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2016年5月11日(水)
櫻井よしこ警鐘鳴らす 東アジアの強勢と虚勢

ゲスト

櫻井よしこ
ジャーナリスト 国家基本問題研究所理事長
田中均
元外務審議官 日本総合研究所国際戦略研究所理事長

櫻井よしこ×田中均 北朝鮮『核』の脅威
秋元キャスター
「まずは一昨日、36年ぶりの朝鮮労働党の党大会を終えました北朝鮮の変化と、金正恩体制の今後について聞いていきたいと思います。中でも、日本にとって大きな脅威となっているのが北朝鮮の核です。今回の党大会で明らかになった、北朝鮮の核戦略のポイントですけれども、核開発と経済発展の並進路線を継続。核戦力を質的、量的に強化をしていくとしています。しかし、その一方で、責任ある核保有国として敵対勢力が自主権を侵害しない限り、核の先制使用はしない。また、核拡散防止義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現するため努力するとしています。まず櫻井さん、北朝鮮の核保有国宣言、どう見ていますか?」
櫻井氏
「核がなければ、北朝鮮はこういう言い方は悪いですけれども、ただの貧しい国ですよね。だから、とてもアメリカも相手にしない。けれど、核を持っているということが、自国が生き残り続ける1つの重要な柱だというのが金日成、金正日、金正恩さん3代の首領様のお考えですよね。それに向かって、ずっと彼らは彼らなりに本当にいろいろと考えて努力をしてきたわけで。私達はそれを止めようとしてきたわけですけれども、気がついてみるともうミサイルは持っている。核も小型化したと言われるくらいまでになってしまった。つまり、いろんな阻害要因をくぐり抜けながら、戦術的にはその場その場で制裁を受けたりしながらも、戦略的には、彼らなりの目的を達しつつあるのではないかということで、これは凄まじい執念といいますか、そのことの持つ意味を、軽く見てはならないと思うんです。よく北朝鮮がテポドンとか、ノドンを飛ばすと、日本人のほとんどがまたやったみたいな感じで気にしないですけれど、これはすごく恐ろしいことであり得るのだという、ここまで出てきてしまえば、彼らが攻撃をする能力があるとみなければいけないわけですから。これは大変な脅威と私達は受け止めなければいけないと思いますね」
反町キャスター
「北朝鮮が核の先制、敵対しているが自主権を侵害しない限り核の先制使用はしない。これは核の先制不使用を言っているようにも見えるし、そうではなくて、たとえば、在韓米軍がいて、合同軍事演習をする限りにおいては、それはいつもやるぞと言っているようにも見える、この言いぶりは」
櫻井氏
「自主権を侵害しない限りというのは曖昧ですよね。彼らはこれまで何かあったら、核でソウルを滅ぼしてやるとか、日本にも攻撃するということを言ってきたわけですから、北朝鮮の言葉にもちろん、メッセージを込めているわけですから、そのメッセージを汲み取る努力はしなければいけないですけれども、言葉よりも行動だと私は思いますね」
秋元キャスター
「田中さん、いかがですか?言葉よりも行動だという話がありましたが」
田中氏
「まさに北朝鮮の問題、最大の問題というのは、北朝鮮に信頼性がないという、国際社会の。と言うのは、過去の流れを見れば、平気で嘘を言う。あるいは違った行動に出るということですから。信頼性がない、それから、とりわけ現在の金正恩政権は行動の予見性がないということですね。ですから、核の保有にしても私達は原点に立ち返る必要があると思うんです。原点というのはどういうことかと言うと、北朝鮮の立場はもともと核兵器不拡散条約(NPT)のメンバーだったんですよ。それでまさに隠れて核開発をして、国際社会がそれを糾弾して、国連安保決議をつくり、何回も決議をして、その結果、いや、私は核を保有しましたと言って、国際社会がそれを認めるというのはあり得ないですよ。あり得ない。だから、不法に核開発をした国に対して、いや、核保有国になったと。これからは核の放棄ではなくて、各軍縮だと。それが北朝鮮の論理です。それを日本と米国と韓国は受け入れることはまったくない。絶対にないと私は思うんです。ですから、いや、先制使用はしないとか、そういう言葉だけに基づいた議論をするのは、私はあまり賛成ではないですよね」
反町キャスター
「インドやパキスタンの例は、現在言われたNPTのメンバーだったにもかかわらず核を開発して、安保理決議をくらって、国際的な批判が起きながらも、事実上、核保有国として国際社会で認知をされている。インドやパキスタンの例を見た時に北朝鮮はその道を目指しているということでいいのですか?」
田中氏
「インドやパキスタンはNPTのメンバーではないです」
反町キャスター
「その1点において北は絶対にインドやパキスタンの道はない、彼らはそれを目指していても、それは無理だということになりますか?」
田中氏
「ええ。あの経緯を見れば、インドとパキスタンというのは、インドが核実験をやって、パキスタンが核実験を、要するに、非常にローカルなことですよね。ですから、それで現在、核実験のモラトリアムをかけているという状況なのでね。それはそれなりに、それでいいということではありませんよ、もちろん。だけど、北朝鮮と比べると、私達は最初から最後まで北朝鮮の核保有を認めないという前提に立って、政策をつくるべきだと私は思う」
反町キャスター
「北の核に連動する形で、よく核ドミノみたいな言い方をして、北が核武装をしたら、そうしたら韓国において核武装をすべきだという世論が、6割を超えるとか。ないしは南北朝鮮が核武装をしたら、日本はどうなるのか。そうしたら、今度は台湾まで。そのような核のドミノの心配をする人もいる。あとこの人は流行りの人なので紹介してしまいますけれど、トランプさんは日本と韓国が北朝鮮や中国からの防衛のために、アメリカの核の傘に依存することよりも独自に核兵器を持つことを容認するという、こんなこと。この人は共和党の(大統領)候補者になりそうではないですか。こういう議論が平場でどんどん出てくること。いわば核武装というものをタブーではなくて、いろんな国がいって、いろんな情報、視野の中に入れ始めているような状況という、この状況をどう感じますか?」
櫻井氏
「この状況は、現実はこちらの方向に動いているんですね。トランプさんの言い方というのはすごく乱暴ですからね。何だかとんでもない方向に行かせようとしているのではないかという印象を受けますけれども、実はトランプさんも何年も前からこの同じ説を言っているんですね。このトランプさんレベルの乱暴な、現実のことをまともに考えていないようなレベルの議論ではなく、たとえば、ペンシルベニア大学のアーサー・ウォルトンさんという教授がいらっしゃる。この方、本当は中国の専門家ですけれども。2年、3年ほど前の日本経済新聞の、大きい経済教室のところに、日本は核武装をすべきだということを書いた人ですよ。イギリスとか、フランスと同じようなタイプの核武装をすべきであると。この方、立派な学者ですよ。それはなぜそういうふうに言っているかというと、アメリカは日本のために核は使いません、これはウォルトンさんの主張です。使えませんと。その時に北朝鮮が核を持っている。中国が核の脅威を日本に与えることができるような時に、日本はどうやって国を守るのか。他国を攻撃するのではなく、自国を守るための核を持ちなさい。イギリスやフランスがそうだ。彼らは他国を攻撃するつもりはまったくないわけで。ただし、彼らが持っているということにおいて、他国は抑止しなければいけないので、核の保有が抑止力になっていると。日本もこのような国を目指しなさいという声がアカデミズムの方から出ているわけですね。実は、中国が嫌がっているのは、こういう議論だと思うんですよ。トランプさんが、韓国、日本は核を持って当たり前ではないか。日米安保なんかやめちゃうぞと。お金を払わなければどうなるかわからないぞと。とんでもないことに見えることを言っている。世の中でそういう議論が起きるということは中国にとってすごく嫌なことだと思います。だから、北朝鮮の核を1つの出発点にして、議論がこういくこと自体、もう中国がすごく忌み嫌っていることだと思うのですが、私達は現在、戦略論として、現実的に考えると、日本の核保有というのは非常に厳しいと思いますよ。これは日本の安全保障がどうなるかわからないぐらい、厳しいものだと思う。国民もそのような気持ちはありません。国民の気持ちとか、現在の憲法を考えると、日本の核保有はほとんど不可能。それからまた、原発で、私達はたくさんのプルトニウムを持っていますよね。再処理を認めてもらっているわけですよ。再処理をしてもいいのは、国連安全保障理事会の常任理事国5大国だけというか、現在フランスがやっていますが。日本はその5大国ではないにもかかわらず、それを認めてもらっている。それは、日本が信頼をされているからです。このへんの信頼というものをぶち壊してしまうことにもなりますから、いろんなエネルギー論から言っても、国民感情から言っても、日本の戦後の、こういう国でありたいという理想論から言っても、日本の核保有というのは現実的には非常に厳しい。厳しいけれど、戦略論として、論としてそのぐらいのことを考えざるを得ないような状況が生まれているということではないでしょうかね」

北朝鮮『崩壊』シナリオ
秋元キャスター
「ここからは、北朝鮮の体制がどうなっていくのかということを聞いていきたいと思います。今回の党大会で、独裁体制を強めたようにも見える北朝鮮ですけど、今後の体制についてアメリカでは次の見方が出ているんですね。アメリカのシャーマン前米国務次官が今月3日、韓国の中央日報とアメリカ戦略国際問題研究所が開催したフォーラムで、朝鮮半島情勢の今後について朝鮮半島の現状が持続可能でないことはますます明らかとなり、突然の政権崩壊、またクーデターといった予想外の事態は除外できないと述べていて、北朝鮮崩壊の可能性に言及しています。オバマ大統領も昨年1月、動画サイトのインタビューで、北朝鮮は地球上で最も孤立し、最も制裁を受け、最も遮断されている国。やがてこのような体制は崩壊するだろうと述べているのですが、櫻井さん、北朝鮮の体制崩壊の可能性をどう見ていますか?」
櫻井氏
「シャーマンさん達が言っているこの政権崩壊、またはクーデターといった予想外の事態。これは元の国務次官ですからね、大変な発言ですよ。それから、現在のダニエル・ラッセルさんという方はこれほどの表現ではないですけれども、同じ日に、同じところの講演で、北朝鮮があり得るのは、存在し得るのは、核のない形だけだとおっしゃっているんですね。と言うことは、金正恩体制が過去、これから持ち続けること、今回も明らかになったわけですね、その意図が。と言うことは現在のままではダメよと。認めないよと。存在できないよと、言外にいっているわけですね。アメリカなどは北朝鮮崩壊間近と見て、やっているわけですよ。現実に準備はもうかなりできているんですね。今年の4月ですけれども、ある非常に有力なシンクタンクが、中国とのシンクタンクと、北朝鮮崩壊の時にはどういうふうにするか。韓国軍とアメリカ軍が北上するわけですね。どこまで行くのか。中国が北から南下してきて、北朝鮮に入ってきますね。あなた方は、どこまで来るのと。国境線、中朝国境をどこに引くのですか。現在のところは地図で見るとわかりますけれども、現在の中朝国境はかなり長いですね。これは長過ぎるから、山岳地帯だし、もっと中国は南まで来たい。南の朝鮮半島の細いところはこう見ると、核施設がある寧辺という、寧辺が中国の主張では向こう側に入っちゃう。そんな具体的なところまで話し合っているわけでしょう。こうなるとは限りませんけれども、このような時にはこうなると、そこで見えてくるのは核兵器さえなければ、アメリカはかなりの部分を中国に譲ってもいいという印象を持つ余地があるような話し合いも行われている。それが全てだとは言いませんよ。と言うことは、アメリカも、中国もそこまでお互いに大国として、お互いの腹の中を探り合ってきて、いざという時に米中が衝突して紛争になるとは、これは絶対避けたいわけですね。しかし、この北朝鮮の崩壊というものをどう収めていくかという意味で、大国同士話し合っているわけです。その中に韓国も入っているわけでしょう。日本だけがここに入れていない」
田中氏
「大丈夫です、入っています」
櫻井氏
「入っていますか。田中さんが入っているとおっしゃるからいいですけれども、そのようなことは、お互い本当によく話し合っておかなければならないと私は思いますね」
反町キャスター
「田中さん、北朝鮮の崩壊のシナリオ、可能性、どう見ていますか?」
田中氏
「北朝鮮が崩壊するかどうかというのはまったくわからないわけですね。だから、シャーマンも予想できない。これが起こった時に、予想不能だけど、と言っているわけですけれど。私は、だけど、周りの国が、たぶん崩壊という言葉を使わないのでしょうね。現在の政権がコントロールを失った時、周りの国々はどうするのかというシナリオはつくっておかないと危ないと思うんですね。それで、議論をすると、いくつかの点が出てくるわけです。1つが、周りの国が軍事介入をしちゃいけないということ。周りの国が軍事介入をしちゃうとそれは戦争になりますから。間違いなく戦争になるであろう。これをやってはいけないということ。それから、いったい誰が核兵器を押さえるのかと。これはアメリカの特殊部隊にしかできないことですけれども、それを中国が認めなければいけないということですね。それから、難民。それから、脱出する人々、どういう形で、その処理をするかということですね。それから、統一ということがおのずから道になるのでしょうけれど。それをどういう形で、周りの国々はファシリテートするか。それは選挙なのか、何なのかわかりませんけれども。それから、あとの統一された朝鮮が、米韓の、現在の安全保障条約がどうなるかということですよね。たとえば、日本にしてみれば、米韓の安全保障条約はあってほしいと思うわけですね。ないと全部、日本に負担がくるから。だけど、中国が嫌がるでしょうね。だけど、現在の形、すなわち38度線の南に米軍が配置されていて、中国の国境までは来ないといったような、いろんなバリエーションがあると思うけれど。それから、そのあとの経済協力とかでしょうか。そういうことを、周りの国々がきちんと話をしておかないといけない。でないと、突然、政権が崩壊して、難民が出てくる。場合によっては、誰かが軍事介入をするぞと。それこそ危ないことだと思うので。少なくとも私はシナリオの相談というのは相当詰めておくべき。できないわけではない。できると思います」
反町キャスター
「田中さん、この間の党大会の時に、こういう発言があったんですよ。第1書記から委員長になった金正恩委員長から、党と国家の最高権力を狙って党内の分派をつくり、我々の思想と制度を変質させようと策動した現代版分派分子というのですか、よくわからないですけれど、現代版分派分子を摘発し、粛清したいという発言を党委員長がしています。その意味においてはどういうことが起きた時に北の支配体制が流動化するのかという話。分派分子を摘発、粛清をしたということも、党委員長の発言を踏まえると、かなりソリッドな、ガチッとしたものができたと感じますか?」
田中氏
「金日成の時代は明らかに党だったわけです。これは社会主義国が、中国がそうですけれど、中枢は党ですね。軍、人民軍は党の軍隊。北朝鮮と同じ体制だった。金日成は党を中心とする統治をやった。それを金正日の時代になって、軍を中心にしようと。だから、彼がいつも好んで使ったのは国防委員会委員長ですよ。金日成は国家主席。それから、金正日は国防委員会委員長。現在、背広を着て、明らかに金日成、お爺さんの路線に戻すぞと言ってね。明らかに党、党、党ですよ。だから、その限りにおいて、党を中心とする体制で、軍については取捨選択としてファン・ビョンソとか、そういう人達を入れたけれども、軍の地位は下がったと思う。問題は、軍というのは実力部隊ですから、軍が組織的に強く抵抗をすることがまったく考えられないかと言ったら、それはそうではないと私は思うんですね。ですから、こういう体制を変える時に、党から軍へ、軍から党へという時にまったく何事も起こらないと言われれば、それはわからないということだと思います」
反町キャスター
「櫻井さん、この党大会における発言も踏まえると、かなりがっちりとした体制ができたのではないか?そういう問題でもないですか?」
櫻井氏
「いや、田中さんは朝鮮半島問題では専門家でいらっしゃるのでアレですが、私はちょっと違う見方をしていまして。今回おっしゃったように軍から党へ、もう1回、戻ったわけですね。金正日のお父さんの時、軍を使って、党には組織指導部というのがあって、これは党の中の党と言われるアレなのですが、この組織指導部が本当に悪いことをいっぱいするわけですね。金王朝の支配体制を強めるためにですね。これを縁の下の力持ちみたいな形で後ろに隠しておいて、金正日の指導ということでやれたのですが、今回それではなくて、組織指導部が前面に出てきているわけです。と言うことは、いくつかのことが考えられるだろうと思いますよ。1つ考えられるのは、金正恩委員長が組織指導部を抑えることができなくなってしまって、頼らざるを得ないということも可能性としてあるだろうと思う。もう1つは、軍というものを抑えるために、軍を引っ込め、組織指導部を前面に出したという思惑もあるかもしれないのですが、組織指導部と保衛部と。保衛部というのはソ連でべリヤという粛清の嵐をやった男がいました。反スターリンをやっつけてしまった。北朝鮮のべリヤと言われているのが保衛部だと言うのですが、すごく酷い粛清をする。この組織指導部と保衛部が一緒になって今回の金正恩体制というものをがっちりとろうとしているということは、これは結構、強硬な、だから、そこに現代版分派分子と。これはたぶん張成沢さんのことも入れているのだろうと思うのですが、まさに保衛部とか、組織指導部とか、張成沢を処刑する、推進力だったわけですね。そうして見ますと、いや、これはなかなか厳しいところに金正恩体制はいったのではないかと思うんですね。それは経済的に、非常にがっちりと、しっかりしているのならば、まだ強権政治というのは続くのですけれども、ご存知のように1995年から一般国民への配給はなくなって、平壌市内においても特別供給みたいなものはあるけれど、食料の配給もままならない。社会主義の国で国が支給するはずのもの、食べるものが十分に支給されないところまでいっているわけですから。これは、私は非常に厳しいと思いましたね」

『内向き』米国と日米安保
秋元キャスター
「トランプ氏は今月4日CNNのインタビューで、『大統領に就任すれば日本など米軍が駐留する同盟国に駐留経費の全額負担を求める。全額負担に応じなければ、駐留米軍を撤収させる』と話しています。もしトランプ氏が大統領になったら、北朝鮮の危機ですとか、尖閣諸島などで日米安保が機能すると思いますか?」
櫻井氏
「良識のある人達は皆、このトランプさんのことを否定しているわけですよね。だけれども、民主主義の国でトランプさんが万が一、大統領になってしまった時は、どうするのかということですね。良識のある人達は、ちゃんとしたブレーンを集めて軌道修正させればいいと言うわけです。でも、トランプさん、日本の核武装論をずっと前からおっしゃっている。日本の防衛のただ乗り論をずっと持っていて、現在も変わっていないわけですね。この方が大統領になれば、日本とアメリカの統治機構を見ると、日本は政権が変わっても、田中さんみたいな優秀な官僚がそのまま残るわけです。だけど、アメリカは政権が変わると、回転ドアからこれまでの政権の官僚がダーッと出て行く。新しい人がダーッと入ってくる。だいたい6000人ぐらいが入れ替わると聞いた記憶があるのですが、つまり、制度そのものが変わると考えなければいけない。そうした時に、トランプさんの考えに共鳴して、よし、この線で行こうという人も来るわけでしょう。そうすると、民主主義の怖いところで、リーダーがこういう考え方の人で、その人を選んだとなると、そっち方向へ行くということも私達は考えて対応しないといけないと思うんですよ。そっち方向へ行かないことを願うけれど。もうちょっと常識のある、私達が慣れ親しんだ国際戦略論に従って、たとえば、価値観を大事にするとか、民主主義です、法の支配ですよということを大事にして欲しいなと思うんです。そうでない場合、彼はだって、プーチン大統領と気があいそうだみたいな話をしているし、中国とも実利で結びつくと言っていますね。すると、現在、ロシアと中国はどういう価値観で動いている国かと言うと、私達とまったく違いますね。だから、そこと大国アメリカのヘッドが結びついてしまった時に国際社会はどうなるのだろうと考えると恐ろしい。恐ろしいと言っているだけではなく、それなりにこのような混乱の中で、日本が生き残っていくためには最低限何をしなければいけないか、どういう外交をしなければいけないのか、どういう手当てをしなければいけないのか、本当に生き残りをかけた、存亡をかけた試練として受け止めないといけないと思いますよ」
反町キャスター
「アメリカが引くと隙間ができる。そこに中国が出てくると困るという。フィリピンの例で聞きました。では、日本はどうするか。自主防衛努力を広げるしかない?」
櫻井氏
「もちろん、自主防衛努力は基本でなければいけないですけれども、日本1国で中国に自主防衛で全部やるというのは不可能ですよ。防衛費だって3倍、4倍、5倍くらいいりますし、自衛隊を大きくする、これも不可能です。核も持たないといけないでしょうから。私達の選択は、そこにはないということをちゃんと認識して、アメリカが内向きになろうとしても、それでもアメリカは大事なのよ、と言って引き止めなければいけない。これは世界にとってすごく大事なことですよ。アメリカは世界の超大国ですよ。軍事力、経済力、教育力、技術力、いろんな価値観を含めて、アメリカにもっと自信を持ってくださいよと。我々も一緒にやりますと言って、価値観を共有する。同じ方向に向かっている国々と一緒に連携して、日米安保条約の枠の中で、私達は現在の片務性を、必ずしも全部片務性ではないですけれども、もっと双務性に引き上げていくこと。アメリカだけではなく、東南アジア、インド、オーストラリア、ヨーロッパ、韓国も含め、同じような価値観を持っている国々との連携というのを軸にし、中国に、あなた、そんなことをしてはダメではないですか、という抑止力を働かせなくてはいけないですね」

北方領土問題の行方
秋元キャスター
「プーチン大統領との首脳会談ですが、第1次安倍政権から数え、今回で13回目の会談となります。安倍総理が最も会っている大国のリーダーはプーチン大統領となるわけですけれど。会談時間は述べ3時間を超え、通訳だけを残した2人だけの会談を35分間行いました。両首脳は新たな発想に基づく『新しいアプローチ』で交渉していくことで一致しています」
櫻井氏
「安倍さんの外交というのは、おしなべて大成功しているわけですよ、これまでね。このロシア外交はどうかなという疑問は持っています。私達の大きな望みというのは北方領土返還ですよね。返してくださいと、明らかに不法占拠ですから。火事場泥棒みたいなものですから、だから、そこにあるのだけれども、向こう側から公に発信されるメッセージは、そこには行きませんよというメッセージですよね。どこかではじめなければならないのは確かですけれども、本当にきちんとした第一歩を踏み出せているのかということが私はわからない。原点を守っているのかということについて、ちょっとわからない。この問題について、NSCの事務局長の谷内さんがアドバイスをなさっているとは思うのですが、谷内さんは、面積二分論でずっときた人ですね。4島ではなくて、面積を半分にしたら、歯舞、色丹の小さいのと、国後のどこかで線を引くということですね。そういうことではないだろうと私は思います。思いますけれども、実情がよくわからないので、非常に心配しながら見ているというのが現実ですね」
田中氏
「これは客観的に見て、ロシアの思惑もある、日本の思惑もある。ロシアの思惑はウクライナ、クリミア問題で孤立をしている。その時に西側を分断したい。日本を味方にひきつけたいという思惑、なおかつ中国に依存し過ぎる形をとるのは戦略上具合が悪いだろうと。それに対する牽制として日本との関係を考えたいと。こういう思惑です。一方、領土問題というのは、現在のプーチン氏の1番難しい問題。国民の支持は8割ありますが、それは強い態度をとるということだから、私は妥協をすることを現在考えるとは思わない。日本の思惑、それはまさにロシアが困っている時を利用して活路を開くという思惑ですね。だけど、短期的に見ると、危ういと思います、それは。これからサミットがありますよね。だから、現在の諸々の事情、中国のこととか、諸々のことを考えて、現在1番大事なのは、サミット、G7が結束するということです。オバマの態度は対露認識というのは厳しいですよ。日本が非常に先走っているという印象を与えない方がいい。だからと言って、やめろということではないですよ。これが1つ。もう1つ、北方領土を動かすのは非常に難しいと思います。私も2002年から3年間、領土交渉をやった、外務審議官の時にですね。その時つくづく思ったんですけれど、環境がないといけない。環境というのは、ロシアの経済というのはここ1、2年のうちにもっと悪くなる。現在の準備基金とか、石油の値段が高い時に貯め込んだお金がどんどん減っているわけですよ、2013年から。そうすると、相当厳しい事態になる時があると思います。だから、その時期を逃してはいけないと思いますよ。もう1つは、こういうものは大きな土俵をつくらないと。大きな土俵というのは東アジアの中でのロシアの役割とか。経済協力を含めた大きな土俵の中で領土問題も論じるということが必要だということと、新しいアプローチと安倍さんが言っていることは正しいと思うんですよね。と言うのは、なぜかと言うと、これまでの、たとえば、2島先行返還論とか、平行協議であるとか、あるいは面積二分論ということでは、ロシアも日本も決着しないと思います。それは勝ち負けがはっきりしているから。4島だと言っている時に2島だというわけにはいかないわけだから。新しいアプローチが必要と。その新しいアプローチの内容を私はまったく知りません。だけど、ちょっと違うことを考えているのではないですかね。日露双方とも納得できるような、領土を切り売りするということではなくて、ある程度、両方の面子が立つような形で進めていく方法というのは、あると思いますよ。たとえば、共同管理とか、特区とか、外交官は知恵があると思うんですよね。ただ、こういうものは外交官の知恵で解決できるものではない。環境が、世界の情勢が、両首脳がその気にならないと、政治的意思がないと動かないと私は思います」

田中均 元外務審議官の提言:『ルールの確立』
田中氏
「ルールの確立ということが急務だと思います。これは必ずしも経済とか、政治だけではなくて。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)も大事だと思います。国家資本主義に対する我々の資本主義のルール。信頼醸成のルール、外洋の安全のルールとか、諸々のルールを着々とつくるという姿勢が日本には必要だと思います」

ジャーナリスト 櫻井よしこ氏の提言:『希望を示す』
櫻井氏
「現在ルールがめちゃくちゃになっていますね。中国やロシアのルールにとって変わりかねないような状況の中で、日本のルールこそ、日本がこれまでやってきたことこそ正しいのだということで自信を持って、日本がこういう世界をつくりましょうということを、たとえば、このG7でワッと打ち出す。これは安倍さんならできると思うんですね。後ろ向きになるのではなく、日本はこういうことをやってきました。これからはこうですよということをお手本として示す気概を持って、それを発信するということが大事だと思っています」