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2017年1月24日(火)
2017年の世界情勢 歴史視点から読み解く

ゲスト

五百旗頭真
熊本県立大学理事長
細谷雄一
慶應義塾大学法学部教授

トランプ大統領誕生の衝撃 アメリカで何が起きているのか
秋元キャスター
「アメリカのトランプ新大統領ですけれど、就任式の演説であらためてアメリカファーストを強調し『貿易、税金、移民、そして外交問題に関するすべての決断は、アメリカの労働者や、アメリカの家族に利するものとする』と宣言をしました。五百旗頭さん、改めてこのアメリカファーストを掲げるトランプ氏が大統領に選ばれた背景をどう見ていますか?」
五百旗頭氏
「私は9月から10月にかけて30日間、ハーバード大学に行ってボストン周辺に住んでいたのですけれども、私自身3度目の訪問だったその地域での印象はアメリカ経済いいじゃないか。これまで3度の中で断然ボストン周辺は繁栄しています。皆、明るいですし、いたるところで家を建てていますし、いいのではないか。なぜ絶望からトランプを選ばなければいけないのかというのが実感だった。ところが、聞いてみますと、カリフォルニアやボストン周辺は、ボストン周辺のMIT(マサチューセッツ工科大学)とか、ハーバード大学とかがあって、知的な人がたくさん集まっている。それを使って先端産業の創設に成功している。それが格別にいいのだそうですね。両側はいいですけれど、中西部の、これまでの重工業地帯、ラストベルトと言われる、そこは厳しいと。そういう意味で、所得格差もありますけれども、地域格差も厳しくって。救いのない事態だという心配をするところ。これが大きい」
反町キャスター
「アメリカで貧困とか、格差というのがそれほど深刻なのかというのがあまり伝わってこない。失業率だって5%を切っていますよね。アメリカの状況はこれまでの過去と比べても完全雇用に近いんのではないかなという印象すら、数字だけを見ていると、何が困っているのという印象を数字からは受けてしまうのですけれども、アメリカ社会はそんなにドン詰まりなのですか?」
細谷教授
「新自由主義が最も発展している国がイギリスとアメリカですね。この新自由主義が何かと言えば、これはこれまで戦後は、イギリスではコンセンサスということが言われていた、ジョンソン政権の時代には、1960年代に偉大なソサエティ、社会と言われていた、つまり、経済成長の中で、経済成長の果実というものを貧しい人達に再配分をするシステムがあって。これが1980年代以降、壊れたわけですね。なぜ壊れたのかと言うと、2つ理由がありまして、まず高度成長が止まったということでもはや余分な分を下に、あるいは地方に再配分をするというためのお金はもうないというのが1つ。もう1つはグローバル化ですね。つまり、中国とか、インドが非常に安い労働力で製品をつくっている時に、アメリカ国内で、高い労働コストで製品をつくっても、国際競争力がないわけですよね。そうすると、労働コストを下げるわけです。低い労働コストで、非常に貧しい生活をする。これは、たとえば、メキシコからヒスパニックの人が来れば、おそらく低い賃金でも仕事をするかもしれない。だけれども、これまで家庭があって、子供を大学に行かせた、そういう家庭の人達にとっては、仕事があっても、これまでよりもはるかにお給料が下がるということになるとなかなか新しい仕事に就くというのは難しいと思うんです。いわば見捨てられた人達、一部の人達が非常に豊かになる中で、新自由主義という中で取り残された人達がいる。その人達にある意味では、富が行くのだというのがこれまでの新自由主義の議論だったのですが、それがうまくいかなかった。決定的な転機が2つあったと思うのです。1つは、イラク戦争。もう1つは、リーマンショック。どういうことかと言いますと、イラク戦争で結局、アメリカが貧しい人達はより貧しくなっている時に、いったいお金を何に使っているのだと。なぜ我々の貧しいお金で、消費税とか、お金を払っている、そのお金をなぜイラクの人を助けるために使っているのだと。これが1つです。しかも、それがうまくいっていない。それが世界をより良くすればおそらくそれだけ支出をしても納得できると思います。アメリカは世界にいいことをしていると。ところが、世界がより悪くなる。アメリカが批判される。多くのアメリカ国民の生命が失われてしまうと。しかも、自分達の貧しい中で払った税金が、それがイラクに結局はばら撒かれると。これに対して怒りがあった。これが1つですね。もう1つはリーマンショックのあとに結局、たとえば、大きな自動車メーカーをオバマ政権は救済をしたわけです、いわゆるベールアウトで。これは貧しい、非常に苦しい生活をしている人達の税金が、大企業で、大変なボーナスを貰っている、その大企業の幹部のお給料にいっちゃうわけですよね。なぜ自分達のお給料が大企業の幹部のお金になっちゃうのだ。これをうまく利用したのが、私はトランプ氏だと思うんです。そういった不公平さとか、あるいは怒りを結局は代弁をするという形で、トランプ氏しかそれができなかった、あるいはやらなかった。それが結局は取り残された人達が、自分達はトランプ氏をと、民主党の中でもバーニース・サンダース氏も同じようなことを言っていたわけですが。結局は従来の既得権益を持っている人達は自分達の生活を守るだけであって、本当に苦しい人の方を向いてくれない。そういう人達には結局、地方が見えないのだと。簡単に言えば、選挙区別でいうと、ワシントンDCでは、91%の人が、ヒラリー・クリントン氏に票を入れて、ニューヨーク市やアカウンティシティでは87%の人がヒラリー・クリントン氏に票を入れている。つまり、この2つの都市ではほとんどトランプ氏に入れる人がいないですね。一方で、これが地方の非常に貧しいところにいくとまったく違った景色。そうすると、我々学者も、記者も、あるいは政府の人達もニューヨークとワシントンだけを見ているとこの巨大な構造の変化がなかなか見えないですよね」
反町キャスター
「五百旗頭さん、イラク戦争の傷だとか、リーマンショック以降の経済の立ち直りに対する不満、それに対する解を、トランプ新大統領は持っているのですか?」
五百旗頭氏
「持っていないと思いますね。その証拠に彼が主張している経済政策の大事な柱は減税と規制緩和でしょう。それから、あとインフラ投資かな。巨大なインフラ投資。それから軍拡。インフラ投資と軍拡、それから、減税も合わせて好景気をもたらす可能性があるわけですよね。けれども、格差、1%が33%持っているのが修正されるか、そうではなくて、ますます広げるのが減税で、しかも所得税と法人税でしょう。さらに広がるということを構造的にしながら、しかし、トランプ氏の賢いところは、見せ手をやるんですよ。フォードのメキシコ工場をこちらに戻したと。俺の言うことを聞いたと。雇用を増やしたぞと。全体的な根本的解決ではないのだけれども、そういう見せ手をやって、メディアでそれをやられると、人々は、トランプ氏は我々のことを思って雇用の回復をやってくれているのだという印象を与えた。もう1つ、経済、好景気を本当にもたらしたら、これ4年ぐらい持ってしまいますよ。だから、それが先にくるかね。そうではなく、中国から輸入品に45%関税をかけるだとか、関税障壁を立ててアメリカの産業を守ろうという素朴な主張をしている。これはまさに1929年の大恐慌の時のシナリオですね。ウォール街の株式が大暴落して大変だというので、外国の安い商品が流入してくるから我が国の産業はやっていけないからスムート・ホーリー法をつくって関税障壁を立てた。そしたら産業が守られたか。世界中の貿易が収縮して大恐慌に陥った。そのシナリオを先にやってしまうのか。トランプ氏がそのあたり強運かどうかによるし、あるいは意図的にいろんなことを言うけれど、実際には障壁とか、中国に45%関税などそういうことをしないでとりあえず好景気をもたらすことを先にやってしまうと。そうすると、見せ手と合わせて結構、トランプやるじゃないかと。マーケットは好感をしているよという流れができちゃうんです。いっぱい約束をしたことがありますよね。それをやっていないではないかと。それに時間がかかるのだとか言ったりとか。それから、彼はその点、悪ですからね。大変すみません、公約を守れずに、日本の民主党政権はマニフェストをその後できないというと、できないことが明らかになっても申し訳なそうに言って、そこから解脱もできない。でもトランプは豹変できますからね。平気で変えてしまって、公約どうなった。君、まだそんなバカなことを言っているのと。というような豹変ができるから、先に好景気をもたらしたら案外、侮りがたいと」
反町キャスター
「それはどちらに転ぶか、まだわからないですね?要するに、賞味期限がいつまで持つか、こういう話かと思うのですけれども」
五百旗頭氏
「おかしい方を先にやって戻せなくしてしまうのか、あるいは良いところを上手に持ち出して、それで普通の人の支持を得ちゃうか、それはわかりません」

歴史学者が読む! 2017年の世界情勢
秋元キャスター
「トランプ大統領の就任演説で『他の国の軍隊を支援する一方で、非常に悲しいことに、我々の軍を犠牲にした。しかし、それは過去のことです。この瞬間からアメリカ第一となる』と語りまして、世界の警察から撤退を示唆したのですけれど、細谷さん、もしアメリカが世界の警察をやめてしまった場合の、世界のパワーバランスというのはどのように変わっていくのでしょうか?」
細谷教授
「これは大変混乱をすると思いますね。まさにアメリカはこれまで世界の中で重要なリーダーシップを発揮して、たとえば、様々なルールであるとか、あるいは自らが軍隊を派遣して、安定するための様々な形で努力をしてきた。もちろん、失敗したこと、挫折したこともあったわけですが。私はこれが非常に大きいのがハードパワー。つまり、アメリカが軍事的に関与をしなくなったということだけではなく、いわゆるソフトパワーですよね。道徳とか、規範という、このリーダーシップが欠落していく。そうすると力の空白ができるのと同時に、道徳の空白ができるわけですね。そうすると、国際社会の中で、たとえば、国際法も破ってもいいのだ、守らなくてもいいのだと。これまでアメリカの力が国際法を守る、あるいはルールを守るということの担保になっていたと。もちろん、アメリカも国際法を破ることがあるわけですが、少なくともそういう一定程度の信頼があった。それをトランプ大統領は見事に壊してしまった、あるいは壊そうとしている。この影響ということを考えた時に、これからの世界は、私はこれまでの世界が、いわゆる法の支配、ルール・オブ・ローの世界だったのが、これからはルール・オブ・ジャングル。つまりは強いものが正しいという、ジャングルの、力の支配する世界に変わっていく可能性がある。これは憲法9条があり平和主義国家である日本にとっては非常に不利であり、また日本にとっては非常に好ましくない世界になっていく可能性があるんですね」
五百旗頭氏
「トランプ氏にもたらす振幅というのがあって、大きく彼は正当から外れているんです、アメリカ外交の中で。アメリカ外交は、3つ基軸があって、利益の体系、価値の体系、力の体系。この3つをそれぞれ強く持っているのが、アメリカの体制です。もともとは価値の体系は振りかざさないということが、ヨーロッパ先進国がかなり持っていた嗜みです。それは30年戦争をカトリックと神教の間でやったでしょう。ウェストハリアで30年も戦争をやっているうちに、カトリック対プロテスタントをやっていたはずなのに、敵の敵は味方だとか、ごちゃごちゃやっているうちに、プロテスタント同士も、カトリック同士も争ってしまう。ぐちゃぐちゃになってしまう。それでバカなことはいい加減にしようというので、あまり宗教やイデオロギーを振りかざして政治、外交をやるのではなくて、むしろどの国も独立国としての、それなりの立場があると。首都の大使の中では古いものから順番に序列とするとか、ABC順でやるとか、機械的にやった方がむしろ良いことが多いと。そういう嗜みで、あまりこれを振りかざないというのができていたのを打ち破ったのがアメリカ。アメリカはそもそもアメリカ建国は丘の上の町という聖書の中にある言葉に示されるように、乱れて、穢れたところから新しい理想の社会をつくるのだという、ピルゴニモファーザー時代以来のそういう想いがあって、それが非常に根強くて、ウィルソンに至って、孤立主義的であったアメリカが第一次世界大戦で、ドイツに掻き回されてヨーロッパを何とかしようという時に何を理由にしたか。ウォー・フォア・デモクラシーとやったんですね。つまり、アメリカの片々たる利益のためとか、領土を獲得するためとか、そういうようなパワー・ポリティクスの醜い社会とは違って、アメリカは人類の普遍的な理想である民主主義のために戦うのだということで、アメリカ国民を引き連れて、参戦をして決着をつけたわけですよね。にもかかわらず戦後の秩序から降りちゃうという困ったことをやったのですが、その時以来アメリカは価値の体系、民主主義であり、人道であり、法の支配であり、海洋の自由でありと。こういうものを奉じ、そのためにアメリカの偉大なる力を使うのだという考え方をずっと維持してきたんですね。ところが、トランプ氏になって、どうなったのかと言うと、3つの利益、力、これは重視をします。マイナス価値と、価値は入れませんというので、ついにウィルソン以来、初めて外したんですね」
反町キャスター
「彼はそこまで、その3つの柱が、アメリカの基本であるということを理解したうえで意図的にその価値となる柱を外しているのですか?」
五百旗頭氏
「意識していないと思います。3つがあってとか。彼は非常に直感的にアメリカの利益になること、得になること、損になることで、価値の体系をありがたそうに、マルチの国際機構をサポートしたり、それから、我々の方では戦後の政治学者は皆、相互依存の国際政治だと。それで皆、勉強してきたんです。相互依存とか、きれいなことを言っているのではないというのがトランプ氏の立場で、力と利益だと。その利益についても相互依存時代の、相互利益だとか、国際的な制度の下で皆が繁栄できるようにとか、そういうまどろっこしいところを全部外してしまって、直接アメリカの利益を確保すると。それで国際関係については、1つ1つアメリカが損をしないようにすると、利益も相互依存時代、グローバルの時代を拒否しているんですね。力についても、各国の軍隊を支援する我々の軍を犠牲にしてきたと、損したとばかり思ってきたんですね。そうではなく、アメリカが世界の秩序を支えることによって結局、国際的な信頼を得ていた。同時に価値の体系を崩ずることによって、アメリカのソフトパワーの非常に大きな道具だったんですね。それを全部かなぐり捨てて、そうではなくて、具体的に力による利益を得ていく、そのことを直截に言うようになったという点で、完全な異端ですね、現代史における」
反町キャスター
「世界最強の軍隊を持っているアメリカの大統領として、軍事、また、強くするとトランプさん言っていますね。ただ、それがたとえば、アメリカが世界最強の軍隊を持っていることに関して、周りの国がそれを容認していた背景は彼らがちゃんとした価値を持っていて、ルールに基づいて、軍事力を行使すると、違うことはいっぱいありますよ、いろいろと軍事介入をしているので。ただ、その信頼感というのを自ら捨てようとしているではないですか?」
五百旗頭氏
「そうです。西洋史の良いところは、ローマは没落しても、ローマ法が残っているとか、あるいはローマが育んだキリスト教が残っているとか、本人は死んでも普遍的な価値や制度を残すと。これがアメリカにまで継承されていた良さですよね。アメリカは第一次大戦、特に第二次大戦の戦後秩序をかなり思うがままにつくっていたんです。それはアメリカの利益にもなる。でも、アメリカもそれに拘束されるんです。そのことは結局、甘受する他ないと思ったけれども、トランプ氏はそれはNOだと言うので、国際的な協定そのものを潰した方がいいということをやる点ですごく異端ですね」
反町キャスター
「よくオバマケアをなしにするとか、TPPをなしにする、オバマ前大統領のレガシーを1つ1つ潰すことに血道を上げているような言い方をする人もいるのですが、そうではないですね、話を聞いていると。もうちょっと広い、長い、そういう意識が彼にあるかどうかはわからないですけれども、明らかにそういう単にオバマ潰しだけではないエネルギーが彼を駆り立てていると見た方がいいのですか?」
五百旗頭氏
「アメリカの政治のほとんど本能というのか、ペンドラムセオリーというのですけれど、振り子をやるんです。オバマ氏はハト派に振り過ぎたと。ノーベル賞ももらったし、広島にも行った。真珠湾にも行って安倍首相も一緒したと。それはかぐわしい。だけど、猛者をこなすことができないではないか。プーチン氏とか、習近平氏が好き勝手をやる時に、言葉は言いますよ、いけませんとかね、だけど、相手にしたら、痛くも痒くもない、何もやらない。こういう大将、悪が動きだした時のこなし方ということをご存知ない人が最近、多くなっているんです。エリートさん、豊かな、いい教育を受けて、悪がきとしてケンカを幼い時からやってきた人はわかるんです。ところが、そういうのが優等生できた人にはなかなかわからないと」
反町キャスター
「細谷さん、先ほど、五百旗頭さんから、アメリカ外交3つの柱には、利益、価値、力というのがあるという話がありました。その中で価値というものが、これからトランプさんが、そこに重きを置かなくなるのではないかという話になった時、尖閣諸島の話になります。尖閣諸島を守るにあたって、安保条約5条の適用をするか、しないかという話。ティラーソンさんがこの間の議会証言において、その主旨の話をされましたけれども、トランプ新大統領が、利益の柱は認めるけれど価値というものを捨て去ったとした場合、アメリカが尖閣で日中紛争が起きた時に、日本は同盟国だから、ないしは同じ民主主義の国だから守るのだというモチベーションがもし彼にない場合に、損か得かだけでここに軍隊を出すか決めるというのはかなりリスキーですよ、日本にとっては。そこはどう見ていますか?」
細谷教授
「その通りですね。私は、トランプ政権の新しさというものに対して、もっと我々日本人は真剣に緊張感を持って考えるべきだと思うんですね。どういうことかと言うと、国際政治学の世界では、国際社会を考える時に、秩序を重視する人達と、正義を重視する人達がいる。秩序を重視する人達は、基本的には保守主義的な考えを持つ方が多い。ウィルソン氏はリベラル、正義を国際社会で実現しようとしていた。民主主義を広げるというのも、そうですね。一方で、その前のセオドア・ルーズベルト大統領や、あるいはニクソン大統領はまず秩序を重視したわけですね。これまで政権によって秩序を重視し、正義については十分に関心を持たなかった逆のパターンがあったのですが、トランプ政権の新しさは、トランプ大統領は、これはマティス国防長官やあるいはティラーソン国務長官は違うのですけれども、トランプ大統領自身は正義にも、秩序にも興味がないですね。つまりは秩序が混乱しても正義がなくても関心がない。つまりは利益だけです。まさに五百旗頭先生がおっしゃったことなのですが、日米同盟というのは力の同盟であるだけではなく、価値の同盟であり、利益の同盟であった。たとえば、尖閣諸島の問題を正義で言うと、いかなる国も力によって、国際法を無視して、他国の領土を侵略する、現状変更をするのはいけないという国際的なルールがある。戦後つくってきたリベラルな国際秩序の根幹ですね。トランプ大統領は興味がないわけです。もしもそれがアメリカにとって利益になるのだったら別にひっくり返ってもいいということを言うかもしれない。ですから、正義から考え、正義が蝕まれることに対しても、トランプ大統領は興味がない。一方、力の論理からしても、東シナ海で、中国は影響力を広げ、軍事力を拡大した時に大きく世界のグローバルな勢力均衡は崩れるわけですね。これはたぶん秩序にも興味がないと思いますね」
反町キャスター
「そこにも興味がない?」
細谷教授
「最後はアメリカの利益だということになる。でも、利益と価値と、力は全部結びついている。ですから、アメリカが利益だけを考えて正義と秩序を無視すれば、アメリカ自身の最後は不利益になるかもしれない。それが結局は、国防省や国務省が、だからこそ正義を維持し、秩序を維持することが重要だと。ところが、それがつながっているということが、おそらくトランプ大統領の頭の中にはないと思います。ホワイトハウスで、たとえば、これはトランプ大統領だけではなく、上級顧問のスティーブン・バノンという人や、あるいは娘婿のジャレッド・クシュナー。この人達は似ているんです。このグループですよ。つまり、秩序にも正義にも関心がない、アメリカの利益。ところが、国務省、国防省であるとか、比較的正統派の共和党の人達は、従来と同じようにアメリカというのは、正義と秩序を維持するために役割を担うべきだと考えだと思うんです。ですから、トランプ大統領の周辺の人達は明らかに、つまり、これまでは秩序か正義かという、あるいは力か正義かという振り子はあったのですけれども、両方興味がないというのは、非常に日米同盟を考えるうえでも、非常に大きな不安材料だと思いますね」
反町キャスター
「五百旗頭さん、憲法9条、憲法の前文のところに、諸国民の正義に信頼し…という、日本の平和主義、その前提というものが現在非常に危ないと思った方がいいのか、ないしはトランプ大統領の考えは2年ぐらいから3年ぐらいで終わる過渡的なものなのかという、どのぐらいの覚悟を持って、我々は状況を見たらいいのですか?」
五百旗頭氏
「日本は核兵器を持つと佐藤元首相が核兵器を持つことを言ったのご存知?」
反町キャスター
「ドイツを絡めてやろうとしたという噂があった時ですか?」
五百旗頭氏
「いや、そうではなくて、東京オリンピックが1964年に行われた時、池田元首相が癌になって、佐藤元首相が後継です。佐藤首相になって最初のアメリカ大使との会見。ライシャワー氏に対して、日本は核兵器を持つことを考えたいと。1960年にフランスが持った。1964年に中国が持った。中国が持って日本が持たないというのは考えられないと佐藤さんはおっしゃった。ライシャワーはびっくりして、と言っても日本国民には核アレルギーが強いではないですかと反問をしたら、いや、それはその通りだと。しかし、教育、再教育し、それを国民の間でも理解してもらう必要があるが、最終的に持たなければいかんと、本気みたいなので、ライシャワーはびっくりしてワシントンに秘密電報を打ったわけです。それが現在では公開され、読めるようになっているわけですね。それに対して、アメリカはどうしたか。年が明けて1965年1月に、佐藤首相が訪米をして、最初のジョンソン大統領との首脳会談をやった。その時、ジョンソン大統領は口を極めて、我々は必ず日本を守ると、核の抑止をしっかりやるから、日本は自分で持とうとするなと。我々は現在、NPT(核兵器不拡散条約)体制と後に言われるようなって、核不拡散の世界的な体制をつくろうとしている。フランス、中国、日本ときたら皆が持つようになって管理できない。核いっぱいの世界になる。それを避けるために、そういう新しいシステムをつくるから、日本も協力をしてほしいと言ったんですね。佐藤元首相は、それに対して、YESともNOとも言わず、彼がお願いをしたのは沖縄返還を是非考えてほしいと。1967年11月に、訪米をした時にいろいろ躊躇はしたけれども、両3年のうちに日本に沖縄を返還するということについて決めるという確約をくれたんですね。その後、日本に帰ってきた佐藤首相は12月だったかな、国会で非核三原則と言うのを言い出したんです。佐藤首相はまず、本当にアメリカは信頼できるのですかと。信頼できるかどうかを確かめるまで不用意にわかりましたとも、NOとも言わず。そして、沖縄を返還すると、戦で奪った領土を還すというのは大変なことではないですか、ベトナム戦争中でもあったし、それをアメリカ政府が確約をしたという時点でようやく日本は核を持たない道を選ぶということを日本の国会で宣言したんですね。というので、信頼性というのが非常に大事で、ずっとこれまで引き継がれてきた」
反町キャスター
「それが現在、もしかしたら危うくなっている?」
五百旗頭氏
「トランプさんに至って、それがわからなくなってきた。ですから、これは確かめなければいけない。だから、トランプ政権の本当の政策はどうなるのですかと。もう少し日本はお金を出さなければ米軍撤退をしますよ、と言っている。だけど、日本は74.5%と断トツに払っている。払っているのに、トランプ氏がそう言ったら、彼が任命したマティス国防長官はどうか、ティラーソン国務長官はどうか。2人ともモノを知っていますから。いや、それは、違いますと、それよりも大事なことは日本にもう少し自前の能力を持たせて、かつてのイギリスのようにアメリカといろいろなことで協力ができる。そうする国にする方が得ですよ、というお話するかもしれないですね」

『トランプ旋風』と欧州
秋元キャスター
「自国第一を掲げた政党が、ヨーロッパで連携していまして、ドイツの西部の町にフランスの“国民戦線”のルペン党首ですとか、“ドイツのための選択”のペトリ党首とか、欧州極右勢力が会合を開いて、各国でさらなる躍進を誓い合ったのですが」
細谷教授
「結局、彼らを支える支持者と、彼らの理念は共有されているんですよね」
反町キャスター
「それぞれの国が、アメリカファーストを、フランスファーストを言っている、ドイツファーストの人達が連携するなんて矛盾していませんか?」
細谷教授
「結局は、国際秩序に興味がないです。どうなってもいいです。つまり、自分達さえ良ければいいとは言っている。それをオバマ氏とかが説教したわけですね。ところがトランプ氏は説教をしないわけですよ。不良が集まって、真面目な先生がいると怒られるではないですか。先生が不良だったら怒られないわけですよ。つまり、かつて当たり前だったことが、当たり前じゃなくなっている。たとえば、民主主義に対する信頼というものがアメリカで下がってきているんですよね。民主主義ということに対して、人権侵害というものに対して、あるいは1番問題になるのは人種差別ですね。これはヨーロッパ大陸でも特にヘイトスピーチとか、かなりイギリスで問題になっていまして、トランプ大統領が選挙に勝ってからも国内でかなり人種差別的な、いろんな小学校で広がっているというニュースもありますし、人種差別が悪いというのがこれまで当たり前だった彼らが皆、自分は人種差別主義者ではないと言っていますが、しかしながら、選挙の時にポピュリズムで、票を取るために、平気で内なる敵と外なる敵を見つけて批判するわけですね。内なる敵というのはまさに移民であって、場合によっては人種主義的な発言になって、我々が当たり前と思っていた規範というものが、道徳というものが当たり前ではなくなっている。たとえば、移民排斥であるとか、移民のコントロールというのは出てきた極右の主導者はほとんどが共有していますよね。あと国連批判、EU(欧州連合)批判ですね。これも共有していると。マルチが嫌いなんですね。国際法も嫌いですよ。そういった意味では、こういった勢い、私は今年のヨーロッパの選挙で、たとえば、メルケル氏は非常に安泰ですし、大きく崩れることはないだろうと。おそらくはフランスもフィオン氏が勝つと言われていますから。そうすると、十分に中道右派政権で維持できるとは思うのですけれども」
五百旗頭氏
「アメリカ国内でもトランプ大統領の就任式においてすら反対デモが起こるではないですか。つまり、国内が真二つに分かれていて、トランプ氏が悪いことをする前に、言葉だけであれだけ反発がある。そういう類の動きというのが、悪集団が米欧で連携しているということに対して、ある種の健全な復元力みたいなものが働けばいいと思うけれど、ヨーロッパにはその気配はないですか?」
細谷教授
「現在、ヨーロッパで言われているのが、メルケル首相がアメリカに代わって、自由民主主義、リベラルデモクラシーの世界でリーダーとなるべきだと。リーダーというのは軍事力ではなくて、モラルのリーダーですね。つまり、何か大きな危機が生じた時に、たとえば、国際法を無視した行動を起こす、場合によっては、トランプ大統領はいいではないかと言うかもしれない。そこでたぶんメルケル首相は厳しい批判をすると思うんです。実はメルケル首相が期待しているのは、日本の安倍首相ですね。従来、ドイツは中国との関係が良かった。ところが、昨年の秋に中国の企業がドイツ国内のIT(情報技術)企業を買収しようとした時に大変な反発が起きて、つまり、戦略的に中国がドイツの国内に手を突っ込んで、掻き回していると大反発が起きた。ドイツ国内の中では、中国は信頼できるパートナーではないと、ここ2、3年で随分空気が変わって、ビジネスは中国との関係は圧倒的に太いのですが、世界の秩序を考えた時には日本であって、安倍首相との連携が必要ではないかなと。昨年はたまたま日本が、安倍首相がG7議長国でした。その前の年はドイツがと、議長国が続いたわけですよね。ですから、第二次世界大戦で負けた、リベラルデモクラシーの日本とドイツが道徳的観点からはリーダーシップを発揮して、むしろイギリスとアメリカが迷走している状況」
反町キャスター
「五百旗頭さん、戦争のリスクはあるのですか?」
五百旗頭氏
「戦争のリスク、つまりこれほど破壊手段が大きくなったら、合理的手段としては使えない。普通には考えにくいのですが、ただ、嘘もたくさん使うし、共同幻想というのですか、国民的な神話に陥って、おかしなことを起こすというのは割と度々起こっているんです。第一次大戦が起こっている時に皆、この戦争は短くて、3か月でクリスマスには我々勝って帰ってくるからと、兵士達も言ったし、どこの国もそうです。そういう幻想をもとにして、自分の有利なところだけ見て、勝てると思ってやってしまうみたいな、そういう間違いは起こり得るわけですね。核は使わない、局地戦だけ済ますと思いながら、大変なことになる。我々が生きてきた20世紀の世界というのは結局、3つの要因、科学技術の発展、民主化・大衆化と、国際化と言ったんですね、初めは。それが世紀末ぐらいからグローバリゼーションと言い方が変わったのですが、この基調は21世紀になっても変えられない。ただアレルギーが強くなった。反グローバリゼーション・アイディンティティ、つまり、自分達をちゃんと守ってくれるのかと、守ることこそ政治ではないか、それをちゃんとやっていないことが許せないと。アイディンティポリティクスが非常に強くなっている。ブレーキをかけている。問題はそれでグローバリゼーションが終わるのではなくて、どう調整するかですね。それを課題として各社会は与えられているのだと」

五百旗頭真 熊本県立大学理事長の提言 『アメリカは大きく振るが必ずやり直す』
五百旗頭氏
「アメリカというのは何てことだと思うような振り方をするんです。しかし、それでいってしまうということは絶対にないと。アメリカ国民は実利的に審査しているんですね。機会を与えた政権がおかしな方へいったなと思ったら、その4年後、少なくとも8年後にはまったく反対の方へやる。ブッシュからオバマになり、オバマからトランプになった。振り方の質の高さ、低さはありますけれども、必ずやり直していると。そういう意味では、あまり慌てふためくことはないと。必ずアメリカは正気を取り戻してくれると、日本は自信を持って穏やかに抱擁するという努力をすべきだと思います」

細谷雄一 慶應義塾大学法学部教授の提言 『自助と自立』
細谷教授
「現在は相互依存のグローバル化がされている時代ですから、安全保障や経済が完全に自立するということは不可能ですが、私が申し上げたいのは、精神や知的な自立、あるいは自助。自分達の頭で考えて、自分達の精神というものをより強靭にしていくと。いったいどうしたら世界が平和になって、どうしたらより繁栄するのかということを誰かに依存して甘えるのではなくて、日本人が自ら考えて、世界に発信していく。これがこれからの時代により必要になっていくのだろうと考えます」