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2016年8月30日(火)
『働き方改革』検証! 長時間労働と賃金格差

ゲスト

樋口美雄
慶應義塾大学商学部教授
本田由紀
東京大学大学院教育学研究科教授
海老原嗣生
ニッチモ代表取締役 立命館大学経営学部客員教授

『働き方改革』徹底検証 同一労働同一賃金の実現は?
秋元キャスター
「政府の進める働き方改革の中の2つの項目を取り上げます。同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正ですけれども。同一労働同一賃金の実現を目指す背景には、正規社員と非正規社員の賃金格差の問題があります。この場合の非正規社員というのはパート、アルバイト、契約社員、派遣社員、嘱託などですけれども、こちら正規社員と非正規社員の平均の年収です。正規社員の男女の平均が478万円。非正規社員の男女の平均が170万円となっていて、こうした中で政府は同一労働同一賃金の実現を目指そうとしているのですが、同一労働同一賃金、どのように定義づけているのでしょうか?」
樋口教授
「同じ仕事をしているのであれば、同じ賃金というようなことだろうと思うんですね。ただ、同じ仕事と言っても、たとえば、パートの人もいる、あるいは労働時間の長い人もいるということですから、給与総額が同じということではなく、たとえば、時間当たりの賃金に換算をして同じようになるというような考え方だと思います。ただ、国によって、この同一労働同一賃金の、その捉え方というのはかなり違っています。同じ仕事は、どういうふうに定義をするのかというのは、これは非常に難しい問題でして、職務、これが明確であれば、同じ職務であれば、同じ時間給にというようなことになってくると思いますが、国によってはかなり職務が、特に日本あたりで考えますと同じではないわけですね。あるいは定義されていないということもあります。そうなってくるとその捉え方をどうするのかというような。たとえば、正社員に対しては転勤もありますよと。しかし、非正規、パートについては、それがありませんといった時に、一時点を捉えると同じ仕事に見えるわけですね。ところが、長い時間考えて見ると、そこがどれだけ責任があるかというところで違ってくるといった時に、給与の差をつけるのは当たり前ではないかというようなところも出てくるわけでありまして、そこをどう定義しているのかというのが、難しいと言われているところだと思いますが、やらざるを得ないというところもあるのではないでしょうか」
反町キャスター
「非正規と正規。だいたい2.5倍ぐらいの差がありますよね。これの格差を埋める1番の良い方法が同一労働同一賃金制度の導入ということになるのですか?」
樋口教授
「そうですね。ですから、それをどう捉えるか。同一労働同一賃金というのをどう捉えるかというところが議論になってくると思いますが、あまりにも大きな差があることになれば、それは社会的にも、また、企業中でも容認をされないというようなことで、たとえば、こういった問題、こういったことをやってはいけませんよというような形で、同一労働同一賃金というのを定義していくというようなことというのもあるかというふうに思います」
反町キャスター
「それは同一労働同一賃金というのは、こういうものですと決めるのではなくて、こういうことをやったら、これは同一労働同一賃金のポリシーに反しますよと、よく安全保障で、ポジティブリスト、ネガティブリストの話がある中で、今の話はまさにネガティブリストで、これと、これと、こういうことはやってはいけなせんよという、こういうダメなものをリストしていくみたいな、こんな感じになるのですか?」
樋口教授
「当面、それをやらざるを得ないと思いますね。最初から何をもって同じ仕事と定義するのかというところから始まってしまうと、これはなかなか日本では実現不可能だというようなことになっていきますから。実現可能なものは何かということから考えていくとするならば、そこなのだろうと思いますね」
反町キャスター
「そうすると、同一賃金というものを導入することが、正規、非正規の給与格差というものが不正なものであるという前提に立った場合、その不正を正すツールになると、こういう理解でよろしいですか?」
樋口教授
「だと思います」
秋元キャスター
「本田さん、この同一労働同一賃金、日本で導入することは可能なのでしょうか?」
本田教授
「これは結構、古くからある言葉で、これまでも正規、非正規の差を同一労働同一賃金というスローガンのもとで直していこうという動きがなかったわけではないですよね。たとえば、パートタイム法ですか、導入されたりしてもきたのですけれど、それはある意味、ザル法のように有効ではなかったわけです。なぜ有効ではなかったかと言うと、何をもって同一とみなすかということが非常にネックになっていて、正社員の働き方と非正規社員の働き方が同一かどうか。比べることが非常に難しいような質的に異なるようなもので、これまでずっとあったわけです。つまり、正社員というのはこれだけすればいいというわけではなく、残業も引き受けなければならないし、転勤も引き受けなければならない場合が多いといったような、非常にメンバーシップ型という言葉が最近、使われたりしていますけれども、言い換えれば、何でもやってください、何でも引き受けてくださいというのが正社員の働き方です。つまり、輪郭がはっきりしてないと。どこまでもやってくださいねという、そのために正社員にしているんですよというのが正社員の働き方です。一方、非正社員も最近ちょっと変質が見られるんですけれど、一応はこれこれのために雇いますということは、もっとはっきりしていますね。だから、非正社員の方が比較的、職務内容とかはっきりしているわけですね。モヤーンとしたものと、カチッとしたものであれば比べようがないです。ですから、同一ではない、同一ではないのだから賃金にこれまで通り差があっても構わないということになりかねませんということを申し上げたい」
反町キャスター
「でも、日本の労働形態がそうなっている前提で話しているのではないのですか?日本の労働はそうなっているんですよね」
本田教授
「なっています。現状維持で」
反町キャスター
「片方でモヤーンとなっていて、片方から見ると、ちょっとまた離れたところで、ピンポイントの仕事になっているとなると、この実態のところに同一労働同一賃金をいきなり当てはめるというの無理だと聞こえます」
本田教授
「当てはめるのなら、本気で当てはめてくださいと。その場合にはモヤーンとカチッとをカチッとで比べられるように、まずするという、そういうステップを踏まないと無理です」
反町キャスター
「そのためには、正社員のモヤーンをカチッとした方がいいのですか?それとも、カチッとを、ちょっとモヤーンにした方がいいのですか。抽象的な質問ですが」
本田教授
「モヤーンを、カチッにすることが…」
反町キャスター
「正社員のテリトリー、領域をカチッと狭める、固める方が、同一労働同一賃金の議論に持っていきやすい?」
本田教授
「そうです。全部が全部でないにしても正社員の中で輪郭を定めることが可能な仕事というのを切り出していって、限定のついた正社員というのを厚くしていくべきであると」
秋元キャスター
「引き続き、同一労働同一賃金について話を聞いていきますが、海老原さん、ヨーロッパの例を」
海老原氏
「まずギルドというものが、過去にあって、特別な労働組合ができているわけですね。まず労働組合、現在は職務別にできている、職能別でできている。そのうえに、だから、正規、非正規の人も、販売の人、サービス・営業の人も、人事の人もと分かれている。さらに言うと、毎年、それが社外までつながっているわけですよ」
反町キャスター
「会社横断ごとになっている?」
海老原氏
「横断的につながっている。労働組合の支店がどこかの会社にあると考えればいいわけですね。そうすると、たとえば、流通、サービス業の販売をやっている売り子さんだって、売り子さんの組合に入って、売り子さん全体で、売り子さんの労働力をどう資本家に売ろうかと、こういう交渉をしっかりやるわけですよ。さらに言うと、社内に労働者代表組織というのが、こういうのがあるんですね。たとえば、リストラをする時とかも、ここにちゃんと諮らなければいけないです。ここのところに全代表が入ってきて、ここで合意形成するという仕組みになっているんですよ。こういう仕組みがない限り、つまり、偽善でそんなに給与を上げられるわけではないから、これはちゃんとした仕組みで戦ってあげなければならないですよ。この組織が日本にないわけですよ。特に非正規なんて労働組合さえ持っていないわけではないですか。外にユニオンという形でありますけれども、実質ないに等しいといわれて、上がらないわけですね。これがあって上がったので、同一労働同一賃金というきれいな名目で上がったわけではないわけですよね。ですから、この代わりを誰がやるか。これを日本では緊急避難的に行政がやるしかないですよね」
反町キャスター
「行政が労働、職能別組合みたいなことを行政が監督して調整を、A社とB社と、ちょっとここ調整しなさいみたいなことを?」
海老原氏
「それはちょっと変ですけれども、政策誘導という形で、そうやったら企業が得するよという形で、政策誘導でやっていかない限り動かせないですよ」
秋元キャスター
「なぜ日本ではできないのですか?」
海老原氏
「これは職能型労働組合は、たとえば、アメリカやイギリスでもそんなには発達していないし、ごめんなさい、アメリカやオーストラリア。それからロシアでも発達していなかったんですね、過去。これはヨーロッパのギルドがあったから。ギルドという職人組合があったから、職務別に、つながるという歴史があったからですね。つながっていると思うんです。ない中で新たにつくるのはなかなか難しいわけです。とすると、この代わり、政策誘導で、だから、本来なら産業民主主義で、これは労使で決めなければいけないけれども、ないのだから、ここは緊急避難的にやる。安倍さんは、そこにやる気を持っているのだから、行政主導の誘導策をやったらいいと思うんですよね」
樋口教授
「ご指摘の通り、日本の場合には企業別労働組合が実質的に賃金決定をしているんですね。個別賃金、個別企業における労使において賃金を決めていく。従って、企業が違えば利益が違いますね、当然。そこに賃金の差があるという前提でやっているわけですね。ところが、ヨーロッパはそうではなく、企業が違っても同じ職種であれば、同じ賃金を、というようなところで、ある意味で、価格競争が起った時に賃金の引き下げは起こらないで、どうしたらいいのだろうかというようなところで企業を超えた、産業別、あるいは職種別の給与体系というのをつくってきているわけです。ところが、日本はそうではないですから、企業と組合が一体となって競争に勝つというようなことになってくれば、どうしても賃金の引き下げが起こりやすいというような問題も起こっているわけですよね。今、出てきている同一労働同一賃金というのは、とりあえずは同じ企業の中における同一労働同一賃金というようなことがありまして。企業を超えての話というのはまだ出てきていないと思いますよ」
海老原氏
「企業の中で、確かにですけれど、企業の中で、ある職務給与を上げるというのは、誰が音頭をとってやるのか。この横断組合があれば、そこが入ってきてやりますが」
樋口教授
「まさに今回はそこに政府が入って来ているわけですから。今回の働き方改革というのも、視点というのは労働者の視点から見た働き方改革になっているんですね。ということは、労働者のためにどうなのか、働きやすい環境というのをどうやればつくっていくのか。また、それに対する処遇というのも向上させるということも含めてのこの議論だということになると思います」
反町キャスター
「でも、非正規の人達の待遇を改善するべく政府が介入、ないしは指導すると言っても、企業は、日本で400万社ぐらいありますよね。中小企業が380万社とか、390万社ぐらいありますよね。それを1つ1つ…」
樋口教授
「いや、実際にやるのは…」
反町キャスター
「労働環境が厳しい中小企業に対して政府が1つ1つ、労基署がまわるのですか?」
樋口教授
「いやいや、労基法によってやろうということではなくて、そこについては、まずはそれぞれ儲かっている企業に対しては、そういったもので底上げしてくださいよということは当然やると思います。同時にやるというのは、たとえば、いろいろな支援をしましょうと。たとえば、これまで契約社員でしたと、ところが、自分は正社員になりたいのだということであれば、自分に能力開発ができていないというところがあるわけですね。だとすれば、そこについては政府の方が支援しますよ、補助金を出しますよというような取り組みとして全部セットでそこはやっていこうというようなことだろうと思いますよ」
反町キャスター
「そうすると、たとえば、政府の目が届く企業からという話になると、大企業が先行して、企業内における同一労働同一賃金は達成されていくわけではないですか。結果的に大企業と中小企業の待遇格差がさらに広がったりしないですか?」
樋口教授
「その可能性はありますよ。ただ、たとえば、そこで転職というのがあり得るわけですね。非正規で、これまで中小企業で働いていました。中小企業だから賃金が安いということはないと思うのですが、多くの場合、平均的にそういうことが起こっていますね。だとすれば、たとえば、大手の方で、そういった処遇の良い仕事をオファーしますよと、そちらに転職をしますというような労働市場の流動化というにも含め、これは議論をしていかないといけないと思いますね」
反町キャスター
「アベノミクスと言われる中で批判されているのが、要するに、大企業、輸出関連産業がやたらと旨味を得ているという批判がある中で、中小企業だったり、地方、ローカルだったり、中小企業に対するアベノミクスの恩恵はどうなのだという話がたぶん最大のテーマとなっている中での、今回の働き方改革だと僕は思っていたんですけれども、話を聞いていると、ここも大企業先行なのですかと。ちょっとがっかりする部分がある」
樋口教授
「いやいや、そこについては、ですから、中小企業への当然支援というようなもの、今度の補正予算みても、セットで入ってきているわけですね。働き方改革を進めるのには、大企業もそうでしょう。中小企業についてもいろんなコストがかかるということであれば、そのコストの部分については政策的に支援しましょうというようなそういったパッケージになっているのだろうと思いますよ。あるいは、していくだろうと思いますよね」
海老原氏
「そこはおっしゃる通りで、政策誘導のための汗をかけばいいだけだと思っているんですね。たとえば、非正規の給与を最低賃金の1.5倍以上出すという給与テーブルをつくった中小企業には助成金を与える、もしくは給与の最低給が1.5倍から始まりますが、その中、職能等級みたいになって、キャリアラダーをつくって、最終的に3倍までいける企業にはもっと出すとか、そういう形で政策誘導をしていけば。今も助成金に近いものがあるんですよ。職場意識改善助成金があるんです。こういうものをうまく使って、使途拡大をして、政策誘導していけばいいだろうと思っているんですね」
反町キャスター
「そこまで政府が、中小企業の、いわば給与体系にまで具体的に踏み込んでいかなくてはできないもの」
海老原氏
「だって、ないですもの。いないんですもの」
秋元キャスター
「日本の非正規雇用の契約期間の状況はどうなっているのでしょうか?」
樋口教授
「これが労働契約法の改正ということで、2013年4月1日に施行されるということになります。内容を見ますと、有期労働契約が通算5年を超えてということですから、1年単位であっても5回更新されて、ということになっていきますと、反復更新された場合は、労働者の申し込み、要は、労働者の希望によって無期労働へ転換する権利が与えられるというような内容になっているわけですね。対象というのは、こういったような人達ですということになりますので、2013年4月1日から5年間ということになりますと、18年、再来年の4月1日から、こういった5年を超えた有期契約については本人の希望によって、無期への転換ができるようにというようにという制度変更がなされたと、法律変更がなされたということだろうと思います」
反町キャスター
「無期労働とは何ですか?正社員のことですか?」
樋口教授
「正社員とは必ずしも違うと思います。正社員というのは、会社の身分ですよ」
反町キャスター
「正規ということを考えた中で正規でも、非正規でもない無期。それはどういう?」
樋口教授
「無期というのは、そういう雇止めが行われませんということですね」
秋元キャスター
「待遇は、でも、非正規のままですよね?」
樋口教授
「いや、それについては、ですから、それぞれの企業においてどう扱うかということについて、待遇について、給与ということだと思いますが、それについてはそれぞれの企業で決めていくということで、これだけの法律改正ではそこは何も言っていないと」
海老原氏
「有期と無期で待遇が変わらなくても、有期から無期になることは相当変わると思います。有期だとどんな形だって解雇ができるんですよ。たとえば、ちょっと文句を言って、頭に来たな。頭に来たからクビにしたい、能力や会社の経営状態が悪いわけではなくて、頭に来ただけでクビにしようと思ったら、契約期間が来ました、さよならなんですよ。ちょっと待って、私があの時、あれを言ったからでしょうと。いやいや、契約期間が来たから、さよなら、と言うので、つまり、どんな解雇もできちゃったんですよ。だから、それは無期にした方がいい。ただ、給与が上がるか上がらないかは別問題で。ただ、無期雇用になったとしても、今度はこれがジョブ型ワーカーです。たとえば、大企業のイオンを見ると、どうなっているかと言うとかなりジョブで、たとえば、1つの店舗で働くということも入っているし、店舗だけではなくて、魚屋さんで働くというところまで入っているんですよ。魚屋さんから、勝手にレジには移せないようになっているんですね。こういう形でやっていると、魚屋さんで雇用がなくなった場合、魚屋さんが撤退をした場合、当然、これは解雇をしても文句を言われなくなっちゃうんですよ。総合職だからどこでも行けるから、配転可能性があるから、人事権は企業が全部持っているから、代わりに解雇をしてはいけない。法律には何も書かれていないわけですね。何もと言っても、ちょっとしか書かれていないわけです。だから、こういう状態の中で裁判をやると負けるんです。これは企業も欧州だと比較的整理解雇は楽ですよ。任意解雇とか、能力解雇というのは難しいですけど、気に入らないから解雇というのは難しいですけれども、整理解雇は比較的簡単です、無期社員でも。そういうことで、彼らは欧州で、いわゆるジョブワーカーになっていくだろうと思っちゃうんですよ。いつでも今日が来たら、さよなら。だって、あなたは1つのことしかやらないのだから。しかも、場所も決められているのだから。こうなっていくのだと思うんですよ」
反町キャスター
「それは、要するに、正規、非正規の格差を埋めるステップにはなっているのですか?なっていないのですか?」
海老原氏
「まず給与は上がっていかないといけないと思いますよ。給与と、それから、貴様解雇、簡単に解雇されるような、有期、無期という問題は解決しないと」
反町キャスター
「貴様解雇と言うのですか?」
海老原氏
「そう言う人もいるんです。根本的には欧州でも、たとえば、店員さんとか、もしくは流通業とかは安いですよ、給与。日本はあまりにも低すぎるけれども、だけど、向こうの、いわゆるエリート階層から比べたら安すぎるんですよ。そういう状況は残っていて、しかも、彼らの解雇はかなり緩いです。整理解雇に関してはかなり緩い状況です。現実問題も見てきました。法律だと解雇しなければいけないとか、フランスは書いてありますけれども、どういう形で解雇されるかも見てきましたが、随分緩い。だから、向こう並みになってしまうと思うんですね」
反町キャスター
「かえって厳しくなるのではないですか?」
海老原氏
「でも、貴様解雇だけはなくなるのは良いことだと思いますよ」
本田教授
「一言だけ言っておきますと、中小企業の中では、正社員、有期雇用だって、貴様解雇が当たり前ですね。だから、今のお話、ちょっとおかしい」
海老原氏
「それはそうだと思います」
反町キャスター
「そうすると、本田さん、これによって有期が無期になって貴様解雇がなくなるというところすらも、それも大したことはないということになっちゃうと、この法改正、何ら評価するところがなくなっちゃうのですか?」
本田教授
「いや、だから、それが賃金の上昇を伴わないとか、あるいはいろんな手当てがついてこないとか、解雇の可能性は有期であれ、無期であれ、すごく優良な大企業以外のところでも簡単に行われていると。一定の解決にはなっていません。しかし、いろんな働く人達の調査を見る限り、安定した働き方をしたいと。無期、いつクビになるかという、脅かされないで済むという、無期になるということだけでも強い要望として、希望として、調査の中では表れてくるというのは確かなんですね。ですから、まずそこをいったん確保するということは、私は悪いことではないと思います」
反町キャスター
「一歩前進になる?」
本田教授
「はい。そのうえで、それを手にしたうえで、いろんな他の処遇に関しても、取り組んで、戦って、獲得していくことがあるというのが確かですけれども、無期になる、本当になっていけばですけれども、こと自体は悪いことではない。でも、わからないです。樋口先生は楽観的な見通しを描かれましたけれども、本当にこの2018年に、私は半々ではないかと思うんです。無期に移行する場合と雇止めする場合と」
樋口教授
「法律は法律改正されたから、明日から社会が変わりますということではないですよ。それをどう運用をしていくかというところの重要性というのがあるわけですよ。そういう方向に、たとえば、無期に移ったのだから雇用は守られますよというような形をどう法律を運用していくかというようなところにかかってくると思います」

非正規社員の待遇改善
秋元キャスター
「正規社員と非正規社員の賃金待遇を是正するためにどうすればいいと考えますか?」
海老原氏
「マクロの話はあまり好きではないですけれど、マクロの話していくとですよ、労働分配率を見ると日本と欧米はそんなに差がなくて、データによってはやや日本の方が高かったりするわけですよ。つまり、給与原資的には日本はそんなに少ないわけじゃない、むしろ多いぐらいですよ。とすると、配分がおかしいんですよね。配分変えるしかないから、どこかでつくって変えるしかないですよね。どこにあるかという話を考えなければいかんと思うんですよ」
本田教授
「それほどすごく強く批判する気持ちがあるわけではないですけれども、いくつか文句があるというのは既に大卒正社員の年功賃金は随分、かつてと比べるとカーブが平らになってきているということが既に起こっていることは1つ申し上げておきたいということです。非正規の賃金を上げていくにしても、そのために同一労働同一賃金ということに踏み込もうとしているんじゃないか。政策誘導で何でも可能になるわけではないので、どうやって正社員の賃金カーブをもっと平らにしていくのか、あるいは非正規社員の賃金を上げていくかということの基準というか、背景に持ってくるロジックとして、同一労働同一賃金ということを言い始めているはずなんじゃないのかと思います。つまり、非正規も正規も労働内容で賃金を決めていくようにすれば、あるいはそれも固定の場合もあるかもしれませんけれども、少しスキルがアップしたり、より高度な仕事を担うようになったら、そこで契約をあらためて、また違う体系の賃金に移動していくとか、つまり、ずっと固定というわけではなくて、ジョブ型であっても賃金はジョブが変われば上がっていくことができるわけです。そういう形で非正規もジョブの難易度が上がることによって賃金が上がっていく。ジョブに応じて正社員であっても賃金が決まっていくようであれば、だんだんこれは収斂してくるであろうということは、これは思います。そういう点で似ているんですけれど、ごちゃごちゃ細かいことを言うと、ちょっと違うということです。政策誘導で何でもできるわけではない。つまり、労働者側が闘う必要がある」
樋口教授
「二極化しているわけですよ。正社員がいて、正社員の賃金が上がっていきますけれども、非正規社員というのは生涯にわたって非正規ですよという、これを変えようということです」
反町キャスター
「上と下の相互乗り入れみたいな形をつくっていきたいと?」
樋口教授
「そういうこともあります。それがまさに転換をどう進めて行くかということだろうと思いますし、もう1つは、大卒正社員の間でも賃金の散らばりが非常に大きくなってきているんです。同じように、非正規についても、そこについては仕事の内容によって、散らばりをつくっていくと。というようなこともかなり重要になってきて、そうなってくるとダブってくるところというのがあるわけです。正社員も賃金の低い人と、非正規の賃金の高い人がもしかしたら逆転するかもしれない。今はそうなってないところが、同一労働同一賃金の問題ということで、提起されているわけですね」

長時間労働と意識改革
秋元キャスター
「長時間労働に対する日本人の意識は変わってきているのでしょうか?」
本田教授
「就活中の大学生であるとか、あるいは会社に入ったばかりの新入社員とかの意識の中には確かにもっとワークライフバランス大事にして定時に帰りたいみたいな意識が出てきているのは、これは確かですね。あくまで大学生や新入社員の話であって、そのあと会社で勤め始めて一定の期間が経つと、長時間労働に呑み込まれていくような、結局のところ、そういう現状だと思います」
反町キャスター
「それは良くないというスタンス?」
本田教授
「もちろんです」
反町キャスター
「なぜ日本人は長時間労働になってしまうのですか?」
本田教授
「1つは法律とか、制度とか、それを可能にしてしまっている枠組みというものがあります。その中で長時間労働をさせる、働かせる側、経営側と、(長時間労働を)してしまう労働者側。この3つの要因が全部絡んでいます。制度とか、法律の枠組みというのは36(サブロク)協定を結べば、いわゆる36協定と呼ばれているものを結びさえすれば、割合、本当に無制限のような長時間労働もさせてしまうこともありますね。働かせる側の意図としては、人をたくさん雇うよりは残業させた方が社会保険を考えると結局は得だということもあるとか、中にはサービス残業は残業代不払いのままで、これは本当に搾取というか、やってはいけないことですけれども、それで働かせる方がもちろん得ですよね、働かせる側にとっては。だから、働かせている。何だかんだ言って。しかも、それを受け入れる社員の方が、都合がいいもので、高く評価したり、そういう人を先に昇進させたりするというような、働かせる側のある意味、邪悪な意図というものがある。働く側もそれを受け入れてしまっている現状があるというのは、これもいろいろありますけれど、そういう邪悪な慣習に染まった上司が同じフロアにいるのであれば、帰れないとか、遠慮するという気持ちがあるでしょうし、あるいは長時間働いた方が、よくがんばっているねって言って評価されるのであれば、働いちゃうしかないかなという気持ちになったりするかもしれませんし、あるいはサービス残業ではなくて、残業代が払われる場合はそれを当てにして、生活設計しちゃっている場合もあるかもしれません。中には家に帰っても、居場所がなくて仕事もないのにダラダラいるみたいな、特にそういう生活をずっと長い間、中年になるまで続けちゃうと、ますます家に居場所がなくなるので、ますます職場にいる」
反町キャスター
「長時間労働がなぜいけないかという理由としては同じでいいのですか?」
樋口教授
「基本的には同じだと思います。日本の場合、長い時間働くことが良しという、勤勉だということで評価してきたところがあると。あるいは企業のために役立っているというようなことで、そういったものを高く評価するということがあったと思います。働く方についても、時間、そういったものにあまり縛られない人が働いてきた。正社員として、これまでがんばってきたというようなところがあって、ある意味では、それが非常に高いハードルをつくってしまったために、今度は女性が働きましょうと思ってもなかなかそれを続けられないというところが問題になってきています。何と言っても、労働者は疲れていますよね。過労死までいかなくても、果たして働くことにどれだけ意欲を持って取り組んでいるのだろうかということを考えると、そこに疑問が投げかけられる。そういうところから長時間労働の見直しということが起こってきていると思いますね」

樋口美雄 慶應義塾大学商学部教授の提言:『“働き方改革”は未来への投資』
樋口教授
「これは、これまでやってきたことを変えていくことは、最初は大変だと思います。コスト面においてもかかってくる。ただ、それは単なる費用だとか、政府がやれと言うからやるだけではなくて、人口の減少社会を考えていきますと、人材をいかに有効に、がんばってもらうか、というようなことが必要になってくるわけですから、誰もが意欲と能力を発揮できるような社会をつくっていくうえではこれが必要だと。その意味で、投資という認識は必要ではないかと思います」

本田由紀 東京大学大学院教育学研究科教授の提言:『仕事の“ブラックボックス”を開け!!』
本田教授
「働き方改革と言っても正社員の問題というのが大きいという認識です。ですから、日本の正社員というのは何をやらされるのか、どれぐらいの時間働かなければいけないのかというあたりが非常にもやんとしたまま、会社に身を預ける形で働き始めるようになっているわけですね。それが諸悪の根源。ですから、私はそういうブラックボックスのようになっている正社員の働き方をもっと明瞭な形で労働条件をキチッと明示し、文書で公示し、契約制というものをはっきりさせていくと。それによって労働者が仕事を選ぶことができるように、会社を超えて、あるいは会社の中で、仕事を選んだり、変えたり、ある意味、市場メカニズムが働くようにしていかないと、賭けみたいな、博打みたいな、会社に身を預け、何が起こるかわからないみたいなやり方を正社員が続けている限りダメだと思っています」

海老原嗣生 ニッチモ代表取締役の提言:『日本人の心の問題』
海老原氏
「お二人の言っていることもそのままだと思いますけれど、プラスして。日本人は過去の日本型の働き方を普通と思うのは、同じかもしれないけれど、普通だと思っているんですよ。出世して当たり前、首切られなくて当たり前、給与上がって当たり前と。それは当たり前ではなかったんですね。社会がもうヒーヒー言い出して、企業もヒーヒー言い出し、どうにか向こうからボールがきているという段階になってきた。それをうまく利用しなければいけない段階です。うまく利用し、逆に企業を困らせる、社会に対して僕らも権利を持つという方向に、うまく困らせなければいけない状況だと思っているんです。だから、日本人の心がうまく変わるような政策誘導も考えた方が良いのではないかと」