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2017年3月14日(火)
『暴走』金正恩委員長 北朝鮮の狙い徹底分析

ゲスト

田中均
日本総研国際戦略研究所理事長 元外務審議官
武貞秀士
拓殖大学海外事情研究所特任教授
平井久志
ジャーナリスト 立命館大学客員教授

金正恩氏の演説を分析 思想活動と権力闘争
秋元キャスター
「金正恩氏の演説を集めた本の中から、今回の、金正男氏の殺害事件と関連があるのではと思われるくだりを見ていきます。こちらです、2013年12月に張成沢氏が処刑された2か月後、2014年2月に朝鮮労働党の思想活動家を集めた大会で金正恩氏が行った演説の一部がこちらです。『思想闘争をひきつづき強めて、あらゆる不健全な思想病癖がわれわれの内部はいりこめないようにすべきです。たとえていうなら、飛行場に雪が降るとき放射除雪機で滑走路に雪が積もらないように吹き飛ばしてしまうのと同じことです』と、こういった発言ですけれども、平井さん、金正恩氏が言う、不健全な思想病癖。これは何が当たるのでしょうか?」
平井氏
「これはこの大会自身、前年の張成沢さん粛清のあとに行われた党の思想活動の担当者を集めての大会ですから、長らく北朝鮮は、我々の党には、反党分子はもはや存在しないのだと言っていたわけですけれども、張成沢さんという反党分子、そういう勢力がいたということを認めて、これを粛清したわけです。ですから、その結果を受けての思想的な闘争を引き続き強化しよう、張成沢派の残滓を一掃しなければいけないという、そういう文脈だと思いますね」
反町キャスター
「これは不健全な思想が我々の内部に入り込めないようにするべきだ。そういったものを吹き飛ばしてしまえばいい。吹き飛ばすということは、つまり、粛清をしたことと同じ意味だと思っていいのですか。つまり、粛清したことを正当化する。粛清したことは何かと言うと、我々の内部に不健全な思想病癖が入りそうだったから、吹き飛ばしたんだよと。それが今回の粛清だよという、そういう事後説明みたいなものだと?」
平井氏
「それと同時に、我が党の中に外からの働きかけもあるし、そういうものが発生してくるのであるから、そういう少しでも疑問がある場合には、そういう闘争を引き続きやらなければいけないという、それまでの整理であると同時に、未来に対する闘争方針とも言えますよね」

正男殺害と『思想闘争』
秋元キャスター
「先ほどのくだりのあとに出てくる部分です、演説の中で。『金日成同志は、はやくから対人活動は、同じ血筋を継いだ息子であっても、母親が長男に言うことと、末っ子に言うことがちがうように、一人ひとりに対応しなければならないと教えています』としていて、長男ですとか、末っ子と言って、正男氏や正恩氏自身を彷彿とさせる言葉が出てくるわけですけれども、武貞さん、正恩氏がこの時、敢えて兄弟ということに触れている、どう見ますか?」
武貞特任教授
「金正男暗殺事件が金正恩さんと金正男さんの権力の抗争、あるいは権力に挑戦をしようとした金正男さんが最期、ああいう形で終わったと、金正男さんの力を、我々はちょっと過大評価した説明が多過ぎるんです。それと、警戒して権力にチャレンジする、けしからん、同じ血筋の金正男さんと金正恩さんが考えていると捉え過ぎている。考え過ぎていると、これは何か金正男さんを意識して、この時点で、金正恩さんは警戒を露わにした文書ではないかと、こう見えるかもしれませんけれど、そうではないでしょうね。金日成さんの息子でもう1人、キム・ピョンイル大使というのもいます。この人は北朝鮮の外交官ですから相当、北朝鮮の中でも名前は知られているし、注意しなければならない存在として、金正恩さんは思っているでしょうね。その他にも金正男さんが政治的な挑戦をしようとしている存在と考えていなくても、金正日総書記の子供としては他に何人もいるわけですから。金正男さんを含めて。キム・ジョンチョルさんという、金正恩委員長のお兄さんもいますし。妹もキム・ヨジョンという人もいますよね。そういった人達がいるのだけれども、その中で、私は後継者として選ばれたのだと。既に2014年の2月の段階で選ばれたあとですから、という、むしろ安心感から言っているのであって、何か金正男さんを困るなと思っていたら、だいたい人前でそんなこと喋りませんよね、北朝鮮の体制から考えて、と見なければならない。サーッと流して読んだ方がいいのではないかと私は思います」
反町キャスター
「あまり深読みをしない方がいい?」
武貞特任教授
「いい」
平井氏
「僕は、これは活動家に対して言っていることですから、活動家が活動の対象に対して1人1人の状況の違い。同じように見えてもその状況の違いに対して相手の立場に応じた対応をすべきだという、そういう一般的な教示であって、これをあまり金正男さんと金正恩さんと結びつけて考えるのはちょっと深読みだと思います」
田中氏
「私は、こういういろんなことを言われているわけだけれども、同時に北朝鮮の統治体制を変えているということ。だから、その統治体制を正当化していくようなことを彼は言っていると思うんですね。要するに、どういうことかと言うと、北朝鮮の統治体制は明らかに変わったんです。金正日の時の先軍体制、軍を先におく。最高意思決定機関というのは国防委員会だったから。それを徐々に時間をかけて、軍を引っ込めて、党を中心にする。だから、現在、党の最高意思決定機関というのは国務委員会。だから、金正恩は国務委員長ですね。以前は国防委員長だったわけ。2002年に小泉総理と一緒に平壌に行った時、金正日が署名しているのは、国防委員長として署名しているわけですね。ですから、ある意味、統治体制を変えた。だけど、実力を持った軍を下げるわけだから、ある意味、恐怖政治を併用してきたわけですね。要するに、ここに言われていることも、自分は肉親であっても、あるいは叔父さんであっても断固として粛清する力を持っているのだということを示していかざるを得ない。だから、現在粛清されていると言われている人達の多くは軍人ですよ。だから、そういう党を中心にする体制をつくると同時に、恐怖政治をやっていくことによって不満分子を黙らせるということをこの数年かけてやってきているのではないかなという気がするんですね。ですから、そういう趣旨に合うようなことを実は言っているのではないかなという気はします」

異母兄・正男氏の存在とは
反町キャスター
「一方、武貞さん、この金正男氏暗殺後に、息子さんと言われている、キム・ハンソルさん。ネットにメッセージを公開したり、いろいろな動きが出てきています。このキム・ハンソルさんの動画の公開が、北朝鮮にどういう意味を持つのか。北朝鮮側はこの動画の公開をどう受け止めるのか。キム・ハンソル氏自身がこれからどういう行動をとっていくのか。今後のキム・ハンソル氏を巡る北の見方、彼自身の動き、どう見ますか?」
武貞特任教授
「よくこういうタイミングで、キム・ハンソル氏が、私のお父さんは数日前に殺されましたと、はっきり自分はDPRKの人間だと。北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国の人間だと言って、私のお父さんは数日前に殺されましたと言うことは、明らかに北朝鮮に帰れなくなることを想定したうえで自分はDPRK、朝鮮民主主義人民共和国の人間であるということを誇りに持って、持ち続けながら、もう諦めて、プッツリ、気持ちは北との関係が切れたとしか思えない。ですが、どうも21歳のパリ政治学院を卒業したとは言え、自由にあれを発言したようには思えない。背後にああいう映像で、ああいうタイミングで、金正男さんは殺された、息子さんはここにいるということを発信したいと思っている亡命政権を立てようとか、あるいは脱北者達が団結しようという人達がキム・ハンソルという人を利用しようとして、あの40秒のフィルムをつくったとしか思えないですね」
反町キャスター
「平井さん、いかがですか?あのメッセージの公開によってキム・ハンソル氏というのは政治的な価値みたいなものが急に上がったと見ていますか?」
平井氏
「彼が言っているのは、3つポイント、重要なことを言っているんですね。1つは殺された。北は自然死だと言っているわけですから。明確に北朝鮮の主張とは違うことを言ったと。それと私は金ファミリーの一員だと。ですから、金日成主席の血を継承している者だと。だから、4代目だということを明確に言ったうえで、その父が殺された。現在、安全なところにいるということですね。ですから、そういう意味では、ある意味では、北朝鮮の現在の体制に対する非常に明確な自分の意思表示ということで、ある意味では、彼自身が危険に陥る、より危険な状態になりかねないことを言っているわけです。ですから、おそらくこの映像は、金正男さんが殺された映像と同じで、おそらく脱北者団体などは、北朝鮮の国内に送り込むようなことを今後やる危険性があると思うんですね。そういった場合、北朝鮮にとってはすぐにではなくても、非常に大きな影響力を持つ映像に成り得るので、むしろ、だから、この団体が本当に彼の前途に対して責任を持てるのかなと。彼の安全を今後とも確保できるような力があるのかなということを、ちょっと個人的には危惧します」
反町キャスター
「田中さん、いかがですか?キム・ハンソルという存在が今後どういう役割を果たしていくのか。役割を果たすというのは、どう使われるのかという意味かも知れない?」
田中氏
「私もそう思ったんですけれど、この3人の登場人物、金正恩国務委員長、それから、金正男さん、それから、現在の息子さんですかね。すごい対比があるんですよね。正恩氏の方は冷血、要するに、非常に冷血であるということを国際社会に印象づけているわけですね。金正男さんの方はなかなかこの人いい奴だというような見方をする人が多い、あるいは見ている」
反町キャスター
「脇の甘さがかわいいとか、よくわからないという評判ですよね?」
田中氏
「この息子はインテリです。明らかに国際社会から見て、これは指導者に成り得るような人物だと映っているわけです。そうすると、現在の北朝鮮の体制にしてみれば、かなり恐ろしい挑戦を突きつけられたみたいな意識があると思いますし、これから、ある意味、北朝鮮の希望の象徴と扱われていくかもしれませんね。だから、北朝鮮の国内で、どう扱われるかは別ですけれども、少なくとも国際社会では同じ金正日の血が流れているけれども、これはまったくインテリの、普通の人間だということが国際社会で非常に強く意識をされているのではないですか、現在」

『金日成・金正日主義』
秋元キャスター
「金正恩氏は祖父の金日成主席、父であります金正日氏について様々な場面で触れています。2012年4月、朝鮮労働党の幹部への談話では『金日成・金正日主義はチュチェ(主体)の思想、理論法の全一的な体系であり、チュチェ時代を代表する革命思想です。われわれは金日成・金正日主義を指導指針として、革命と建設を金日成同志と金正日同志の思想と意図どおりに前進させていかなければなりません』と説いていますが、武貞さん、この金正恩氏にとって、金日成・金正日主義というのはどういう位置づけなのでしょうか?」
武貞特任教授
「金日成・金正日主義に学んで。チュチェは、主体ですから、要するに、周辺の諸国のいろんな干渉に惑わされることのない体制を経済と軍事の両方で、併進路線で守っていきたいという気持ちを持って、金日成・金正日主義プラス、金正恩の味つけをしながら国家建設をしていきたいということの表れですね。金日成・金正日さんとやはり違うことは、特に金日成主席と違うことは日本との対日闘争、ゲリラ闘争を戦ったということを1つの勲章にして、朝鮮民主主義人民共和国を率いたお爺さんとは全然違う、その経験がない、弱冠32歳ということで金日成、その息子の、まだカリスマが残っていて、受け継いだ金正日さんの名前は前面に出しながら、お爺さん、お父さん、私は孫ですよということを強調する時には必要だなと、金日成・金正日主義を自分は守っているという、その血統ということに絡めて、この言葉を使っているということ。イデオロギー的にも、主体、よその国の真似をしたり、ロシア革命に学べ、コミンテルンに代表を送って、いろいろと交渉を持ってた過程で、よその国のやり方を学んだり、あるいはアメリカはこういうやり方をしているから、こうしようとか、中国がこうだとか考えていると、どうしても内部分裂が起きちゃうのが朝鮮半島です。韓国も現在、内部分裂が起きていますけれど、周辺に目をやり過ぎると、内部分裂しちゃう民族性がどうしてもあるという本質的な部分、事大主義。大きいものに仕えるという傾向があるという傾向を踏まえて、修正しなければならないということも踏まえた実質的な部分。これからの建設の時になりふり構わずではないけれども、よその方にあまり目をやるのをやめましょうということを言っているわけです。特に国際社会の制裁が現在、非常に厳しくなっていますよね。このチュチェ、主体というものをイデオロギーとして前面に出していく限り、国際社会が次から次、安保理事会が制裁を課しても、自分達の路線は自分達の中で賄っているのだから、大して制裁も効きませんよと国内では説明できるという意味で、実質的な意味も持っているのが金日成・金正日主義という言葉の中に含まれるチュチェというコンセプトですよね」
反町キャスター
「今の話、言葉をきちんと理解するためにどうしたらいいか考えていたのですが、チュチェ思想というのは何かと言えば、事大主義という言葉を言われました。その事大主義に対するものとして、我々は事大主義に陥る傾向がある、そのリスクがあるから、チュチェでいこう。周りに惑わされずにいこうというのがチュチェであるとして、そうすると、一方で、金日成・金正日主義というのは血統の話をされました。思想的な、たとえば、どういう政策、どういう理念というよりも、金日成・金正日主義と敢えて2つの名前を縦に並べて、その後継者である私がということは、これは政策というよりも血統をアピールするための金日成・金正日主義という、こういう理解でよろしいですか?」
武貞特任教授
「金日成・金正日主義という言葉を、血統というものを踏まえ、お爺さん、お父さんの教えを守っていますとアピールする。これは権力の基盤を強化することになるということですね」
反町キャスター
「その思想基盤、金日成・金正日主義を持っている人が、血統において自分よりも兄にあたる人をもし殺害したとしたら、それが自らの権力基盤を中から蝕んでいくことにならないのですか?」
武貞特任教授
「それは現時点ではないです。と言うのは、金正男さんという存在はほとんど知られていませんし、金正男さんのお母さんのソン・ヘイリンさんというものも、北朝鮮の中では重要な存在として認められたこともない。途中で、そういったこともあって非常に精神的に圧迫感を感じて、心の病を持ってモスクワに行ったということもあって、国内では存在をまったく重視されていない存在ですから、そういった事件が起こっていたと、2月13日に起こったということが北朝鮮の中で知れ渡ったと仮定をしても、これは金正恩さんの権力基盤に直接、疑問符をつける労働党、朝鮮人民軍の幹部はおそらくいないだろうと思いますよ」
反町キャスター
「金日成・金正日主義というのは自らの血統、正当な血統を引き継いだものである。そういうものをアピールするためのイデオロギーであって、一方、もう1つのチュチェ思想というのは、先ほど、武貞さんが言われた事大主義に惑わされずにやっていこうと、自らに対する自戒の念を込めた思想であると。非常に大掴みな言い方ですよ。これはありなのですか?」
平井氏
「ちょっと理解が違うんです。実は金日成主席には、チュチェ思想という考え、思想があるんですね。それが正しいかどうか別にして、お父さんの金正日さんについては先軍思想という考え方がある。1つのコアになる思想と言われるものがあるわけです。ところが、金正恩さんにはまだないですんよ。ところが、昨年の党大会で党規約を改正して、朝鮮労働党というのは金日成・金正日主義の党であるとしてしまったわけですけれども、この文言を見ても、では、金日成・金正日主義とは何だという答えは書いていないわけです。チュチェ思想は、お爺さんの主体思想そのものでいいわけで、この2つをドッキングした時にお爺さんの思想でいいわけですね。ですから、武貞先生がおっしゃったのは主としてチュチェ思想の考え方であって、私は金日成・金正日主義というのはまだ何なのか、普通の人もわかっていないと思います。私は一生懸命これまで出た論文を読んでいますけれども、わからないですね。ですから、この政権が出た時に、最初に出たスローガンは、主体、先軍、社会主義ですよ」
反町キャスター
「それはまさにお爺さん、お父さん…」
平井氏
「それをブリッジする社会主義。だから、突然、ある意味で、突然、お父さんが死んだわけですからね。これが出て、このあとにこの金日成・金正日主義というのが出てくるんですよ。それは、たぶん、金正恩さんを擁立しようとした専門家チームがいて、それが、おそらく金正日さんが健康悪化して、後継者に決まった段階から、次の時代を準備するためにつくったスローガンで、この金日成・金正日主義というのは、私は思想としての中身はないと思いますよ」
反町キャスター
「北朝鮮という国を分析する時に、この思想とか、イデオロギーというのはどういうものだと僕らは見た方がいいのですか?」
田中氏
「あまり意味がないのではないですか。全てが統治のための論理だと思うんですね。ですから、現在の血統主義というのは、明らかに統治のための論理であると。統治のための論理である血統主義に基づいてありとあらゆる宣伝と洗脳が国内的に行われている。ですから、皆、人々は信じてしまうんですね。私は2001年、2002年、2年交渉していた時に、私のカウンターパートナー、相手がこういうことを言うんです、金正日首領というのはすごく心が広い人だと。だから、あそこに行った段階で大きくものごとが変わるということを真面目な顔をして話わけです。だから、それだけ金ファミリー、血統に基づく首領、統治者というのは力があり、聡明で、偉大な人なのだという教育がずっと行われているわけです。だから、おそらく金正恩さんというのもそういうものを利用して、いかに自分の統治を安全にするような論理をこれからもつくっていくということだと思う」
反町キャスター
「この思想というのは、国内統治の…」
田中氏
「国内統治。対外的に何の意味もないですよ。韓国との関係で意味あるかと言うと、そんなものはない。国際社会との関係で意味があるかと言ったら、何もない。国内の統治を万全にするためのツールであって、金正恩さんというのは、たぶんまだ自信がないから、粛清をやっていくことによって人々に示していく。権威があるぞと、こういうことですね。だから、紆余曲折あると思いますよ。いろんなこの発言の中で論理が出てくるかもしれないけれども、基本的には統治のため」

新スローガン『自力自強』
秋元キャスター
「金正恩氏は『自力自強の偉大な原動力によって社会主義の勝利の前進を早めよう』というスローガンを掲げました。北朝鮮の労働新聞は、社説などで『江原道精神』と名づけています。なぜ金正恩さん自らスローガンを使い始めたのでしょうか?」
平井氏
「自力自強第一主義という、日本語で言うならば、自力攻勢路線ですね。これは昨年の最初に出たスローガンですね。国際的には制裁が強まっている中で、他国の力を借りられないから、自力攻勢でやっていくのだと、一言で言えば、そういうことですね。昨年の12月に江原道の任南というところにダムができたんですね。1番韓国に近いところですね。ダムをつくったのは、外部の助けを借りずに自分達だけの力でこのダムは建設されたのであって、それがこの1月になって、労働新聞が江原道精神という言葉を使い出して、社説にも取り上げ、そのあと労働新聞の中にそういう論評が数多く見られるようになって、江原道精神とは何なのだというのは、それは自力自強ですね。そういう路線を言っているので、これは現在の国際情勢を反映して、中国は石炭を買ってくれないかもわからない、石油をくれないかもわからない。国際的な制裁下の中、自分達の持っている技術や資材で自分達の経済を守っていくのだという、そういう路線を国民に訴えるためにつくり出した。新しいスローガンということですね」

徹底分析『江原道精神』&『金日成・金正日主義』
反町キャスター
「それは、金日成主義、金正日主義というのとはまったく異質の新しい考え方を打ちたてようとしているのですか?」
平井氏
「はっきり言えば、金日成主席の頃からある自力攻勢路線、それを同じ言葉で言ってもたいしたことはないので、それを新しいスローガンに言い換えているわけですよ」
反町キャスター
「江原道という場所を、金正恩氏が生まれた場所だからという、神話の場所にしようという、そういう動きがあるのですか?」
平井氏
「金正恩さんが何を考えているかと言うと、昨年、党大会をやって、権力基盤を整備したんですよね。これから彼がやろうとしているのは、自分への偶像化、人民が自分を敬うような、そういうシステムをいかにしてつくるかを考えていると思うんですね。彼は、何年に生まれたかもわからないわけです。どこで生まれたかも公表されていない。1月8日生まれだということはほぼ皆が知っていますけれど、何歳なのかも未だにわからないわけですよ、お母さんがどういう人かもわからない。ですから、偶像化するのは、本格化するのは彼の伝記ができてからだと思いますよ」
反町キャスター
「生きている間に出るのですか?」
平井氏
「それは出るでしょう。金正日さんも略伝のようなものが出て、略伝が出ることによって、偶像化が始まるわけですから。だから、そういうことに向かうプロセスとしていろいろな作業が行われていて、彼が金剛山を事実どおりに誕生の地にするのか、白頭山方に持っていくのかはまだわかりませんけれども、本人は金剛山に愛着があるのは事実ですね。いろいろな行事を金剛山でやっていますし、開発とかに熱心なので、そういう意味で、江原道精神というのは彼の故郷を愛する気持ちと結びついているところはあると思います」
反町キャスター
「この思想づくり、レガシーづくりに、莫大な政治的エネルギーを傾注する北朝鮮という国を横から見ると違和感があるのですが、どう見ていますか?」
田中氏
「もちろん、違和感がある。ただ、客観的に見てみると、すごく無理をした統治をやっているわけですよね。だって、隣の韓国はもはや北朝鮮の何十倍の大きな国になり、中国という大きな国を脇に抱えて、アメリカと対峙している。それで国連の制裁とか、徐々に効いてきて、私は中国でさえも北朝鮮に対するアプローチはより厳しくなってきたと。そういうところで、国内の正当性を持って政治をやっていく、統治していくというのは並大抵のことではないと思うんですよ。いつ狙われるかという意識もあるだろうし。だから、ありとあらゆる措置を使って自分の身を守る。それから、政権の維持をはかる。そのための理屈をいろいろ考えてきているとしか、私には見えないですよ。極端な国であるわけで、私は長続きはしないと思います」
武貞特任教授
「江原道精神というのは金正日総書記を意識した言葉で、もう1つはマンリマソクドと、これを昨年12月に言い出したわけです。これは金日成さんが始めた千里馬運動をさらに10倍の速度で、万里馬速度で建設をやれということで、万里馬速度という言葉を金正恩さんが始めた。江原道精神というのは、金正日総書記が始めた江界精神というのは、金正日総書記が始めたイデオロギーで、これは1990年代の半ばに200万人が餓死したと言われている食糧不足があった時に江界精神でこれを乗り切ろうということでイデオロギーを前面に打ち出したのが金正日総書記。それをさらに発展させて、江界のあるところの、江原道精神という言葉を編み出し、お父さんの発想をさらに発展させたということを強調した。今年1月からキャンペーンを始めたということで、金日成・金正日主義ということと符合するわけですよね。特に昨年、大変な洪水が北朝鮮の北東部で起きて、9月に行った時に、8月末からの大洪水で大変な死者も出たということで、平壌市内の建築物の労働者が全部、現場に救出に行っているぐらいの大変な経験をしたということを踏まえ、自力自強、原動力によって速度、とにかく早く事業なり、建設なり、救出作戦をしなければいけない必要が生じたという、12月から始まったということ。もう1つは、金日成・金正日主義と違うことはお爺さん、お父さんの時代よりもっとできるだけ早く何か月以内にやりなさいと強調するのが金正恩委員長のようで、昨年の労働党大会の前も70日速度、そのあとも200日速度と言って、何日以内にこの建築物をつくりなさいという指示を出すと。おそらく想像するにミサイルも2か月以内に発射しなさいとか、固体燃料ロケットは何か月以内に発射をしなさいと技術陣にも命じている可能性は十分ですね。速度を重視するということと、課題を課して何日以内にということを、お爺さん、お父さんの時代以上に厳密にしているというニュアンスがどうもあるような気がしますね」

対アメリカの本音は
秋元キャスター
「去年5月、朝鮮労働党第7回大会での演説がこちらですが、『アメリカの喧伝するアメリカ式民主主義は1つの超大国が勝手に世界の多くの国をふみにじり支配する侵略的な民主主義です。グローバル化は、アメリカ式価値観によって自分達の支配主義的野望を容易に実現しようとする帝国主義の世界制覇戦略です』という発言で、アメリカについてはこれまでも批判を展開していたのですけれども、この36年ぶりの党大会ではグローバル化など具体的な政策をあげながら、批判を繰り広げました」
反町キャスター
「現在のアメリカはどういう北朝鮮政策をとろうとしているか。それによって北朝鮮が日本に対して間口を広げる可能性があるのか、どう見ていますか?」
田中氏
「現在はある意味、真剣勝負ですよね。これだけ北朝鮮が核実験とミサイル実験をやり、私は中国との関係も厳しくなりつつあると思うのですけれども。トランプ政権が誕生して、トランプ政権が新たな北朝鮮政策をつくろうとしている。ですから、ある意味、かなり勝負時が近くなってきているというような。要するに、この問題を解決するために、具体的な手立てをとると。現在言われていることは先制攻撃とか、サイバー攻撃も含めて、軍事的手段というのも選択肢の1つということを言うことによって、北朝鮮に対するテコにしているわけですね。皆わかっているわけですよ、戦争をしたらコストがすごく大きい。我々に対してのコストが大きい。ですから、日本にとってみれば北朝鮮問題が戦争という形で解決することは考えられない。だから、外交による解決をするしかない。そうすると、北朝鮮という国のメンタリティを考えると、いかに他の周りの国々が連携して、北朝鮮に圧力をかけることができるかどうか1点にかかっているわけですよ。中国はこれまでやらなかった。いかにアメリカや韓国、日本が制裁と言って、枠組みをつくってやったにしても中国から水が流れていくわけですよ。実際に国連の制裁に参加していない時とか、あるいは国境貿易という形でドンドンものが流れていくと。現在、中国は国連の安保理制裁に協力をするという姿勢をとっている。ですから、石炭の輸入についても制限をするということを発表したわけですね。王毅外務大臣の演説を聞いていても、北朝鮮にすごく厳しいことを言っているわけです。この問題、北朝鮮が日本に対して一定の対話の窓口を開くかどうかということよりも中国は我々と一緒に北朝鮮に圧力をかけるというところに持っていって初めて北朝鮮が外に出てくる、ということを願うしかないですよ。北朝鮮という国と仕組みがなくて対話をしていても、それはうまくいかないですよ。それが綿々たる歴史ですよね。ですから、今度やる時は相当、枠組みをきちんとして、中国を完全にこちらに入れて、北朝鮮に対して圧力をかける。そのうえで、外交による解決、外交による解決というのは包括的な解決であり、その中には当然、核の問題があるわけですが、拉致の問題だって、それは同じことです。包括的な解決を求めるための外交的な装置をつくるためには中国を引き込む。そうなると、現在、米中関係がどうなるかというのが1つの大きなイシューですよね。アメリカ、韓国、日本、中国、この強い連携の中で北朝鮮問題をやっていくと。これまでそれをやっていないです、だから、それが唯一の望みなのではないかと思います」

田中均 日本総研国際戦略研究所理事長の提言 『弱者』
田中氏
「金正恩体制もそうだし、過去の体制もそうだけれども、北朝鮮は弱者である。だから、弱者のメンタリティというのですか、意識がすごく強いので、強い者に対して突っ張るということですね。だから、そういうことを理解しないとなかなか北朝鮮問題は解決しないだろうと思います」

武貞秀士 拓殖大学海外事情研究所特任教授の提言 『戦略と若さ』
武貞特任教授
「北朝鮮の核実験、ミサイル実験、北朝鮮には1948年の建国以来の戦略を持って、朝鮮半島を自分が統一するのだという考えでやってきているということが明らかになってきたと思わなければならない。それに対処するためにはどうすべきか。防衛装備も大事だと思います。ただ、北朝鮮にも若さ故に様々な経済的な政策でまずい点もあるということも我々は気づいておく必要があると思います」

ジャーナリスト 平井久志氏の提言 『計算高い人物であってほしい』
平井氏
「今回の金正男さんの事件を通じて、最高指導者が何を考えているのかちょっと読めないところがあるのですけれども、これは期待を込めてですけれども、ちゃんとした計算ができる人であってほしいと。こういうことをすればどういう結果が生まれるのか。そういう戦略を考える人物であってほしいという私の期待ですね」