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2016年7月28日(木)
米国抑止力の賞味期限 中露暴走2014年に原点

ゲスト

森本敏
元防衛大臣 拓殖大学総長
山本武彦
早稲田大学名誉教授
小泉悠
未来工学研究所客員研究員

2014年~世界で『暴走』発火 アメリカ抑止力の『賞味期限』
秋元キャスター
「2014年世界各地で、力による現状変更の動きが相次ぎ発生しています。その主なものが、まずウクライナでEU(欧州連合)参加を巡り国内が割れる中、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島に軍事介入し、結果としてクリミアが独立。3月にはロシアに併合。さらにロシアがその夏にはウクライナ東部にも侵攻しまして、国際社会の批判を浴びました。さらに今年、中国が南沙諸島と呼ぶスプラトリー諸島の周辺に、次々と人工島を建設していることが表面化しました。2014年6月には、過激派組織イスラム国が国家の樹立を一方的に宣言します。その後、急速に勢力を拡大していきました。森本さん、こうした世界で繰り広げられる力による現状変更の動きですけれど、2014年以降、各地で表面化するに至った背景には何があると思いますか?」
森本氏
「今から考えて、2014年にこういう事態が同時に発生し、進行するという必然的な理由というのは少し考えにくいですね。それぞれに相関関係があるわけではないので。しかし、振り返ってみると、たぶん1つの誘因は、その前の年、2013年6月の米中の首脳会談で、お互いに全然価値観が合わないというのを、お互いにいやというほど知らされる首脳会談が行われ、その年の秋にオバマ大統領がシリア情勢について発言をしたわけですけれども、アメリカは世界の警察官にならない、これは初めてアメリカの大統領が言ったわけではないですけれども、この時はシリア情勢にアメリカは軍事介入しないということを言ってしまうわけですね。言ってしまうというのは抑止の論理から言うと、出てこないということを言ってしまうということは、その時点で、抑止の機能が減ってしまうということです。つまり、はっきり言ってしまうと、アメリカは絶対出てこないと思われることによって、なめられた状態になるということですよね」
秋元キャスター
「なぜオバマ大統領はこのような発言をしたのでしょうか?」
森本氏
「これは国内政治だと思うんです。アメリカは国内で40年ほど、冷戦が終わってから、冷戦の前から、ずっと軍事作戦をやって、常に戦争をやってきたわけですが、その結果として、財政が厳しくなり、アメリカの兵員が傷つき、アメリカがどこからも利益を得られず、かつ反米感情が世界に広がって、何ら得にはならないということと、アメリカの国内における厭戦気運というものが広がって、軍事介入するということに、アメリカは利益を見いだすことができない世論が出きてきて。だから、どこかで紛争が起きたからと言って、アメリカがすぐに軍事力を使って世界の警察官の役割を果たすことはしないよという、そういうことを大統領として言わざるを得ない、アメリカの国内事情というものがあるのだろうと思います」
秋元キャスター
「ここから、日本の安全保障で最も大きな懸念の1つ、中国について、話を聞いていきます。まずは中国の2014年以降の動きをあらためて振り返ってみますと、2014年に中国が南シナ海でスプラトリー諸島、いわゆる南沙諸島の岩礁を埋め立て、新たな軍事拠点とみられる人工島を建設していることが表面化しました。その後、中国やベトナムや台湾がそれぞれ領有権を主張しているパラセル諸島。いわゆる西沙諸島でも、中国が施設建設を進めています。こうした動きの根拠として中国が主張してきた、九段線の内側の主権は、今月12日の国際仲裁裁判所の判決で、全面的に否定されましたけれども、中国はこれに対しても猛反発を続けています。一方、中国は日本周辺でも動きを活発化させていまして、中国機に対するスクランブル発進の数は2014年に急増します。尖閣諸島海域の領海侵入や接続水域の侵入も続いています。また、2014年は習近平国家主席が一帯一路という構想を打ち出した年でもあるんですけれども、この一帯一路に基づいて、中国はアジアから欧州に至る様々な国への影響力を増す動きも活発化させています。森本さん、中国のこうした力による現状変更を結果的に許すことになってしまった最大の原因はどこにありますか?」
森本氏
「結果的に、許すことになった最大の原因というのは、はっきり言うと、日本は相当アメリカに警告をしていたんですね。必ずこうなりますよ、ということを。どちらかと言うと、アメリカが少し見積もりを甘く見ていたのだと思います。中国は、2014年の後半から1年という短い期間にすごいスピードで埋立て工事を本格化して、既成事実を積み上げてきたんですけれど、なぜこういうことを中国がするに至ったかというのは、1つの原因ではないと思うのですが、私は、合計4つあると思っているんです。1つは、冷戦期に中ソ国境で極東ソ連軍と中国軍は対峙していたわけですが、冷戦が終わって、旧ソ連邦が15の独立国共同体に分かれて、中ソ国境もすごく短くなって、しかも、国境確定条約が3つも合意され、極東ソ連軍が引いて、北からの脅威がなくなったので、1985年100万人の軍縮をやって、そのリソースを南の方に向けてきたという、つまり、戦略の重点が北から海洋に出てきたということが1つですね。第2は海南島の戦略源泉を守るための海域を聖域化するという軍事的な目的。その次が海洋の資源の確保ということだと思います。もう1つは、外洋に出てくる出口を確保していくと。これは東シナ海でも南シナ海でもそうですが、つまり、外海に出ていくために、ここをいわゆる、A2ADと言われている、自分達が優位な軍事バランスを確保することによって、外洋にいつでも出られるようなアクセスの道をつくるということですね。つまり、1つではないです。非常にトータルな理由があって海洋における影響力を広げると。アメリカや日本がこの中に自由に入ってくることを阻止するという全体のポッシャーと。体制というものをつくろうとして、立ち入ることのできないような既成事実をつくるために、急いで工事をやってきて、アメリカが、気がついた時には遅かったという。そういう結果が出てきたのだろうと」
反町キャスター
「森本さん、スカボロー礁の話を聞いたかったのですけれども、スカボロー礁というのは、さらに西沙とか、南沙に比べるとフィリピン、アメリカの基地がここにあることも考えると、アメリカにしてみたら、西沙や南沙に比べるとよりスカボロー礁に中国軍の基地ができたりすると、より危険性さ、安全保障上のリスクがさらに高まるわけではないですか。過去において、このへんで砂を掘り返して、基地をつくっている時に、何もしなかったアメリカが、今ここにつくろうとしたらどういう対応をとると思いますか?」
森本氏
「現在の政権下では何もしないと思います」
反町キャスター
「まだ何もやらない?」
森本氏
「何もできないと思います」
反町キャスター
「西沙、南沙における基地よりも、つくることの戦略的な安全保障上のリスクは当然、皆、わかっているわけですよね?」
森本氏
「そうです。米比同盟というわけではないですけれども、フィリピンに米比協定を新しく2014年につくって、ここにローテーションながらも駐留するということを米比間で約束をした協定をつくって、依然として、クラークとスビックベイというのがアメリカにとって重要な基地であり続けているんですけれども、喉元にところに、中国が人工島をつくり、ここに戦闘機を配備するようなことになることは、まさに喉元で脅威を受けるということですね。これを阻止する覚悟がアメリカに、今の政権にあるのかというのは、私は、答えはノーですね」
反町キャスター
「そうすると、スカボロー礁の周りに、スカボロー礁に向かって、西沙から南沙からか、本土からかはわかりませんけれど、多量の土砂を明らかにこれは埋立ての資材を積んでいると思われる大船団が接近するなんていうのは、上から見れば、すぐにわかるではないですか。そういう状況になっても、アメリカはせいぜいその周りで、航行の自由作戦を展開して、警告を発するのか、どうするのか、呼びかけるのかは知りませんけれども、それ以上のことはできない?止めることはしない?」
森本氏
「実力で止めると、小規模ながら紛争事態が起こりますから。それは、アメリカはやらないと思います」
秋元キャスター
「やったもの勝ちになってしまいますよね。中国からしたら今のうちという」
森本氏
「しかし、それはこの2年の間、ずっと同じ状態だったわけですから。私はやらないと思いますね」
反町キャスター
「中国もそこまではやらないと思いますか?」
森本氏
「中国は先週、爆撃機をここへ飛ばして、牽制をしているので、いずれにせよ、計画をつくって、このスカボロー礁の埋立てはやると思います」
反町キャスター
「山本さん、いかがですか?中国が本気でスカボロー礁を埋立てに来た時に、アメリカは実力をもって止める可能性はあると思いますか?」
山本名誉教授
「今の段階ではやらない。ただ、アシュトン・カーターはオバマ大統領とかなり違って、ハードパワーの意義を強調してきた人物ですね。ですから、民主党の中でもかなり共和党的な思想を持った国防長官。前国防長官よりもはるかにタカ派的な傾向を持った人で。ただ、今の政権で、結局、オバマ大統領が最終決断をするわけですから。アシュトン・カーターが航行の自由作戦をいくら強行しようにも、それ以上のことはできないだろうと思います。問題は海南島にある原子力潜水艦。これの動きに最も神経質になっているのが、今のオバマ政権だと思いますので、その限りでは航行の自由作戦と並行をさせながら、CIA(中央情報局)の、たとえば、トロリー船を入れて情報収集するといった行動は継続すると思います。そういった面でのソフトコンティネント。柔らかい封じ込めは、あと数か月の間は続けるのでしょうけれど。問題は次の、オバマ政権のあとの政権がどういう態度に出るか。これは今のところ未知数」
秋元キャスター
「続いては、中国の振る舞いが問題化する前から長年にわたって日本の安全保障の重大な懸念となっていたロシアについて聞いていきたいと思います。まず2014年以降、ロシアがどんな動きを見せているのか。東欧では、2014年に起こったウクライナ騒乱直後、ロシアはウクライナに軍事介入し、南部のクリミアをロシアが併合する結果となりました。中東では2015年のシリア危機に際し、アサド政権を支援するロシアはイスラム国の掃討を名目に軍事介入。冷戦後初となるロシアの中東への軍事介入は、現在も続いています。中央アジアに対しては、プーチン大統領が打ち出したユーラシア経済同盟という、経済統合構想の下で、旧ソ連諸国との関係強化が進められています。一方、北朝鮮の核問題については外交と交渉を通じた平和的な解決を支持する立場をとっています。さらに、ロシアは極東や北方領土でも新たな軍事施設の建設計画を表明するなど、軍備を拡充していると、こういった状況ですけれども、小泉さん、ロシアのこうした動きの背景、思惑をどう感じますか?」
小泉氏
「最近のロシアのすごく強い姿勢というのはかなりアメリカのことを見てやっているんだと思うんですね。ですから、国力自体が、絶対的にも、相対的にも、アメリカはだいぶ落ちてきていますねという話と、あるいはアメリカの政治的な意思とか、国内世論としてなかなか外向きに介入してこないだろうと。もう1個、ただ少し前を振り返ると、ブッシュ政権の時とは真逆だったわけですよね。すごく積極的で、しかも、ブッシュ政権の末期の頃、何をやろうとしていたかと言うと、東ヨーロッパとか、第二次大戦前までは、ソ連ではなかったバルト三国までは、NATO(北大西洋条約機構)は拡大してきたわけですけど、2008年のブカレストNATOサミットの時に初めて、いよいよグルジアとウクライナもそろそろNATOに入れましょうかという話をしていたわけですね。これに対してロシアはすごく反発を示して、それが同じ年の8月のグルジア戦争につながっているのだと思うんですね。ですから、ロシアもそろそろ、これ以上アメリカのプレゼンスの拡大を東ヨーロッパ側で認めていくと、我々の勢力圏が侵されるという、相当深刻な懸念を抱いていて、それがオバマ政権になってきて、どうも外向きの力が弱ってきているようだ。このへんであったら相当強行なことをして、我々の勢力圏と言いますか、譲れない一線を守れるだろうという思想がたぶんロシアには生まれてきたというのが、この10年ぐらいにまとめられる流れなのではないかなと思っているんです。その時にロシアがすごく大きな印象を受けたのは、シリアを巡るアメリカの出方。あの時、2013年の9月に、アメリカが空爆するかもと言って、結局しなかったわけですけれども、たかが巡航ミサイルを50発か100発を撃ち込むだけの軍事行動でさえアメリカは嫌がったわけですよね」
反町キャスター
「あの時、オバマ大統領はレッドラインか何かで、それを破ったら攻撃するぞと言ったんですよね。あれは何を条件にしたのでしたか?」
小泉氏
「化学兵器ですね。化学兵器を使ったら、介入すると言ったわけですけれども、ところが、その直後に化学兵器の使用が確認されてしまって、これはやるのかという話になったら、ロシアがウルトラCをやって、シリアを化学兵器禁止条約に加盟させちゃったと。ですから、ロシアがシリアには責任を持って化学兵器は捨てさせますから、軍事介入しないことにしましょうと言ったら、アメリカはもともと及び腰だったからやりませんと言ってしまったわけですよ。これはロシアにとって相当アメリカの出方が変わったなという1つの大きなシグナルだったのだろうと思うんです。振り返って、旧ソ連側の方を見ていると、当時まさにウクライナがEUとの連携協定を結ぶのか、それともロシア主導のユーラシア経済連合に入るかという綱引きが始まった段階で、ロシアとして1回は巨額の経済援助で、ウクライナにEU連携協定をやめますと言わせたわけですけれど。でも、ウクライナ国民はそれに納得できなくて大争乱になってしまう。ロシアはその時、オリンピックをやっていましたから、その間はおそらく我慢していたのだと思うんですけれど。その直後、1回はどうも反体制派と話がついたかなと思ったら、ウクライナのヤノコビッチ大統領は、身の危険を感じて逃げちゃったというタイミングで、たぶん放っておくと、ウクライナを永久に失うだろうという危機感の中で、ロシアは今だったらたぶん介入をしても、アメリカは入ってこないだろうという認識であそこに介入していったのだろうと思うんですね」
森本氏
「今のウクライナというのは、ウクライナの事態が起きてから、アメリカ、EUから制裁を受け、制裁を受けて2年経ったところなのですが、最近またウクライナ情勢というのが、火がついてきて、くすぶってきているんですよね。それは東部2州。ドネツクとルガンスクのところに、ロシアは否定しているが、実際に軍事介入があるということをNATOやアメリカは知っていて、結局ウクライナというのが、今や冷戦後の東西紛争の、かつての冷戦時代のドイツみたいな感じになって、東側から迫ってくるロシア軍の非軍事的なというか、非正規兵の介入。こちらから抑止を効かそうとしてNATOが先週、行った東ヨーロッパ、具体的にはポーランドへの4000名の緊急即応部隊の展開という。もちろん、ウクライナに入ってこないと思いますが、つまり、こちらが軍事介入するなら、こちらで抑止を効かせるぞと。それがどこまでお互いにとって抑止になるのかというちょうど中間にあるウクライナが、こちらはロシア軍、こちらはアメリカを中心としたNATO軍の綱引きのちょうど中間点にあるみたいな状態になりつつあるんですよ。だから、目が離せないですね。ウクライナ情勢というのはいつ火がつくかわからない。2回のミンスク合意というのはいつ破られてもおかしくないような状態」
反町キャスター
「その話を聞いていると、アメリカの弱腰というのは対ロシアにおいてはあまり見えていないという言い方はいいですか?」
森本氏
「これは、オバマ政権というのはロシアと中国に対する対応というのが、我々の感覚と少し違うんです。つまり、我々から見ると、日本から見ると、必要以上に、ロシアにきついです、今の政権は。中国には必要以上に協調的で甘いです。だけれども、ヨーロッパの国は、ロシアはヨーロッパの大国の1つだから、きちんとお互いに協調し、生存すべきだという考えで、特にヨーロッパ大国でドイツとか、フランスはそういう考えですよね。イギリスはちょっと違うのだと思うんですけれども。だから、イギリスのEU脱退の結果、どういうことが起きているかというと、アメリカ、イギリスを中心とするNATO。ドイツ、フランスを中心とするEUという分裂状態になって、ドイツとフランスは制裁を解除してもロシアに近づこうという考え方になっているわけです。だから、それはオバマ政権としては受け入れ難い対応ですよ。だから、中国に対しては絶対にコトは構えないんだけれど、ロシアに対しては相当、現在の政権はきつい。この状態は次の政権になったら、もう少しはっきりしてくる」
反町キャスター
「どういうことですか?なぜオバマ大統領はバランスを欠いたとは言いませんけれども、濃淡がつくのですか?」
森本氏
「それはロシアが最初に、中国よりも最初に冷戦後の、国際法に基づく秩序を、国境を侵略して、ジョージア、いわゆるグルジア紛争、2008年。現在ジョージアと言っていますけど。ジョージアで、南オセチア、アボハジアを獲られた。そのあとクリミア半島を、これも住民投票をやって、それでロシア議会がこれを認め、不法に獲った。つまり、明らかな国際法違反の領土獲得というのをやられたので、しかも、背後に核兵器を持っている大国という、ロシアに対する非常にムカムカした感情というのが今のオバマ政権を支配していると思いますよ」
反町キャスター
「山本さん、いかがですか?現在のムカムカした対ロ感情は」
山本名誉教授
「それは特に今のオバマ政権にはありまして、よくオバマ政権の人達と話をしていますと、ガムという言葉が出てくるんですよ。グアムではないですよ。GUAM。グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドバ。こういうロシアの、ヨーロッパ部に集中している、地政学的にロシアにとって極めて重要なところですね。特に重要なのはウクライナ。ですから、このウクライナ問題を巡って、ヨーロッパとアメリカの温度差があるというのは、これは避けられないことだと思うものですから。アメリカはウクライナの自立を認めている。NATOでも対応していますのでね。ですから、鍵を握っている1つの地域はグルジア、現在のジョージアですか。それから、ウクライナ。アゼルバイジャン。モルドバはちょっと置いておいても3つと。それはカスピ海戦略とも絡んでくるし、それから、黒海戦略とも絡んでくる。ですから、帝政ロシアの南下政策の1つの拠点が、クリミアだったわけですよね。ですから、このクリミアを併合したということは、ロシア帝国主義の再来だということで、現在のプーチン政権は、ロシア第三帝国と私は呼んでいるんですけれども。第一帝国はスターリンの時代の帝国、第二は共産党の政権の帝国。第三は現在のプーチン氏と見たてて彼らと論争をするんですけれど、彼らは絶対に妥協しません」
反町キャスター
「6月28日のロシアの日本への情報収集機の動きにはどのような狙いがあったと思いますか?」
森本氏
「よくわかりませんが、ロシア機というのは、過去日本の領空侵犯措置をやった例で見ると、こういう周辺をあらゆるところで、我が空域に近寄ってきているので、この行動そのものが特別な意味があったとは必ずしも思いません」
小泉氏
「IL-38というのは情報収集機というよりは対潜哨戒機です。これはカムチャッカ半島の基地に最近配備された新型が南下してきて、通常の偵察活動でないかと思うのですが15日、本土側から飛んできたSu-24戦闘爆撃機も珍しいパターンというわけではないのですが、青森の車力というところに近づいて南下して帰っていくという、何となく日本のミサイル防衛網を偵察しに来たように見えなくもないですが、ロシアは2015年末に新しい国家安全保障戦略を出しているのですが、従来のロシアの立場としてはヨーロッパのミサイル防衛が問題だという言い方をしていたんですよ。ところが、新しいバージョンの中では、ヨーロッパと中東とアジア太平洋のミサイル防衛が戦略的な安定を崩すという言い方に変わってきているんです。日本とか、アメリカがやっているアジア側でのミサイル防衛に神経を尖らせてきていて、もしかするとこういう動きもレーダーの配置などを見ると関係があるのかなという気がします」
反町キャスター
「AN/TPY-2レーダー、Xバンドレーダーですが、ロシア側が極端な動きを持って警戒するほどのレーダーなのですか?」
森本氏
「いや、必ずしもそうではないのですが、レーダーの反応、能力を見るためには、こういう飛行がパターンとしてはあり得ると思うのですが、もともとこの2つのレーダーがどういう目的でつくられたか、設置されたかというと、北朝鮮でミサイル発射が行われた時に、北朝鮮のミサイルサイトが日本海側、つまり、彼らの言う東海岸にあった時、車力に1番最初にXバンドレーダーを置いて、早期に探知するために置いたのですが、そのあと、北朝鮮の西海岸の方に新しいミサイルサイトができ、それは朝鮮半島に山脈があるので車力でカバーすることができなかった。これは日本の西側につくらなければいけないということで、私がちょうど大臣の時にアメリカ側が日本に申し入れて、いろいろなところを調査した結果、経ヶ岬が1番いいだろうと、ここに置くことによって、北朝鮮から発射されるミサイルは東海岸であれ、西海岸であれ、2つのXバンドレーダーでカバーできるということになったわけです。名目は北朝鮮ですが、ロシアも中国も自分達の領域の中がこのXバンドレーダーでどのようにカバーされているのかということは、実際に航空機を飛ばしてみると、初めてわかるわけです。レーダー照射を受けるわけですから、航空機にその機能がついていればわかる。飛んでみないとわからないということです。だから、そういう意味で、この2つのレーダーをチェックするには、こういうパターンでフライトしないといけないということは理屈上あります」
秋元キャスター
「イスラム国の樹立と拡大に、2014年当時繰り広げられていた、アメリカ、ロシアなどの大国のせめぎあいがどう作用していたと思いますか?」
森本氏
「結局、イラクの中に入っていったイスラム国に対して、当初はロシア、中国が何らかの手を打てるわけでもなく、ロシアや中国と連動をしていたわけではないと思うんです。今から考えると、この2年半に起きたことはイラクの中はアメリカを中心とするNATO軍の航空作戦、地上軍はアメリカが若干の特殊部隊と、海兵隊を送ってイラク軍を後ろから支えて、教育、訓練して、装備を渡して、地上作戦をやらせる。NATO軍の航空作戦と、イラク軍の地上作戦が連動して徐々にイスラム国を北西部の方に追い込む作戦を続けてきた。これが2年の経過。イラクの方はゆっくりではあるが徐々に効果があらわれているということです。ところが、シリアがそうなっていないのはシリアの方も2014年4月からNATO軍とアラブ諸国5か国の航空作戦が始まってきたが、地上戦をやる部隊がないので、シリアは四分割され、北はクルド人の兵力、イスラム国、アサド政権が南・西側に、真ん中にシリアの反政府勢力という4つの勢力が中に混じり、その中で航空作戦がロシアから行われ、こちらからNATO、アラブ諸国が行われ、地上軍を支える兵力はないという状態なので、シリアは混迷状態が続き、難民がヨーロッパに出て行くという状態になっている」
山本名誉教授
「中東に権益をこれまで持ってきたアメリカにとって、特にシリアの持つ意味は、イラクとは違った意味を持っていると思うんです。1つは、シリアのアサド政権がロシアとの関係を維持していく以上、アメリカにとってシリアの持つ戦略的意味はそう大きくはありません。ですから、できるだけロシアの力を排除したいというのがそもそもの背景要因としてあると思うんですけれども、しかし、ますます混迷状況が深まっていくと。しかも、ここにシーア派、スンナ派、さらに民族的なクルド族等々の要因が重なってきて、アメリカとしてもこの混迷を解く鍵がないというのが実情ではないかと思うんですよね。ですから、ここ当分、混沌、混迷が続く。しかも、さらに複雑化していく。避けられない動きだと思いますね。その中で、ロシアの権益をどう評価するというのは大変大きな今後の世界戦略を考えるうえで大きな意味を持っていると思いますね」
反町キャスター
「アメリカの国力、外交上、軍事上の衰退に対し、日本が我が国の安全保障を維持し、高めていくためにはどのようなスタンスでこの事態に臨んでいけばいいのか?」
小泉氏
「これは極めて難しい問題ですけれども、ただ、日本にとって比較的幸いな要素が2つあると思うんですね。1つは、ロシアが最近、最も反発しているヨーロッパ側の正面には日本は面していない。ですから、極東正面がロシアにとって、センシティブな正面では現在のところないですね。現在、ロシアがやろうとしているのは、オホーツク海周辺の守りを固め、そもそも北極海航路の出入り口ですし、弾道ミサイル原潜もいますし、そこのところは固めたい。ただ、その先の朝鮮半島問題、アジア太平洋の安全保障・秩序に参入していくというところではロシアの態度は敵対的ではないと思います。日本は敵対的にならずにロシアとの対話のチャンネルでつきあっていく余地はあるわけですから、年内にプーチンさんの訪日もあると言われていますけれども、むしろ西側との関係が良くない中で、日本がロシアに対する窓口として関係を緊密にしていければいいのではないかなと思っています」
山本名誉教授
「現在の東アジアでせめぎあっている対立の構図は日米韓の3国同盟、それに対抗する中国、ロシア、北朝鮮の3国協商、こういう呼び方で対立の構図を描いているのですけど、明らかに対北朝鮮の効果が薄れているというのは中国のサボり。ロシアのそれ以上のサボり。それが結局は北朝鮮の核開発のさらなる展開と弾道ミサイルの開発につながっている。ですから、この構図をこのまま維持していくことが、果たして日本の安全保障にとってどれだけ効果を持つのかということも真剣に考える必要があると。そういった意味で、将来の日本外交の鼎の軽重が問われるところは3国同盟を維持していくのであれば、日米、GSOMIA(軍事情報包括保護協定)、これを早く日韓の間でも発効させるような努力を現在の政権、あるいは将来の政権が進めていくべきではないかと感じました」
森本氏
「結局、国際社会の秩序は、アメリカがグローバルなリーダーシップを強く発揮できないと、国際社会の秩序は維持できないです。だから、日本であれ、NATOであれ、アメリカの同盟国はアメリカが内向きにならないように、アメリカが孤立主義にならないように、非常に重要な時にはアメリカがリーダーシップを発揮できるように、皆で同盟国が支えて、孤立主義から回避して、アメリカが強いリーダーシップを発揮できるように、経済的に、政治的に、外交的に、軍事的に協力と支援の輪を広げるという、こういう方法しか我々は生きていくことはできないと思います。日本がアジアの安定を自らの力で維持することはできないですし、ヨーロッパはNATOだけではどうにもならない。結局、最後はアメリカに頼らざるを得ないです」

森本敏 元防衛大臣の提言:『米国の第3オフセット戦略を支援すべし』
森本氏
「冷戦期から今日に至るまで第1オフセットと言って通常戦力の劣位を核で補う。生物兵器で補うという第2オフセットに代わって、現在第3オフセットと言って、技術だとか、情報の分野で圧倒的優位を維持することによって、国際的リーダーシップをとろうとしているアメリカを、同盟国として支援することが結局は抑止の力を強めることになるという考えです」

山本武彦 早稲田大学名誉教授の提言:『通常戦力による拡大阻止+外交力』
山本名誉教授
「核抑止という観点もさることながら、今後の東アジアにおける安全保障・秩序はアメリカと日本との同盟、あるいはアメリカと韓国との同盟を軸にして通常戦力のさらなる近代化が進むという前提に立って、通常戦力による拡大抑止という発想の転換をはかると同時に、日本独自の外交力が非常に弱いと思います。もっともっと強化し、その外交力を活かしていくべきだと思います」

小泉悠 未来工学研究所客員研究員の提言:『戦略的コミュニケーション』
小泉氏
「現在お二方から通常戦力の拡充というお話があったわけですけれど、もう1つ大事なのは実際にこれをやったら、こういう悪い結果を招きますよという、相手側に抑止力が存在することを認識させる戦略的コミュニケーションと言うんですけれど、能力拡充+抑止力が働いているんだよということを認識させるような戦略的コミュニケーションがこれから大事になるのではないかなと思っています」