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2017年6月13日(火)
護憲派・改憲派が激論 憲法9条と自衛隊明記

ゲスト

百地章
国士舘大学特任教授 日本大学名誉教授
井上達夫
東京大学大学院法学政治学研究科教授
石川健治
東京大学法学部教授

『憲法9条』3法学者激突
秋元キャスター
「安倍総理が憲法記念日に改憲案を表明してから1か月、自民党の憲法改正推進本部は今月6日から憲法改正実現に向けた本格的な議論を始めました。その最大の焦点となります、憲法9条の改正について、改憲派、護憲派、それぞれの憲法学者、法の理念・本質・理想などを深く掘り下げて考察する法哲学の論客を迎え、安倍総理が提示した改憲案の是非と憲法のあり方について議論します。まず憲法9条の条文、あらためて見ておきたいと思います。憲法9条の第1項では戦争の放棄、第2項では戦力の不保持、交戦権の否認を謳っています。この憲法9条に関しまして安倍総理は今月3日の憲法記念日に『憲法9条1項、2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込む』と表明をしました。改憲派の百地さん、安倍総理が具体的な9条改正案を示した狙い、どう見ていますか?」
百地特任教授
「まず第1点は、自民党は憲法改正を、立党精神、党是としていますね。安倍さん自身も積極的で、自身の信念として改憲ということをかねがね述べてきました。昨年の参議院選挙におきまして、いわゆる改憲勢力と言うか、前向きの勢力が3分の2を超えた。実は衆議院では既に3分の2を超えていますから、衆参両院で3分の2を超えたのは初めてです、私が見ているところですね。画期的ですね。ところが、一向にこの肝心の憲法審査会が動こうとしないと。つまり、民進党のペースに合わせてというか、向こうはブレーキかけようとしているわけですけれども、それに合わせてなかなかまとまらない。つまり、憲法改正原案をつくろうとしないわけですね。それでしびれを切らして、言わば、予想外の、そういう案を出すことによって風穴を開けようとしたのではないかと、これが第1点です。第2点は先ほど来、1項、2項との矛盾とか、そういったこのお話がありますけれども、これについては確かに安倍さんも、かねがね憲法9条は憲法改正の本丸であると、しかも、その中心は9条であるということでずっと主張してこられました。その内容は先ほどありましたように9条1項、いわゆる侵略戦争の放棄、これは維持する、つまり、平和主義は守ります。しかし、第2項の陸海空軍その他の戦力はこれを保持しないとした戦力の不保持を定めた2項、これをあらためて主権独立国家に相応しい軍隊を持つ、日本の国の独立と平和を守るための軍隊を持つようにしたいと。こういうことをおっしゃってきたわけです。ところが、今回の案はちょっと違ったわけです。それをどう見るかということですが、私はこういうふうに考えているんです。つまり、安倍さんは、将来きちんと国民の理解と支持を得たうえでの話ですけれど、なぜ自衛隊を軍隊にしなくてはいけないかということ、そういう理想、目標を定めていると思うんです。そのためのいわば第1歩として、まずできるところから手をつけようということで、自衛隊を憲法に明記しようと、合憲性を明確にしようとしたのではないかと。3番目は、私の想像ですが、3番目は、この自衛隊の保持を憲法に明記することによって、違憲の疑いはなくなりますし、いざという時には国民の先頭に立ってこの国を守ってくれる自衛隊、自衛隊に栄誉を与え、さらに、自衛官に誇りを持ってほしいと。そういう意味合いがあって、この思いがけない、想定外・予想外の、この案を提示したのではないかなと思っています」
反町キャスター
「井上さん、この安倍提案をどう見ていますか?」
井上教授
「私はそもそも前、西修さんとこの番組で話した時も申し上げましたけれども、不完全な改憲案だとしても、現状の憲法が持っている問題点を少しでも改善するならば、やる意味はあるかもしれませんけれども、この安倍改憲案はまったく現状の問題点を解決しないどころか、それを炙り出しているだけだということですね」
反町キャスター
「問題点を炙り出しているだけ?」
井上教授
「それは何かと言うと、自衛隊を憲法上認知するかどうかは問題ではなくて、戦力としての自衛隊を認知するかが問題なんです今。それは、海外に派兵されている時、日本は、自衛隊は戦力ではないと言いながら、向こうでは交戦法規が適用される対象ですから戦力として扱われている。そこからくるさまざまな矛盾がありますけれど、それだけではありません。朝鮮半島がこれだけ緊迫してくると、いつか本当に日本の領土内で軍事紛争が起こるかもしれない。そう言った時に、自衛隊は戦力ではございません、警察だとか、言っていて済むのかということですよ。日本の安全保障を真面目に考えている首相だったら、こんな中途半端なことではいけません」
反町キャスター
「井上さん言われた問題は戦力としての自衛隊を認めるかどうかであると。2項を残すということは、戦力はこれを保持しないという部分が当然、残るわけですよ。自衛隊を戦力として認めるかどうか、これが、要するに、現在の国際情勢を考えた時に、当然必要な条件ではないかという、ここの部分はいかがですか?」
百地特任教授
「いや、それはまさにおっしゃる通りです。だから、石破さんが、これに対して反対していますよね。私も本来からすればその通りだと思っています。安倍さんもそういうこと言って、9条2項を改正して軍隊を持つべきだ、私も軍隊を持つべきだという立場をとってきました。ちなみに、なぜ自衛隊法、いろいろな法律をドンドンつくって、拡大していく中で、なぜ9条2項を改正しないといけないかということをおわかりでない方もいらっしゃると思うのですが、これは軍隊と警察の問題になってくるんですね」
反町キャスター
「軍隊と警察の違い、これですよね?」
百地特任教授
「通常戦力においては、実態はまさに軍隊そのものです。世界でもトップクラスの軍隊だと言われていますよね。ところが、憲法9条2項でもって、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない、一切戦力を持てない、つまり、軍隊は持てないということを書いています。そうすると、法制度上は軍隊でないと言わざるを得ない」
反町キャスター
「そうすると、9条2項があることによって、自衛隊というのは警察並みの扱いだという…」
百地特任教授
「法的には、まさにそうです」
反町キャスター
「井上さんは、そう考えていますか?」
井上教授
「言っておきますが、実は、安倍政権だけではないけれども、民主党政権の時から既に南スーダンに自衛隊を派遣しているわけですよ。それ以前から、ずっと自衛隊を海外に派遣しているんです。国際法上、これは交戦法規が適用される団体ですよ。戦力として扱われているんですよ。それを戦力ではない、警察だなんて、これがもう問題の1番の根幹ですよ」
百地特任教授
「いや、いいですか?たとえば、イラクに派遣された人達にしても対象は自衛官1人1人になっているんです。自衛官として正当防衛、緊急避難の範囲内ででしか、あるいは法律で書かれたことしかできないと。警察というのは逆に、ポジティブ・リストと言いまして…」
井上教授
「日本法上そうだとして、多国籍軍上はそんな制約はないです」
百地特任教授
「ちょっと待って…。だから、たとえば、PKO(国際連合平和維持活動)部隊にしても…」
井上教授
「多国籍軍の指揮命令下に自衛隊は入るんですよ」
百地特任教授
「だから、PKO部隊にしても確かにPKOの協定がある、地位協定があるでしょう、それによって守られている。万が一、何か事故が起こったとか、そういう民間人を殺傷したとか、大変なことですね、任務遂行上であったとしますね。その場合、国連としては、これはもう関与しない、自国でちゃんとやりなさいということで、普通の国は軍法会議でもって、特別の基準でもって裁いているわけでしょう。ところが、日本はそれがない。ないから、だから、だからと言って、現地法で裁くというのも、国連はそういうことを言っていない…」
反町キャスター
「百地さん、それを言えば言うほど、この2項…、はい、どうぞ」
百地特任教授
「いや、だから、だから、ちょっと待ってください。現実は、私は専門的な話は、専門家から聞いて…」
反町キャスター
「おかしいと思っているけれど?」
百地特任教授
「いろいろ問題が起こっているのは事実です。だけど、そこで今度は現実の政治論として考えた場合に。実際9条2項を、解釈を変更してしまえば、改正どころか解釈を変更しただけでも、公明党はついてこないと。公明党が入ってこなかったら…」
反町キャスター
「ああそうなると、憲法論ではなくて、政治論になってしまう、具体論になってしまう。なるほど」
百地特任教授
「だから、絶えず、だって、それ抜きでだったら、私もずっと理想論を唱えますよ。だけど、そういうことですから。従いまして、本来であれば、軍隊であれば、たとえば、ネガティブ・リストに基づいて国際法で禁止された、たとえば、非人道的兵器の行使禁止とか、そういったいろいろな規定があります。これに違反しなければ、主権と独立を守るために自由に行動していいというのが、これが軍隊です。それに対して警察というのは国内で動きますし、本来。法律でもって具体的にこれとこれをしていい、つまり、ポジティブ・リストと言いますけれども、根拠規定があって初めて動けるんですね。自衛隊はそういう立場に置かされているんです。だから、海外行く時にも1つ1つ、たとえば、イラク派遣部隊は機関銃を何丁持っていくとかですね…」
反町キャスター
「やっていいことだけ決められているんですね」
百地特任教授
「そういうことですね」
反町キャスター
「軍隊になると、これ以外はやっていいということになるわけではないのですか?」
百地特任教授
「そういうことです、国際法に従って。だから、現実問題は、たとえば、現在の自衛隊法では、本格的な外国からの武力攻撃、つまり、戦争をしかけられた場合には防衛出動が出ます、出せます。防衛出動が出た時には、現在の自衛隊法でも国際の法規・慣例に従って行動をすると。つまり、防衛出動が出た時には、軍隊として行動ができると自衛隊法でなっているんです。しかし、それ以前のですね…」
反町キャスター
「そこまでの…」
百地特任教授
「それまでの、たとえば、中国の武装ゲリラが尖閣諸島を狙っていると。もし強行上陸した場合に、自衛隊はそれを見ているだけで出て行かれないんですよ。つまり、根拠規定がないから。だから、警察官とか、海上保安官、次々と犠牲者が発生すると。で、警察や海上保安庁では対処できないという時に、初めて海上警備行動というのが発令される」
反町キャスター
「百地さん、その話、すればするほど2項は変えた方が…」
百地特任教授
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ」
反町キャスター
「それを認めながら、最後は政治論だから妥協が必要だから2項は残すのだって、なかなか納得しない…どうぞ」
百地特任教授
「そこも、私も一研究者であれば、それで止まっていますよ。だけど、実際、憲法改正の国民運動をしていますし。また、私は憲法学者ですけれども、私なりに生きた憲法と言いますが、そういうことを考えていますから。そうすると、それだけではいけない、だから、現実を考えざるを得ない。そこで私としては、敢えて第1歩として、国民には絶えずその問題点を指摘していくと、このままでは十分ではないのだということは指摘しつつ、しかし、現実には国民の支持が得られなかったら憲法改正できませんから、まず理解が得られたところから進むしかないのではないかと、そういう前進主義の立場で、私はこういう主張。実際、悩んだんですよ、悩んだけれども、これしかないのかなと」
石川教授
「9条の2項に、3項になるのか、9条の2項になるのかわかりませんけれども、これだけで本来、問題は解決しないはずですね。誰が動かすのかということがあるわけで。誰が動かすのか。たとえば、内閣が動かすのだとすれば、内閣の職務を定めた73条という条文があってこれに書き込まなければいけないわけです。また、軍法会議をつくるなんてことになりますと憲法の司法権の条文である76条2項の改正が必要になります。ですから、いろいろなところに影響が出てくるはずで、ここだけ変えるということは本来あり得ないと。逆に言うと、ここだけ変えて済ませるのであれば、これは百地さん、先ほどご指摘のように、この内閣の規定を定めている73条に一般行政作用という言い方が出てきますので、普通の役所仕事として認めているのだ、自衛隊はお役所仕事だということを言っていることになるわけですけれど。これはまさに欺瞞そのものではないかと思うわけですね。だから、今回の改正提案というのは動機が極めて怪しげなものであると、本気の改正論ではないということをまず考えておく必要があるというわけです。そうだとすると、今回の議論が我々に何をもたらすのかということを冷静に考えておく必要があるだろうと。つまり、現状から何を足し算し、何を引き算するのかということを考えていく、これが大事だと思うんです。私の理解では、それは引き算ばかりであるということになるわけで。この改正は、いわば最悪の提案だということになるのではないかと思います」
反町キャスター
「何をもたらすんですか?」
石川教授
「これは権力統制に関する規範がまったくない状態で自衛隊を書き込んじゃうわけですね。と言うことは、憲法上のコントロールがなくなってしまうんですよ」
反町キャスター
「自衛隊に対する…」
石川教授
「自衛隊に対するコントロールがなくなってしまうということになる。現状はとにかく、本来はないはずであるという議論をすることによって、一応のコントロールは効いているということになるわけですけども。時間があればあとでご説明しますけれども。自衛隊を明文で書き込んでしまうことによって正当性を付与してしまいますと、これまで機能してきた9条のコントロールというのが効かなくなってしまう。だとすれば、代案を出さなければいけないはずですよ。一切、その代案がない。極めて不真面目な改憲提案だということになると、そういうことを申し上げておきたいと思います」
反町キャスター
「9条だけ変えるのは、おかしいだろうと。軍法会議のことやらなんやら、司法権との整合性も含め、もっといろいろパッケージで考えなくてはいけない部分を9条だけがあたかもこういうふうにやるのは、中身を変えていないことのまったく裏返しの話になりませんか?という趣旨の話だと思ったのですが…」
百地特任教授
「ですから、まさに第1歩で。そこでいくしかない、現状でいくしかないと。つまり、軍隊になれば、まさに軍法会議みたいなこと出てきますよ。だけど、今回…」
石川教授
「第1歩で止まっちゃたら…」
百地特任教授
「今回の話では、とりあえず自衛隊を明記するだけでしょう?そこまではいかない。しかし、国民の中にそういう議論もちゃんと提起していって、現状では軍法会議と言うだけで、おそらく国民は拒否感なり、あるでしょう。そういう中で、しかも、実際に自衛隊を明記するだけですから、軍法会議は、直接は理論的には必要ないわけですよ。そういうことで別にそれによって不都合が生じることはないと思います」
反町キャスター
「いかがですか、石川さん?」
石川教授
「それは…、たとえば、今回、安倍さんがレガシーを仮につくれたとしても、その次が大丈夫かという話がありますよね。結局ここで止まっちゃうわけですよ。ここで止まったら最悪ではないですか。だから、出すのならば、パッケージで出さないと意味がないし、意味がないどころかむしろマイナスであるということなのではないかと思います」
反町キャスター
「これについては、井上さんも意見があるのではないですか?」
井上教授
「なぜ今1歩って…。政治的手続きは既にもうあるし、かつ自衛隊・安保を違憲だと言っている人達ですら、その存在そのものは認めているんですよ。どこまであるか集団的自衛権、そこは争いがありますけれど。だから、安倍さんの言うように、違憲だと言う人の声を塞ぐと言うけれども、政治的には必要ないですよ。それをしないと今、緊急の必要性がある、困るということがあればいいのだけれども、それはまったくないんです。にもかかわらず、敢えて憲法改正を問うならば、憲法問題についてはっきりとした、筋の通った、改正案を出すと。そうして初めて意味があるわけですよ。いったんこの中途半端なものにしてしまったら、一応9条問題についてはこれでカタがついた、みたいなね。改憲をめぐる政治的エネルギーの結集というのはこの前、反町さんもおっしゃったけれど、大変なことなので。それで次と言ったら、また別の問題にはなりますよ。私は9条が本丸だって本当に安倍さんが思っているのだったら、こんなお試し改憲的にやっちゃダメで、もしお試し改憲やるのだったら9条問題とまた別のところでやってもらって、あっ憲法は変えていいのだなと国民にわからせたうえで、9条問題という本丸についてもっと徹底的な議論を、時間をかけて、しかも、公明党がどうのとか、そんな話ではないです、超党派的に議論をしていくと、こういうことが本当の憲法改正プロセスですよ」
百地特任教授
「1つは、これでもって憲法改正して中途半端なままで終わってしまうのではないかと、その次はないのではないかと言いますが、そのへんは考え方の違いだと思いますけれども。70年間、1か所も手をつけることができなかった、その憲法に対してとにかく国民の手で1か所でも改正できたのだという、この成功体験みたいなものが、これがまた、それに対して自信を与えると思うし。私は次があると思っています。しかも、この9条、自衛隊の明記はあくまでも本来の目標を達成するための第1段階ですよということを、絶えず訴えていく必要があると思いますから。そういうところでいけば、これで終わることはないし、終わってほしくないと思っています」
反町キャスター
「たとえとして適切かどうかはわかりませんけれど、たとえば、国会で予算案の審議をする時に、本予算の審議に入っている時に、どこかの閣僚が、いや、次は補正があるからと言うと、その時点で予算の審議が止まるんですよ。ふざけるなと野党は怒るわけですよ、だったらパッケージで一緒に出せと。補正を念頭に置いた本予算の審議なんていうのは応じられないという野党の気持ち、ちょっと理解できる部分もあります。今の話を聞いているとまったくそれと同じで、次があるのだからとりあえずここでという部分というのがどのくらいの訴求力をもって国民に伝わるかどうか。どう考ますか?」
百地特任教授
「うん、だから、そこは確かに議論のあるところでしょう。だからこそ悩ましいわけだし。当の自衛隊関係者にしても、私も自衛隊関係者の意見は大事だと思っている、当事者でもあるから。私の友人、元の自衛隊の幹部とか、あるいは知人にメールを送って、私はとにかく第1歩を踏み出そうと思っていると、もし絶対反対だということになれば、私も考えることになるけれどもということで、ちょっと送ったんです。そうしたら何人か送ってくれましたけれども。その前に、公表されている中では河野(かわの)さん、河野(こうの)さんと言いましたか、統合幕僚長、あの人が、あくまで個人の考えとしたうえで自衛官としてはありがたいとおっしゃっている。それから、もう1つ、読売には斉藤元統合幕僚長、この方もちょっと正確に言うと、こういうことをおっしゃっていました。安倍さんの提案というのは苦渋の決断だろうと、そういう言い方ですよね。つまり、このままでは1歩も進まない中で…、ちょっと待ってください…」
反町キャスター
「でも、謝意を示されている…」
百地特任教授
「それで、私の友人達にも確かに絶対反対と言う人がいました。それから、悩んでいると言う人もいました。だけど、一方、多くの自衛官は現在の曖昧なままよりも、明確になるということを喜んでいるのではないかという声もあるわけです。だから、私はむしろそれを非常にと言うか、大切にしたいと思っているんです」
井上教授
「それは根拠がありますか?統合幕僚長が言ったというのはそうだけど。自衛隊員が、俺達はそれを喜んでいるという根拠は何ですか?」
百地特任教授
「いや、だから、私は私なりに…」
井上教授
「推測ですか?」
百地特任教授
「いや、だから、私がメールを送って何人かに聞いた、とりあえず。幹部クラスでしょう、陸将とか、陸将補クラスだとか、空将とか、その人達の声だけですから、あくまでも1部の声ですけれども。で、実際、反対もあると言ったでしょう、厳しい反対もあったと、悩んでいる人もいたと。しかし、一方で、賛成という、多くの自衛官も賛成しているのではないかという声を伝えてくれた人もいたわけです。そういうことで全体の意見はわかりませんけれども、そういう声はそれなりに聞こえてくるわけですね」
反町キャスター
「石川さん、自衛官の方々、30万人ぐらいの方々、OBも含めて、何千万人にもならない方々、その人達がどう思うかというのももちろん、大切だけれど、憲法を変える以上は、変えることによって日本の安全がより高まるかどうか、はっきり言えば、我々の将来における幸福につながるのかどうかというところにちょっと絞って聞きたいのですけれども。石川さん、率直に今回の安倍さんの1項、2項を残して3項を加えるというこの提案というのは、我々の幸せにつながるかどうか?シンプルな質問ですけれど、どう思っていますか?」
石川教授
「幸せというのはどういう幸せによるか…」
反町キャスター
「そこですよ。総理の考えている幸せと、石川さんの考えている幸せが一緒かどうか、ちょっと僕はわからないですけれど、石川さんはどう感じますか?」
石川教授
「まず反町さん、先ほど、安全とおっしゃいましたけれども、安全というのは別に日本国憲法を変えたから変わるものではないです。これは結局、国際関係の問題だし、戦後平和を維持できたのは9条のおかげではなく、パクス・アメリカーナのおかげであることは明白ですよね。ですから、そういう議論をしてもあまり意味がないのだと思います。むしろ大事なのは、これによって憲法でコントールできる範囲の、つまり、自由の問題が影響を受けないかどうかということを私は危惧する。ここに絞って議論をしているわけですね」

『自衛隊明記』の是非
石川教授
「統治機構論の構造、何か変わった議論をしようというのではなくて、極めて普通の議論をしようと、普通の議論をご説明しようということです。統治に関する仕組みを見ようという場合、条文を見ると考えやすいです。一般論から簡単に申しますと、条文が書いてあって、統治機構に関する憲法の条文というのは、結局どういう権限をどういう組織に割り当てるか、配分するかということを決めるわけですね。権限というのは、行使することも、行使しないことも含めて、分配されますので、権限が与えられただけで権限を行使できるわけではないです。権限を行使する理由というのは外側から調達しなければいけないということになる。たとえば、憲法の81条というのがあって、裁判所は違憲審査権という強大な権限が与えられていますけれども、しかし、それを行使する正統性がないと裁判官が考えてしまうので、実際にはなかなか行使されないわけです。ですから、そういう権限を行使してもいいのだよという理由を、学説を調達して、もうちょっとがんばれと言っているわけですけれど、こういう正統性の層というのが必ずその下にある。どんな権限も財政的な裏づけがなければ動きませんので財政権をどうするかという問題がどんな条文にも隠れているということになって、基本的には国会が議決して決めるというルールを憲法が定めているのですけれども、どんな条文もこれで基本的にはできていると。この物差しで9条を見てみるとどうなるか、こういう話です。つまり、普通の統治機構の条文として9条を見てみるということをやってみたいわけです。一般的には何か絶対平和主義を定めた理念的な条文であると思われているわけですけれども、まず何よりも統治機構を定めた条文であるわけですから、通常の統治機構の条文と同じ構造でできているわけですね。そういう点で言うと9条というのは本来、とりわけ2項がそうですけれども、国会に軍隊を組織することを認めていない。言い換えれば、軍隊を組織する権限を国会から剥奪しているというのが9条2項の表層の意味になっているわけです。しかし、これを支える正統性論というのがあって、この場合は与えないという消極的な権限配分ですけれども、この理由として平和主義ということが多くの場合、用いられて、この部分では学説の多数説だと言って、自衛隊違憲論のお役に立ってきたということなのではないかと思います。しかし、それだけではなく、この議論があるおかげで軍隊に対する財政的な裏づけの憲法上の根拠がないわけです。実際にはこの表層が破られてしまっていますから、国会によって。自衛隊はできているわけですから。しかし、本来はないはず、であるという2層面があるおかげで財政決定は国会が行うのですけれども、実際に予算編成をするのは大蔵省、現在の財務省ですので、財務省が、いわば抑制的な予算配分をすることができたのは、本来はないはずなのだという2層目の議論が生きているからだと。ですから、現状、確かに表層は突破されていますけれども、2層目、3層目が機能しているというのが、9条が持つ統治機構論上の意義なのですね。結論から申しますと、今回の安倍さんの提案というのは自衛隊に正統性を付与してしまうわけですから、2層目がなくなり、3層目も自動的になくなる。まさに今回の改憲提案の理由は権限配分の正統性を剥奪する自衛隊違憲論の出番を封じ込めるために自衛隊を明文に書き込むと言っているわけですから、2層目を外すと言っているわけですよ。2層目が外されたなら、これは抑制的な予算配分は難しくなりますから、北東アジアの軍拡競争に巻き込まれざるを得ないということになるのだろうと思います。ですから、結局、この提案というのは耳障りよくて、何も変わりませんよと言っているわけですが、極めて重大で、最も危険な提案になっている」
百地特任教授
「少なくともこの前提は、この憲法は完璧なものである、という発想に立たないとちゃんと説明できないのではないか。9条について私は自衛隊合憲論ですけれども、その理由は、日本国憲法の前文には、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我々の安全と生存を保持しようと決意したと書いてありますよね、あれは憲法ができる当時、現在の国連の前身ですけれども、絶対的なかなり強力な力を持った平和機構をつくろうという動きがあったわけです。ところが、その後、冷戦が進行していく中で、戦勝国、アメリカ、ソ連の間で対立が生じるでしょう。その結果、国連憲章では51条にも残っていますけれど、つまり、集団的自衛権を認めた規定ですけれども、だから、国連憲章を見ると、平和愛国の結集であると書いてあるんですよね。そういうのを見ると、国連に絶対的な力を与えて、国際紛争が発生した場合には、自ら反撃しないで国連の安保理に提示する、そういう発想でもってつくられたものなのです。ところが、冷戦が進行していく中で国連がその大国に拒否権を与えてしまったと。そうすると、決定的に対決する時には安保理に提示しても動かないわけですよ。その時にどうするかということで、国連が動き出すまでという条件のもと、国連憲章51条が個別的、集団的自衛権を認めているわけですね。そういうことでできていますから、9条は国際機構にわが国の安全を委ねるという発想でできたはずだったんです。ところが、それができないで、しかし、9条はそのままスタートしたわけですね。もともと国際機構にわが国の主権の1部、平和と安全を委ねるという意味で、預けようとした形でできるわけですから、そもそも完璧なものではないわけですから、それを完璧な憲法体系というものを考えて、説明したって、それは説明できないところが出るのは当然だと思いますよ」
石川教授
「今のご議論は率直に言って語るに落ちるというような感じがしますね。結局、国際的な安全保障環境に、安全保障を依存しているのだとおっしゃったわけで、ですから、今回の改憲論で、日本の安全保障はまったく変わらない、抑止力も発生しない、こういう話だと思うんです。大事なのは憲法によって国内で実現できることと実現できないことということがあるということです。憲法に自己完結的に解決できない問題を書くということは普通にあることです。国際憲法的規定と言うのですけれど、とりあえず一方的だけれど、国際関係について何がしかのことを定めるということはあるわけです。たとえば、他の例として言うと、憲法22条1項というのがあって職業選択の自由を定めているのですけれど、一般には営業の自由の規定のあとに考えられている。営業の自由というのは、Freedom of Tradeなわけで、対外的には自由貿易主義ですよ。ですから、この条文は国際憲法的な意味を持っていて、対外的に自由貿易、対内的には営業の自由と、こういうことでやっているわけですが、別に1国だけで自由貿易主義をがんばったって自由貿易は実現しませんよね。この種の規定というのは、しかし、しばしば20世紀の憲法には現れるわけです。そういうものを置いていること自体は遠い将来に向け、こうやりたいというのは間違いではないのですが、ただ、これは1国だけでは実現できない。しかし、1国だけで実現できることがあって、9条が1国内において実現していることがあるのだとすれば、それを失うか、失わないかということをまったく抜きにした国際憲法的な論議というのは、これはナンセンスだと思うんですね。ですから、しばしば抜け落ちているので、その部分が。まず統治機構の問題として、こういう変化が起こるんですよ、ということを申し上げたいわけです。もう1つ、強調するとすれば、日本の国の成り立ちとして言うと、明治国家が成立したのは事実上、日露戦争直後ぐらいですけれども、立憲主義と君主主義と軍国主義の三つ巴で日本はできあがるわけです。このバランスの中でやっていって、立憲主義が相対的に優位だったのが大正デモクラシーの時期だったわけですが結局、軍国主義によって飲み込まれてしまったということがあるわけで、君主主義と軍国主義を切り離すというのが、日本国憲法なわけですよね。そのことによって立憲主義が70年間もったんです。70年間もつのは大変なことで、この1つのきっかけ、切り札の1つになっているのが9条であるのだとすれば、これは風通しのいい、非軍事化された政治社会をつくると同時に、一般国民の自由も確保してると。そういう機能を持っているはずで、そうすると、まず気をつけるべきは、権力の統制と、最終的には自由の保障というものが今回の提案で失われないかどうか、ここに最大の注意を払うべきなのではないかというのが私の意見ですね」
反町キャスター
「井上さんは、憲法9条を削除?」
井上教授
「広い意味では改憲論です。削除と言っても2項削除というのは前からあったんですよ。私はそうではなく、1項、2項も含めて。すごく怖いと思われるかもしれませんけれども、1つは、侵略戦争を禁止というのは9条がある、ないに関係ないです。国際法上、侵略戦争は違法化されているし、日本国憲法は、条約と確立された国際法は遵守すべき、とありますから、前文にも謳っていますから、それは侵略戦争ができないのは当たり前です。問題は自衛のためにどのような安全保障体制をとるか、これについては様々ありますね。非武装中立化か、武装中立化か、個別的自衛権に限定するか、集団的自衛権にまでいくか、いや、集団的自衛権までいかないけれど、国連中心の集団安全保障体制がいいというのか、これが私の言う安全保障政策。これは憲法で固めてはいけない。憲法で固めるべきものは、どのような安全保障政策をとろうと濫用されますから、そのような濫用を防ぐために戦力の設置、組織編制、行使手続きをがっちり統制する規範。これは憲法で固めなければならない。日本国憲法9条があるから、戦力が統制されていると言うのは嘘であって、戦力が9条によってない建前だからシビリアン・コントロールも開戦決定の国会事前承認もない。自衛隊を戦力として扱わざるを得ない海外に送りながら、自衛隊が武力行使しようとしても、もし民間人に誤射したら、法的統制ができませんから、できない。これをやるためには特別裁判所を変えなければいけない。これが最低限の戦力統制規範ですね。外国軍基地、つまり、沖縄ですよ。日本の本土住民が、はっきり言って沖縄に半分タダ乗りして安心してしまっているんですね。北朝鮮にコトがあっても、まず沖縄の米軍基地がやられるだろうと、こういうことは良くないわけで、外国軍基地が設置されている地域の住民については住民投票、自治体をどの範囲でとるか、県だとか、そういうことは置いておいて、住民投票を要請するということを憲法に明定すべきだと」
反町キャスター
「えっ、否定されたら基地撤去ですか?」
井上教授
「それはそうですよ。これが第2段階です。私の案が一挙に受け入れられるとは思わないので、3段階論。軍法会議の設置までが第1段階。かなり抵抗が強いけれども、スジとしては面積比0.6%の沖縄に、米軍専有基地77%はダメでしょうというのはわかるでしょう。最後のやつ(徴兵制)が1番怖いと皆、思っていることだけれど、それはなぜかと言うと、シビリアン・コントロールだけでは危ないです。シビリアンが常に戦力行使に対して慎重かと言うとそうではなくて、無責任な交戦感情に…駆られやすいことがあるんです。その例が2003年のイラク侵攻の時です。軍人あがりのパウエルが反対したのにもかかわらず、チェイニー副大統領とラムズフェルド国務長官がイケイケゴーゴーをやってしまったんですよね。むしろプロフェッショナルな軍人の方が無駄な戦争をしたくないというのが結構働くのですけれど。もちろん、軍人も変なことをしますよ。それを防ぐために無責任な交戦感情に世論が駆られたり、あるいは政府が極めて危険な軍事行動をとろうとしていることに無関心でいたり、そうすると、火の粉は自分達にふりかかってくる、ということを国民に自覚させる。そのためには徴兵制が必要だと思うんです。専制国家における徴兵制は最悪です。民主国家における志願兵制は最悪です。これは経済的徴兵があります。プアホワイトとか、黒人とか。最近はイラク侵攻で明らかになりましたけれど、シングルマザーですね。彼女達は戦争に行くと思っていない。軍隊だと給料がいいから、ところが、ああいうことがあって行くわけです。2003年のイラク戦争の時には徴兵制もありません。マイケル・ムーアの有名な『華氏911』の中で議員にインタビューしていますよ。上下両院を合わせて535人かな。そのうち、自分の家族をイラクに送ったのはたった1人ですよ。こんなところで皆が無責任な交戦感情に駆られても、自分達は安全地帯に置けるわけですから、貧民とか、そういう人達だけ送ると。これは危ないと思っているんです。軍事技術上、徴兵制が必要だとか、そういう話ではありません。民主国家のもとで戦力を保有するか、どういう場合に行使するかの最終的な決定権を国民が握るのだったら、それに対する責任も持ちなさいということですね」
百地特任教授
「私はそれで大丈夫かなと思います」
反町キャスター
「どっち?」
百地特任教授
「井上さんね。戦力を持つということについて憲法には書いていないと。国民としては、憲法に書いてないものは認められないという、そういう判断が先行すると思います、日本人の場合は。ネガティブで発想しませんから、そうすると、基本が、国民が決めるものですから」
井上教授
「ここで1つの改憲案として、スジが通った改憲案は何かという話をしている」
百地特任教授
「私は基本として、軍隊についての規定があって、初めて土俵ができるわけであって、この土俵をなしに政策論で戦わせるということなら、かえって不安定で、土俵がなくなってしまうわけですから、かえって心配だと」
井上教授
「その土俵をつくろうと言っているのではないですか」
百地特任教授
「チェックするいろいろなアレは出ていますよ、だけど、基本となるものは出てこないわけでしょう。つまり、ポジティブ・リストですよね。それがないところで、これはダメ、これはダメと言うだけでは、では、何ができるの?という話になるでしょう」
井上教授
「ポジティブか、ネガティブかという話は全然違いますよ」
百地特任教授
「そういう発想でしょう」
井上教授
「その前に、誤解を避けるためにもう1度言いますよ、ここで挙げた私の議論は3段階論だけれども、これは私の最善シナリオ。最善シナリオを私が提案したところで通るとは思いません。もっと時間がかかる。だから、次善、三膳を言っているわけですよ。次善は護憲的改憲、新9条論、専守防衛、個別的自衛権、戦力として持っていいと言ったうえで、戦力統制規範を、徴兵制まではいかなくていいから、なんらかを入れる。三膳が、私はその立場ではないけど、集団的自衛権行使容認を明記しなさい、憲法に。そのうえで、戦力統制規範を入れなさいと。なぜかと言うと、こうやってはっきりさせないと安全保障を巡る論議が常に憲法解釈論に問題をすり替えられてしまって、実質的な安全保障政策をめぐる議論が日本で進まない。だから、私が2012年の自民党の改憲草案にも反対なのは、国防軍と言っているけれども、ただ、自衛としか言っていないですよ。そうすると、相変わらず個別的自衛権か、集団的自衛権か、そういう論争、実質的な安全保障論議が棚上げされてしまう。憲法で特定の安全保障政策を固めることでなく、戦力統制規範をがっちり固めることだと。さりとて三膳をやりなさい。9条を何もいじらないで死文化させておいて、かつ9条があるがゆえに戦力統制規範が憲法にないと。この状態を維持しろというのは、私は最悪だと」

百地章 国士舘大学特任教授の提言 『理想を抱きつつ願望より現実の可能性にかける』
百地特任教授
「最初に安倍さんの提案について説明した通り、目標を定めつつ、第1歩を進めようという立場です。そこで考えたのは、憲法第9条の2の私案です。『わが国の平和と独立を守り、国際平和維持活動に協力するため、自衛隊を保持する』と、これはまさに自衛隊法の文言とPKO協力法を踏まえたものですから、まさにこの提案の趣旨にぴったりあっているのではないかなと思っています」

井上達夫 東京大学大学院法学政治学研究科教授の提言 『憲法の涙、拭ってあげるのはあなたです』
井上教授
「憲法の涙は、私が昨年出した著書のタイトルですが、日本国憲法は現在、泣いているんですよね。右の改憲派にいじめられているだけではなくて、護憲派によっても裏切られてる。知識人や政治家の欺瞞を振り払って国民1人1人が自分の頭で、日本の立憲民主主義をどうするのか、安全保障をどうするのか考えてほしい。そういう意味で、憲法の涙、拭ってあげるのはあなたです、と。視聴者1人1人に呼びかけたい」

石川健治 東京大学法学部教授の提言 『自由論から9条を考える』
石川教授
「戦後の日本の自由を支えている部分が9条にはあります。井上さんの自由も9条によって支えられています。井上さんの議論は、私から見ると、破壊衝動のように聞こえます。もう少し真面目に議論したいと今考えているところです」