、経済協力は正常化のあとだと。その経済協力というのは拉致とか、ミサイルとか、核の問題が解決しない限りできないよと言うことは正しいですね。ところが、たとえば、非核化のために、これまで日本は支援をしているわけですよ。たとえば、枠組み合意の時、1994年ですね。あの時は、日本は約10憶ドル、1000億円のお金を、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)という非核化のための機構に拠出しているわけです。ですから、そういう非核化のためにどういう経済協力をするかというのは、私は別の問題ではないかという気はするのだけど。あくまで大規模な経済協力を日本がやる前提というのは、正常化がなければいけないし、正常化のためには核・拉致、それから、ミサイルの問題を解決しないといけないよと言うのは正しいと思います。だけど、北朝鮮が現在、何がほしいかと言うと経済協力でしょうね、日本の。だから、それをテコとして使わざるを得ないわけです。だから、正常化交渉の中で拉致の問題を協議していくというのは、私は正しいことだと思うので。それは何も拉致の問題を、正常化の方で優先させるということではないんですよ。正常化交渉の中で当然、拉致の課題を協議していく。拉致の問題が解決しない限り正常化できないのだから、当然、優先事項としてやっていくというのは当然のことだと思うんです」
松山キャスター
「正常化交渉の、交渉の過程の中で解決してくということは、日朝平壌宣言の精神にもそれが盛り込まれているということですよね?」
田中氏
「はい」
松山キャスター
「李さん、どうですか?日本として拉致問題の解決がなければなかなか経済支援というところまでいけないという大前提があるのですけれども。入口論が、交渉の過程でやっていくのか、あるいは解決が先なのかという議論はあると思うのですけれど、北朝鮮としては、日本が、拉致問題がないと前に進まないと、お金は1円も出てこないんだって、そういう理解というのは北朝鮮の方ではあるのですか?」
李准教授
「私は日本に住んでおりますので、そういう日本の空気というのは十分に理解いたします。ただ、この平壌宣言に従う前に、この平壌宣言の、たとえば、日本が朝鮮に対する経済協力、これは国交正常化後であったとしても、なぜ日本が経済協力するのか、その前提があまり議論されていないわけですよね。それは田中さんが直接交渉されたのでご存知かと思いますけれど、これは小泉総理が過去の植民地支配について謝罪をし、それに対する本来ならば、補償なり、賠償という形なのですが、日本の外務省は一貫して韓国とのバランスをとるということで、経済協力方式、それを朝鮮側は謝罪があるからということで受け入れたわけですよ。ですから、この日本の経済協力というのは、過去の日本の朝鮮に対する、加害に対する実質保証ですね。だから、私はお金をまず出せ、こう言っているわけではないですよ。平壌宣言の仕組みはまずそうなっているわけです。そのことがあまり議論されていないので、そこは1つ前提にする必要があると思います。日本の世論も十分理解いたします」
松山キャスター
「田中さん、日朝平壌宣言をつくる過程で、拉致問題とははっきりとは触れませんけれども『諸問題について解決をはかる』というアレです、そういった諸問題についての部分と、あと経済支援の話、あとは植民地支配に対する謝罪みたいな話もありますけれども、どういうプロセスでこの宣言というのがまとめられていったのですか?」
田中氏
「これは、実際の話というのは、私達は拉致の問題は何としてでも生きている人を帰したいし、北朝鮮に認めさせたいと思ったわけですね。ところが、これは核の問題も同じだけれど、日本はそれだけの利益ではないわけですよ。いろいろな利益がある。日本が朝鮮半島の問題について過去の清算をしていないということも事実なんですよ。日本という国はいろいろな利益、サンフランシスコ講和条約で決められている日本として、韓国とやったことと同じことを北朝鮮に対してやるとか、その中でいろいろな包括的な問題を解決するとか、正常化をしたあと経済協力というのを包括的に話さないと北朝鮮はウンと言わないんですよ。拉致の問題だけを切り離して、それで解決するのか、それはそれに越したことはない。だけど、外交というのは、いろいろなものをバスケットにぶち込んで、お互いWin-Winになるというところに持っていかない限り、拉致という問題も解決がつかないですよ。だから、一方的に核の問題も同じでしょう。核を、武装解除しろと言って、本当に北朝鮮がするかというと、そうではない。現在ここになって初めて大きな枠組みの中でやっていこうということになったから、見通しが出てきたということだと思うんです」
松山キャスター
「アメリカもまずはプロセスを開始するというスタンスに変えたということですか?」
田中氏
「ええ。そうですね。それから、もう1つ、交渉の過程であったのは、北朝鮮にある段階で我々は拉致の行方不明人の捜査とか、そういうのを全て公表しろと迫ったわけですよ。そうすると、北朝鮮は、あっ、これは、日本のやっている交渉というのは、拉致問題だけの交渉なのだと言って、総理も訪朝しないのではないかという疑心暗鬼の目で見だした。だから、一定の時間をかけて、また元に戻さなければいけなかったということがあったんですね。それが難しい点の1つですよ。もう1つ、難しい点というのは、お金を要求し出した。お金というのは個人的なお金ではないです。拉致問題解決のためには経済協力をしてくれと。だけど、それはできないと、日本が。だから、それを現在のこの文書の中に経済協力というのが書いてあるけれど、具体的な額とか、そういうことに言及しているわけではないし、そんなものは何もないです。だけど、北朝鮮の交渉担当者は、いやいや、北朝鮮に対して示さなければいけないと、日本の真意、経済協力するつもりがあるんだということを。だから、この部分はすごく詳しく書いているわけですよ。方式とか、無償とか。だから、その交渉は、わかりません、皆さんがどう思われているかは知らないけれども、一方的な要求が通るものではないですよね。平和的手段で交渉する限り、ギブ&テイクの部分があるわけ。それは、皆さんは不十分だと言われるかもしれない。だけど、結果的に、我々の大きな目的というのは、包括的に日本の利益を担保する。そのためには一定の北朝鮮の要求も飲む必要がある、謝罪もそうだし、将来にわたる経済協力もそうであった。だけど、私が一貫して思うのは、共同作業でやっていかない限り、結果は出ないということですよ」

李柄輝 朝鮮大学校准教授の提言:『脱・東アジア冷戦』
李准教授
「私は『脱・東アジア冷戦』というキーワードで考えてみたいと思います。我々の眼前に起こっている朝米、南北、この一連の動きは、最後の冷戦の地域である東アジアの冷戦が解体に向かいつつあるということですね。そういう意味で、今後、朝日がこの東アジア冷戦後を引っ張っていくべきであるので、安倍総理にはそういうビジョンを示していただきたいと思います」

木宮正史 東京大学大学院総合文化研究科教授の提言:『国交正常化に経済協力をカードに』
木宮教授
「『国交正常化、経済協力をカードに』と。私はこれまでの日朝関係において、どうもいろいろ日本は前提条件をつけ、日本が北朝鮮に持っているカードをうまく使ってこられなかったのではないかと。これだけ米朝、南北がこういう状況になってくると、もちろん、非核化は重要ですけれど、まさに国交正常化と経済協力をカードにした交渉ということに踏み切る、そういう時期が来たと思います」

田中均 元外務審議官の提言:『信なくば 立たず』
田中氏
「『信なくば 立たず』ということなのですけれど。これは基本的に、政治というのは国民の信頼がないとできないよと、これは安倍さんが好んで使われる言葉のようですけれども。外交も同じなんですよね。相手との関係で信頼をつくることなくして、結果が出るか、それはそうではないということを私達は考える必要があると思う。北朝鮮という、けしからん国だということが故に、そういう共同作業ができないとすれば、それは残念なことだと。まず信頼をつくって、共同作業をやろうというのが正しい道のりだと思います」