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2018年6月1日(金)
『司法取引』運用開始 冤罪の危険性と対策は

ゲスト

山下貴司
法務大臣政務官
髙井康行
弁護士 元東京地検特捜部検事
今村核
弁護士
平松秀敏
フジテレビ社会部デスク

導入の背景と対象犯罪は?
生野キャスター
「犯罪捜査への協力と引き換えに刑事処分を軽減することができる協議合意制度、いわゆる『日本版司法取引』が今日からスタートします。他人の犯罪を明らかにする見返りに、罪が軽くなるというこの制度にどういったメリットやリスクがあるのか。専門家の皆様と共に日本版司法取引を徹底検証していきます。日本判司法取引について、どういった制度なのか詳しく、平松さんお願いします」
平松氏
「取引と言うのですから、何かをやって何かの見返りにということなんですけど。見ていただきたいのがまずこの弁護士・容疑者側、これは容疑者側と言った方がいいかもしれないですけれど、容疑者側からは捜査協力をしますよと、検察官に対して。どういうものかと言うと、首謀者がここにいたとして首謀者についての何らかの供述をしたりとか、あとは何かこの首謀者についての証拠を提示したりと、提出したりと、そういう捜査協力をします。その見返りに、検察官はこの容疑者について起訴を見送りますよと。だから、この見返りという部分があるので取引という言い方をするんですけれども。このポイントは、検察官・弁護士・容疑者が協議して、しっかり話し合いまして、合意に持っていくと。合意が成立しない場合は、それは成立しなくしないのですけれども。この協議・合意、これが弁護士立ち会いのもとこういう話し合いが行われて、成立して、初めてこの捜査協力の供述とか、証拠が使えるということになるのですけれど。それをもって首謀者が、今回のこれで表現すると、逮捕するということになるということなんです。なので、協力型という言い方をよくしますけれども」
生野キャスター
「これが日本で導入されることになった背景というのは山下さん、どういうことなのでしょうか?」
山下議員
「幾多の冤罪事件もあり。過度に取り調べや供述調書、調書主義と言いますか、そういうものに頼った刑事手法ではなかったかという反省がありました。そういった中で、被疑者被告人の権利も拡大しようと。今日スタートするのはこの合意制度と刑事免責だけではなくて、被疑者の国選事件の拡充とか、被疑者のための制度も、やっているわけです。そういったバランスの中で考えた時にその供述が1番大きな証拠になる、その供述をやるために、ともすれば無理な取り調べをやられたのではないか、特に説得をして、その気になってもらう、そのために無理をされていたのではないか、ということの反省も踏まえて。これは法制審議会の審議などを経て、諸外国の例、諸外国では司法取引と言われています、これは厳密言えば、日本と違うのですけれども、そういったものを参考にしながら諸外国では司法取引と言われています。厳密に言えば、日本は違うのですけれども。そういったものを参考にしながら日本では他人の刑事事件について捜査を協力した場合に一定の恩典を与えようという制度を導入しようということになったわけです」
松山キャスター
「高井さんに聞きたいのですが、今回、日本版司法取引が導入された、その背景には説得だけで供述を引き出すという手法の限界みたいなのがあって、別な捜査手法として、こういうツールとしての方法もあっていいのではないかという、歴史的背景みたいなものがあるということなのですか?」
髙井氏
「そういうことですね。要するに、可視化によって自白を得られにくくなったと。その隙間を埋めるための制度。要するに、1つの武器を検察から奪っているわけですから、それに代わる武器を与えたということになるんです。それから、もう1つ、先ほど、政務官が恩典とおっしゃいましたけれども、恩典を与えるのは、これは昔の制度で、この合意、協議・合意制度は、これは恩典ではないですよ、取引だから。だから、そこがある意味で本質的に違うんです」
松山キャスター
「対等の立場で取引をするということですか?」
髙井氏
「そうです。ですから、この制度によって検察官と被疑者の関係が変わるということなんですね。それまでの上下関係から対等に近い関係になるということなんです」
松山キャスター
「今村さんは日本版司法取引制度の導入をどう受け止めていますか?」
今村氏
「基本的にこれまでも共犯者の引き込み供述などによる冤罪というのは、戦後、ずっと続いてきたわけですね。共犯者には他人を引き込んで自分の罪を軽くしたいという、もともと誘引が働きやすい面があると。捜査官が必ずしもそこに働きかけなくても、巻き込み供述というのはしてきたんですね。明確にこういう、私は髙井先生と違って恩典だと思っていますが、恩典を与える制度を導入した場合、これは共犯者の立場の、他にも共犯がいるのではないかという前提で取り調べが進んでいる場合に、たとえ無実の他人を巻き込んででも自分の罪を逃れようという動機がすごく強化されると思います。だから、非常に危険な制度だなと思いますね。あとモラル的にも、密告奨励形の制度ですから、それでいいのかと。他人の罪を、関係のない人の他人の罪を明らかにして、自分の罪を軽くするという、そんな恩典を与える理由は特にないのではないですかと思いますね。特に共犯型ではなく、他人型の場合ですね」

犯罪捜査への効果と冤罪防止策
生野キャスター
「具体的な事例から日本版司法取引について考えていきます。薬物犯罪のケースから想定されるやりとりをVTRにまとめました」
(VTR)
生野キャスター
「司法取引の具体例を見てきましたけれども、平松さん、ポイントは?」
平松氏
「VTRに即して説明しますと、容疑者・被告側は他人の罪を明かすと書きましたけれども、要は、密売ルートに関する情報を提供したと。その見返りに検察官はVTRだと懲役5年のところを求刑が、起訴を見送った不起訴処分にしたということですね。VTRにも出ていた通り、弁護士さんが非常に重要な役割をしていて、関与しているということと、最後には合意書面をしている、書面にまとめて、ちゃんとサインをしているというところなんですね。ポイントでいくと、弁護士さんがしっかり関与するのと、書面にまとめるというのが、1番の特徴だなという気がします。ちなみに今回、薬物事件について取り上げたのですけれども、私、警察当局を取材すると、暴力団、薬物事件、銃器関係の事件というのはなかなかこの今回のこの司法取引には馴染まないのではないか、武器になりにくいのではないかという声を聞くのですけれども、いかがですか?」
山下議員
「VTRをよくがんばってつくっていただいているのですが、ああいうふうにはなかなかいかないのだろうということは1つ指摘させていただきたいのが、最初に検事が、いや、3年でどうだ、執行猶予でどうだ、不起訴でどうだとか、そういうバーゲンというのではなく、まずこれは第1に合意の前に協議を始めるわけですよ。協議を始めるには書面で書くわけですけれども、協議を始めるにあたって、国民から刑罰権の実現を与えられている検事としては、この証人はすごく重要な事実を知っていて、確度の高い信用性がある供述ができそうだ、そういうものに対して弁護人と協議をしながらやっていくということです。それが1つであります。だから、いきなり不起訴というところがあり得るのかというのは、軽重のバランスがありますから、そこは是非わかっていただきたいと思う。そういった中で、正直に喋っていれば、…中で弁護士として、たとえば、適正な刑罰を得たいということであれば、あそこは薬物事件であっても、暴力事件があっても、ワークするのではないかと思います」
髙井氏
「あのVTRを見ていると、私はこういう検事にはなりたくないなと思いますね。ああいう検事は国民の支持を受けるとも思いませんよね、というのはまず言っておきたいね」
松山キャスター
「それは何か得点を上げようとして、ああいうことを?」
髙井氏
「あれは検事ではないですよね、あのVTRの検事は」
松山キャスター
「あと1つ、ちょっと気になったところが…」
髙井氏
「…もう1つあって、現在の警察がそれを使えないのではないのかと言っているのは、情報源の秘匿が難しいからですよ、この制度を使うと。それは表に出ちゃうから。だから、そういう意味では、ヤクザの事件は結構使いにくいと思いますよ」
松山キャスター
「外国では証言した人間に対する保護プログラムみたいなのがありますけれども…」
髙井氏
「うん」
松山キャスター
「そこまで含め導入するという議論というのは今回なかったんですね?」
髙井氏
「そうですね、ない。…あったかもしれませんけれども、実現していませんね。でも、それを導入しないとこの制度は完結しないんです。ですから、この制度を使えばこれまで出なかった情報がガンガン出ると、贈収賄等に関しても。そういうことには普通ならないです、私の経験からすると」
生野キャスター
「これまでの捜査では、そういう司法取引のようなケースはなかったのですか?」
髙井氏
「司法取引はないですよ、制度がないから。ただし…」
松山キャスター
「取り調べの中の過程で…」
髙井氏
「言わなくても、自分が情報提供すれば罪が軽くなるかもしれないというのは誰でもわかっているわけだから、私の経験している例でも自らこれだけの情報がありますが、という話は当然出ますよね。当然それ…」
平松氏
「でも、特捜部は、東京地検特捜部は長いこと暗に取引のようなことをやってきた…」
髙井氏
「暗に取引ではないです。暗に取引ではないんです、そこは。だから、情報提供を当然受けます、その時にそれが使えると思えば、処分には必ず幅がありますから、たとえば、3年でなければいけないという基準はなく、3年でもいいし、4年でもいいし、2年でもいいわけ、だいたいの場合は。そういう時には与えられている合理的な裁量権の範囲内で1番軽いところを求刑するということはあるんですよ。だけど、それは、約束はしませんよ、そんなことは。ただ、それは阿吽の呼吸で、それはわかるということですよ」
松山キャスター
「これまでの取り調べの中で、そういったやりとりで何となく刑が軽くなるかもしれないと、容疑者が話すケースとかももちろん、あったと思うのですが、それが今回は制度化されて、公の場で文書を交わしてできるようになった。制度化されたことによるメリットとデメリット、両方あると思うのですけれど、高井さんはどう考えていますか?」
髙井氏
「まずデメリットは情報源が明らかになりますから、これまでだったら出た情報がこの制度を使うと言ったら出ないと。この制度を使わないから出せと言ったら出るかもしれないということもある。逆にこの制度を使うことによって、この制度で捕まえられた被疑者からすると、自分を捕まることになった根拠の調書が取引の結果つくられたものだということが裁判所に明らかになる」
松山キャスター
「公判の途中で合意書が表に出てしまう?」
髙井氏
「これは極めて良いことだと、極めて助かると。これはこれまで、そういう例はいっぱいあって、これが取引によって出た自白であるということを立証するために弁護人がいかに苦労しているか、その事件の。そういう苦労しなくて済むんです。だから、これはすごく弁護側から見てもメリットがあることなんです」
生野キャスター
「今村さんはどう考えますか?」
今村氏
「髙井先生のご発言の最後の方から申しますと確かに合意書面、合意したという書面を出さなければいけない義務がある。ただ、取引というのは闇の司法取引があると思うんですよ、私は。これまでもあった。制度化したからと言って、では、闇の司法取引がなくなりますかということですよね。アメリカでは確かに制度化されています。対象犯罪も、日本みたいに限られてないのですけれども、他人の供述がもとで、アメリカは殺人も含みますから、たとえば、同じ監獄に入れられている人は、俺はアイツから犯罪を告白するのを聞いたとか、アイツが俺がやった、やっちまったんだよなと言って涙を流しているのを見たとか、という嘘の供述をして他人を罪に陥れて、自分とは全然関係ない、自分の犯罪の罪を軽くしてもらうということをやっているんですね。それによって実際、死刑だとか、終身刑だとか、重い罪に問われて、あとでDNA鑑定をやってみたら違ってた。まったくの無実であることが証明されたという事案は、おそらく330件だかのうちの確か19%、20%近く、そういう累計があるというお話です」
松山キャスター
「まさにそういった冤罪のケースがあるというのが…」
今村氏
「…そう、その冤罪のケースがあるばかりではなく、その中で正式な司法取引がされたのはその70件のうちのたった2件です。あとは全部闇取引ですから。これは『冤罪を生む構造』という、ギャレットという方の著作に書いてあるんですよ。だから、制度化されたからと言って、全部表に出ると思ったら絶対間違いだと思いますよ」
松山キャスター
「山下さん…」
山下議員
「今村先生はアメリカの例を出されましたけれど、アメリカと日本はまったく制度が違うんですよ。アメリカは事実認定を陪審員がやらないので、だから、要するに、ノット・ギルティか、ギルティかはやりますよ。でも、日本みたいにこういう証拠があるから、こういう事実が認められて、こういうことが認められる、という細かな積み上げをやらなくて。何か同牢者が言ったから、それは有罪だろうという、そういう事実認定なんですよ。だから、まったく事実が違うんですね。我々は日本の制度の中で細かい事実認定を積み上げる中で、たとえば、虚偽の引っ張り込みがないように弁護士が関与を常にやると。あるいは合意があったということ、これは合意がありましたと、疑いの目で見てくださいと、その分だけしっかり信用性を立証しますということをやる。3つ目に虚偽陳述の場合には刑罰を科されますということをやっているので。アメリカの例は、この日本の例では参考にならないです。だから、我々は司法取引という言葉は使わないんです」

冤罪の危険性と対策
生野キャスター
「今日から日本版司法取引となる協議・合意制度の運用がスタートしましたが、懸念されているのが冤罪の拡大です。2016年に司法取引を含む、改正刑事訴訟法が成立した際に日本弁護士連合会の会長だった中本さんがこのような声明を出しています。『合意制度についても引き込み、いわゆる巻き込みの危険などに留意しつつ新たな制度が誤判原因とならないよう合意に基づく供述の信用性がどのように判断されるかなどを注視する』と、引き込み、一般的に巻き込みと言われる言葉を使いまして、嘘の供述で無実の人が犯罪に巻き込まれてしまう危険性に言及しています。今村さんはこの危険性についてはどのように考えていますか?」
今村氏
「ええ、まさにおっしゃる通りで、これまで述べてきたところですね。それで、どう言ったらいいのでしょう、弁護人が先ほど、VTRで、弁護人が活躍してみたいな話があったのですけれども。どうでしょうか、あの弁護人がその真相がわかっていたのかどうかということになるとかなり疑問なのではないかなと。だから、従来の司法取引がない場合でも、覚醒剤の譲渡の事案などで、譲渡先をかばって言わないとか、あるいは言っても別の他人のことを言っちゃうわけです、かばって。本当の売人は、ルートは言いたくないから。それで、その名指しされた人が捕まって妙な話になっていくという事案は結構、多かったと思います。それで、司法取引を入れると、そのインセンティブが異常に高まるわけですから、従来のように全然名前を挙げないとかいうことは半分、ちょっと割合が減ってくるでしょう。ただ、それでも、本当のアレは、そのことは隠して違うヤツの名前を言って、それがまた冤罪だったりするケースも出てくるだろうと。弁護人がその段階で被告人、被疑者の言うことの真実性を見抜けるかと言いますと、記録の開示もないわけですから、捜査段階では。記録を見ないで、被疑者の話だけ聞いていて、それを信じるか、信じないか、みたいな話になるんですよ。それが、弁護人をつけたことが冤罪を生む危険を減らす担保になり得るかというと甚だ疑問かなと」
松山キャスター
「まさにその巻き込みなど…冤罪などを防止する対策について、この次に話していきたいと思うのですけれども」
生野キャスター
「法律上対策を示しています。『協議の場には必ず弁護人が立ち会うこと』『合意した供述が他人の刑事裁判で使用される場合、内容がオープンになっていること』『虚偽の供述などには懲役5年以下などの罰則』と、この3つあるわけなのですけれども。この対策の狙いは、山下さん?」
山下議員
「先ほど、今村先生はそれほど弁護士について信用されないような話をされていましたが、私は弁護士については信用しているのですが、おっしゃるように、弁護士が立ち会えば本当になるということではありません。大事なのは、これは合意ですよ、合意に基づいた供述なんですよと。だから、信用性、これは一般にはこういった合意に基づく供述は信用性が低いんですよね。だから、その分の低い信用性をカバーするために裏づけ捜査をきちんとやるということが制度上担保されていると思っています。また、引っ張り込みで、アイツが気に入らないから嘘を言ってやろうと言ったらまさに刑罰が科されるということで。たとえば、弁護人がついていて、常に関与しなければいけませんから、何か引っ張り込みで嘘をついていると思ったら、お前、罰せられるよ、だから、それはやめておけというアドバイスもキチッと受けられる。ですから、こういう3つが相まって相乗的に虚偽の引っ張り込みというのがなくなるのではないかと思っています」
松山キャスター
「髙井さんはこの法律上の対策、これで十分だと考えますか?」
髙井氏
「それは、十分な対策はあり得ないですよね、こういう問題については。だから、こういう制度があっても必ず嘘をつくヤツは嘘をつきますよ、間違いなく。だから、こういう制度があるから巻き込み供述をする人がいなくなって、だから、この制度が安全だと言ったら、これはとんでもない話で。常にこういう制度が、こういう処置が講じてあっても、嘘の巻き込み供述をするヤツがいるという前提で検察官はしっかり裏づけをとらなくてはいけないということですね。ですから、最終的には検察官がどこまでしっかり裏をとるか、それだけの能力のある検察官がいるかということが担保、それしか担保はないんです」

運用の課題は?
生野キャスター
「運用開始の今日、上川法務大臣は会見で『検察当局は刑事司法のあり方と調和させながら運用実績を積み重ね、時間をかけて制度を定着させていく方針だ』と述べています。山下さん、司法取引は今後、具体的にはどのような形で運用されていくのでしょうか?」
山下議員
「合意制度、まさに上川法務大臣がおっしゃったように初めて導入することで国民の信頼を積み重ねていかなければならないと思っています。そのため、最高検察庁が通達を出しているわけですけれども。たとえば、先ほどの合意でやる場合に検事が単独の判断でできるわけではないです。これは検事正でもできない。検事長の指揮がいるんです。検事長というのは8大高検の高検の検事長ですが…」
松山キャスター
「高検の検事長?」
山下議員
「高検がその指揮をするにあたっては最高検と協議をするということになっています。また、運用のあり方の中に、たとえば、合意をした結果、信用できる、裏づけのとれる証拠があるようなものを見極めなければならないということ、いろいろと書かれています。ですから、合意した供述がオープン、要するに、合意ですよこれはというのは、これは大きいですよね。太陽の陽の光を浴びるようなものですから。それに耐えるような、きちんとした裏づけがなければならないということで、慎重に運用されていくのだろうと思います」
生野キャスター
「そのオープンの部分について、平松さん」
平松氏
「先ほど、山下さんが出されたヤツですけれども、この『合意した供述が他人の刑事裁判で使用される場合、内容がオープンになっていること』とあるのですけれども、これは具体的にもう裁判では、これが司法取引でなされた供述ですよ、証拠ですよというのをオープンにするという意味でいいんですよね?」
山下議員
「そうです。だから、合意制度に基づく供述だということになると、まず合意がありましたよということを、合意内容書面というのは、これはもう法律で決まっていて、これを裁判官にお見せすることになっているんです。それは相手方、要するに、第3者で使われる側の弁護人も見ることになりますから、弁護人もそういうものとして準備する、裁判官もそういうものとして見ると。相当の信用性が問われることになっていきます」
生野キャスター
「ただ、その裁判官は取引には関わらないとは思うのですけれど、検察が出した求刑を採用しない場合はどうなるのですか?」
山下議員
「うん、それは量刑というのは裁判官が決めるものですから、そういったことが理論上は排除されていません。ただ、それを前提としながらも検察官としては、要するに、協力したことについて、本人の反省も含めて、この量刑か適切だと考え、合意の量刑のオファーをしているわけですよね。それとあまりかけ離れてまったく配慮しないということになると、場合によっては、理論的には、量刑不当ということで控訴するということはあり得ると思います、可能性の問題…」
松山キャスター
「平松さんにちょっと聞きたいのですけれども、今回の司法取引の制度の中で1つ外れているように見えるのが裁判所・裁判官だと思うのですけれども」
平松氏
「そうですね。私も昨年ぐらいからですか、ちょっと裁判官と会う機会があって、いろいろな人にこの司法取引について聞くのですけれど、かなり危機感を持っているかなという気がするんですね。それは2点あって。1点は、裁判官自身が本当にその虚偽の供述を見抜けるのという。それは検事もそうですし、弁護士さんもそうかもしれないですけれども、実際、裁判にそれが出されてきて、裁判官自身が本当に虚偽ではないかというのが見抜けるかどうかというのはどうなのかという危機感が1つと。あともう1つは刑の均衡というのをすごく考えるので。それはこの人…、たとえば、よく言う話ですけれども、社長を立件するために、専務の供述を得て、でも専務は軽いと…」
松山キャスター
「司法取引で…」
平松氏
「司法取引を経て。ところが、専務は軽くなった、罪が。ところが、下の部長、課長は、専務より重かったりするというケースがあるとするではないですか。そうすると、ここに正義は成り立たないのではないか、というような意見も裁判官の中にはあることはあります」
松山キャスター
「髙井さん、どうですか?」
髙井氏
「まず何言ってんのと、虚偽が見抜けないかもしれないって、だったら裁判官を辞めなさいという話ですよね、そんなもの。虚偽供述のオンパレードなのですから、法廷は。見抜く自信がありませんとは、辞めなさいという話ですよ、そんなことは。論外だよね、そんな人は。それから、先ほどの、正義はどこ行くんだと。それは、まさにその通りなんですよ。だから、この制度というのは、日本人の生真面目さで正義の実現を追求するのと、それだと発見できない犯罪を、ある程度正義を犠牲にして、正義観念も犠牲にして、それを掘り起こしてやっていくのとどちらが社会のためになるのかという比較衡量の問題ですね。ですから、そういう意味では、正義が傷つく、正義感が傷つく、これはやむを得ないものとして、この制度が導入されていると考えるべきですね」
今村氏
「髙井先生が、真実がわからないのだったら、裁判官、辞めろよ、みたいなこともおっしゃっていたのだけれども」
松山キャスター
「資質が問われる?」
今村氏
「これはなかなか、そうも言っていられないのではないか。と言うのは、司法取引によって出てきた供述というのは、たとえば、共犯型だった場合、本当はBであるものをAだとして喋って、虚偽を喋っていたとします。そこのAとB の主体だけすり替えた場合に、あとのストーリーは真実なんですよね。だから、それが、B がと言うべきところをAがとなっているから、その供述にはかなりの迫真性が…」
髙井氏
「いやいや、その例を言う時には、共犯型と特定しないと聞いている人が意味がわからない…」
今村氏
「共犯型の場合ですよ」
松山キャスター
「共犯型の場合ですね?」
今村氏
「…で、迫真性が出てくるわけです。そこのすり替えを見抜くというのは、なかなか難しい、実際のところ。また、その裏づけ捜査とおっしゃるけれども、裏づけの程度にも、本当にすごくあると思うんです。ほんのちょっとした裏づけ、状況証拠的なもの、クサいというぐらいのものから、バッチリ客観的に裏づけられちゃったという場合も本当に類型ごとだから、いや、現場の裁判官が悩まれるのは、私は非常によくわかるし、むしろ悩んでいただきたいなと思っています」
山下議員
「今村先生のご指摘、あるいは国民の信頼がなくなるのだという、髙井先生のご指摘は本当にもっともで、だからこそ信頼をしっかり得るべく慎重にやらなければならないと思っています。今日も国会で大臣がおっしゃったのですけれど、そういった意味で、たとえば、合意が成立したあと、合意に基づいて検察官が本人の調べを行う場合、基本的には取り調べの録音・録画の試行対象事件として、供述の状況を録音・録画を実施ことになるであろうということも運用の考え方に書いてあります」
松山キャスター
「ただ一方で、合意書をまとめるまでの協議については、録音・録画、これは行わないというのが前提ですよね?」
山下議員
「それは駆け引きを、おそらく特に弁護側も、たとえば、どういうものの量刑が得られるのかということで、様々な駆け引きをやるのだろうと。そうなると自由な意見交換であるとか、そういったものができないということで、これは、録音はしないと」
平松氏
「その経緯についてはまとめられる…」
髙井氏
「ただ、録音・録画というのは、任意性があるかどうかを判断する材料にはなるけれども、その供述の信用性を判断する材料にはね、ほとんどならないんです。ですから、録音・録画をしたから、信用性のない虚偽供述かどうかを判断できるということにはならないですね、基本的に。先ほど、今村さんがおっしゃった…」
今村氏
「…うーん」
髙井氏
「共犯型で、本当はAが共犯なのに、それを名前だけB にすり替えて、B が仲間だったのだと供述するヤツ、人というか、被疑者はいるんです。でも、それはおっしゃるように、その時1番、その真偽の見分けは難しい。そういう事件をどう見分けるかというのは、これは、検察官の腕と言っちゃおかしいけれども、検察官の最も重大な職責です。ですから、それはそれで悩むというのは裁判官だけではなくて、検察官も悩むんです」

今後の捜査・公判の在り方は?
生野キャスター
「来年には取り調べ全過程の録音・録画制度、いわゆる可視化の導入も控えています。髙井さん、これからの捜査と公判のあり方についてはどう考えますか?」
髙井氏
「1番の問題は、刑事司法、日本の刑事司法の中核を担ってきた検察官の能力が落ちているということですね。これまでは検察官の能力を信頼し、彼らに全権を与えていたと。たとえば、証拠物は捜査段階では絶対、弁護人には開示されないというような。証拠は検察官が見れば、それで十分だと、それで正しい判断ができるという前提で、この刑事司法制度は動いているわけです。ところが、最近はそうでもなく、検察官が証拠を十分に見ない。たとえば、シンドラーの事件の時には…」
松山キャスター
「エレベーターの?」
髙井氏
「エレベーターですね。電磁コイル、電磁石のコイルに本当は絶縁テープがあるのだけれども、それを検察官が見落として、絶縁テープがないと、だから、ショートが起きたと言って起訴したわけですよ。本当は、しかし、絶縁テープが…、我々が公判開始後、そのコイルを見たら絶縁テープがあったわけです。だから、それを検察官がちゃんと見ていれば、そもそも起訴は行われなかったわけですよね」
平松氏
「ちょっとシンドラーエレベーターの事故について説明したいのですけれども。2006年です、発生。港区にエレベーターの事故だったのですけれども。当時16歳の男子高校生が亡くなったと。業務上過失致死の疑いで、シンドラー社の2人と、保守点検会社の3人が在宅起訴されたのですけれども、結局は起訴された4人に無罪判決が出たということです」
髙井氏
「本当は、それは無罪だけれど、これは無実だったわけですよ。絶縁テープが貼ってあって、そこでショートが起きることはわけがないわけだから」
松山キャスター
「それを検察側はチェックしていなかった?」
髙井氏
「見落としていたわけです。ですから、それを、たとえば、それを捜査段階でも、ああいう特殊な事件については、そのブツを弁護人にも開示する、検討させる。あるいは測定その他に立ち会わせるというような制度があれば、ああいう間違った起訴は起きないわけですね。ですから、検察官の能力はそれほど十分でなくなったという前提に立つと、捜査段階にいかに弁護側を介入させて、知恵と言うか、見方と言うか、要するに、検察官は本来、弁護側の立場に立ってもブツを見ないといけないのですが、それができる検察官が減っている。そうなったら弁護人を入れ、弁護人側の見方も捜査段階で反映するという制度が当然必要になるわけで。そういう制度、私は便宜的に協議型捜査構造とか、統合型捜査構造と言っていますが。従来の対立型捜査構造から、そういう1部でいいですからと、協議型捜査構造に転換するということによって、無実の人間が起訴されるということを少しでも減らせるのではないかと思っていて。そのきっかけとして、今回のこの協議・合意制度も1つ位置づけられると思っています」
松山キャスター
「そういう話の文脈の中で、これまで検察側に、たとえば、量刑を一方的に求刑できたりする、いわゆる髙井さんが言われる処分権というものが検察側にあった」
髙井氏
「ええ」
松山キャスター
「それが今回の司法取引制度の導入によって、容疑者や弁護側も対等の立場で取引ができるようになる?」
髙井氏
「そういうことですね。これまでは検察官の処分権には誰も介入できなかったと。ところが、今回のこの制度で弁護人がそれに関与することになったと。それから、今度はその制度に警察も介入する場合がある。そうすると、警察も、検察官の処分権にある程度、介入、介在していくことになる。ですから、これまで検事が独占していた、いわゆる起訴権独占と言われていますが、この処分権の独占に1部穴が開いていると、開くという制度ですね。ですから、そういう意味では、検察官もかなり大きく身を切っている制度だと」
松山キャスター
「今村さんはどうですか?今後の捜査、公判のあり方については?」
今村氏
「まず捜査に関しましては捜査の全過程を記録化していく、…やって報告書を書かないとか、そういうのはよくないと思うんですね。記録化が必要だと。記録化を、それは取り調べの録音・録画も記録化の一種だと考えられる。それを弁護側にも開示すること、これが必要なのではないかなと思うんですね。それも全部開示する。警察から検察に送付されない証拠というものもいっぱいありますから、検察庁の方も公式解釈としてはたぶん全部送付義務を認めていないのではないかと思うんですね。だから、それも警察に大量に物証が残っているような事態が、あってはならないから、全部、送付義務を明確化して、かつ開示もさせる。これが捜査のあり方。公判のあり方としては公判中心主義とか、直接主義、口頭主義ということが裁判員裁判との関係でよく言われます。調書はいいのだ、直接、法廷で喋ったことが重要であると。考え方としてはわかるのですが、法廷で喋っている人、その人はその前に何回も取り調べや事情聴取を受けて、あるいは証人テストも受けているわけですね。徹底した訓練というのが行われている可能性がかなりある。極端な例で、美濃加茂市長事件では何十日も証人テストをやったという例があるのですけれども」
松山キャスター
「テストというのは、事前にどういうことを話すかということを打ち合わせしている?」
今村氏
「そう、打ち合わせですね。どう喋るかというのを、シナリオをつくっていくという。だから、それをやられると、徹底したそういうものがあると公判で、直接口頭で喋っているように見えても、その喋っている内容というのは、実は捜査段階、あるいは証人テスト段階で入念につくられたものを再生しているにすぎないということが考えられるんですね。だから、そうすると、公判中心主義でも、口頭主義でも、直接主義でも形だけの問題になっていて。その公判中心主義を言うのであれば、それとセットで捜査のスリム化と言いますか、弾劾的捜査官という、ちょっと難しい言葉で言うと弾劾的捜査官とセットでなければ、公判中心主義というのはもともとできないなと。だから、そこを考えるべきではないかと。だから、捜査の肥大化の方向では公判改革もできない、一般論として私はそんな感じです」

山下貴司 法務大臣政務官の提言:『正直者がバカを見ない刑事司法』
山下議員
「これは正直者がバカを見ない刑事司法です。この刑事司法制度改革法、いわゆる、これは与党だけではなくて、民主党、維新の党も同意していただいたんですよね。そこには無辜は罰しない、無実の人は罰しない。しかし、罰っせられるべき人は罰する。国民のための正義を実現する。そのためにはどういうバランスの刑事司法がいいかということを悩んでいたんですよね。合意制度もその1つであります。また、被疑者、あるいは被告人が不当な取り調べで妙な自白をして、無実なのに罰せられないようにということで、権利も拡大しようということもやっています。だから、我々はそういったバランスの中で、正直者、この中には本当に無実で、正直に言っているのに陥れられてしまうということがないようにしようと、そういったものも含みます。そういった正直者がバカを見ない刑事司法、これを目指していきたいと思います」

弁護士 髙井康行氏の提言:『対立型捜査構造から協議型捜査構造』
髙井氏
「正直者がバカを見ない刑事司法と、これは当然のことで。と同時に、無実の人を処罰しない、そういう刑事司法が必要。そのためにはここに書いてあるように、従来のような対立型の捜査構造ではこれからはもうやっていけないだろうと。だから、協議型、言葉が妥当かどうかはわかりませんが、要するに、捜査にもちゃんと弁護人の知見を反映するというような形の…意味での、協議型の捜査構造で、無実の人間が起訴されるというのを防ぐということが必要だと思っています」

弁護士 今村核氏の提言:『捜査全課程の記録化、開示 “証人テスト”の録画化』
今村氏
「私も無辜の不処罰、これが最大の価値かなと思います。そのために必要なこと、先ほども申しましたが、捜査全過程の記録化、それから、開示化、さらに証人テストの録音・録画化、こういったものが具体的には必要かなと思っています」