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2015年8月17日(月)
甘利明担当相に生質問 日中景気とTPP行方

ゲスト

甘利明
経済再生相/TPP担当相 自由民主党衆議院議員(前半)
菅原淳一
みずほ総合研究所政策調査部上席主任研究員(前半)
リチャード・クー
野村総合研究所主席研究員(後半)
熊野英生
第一生命経済研究所主席エコノミスト(後半)
武田洋子
三菱総合研究所チーフエコノミスト(後半)


前編

甘利担当相に聞く『TPP交渉』 大筋合意見送りの背景
秋元キャスター
「先月末、ハワイで開かれたTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉ですけれど、最後のチャンスとされてきたものの、結局大筋合意には至らなかったということで閉幕しました。甘利さん、合意に至らなかった1番の原因は、ニュージーランドの頑なな姿勢にあったとも言われていますが、どういうことだったのでしょうか?」
甘利担当相
「ニュージーランドだけのせいにしてはかわいそうなのですが、それもまとまらなかった要素の1つですね。それ以外にも知財の、生物製剤のデータ保護期間、特許ですね。特許に関わる期間の長短の問題で折りあいがつかなかったし、固有期限の期日についても全部処理できていない。いくつかはありました。その1つにニュージーランドの要求があったということですね」
反町キャスター
「ニュージーランドというと当然のことながら、乳製品だろうなと思うんですけれども、もともとニュージーランドは、TPPが始まる時に最初のオリジナルメンバーの1つだったんですよね?」
甘利担当相
「そうです。P4という…」
反町キャスター
「徹底的に関税を撤廃してニュージーランド産の乳製品や農産品を安く輸出するんだというところは終始、一貫していると思うんですけれど、ここにきて、まだがんばるというのは、つまり、彼らにとっては、まだ関税の障壁が残っているところが、怒りの種だったと。そういうことですか?」
甘利担当相
「ニュージーランドという国は、極端なことを言えば、乳製品以外はないと、自分達で言っているんですね」
反町キャスター
「産業が?」
甘利担当相
「ええ、もうこれに賭けるしかない。乳製品の競争力が強いものですから、どこの国も2国間のFTA(自由貿易協定)を結びたがらないんですよ。向こうから強い競争力のがくると、市場としては本当に小さいし、こちらが取るものがあまりないと。そういう2国間、FTA協議って、皆やらないですね。そうすると、WTO(世界貿易期間)がスタックしている状況ですと、このTPPに賭けるしかないです、彼らにとってみれば。このチャンスを使うしかないと。それでギリギリ最後の、言ってみれば、勝負というか、駆け引きをしてきたんですね。かなり過大なことをふっかけるのはどこの国も確かにやりますけれども。ちょっとよその国からすると、現在、ここで?という感じに映ったんですね」
反町キャスター
「甘利さん、法外な要求と記者会見で言っています。完全自由化をとことん求めたと、こういう理解でよろしいですか?」
甘利担当相
「いやいや、我々は、この交渉はホノルル合意と、我々が加入する前、9か国の当時の首脳の合意で物品の関税はゼロにしていくと。これを目指すということが首脳間で合意はされていましたけれども、我々は、最初から全部ゼロが前提ですか?そうではないでしょうということはアメリカと確認をしているわけです。安倍・オバマ会談で。最初からゼロを前提にしているのではないのだけれど、しかし、例外なくテーブルに乗っけて議論をして、ゼロではないのは交渉で勝ちとるんだということを確認したわけですよ。だから、交渉をやっているわけですよね。そこで、国会の決議もあるし、これはこの決議がある以上は関税をゼロにする、輸入システムをまったく変えてしまうというようなことはできませんよという主張を私はしているわけですよね。そういう中から、最終段階で、ニュージーランドに限らず、いろんな国がいろんな要求をしてきますけれど、そこはゼロではないということは理解をしつつ、しかし、ある種のこれまでの枠があるとすると、自分達としては、こういう枠を要求するみたいなことを言うわけですよね。それがとてもではないけれども、現実的とは思えない、最後の場面で」
反町キャスター
「壊しにかかっていると思いますか?」
甘利担当相
「ニュージーランドは最初のP4のメンバーですから、このTPPが壊れて、1番損をするのはニュージーランドですから。壊すつもりはないわけですよ。だから、最後の交渉をしているんでしょう。だけど、最後の駆け引きにしては、ちょっといくら何でも落としどころがありませんよというところですよね」

残された課題は
秋元キャスター
「乳製品以外にも今回のTPP交渉閣僚会合で残ったと言われる主な課題があるのですが。政府調達分野の国有企業の扱い、日米交渉におけるコメ、自動車部品。さらには自動車の原産地規制などですけれども、甘利さん、この溝もかなり深いものなのでしょうか?」
甘利担当相
「製薬会社を抱えている国と、製薬会社がなく、使用するだけの国との思惑は違いますよね。製薬会社を抱えている国では、特に、高度な製品、生物製剤のようなものは、特許を取って特許期間中に投資金額を回収しなければならないですね。べらぼうな投資をしていますから、あまり短いと回収しきれないと。そうすると、新薬開発ができなくなっちゃうんですね。だから、難病の薬というのは、これから莫大な投資をして、回収していかないといけないと。それができなくなるということは、この世から病気を追放できなくなります。一方、使う国にとってみればできるだけ安く、その薬にアクセスできないと病気が治らないということになります。あるいは保健制度のある国でも、保健審査をしていくのに高い薬をどんどん承認していったなら、保険会計がパンクしてしまいます。ですから、このせめぎあいです。足して2で割るみたいな具合に、なかなかいかなくて、じゃあ、本当に回収できるのは最低何年ならいいと。最低どこまであれば、新薬開発が止まってしまわないかというところで、探りあいになるんですね。これはどうしても開発国と使用国の思惑の違いというのが当然、ありますから、それをどこまでいろいろ精査をしながら近づけていくかですね」
反町キャスター
「日本は、この薬の世界においてはいわゆる特許を持っていて、特許の期間が長い方がメリットが受けられるのか。ないしはジェネリックをたくさんつくるので、期間が短い方が日本の中の薬価が下がってメリットが受けられるのか。日本の立場というのはどちら側にあるのですか?」
甘利担当相
「日本も開発メーカーを持っていますから、これは育てたいと思っています。成長戦略の中で医薬品とか、医療機器の開発輸出国になるというのが成長戦略の柱になって…」
反町キャスター
「目標ですよね」
甘利担当相
「ええ。なっていますからね。ですから、一定の回収期間がどうしても必要になってきますから。それと、薬は、認可した時に、臨床数というのはそんなに多くないですよ。患者さんに使ってもらって、安全で効能があるというのがわかった時に発売になるわけですね。日本の場合には、発売してから、対象者がうんと増えた場合に、予期しなかった小さい対象人数はわからないですね。副作用みたいなものが出てくることはあります。それがわかったら、すぐそれを安全にフィードバックするような期間があるんですね。だから、そういう意味で、ある一定の期間、ジェネリックに許可しないという期間というのが必要ですね。日本は発売をしてからも一定期間、後発部隊にアクセスをさせないという期間を持ちます。それはより広い対象で薬が使われた時に予期しなかった副作用が出たとか、それを改善するための期間として捉えているんですね」
反町キャスター
「そうすると、特許の期間をアメリカほどではないしてもジェネリックを主にする国よりはちょっと長めにおこうという日本の姿勢は、現在はまだ儲かるまではいっていないけれど、成長戦略の将来像として、日本は薬の特許なんかでも、国の儲かるビジネスの1つにしたいから、将来的にですよ、だから、アメリカほどではないけれども、もうちょっと長めの方がいいかなというスタンスをとることも視野に入っていると。こういう理解でよろしいですか?」
甘利担当相
「ええ、どちらかというと、アメリカに近いスタンスです」
反町キャスター
「そうかと言ってアメリカと同じに長いところまで持っていってしまうというのも…、これはTPPの日本の立場の微妙さってこんな感じでよろしいのですか?」
甘利担当相
「日本は、知財に限らず、アメリカと途上国との間に立って、取り持つという役割をしてきていますし、また、それを期待されていますから。そういう役割を果たしつつ、この知財の問題も歩み寄って、落としどころにしていきたいなと思っています。現在、そういう努力はしています」

今後のスケジュールは
秋元キャスター
「今後どうなっていくのかということですが、TPP交渉のスケジュールに関して、菅原さん、いくつかシナリオを持っているということですが」
菅原氏
「そうです。持っているというほどでもないですけれども、考えられるとしたら、おおまかにこの3通りかなということで、最も楽観的なシナリオということで言えば、8月中はおそらく無理だということだと思いますので、9月中、もしくは9月下旬ぐらいまでに大筋合意に至るということであれば何とか年内に署名ということができますので、1月は難しいと思いますが、アメリカの大統領選挙の予備選が本格化する前ぐらいに、アメリカの議会を通過させるということで、何とかオバマ政権内に発効まで持っていけるのではないか。というのが最も楽観的なシナリオとなります。ただ、相当、現在これが厳しくなっているということかと思います。最も悲観的なものというのがオバマ政権下では無理と。大統領選挙の影響もあって、なかなかアメリカ議会の調整もできないということで、アメリカで新大統領が誕生した、2017年の1月以降に、新大統領のもとで交渉仕切り直しなるというのが最も悲観的な、いわゆる漂流といわれるシナリオですね。中間というのが、その間で、12か国、アメリカも含め、オバマ政権のうちにはまとめたいだろうと。要するに、新政権になったら、民主党の大統領になろうと、共和党の大統領になろうと、もう1度これまで積み上げてきたものが崩されて、再度、交渉しなければいけない。これは避けたいだろうと。であれば、12か国として、何としてもオバマ政権の間で、現在のモーメンタムを維持して、何とかまとめたい。そこで、オバマ政権内に議会での承認を得るということを逆算すると、ちょうど今年の7月の閣僚会合からの1年後ろ倒しということになりますので、来年の夏までに大筋合意をすれば何とかオバマ政権内でアメリカ議会を通過させることはできるだろうということになるのですが、この場合は当然のことながらアメリカの大統領選挙の予備選が本格化しているということと、あと、日本の参議院選挙の直前ということで、これはなかなか日本としても難しい状況になってくるのかなということかと思います」
反町キャスター
「この楽観シナリオの可能性というのは、まだあるのですか?」
甘利担当相
「ええ、あると思います。ただ、8月中は、さすがに閣僚会合は無理ですね。私が8月中に開くべきだと言ったのは、要するに、交渉がだれてしまうと、前回の、ギリギリの最後のところまでの気持ちに全体を持っていくのに、また、時間がかかってしまうわけですね。だから、緊張感を途切らせないために、8月中にということを、アメリカに督促したんですけれども、アメリカが具体的な時期を明言しなかったのは、残されている、先ほど来、指摘のある、3つとか、4つの課題を全部、1つ1つ解決していった先でないと閣僚会合は開けないし、開くべきではないと判断をしている。それはその通りです。これまではどちらかというと、先に時期を決め、そこまでに追い込んでいくというやり方だったんですね。そこまで追い込んでいくやり方で、開いて。だから、確かに、間合いが縮まるのは確かですけれど、この次は間合いを縮めればいいということではなくて、まとめないと漂流する危険がありますから、だから、非常にアメリカも慎重になって、残っている問題を全部潰していって、まとまったということでないと開くべきではないという発想ですね。これはもちろん、正しいです。正しいのですが、ただ、そのためにだれちゃいけないということですから。8月が無理だとしたら、9月いっぱいにもという気持ちを持ち続けないと、漂流する危険性があると思うんです。切迫感を持ちながら、しかし、えいや、とやるのではなくて、ちゃんと残されている課題を詰めていくという、その両方の姿勢が必要だと思うんですね」

今日発表『GDP速報値』 4~6月期 実質年率1.6%減
秋元キャスター
「ここからは今朝、発表されました4月-6月期のGDP(国内総生産)速報値について聞いていきたいと思います。4月-6月期のGDP速報値ですけれど、物価変動の影響を除いた実質で、前期比、年率マイナス1.6%と、3四半期ぶりのマイナス成長となりました。甘利さん、この数値をどのように受け止められますか?」
甘利担当相
「結論から言うと、一時的要因が多いです。全部ではないです。ですから、悲観することはありませんけれど、やるべきことはちゃんと見えています。やるべきことは何かと言うと、消費が落ちているのは、消費と輸出が落ちているのは問題ですけれども、消費が落ちているのは、肌感覚として、物価の上がる方が収入の上がるよりも多いよという感じですね。ただ、総雇用者所得というのは実質でも4月-5月はプラスになっているんです。全体としては物価を超えてプラスになっているんですね。ところが、消費者感覚としては身のまわり品というか、食料品とか、生鮮食品とか、そういうものが上がっているのは直接目に入ります。原油価格が下がっていますから、これで相殺でしょうという感覚はないですね。毎日毎日買い物をする、食料品の値段が上がっているのが目につきますから。どうしても生活防衛になっちゃうんですね。だから、賃金をどう上げていくのかということを連続してやっていくと、あるいは設備投資を思い切ってしていく。日本企業の設備のビンテージは、競争国、相手国と比べるとだいぶ古くなっているんですね。だから、ここは新しいもの、生産性の良いものに変えていいはずですよね。そこに踏み切ってもらうということが必要ですから、この秋に総理が主催で官民対話を始めます。経営者側と政府側が投資を思い切って増やしていくためにその決意をしてくれと」
反町キャスター
「そこには労働は加わらないのですか?」
甘利担当相
「加わりません」
反町キャスター
「官民でやるのですか」
甘利担当相
「官民です」
反町キャスター
「政治と経営者ですね」
甘利担当相
「ええ、だって、組合は設備投資をすることに直接、関わっていませんから、経営側と政府の対話ですよね。こちらから、内部留保をそちらに使ってくれと、思い切って踏み出してくれと。経営側は、そのためにはこういう環境整備をしてくれという思いがあるでしょう。忌憚なく、キャッチボールをして、投資を拡大させる環境を整えるということですよね。その中でもちろん、賃上げも、実は業績を拡大するのに重要な要素ですよと、もう1回、認識してもらうと。経営者もそうですし、消費者もそうですし、日本中がデフレマインドから脱しきっていないですね」
反町キャスター
「まだ脱しきっていなんですか?」
甘利担当相
「いないです」

『経済再生』への方策
反町キャスター
「賃上げの話は、春闘の時にも安倍政権は連合の代わりに企業に対して賃上げを要求する珍しい政権だと、この番組でも何回かやりましたけれども、まだ続けていかなくてはいけない?」
甘利担当相
「それで、私が不満なのは、政労使それぞれが、自分がやるべきことをやりましょうよと。労にしてみれば何をやるかと言ったら、日本の産業構造をどう生産性の高いことに変えていくのかということからすれば、労働者の賃金を、うんと将来的に上げていくためには生産性の良いところで働いてもらわなければ困るわけですよ。生産性の悪いところにずっといるけれど、ずっと賃上げをって、それは無理ですからね。企業も生産性の高いところにシフトしています。ただ、労働力だってそちらにシフトしていかなければ。スキルをアップして、スキルをチェンジして、現在の生産性の低いところから生産性の高いところに移動をしていくと、社内移動もあれば、社外移動もありますよ。要するに、雇用の移動について組合側も攻める姿勢になってもらわなければ。だって、組合だけがずっとここでしがみついて働くと。ここで給料を2倍にしろと言ったって、それはできませんからね。給料2倍にするためには、こちらに移動して、こちらに移動するためのスキルをつけてもらわないとできませんよということを、前向きに捉えてもらって、21世紀型の雇用を守るという意識を組合側に持ってもらなければいけないですよ」
反町キャスター
「それは、でも、たとえば、労働組合がですよ、企業ごとになっているような状況ではなかなかしづらい。産業別に、たとえば、もっと幅広い、業界を横断的な労働組合がガチッとできるとか、ないしは働き方にしても、いわゆる、流動性というやつですよね。より生産性の高いというのは、より給料の高いところに、移動できるような、そのシステムというのが日本はなかなか整っていないと労働界の皆さんは言います。それに向けての環境整備というのは、これは現在の話を聞いていると、労働側は守りに入っているという話にも聞こえるんですけれども、それに向けた環境整備というのは十分やっているのですか?」
甘利担当相
「雇用保険は能力開発の部門を移動型に変えていっているんですよ。現在、雇用保険のシステムをより生産性の高いところに移動しやすいように、雇用維持型から、雇用移動型にシフトしていっているんですよ。その認識を持ってもらって、企業内でもいいです、企業内でも生産性の高いところにどんどん移っていくと。その間にスキルアップやスキルチェンジのスキームが入ってくると。それに積極的に取り組んでもらいたいと思います。企業を超えての移動を含め、産業、構造改革をしなければならないわけですから。構造改革に前向きなエールを送ってもらいたいと思います」


後編

今日発表『GDP速報値』 4~6月期 実質年率1.6%減
秋元キャスター
「4月から6月のGDP速報値が前期比、年率で1.6%のマイナスと発表されました。この受け止めは」
リチャード・クー氏
「これまでの日本は追いつけ追い越せが全てだった。それで全てのシステム、教育システムから会社のシステムまでできていたのに、現在、日本は追われているんですね、逆に中国に。我々は前を見ることには慣れていますが、後ろを見ることはほとんど慣れてないので、そこに大きな迷いがあって、それがおそらく人々を非常に消極的にしているのではないのかな、一生懸命にがんばっているのに何か全然うまくいかないねと。こういうものが根底にあって、だから、なかなかテイクオフしないのではないかなという気がします。私がアメリカに1970年代にいた時にはアメリカが追われていたんですよ。その経験と現在の日本が非常によく似ている。そういうところが、この迷いというのですか、何をやっても何かうまくいかないと。過去の成功体験がありますから、なかなか新しいことにトライできない。その中で迷っちゃう。そうすると、自信が失われていく。そういう状況にあるような気がしますね」
反町キャスター
「デフレマインドからの脱却ができていないとよく言うんですけれども、それはまさに現在言われているところでいう、日本の迷いがそこにある、という話になるのですか?」
リチャード・クー氏
「日本の企業はほぼ20年間ゼロ金利ですね。まったくお金を借りていないですよ。我々が教科書を読むと、金利がゼロになったら皆、お金を借りると書いてありますよね。その逆が起きている。それがずっと続いていて、最初はバブルの時に皆、借金しちゃって、バブルが崩壊しちゃって、借金だけが残ったまま資産価格が下がって、バランスシートがぶっ壊れちゃったと。これはしょうがないです、借金返済していかないと債務超過ですからね。これが2005年ぐらいには終わるのですが、そこから10年、まだお金を借りないです。これは何かということになるのですが、これは2つの理由があって、1つは借金に対するトラウマ。十何年間、借金返済した人が2度と借金なんかするものかと。こうなってしまうので、アメリカでもこういう経験があったのですが、日本もそれが1つあるなと。もう1つは、この迷いの部分ですね。これは何もこの1.6%減の数字だけでなくて、もう何年間もこの迷いの中に日本経済があった。ところが、これがなかなか晴れないものですから、こうしたらいいと言って、皆が納得すれば、日本というのは1回まとまると一気に行きますから、そのコンセンサスができるまでが大変ですよね」
熊野氏
「今日のマイナスは、これは予想の範囲内という人が多いんですけれども、私はさにあらずだと思いますね。1週間前から見るとサプライズではないですけれども、3か月前ぐらい、ゴールデンウィークですかね、その頃から考えると、これは大きなサプライズです。なぜかと言うと、皆、賃上げが進んで消費が増えると思っていたんですよ。それが今回、大きなマイナス、年率3%のマイナスです。これは何故か、迷いとも関係があると思いますね。データをいろいろ調べると、給料はそこそこ増えているのですが、消費は逆に減っているんですよ。つまり、収入が増えたのにお金は貯蓄して、代わりに消費を減らすと、なぜかと。これは生活防衛というか、守りの姿勢で賃上げになったから前向きに消費をしようではなくて、先々いろんな不安がある。迷いというか、不安があるから、貯め込んだと。もう1つ、迷いがあるのは、住宅着工が増えて、住宅投資が増えたんです。何で増えるんだと。クーさんは先ほど、借金をしないとおっしゃっていましたけれども、限界的な部分では借金してマンションを買っているんです。なぜかと。相続税対策です。今年から。これはまさに不安、先々どうなるのか。消費税が上がった時は高齢者が支出を手控えた部分があったのですが、今回4月-6月で手控えているのは、2人以上世帯、中堅所得層です。なぜかと。自分達の年齢が上がってきて、自分の親にもしものことがあったなら、相続税を払わなければいけないと。そうすると、消費するよりも現在増えた賃金の部分を現金で持っておこうと。ですから、いろんな様々な迷いがあって、作戦通りいかなかったというか、賃金はちょっと増えたんですけれども、なかなかそれが消費にまわらないのが悩みというか、迷いは結構、深刻な問題だと思いますね」
武田氏
「景気がちょっとおかしくなった起点は何であったかということをちょっと振り返りますと、海外情勢の雲行きが怪しくなったことというのが起点にあったと思います。それが輸出悪化につながって、生産の減少につながり、それが労働時間であったり、残業手当だったり、そういったものが減ってきて、その中でもともと迷いを持っていた消費者や企業の経営者さん達が少し設備投資を先送りしよう、あるいは家計については財布の紐を再び閉め始めようとしている、そういった兆しが、今回の結果に表れたのではないかと」

武田洋子 三菱総合研究所チーフエコノミストの1年後の経済見通し 『緩やかな回復』
武田氏
「確かに迷いというのはあるんですけれども、成長の地合というのがまだ大きく崩れていないと考えているためです。大きく理由は2点あります。1つは良好な雇用所得環境。これが現在非常に雇用基準について、たとえば、22年ぶりの有効求人倍率であったり、あるいは失業率が18年ぶりの低水準であったり、非常に良いということがあります。それから上がってこない、上がってこないと言われてきた実質の雇用者報酬も、今回のGDP統計を見ますと実質でプラスに前年比で転じているという特徴があります。従って、消費の環境、消費を取り巻く環境は、人々の気持ちさえしっかりすれば、出ていく地合にあると見ているのが1点目です。それから、2点目、もう1つは企業の行動ですけれども、企業収益が大企業を中心に過去最高水準にあるというのはもう事実ですね。なので、使おうと思えば、投資にまわすお金はあるということだと思います。実際そういう計画はしているんですね、企業は。日本銀行の短観を見ましても。それから、政策投資銀行の計画の値を見ましても製造業、非製造業ともに好調である。特に先日発表された政策投資銀行の製造業の設備投資計画を見ますと。これが2015年度の計画が1989年以来の高い伸びになっています。問題はこれでいつ実行するかという、そこですね。なので、将来に対して自信を持てれば、投資に踏み切るということですけれど、明るい兆しも見られていまして、設備投資計画の中に、投資の動機は何ですかという、計画の動機を聞いているんですけれども、中身を見てみますと、これまでの通り更新投資、これが多いのが事実なのですが、今回の特徴としてこれまでになかったのは、新製品の開発であるとか、あるいは研究開発投資、これはまだウエイトは小さいですけれども、これまでよりは増やしていこうという特徴があります。2007年の時も円安でかなり設備投資が増えた経験がありますけれども、あの時は能力増強投資が中心だったんですね。それに比べると、今回の動機は値としては低くても、むしろ新しいことにチャレンジしようという投資が増えてきていると。この点、今後期待したい」

熊野英生 第一生命経済研究所主席エコノミストの1年後の経済見通し『→』(波線の矢印)
熊野氏
「一言で言うと、私はやや慎重です。期待はするんだけれども、期待外れが年内続いて、年内というか、秋ぐらいまで続いて。1年後という話で、1年後に何があるかというとオリンピックがリオであると。オリンピックの前は、家電製品とか、電子部品の需要が出てくるので、それは持ち上がるし、またアメリカは大統領選挙の年と。大統領選挙の年は、1%ぐらいアメリカの成長率が上がるので、それも1つ。これは経験則なので、そうなるかはよくわからないですけれど、来年にかけては割にこう上にいく材料があるのですが、年内は、現在たぶん中国の減速がすごくマイナスに効いていると思うんですね。さらに年後半というか、もしかしたら9月の17日にアメリカが利上げをするかもしれない。そうすると、新興国がまたごたつくんです。9月から12月に利上げと言われているのですが、現在、9月の利上げ説の方が強まっているので、今回、武田さんは海外経済の悪化が起点だとおっしゃいましたけれども、まさにその通りで、海外経済を起点とした悪化の要因が年内、景気をごたつかせて、霧がかかったような不安定な状態と。武田さんの見方でちょっと私と違うのが、国内の好循環をあまり過大評価してはいけないのかなと。今日のGDPもまさにそうですけれども、賃金が上がれば消費が増えると。これはこれまでの常識だったと思うんですけれど、データを見てみると、賃金は増えても、皆それが貯蓄にまわってしまって、消費増加になかなかまわらないと。そういうのがあるんですね。先ほど、消費マインドのデータがありましたけれども、ここ1、2か月で見てみると、海外経済が悪くて、製造業とか、運輸の残業代が減っているので、それが先行きの生活不安というか、働き手の雇用マインドの悪化につながっているような部分があるので、海外経済の悪化の部分というのは国内にもじわじわとやってきて、消費マインドを落とすだろうと。そのことが先ほどの迷いという話でなかなかお金を使う環境ではないよねということで、なかなか消費に火がつかないと。これは年内続くのではないかと。あと設備投資に関しても、多くの人は大企業の設備投資計画をこんなにいいではないかというのがあるんですけれども、実際は、中小企業はマイナス計画です。これはどんどん上積みされていくので、着地がどうなるかはまだ見えないのですが、大企業の見える計画はすごく華々しいのですが、中小企業はまだまだ、なかなかファイナンス、融資とか資金調達がうまくいかないので、伸びないみたいな状況もあるので、好循環というのはアベノミクスですごくキーワードになりましたけれども、実際やってみると、好循環、いろんな需要がバトンタッチしながら上に向かっていくと。それはなかなかうまくいかずに、むしろ海外経済の悪化の方が、1990年代後半から日本経済は海外経済とのリンケージで非常に強くなっているので、海外経済が悪いのに、国内だけ好循環でうまくいくというのはちょっとこう過大評価」

リチャード・クー 野村総合研究所主席研究員の1年後の経済見通し 『追われる国の苦悩』
リチャード・クー氏
「私は日本生まれなのですが、1967年にアメリカに移民したんです。その時のアメリカはもう本当に元気で、皆さん自信満々。これからどんどん行くぞと。私みたいなのが当時、英語もできなかったんですけれど、がんばれと、いくらでも支援してやると本当にいろんな意味で支援していただいて、それでアメリカの社会にどんどん合流していくわけですけれども、1975年、約10年後ですよね、アメリカ人は真っ青になるんですね。どうしたんだ、これはと。それはどういうことかと言うと、当時アメリカが日本に次々とやられていく。家電、造船、半導体。当時のアメリカ人は、ドイツやフランスにちょっと抜かれても、何とか我慢できるのですが、日本に全部やられちゃったと。大変なショックだった。そこからどうしたらいいのだろうかというのが始まりまして、だいたい20年ぐらい続くのですけれども。そうやっているうちにこのままではダメだと。レーガノミックスというのが出てきた。これが結局、アメリカを救うんですね。うんと減税して、うんと規制緩和をやって。やる気のある人がITの仕事を始めまして、それが開花するのがクリントン政権ですが。そこから、日本に獲られたと思ったハイテク産業をもう1度取り戻しますね。現在の日本に必要なのは減税と規制緩和。つまり、我々は追われているのだ。追われている国がどうやって先に行くか。先に行けるのは残念ながらどの国でも限られているんですね。元気をつけて、彼らが最大限新しいものをつくっていく。日本はアメリカのあの例を学んで、うんと大胆にやろうと、一気に日本の税率20%にしちゃおうと。相続税も含めて。そうすると、多くの人達が、えっ、と気づくはずです」