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2017年7月7日(金)
西部邁×佐伯啓思 ナショナリズムは悪か

ゲスト

西部邁
評論家
佐伯啓思
京都大学名誉教授 京都大学こころの未来研究センター特任教授

ナショナリズムは『悪』か
松村キャスター
「民主主義を抱える先進国で国家主義、いわゆるナショナリズムが台頭している背景には何があるのでしょうか。世界に広がるナショナリズムを考えるうえで、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領の誕生というのが大きな契機となりました。トランプ大統領は、就任演説で『これからはアメリカ・ファースト。貿易、税制、移民、外交に関する全ての決定は、アメリカの勤労者や家族に利益をもたらすように下される』と述べ、アメリカ国内の利益を重視することを明確に示しました。アメリカではグローバル化が進んだことで貧富の格差が進み、貧困層、中間層はナショナリズムへの思いを強くしているとみられます。佐伯さん、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領はこうした状況を踏まえて、ナショナリズムを扇動したと、そのように思いますか?」
佐伯名誉教授
「トランプ大統領がナショナリストかどうかというのは案外、難しいと思うんです。と言うのは、ナショナリズムというのは定義の問題ですけれども、ネーションですよね。ネーションというのは一応、国民ですよね。国民のうえにステイトというのがある。つまり、ステイトがあって、ステイトが統治機構でその下にネーションという1つの国民的まとまりがあると。ですから、ナショナリズムという言葉通りにいくと、国民が一致して結束して何かを行う、あるいはある価値を守る。それがナショナリズムだと思うんです。だけど、トランプ大統領がやっているのは、アメリカ国民を完全に2分しているわけですよね。完全に対立のうえでやっているんですよね。そういう意味では、トランプ大統領は、そういう意味での、アメリカの国民的一体化を推し進めようという意味での、ナショナリストかどうかというのは非常に難しいと思いますね。ただ、彼がはっきりしているのは、アメリカを強くすると言っている。この強くというものもなかなか難しいですけれども、いろいろな意味がありますから、難しいのですが。まずはアメリカのステイト、国としての力を強くする、特に対外的にもさまざまなことを発信し、圧力をかけることができる、アメリカが自分で自分達の利益を決定できる、それはステイトですよね。だから、まずはナショナリストと言うより、ステイティストと言いますか、国家というものの力を強くすることを考えている、と理解した方がいいのではないかと思いますね」
西部氏
「トランプ氏のことよりかは、日本人のことを言いたい。日本人は長い間、実に迷妄に沈んでいて、1つ取り上げるとですよ、日本人は、僕は戦後育ちですから全部覚えていますけれども、後進諸国のナショナリズムは概ね歓迎するんですよ。それは、インドであれ、どこであれですよ、これは先進国の旧植民地の宗主国に対する立派な抵抗運動だと、ナショナリズム万歳みたいな。ところが少々、先進国のナショナリズムになると、これは、いわゆる排外主義、外国を排する自国中心主義、エゴセントリックなと。それで危険だ、危険だと言う。ナショナリズムという言葉1つ、ある場合には肯定し、ある場合には否定するという2枚舌を、これは日本のインテリでもですけれども、しょっちゅう使ってきた、それよく知っているの。それと同じことですが、それと反対のインターナショナリズム、これにも嘘話があって、1番わかりやすいのは、もう潰れましたが、社会主義が華やかなりし頃の、モスクワのコミンテルンの、コミンテルンの意味は、要するに、共産主義国際運動本部と言うのですが、彼らがインターナショナルと言ったんですね。ですから、インターナショナルの歌というのがあるでしょう、あの人達、左翼の歌。あれも嘘話で、つまり、コミンテルンが言おうとしたのは共産主義・社会主義を世界に普及させるという意味ですからね。世界を画一的にするという意味では、現在のグローバリズムと同じです。各国のナショナリティを奪い取って、社会主義に塗り潰すという意味ですからね。国際主義でも何でもない。なんならば、国際主義、インターナショナルというのは、読んで字の如く、まずナショナルなものがあって、ナショナルとナショナルの間のインターを、要するに、安定化をさせるというのが本当の国際主義なわけですよ。ところが、日本人は、インターナショナリズムと言えば、要するに、ナショナルなものを押し潰して、なるべく薄くして、世界に何かナショナルなものを超えた、素晴らしき理想があるとして、それにもっていくのをインターナショナル。だから、もう消えましたけれども、国際人なんて言葉があったんですよ。僕はそれを大笑いして、いったい国際人はどこに暮らすのだ、たとえば、太平洋のド真ん中、太平洋の上空にでも暮らしているのかと言ったら…、要するに、あの時の国際人というのは、たとえば、アメリカの情報に詳しい日本人という意味に過ぎないわけですよね。それを何か国際人という国家から離れた人間がいるものとして、そういう人間を増やすのが今後の日本みたいな嘘話を、日本人は山ほど吐き散らしてきたんです、戦後。そういう意味で、日本人はまだナショナルとか、インターナショナルという、素朴な言葉の意味すら依然として押さえていないところが問題であって。僕の結論は、ユーロを見ようが、アメリカを見ようが、どこでもいいのだけれども、結局コスモポリタニズム、ナショナルなものを打ち消して、世界連邦的なある単一の画一的なもので世界をまるめる。それを現在、グローバリズムと言って、グローブとは地球という意味ですからね。地球を一色に塗り潰す、そんなバカげたことは全部失敗します。この失敗する意味は、たとえば、ヨーロッパを見ればわかりますけれども、当たり前のことであって、選挙で各国の国民に政府をつくらせておいてですよ、それでユーロでしょう、貨幣供給は各国が供給できないわけですよ。そうかと言って、公債を発行しようにも条件があって、赤字率が何パーセント以内にとどめないといけないと言うから、たとえば、ギリシャのように国債も発行できない。そうしたら金融政策も使えない、財政政策も使えない、と言うことは、失業者の救済もですよ、倒産企業の救済も何もできない自分達の政府、これはいったい誰の政府なのだと言ってギリシャ人は蜂起したわけです。そのうち、いたるところに蜂起が起こるでしょうけれど。いったいヨーロッパは…。ヨーロッパがいろいろな戦争やってきましたから、戦争なり、確執をやめるために、ヨーロッパのある統一を考えたという、やむを得ない経緯はわかりますけれども、あれだけ長い歴史を持ったヨーロッパのインテリ達が、よくもあんなバカげた…、僕1人だったんですよ、ユーロ、EU(欧州連合)ができた時から反対していたのは、そんなことは普通に考えればわかることですよ、ユーロと言うか、EUの失敗は。それがとうとう四半世紀たって失敗しましたと小さい声で言います。ざまあみやがれ、と僕は思っているんです」
反町キャスター
「ヨーロッパのナショナリズムと、佐伯さんに冒頭、聞いたアメリカのナショナリズムというのは根っこが違うのですか?佐伯さんの話で言うと、トランプさんのナショナリズムというのは、ナショナリスト的な動き、アメリカを一体化させるものではないだろうという…」
西部氏
「でも、アメリカはまた、特別な理由があって。つまり、もともとナショナルのナチオという意味は英語で言うとバースデイパーティーのバースと同じで誕生という意味ですね。そこからつながりまして、ナショナルなものというのは人口のうち何パーセントは世界を移動するのでしょうが、現在の日本人、よく知りませんけれど、数百万人は海外に定住したり、家族も入れれば1000万人近いのかもしれませんけれども。結局、圧倒的多数派は…。若干の移動はするでしょう、ありましょうが、そこに定住するということ、英語で言えば、インハビタント、インハビタントのハビットというのは習慣、慣習ですよ。慣習の中に入り込むのが住民という意味であって、そこに入り込むためには5年か100年かは知りませんけれども、ある長期間、そのあたりに定住して初めて定住民は、国民の基本形は定住民です。ところが、アメリカはですよ、所詮、移民の国でしょう。大陸でしょう。自動車で東から西まで移動しまくるわけですよ。そのうちにヒスパニックは入るわ、何が入るわで、あの国はもともと、小さい声で言います、国ではないですよ、そもそも」
反町キャスター
「大きい声ですよ…。国ではない?」
西部氏
「そういう意味では、定住性とか、歴史性とか、もちろん、国ではないとは言い過ぎですよ、国かどうか怪しいねと、クエスチョンマークのつく国なんですよ。つまり、アメリカにはドンドン、ヒスパニック系が入ってくるわけでしょう。そのうちに、白人は少数派になりますよ。そういうギリギリの状況で、しかも、定住民すら、しかも、資本だ労働だって国際移動を押し進めておいて、それはもう自分…、だから、むしろアメリカ・ファーストをナショナリズムと言うよりも、アメリカをなんとかネーションに近づけたいという、ほとんど悲鳴のようなものだとしか、僕には思われない」
反町キャスター
「佐伯さん、アメリカの理念というのか、政治的なきれい事と言えば、きれい事の世界です。アメリカの大きな柱として、たとえば、民主主義や、個人の自由、平等主義、人権の尊重、文化的多様性というのは共和党より民主党の方が強いかと思ったりもするのですけれど、こういういくつかの柱があるとします。アメリカで広がっているとみられるナショナリズムというのは、こういうアメリカの建国の理想、その延長線上に芽生えたものかどうか?それとも、今回のトランプ旋風、ナショナリズムなるものというのは、こういう建国の理想とはまったく異物として派生したものなのか?」
佐伯名誉教授
「トランプ大統領の誕生というのは2つポイントがあって、おそらく1つは、先ほどから言っている、グローバリズムがあまりいき過ぎたと。グローバリズムが行き過ぎたために経済的な格差がついてきた。ところが、一方で、政治の方は主権国家でやっていますから、ですから、お金やら資本やら技術はいくらでも海外に移転するけど、普通の労働者はそんなに簡単に海外に移転できないと。そうすると、資本が逃げて行ってしまったところの労働者がかなり悲惨な目に遭う。そういう人達が民主主義に訴え、それでトランプ氏に期待したと、これが1つあります。だから、これはグローバリズムの1つの亀裂ですよね。グローバリズムが生み出したと言ってもいいでしょう。もう1つ、トランプ氏を支えたものは、アメリカの、要するに、アメリカの共和国的理念と言われていた、この民主主義、個人の自由、平等主義、人権、そういうものに対する不満と言いますか、こういうものがインチキでないかという、そういう感じをかなりの人が持っていたということでしょう。先ほど、西部さんもおっしゃったように、アメリカというのは非常に人工国家ですから、何か理念でもって国民をまとめないとしょうがない。もちろん、最初には、ピルグリム・ファーザーズでアメリカにやって来た人達も、イギリス・ドイツあたりで迫害されてアメリカにやって来ると。だから、個人の自由、平等というのを掲げたことは事実ですね。だけど、そのあとになってアメリカは移民国家になりますから、移民国家をまとめるために、平等主義と個人の自由、人権というものを掲げないとしょうがなくなった。それでないとアメリカはまとまらないわけですね。ところが、こういう理念というものを考えてみれば、あまり普遍化して、理想化すると、無理なんですよね」
反町キャスター
「どういうことですか?」
佐伯名誉教授
「個人の自由と言えば、Aさんの個人の自由とBさんの個人の自由が対立しますから、対立した時にいったい誰がどう調停するか。そうすると、そこで権力が出てきたり、あるいは裁判所が出てきたり、あるいは政治家が多数決をとったり、何か別のものになってしまいますね。いずれにしても、そこは力の問題になってしまうので。それから、平等と言ってもあらゆる人を完全に平等に扱うわけにはいきませんから、ですから、どうしても何か区別やら目に見えない格差というのが出てくるわけですよね。そうすると、実際にはいろいろな差別やら格差があるのに、平等主義・民主主義を掲げている。実際には個人の自由と言ったって俺の自由は迫害され、全然、自由ではないのではないかという人が出てくる。そういう人達はこういう理念に対して、これは単なるきれい事ではないかと思っても、不思議ではないですよね」
反町キャスター
「たとえば、この建国の理想みたいなものをアメリカの多くの人達が見た時に、きれい事ではないか、偽善ではないかと思っても、その回答がナショナリズムになるのですか?」
佐伯名誉教授
「うん、だから、先ほどの、ナショナリズム、ナショナリズムという形、トランプ氏がやっているものは、実はナショナリズムではないと思うんです」
反町キャスター
「違うのだと」
佐伯名誉教授
「ある種こういうものから外れた人達の代弁をして、あるいは本当に代弁をしているのかはよくわかりません、トランプ氏はトランプ氏で彼らの票を得ようとしたのかもしれません。だけど、いずれにしても、そういうものから外れておもしろくない人がいるわけですね。それが現在のところ、白人中間からちょっと下の、普通の意味の労働者達。そういう人達は、自分達は平等主義や個人の自由やら人権と言われるものの恩恵を何もあずかっていないではないかということでしょうね」
反町キャスター
「そうすると、国内における不満を、いわゆる移民排斥とか、壁つくるとか、貿易協定を破棄するとか、いろいろなことを言うというのは、それは内側の矛盾を外に責任転嫁しているだけみたい、と言っていいのですか?」
佐伯名誉教授
「それはそういう面は多分にあると思います、多分にあると思いますね。ですから、トランプ氏のやったアメリカ・ファースト政策、保護主義、壁をつくるということで問題が解決できるかと言うと、それは解決できないでしょう。アメリカはこういう理念をこれまで掲げて、この理念は普遍的だと言って、普遍的だからこれは世界中に通用するはずだ、世界中の住民がこれを全部支持するはずだという、そういう話をやってきて、それがイスラムまで行ってしまうと、イスラムで完全に壁にぶつかってしまいましたよね。ヨーロッパでさえもルペン氏が出てきたり、イギリスの労働者が反対したり、ヨーロッパでもどうもそうはいかないという話になってきている。だから、問題は自由や民主主義を、これを世界化してしまった時に、自由や民主主義の持っている問題が暴露されてしまったと言うか、明るみに出てしまったんですよね」
西部氏
「たとえば、リベラルという言葉がありますでしょう。日本はだいたいアメリカの属国ですから、リベラルと言うと、たとえば、社会保障に積極的な人々とか、人権だの、へったくれでワーワー騒ぐ人をリベラルと言うんです。ところが、ヨーロッパでは、ヨーロッパもいろいろありますけれども、歴史全般の流れから言うと、ヨーロッパのリベラルというのはアメリカのリベラルとは似て非なるもので。どちらかと言うと、ヨーロッパにはヨーロッパ、各国違うけれども、それなりに宗教的な共通の基盤、歴史的な共有感覚というものがあるだろうと。しかしながら、それをがんじがらめに縛りあげると本当に自由に何もなくなるから、そういうものを常識として踏まえたうえで、しかしながら、個性的に、男であれ、女であれ、年寄りだ、若者であれ、ある幅を持って自分の意見なり何なりを自由に…。それがリベラルという意味なんですよね。ところが、アメリカは、要するに、国家だということの他に、皆さん、忘れていますけれども、もともと奴隷国家だったわけですよね。従って、奴隷を解放するという、そこから始まって、アメリカでリベラルと言うと、本当にやっているかどうかはともかく、スローガンから言うと、弱者救済、あるいは虐げられた人々の解放、エマンシペイション、そういうことがアメリカのリベラルなの。日本に入ってきて、アイツらリベラルだと、僕はそれをバカにしていますけれども、日本のバカにされるべきリベラルというのは、アメリカ経由のリベラルですよね。それぐらい大西洋を隔てて違うんですよね。ですから、アメリカのこれは全部しくじりますよ。だって、平等主義と言ったって、能力も努力も違うものを平等にしたら、それは悪平等に決まっているわけでしょう。個人の自由と言ったって、先ほど言ったように、AとBの自由はぶつかるわけですよ。そもそもデモクラシーを民主主義と訳したこと自体が日本人の間違いだけれども、アメリカ人も同じように間違っているのだけれども、あれはデイモス、民衆の支配という意味ですよ。従って、今から去る190年ぐらい前に、アメリカを訪れたトクヴィルはたった9か月、アメリカを見て、アメリカ人と会ったり、なんなりして、アメリカはティラニー・オブ・ザ・マジョリティ、凡庸な多数者の支配、これがアメリカンデモクラシーである。のみならず、アメリカのパブリックオピニオンをつくっているのは、まだテレビなんかない時代ですよ、彼は、ペディオリカル・プレス、定期刊行物、要するに、雑誌・パンフレットの類ですよ、こんなものの見出しだけを見て、1830年代ですよ、アメリカの世論のプライマリー・パワー、言ってみれば、主要権力は定期刊行物であると、こんな国は由々しき状態になるだろうと、日本で言えば、文化・文政の頃に、ヨーロッパ人に予告されているような国。ただ、注意深く見るとトクヴィル、条件を2つつけたんですね。世論なるものから距離を置いた、司法機関と、それから、宗教家、世論がどうあろうがピューリタンの宗教的原則はこれだと、世論が何を言おうが法律はこう書いてあるではないかという、司法官と宗教家が、社会の動きから距離を置いて、世論に叱責を加えるような、そういう独立性を保つならば、アメリカンデモクラシーにも少しは見込みがある。ところが、現在ご存知のように、弁護士は大挙してホワイトハウスに入り込み、宗教家はエバンジェリスト、テレバンジェリストと称して、毎日曜日にテレビで、小さな声で言いますが、宗教の演説をやっている、そういう国になっているわけでしょう。従って、アメリカの、これの全ては文化的多様性だって、ふざけるなと言いたいですよ。アメリカのやったことはこうですよ。独自の、固有の文化が何もないから、新しく入ってくる文化を利用するんですよ。それで一時、5年、10年、さも新しい文化的表現のようにするけれど、それが潰れると、また、新しい入ってくる文化を使う。でも、結局そういうことをやっているうちに混乱するから、それで、お前ら出ていけということに…」

民主主義は『"界"』か
反町キャスター
「佐伯さん、アメリカ建国の理想みたいな、きれい事シリーズみたいなものを皆さんに聞いていく中で、聞かなくてはいけないのは民主主義という言葉だと思うのですが、民主主義というのを我々はどう見たらいいか、その部分を話していただけますか?」
佐伯名誉教授
「この間、私も『さらば、民主主義』という本を書いたのですけれども、本当に文字通りそうですね。民主主義をやめろと言っているんです。つまり、民主主義というのは1つの主義ですね。先ほど…、主義というのは1つの価値判断、理想です。社会主義とか、自由主義、そういう主義というのは1つの理想を表していると、理念を表している。日本人、特に戦後の日本人はデモクラシーというものは民主主義であり、民主主義は国民主権であるという、それは理想的なものだと考えてきました。だけど、先ほども、西部さんがおっしゃったけれども、デモクラシーというのはデモンス、プラス、クラシーという言葉からきていますから、要するに、ギリシャの民衆支配という意味ですね。民衆が支配するような政治形態を…」
反町キャスター
「それは多数決による決定?」
佐伯名誉教授
「簡単に言えば多数決ですね、簡単に言えば…」
反町キャスター
「それは悪い意味ですか?」
西部氏
「当たり前じゃない」
反町キャスター
「ちょっと待って…」
佐伯名誉教授
「それでデモンス、プラス、クラシーを、それを民主主義と。ギリシャでは民主制です、民主政治です。だから、本当のことを言えば、民主主義というものはこの世の中にあるのかなとさえも思っているんです。たとえば、イギリスというのは民主主義の国なのですか?主権者はいったい誰なのですか?」
反町キャスター
「でも、国民投票によってEU離脱を決めました、あれは嘘ですか?」
佐伯名誉教授
「いや、国民投票は、ちょっとイギリスではかなり例外的な話です。イギリスは基本的に国王主権ですよね」
反町キャスター
「はい」
佐伯名誉教授
「国王主権の下で、それで議会が政治をするんです。議会が討論によって政治をする、そのうえに内閣が出てくる。議会の大臣を選ぶのが、これは普通選挙で選ぶ、そこが民主主義です。それを彼らは民主主義と言っていると。だから、イギリスの中心にあるのは議会主義です」
反町キャスター
「なるほど」
西部氏
「彼が言った議会主義、これは決定的に重要なことで。その意味は簡単に言うと、一般民衆、我々ですよ、それはなかなかいい面もあって、政策のTPPが良いか、悪いか、そんなことは知らんけれども、我々、反町さんも僕も苦労多き人生の中で、アイツはね、なかなかアレだぜ、人格的に信頼できるぜとか、ヤツのお父さんも、仲間もまあまあだぜという種類の、つまり、代表者を選ぶことについては、全てとは言いませんが、まあまあ庶民は、一般庶民、最近は少なくなっているけれども、昔ふうに言うと、一般庶民はそれなりの判断力を持っている。もちろん、政策について持っている人もいるでしょうけれど、それはごく少数であって。それで政策の、いわんやですよ、マニフェストの時に出たあのバカ話、数値と期限と工程?そんなことは、我々は知らんし、知る気もない、こちらはこちらの生活で忙しいのだと。そういうことは議会で専門家達が、専門を招くなり、関係者を招いて、まあまあ決めてくれと。それが降りかかってきて、我々一般選挙民になんじゃいこれと言うなら、どうも俺の人格的判断が間違って、誤ったリプリゼンタティブ、代表者を選んでしまったなという意味で、間接民主制、議会制民主制というのは、そういうふうにして時間と費用のかかるものなので。それを別にマニフェスト政治ではなくても、バカッたれメディアが1週間に1ぺんとは申しませんけれども、最近ちょっと減っているようだ、年がら年中、政策について、たかだか母数は数千でしょう、電話連絡で…」
反町キャスター
「世論調査?」
西部氏
「賛成ですか、反対ですかと、何とかの政策、世論は何十パーセント反対とか。それをまた議員達が今度の選挙で落ちたら困るから、それに敏感…、そういう意味では、ある種の直接民主制的な、くだらないものにドンドン近づいている。先ほど、佐伯さんがギリシャのアテネのデモクラシーが最悪なものになって、政治学の出発点はデモクラシー批判から始まった、それがソクラテス、プラトンです。それまでは直接民主制なわけですよ。おそらく、奴隷はいますけれども、奴隷には投票権がないから、いわゆる市民は3万人程度でしょう。3、4万人が直接民主制でやるから、それはたちどころに、デマゴーグになり、金権政治になり、下等政治になり、となってくる。デモクラシーというのは本当に腐敗する。これで終わりにしますけれども、これは別に、古代アテネに限らず、皆さん、嘘ばっかりついているけれども、たとえば、ヒトラー、あれは国民投票で独裁者になったんですよ。スターリンだって、毛沢東だって、国民投票ではないけれど、運動でもって、スターリンさま、万歳、毛沢東さま、万歳と、近衛兵のガキまで動員して。そういう意味では、民衆の歓呼の声に迎えられて、独裁者を選ばせたのが、現代における…。だから、民主主義は最悪のものよりはちょっといいという、アレは嘘話なの。もっとデモクラシーは、へたするとデモクラシーの只中から、ヒットラーがいい例ですけれど、最悪のものが生まれる可能性もあるという。最悪のものよりはちょっといいというのは、チャーチルの楽観論であって。そんなこと、近代史を振り返れば、デモクラシーがどれほど危ないものかということを、僕に言わすと、デモクラシーしかないですよ、今さら王様とか、貴族に預けるわけにはいかないが、可能性があるとしたらデモクラシーというのはメチャクチャ危ないものだぜということをわかっている人達によるデモクラシーだけが、どうにかこうにか大人のものに近づくと」
反町キャスター
「佐伯さん、『快』『善』という言葉を使って民主主義を分析しています。説明いただけますか、どういう意味ですか?」
佐伯名誉教授
「ギリシャで最初のプラトン…、ギリシャで政治学というものが誕生した。プラトンが政治学、国家論というのを書いたと。最初の政治学が非常に手厳しい民主主義批判だったのが、非常に大事なことだと思うんですよ。それは、彼が言った論点というのは、要するに、快楽というものと、それから善きものは違う。かなり哲学的な議論をちゃんと積み重ねているわけですよね。たとえば、体の調子が悪いと、お医者さんに行った、お医者さんがすぐに熱を下げてやろう、すぐ調子をよくしてやろうとそういうものを処方する。それはとりあえず快の方ですね。それでちょっと調子が良くなった、だけど、1週間ほどしたら、また、おかしくなる、1週間したらもっと悪くなることだってありますよね」
反町キャスター
「なるほど」
佐伯名誉教授
「そうすると、本当のよい医者は、快を与えるんじゃなくて、2週間、3週間して徐々によくなってくる、今のところは非常に辛いかもしれないけど、非常に薬は苦いかもしれないけども、苦いのを我慢して飲みなさいと、そうすると、1か月後には徐々によくなってきますよと。こういうふうにやるのが、これが『善』ですよ。で、これは話が違うだろう。プラトンが非常に強調して、ソクラテスが言っていることですが、民主主義というのは、結局、一種のポピュリズムと言いますか…」
反町キャスター
「ポピュリズム?つまり、快ばかり、市民が国民が求めるという意味ですか、それは?」
佐伯名誉教授
「そういうことです。ほとんどの人がそう求める。それはいろいろな理由があるでしょう。1つの大きな理由は、西部さんがおっしゃったように多くの国民は忙しいし、それから、大変な、大きな政治問題にそんなに関心がありません。我々の近くでも、消費税が上がった方がいいのか、このままがいいのか、それは我々にだって、僕らだって判断しにくいです。TPPが良いのか、悪いのか、こんなことは普通の人は判断できませんよ。そうすると、なんとなくコメの値段が上がりますよとか、そんなところで我々は判断してしまう。それは非常に当座の快ですよね、当座の快。だけれど、本当に大事なことはいったいどうなのか、10年後に日本はどうなるのか、これをやったら20年後どうなるのか。消費税は、今は辛いけれど、これを上げないと財政は深刻な問題になるという、これは善の方ですよね。だから、善の方を判断するのが政治家である。だけど、それは、政治家にはできない」
反町キャスター
「当然、できないですものね…」
佐伯名誉教授
「民主主義の中ではできない、それをやったら票が入らない」

ポピュリズムと『実態な"空"』
松村キャスター
「先日の都議選で小池百合子都知事が代表を務めていた都民ファーストが自民党に大勝しまして、都民ファーストから出た当選者のほとんどが新人だったんですよね、多くの選挙区でトップ当選を果たしました。佐伯さん、小池都知事による、これはポピュリズムが起きたということなのですか?」
佐伯名誉教授
「ちょっとポピュリズムという言葉と、これ西部さんがよく言われるけど、ポピュラリズムという言葉を区別しないとダメで。ポピュリズムというのは、そのまま訳しますと人民主義ですよね。人民主義というのは人民が自分達の生活を守るために、自分達の意見を政治的に通すという面がかなりあるわけです。それは、先ほども西部さんが、ちょっとおっしゃったけれども、アメリカで1890年あたりにポピュリスト・パーティー、人民党という党ができるんですよね。それは産業革命が起きて、どうも生活が悪くなった農民達が、自分達の生活を守るために、結束してポピュリスト・パーティーをつくったんです。今回のトランプ現象の中に一部そういう意味でのポピュリズムはあるんです、人民主義というのはあるんです。生活状況が悪くなった、ちょうど中間から下あたりの労働者達が、自分達の生活を守ってくれ、何とかしてくれ、これはポピュリズムです。もう1つ、単なる人気取り、私は、小池さんはどちらかと言うと人気取り、人気主義という面が非常に強いと思います」
反町キャスター
「小池さんの政策は、多数の都民の要望に応えたものではない?」
佐伯名誉教授
「それは、だから、わかりません。わからないという意味は、豊洲問題にしても、築地にしても、これは誰もわからない」
反町キャスター
「なるほど、確かに」
佐伯名誉教授
「彼女は問題があると言っただけです。これは問題であると、意思決定の仕方が問題である、従来の自民党中心のやり方がおかしいと言っただけですよ。実際にどちらに行った方が本当に東京都民のメリットになるのか、それはわかりません。そんなことは言っていませんし、だいたい東京都民、どちらにしてくれというほど強い意見を持っているとは思いませんけれどね。そうすると、それは、要するに、人気取りですよね」
反町キャスター
「ポピュリズムとポピュラリズムを比較する時に、ポピュリズムというのはより多くの人達が望むことをやること、先ほどの話で言うのだったら快かもしれないです。でも、ポピュリズムをやらないと人気が上がらない、人気が上がったあとに、何かやろうとするのがポピュラリズムみたいな意味?」
西部氏
「違いますよ。だって、ポピュリズムですよ。魚屋だか、卸が、豊洲に行こうが、築地に行こうが、我々にどんな快があるのか、苦があるのか、そんなこと誰も知りませんよ。ね?地下室のヒ素がどうなっているのか、きれいになったのか、どこかの溝に残っていたのか、そんなことは誰も知らない。でも、なんとなく騒ぎたいんですよ。現在スマホを持って街を歩いている奴らは、要するに、それで満足しているようだけれども、内心は空虚ですよ。俺はいったい何のために会社に行って、帰りはスマホを見て歩いて家に帰るのか、そういう内面の空虚にふと現れる、小さい声で言いますよ、見えないけど、オバケのような人達。そういう人達が来た時に、あっ、なんかオモロそうだなと、そちらに投票しているだけであって、これは快とか、苦を超えた、要するに、人間が、現代人、都会人がどれほどニヒルな、ニヒルと言ったって強いニヒリズムではないですよ、弱い茫漠たる空無感。俺は何のために生きているのかなと、10年後どうなるのかな、よくわからないなという、そういう弱い消極的ニヒリズムに囚われている現代人には、それはね。僕ちょっとテレビで観たのだけれども、自民党の、悪いけれども、都議会の候補者達のあの悪い顔には投票する気が起こらないんですよ。これはいったいどこのボスじゃい、こんなボスには…。なんとなく見ると、自分の消極的ニヒリズムにちょっと反応してくれそうなオモロい顔をしているなと、それだけで投票しているだけであって」
反町キャスター
「そこには先ほどの快とか、実利とか、利益関係とかはなくて…」
西部氏
「何にもない」
反町キャスター
「ニヒリズムと言うのだったら、そこから何らかの快感があるみたいな、興味がわくみたいな…」
西部氏
「今日的の気分ね」
反町キャスター
「気分?」
西部氏
「うん。それは、でも、1週間後には噴散霧消していますよ、そんなものは」
佐伯名誉教授
「だから、この3人(小池都知事、小泉元首相、橋下前大阪市長)に共通するのは、いずれにしてもどこかに敵をつくっているんですね。小池さんみたいに都議会だ、小泉さんは自民党だ、橋下さんは市役所だという。だから、敵をつくって、敵を攻撃して、この敵がいるからうまくいっていないんですよと言っているだけで、彼らがいったい何をしたいのか。小池さんだって都知事になっていったい何をしたいのかがわかりません。だから、自分のはっきりとしたビジョンは出てこないですよね」
反町キャスター
「なるほど」
佐伯名誉教授
「小泉さんは、郵政改革をやりたかったという、潰したかったというのは事実でしょうね。それはある、でも、それ以上の大きなものがほとんどないですね。既得権益を持って、この世の中を停滞させているヤツがいて、それを壊すんだ、壊すことによって改革できるのだと言う、こういうメッセージを、この3人は…」
西部氏
「そう、それなのだ」
佐伯名誉教授
「そこが非常に大事で、それがポピョラリズムになるんですね、現在」
反町キャスター
「ポピュラリズムは刹那的で瞬間的なものであるならば、ポピュリズムの方は比較的、利害損得に、要するに、既得権益とくっついているとすればポピュリズムの方が政治的基盤としては堅いし、持続性もあるのではないですか?」
佐伯名誉教授
「だから、その場合には、ポピュリズムというのは、人民という言葉からわかるように、逆にエリートがいるんですよね」
反町キャスター
「はあ」
佐伯名誉教授
「エリートに対して人民と言っているんです、これは。現にアメリカでもヨーロッパでも起きたことは確かにエリートにあったこと、エリートに政治を任せたが、そのエリートがちゃんとしたことをやっていないではないかという、こういう批判ですね。これが逆に、普通の人民達にかなり大きな発言権を与えたのだけれど、正直言って、人民が本当に政治に出てきてうまくいくかと言うと、それはうまくいかないでしょうね」
反町キャスター
「エリーティズムに対する、反感みたいなものがあるなら、ヨーロッパとか、アメリカで起きている冒頭の話に戻りますが、ナショナリズムはその問題の解決にはなりませんよね?」
西部氏
「ちょっと…これは慎重に言わなければいけないのだけれども、エリートというのは選良という意味でしょう。当然ながら、僕は選良ではないから言えるのだけれども、この世の上層部にいるのは選良であるのが普通なんですよ。家柄もよくですよ、人相もよく、体格もよく、お金もあり。いい? 僕のようなヤツがなれるとしたら、ヒトラーとか、ゲッペルスにはなれるかもしれないけれども。でも、そういう意味でのエリートがロクなことをしないから、とうとうピープル、ポピュラー、つまり、人民が怒りはじめたんですよ。アメリカだって、そうだったんですよ」

評論家 西部邁氏の提言 『国"主"』
反町キャスター
「西部さん、国民主義と書いてあります」
西部氏
「僕はその国に誕生した、その国に概ね定住する者としてのネーション、国民、国民を重んじるというのは、まったくあたりきしゃりきのことで、そのことについて是か非かなんて余計な議論はしないでもらいたい」

佐伯啓思 京都大学名誉教授の提言 『鐘楼のパトリオテ"ズ"』
佐伯名誉教授
「鐘楼のパトリオティズムと書いているのですけれど。これはヨーロッパのある思想家の言葉なのですが、要するに、お寺の鐘です。お寺の鍾を、つまり、地域ですよね、地方の普通の生活、伝統的な生活、お寺がちゃんとあって、その中で家族が生活できる。そういうことを大事にする、そこから始めようということです」