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2015年8月24日(月)
中東に憎悪 欧州の思惑 乱れる磁場に惑う日本

ゲスト

山内昌之
フジテレビ特任顧問 東京大学名誉教授
細谷雄一
慶応義塾大学法学部政治学科教授
佐々木亮
フジテレビ前カイロ支局長

混迷する中東・欧州…日本はどう対峙すべきかを問う
秋元キャスター
「ここ数年、世界で様々な紛争が起きていますけれども、山内さんに聞きたいのですが、現在、山内さんが注目している動きはどちらになりますか?」
山内名誉教授
「ウクライナ、ロシアから、さらには現在の中東、東シナ海、南シナ海といった地域、あるいは我が国の固有の領土である北方四島。こういう地域を巡る国境です。これまでそれが国境だと思われたもの、あるいはそれを国境と主張する権利を持つ側、こうしたところに大きな変化が生じているということだと思うんです。ロシアは一方において国境を、クリミア、ウクライナにおいて変えようとしていましたし、一部変えてしまいました、事実上。他方で、不法占拠をしている北方四島に関してはそういうことはしない。つまり、既得権益は持つという立場ですね。中国に関しては東シナ海、南シナ海において、自分の領有権を主張する島、あるいは岩礁について、そういう既得権益、あるいは既成事実というものを着々と進行させつつあります。こういった点で、境界や国境のあり方について変化が生じているわけです」
秋元キャスター
「細谷さんはいかがですか?」
細谷教授
「1番気になっているのは、現在、世界規模でアメリカの影響力が後退しているということです。これはアメリカ側が過去、イラク戦争、また、その前のアフガニスタン戦争で大きな挫折をして大変な財政負担と犠牲者が出たわけですね。そのようなことからも、アメリカの中で対外関与を嫌う傾向というのが非常に強くなっているわけです。そう言ったことから、アメリカが影響力をどんどん縮めているわけですね。もともと冷戦終結後はアメリカ、クリントン政権の下で関与拡大戦略という形で、アメリカが掲げる理念、たとえば、民主主義や市場経済というものを世界に広げていく戦略をとってきたわけです。これが広がっていった結果として、たとえば、NATO(北大西洋条約機構)が拡大していく。あるいは中東への関与、あるいはアジアへの関与というのが進んだわけですね。ところが、現在これが後退し始めている。これはどういうことが言えるかというと、アメリカがヨーロッパで1番影響力を広げたのがウクライナなわけですね。ウクライナの民主化というものに対して、アメリカが強い支持を表明していたわけです。中東では、イラク戦争後に、イラクに米軍が大規模に展開したわけです。アジアでは日米同盟を基礎として、その後、ガイドラインとして周辺事態法という形で、日米同盟が徐々に、より広域的な地域をカバーして、これは現在、南シナ海でどういうふうに対応するかということが、大きな問題になっているのですが、この3つの地域です。アメリカの影響力が広がった1番遠い先がウクライナであり、また、イラクであり、南シナ海なわけです。アメリカがここから後ろに下がってくるとどうなるかということになると、これは不安定化するわけですね。アメリカの影響力が後退することで、何をやっても大丈夫だよと。アメリカが軍事関与をしてこないだろうということが考えられる。それによって、ウクライナ東部ではロシア系の武装勢力が現在、戦闘を行っているわけです。また、アメリカが影響力を後退させた後の中東では、今度はイラク、シリアなどで“イスラム国”が勢力を広げている。南シナ海はご承知の通り、中国が現在、急速に影響力を拡大しているわけです。こういったことから、アメリカが後ろに下がることによって、世界で力の真空ができる。不安定化というものが連動しているわけですね」

過激派組織“イスラム国”は…
秋元キャスター
「過激派組織“イスラム国”の動きについて見ていきたいと思うのですが、あらためて中東の近年の動きから見ていきたいと思います。まず2006年10月にイラクの“イスラム国”、のちの過激派組織“イスラム国”が結成宣言しています。2011年1月、チュニジアで独裁政権が崩壊し、アラブの春が中東に波及していきます。2014年6月には“イスラム国”が樹立を宣言し、8月、アメリカ軍が“イスラム国”への空爆を開始します。年が明けまして、2015年1月に、“イスラム国”による日本人人質2人を殺害するという事件も起きました。こういった流れが中東の主な出来事ですけれども、佐々木さんは前カイロ支局長として、先々週、カイロから戻られたばかりということですけれど、この“イスラム国”の勢い、現状はどんな様子なのでしょうか?」
佐々木氏
「私は、今年に入って3回ほど、既にシリアに入っているのですが、“イスラム国”の勢いがまだ続いているという印象を受けています。アメリカ側が昨年の8月、連合国と共に“イスラム国”の掃討作戦ということで空爆を開始し、これまでに6000回にわたる空爆と戦闘員1万5000人以上を殺害したと主張しています。まず作戦で成果を上げている地点もあるんですね。それはシリア北部のラッカと言われる、“イスラム国”が事実上、主として使っている場所ですが、トルコ国境との境目、こちらはクルド、シリア北部に拠点を置くクルドの勢力と連合国軍が協力をして、“イスラム国”から領土を奪い返しています。一方で、このイラクのバクダットの西側、アンバール州のラマーディと言われる州都とか、シリアの世界遺産で有名なパルミラですね。ここは非常に要衝に当たりまして、ダマスカスから、すぐ側にあるわけですけれども、ここを奪った、あとダマスカスの郊外ですね、支配下に置くなどして、こういった面では勢力を拡大していまして、さらにエジプト、シナイ半島やリビア、こちらのシェラトも含みますね。それから、最近では、サウジアラビアの南のイエメンでも活動を活発化させていまして、実効支配している場所以外でも、その思想的に影響を受けたグループが共鳴して、力をつけてきているというような状況があります」

“イスラム国” なぜ活動は止まらない?
秋元キャスター
「支配地域が変わっていく中で、周辺の国々の対“イスラム国”への姿勢というのは変わってきているのでしょうか?」
山内名誉教授
「トルコのケースは、トルコはこれまで“イスラム国”に関しては同じスンニ派ということもあるのですが、1番大事なのは、トルコの国内問題と外交問題が1番重なる領域というのはクルドの問題ですね。クルド人というのは、トルコの東南部からイラクの北東部。シリアの北東部、それから、イランにもいる。このうちイラクについては、現在、イラク戦争以降クルド自治政府というのが認められます。ところが、トルコ国内のクルドについてはずっとこれをテロリストとして、対決してきたんです。このクルド人がイラクの地域政府の力以上に大きく伸びている。それらが一致団結するということを、トルコは避けなければいけない。それで対抗勢力として“イスラム国”というものを公認はしていないにせよ、黙認してきた。それを使った。だから、トルコを通ってヨーロッパの人員や物資、資金が入ってきたという経緯があるわけです。ただ、そういう点でやっていきますとアメリカがつくっている有志連合。トルコもその一員なのですが、そこがしり抜けになってしまいますから、ISをちゃんと取り締まってほしいということを言っていたわけです。ところが、それを極端にやりますと、クルドというものに対する歯止めがなくなるという考えがあったので、やめてきたのですが、最近になってから、トルコは姿勢を転換したんですね。それは何かというと、根本的にはクルド問題です。この6月にトルコ国内で選挙がありまして、現在の与党政権、公正発展党のエルドアン大統領の政権が敗北したんです。その時、いわゆるトルコ国内に強い反クルド票、反クルド、これが流れたんですね、野党に。ですから、エルドアン氏としては、それをもう1回、自分に取り戻したいという意図があって、この3年ほど続いてきたリクードとの妥協や和解政策を放棄して攻撃を始めたんです。なぜかと言うと、この連立が失敗しまして、国内での。10月にもう1回、おそらく10月ですね、秋に総選挙があります。その時に反クルド票を入れたいと。その時に外交を内政化する、内政を外交化するという状況が現在のトルコにある。その時、しかし、それだけではクルドというのは…現在のイラク問題に関して、地上軍兵力としているのは、クルドです。アメリカはこれに頼っているんです、自分は投入できないから。ですから、そのクルドをトルコが攻撃すると非常に具合が悪い。アメリカに対してトルコが何か申し開き、エクスキューズすることが必要になってくる。それはISです。これまで認めてきたけれども、ISに対しても攻撃をしていますよという、こういう形をつくる必要があった。その2つが複合的に噛んでいるのが、現在のトルコとISの関係。こういう絵があるんですね。最近トルコで出された絵で、エルドアン大統領が右に6発の爆弾を持っている。左手に1発の爆弾を持っている。右にはクルドと書いてある、クルドに落とす爆弾だと書いてある。左手にはIS、“イスラム国”と書いてある。“イスラム国”に落とす爆弾。この6発と1発の違いというのが、実はトルコがISにこういうふうに姿勢としては対決しているけれども、実際クルドが1番重要な、言ってしまえば敵だから、エルドアン氏からすると。こういうことを皮肉った絵です。ところが、これにはさらに落ちがありまして、この先には、次の絵でどうなるかというと、このIS、“イスラム国”に落ちるはずの1発。これも実はクルドに落ちると。全部結局、クルドに落ちる。だから、アメリカやヨーロッパの有志連合が期待しているように、ISと対決するといっても、トルコはなかなか完全に成し切れないと」
秋元キャスター
「そういう状況ですと、“イスラム国”というのはまだしばらく続くことになるわけですか?」
山内名誉教授
「これは続きます。よく日本では非常に短期間にと思われがちですけれど、それはそうなかなかいかないです。何と言っても、地上の兵力でこのイラクからシリアを占拠している勢力をどう追い払うかということに関し、アメリカが訓練したイラクの国防軍、イラクの正規軍の勢力は次から次へと破砕され、挫折しているんです。唯一対抗しているのは事実上、この地域にいるシーア派を中心とした民兵たち。実はこの民兵を主導し、指導しているのはイランです。ですから、この勢力が“イスラム国”に対して対抗しているという現状があるから、きちんと地上軍で対決する国というのはどこもないと考えて、唯一、このシーア派と、それから、一部のクルド、これが押さえている。従って、これを実際に粉砕するのは難しい。今回のウィーンでの最終合意、核の問題を巡るね。あれも裏づけになっているのは何かというと、このISというのは現在、最大の敵だと。従って、そのISに対抗するために、イランとシーア派、これがある程度、敵の敵は味方だみたいな構図で、アメリカが頼りにしているという、せざるを得ないと。アメリカは投入できませんから。これはアメリカが中東における力を失っているということの証左です。ですから、イランに関しても、全体としてイランのロウハニ大統領という穏健派的な大統領が出てきたことを1つの潮時と考え、オバマ大統領が大きく、もう1つの舵を切り変えた。そういうことになっていくわけです」

イラクの変化 ウィーン合意がもたらすもの
秋元キャスター
「先ほど、山内さんからも話がありました。ポイントとなるのはイランということですけれども、イラン核協議で、歴史的合意とされるウィーン合意ですけれど、イランの核開発能力を制限するための協定が、先月14日、合意に至りました。その合意の内容がこちらになっています。『イランが核開発の活動を最大15年間、大幅に抑制し、IAEA、国際原子力機関による厳しい監視下におかれる代わりに、欧米側が経済制裁を、段階的に解除をする』と。『国連安保理の決議による武器の禁輸措置は5年間継続』ということですけれど、山内さん、これによってイランが国際社会に復帰するということになっていますけれども、これによってどういう影響があるのでしょうか?」
山内名誉教授
「これは肯定的に評価するか、あるいは否定的に評価するかというので、実は各国、あるいは専門家でも分かれているんですね。まず客観的に言えば、今回の最終合意によってイランを巡って数十億円とされる貿易やビジネスチャンスがあります。これを巡って1番すぐに手を打っているのが万事につけ、ギリシャ問題でもそうですが、積極的なドイツです。ドイツは既にそういうミッションを送っています。実際にドイツ、あるいはEUですね、正式に言えば。イランの中に革命防衛隊という組織があるんですね。1979年のイラン革命の時に最も中心になって働いた部隊です。これはヨーロッパやアメリカにおいてはテロリスト団体とされているのですが、この革命防衛隊をテロリスト団体リストから解除するという動きなどが、EUから既に出ているんですね。非常に商機、ビジネスチャンスを掴むという点に関して、ヨーロッパは積極的に出ていると。従って、早晩、日本などに関しても、このイランとの関係というのは積極性が出てくると思われますが、実際にイランのラジオ放送は7月の段階で、26日だと思いますけれども、日本が制裁解除を検討中と。こういうことを勝手に流したんですね。もちろん、そういうことは政府当局が、外務省でいろんなシナリオを考えていますけれども、少なくとも表に出ている話ではない。イランはこのように、逆に、日本に揺さぶりをかけてきて、それで商機を逸するぞと。はやくイランとの関係を正常化せよという。こういう揺さぶりをかけているんです。ですから、肯定的に言うと、こういうことで、制裁解除で、イランの側からすると石油の輸出が半年で倍増すると。ハメネイ師という最高指導者がいますけれども、イランの実際上のリーダーです。この最高指導者は、年平均で今後5年間、経済成長が8%ずつ上がっていくと。こういう見通しを出したんですね。つまり、10年のうちには、イランの能力は、サウジアラビアやトルコを凌駕すると。こういう数字が出ています。イランにとっては、大変良い材料です。それから、実際、イランがこれで核開発をまったく禁止されたというわけではない。いわゆる平和利用などという形での低濃縮ウランなどに関しての、購入に関しては禁止されていないですね。ただ、否定的な評価というのはあるんですね、当然。イランがもしこのようにして貿易制裁、国連安保理の制裁を解除されて、貿易等々で自由に振る舞うことができれば、入ってきた外貨はどこに消えるのかと。お金はどこに消えるのか。革命防衛隊をテロリストから解除をしたら、革命防衛隊を何に使うのか。そうです、それがシリア、あるいはイラクがそういうところで、スンニ派のアラブ。そういう国々や、人々に対して使われない保証はない」
細谷教授
「今回なぜ合意がうまくいったのか。これはある意味で奇跡的だったと思うのですが、いろいろな条件がおそらく揃ったからだと思うんです。第1にオバマ政権の任期が終わりに近づいてきて、レガシーづくりですよね。キューバとの国交回復もそうですが、オバマ政権は、外交に関して非常に評価が低いわけです。失敗の連続だったという評価が非常に多いわけです。そういった中のレガシーとしてイランと合意。核開発をやめさせたんだと。オバマ大統領にとっても、外交によってやめさせたんだという、レガシーをつくりたいということがおそらくあったんだろうと思います。一方、EUは現在ウクライナ問題を巡って大変足並みが乱れています。ギリシャ問題を巡っても非常に混乱していて、このイラン問題というのは対外政策、あるいはEU各国がある程度、協調を実現できる、数少ない例の1つですよね。その成功例として、EUとしてはこの問題に非常に力を入れていたということです。3つ目が、イランが長引いた経済制裁で、国内の経済状況が非常に苦しい状況になっていた。その3つが重なって今回は非常に劇的に合意が得られたんだろうと思います」
秋元キャスター
「イランが国際社会に復帰するにあたっての経済効果は、ヨーロッパにとってはどのようなものになると見ていますか?」
細谷教授
「そもそもEUは地中海周辺諸国、これは北アフリカや中東諸国とは、非常に力を入れて協力関係というのを模索してきました。当然ながら、EUは十分な軍事力はないですから、これらの地域を安定化させるためには外交と経済協力を柱としてきたわけですね。そう考えると、実は今回のイランの核危機がある前から、EUは、イランを含めたこの地域には非常に深く関与して、友好関係、協調関係を模索してきたので、従って、今回の合意を元に、この危機を克服してイランとの経済協力、様々な貿易であるとか、あるいは石油資源、こういったものに対しおそらくアメリカよりもよりはやく協力関係をつくれるというような考え方も、おそらく見られるのではないかと思います」

揺れる世界情勢 欧州と中東の関係性
秋元キャスター
「現在のヨーロッパと中東の関係を見ていきたいと思います。移民問題もありますし、関係は近い」
細谷教授
「歴史的にも中東とヨーロッパは地理的にも非常に近いわけですし、またもちろん、中東諸国の多くの国々がかつてヨーッロッパの植民地だったわけです。そういった歴史的なつながりもあります。また文化的にも長い歴史の中で様々な環境を構築してきていると。最も大きなのが最後におっしゃった移民の問題で、フランスの国内で人口の一割近い500万人近くは移民だと言われるわけですが、その大半はイスラム系なわけですね。そうすると、実はイスラムの問題というのは、対外問題ではなくて、ヨーロッパの多くの国にとっては国内問題でもあるわけですね。この問題をどう解決するかということがそのまま国内の安定にも関わってくる。たとえば、パレスチナ問題もそうですね。パレスチナ問題でもしもEUがパレスチナに対してあまりにも過酷な態度をとれば、これはその反発が当然ながらフランス、ドイツなど多くの国々で起きるわけですよね。そうすると、日本の場合と違ってEUの場合は中東政策というものが、外交と内政が直結した問題であると。そういった非常に難しい問題になっているわけでして、言ってみれば、EUにとってみると、EUの加盟国キプロスは、地中海でも目の前がイスラエルなわけですね。キプロスを考えると、中東問題というのはEUにとって近隣諸国、日本にとっての朝鮮半島や中国と同じぐらいの距離なわけですね。従って、この安定化、国内問題としてイスラム移民の問題があるということと、さらにはいくつか新しい加盟国がもうほとんど中東諸国と国境を接している。目の前にある。これらを考えるとEUにとっては中東の安定化というものが非常に切実な問題であるということが言えると思います」
秋元キャスター
「EUの影響力が落ちているという話もあります。そうなると、どのような影響があると思いますか?」
細谷教授
「伝統的にEUの中では経済はドイツが牽引する。外交はイギリスとフランスが牽引するというのがこれまでの伝統だったわけですよね。従って、アラブの春のあとのリビアの、カダフィーの内戦の時にも、空爆のオペーションを主導したのが当時イギリスとフランスであったわけです。伝統的にイギリスとフランスがEUの外交を主導してきたのですが、現在EUの中でイギリスとフランスの影響力の低下というのが非常に深刻です。まずイギリスですが、これはイギリスが現在、最大の問題となっているのが実はEUからの離脱問題。たとえば、イギリスの外務大臣フィリップ・ハモンド氏は、明確に2017年にEU離脱を問う国民投票をしたら自分は離脱に投票するということを言っているんですね。つまり、主要閣僚でさえもEUからの離脱ということを求めている。そうすると、EU諸国と共同歩調をあわせて、EUとして1つの声を出すことに対し、イギリスのインセンティブが下がっているということ。さらにはEUの中でこのようなイギリスの態度に対して非常に強い不信感がありますから、イギリスがEUの中でリーダーシップをとるということがほとんど不可能になってきているわけですね。さらには後ろ向きになっていることもあります。フランスは国内問題ですね。これはドイツと非常に正反対、ドイツは失業率、あるいは経済成長もEUの中では群を抜いて非常にパフォーマンスがいいわけですが、ドイツと対照的にフランスは失業率も経済成長率も非常にこれは状況が悪いです。従って、オランド大統領の支持率の低さ、過去フランスの大統領として現在、オランド大統領の支持率は最低を記録しているわけですが、国内的な十分な支持がないことを含めて、イギリスのキャメロン首相、フランスの現在のオランド大統領は、ほとんど外交でリーダーシップをとれない状況ですね。これが現在のウクライナや中東“イスラム国”の不安定化とも当然連動しているわけですが、その中で一国、傑出して大きな影響力を持っている、むしろ影響力を拡大しているのがドイツです。これはメルケル首相が極めて有能な指導者であるということ。非常に冷静で物事を適格に判断する能力を持っている。国内での支持も高いということで、このメルケル首相がヨーロッパの外交を今、名実共に主導しているわけです。これはイランの核開発の問題もそうですし、あるいはウクライナの内政もそうです。さらにはギリシャの債務危機を巡ってもまさにメルケル氏が中心的に解決しているということで、現在のEUはあらゆる問題がドイツを中心に回転し、ドイツのリーダーシップ、あるいはドイツが前に進んだ時に、これに批判をして止められる国がほとんどなくなってしまっているという状況です。これが新しいEUの現在の状況だと思います」

日本はどう対峙すべきか
秋元キャスター
「国会での議論、それから、国民の間での議論、この世界の動きという視点から見ると、どのように感じていますか?」
細谷教授
「第1に現在の世界が非常に不安定化していると。これは明らかに冷戦時代と違うわけですね。つまり、何が起こるかわからないという状態が起きている。たとえば、2001年の9.11テロもそうだったと思うんです。多くの方が想定していない事態だったわけですね。今年だけでもいろんな問題が起きていますが、来年また何が起こるかわからないわけです。冷戦時代というのは非常に予測が可能であって明確な脅威があって、それに対してするべき対応というのもこれまた明確だったわけですね。ところが、現在の世界では冷戦時代とは違って驚異というものは非常に不透明で、どこからくるのかわからないわけですよね。それに対して日本の場合はあまりにも法律の縛りが強すぎる。何も行動ができないということですと、これは国際社会から批判されることにもなりますし、また、国内でも国民の生命を十分に守れないということが起こる可能性があるわけです。そのような不備をあらためていこうというのが、今回の平和安全法制ということになるわけですが、それによって何を最もしようとしているかというのは、私から見ると、第1に国際社会に協力するということです。たとえば、PKOもそうですが、日本は基本的に平和維持活動はできません。PKOというのは、日本の法案というのはPKO協力法案であって、あくまでもPKOしている国々を支援している。たとえば、給水活動や輸送活動ということですね。つまり、自衛隊は安全なところにしか行けないわけですから、安全なところである以上は武器を持って行く必要もないし、武器を使う可能性もないというのが、そもそもの想定である。ところが、現在の世界というのは、戦争と平時というものが非常に不明瞭になっているわけですね。たとえば、ウクライナでは、これは国家間の戦争ではないわけですから国連憲章が想定していた、これは戦争の法規ということではないわけです。あるいは“イスラム国”も同様に、これは国家間の戦争ではないわけですよね。このような事態に対して、実は日本の従来の自衛隊法をはじめとする法律は十分に対応できなかった。つまり、戦争か平和かわからないようなグレーゾーンで少しでも危険性があったら一切、日本は国際平和協力活動ができないということになりますと、従来と比べて圧倒的に日本の貢献ができる領域がなくなってくるわけですね。ですから、平和と戦争の間のグレーゾーンという言葉を使いますけれど、グレーゾーンの中でも比較的安全な場所で日本が行動する、あるいはそのような場所で行動している他国を支援する、これは後方支援ですよね。これは完全に危険か、安全かということが見えなくなっている。たとえば、パリでテロがあった、あるいはロンドンでテロがあった時に、パリやロンドンを戦場と言えるのかどうか、戦闘地域と言えるのかどうか、そこで日本が何もするべきでないと言うべきなのか。このように考えた時に、現在の世界が非常に不透明化しているということと、従来のような国家間戦争が起きる可能性がほとんどなくなってきている。国家間戦争ではなくて内戦だとか、あるいは宗教が絡んだ宗派同士の対決ですね。こういったものに対して日本が一切関与しないということが、果たして好ましいのかどうか。日本にもしかしたらできることがあるのではないか。日本にできることがあるのではないかという発想から非常に限定的に自衛隊員の安全や、あるいは日本の平和国家としての理念というものを傷つけない範囲内で最低限できることを考えた結果が、今回の平和安全保障法案ということですから、これをもしも拒否することになると、日本は世界の安全への貢献というのが、先ほど申し上げたように戦争と平和の状態というものが非常にグレーになった、そうするとどこも危険、イギリスも危険、フランスも危険、世界中が危険ということになると結局は何もしないということになりかねないと。そこが非常に難しい。また、日本に国際社会が求めている新しい道ということだろうと思います」

山内昌之 東京大学名誉教授の提言:『中東は北東アジアの“鏡”』
山内名誉教授
「中東問題というものが、北東アジアの我々が抱えている問題を実は映し出している面があると。もっと具体的に言えば、1つはイランの核武装の可能性というのは北朝鮮から随分多くの援助、助言、示唆を得て行われたという事実があります。ミサイル開発も北朝鮮とイランの間では協力関係があると。ですから、私達は中東の問題に関して遠く離れたどこかという認識を持ちがちですが、イランのそういう技術、イランの考え方は、北朝鮮などにも影響を及ぼしている。ですから、私達は北朝鮮という、この間ずっと8年ぐらい6か国協議が正式に開かれていないのは、こういうような形で、北朝鮮は自分の利益を追求していますけれど、今回、ウィーン最終合意でイランが果実を得ましたよね。つまり、あのような形でやっていけば、北朝鮮も許されるのかもしれないといったようなある種の判断材料や考えていくようなものを与えたのかもしれない。ですから、ウィーン最終合意については、我々は手放しで喜ぶのではなくて、この国際的な波及として北朝鮮にどういう影響を与えるか、そういう観点も私達からすれば忘れてはならない面だと思います」

細谷雄一 慶応義塾大学法学部政治学科教授の提言:『関与』
細谷教授
「現在、グローバル化が進んで世界がつながってしまったわけです。ですから、MERSの感染症もそうですし、あるいは“イスラム国”の国境を越えての驚異というものは広がっていくわけですね。日本一国のみが閉じこもっているということは、もはや選択肢としてはあり得ないわけです。そうすると、日本が積極的に世界に関与しなければいけないわけです。戦前の日本は国際社会から孤立して誤った道を歩んだわけです。その反省から日本は戦後国際主義的な国家、国際協調というものを看板に掲げて、これまで歩んできたわけであって、これからもあくまでも国際協調というものを前提に世界に関与しなければいけない。ただし、これはあくまでも軍事力である必要はないと思います。つまりは日本の対外関与の中心は非軍事的な手段であるべきだと思うわけですが、しかしながら非軍事的な手段を中心としながらも、非軍事的な手段と軍事的な手段をどう組みあわせるのかということが大きな課題になってくると思います」