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2015年9月1日(火)
女性活躍推進法が成立 どうなる女どうする男

ゲスト

田中俊之
武蔵大学社会学部助教
中野円佳
女性活用ジャーナリスト
海老原嗣生
立命館大学経営学部客員教授 ニッチモ代表取締役

女性活躍推進法が成立 育休世代と働く意義
秋元キャスター
「先週金曜、参議院で女性活躍推進法が可決されて成立しました。この法律ですけれども、国や地方公共団体、及び従業員301人以上の事業主が、来年4月1日までに自社の女性の活躍状況を把握し、数値目標や取り組みなどを盛り込んだ行動計画を策定し、公表することが義務づけられました。女性活躍推進法が成立したことについて、中野さん、どう見ていますか?」
中野氏
「私は、基本的に歓迎していいかなと思います。それは現在、企業の中で、女性の管理職とか、離職率の数字を見ると、男女差があるわけです。離職率は女性の方が高い。あと登用率も若干違うわけです。なので、3割女性が入った年次があったとして、その人達が管理職に上がる時に、そのまま3割になるかというと、辞めていってしまうとか、登用率が低くて3割にはならないという状態だと。それがなぜ起こっているのかという、様々な阻害要因というか、あるはずで、それが1つ中心となるのが、今日のテーマの働き方だと思うんですけれども、そこを企業がちゃんと見つめ直すという意味ではいい機会になるのではないかなと思っています」
秋元キャスター
「中野さんが書かれた著書『育休世代』というのがあるんですけれども、育休世代というのはどういう世代のことなのでしょうか?」
中野氏
「ざっくり言うと育休をとることがある程度当たり前になった世代というようなイメージですけれども、本の中では、定義としては2000年代に就職したぐらいのイメージなのですが、この頃、就職氷河期も落ち着いて2005年前後ぐらいから、総合職女性の採用が増えているんですね。同時に、育休だとか、時短制度とかというものが、改正されたりとかして、ちゃんと整ってきたので、辞める前提で入っているのではなく、まさに、管理職とか、幹部になっていく候補生として総合職の女性が入り、出産も当然するだろうと思って入った人達というイメージで使っています」
反町キャスター
「育休をとるのが当たり前という世代というのは、仕事に対する思いというのはどういうものなのですか?」
中野氏
「仕事に対する意識が男性並みになってきていると思うんです。ところが、一方で、子供を持つこと、育てることに関しては、ある意味、古い考え方が残っているとか、逆に少子化対策とかでもっと産んでほしい、育ててほしいみたいな動きも出てきていて、その両方を背負ってしまった世代だと思っています」

育休世代と働く意識
秋元キャスター
「育児休業と子育て期間中の働き方についておさらいしていきたいと思います。育児休業については、労働者は事業主に申し出ることにより、養育する子が1歳まで育児休業することができるという決まりがあります。3歳までの子を養育する労働者については短時間勤務制度、1日6時間ですけれど、これを設けることを事業主の義務とするというものがあるんですけれども、原則として、子供が1歳になるまでは育児休暇が取得できて、職場に戻ったあとも3歳までは短時間勤務の制度を設けることが、事業主に義務づけられているんですけれども、こうした制度があるものの、育休あけの社員が職場復帰してぶつかる壁というのがあるということですが、これはどういうことなのでしょうか?」
中野氏
「キーワードを出させていただきます。育休あけの女性が、男性も本来は起こり得ることですけれども、子供のお迎えではやく帰らないといけないといったような時に、だいたいこれまでの労働者層、特に総合職の正社員の方というのは、残業は何時まででもできますよという状態が標準だったので、それができないことになると急に『過剰な配慮』『マミートラック』に入ってしまうということが言えます。過剰な配慮は、ちょっと配慮をしていただくことが必要ですけれども」
反町キャスター
「職場で?」
中野氏
「職場です。お子さんが小さいから、ちょっとこの仕事はできないというような形で、たとえば、総合職で、ずっとやってきたんだけれども、ちょっとコピーとりをしておいてくれるみたいな。これまでの責任とはまったく違うような仕事を始めてしまうとか、マミートラックというのは、ママ向け指定コースみたいな感じですけれども、昇進だとか、成長機会を奪われてしまうルートに置かれてしまい、そこから抜け出せなくなってしまうようなことですが、お子さんがいながら働く女性というのがまだまだ少ない。とりあえず、この部署においておくかとか、この仕事をさせておくかとかということで、何となくやり過ごそうと企業側がしてしまって、女性達は、本当はこういう仕事をしたかったのにとか、こういう能力があるのに活かせないというジレンマに苦しむ状態が起こっています」
反町キャスター
「両方とも同じような意味ですね。過剰な配慮も、マミートラックも。悪意はないのだけれども」
中野氏
「そうですね」
反町キャスター
「悪意はないのだけれど、あなた、大変だからねというようなところが、だんだん本人のやる気も削ぐし、会社の期待値も下げていく。結果的に女性にとって望むべき職場環境にならなくなっていくという、そういう善意の結果による悪循環みたいな、こんなイメージですか?」
中野氏
「良かれと思ってやっている上司も多いと思うんですけれども、結果的に、そういうふうになってしまうということです」
反町キャスター
「女性の社会における指導的な立場に30%にしようかという目標を政府が立てたと思うんですけれども、そういう数値目標と、こういうものは両立しない?」
中野氏
「これの根底には本来、多くのもともとの働き手がすごく長時間働いているとか、そういう状況があるので、そちら自体を変えていくということもあわせて必要かなと思います」
反町キャスター
「そうすると、子育てにあたる女性に対するケアということより、もともとのベース、日本人の労働環境とか、年間就業時間とか、総労働時間とか、そこの部分から改善をしていかないと女性の社会参加というのはあり得ないと。そちらの方が大切になってきますか?」
中野氏
「そう思います」
反町キャスター
「女性がキャリアを志向していると。子育てもキャリアも志向する女性にとって生きづらいということを言いたいという理解でいいのですか?働きづらい?」
中野氏
「そうですね」
反町キャスター
「両方求めることが非常に難しい社会である。そういうことでよろしいのですか?」
中野氏
「それはそうだと思います」
反町キャスター
「私はこれでいいという人もいますよね。そういう人達に対して、いわゆる新自由主義みたいな感じで、どうぞ優勝劣敗で、勝つ人をどんどんいってくださいと。優秀な女性は子供を育てながらバンバン出世してください。その道は、天井はちゃんと抜けるようにしましょうというこの話も、1つありでしょうと。ただ、一方で、こういう選択もしたいんですという人に対する、セーフティネットとは言いませんけれども、そういう部分というのは現在の日本社会には欠けているのですか?現在の話だと、こういうネットがあまりにも厚過ぎて、誰も跳ねようとしないという話にも聞こえます」
中野氏
「多様なあり方があって、それを男女ともに選べることというのは、実現すればいいとは思うんですけれども、現在だと、どちらかと言うと子供を産んだ女性だけがこういうふうになっていて、その人達の中で多様な選択肢を選べないし、そうではない女性達、あるいは男性。特に育休世代の女性達の夫達というのがなかなか多様な選択肢を選べずに長時間労働をしているという状況があるので、一部の人にだけ、一部の選択肢が、選択肢と言いますが、選ばされているみたいなものがあって、他の人達は他のものを選ばされているという、極端な状態が問題かなと思います」
海老原氏
「長時間労働に関しては、僕は出世して、優秀な人は長時間労働だというのは、そう思っているんです。だって、いわゆる働かなくてもいいのにつきあってやっている人達が出世してしまうのはおかしいんです。つきあって残業している人達が出世してしまう。こういうのがおかしいです。そういうのは正す。でも、現在、本当にバリバリがんばっている人間はすごく長時間労働で、すごくパワフルに働いていて、良い記事を書きたいなと思って夜討ち朝駆けで取材している。つまり、良い記事を書く、良いパフォーマンスを残そうと思ったら、長時間労働でなければいけないという宿命はあるんだと思います。そこに対して、短時間労働で、本当に片がつくかということに関しては、僕はちょっと疑問を持っちゃうんです」

エリートとワークライフバランス
反町キャスター
「出世とワークライフバランス。もっと言ってしまうと、お金でもいいです。お金とお金以外の幸せみたいな、そういうものというのは両立できると思いますか?」
海老原氏
「欧米だと、ワークライフバランスの充実というのは、基本的にこういう人達の話を言っていると。この人達とは、中間職という人達がいますけれど、大学を出た多くの人達がこうなる。これはフランスの例ですけれども、年収はどんなに上に行っても550万円、560万円しかいかないという人達です。それ以外の人達は、専門卒や短大卒、大卒もそちらに結構、入っているんですけれども、資格労働者という人達は400万円にいかないという生活しかしていないです。つまり、出世しても給与が上がらないという人達です。だから、こういう人達は何年経っても給与が上がらない分、ワークライフバランスが充実し、1300時間労働しかしていないという現実がここにある。一方で、出世していく人達は、1050万円ももらっているような、カートルという、いわゆるエリート層です。この人達の平均的な労働時間は、年間でも2000時間近くで、日本人よりも働いているぐらいです」
反町キャスター
「仕事に燃えるエリートが、家庭をなかなかうまくやれないという悩みを抱えているという典型的なステレオタイプで働く人の、ワーカーホリックと言いませんが、そのモデルがフランスにもあるということですね」
海老原氏
「そういうことです。そこはアメリカでもそうですし、出世するのに、そんなに楽な仕事をして、暇で出世できるという理由がわからないです。短時間でそれができるなら、もっと働く、長時間の人はもっと働くパフォーマンスを伸ばしちゃうから、出世をしようという人達はもっと働いてしまうんですね」
田中助教
「中高年の男性がだぶついているという話なのだろうと思うんです。ただし、日本はこれまで雇用調整をどうやってきたかと言うと、内部労働市場で、出向とか、転籍によって失業率を抑えようとしてきたわけで、外部労働市場があるような、転職をして、同じような収入を得られる社会と日本は同列に語れないというのが1点。そうせざるを得なかったというのが1番の問題で、じゃあ、中高年男性の雇用の流動性を高めた場合に、何が起こるかというと、男性稼ぎ手モデルというのが日本では標準的なわけですね。家のローンでも、教育費でも、お父さんの肩に乗っかってしまっているわけです。ですから、中高年の男性を、流動性を高めればいいという議論は非常によくわかるし、たとえば、600万円の管理職の人をクビにし、300万円に分けて2人を雇った方が当然語学もできるだろうし、パソコンスキルもある、これからも働いてくれる。ただ、その中高年の男性というのが家族を支えているわけです。だから、これを一気にバサッとやった場合の社会的混乱というのは大変大きいので、行き詰まりを見せていると。だから、本当に鉈を振るいたいんですけど、振るってしまうと家族というものが維持できないし、家族を維持できなければ、非常に社会的な混乱が起こると。そこは大変難しいところだと思うんですね」
海老原氏
「ちょっと待ってください、そこですよ。そこの話が僕の1番言いたいことで、中高年がなぜ転職できないかと言うと、これも逆転のマジックで中高年の給与が高過ぎるからです。欧州並みに、たとえば、欧州は、中間職の人達はどんなに上がっても500万円ぐらい。40代の時400、500万円。このぐらいの年収だったら、これは転職できているんです。だから、日本が上がり過ぎている。日本は結局、皆が、1つの階段を登っていって、給与が上がっていく。給与が上がって将来的に給与が高くなるという仕組みになっているではないですか。これだから、会社側は40代、50代になると、高過ぎて、ちょっとクビにしたくなる。家庭はその人に全部、おんぶに抱っこだから、確かにいなくなられては困る。こういう形で全部1つの階段で登っていくという形が、1つの問題だろうと。欧州のように、階段が2つあって、たとえば、下の方の人達、その多くはワークライフバランスが充実し、給与がそれでも400万円ぐらいは貰えているわけです。夫婦で400万ずつもらえたら800万円です。旦那さんが1人で800万円稼ぐよりどんなに楽かという話です。こういうような仕組みになるか、ならないかの瀬戸際に現在、いるのだろうと僕は思っているんです」

男女の働き方と意識改革
反町キャスター
「フランスと日本、賃金の状況で説明してもらえますか?」
海老原教授
「賃金の話をまずしておきたいと思うんですけれども、たとえば、日本の大企業に勤めている人達の平均年収は現在、50歳前後だと1060万円ぐらいです。1060万円だけれども、出世している人と、していない人が入っていて、出世していないような人、ヒラの人達の年収がいくらかと言うと、大企業は1000人以上ですよ、これの平均年収は、850万円ぐらいです、ヒラです。ヒラで850万円です。そこまで上がっているんですよ。これは先ほど言ったカートルの平均年収よりも高いぐらいです。ヒラでも。日本人というのはかなり皆、給与を貰い過ぎている。たとえば、役職者の数です。役職者の比率、年齢によってどう変わっていくかを、規模別に3つの企業、大企業ではないです。中小、中堅企業に入ると思うんです。こういうのでも出てきますけど、年齢とともにどんどん管理職というのは増えてくる。こうやって皆、1つの階段を登るのが当たり前だから、マミートラックにいっちゃうと、私はこれから外れたというのですごく残念な気がすると。一方で、フランスのカートルは、見ればわかる通りで、地を這うというのは嘘だけれども、10%もいかないわけです。これだったらほとんどの人達はヒラです。そうすると、私だけマミートラックで、私だけ出世しなかった。そうではなくて、男性でも女性でもできない人達は、皆ヒラです。そうすると、差がつかないから、これは結構、普通に働けるわけです」
反町キャスター
「女性の働き方として、どういう道を考えたらいいのかと、そこの部分はどうなのですか?」
海老原氏
「現状の、この階段をいかに維持するかという話になると、僕は納得いかないです。階段を維持するとどうなるかというと、たとえば、この階段と同じように登っていくなら、お一人様コースになっちゃうわけです」
反町キャスター
「それは結婚をしないで、子供を産まずにということですね」
海老原氏
「そうです。もしくは本当に理解のある旦那が、俺の方が家に入るよと言ってくれない限りは、そんなに日本にはいないと思うから、基本、こうなっちゃうわけです、お一人様に。そうではないと、私が全部やりますというのは家事も育児も仕事も全部やるという、しかも、短時間ワークで働くといっても、限界ウーマンと呼ぶんですけれども、この限界ウーマンをやったあとに、燃え尽きて、結局、辞めていくという、彼女の(本の)中に出てくるような人達で、すごく有能なスキルワーカーの人達が皆辞めていって、主婦、パートになってしまう。これが2つ目になると。3つ目は、そうではなくて、私ははなから結婚するまで腰かけという昭和時代、未だにそういう人達がたくさんいます。これは悪い選択ではないです。これだって1つの選択ですし、自由ですから。こういう選択でいって、そのままパートになると、こういうような3つに分かれちゃうわけですよ」
反町キャスター
「現在、日本はそのバランスがとれていますか?」
海老原氏
「過去は良かったです。その時から、まだギリギリですけれども、今後、たとえば、こちら側に行く人が多くなるならば、子供は少なくなる。それから、いろいろな問題が出てくるわけです。こちら側が多くなると、この人達はできる人なのに全部家に入るとか、パート労働になる。これは熟練工とか、熟練の人達が減ってしまうわけです。そのうえに、この人達が家に入ったら税収も社会保険料も下がるわけです。このコースもまったく同じことで税収も社会保険料も下がっていると。人が足りない中で、女性にもしっかり働いてほしい中で、この形ではダメだという話です」
秋元キャスター
「長時間労働の問題というのがありますけれども、日本の企業が長時間労働から抜け出せない背景、田中さんはどう分析されますか?」
田中助教
「まず先ほどからご提言にあるように共働き前提の社会になっていかなければならないだろうということは、まずそうだと思います。ただ、この点に関しては、2010年時点で、男性の生涯の未婚率というのが2割に達しているんです。生涯未婚率というのは、50歳の時点で1度も結婚をしたことがない人のことですね。ですから、共働き社会前提になった時に、これだけシングルが増えているというのは頭の片隅においておいた方がいいだろうと。つまり、2人で800万円であれば豊かだろうと言ってもシングルの人は1人なわけですから、これは頭に入れておいた方がいいということです。長時間労働については、これは基本的に、先ほど申しましたように男性稼ぎ手モデルと言った時に専業主婦がいる、もしくはパートぐらいしている妻がいる、社員が働いているという前提で会社がまわっていること。これが1番の問題だと思います。そうすると、結局、地域のこととか、家庭のことをある程度無視しても、生活が成り立っちゃうんです。ですから、結局、男性稼ぎ手モデルを前提として、現在、社会をまわしています。たとえば、配偶者控除にしても女性が仕事を抑えた方が税金を納めなくていいと、そういうことになってしまっているので、そうすると、多くの人にとって男性稼ぎ手モデルというのは合理的な選択になってしまうわけです。そう言った意味では、男性が長時間働いておうちのことを任せると。そうすれば、おうちが1番安定するという状態になってしまうので、結局、この男性稼ぎ手モデルというものにどう切り込むかということなしには長時間労働の解消というのはあり得ない議論になってしまうかなと思います」
反町キャスター
「男性稼ぎ手モデル、男が一生懸命に働ければ社会がまわるんだという、この考え方を変える方法はあるのですか?」
田中助教
「まずそれにはどうしてこういうことになってしまっているかということで、職住分離と言って、住んでいるところと働いているところが分離してきますね。その時、どうするかといった時に、おうちにお母さんにいてもらう、お父さんは外に出すということをやっているわけですけれども、ですから、これを変えていくということを考えた時に、典型的にはテレワークだろうと思うんですけれど、住んでいるところと働いているところというのが分離した状態を、またいかに混ぜていくかということを考えるのも1つの手だと思うんです。現在だと、要するに、9時に行って18時までは男性は拘束されていますと。そうすると、子供が熱を出そうが、何があろうが会社に行かざるを得ないわけです。ですから、9時から18時はFIXで、要するに、住んでいる地域の外にいますという状況をいかに変えていくかという議論なしには、共働き社会の実現というのは非常に難しいと」
反町キャスター
「その変化の障害になるものは何ですか?」
田中助教
「どうしてもイメージが大きいと思うんです。つまり、まともな男性は、大学、あるいは高校卒業後はフルタイム、正社員で働いているに違いないというイメージが強くあると思うんです。先ほど、言いましたように、職住分離というのがありますから、地域とか、家庭には平日の昼間はまともな男性がいないというイメージが多いと思うんです。たとえば、犯罪があった時にも、犯人は40歳、無職、男性ですとかいうと、多くの方は、ねっ、と思ってしまう雰囲気があると思うんです。つまり、フルタイムで働けないような男というのはまともではないに違いないと。これは現在、イメージと現実の齟齬という話を先ほどからしているんですけれども、実際には、たとえば、平日の昼間にいる方というのはサービス業かもしれませんし、自宅で働いている方かもしれない。働いていないわけではないということがあり得るということです。あるいは最近の選択では、夫の方の主夫、これもあり得るだろうと。働いてまったくない場合と言っても、様々な事情もあると思うんです。たとえば、体調を壊しているとか、ご病気をしているとか、にも関わらず、そういったことを全部含めて、働いていない人はおかしいのではないのかという偏見があると。たとえば、テレワークみたいなものをすると結構、週3回ぐらい家にいるわけです。近所の目が気になってしまうとか、あるいは育児休業をとって、たとえば、長くとって、地域に溶け込んでいこうとしても、あの人、男なのに、大丈夫かなみたいな偏見があると実際にそういう行為をしていけないですね。ですから、男性というのは、学校卒業後は定年まで、外で、フルタイムで働いているものだというイメージは、皆さん、共有してしまっているんですけど、根底が崩れてこないと、実際の行動というのも非常に難しいかなと思います」
反町キャスター
「そういう感覚は日本だけなのですか。日本だけ、そういう感覚が強い?」
田中助教
「強いです。急速に都市化が進んだということもあるんだと思うんですけれど、都市化が進んで、大阪、名古屋、東京に人が住んだ時には、もうお父さんというのは地域にいない存在だったと。ですから、我々が暮らしているような、都市の社会においては、お父さんというものがそもそも地域や家庭においいては不在です。ですから、いることに対して、非常に違和感を、感じてしまうという問題があるかと思います」

男が生きづらさを抱える背景
秋元キャスター
「そもそも男性学とはどういう学問なのですか?」
田中助教
「先ほど、中野さんからご説明あったことからもわかると思うんですけども、社会学をバックボーンにしている研究者が非常に多いですね。中野さんが使った図式で言えば、マミートラックというのは構造です。つまり、女性がそちらの方に促されていってしまう仕組みがあるだろうと。過剰な配慮というのは、その仕組みを維持するための行為です。女性だから、産休あけでこんな大変な仕事やらない方がいいよねと配慮することによってマミートラックという構造に押し込まれていくと。従って、その行為にも注目するんですけれども、どういうバックボーンとなる構造があるかというところについても分析していく。心理学でやっている人ももちろんですけれど、社会学的な女性学、男性学というのはそういうものになります」
反町キャスター
「そうすると、男性学的な観点からするとですよ、先ほど、中野さんの言っていた、働く女性が子育てをしながら社会復帰しようとした時に過剰な配慮がマミートラックというものが障害になっているという話がありました。男性学的な視点からすると、社会、会社に戻ってきた女性に対する過剰な配慮が、マミートラックというのはどういう意味があるのですか?」
田中助教
「つまり、そういったものを、過剰に女性を配慮してマミートラックに乗せることは何が維持されているかということを考えるわけですよね。そうすると、逆に言うとそういった配慮の必要がない社員を中核に据えたいという構造が見えてくるだろう。それは男性社員であるということになりますね」
反町キャスター
「能力がある可能性がある、能力を持つ可能性がある、女性を潜在的な競争相手を排除して、スポイルして、それを男性社会、男性主導の社会の脅威となり得る可能性がある女性を排除しているのがこの制度であると、こういう理解になるのですか?」
田中助教
「ある意味、現状の企業というのはどうしても男性中心的なので、そうなっていくことだろうと思いますね。男性学の場合は、現在、反町さんにおっしゃっていただいた男性の方に焦点を当ててくということになります」
反町キャスター
「そうすると、こういったことというのは男性学的に言うと男性の防衛本能のなせる技?」
田中助教
「防衛本能と言いますか、ある意味、男性の既得権益というのを維持する構造ではあるだろうと思いますね」
中野氏
「現在起こっている過剰な配慮、マミートラック問題は単純に想像力の湧かない人達がやっているからというだけなのではないかなと」
反町キャスター
「それはどういう意味?何に対する想像力が働かない?」
中野氏
「基本的に経営陣と言いますか、管理職ですか、現場の女性が育休を取って復帰してくる現場にいる上司の方々が仕事の割り振りとか、配置とかを考えると思うのですが、その人達の多くが専業主婦の奥さんがいらっしゃって、育児を全部やってくれていた人達なので、そもそも子供を預けて出てくるという人達に対してどういう接し方が適切なのかということの想像力が湧かないと思うんです。そもそも保育園と幼稚園の違いがわかっていないとか、保育園に行かせている年齢の子供がいると、今日はお爺ちゃん、お婆ちゃんが見てくれているのかみたいなことを聞かれるとか、そういうマインドなので、良かれと思ってはやく帰った方がいいのではないとか、出張は行かない方がいいのではないかとか、言ってしまうと。でも、女性側のスタンスとしては時間が多少短くなるかもしれないけど、別に能力がそんなに変わっているわけではないですし、場合によっては早く帰るというのを意識することによって、生産性が上がっているというような自負があったりするので、そこに非常に齟齬が起きているのかなと思います」

どうすれば働きやすくなる?
秋元キャスター
「どうすれば男女ともに働きやすくなると考えますか?」
中野氏
「そうですね。私は先ほどの海老原さんの議論で言うと、まだ登っていく人達の話をしていると思われちゃうかもしれないんですけれども、でも、企業の中で、管理職の人達、男性達というのを含めて全ての人達が働き方を変えることによるメリットみたいなものを実感する機会が必要かなと思います。成功体験が右肩上がりだった時代ですので、そうではない経験を、ありていに言えば、自分が帰っても仕事がまわるかもしれないですし、皆をはやく帰してもパフォーマンスが確保できるかもしれない。あるいは自分が家に帰ることによる生活満足度の上昇とか、そういうそちらの方の実感も必要だと思うんですけれども、そういう機会をどんどんトライアルでもいいからやっていくのは必要かなと思います」
田中助教
「現状日本というのは男性と女性で生き方というのが二分され過ぎなのだろうと思うんですね。それをどうやって、男性の中にもいろんなタイプの人がいる。あるいは先程来、ずっと話になっていると思うんですけれども、女性の中にもいろんな人がいるんだろうと思うんですよね。性別ということを基準にして評価したり、昇格させたりすれば楽だろうと思うんですよ、企業にとっては。性別で見て分かるものですから、企業が性別に囚われないで個人をどう評価する、そこがまさに経営者の海老原さんにお伺いしたいのですが、そういう仕組みというのをどうつくっていくかと。現状、性別にこだわって評価が決まっているということが非常に大きいので、それをどうやって個別ベースで細かく見ていける評価の仕組み、これをいかに確立できるかが重要だと思います」
反町キャスター
「人事評価?」
田中助教
「具体的に言えばそうなります」
反町キャスター
「人事評価とか、実際に変えていった方がメリットのあるような、論より証拠ではないけれども、そういうものがないだろうというのは」
海老原氏
「だから、それを現在やっているんですよ。やって1つの階段を残そうとして、僕も3年前に女子のキャリアの本を書いて、彼女も昨年書いていますけれど。ただ、現在、見ると企業も随分頭が良くなってマミートラックに対するストレスとか、もしくは過剰な配慮というものがちょっとずつ減っているんですよ。ちょっとずつ減っていても、階段を残そうとしているんです。現在、企業がやっていることって、たとえば、何歳までに課長にならなかったら、この人はコースアウトねというイメージのところが日本型企業にあるではないですか、一律化管理で。これを少しレンジ制にして、たとえば、何年間かそれは幅があって昔40歳までに係長になっていないのはもうおしまいねとか言われていたのが、それを、たとえば、45歳までOKにするとか、こうやって階段を先延ばしにすれば、育休に行っていた女の人達も入れるじゃんというので、何とか1つの階段を維持しようという備防策に備防策を重ねているイメージが僕にはあるんですよ。その備忘策では無理だからそろそろシステムを変更しなくてはいけないのではないのという話に持っていきたいわけですよね」

女性活用ジャーナリスト 中野円佳氏の提言:『実感』
中野氏
「経営陣は、多様な働き方をする人というのも含めた、多様性が企業にパフォーマンスをもたらす実感、あと管理職の男性、女性も、はやく帰っても仕事もできる、育児に限らずですけれども、地域生活とか、家庭生活で充実させることによる満足度が上がるという実感が得られればいいのではないかなと思います」

田中俊之 武蔵大学社会学部助教の提言:『多様性』
田中助教
「多様性は一般的に言うと、女性とか、外国人とか、障害者の方もいますよという話だと思うんですよ。まず女性とか、外国人の方とか、障害者の中にも多様性があるということ。これを認識する必要があるというのが1点と、もう1点は多様性という意味は、1人の人間の中にも多様性があると思うんですよね。先ほどからバリバリ働くか、それともキャリア諦めるのかみたいな話があるんですけれども、バリバリ働いている時期もあれば、ちょっと休んで、育児をがんばって、またバリバリ働くみたいな1人の人間の中で多様性というのも認められるようになれば、男女ともに働きやすくなるのではないかなと思いました」

海老原嗣生 立命館大学経営学部客員教授の提言:『脱“欧米では”の守 脱“一律幻想”』
海老原氏
「欧米を見習えばいいという人がすぐいるんですけれども、これは違うんです、欧米と日本では。欧米は欧米なりの嫌なことがたくさんあるんです。もう1つは、日本がやらなければいけないのは脱日本型の一律幻想から抜けなければいけないと思うんです。欧米雇用システムというのは、これは一長一短です。濱口桂一郎さんという有名な人が言っているんですけれども、一長一短です。どこの国だって万能な国はないからうまい良いところの継ぎ接ぎでハイブリットをつくるしかないと思っています」