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2017年12月19日(火)
人手不足でも賃金低迷 日本経済の『謎』解剖

ゲスト

早川英男
元日本銀行理事 富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー
玄田有史
東京大学社会科学研究所教授

『人手不足』の現状と背景 今後の展望と対応策は?
秋元キャスター
「現在の好景気が高度経済成長期の『いざなぎ景気』を超え、戦後2番目の長さになっています。それに伴って、アベノミクスが始まりました2013年以来、有効求人倍率は右肩上がりで上昇し、人手不足の状況に陥っているのですが、一方、賃金は対前年比でほとんど上がっていない状態が続いています。賃上げが進まない背景を徹底分析し、本格的な賃上げに必要な方策を探っていきます。人手不足の現状から見ていきたいと思います。こちらです。今年10月の有効求人倍率は1.55倍と、1974年1月以来、43年9か月ぶりの高水準となっています。また、10月の完全失業率は2.8%と職種・勤務地等の条件が折り合わないミスマッチ失業率が3%程度とされるため、3%割れは完全雇用の状態と言えるわけなのですが。まず早川さん、ここまで雇用が回復した要因をどう見ていますか?」
早川氏
「まず1つは好景気が長く続いているということですね。今回の景気の拡張期間は間もなく丸5年になりますので、それは1つです。ただ、それだけで説明できない部分があって、と言うのももう1度、求人倍率・失業率のグラフを映してもらうといいのですけれども、たとえば、2000年代の半ばの景気があります、これはいわゆる『いざなみ景気』と言って、現在の景気より1年長かったし、成長率も現在よりも高かったのですけれども、求人倍率をご覧いただくと、現在よりかなり低いですね、…ということ。あるいは2012年に実は短い景気後退があったんですよ、このグラフからはまったく見えません、景気後退でも全然、雇用が悪化しなかった。要するに、何が起こっているのかと言うと、高齢化によって生産年齢人口が減って、だから、構造的に人手不足になりやすい状況がある、そこがバックグラウンドにあって、そこに長い景気が重なっているんで、ここまで人手不足になっている、こういうことだと思います」
反町キャスター
「玄田さん、いかがですか?見立て、人手不足の背景をどう見ていますか?」
玄田教授
「ええ、本当おっしゃる通りだなって納得しましたけれども」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「先ほどの図を見ていくと、1つのポイントは2010年ぐらいからこうずっと上がり続けているということで…」
反町キャスター
「上がっていますね」
玄田教授
「今回の好景気はアベノミクスの影響だとよく言われるのですけれども、アベノミクスより、2013年の前から実はこの基調というのはずっと続いているということも1つの特徴だと。その間、何が伸びてきたかと言うと医療・福祉系、もっとはっきり言えば、介護がもうこれだけ日本の成長産業になって。昔、成長産業と言うと、モノづくりとか、サービス業とか。現在、日本は医療・福祉が最も成長産業ですね」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「かつては…」
反町キャスター
「成長産業だと言っても、そこが別にたくさんの付加価値を生み出して」
玄田教授
「うん、そうですね」
反町キャスター
「そこで働く人達が非常に高い給料を得ているというイメージではなく」
玄田教授
「就業面での成長産業」
反町キャスター
「そう、そこですよね?」
玄田教授
「就業面で…、そう…」
反町キャスター
「人を吸い寄せることはあってもそこで働いている人達が恵まれているかどうかは、これはまた別の話ですよね?」
玄田教授
「まったく別で。だから、人がドンドン増えていくというのは、医療・福祉系で増えていて。しかも、かつてはそういうモノづくりの場合、そこが、成長産業が賃金を求めることによって波及していくといったのが、今回、ご存知…、ある意味、これが答えになっちゃうのですけれども、介護の賃金は人手不足でも上がらないですよ、現在のこの介護保険制度の中では、簡単には。だから、成長産業が賃金を引っ張っていって、それが波及するメカニズムが働かない、そういう時代に突入しているというのが、1つのこの現状の解釈としては忘れてはいけないことだとは思いますけれども」
反町キャスター
「はっきり言っちゃうと、アベノミクスの効果というのがそこにあまりないのだと、こういう話になるわけですか?」
玄田教授
「いや、そこまでは言いませんけれども。もちろん、株価とか、為替レートについて影響があったことは事実なので。ただ、雇用面については果たしてどういうふうに評価できるかと言うと、アベノミクスのおかげで、雇用が増えたと言われると、ちょっと事実とはどうかという感じがしますけれども」
反町キャスター
「いかがですか?」
早川氏
「いや、グラフを見ると明らかで。2009年まで、リーマン・ショックで失業率が上がり、求人倍率が下がって、そこからあと一直線ですよね。ですから、どこからどこでアベノミクスが始まったか、そのグラフから…」
反町キャスター
「わからないです」
早川氏
「見えないでしょう?」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「そういう意味では、もう少しベースラインの人口の話とか、現在の就業構造の変化とか、そういうのが結構効いているなと思うんですね」

パート・アルバイト賃金の背景 何が、どう作用しているか?
秋元キャスター
「さて、企業が人手不足の状態にある中で、賃上げの状況がどうなっているのか見ていきます。こちらです。正社員、パート・アルバイト、それぞれの名目賃金の推移のグラフですけれども、パート・アルバイトの時給は2013年7月以降に右肩上がりに転じていまして、最近は対前年同月比2.5%前後で推移しています。一方、正社員を見てみますと、2015年以降、概ねプラスを維持はしているのですが、パート・アルバイトに比べて低迷をしています。まず非正規雇用のパート・アルバイトについて見ていきます。3大都市圏のパート・アルバイトの募集時の平均時給を見ますと、アベノミクスが始まりました2013年1月に944円だった時給が、今年11月には1024円になっています」
反町キャスター
「現在の有効求人倍率が1.55倍でしたか?これは正規・非正規、全部、混ぜ混ぜにしての1.55倍だと思うのですけれども…、1.55倍となった時に1024円という数字がそれをキチッと反映した数字なのか、僕はわからないのですけれども。肌触り感というか、早川さん、そこは何か関連する数式みたいなセオリーというのはあるのですか?」
早川氏
「いや、そんなに簡単にはいかないのですけれども…」
反町キャスター
「すみません」
早川氏
「ただ、正直言って、有効求人倍率1.55倍という数字が出てくると、それにしては上がってはいるけれども、ちょっと鈍いなというのが…」
反町キャスター
「あっ、そうですか?」
早川氏
「…と思いますね」
反町キャスター
「それは過去の1.55倍になったような状況になると、本当だったら時給だったらもっと1500円から1600円、ビャーンと上がってもおかしくない?」
早川氏
「1500円から1600円はともかくとして、もっと目に見えて上がってもおかしくない」
反町キャスター
「なるほど。玄田さん、いかがですか?1024円は有効求人倍率と比べて鈍いのですか?」
玄田教授
「いや、相当鈍いでしょうね」
反町キャスター
「はあ…」
玄田教授
「ただ、これは1つ、非正規で本当はもっと上がってもよかったと思うんですよ。ただ、何がこれを抑えたかというと、高齢者の影響ですよね」
反町キャスター
「これか?高齢者?」
玄田教授
「だから、現在、日本は人手不足です。特に非正規社員の部分が、飲食とか、介護とか、福祉とか、人手不足で足りないのですが。それをある程度補ってきた面があるんです。どこが補ってきたかと言うと、2つおそらく大きな要因があって。1つはこれまで専業主婦をされていた女性がだんだん仕事するようになるという傾向が強まってきた」
反町キャスター
「こっちだ、M字カーブ…」
玄田教授
「そちらからいきますか?」
反町キャスター
「いいですよ、こちらで…」
玄田教授
「M字カーブがドンドン上がってきて、昔はこれをM字カーブと言って、この30代前半、子育て世代のあたりは仕事をしていないというのが、現在いろいろ働くということに対するいろいろな仕組みができたのでだんだんM字がだんだん台形みたいになってきて…」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「30代もそうですし、実は40代、50代を含めて上がってきているので…」
反町キャスター
「子育て時期に離職しなくなった?」
玄田教授
「離職しなくなった、ないしは離職する時間が短く済むようになった」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「だから、それが…、あとはそういう方々はどちらかというとパートの仕事を選ぶことが多いので、非正規の足りない部分を補ってくれる1つの要因」
反町キャスター
「非正規の人達の賃金が上昇しない要因になっているのですか?」
玄田教授
「足りない部分に対して女性が出てくれるようになったので、足りないながらもある程度、人は確保できた。だから、本当に足りなかったら、もっと上がったはずですよ。それと、もう1つの要因がこちらいいですか?」
反町キャスター
「こっち?はい」
玄田教授
「もう1個大きいのは60代…」
反町キャスター
「高齢者…」
玄田教授
「…の人達がすごく働くようになったんですね、この何年間で。1つは年金支給開始年齢というのが…」
反町キャスター
「上がりました」
玄田教授
「上がりましたから。たとえば、定年60歳で辞めたとしても、もう6割ぐらいの人は何らかの形で働いているわけです。たとえば、契約社員とか、嘱託社員とか、会社に再雇用されるケースもあれば、会社を辞めてもそれこそ飲食店とか、駐車場とか、いろいろな形で、建設現場とかで働いていらっしゃる。共通するのは皆さん、正社員以外の形で働いていらっしゃるから」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「特にその中にこの何年間、いわゆる団塊の世代という非常に人数の多い世代が60代として非正規の足りない部分を補っていたという面が強かったので。だから、人手不足なのだけれども、そういう一方で、女性とか、団塊の世代を含む高齢者が、足りない部分を補っていたので…」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「そんなに上げなくても、まだある程度、人手が確保できたと。だから、そういう女性の進出とか、高齢者の再雇用とか、活用がなければ、たぶんもっと上がっていた」
反町キャスター
「そういう形で流入している、補っているのであればそもそも有効求人倍率が1.55倍なんて撥ね上がらないのではないですか?跳ね上がっているということは、需給がタイトなのではないですかね?早川さんに聞いた方がいい、どう思いますか?」
早川氏
「いや、需給はタイトですよ。ただ、もしこの人達が出てこなかったら、もっと、もっと求人倍率が上がっていただろうし…」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「それから、賃金について言うと、この人達は基本的に非正規で出てくる場合が多いわけですよ、明らかに65歳以上で、1日8時間、週5日働いている人はそう多くないですし。それから、もう1つ、女性の方を見ていただいても確かに若い人が上がっているのは事実で、この人達は確かに結婚年齢が遅くなったり、出産年齢が遅くなったりして、フルタイムで働いている人が結構いるのですけれど、実を言うと、これは年齢層的に言うと人口がそう多い層ではないんですね」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「一方で、見ていただくと、たとえば、50代ぐらいの女性の労働参加率がグンと上がっていますよね?」
反町キャスター
「高くなっている」
早川氏
「ここは人数が…」
反町キャスター
「このへんですよね?」
早川氏
「20代よりも多いんですよ」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「この人達はほぼフルタイムではなくて非正規で働いていますので。要するに、言ってみれば、こういう人達が大量にパート・アルバイトに出てくるので、求人倍率が上がっていて、確かにパート・アルバイトは賃金が上がっていますけれど、この人達がもし出てこなかったら、もう少し、もっと上がっていただろうということだと思いますよ」
反町キャスター
「それは賃金が上がった方がいいかなという点からすると本当だったらパート・アルバイトの賃金が上がっているはずのところに、育児中の女性や定年退職したあとの団塊の人が入ってくるせいで、せいで、というのも非常に言葉が微妙なのだけれど」
玄田教授
「いや、よくないですね」
早川氏
「…それは非正規というのをちょっと分けて考えた方がいい。昔、それこそ玄田さん達が問題視された、それこそ氷河期世代で…」
玄田教授
「はい」
早川氏
「本当は正社員で働きたかったのに働けなかった人達の非正規というのは、それは社会にとっても本人にとっても損失だと思うのだけれど。今増えている非正規はそういうことではないと思うんですよ」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「たとえば、65歳、60歳以上の方々というのは、なんだかんだ言って、65歳になってもまだ元気だから働いているということだし、それから、あるいは先ほどの50代の女性達というのは子育てを終わって時間に余裕があるから出てきて働いているということなので。要するに、正社員で働きたかったのに働けなかったから、仕方なく非正規で働くというタイプの非正規ではないので」
反町キャスター
「なるほど。もう1つ、玄田さん、配偶者控除の103万円の壁というのがあるではないですか?」
玄田教授
「ああ、うん…」
反町キャスター
「政府も1回は廃止を検討したのだけれども…」
玄田教授
「はい」
反町キャスター
「結局、ワヤワヤのままで現在に至っているのですけれども」
玄田教授
「ええ」
反町キャスター
「ああいうものというのが、女性とか、新たに労働市場に参加することの障害、ブレーキになっている可能性はどうなのですか?」
玄田教授
「103万円の壁と130万円の壁というのは、そこで年収に上限ができてしまうから、仮に時給が上がったとすると、それはありがたくないとなると、労働時間を減らす方に働いちゃいますよね?」
反町キャスター
「なりますよね」
玄田教授
「だから、これは、そういう意味で、女性が賃金を、高い賃金を求めない1つの背景になっている」
早川氏
「そうですね」
玄田教授
「先ほど言った、世界的に共通と言ったけれど、これは日本固有の要因だから、賃金を上げるという面からすると、配偶者控除は歴史的使命を終えたということではないかと考えている経済学者は多いと思うのですけれども。ただ、これはなかなか政治マターからすると、配偶者控除廃止というのは非常にリスキーな政治的な政策選択でしょうから、現在でも残っているのでしょうね」
反町キャスター
「早川さん、この配偶者控除をめぐる議論をどう見ていました?」
早川氏
「いや、もう配偶者控除は、あとでも出てくるのですが、基本的に女性がもっとフルタイムでちゃんと働けるようにするためにはこういう制度はなくしていかないといけないと思うので…」
反町キャスター
「そうですよね」
早川氏
「昨年この議論が出てきた時には、あっ、これは大変いいことだと思ったのですが、ひと月かふた月で簡単に消えちゃって。むしろ配偶者控除見直しは、結果的には拡充になっちゃったんですよね」
反町キャスター
「うん」
早川氏
「拡充というのは短期的には悪くないですよ。拡充した結果、少し余分に働けるので」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「そういう意味では、それは悪くないのですけれども。拡充して、その恩恵を受ける人が多くなれば多くなるほど、抜本見直し、すなわち配偶者控除やめるというのは、ますますできなくなっちゃうので、中途半端な拡充という名の見直しというのは長い目で見ると良くなかったなと思っています」
反町キャスター
「働き方改革だか、革命だかとか…」
早川氏
「うん」
反町キャスター
「そういうことを言っている割には、この103万円の配偶者控除、1つとは申し上げませんけれども、政府の労働力を確保する、ないしは労働生産性を高めることに対する方向性がチグハグなのですか?そこはどう思いますか?」
早川氏
「チグハグが…、別にこのことに限らないのですけれども、安倍政権が掲げる、いくつか、たくさんの目標というのは、しばしば目標自身はいい目標が多いと思うのですけれども、その手段があまりなかったり、あるいは手段が、整合性がとれていなかったりということが多くて。『女性が輝く社会』と言いながら、配偶者控除が変えられないなんていうのは典型的な、手段が矛盾しているということだと思いますね」
玄田教授
「革命とか、改革というのは何かよくわからないけれど、1つは間違いなく既得権を打破する、いろいろなチャンスを皆に与えるということが、革命であったり、改革であったりとするならば、そこに踏み込まない改革は何だろうなとは思います」
反町キャスター
「なるほど。その意味で言うと、配偶者控除に限らず玄田さんから見ると、賃金が上がらない要因はさまざまな要因がある中で、政府の政策の一貫性のなさ、腹の座り具合みたいな話になるのでしょうけれども」
玄田教授
「ただ、見ていると、いわゆる今回の同一労働同一賃金という、正規・非正規、事実上、賃金差をなくすということと、いわゆる一億総活躍との関係というのは、非常に難しいと言うか、見ていると、アクセルとブレーキを両方踏んで…」
反町キャスター
「どういう意味ですか?どういう意味ですか?」
玄田教授
「つまり、一億総活躍というのは、先ほど言ったような、性別とか、年齢とかに関わらず、皆が働かないと人手不足に対応できないですよという、これは皆、そう思いますよね?」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「一方で、同一労働同一賃金というのが、非正社員の賃金を正社員に近づけるように上げようとする。両方どうやって一緒にするか?」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「先ほど言ったように、女性や高齢者にも働いてほしい、素晴らしい。でも、それが出てくると、現在の状態ではどちらかと言うと非正社員という選択になってしまう。そうすると、そこに人が入ってくるということは賃金を上げずに非正社員を雇えるということになるから、同一労働同一賃金というのはむしろ遠くなってしまう」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「だから、よくわかりませんけれども、もし賃金を上げるということを本当に優先するのだったら、年金の支給開始年齢とか、現在はもう遅いですけれども、あまり上げないで、高齢者が悠々自適にちゃんと早く引退できるような環境とかをつくった方が、もしかしたら適切な人手不足になって賃金が上がるという面もあったかもしれないです」

なぜ低迷?正社員賃金
秋元キャスター
「正社員の賃上げは、パート・アルバイトに比べてあまり進んでいない状態なのですが。玄田さんが著書の中で指摘をされている原因、その主なものをこちらに挙げました。まず1つ目、年功型賃金体系による影響。2つ目、社会保険料の企業負担増。3つ目が就職氷河期世代の影響ということなのですが。まず1つ目の年功型賃金体系による影響、これはどういうことなのでしょうか?」
玄田教授
「はい、年功型賃金と言われる、年齢とか、勤続に応じて賃金がだいたい50歳ぐらいまでこう上がっていくという、そういうのが日本は比較的顕著だったって言われていたのが、最近だんだん崩れてきて、年齢や勤続年数が増えても賃金が上がらなくなってきているという。その分、賃金が全体的に伸び悩む傾向なのですけれども。1つ、今回の本で指摘しているのは、賃金の水準もそうだけれども、決まり方が変わってきたという」
反町キャスター
「ほう?」
玄田教授
「つまり、これまで従来の年功賃金の背景にあるのは、積み上げ型というか、だいたい毎回毎回、積み上げていくという。給料を貰っている方はイメージ…、いわゆる定期昇給というのがあって。そういうのと同じようにだんだん給料は上がっていって、いったん上がったら下がらない、だんだん上がっていくというか、今年もがんばったなという、それがだんだん変わってきて、現在ゾーン型の賃金体系になってきたという指摘があって。ゾーンというのがいくつか積み重なっていて、だいたい賃金はゾーンの範囲内で変化するから、自動的に積み上がっていく仕組みでないと」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「しかも、範囲というのが、上限・加減が決まっているから、人手不足だからと言って、なかなか上限を超えて賃金が決まるということになっていないので、ゾーンという枠によって賃金が上がるのが制約されているような。よく成果主義と言うと、結局、何だったのかというのが結局わからないまま、成果主義、成果主義と使っていた面もあるのですけれども、そういう積み上げから、あるゾーンの中に賃金の水準が収斂して、なかなかそこから上にいくのは難しいような仕組みに変わってきている。もう1個は、先ほど出てきた、定期昇給と、もう1つのよく賃金ではベースアップというのがありますよね」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「ベースアップというのが昔はあってというのが、2000年代以降ベースアップの廃止みたいなのが広がったわけですよ」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「最近になって若干ベースアップという議論をするようになったのですが、調べてみるとそのベースアップは、昔はベースアップと言うと皆が一律に賃金がドドドドッと、ガラガラガラッと賃金が上がるというか、現在はベースアップという言葉があったとしても、実はその対象者は比較的若い人とかに限られていて…」
反町キャスター
「全員ではない?」
玄田教授
「全員ではないということがすごく増えてきている。だから、ベースアップというものの持っている意味が変わってきていて。だから、ゾーン型とか、ベースアップの意味が変わったと言うと、賃金制度の決まり方自体が大きく変わってきているということが、年功賃金が変わってきたということになっているので」
反町キャスター
「企業のお金の中で、どのくらいを固定費やら賃金にまわすのかという、そこの部分というのが下がってきているとデータとして出ているのではないですか?」
玄田教授
「うん」
反町キャスター
「その下がってきている部分というのは、先ほど言われた成果主義とか、ゾーン主義とか…」
玄田氏
「うん」
反町キャスター
「今言われたさまざまな諸々の制度の中で、自然と企業側というのが分配率を下げる、固定費を下げる方向でずっとやってきているという、こういう理解でいいのですか?」
玄田教授
「そうですね。不確実性が大きくなった中で、特に2000年代は総額人件費管理という言い方をすごくするようになって、特に固定的な部分というのをできるだけスリム化していかないと、人件費、一時前までなぜ賃金が上がらないかというとグローバル競争に負けちゃうからとよく言ったではないですか」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「賃金を上げるとグローバル競争に負けちゃうのでと言って。その時の賃金は固定費の部分がすごく大きいのではないかということで、それをいろいろな形でいきなり賃金を、固定費を下げますと言うと、労働者も抵抗が大きいですから、いろいろな制度を巧妙に変更することによって…」
反町キャスター
「固定費を下げると言わないで、成果主義を導入します、と言うことによって、結果的にそういうことをしている?」
玄田教授
「非常に複雑化しながら、それを結果的に実現しているという面が大きいのでしょうね」
反町キャスター
「人件費全体というものがだんだん小っちゃくなってくる、ないしは少なくともそのまま現状維持の中で、成果主義だ、なんだと、どこかが上がると、どこかを下げなくては、ゼロサムになりますよね?」
玄田教授
「そうですね」
反町キャスター
「それは、たとえば、言われた、ベースアップします、子育て世代とか、30代、40代前半までの部分を2%上げると言うと、全体の中でどこかで2%下げなくてはいけなくなる?」
玄田教授
「はい」
反町キャスター
「その割を食っているのがどこかにいるのですね?」
玄田教授
「あとから出てくる議論とも関係しますけど、正社員が、賃金が多少上がってきているのは、特に若い人を、正社員を採らないといけないから、そうすると比較的若い人には賃金とかを上げていくべきではないかというムードになっている」
反町キャスター
「はい、人が集まらないという意味ですね、それは?」
玄田教授
「うん、一方で、中高年まで正社員の賃金を上げるかとなっているかと言うと、反町さんがゼロサムかどうかわからないけれども」
反町キャスター
「いや、サムの方でしょう」
玄田教授
「だから、若い人はいいな、賃金が上がって、と言うけれども、私達の賃金はなぜこんなに上がらないのだろうという状況に近づいているのではないですか」
秋元キャスター
「正社員の賃金の現状について聞いていきますけれど、玄田さんが著書の中で記されている、なぜ正社員の賃金が上がらないのか、2つ目の理由ですね、社会保険料の企業負担増というのがあるのですけれども、これはどういうことなのでしょう?」
玄田教授
「はい、この黄色というか、青の部分と2つあって、この青い部分というのは、いわゆる社会保険料というのを企業負担含んだうえでどのくらい人件費を負担しているかということで」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「これはそれぞれ社会保険とか、健康保険というような、厚生年金とか、健康保険を除いて、つまり、手取りの賃金というのがどのくらいなのかと見ると、実は最近、すごく乖離が大きくなっているんですよね」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「つまり、何を意味しているのかと言うと、それだけ社会保険料負担という、企業の負担する社会保険料負担というのがすごく大きくなってきているのだと」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「だから、たぶん人手不足なのに、なぜ賃金が上がらないのかなんて、企業に、経営者に言ったら、払っていますよと、どこで払っているのですか?と言ったら社会保険料負担が相当大きいですよということを、正社員についてはと。この部分を含めて見たら、相当払っていますよという実感を持っていらっしゃる経営者の方は、たぶん中小企業ではほとんど多いと思うんですね。なぜこんなに増えたかと言うと、高齢化社会の進展の中で、健康保険とか、厚生年金の部分はどこを負担するのだとなると企業が負担するということになっているので…」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「では、これをもし企業が負担しなかったらどこが負担するのと言うと、また税制改革するのという議論になってくると、また、大きな議論になってくるけれど。それは、事実としては社会保険料負担というのが、特に2010年以降を見ているとすごく大きくなっているので、その部分というのをどう考えるか。もし本当に社会保険料負担を少なくして手取りの賃金を増やすのだったら、この負担の部分は誰が払うかという議論を真剣にやらない限りはこの問題というのは今後も続くだろうと。だから、賃金増加につながらないということになる」
反町キャスター
「社会保険料は、いわば隠れ税金みたいなことをよく言われるではないですか?」
玄田教授
「はい、うん」
反町キャスター
「玄田さん、社会保険料の企業負担分を増やすのではなくて、賃金を増やし、そのままそれぞれの1人1人の労働者の社会保険料個人負担分でそれをとりあげる、それは税として、になるのですけれども、税としてとりあげる部分のことの方が、社会的な循環として、経済的な循環としてはよいものをもたらすのですか?」
玄田教授
「それは消費者、労働者達がそれを望めばなら、けど、おそらくそういうことはないのではないですか」
反町キャスター
「では、現在の方がいい?」
玄田教授
「企業に負担してもらっている方が安心だと思っているのではない?」
反町キャスター
「でも、結局はお金をどこかから持ってこないと社会保険料が足りなくて、税金としてもやらなければ、それは破綻しちゃうわけですから」
玄田教授
「破綻しちゃう」
反町キャスター
「どうするのだという選択肢で、現在はこのワニの口みたいに広がっている部分というのは、やむを得ないと感じる?」
玄田教授
「現在の制度上はやむを得ないでしょうね」
反町キャスター
「やむを得ない?これは、でも、早川さん?給料、賃金として渡して、税として吸い上げるのか、社会保険料として企業負担とするのかというのはどっちも経済的な効果としてはほぼ同じ意味なのですか?」
早川氏
「実は違う面もあって。要するに、なぜこんなことになっちゃっているかというと、実は本来であれば、たとえば、消費税なりなんなり、税金でもっととっていけばいいのに…」
反町キャスター
「そう」
早川氏
「それが政治的にできないものだから、ある意味で、比較的とりやすいところでということになっているわけですよ」
反町キャスター
「はい、はい」
早川氏
「これは天引きなので実感がないんですよね。一方で、消費税というのは払うので、皆が嫌がる」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「そうすると、皆が目立ちにくいこれでやっているという。ただ、これは問題がたくさんあって、実は賃金が上がりにくいだけではなく、よく消費が伸びない理由というのを、実はこれが結構大きいわけですよ」
反町キャスター
「あぁ」
早川氏
「要するに、内閣府の統計だとこの青いヤツが雇用者報酬と言って、これが収入だって言うんですよ」
反町キャスター
「なるほど。伸びていることになる…」
早川氏
「…伸びている。だけど、本当に貰っているのはこっちだろうと」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「だったら、消費はこちらぐらいしか増えないぜという…」
玄田教授
「それこそ実感がないという…」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「実感がないとなるし、それから、もう1つ、これは、短時間労働者は必ずしも雇用保険の…、社会保険料の対象になっていないわけですよ。だから、ごく最近は本当に人手不足だから正社員化が進んでいますけれど、過去20年間にわたって非正規化が進んだ1つの理由がこれですよ」
反町キャスター
「うん」
早川氏
「企業からすると、非正規だったら社会保険料を払わずに済むから単なる見かけの賃金よりもっと差が大きいのだという話もあるし」
反町キャスター
「なるほど、うん」
早川氏
「それから、今度は分配面の話をすると、たとえば、消費税は逆進的だとよく言われるのだけれども、社会保険料はすごく逆進的ですよ」
反町キャスター
「あっ、そうなのですか?」
早川氏
「うん。なぜかと言うと、高所得者もキャップがあってある一定以上、たとえば、年金保険料は増えないので、これはすごく逆進的だし」
反町キャスター
「それだったら…」
早川氏
「うん」
反町キャスター
「たとえば、企業から取るのではなくて、賃金に全部まわして…」
早川氏
「うん」
反町キャスター
「累進性がある、直接税になるかどうかはわかりませんけれども…」
早川氏
「うん」
反町キャスター
「消費税ではない形でとる形の方が…」
早川氏
「僕はいいと思うし、うん…」
反町キャスター
「政治がそれをやらなかったというのは、税という言葉に対しての恐怖心がある?」
早川氏
「うん、それはそうでしょう。すごく、たぶん普通の有権者の方も、こうやって知らない間にとられていく…」
反町キャスター
「でも、騙されているようなものでしょう?」
早川氏
「なんとなく、どうも厚労省の役人に聞くと、保険料と言うと自分に返ってくるものだと思って、意外に皆、受け入れる…」
反町キャスター
「それはまずいですよ…」
早川氏
「…ということがあるらしいですよね」
反町キャスター
「なるほど、はい」
早川氏
「だから、本当はもっと正面から取り組んでいくべきだと思うのだけれど、なかなかそうならないし。あるいはもう1つ言うと、現在、法人税は一生懸命減らしているのだけれども…」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「実を言うと、法人税を減らしていけば、日本企業が海外に出て行かなくなるかと言うと、実はこれがドンドン増えていると…」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「ちょっとくらい法人税を減らしたって、いいですか?日本の法人税よりも企業の社会保険料の負担分の方がずっと大きいですからね」
反町キャスター
「あっ、そうですか?なるほど」
早川氏
「だから、ちょっとくらい法人税を減らしたって、これが増え続けたら、日本で工場なんかつくるものかと思うわけですよ」
反町キャスター
「これは、ここのワニの口をどこかで閉じる…?」
早川氏
「うん」
反町キャスター
「でも、たとえば、政治の世界において選挙の公約とか、そういうものを見ていても、この口を閉じるという公約…」
早川氏
「出てこないですね」
反町キャスター
「聞いたことがないですよね?これはどこの政党も政治家もこれを正直に言って…」
早川氏
「うん」
反町キャスター
「いや、これまで企業負担でやってきたのだけれども、これはちゃんと賃金で出しますと、その代わり、皆さん、税で負担してください、これを言わないとこの問題…」
早川氏
「そうですね」
反町キャスター
「永遠に隠れたままになりますよね?」
早川氏
「そうですね、そうですね」
秋元キャスター
「続いてですけれども、この3つ目です、就職氷河期世代の影響というのも理由に挙げられています。これですけれども、大学及び大学院卒業者の世代別の平均給与について、2010年と2015年を比較した場合にどのぐらい増減したのかというのを表したグラフを見てみますと、就職氷河期に入社しました2015年に40歳から44歳の人達が、5年前の40歳から44歳の人達に比べて、2万3000円以上低くなっているわけです。玄田さん、なぜこのような状況が起きているのでしょうか?」
玄田教授
「はい、僕の言葉で言うと、いわゆる氷河期世代と何を比べているかというと、いわゆる平野ノラの世代ですよね」
反町キャスター
「ハッ?」
玄田教授
「そのバブル世代という…」
反町キャスター
「ハハハ…」
玄田教授
「そっちの方と比べると、月給で2万3000円低くなっているという、最初計算間違いなのではないかと思って、月給ですからね?」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「平均するとこのぐらい下がっていると。40代前半というのは、まさに職場で言えば働き盛りだし…」
反町キャスター
「お金もかかりますよ」
玄田教授
「そう。お金もかかるし、子供のこととか、家のこととか、1番消費が活発で、まさに社会の中核の部分なのだけれど。これだけ賃金面で痛む、大部分は正社員ですから、それは将来に対して希望も持てないし、難しい状況が起こってきていると。では、原因は何かと言うと、いくつかあって。氷河期世代というのが比較的、転職するのが当たり前になっていますから…」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「つまり、勤続年数が短い。日本は比較的まだ勤続年数に応じて賃金が増えるという部分が残っているので、短い分だけ下がっていると。あとは昔の大卒は、比較的、大企業に入ることが多かったのだけれども、氷河期世代ぐらいから中小企業を選択される人も増えているので、相対的に低い賃金になることも多いと」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「あと、もう1つは、会社に勤め続けたら良いことがあるかと言うと、先ほどのバブル世代という先輩が、大量入社組が目の前にいますから、だから、なかなか昇進、昇格のチャンスも少ない。そういうのが、いろいろ積み重なって、こういう状況が起きている」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「ただ、最も深刻なのは、だから、こういう氷河期世代の人達に、たぶん20代の頃、会社でいろいろな職業訓練とか、たくさん受けましたかというようなアンケートをすると、受けてないと答えるケースが非常に多いですよね」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「実は氷河期世代というのを振り返ると、2000年代初頭だから、サービス残業とか、過労死とか、そういうことがすごく言われて、すごく働いた世代ですよ、若い時に」
反町キャスター
「うん、はい」
玄田教授
「それが自分の身になっていない。つまり、訓練として自分のスキルを上げていないというふうな実感を持っている人が多いとすると、それはスキルがない分だけ賃金が上がらないとすれば、こんな悲劇はないという」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「かつては職場内で人を育てるということが日本の強みであり、生産性の源泉だったはずなのに、ちょうどこの氷河期世代ぐらいから、本当にそういう企業の中で1人前にしてもらうみたいなチャンスがドンドンなくなっていて、それが現在この40代の状況とか、ちょっと字は小さいですけれども、30代も下がっているということは、氷河期世代の前期と後期というのがあるのですけれども…」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「後期はもっと深刻ですから、さらに下がっているということで。このあたりの問題というのを、すごく賃金が上がらない理由として特に正社員の大きな原因になっていると思いますね」
反町キャスター
「早川さん、いかがですか?どうこの現象を…」
早川氏
「いや…」
反町キャスター
「ここから40代以降というのは日本のシステムが大きく変わったと見た方がいいのですか?」
早川氏
「これは十何年か前に阪大の大竹さんが…の本の中にこういう話があって。当時、彼が何を言っていたか言うと、日本では卒業年によって生涯所得が違っちゃうんですと」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「たとえば、景気の良い時に就職すると生涯所得が多い一方で、景気の悪い年に就職すると生涯所得が下がっちゃうんですと」
反町キャスター
「うん」
早川氏
「それはそういうものですという。結構、びっくりしたのですけれども。知っていたのだけれども、今度、玄田さんの本を読んで、我が目を本当に疑った1番のグラフはこのグラフで。えっ?こんなに大きいのということだったので、これは、要するに、日本の新卒一括採用で、そのチャンスは1度」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「ね?その時にたまたま運が悪いと、こういうことになっちゃう」
反町キャスター
「良くないですよね、それは?」
早川氏
「…と思っていて」
反町キャスター
「うん」
早川氏
「だから、まさに先ほどの、日本の、日本的雇用の1つの形ですけれども、新卒一括採用」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「新卒一括採用の悪影響がこんなに出た。たまたま不幸な年に生まれた人はこういうことになっちゃうということで」
反町キャスター
「そうすると、この氷河期以降の人達というのは、たとえば、それ以前の人達が持っていた、忠誠心を僕が持っているかどうか…、そこは個人的な話は別にしても、終身雇用で年功序列だから、会社に対してロイヤリティを持ってやりなさいという、そういう文化が激減している可能性がある?」
早川氏
「うん、まあ、どうかな?」
反町キャスター
「そうでもないですか?」
早川氏
「比較的、雇用が良くなってきた時代の子達はちょっと雰囲気が違いますけれど、その時代の人達は相当痛い目に遭っているので、そういう感じはあると思いますね」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「しかも、入った会社にそのままいるわけではなく、何回も転職しているという人がとても多いので、その影響は大きいと思うし、それから、もともと日本企業内のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)という企業内教育については、僕はそんなに評価はしていないですよ」
反町キャスター
「ほう」
早川氏
「だけども、この人達についていうと、それはそうだねと思うんですよ。日本の特徴というのは、要するに、大学、学校教育があって、職業教育をほとんどしないというのが日本の特徴なわけですよ」
反町キャスター
「はい」
早川氏
「そうすると、だからこそ逆に言うと、企業で職業訓練を受けないと何にも身につかないわけですけれども。この人達はひょっとすると大卒だったにも関わらず、所属が非正規である可能性があるわけですね」
反町キャスター
「うん」
早川氏
「所属が非正規だと、いわゆる職業訓練らしい訓練はほとんど受けられない」
反町キャスター
「なるほど、はい」
早川氏
「それから何年か遅れてまた転職しても日本の仕組みだと何年か遅れで中途採用の人に対する教育の仕組みというのは実は整っていないので、すると、この人達の世代について言うと、実を言うと両方ないじゃんと、学校でも職業教育を受けなかったし、会社でも職業教育を受けなかった。結局そういうスキルが堪っていないが故に、現在も低賃金の一員になっているという」
玄田教授
「少なくとも、5年ぐらいは安心して、有期でも働いて、その間にスキルを身につけながら次に進むということができてこないと、それはもうこれからの日本全体の生産性は立ちいかなくなると思いますね」

人出不足でも賃金低迷の『謎』 対応政策の効果とカギは?
秋元キャスター
「玄田さんの本の中には現代版の『ルイスの転換点』が到来すれば賃金が上がるという指摘があるのですが。まずはそもそも本来の『ルイスの転換点』というのはどういう意味なのでしょうか?」
玄田教授
「はい。これは開発経済学という分野の中で昔から指摘されているルイスさんというのが指摘したことがあるのですけれども。発展途上国が発展していきます、その時には都市の工場で人が足りなくなってきて、人がほしいとなる。どこから人を確保するかというと、農村部にたくさん働いていない人とか、農業で働いている人、それがドンドン都会に出て行って、人手が足りない部分を補充してくれるので、比較的、賃金を上げずに工場労働者を確保することができた」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「ただ、農村部にいる人達も数が限られているので、ある時にもう農村から人が出てこられなくなるとまさに転換点が起こって、もうこれ以上、人が確保できないと言ったらとにかく賃金を上げてでもどこかから人を持ってくるしかないのだという、それが『ルイスの転換点』と言われるわけですよ」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「ただ、何で現代版と言っているかと言うと、これは都市と農村の問題というよりも比較的まだ人手不足を女性と高齢者を中心にそこをなんとか補ってきたのが、私の感覚では、たぶん2019年ぐらいが1つのポイントになるのではないかなと。つまり、2019年というのは、いわゆる先ほどの1947年から1949年生まれの団塊の世代が皆さん70歳になるので、さすがにここからは引退という声が聞こえてくるのと。先ほどやった、こう女性の労働力率のカーブがさすがにこれはもう、このぐらい上がってくるので、これから女性が専業主婦で働き始めるみたいなのが…」
反町キャスター
「そうですね、65ぐらいになるとギャーッと下がっていく…」
玄田教授
「かなりこうグーッとなってくると思うので…」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「このぐらいになってくると新しい労働力が追加されてなんとか補充して、低賃金でも、というのはさすがにいかなくなってくるから。2019年ぐらいが1つのポイントかなとは思っているんですよ」
反町キャスター
「賃金がキチッと上がらない可能性としては世界的な不景気になるとか」
玄田教授
「うん」
反町キャスター
「そういうものぐらい?要するに、危ない障害、賃上げを阻害する要因」
玄田教授
「もう1つの方で指摘したいのですけれども」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「実はこの本の中で賃金の下方硬直性と上方硬直性…」
反町キャスター
「これだ、はい」
玄田教授
「…ということで、もう1つの原因は世界危機と同時に、むしろ労働者の心理ということが大きいかもしれないと。賃金の下方硬直性は昔、ケインズ経済学でよく指摘された、人が余って失業者が多くなっていたら賃金を下げて人を雇うということが起こるかというと、起こらないと。賃金は下がらない。だから、今回起こっているのは上方硬直性という賃金が上がらない」
反町キャスター
「上がらない…」
玄田教授
「…という状況ですけれど。実はこの2つが密接に関係していて。何かと言うと、どうも労働者というのは、何が1番嫌かと言うと、賃金が下がることを、現在でも嫌なのだと」
反町キャスター
「もちろん、そうですね」
玄田教授
「もっと言えば、賃金が下がらなければ、上がらなくても、まあよしとするかという心理が相当、現在、強いのではないかと」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「だから、もし現在、人手不足で賃金を上げましたと。けど、将来何が起こるかわからない。それで賃金を下げないと会社が潰れそうだという状態になった時に、その時に下げられるかというと、非常に労働者の抵抗が大きくて…」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「やる気がなくなったり、やめちゃったりするということを考えると人手不足だからと言っても、上げられないという」
反町キャスター
「えっ?賃上げをしないこととか、内部留保が400兆円になること、というのはポジティブに考えるべきだという話に聞こえますよ?」
玄田教授
「いや、ポジティブか、ネガティブかどうかはわかりませんけれど、労働者が将来に対して、とにかく下がるのが嫌で、上がることよりも下がらないことを望むというふうな状態が…」
反町キャスター
「よく政治家の方をこの番組で迎えると、それこそデフレマインドだよと…」
玄田教授
「うん、まさに直結していますよね」
反町キャスター
「良くないことなのだ、その感覚は、と言うのだけれども、玄田さんの話だと、それはある程度やむを得ないことだと?」
玄田教授
「データとして、事実として言われているという」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「つまり、賃金を上げている会社もあるわけですね。上げている会社の特徴というのは、悪い時は下げてもいる。下げてもいるけれど、良くなったら上げているという会社はあると。一方で、過去に下げた経験がこの10年間ぐらいまったくないような会社は、多少、業績が良くなっても上げていないという。後者のような会社が実は多いから…」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「全体としては賃金が上がらないという。これはどこに原因があるかと言うと、むしろ働いている人の心理面というか、将来不安というか、それをデフレマインドというか、よくわかりませんけれども、そういうこともこういう問題には影を落としているようなので、これがずっと続くようだよ、おそらく2019年とか、というのは簡単ではないかもしれない」
反町キャスター
「早川さん、いかがですか?」
早川氏
「日本の正社員の仕組みは維持できなくなっているにも関わらず建前で維持している。だから、自信がないから、要するに、企業サイドも賃金を上げる自信がないし…」
反町キャスター
「それは、労働者も企業側も両方、自信がないですか?」
早川氏
「ではないですか?」
反町キャスター
「はぁ」
早川氏
「だって、労働者の方もおそらく賃金が上がらなくてもいいから現在の安定した正社員のポジションが維持されれば、まあ、いいじゃないという…」
反町キャスター
「なるほど」
早川氏
「…ということ。それはおっしゃる通り、デフレマインドと言えば、それっきりですけれども。でも、その自信のなさの背景というのは別に単なる心理的なものではなく、実際に企業のビジネスモデルというのがドンドン変わっているのに、日本の企業がそれに対応できていないから、であるので。別に単なるマインドセットだけの問題ではないでしょうと思います」
反町キャスター
「マインドをキチッとリセットするためには、何かしらのスクラップ&ビルドと言うか…」
早川氏
「仕組みですよ、仕組み…」
玄田教授
「仕組み…」
反町キャスター
「仕組み?破壊ではないのですか?仕組みなのですか?」
玄田教授
「破壊というか、もう1回再構築という感じがするのですけれど。実は、もうちょっと喋ると、この仕組みというのは、実は先ほども言った、月給ですよね。賃金が、毎月の給料が下がるということに対して非常に抵抗感が大きいのですけれども、一方で、給与の中にはボーナスというのがあって」
反町キャスター
「はい」
玄田教授
「ボーナスというのは比較的、こういう抵抗感が少ないみたいですよ」
反町キャスター
「うん」
玄田教授
「実は現在、12月だけれど、昔の12月はすごく電車の中とか、うるさかったでしょう。すごくケンカになったとか…」
反町キャスター
「フフフフ…」
秋元キャスター
「そうなのですか?」
玄田教授
「それはボーナスの悲喜こもごもというのがあって。嬉しい人は飲んで大騒ぎするし、そうではなくてシュンとするから、戦ったり、いろいろなことがあって。その時はボーナスというのがメリハリをつけていたんですよ」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「実は本当にこういうボーナスというのが、先ほどの、企業の利潤を分配する仕組みとして、日本の賃金の柔軟性をもたらして、結果的には失業率も低く抑えてきた、仕組みなのではないかというのを…」
反町キャスター
「なるほど」
玄田教授
「昔、ハーバード大学の…」
早川氏
「ワイツマン…」
玄田教授
「ワイツマンという人が指摘したりしていましたね?これはどちらかと言うともう1回ボーナスにメリハリをつける。もっと言えば、正社員だろうが、非正社員だろうが、ちゃんと業績が上がったら1部はボーナスとしてちゃんと払うというのを、もう1回、つくり直した方がいいのではないか。だから、先行き、見通しがわからないから、賃金を上げられないと言うのだったら、現在は何で還元してくれるのと言ったら、組合だったら、少なくともボーナスぐらいは現在、一生懸命がんばって働いたのだから、くれないとやる気も上がらないし、来年、嫌になっちゃうなと言って、まずボーナスからメリハリつけていくべきでしょうと」

早川英男 元日本銀行理事の提言 『日本的雇用を変える』
早川氏
「日本的雇用を変えるということで。先ほど来、申し上げているように、個々の企業ベースで保険をかけていくシステムというのは維持できないし、それから、もう1つは、先ほども申し上げたように、女性に活躍してもらうためにもこの制度は維持できないので、ここを変えていくしかなくて。代わりに社会全体として働く人のセーフティネットをキチッとつくっていくという方向も、これは時間がかかると思いますけれども、これを目指すべきだと思っています」

玄田有史 東京大学社会科学研究所教授の提言 『まずはボーナス 勝負は2019年』
玄田教授
「繰り返しで、まずボーナスからいく。まずはこの部分を来年度、1つの大きな目標として変えていき、あとは2019年というのは非常に重要な年になる、勝負の年になるので、ここで円滑に賃金が上がるような環境をいろいろな知恵を探りながら考えていくというのが、まず当面のポイントかなと思います」