プライムニュース 毎週月曜~金曜よる8:00~9:55(生放送)

テキストアーカイブ

2015年6月2日(火)
衝撃『シャープ苦境』 技術大国・日本の誤算

ゲスト

後藤田正純
自由民主党国家戦略本部事務局長 衆議院議員
中田行彦
立命館アジア太平洋大学教授
湯之上隆
微細加工研究所所長

シャープ苦境のワケ 内部で何が起きているのか
秋元キャスター
「今年3月期の決算で2223億円の最終赤字となったシャープですけれど、資本金の減資を考えています。その減資についてですが、説明させていただきますけれど、大きく分けて2種類あるんです。資本金をゼロにしています100%減資では、株主は全ての権利を失い、株式は紙屑になってしまうんです。これまでの例を見てみますと、日本航空やスカイマークが100%減資を実施しました。シャープが実施を考えている資本金を99%減らす、いわゆる99%減資では株式上場は維持され、発行済み株式数の変更もありません。ただし、その後の資本支援などで、発行済み株式数が増えれば、株主持ち分が目減りする可能性はあります。このシャープの減資についてなんですけれども、今月23日の株主総会で決議される予定です。この99%減資が実施されればシャープは存続しますが、経営状態は依然厳しいということには変わりはありません。シャープの再建計画を見てみますと、資本金1218億円から5億円への減資、国内で3500人規模の希望退職、従業員給与カット、大阪本社の土地と建物を売却と、痛みを伴う改革が並ぶわけですけれども、まず30年以上シャープの技術開発に携わってこられた中田さん、このシャープの経営危機をどう受け止めていますか?」
中田教授
「かなり厳しいですよね。実は前の時よりもかなり厳しいのではないかというふうに思っています。最初は黒字だと言われていたのが急に赤字になって。赤字も300億円と言われたのが2000億円になったんですよね。特に、先ほど言われたように減資という、最後の一手を使ってしまうような状態で、かなり危機感を持っていますね」
湯之上氏
「シャープが凋落する兆候を2度、過去に見聞きしました。それはまず遡ると2004年になります。日立を辞めて、同志社大学の経営学の先生になった時に、シャープの技術の責任者にヒアリングをしたことがあります。日本の半導体は壊滅的になりましたが、シャープの液晶は大丈夫でしょうかという質問をしたことがあります。そうしたら、その責任者は技術力も、コスト競争力も、圧倒的で、半導体とはまるで事情が違うんだという説明をされました。ところが、私は、その自信はいいんですけれども、同じ韓国メーカー、特に、サムスン電子は営業利益率で30%近い利益を出しているのに、シャープは3%しかありませんねと。シャープだけではなくて、日本の家電メーカーは数%しか営業利益を出せないんですね」
反町キャスター
「それは2004年の段階ですか?」
湯之上氏
「そうです」
反町キャスター
「10年前でもそういう状況だったんですね」
湯之上氏
「そうです。それで、なぜこんなに10倍も営業利益で差がつくのですかという質問をしました。すると、その開発責任者はよくわからないんだという答えをしたんです。半導体は壊滅したのですが、コスト高で、壊滅したという理由はわかっていました。だけど、シャープの技術開発者は利益率に差がつくかわからないとおっしゃった。腰を抜かしそうに(なるほど)驚いたことがあります。利益率が低い理由がわからなければ改善しようがない。ここで第1の不安の予兆を感じていました。2007年、世界の亀山モデルと言っていた頃、その頃、私は世界一周をしたんですけれど、家電売場ではシャープの存在感はなかった。世界シェアで見ても、10%もない状態だった。シャープは世界の亀山モデルと言っているけれども、それは日本だけで、日本の中だけで通じている、日本の亀山モデルではないかと。日本のコジマ電機とか、ヤマダ電機に行くと確かにシャープの製品がずらりと並んでいる。ところが、日本の需要と世界の需要は、まるで違うというのを現実に見ました。シャープの転落の予兆を感じとったと」
後藤田議員
「結局、担当役員が、社長さんに来年は増収増益ですと、経営計画を書いて、よし、がんばれなんて、モノをつくりますよね。そうすると、必ず市場に2、3割は余って、流通に叩かれて、安くなって。こんなことをずっと続けていたらおかしくなるのではないですかというのは、私は、実は僭越ながら、5年、6年前からずっと申し上げていまして、今回の件も、起こるべくして起こったという感覚ですね」
秋元キャスター
「シャープのここ10年の純利益の推移というのを追いながら、中田さんに解説していただきたいと思うんですけれど、2007年まで順調に黒字が続いていたんですね。2008年度に1258億円の赤字を出しています。まず中田さん、この赤字の要因というのは何だったのでしょうか?」
中田教授
「これは単純に言えば、リーマンショックで世界は同時不況だったと思うので、シャープだけの要因ではないということですよね。サブプライム危機があって、リーマンブラザースが破綻して、それが波及してきたということが起きたわけです」
秋元キャスター
「そのあと2009年度、2010年度と持ち直すんですけれども、2011年度には再び3760億円の赤字、2012年度も5453億円と、これまた巨額の赤字となっているのですが、この要因は何でしょう?」
中田教授
「堺工場への過剰投資ですけれども、実はそれをやった伏線がありまして、先ほど、ちょっとお話に出た亀山工場の話ですよね。亀山モデルということで非常に売れて、亀山工場のテレビをくださいというぐらいだったんですけれども、実は世界で見ると、10%、12%ぐらいだったんですよ」
反町キャスター
「シェアがですね?」
中田教授
「ええ。ところが、日本で見ると50%ぐらい(のシェアを)持っているんです。だから、まさにガラパゴス化していたんですね。1番は、投資額がめちゃくちゃ大きいと。トータルで見ると1兆円の投資だったんですね」
反町キャスター
「2011年と2012年を足すとだいたい1兆円ぐらいになるんですけれども、その背景はだいたい、そういう意味だと?」
中田教授
「すごく過大構想があって、過大投資をしたと。うまく、それが売れなかったので、マイナスが出てきたというところが大きいかなと思いますね」
秋元キャスター
「2013年度には、116億円の黒字となって持ち直しているんですけれど、これはなぜ持ち直したのでしょうか?」
中田教授
「実は大型(の液晶)ではなくて、中小型の液晶というのが、スマホですよね。スマホ用のものですけれども、それが中国のシャオミというところに食い込んだんですね。シャオミというのは、アップル、サムスンに次ぐ3位までになって、非常に伸びている。そういう意味では、そこに食い込めたというのが盛り返した理由です」
反町キャスター
「160億円の黒字を出した、この年に、解雇OBを再雇用したのですか、これはどういう意味ですか?」
中田教授
「高橋社長は、黒字になると思っておられて、赤字になると思ったのは昨年の末ギリギリですよ。と言うことは、問題なのはそういうマイナスの情報が上がらなかったと。黒字になったと思われていたために、こういう対策をとられたんですね」
秋元キャスター
「2014年度2223億円の赤字ということです。この要因は?」
中田教授
「シャオミという中国の中小企業のスマホ(の受注)がすごくとれて良かったんですけれども、それがジャパンディスプレイというところにシェアを奪われてしまった。これが1つの大きな問題です。もう1つは、人身の疲弊が考えられると。緊急の病室に入ってすぐ出た途端にそういうことをやったということが、はやくやり過ぎたという問題があろうかと思います。その1番問題が、先ほども言った、負の情報が上がらないために、黒字になると思いながら対策をとっていたと。それが急に上がったと。急に上がったために、実は外部から資本を集めるということができなかった。それが減資せざるを得ない状況につながっていくということですね」

日本のモノづくり産業の今後
反町キャスター
「ジャパンディスプレイですけれども、2012年に設立されて、ソニー、東芝、日立の3社の液晶部門を統合、政府系ファンドが出資する合弁会社です。出資比率は、政府系ファンド・産業革新機構35.58%、ソニー1.78%、東芝1.78%、日立0.91%となっているんですけれど、シャープはこのジャパンディスプレイに敢えて参加しなかったということなのですが、中田さん、これはなぜなのでしょうか?」
中田教授
「液晶技術に自信があったのだと思うんですね。1つの問題は、ジャパンディスプレイというのは実は政府主導型の企業ですね。なかなか政府系のものは動きの問題とかで成功していない事例が割と多いということもあったのではないかと」
反町キャスター
「それはシャープがそう思って、この官民合同というか、事実上、政府がとりまとめをしようとしたジャパンディスプレイに乗らなかったと?」
中田教授
「それはシャープとして公式に言っているのかわかりませんけれど、私の判断ですけどね」
後藤田議員
「これは専門家のお二人に聞いていただきたいんですけれども、日本は台湾勢に真似できない低温技術ですか?」
中田教授
「低温ポリシリコン」
後藤田議員
「そこらへん専門的におっしゃっていただいたんですけれど、ああいうものをとりたいということでシャープが草刈り場になるのではないかという、我々はそう懸念しています。ですから、ジャパンディスプレイに参画しなかった。これを今さら攻めてもしようがないので、これからは技術流出と言いますか、そこを国家としては、戦略的に、シャープ自体もそうですし、技術者の流出をしっかりと押さえないといけない。だから、ジャパンディスプレイに戦略的に、政策的に抱え込むのもいいし、仮にそうでなくても、他の企業に持っていかれないようにしなければいけないと」
中田教授
「見ていますと、韓国とか、台湾のメーカーに行かれている方がかなりいるんです。それまで全然知らなかったのですけれども、非常に多いですね。それは生活がありますから、個人の問題としては行こうとするのは当然ですよね。だから、政策としてどうするかだと思うんです。だから、今後も間違いなく流出する…」

スマホ液晶をめぐる熾烈な争い
秋元キャスター
「中国のスマートフォンメーカーのシャオミですけれど、2010年に創業し、格安スマートフォンで世界シェアを伸ばしています。このシャオミのスマートフォンの液晶画面シェアをシャープが獲得していたのですが、現在は、ジャパンディスプレイがシェアを獲得したのではないかと言われています。このスマホメーカー、シャオミですが、2014年の7月から9月期のスマートフォンの世界シェア1位がサムスン、2位のアップルに続いて、3位はシャオミですね。創業からわずか数年で、飛躍的に世界シェアを伸ばしたということですけど、中田さん、シャオミはなぜ世界シェアを急激に伸ばせたのでしょうか?」
中田教授
「シャオミのビジネスモデルが優れていると思うんです。それはどういうことかというと、部品というものはかなり有名ブランドのものを使います。販売するのは店を使わずに、インターネットで売りますと。それで安く売りますということですよね。ですから、どこの会社のどういう部品を使っているかというのを実は公表しているんですよ。普通は隠しますよね。そうではなくて、こんな部品を使っているんですと。でも、こんな価格ですよという、こういうビジネスモデルですよね。それもあって最初シャープのネームバリューがあって、IGZOという新しい技術を使っていたために最初はかなりのシェアをシャオミの中でとったという。それが復活した、1つの理由です」
反町キャスター
「シャープがシャオミの中で、シェアをとったと言いましたけれども、どのぐらいのシェアをとったのですか?」
中田教授
「回復した時は50%か60%ぐらい。シャオミの中で、とっていました。
反町キャスター
「新興スマホメーカーの液晶部門を、50%から60%とるということは、シャープの経営にとっては、これは非常に長期にわたって、安定して、高収益を望めると、皆が思ったという。そういう状況だったのですか?」
中田教授
「そうですね。だから、それがあとにマイナスに働くという、だから、シェアが奪われるとは想定していなかったんですね。だから、それをとったために、かなり回復ができたという実績がありましたから。そういうものをいかに維持するかという。かなり中国のスマホというのは競争が非常に激しいですから」
反町キャスター
「シェアを奪われた相手は、同じ日本の中のジャパンディスプレイですね。これをどう見たらいいのですか?」
中田教授
「シャープ液晶パネルは、実はその上にタッチパネルという、この上のものがない、働かないんですね」
反町キャスター
「フィルムを1枚載せているようなイメージ?」
中田教授
「スイッチみたいなものがついているんですよ。だから、それを上から押すと効くと。だから、この上のタッチパネル、台湾のメーカー、ウィンテックというところが実は経営破綻したんですね。これが手に入らないと、ここだけ入ってもスマホに使えないという状態に陥ってしまったんですね」
反町キャスター
「シャープが?」
中田教授
「はい。どうしたかというと、実はジャパンディスプレイというのは、この上は要らないと。実はこの中にインセルといって、センサーが入ったものがあったんです。だから、この上のものがなくなったから、実はこちらだけでいけるジャパンディスプレイに変わったと。それが1つのトリガーですね。もう1つは、ジャパンディスプレイとしてはかなり安値攻勢をかけて、と言うのは、ジャパンディスプレイというのはいろんな政府も含めた寄合で、かつ、それは株式公開をしたのですが、この株式公開の株価は、900円で公開したんですよ、公開価格は。ところが、半値以下に落ちているというところで、実は焦りがあったと思うんですね。何とかこれを回復しないといけないと」
反町キャスター
「それは、シャオミに対して、シャープが持っているシェアに対して、ジャパンディスプレイが安値でチャレンジしてきた、いつ頃なのですか?」
中田教授
「2014年の10月頃から結構、増えていますね」
反町キャスター
「900円の売り出しが300円そこそこまで。先ほど、半分とおっしゃいましたけれど、3分の1まで株価が落ちて、ジャパンディスプレイ、本当に厳しいぞという状況で、安値でシャープのマーケットにチャレンジしてきた。こういうことでよろしいのですか?」
中田教授
「ええ。でも、1つは、技術は持っていたということです。インセルという技術を持っていたということは事実です。背景としては、そういう状況があるために、シェアをとらなければいけないということもあって、安値攻勢をかけたという2つの合わせ技で、日本対日本の戦いになったと」
湯之上氏
「現在スマホでは、中国が最大の市場になっています。中国が年間5億台とか、そのぐらいの市場になっていて、ここが激戦区ですね。この中国市場で、シャオミは30%とか、40%、サムスンを上まわる非常に大きなシェアをとっているんですね。2年ぐらい前にビジネスモデルの大構造転換が中国で起きたんですよ。シャープとか、ジャパンディスプレイは、パネル、部品を端末メーカー、シャオミに売ると。シャオミがどちらにするのかを選ぶように思われているかもしれないのですが、そうではなくなってしまった、2年前ぐらいに。誰がこの部品を選んでいるのかというと、スマホの中に、半導体部品がいくつか入っています。その中の主なものは、データを蓄えるメモリー。それから、演算をするプロセッサーというものがあります。このプロセッサーをつくる半導体メーカーがスマホの設計図を準備し、それに使う推奨部品リストをつくる。それとともに、プロセッサーを端末メーカーに売るというようなビジネスモデルが、2年前から普及し始めていたんです。これは、台湾のメディアテックという会社がやり始めました。なぜそういうことをやり始めたかというと、中国は最大のスマホ市場だけれど、なかなか技術が追いつかなくなっていて、なかなか中国メーカーが自分でつくることができない。プロセッサーを売っただけではつくれないと。だから、プロセッサーにスマホの設計図をつけてしまいましょうと。このようにつくれば、つくれますよと。さらに、部品はこれを使えばできちゃいますよという売り方を始めていたんです」
反町キャスター
「要するに、あとは人件費が安い中国でつくれば儲かるよと。そういう話ですね?」
湯之上氏
「そうです。それで、2年前から中国では、靴屋からでもスマホメーカーになれますなんてことが言われ始めて、スマホメーカーが乱立したんです。そのような中で成長してきたのがシャオミですけれど、シャオミはハードウェアを原価で売るんです。ハードウェアには一切利益を乗せない。何で利益を得ているのかと言うと、たとえば、200ドルでつくって、200ドル売る。これは、アップルは、たとえば、800ドルで売るんですね。200ドルでつくって、これで音楽をダウンロードして、聴いてください。映像をダウンロードして、観てください。あるいは楽天ではないけれども、インターネットショッピングで買ってくださいというように、シャオミのスマホを使って何かやるとシャオミにチャリンとお金が入る。そういうビジネスモデルにしたんです。だから、圧倒的に安く、公正なモノが中国でワッと売れる。しかも、部品選定権はシャオミではなくて…」
反町キャスター
「台湾のメディアテック?」
湯之上氏
「そう。プロセッサーメーカーが持っている。先ほどのジャパンディスプレイとシャープのパネルの競争において、シャープはこのビジネスモデルに乗り遅れたのではないかと判断をしました」
反町キャスター
「設計者であるメディアテックが指定した素材がジャパンディスプレイだった?」
湯之上氏
「そこに売り込みに行かなければいけなかった。シャオミに行ってもダメですよ。端末メーカーに行ってもダメで、プロセッサーメーカーにこれを推奨部品リストに載せてくれと言わないと、中国では部品ビジネスができない時代になった」

半導体売上げ凋落の背景
湯之上氏
「ここに各種機器の変遷を10年ごとに書いたのですが。コンピューター、電話、テレビ、車です。半導体というのはこのような機器に使われる部品です。重要な部品です。このような機器の動作をうまくやるための部品、あるいはデータを蓄えるメモリーとしての部品ですね。これを見てわかるように、たとえば、コンピューターで言うと10年ごとに状況が変わるわけです。最初はメインフレーム、大型コンピューターの時代、それがミニコンピューターになって1990年にパソコンが普及し、2000年になってノートパソコン。現在、皆さんはスマホをお持ちだと思うのですが、あれは携帯電話機能付コンピューター、超小型コンピューターというようなものですね。このように10年単位でエレクトロニクス、あるいは車の機器は大きく変化をするんですね。そうすると、そこに使われている部品も同時に変化しなければいけないわけです。この変化に追随していけない企業、国は、淘汰されるしかないです。一言で言うと、日本はこの変化に追随できなかった。これが大きな要因です」
反町キャスター
「いつ、どういう変化があったのですか?」
湯之上氏
「たとえば、コンピューターが1番わかりやすいので、まずメインフレームというものがありました。たとえば、銀行とか、政府とか、大企業のホストコンピューター。非常に重要なデータを蓄えるためのコンピューターです。これに日本の半導体メーカーはDRAMと呼ばれるメモリーというものを提供していたわけですが、この時コンピューターメーカーがどのような要求をしたかと言うと、一切壊れないものを持ってこいと。誤動作しないものをと。それを数字で表すと、25年の品質保証だと。25年一切壊れないものを持ってこいと。驚くべきことに日本はそれを実現してしまったんですね。ですから、1970年代、1980年代に日本の半導体メーカーが黄金時代を迎えたのは、よく低コストで世界に勝ったというのもあるのですけれども、それよりも超高品質が競争力だった。それが日本の半導体の黄金時代を築き、産業の米と言われるようになったんですね。ところが、メインフレームがミニコンピューターになり、パソコンとなってくるわけです。1990年にはパソコンの時代を迎えます。そうすると、パソコンに25年保障の高品質なメモリーが必要ですかというと、要らないわけですね。重要なのは何かというと、メインフレームは1台何億円もするかもしれない。だから、メモリーが1個が100万円でもいいかもしれない。でも、パソコンは1台10万円、せいぜいそのぐらいの価格でないと売れない。だから、メモリーも安くないといけない。しかも、たくさん売れないといけない。現在パソコン市場は年間だいたい3億台ぐらいです。だから、安く大量生産するというのが必要になったわけです。ところが、日本はメインフレーム時代に大成功したわけです。高品質なDRAMをつくって大成功したと。パソコンの時代が来ても、相変わらず25年保障のDRAMをつくり続けてしまったんです」
反町キャスター
「それではダメなのですか?」
湯之上氏
「非常にオーバースペックになります。高品質を保障するために手間暇かけてつくりますから、コストも膨れあがると。だから、利益が出ない。一方で、この時に成長してきたのは韓国、特にサムスン電子ですけれども、パソコン用に狙いを絞って安く大量生産する。品質は3年か5年程度でいいだろうという、つくり方をする。だから、私から見ると、破壊的に安くつくる技術で日本を凌駕していった。よくあの日本は技術で勝ってビジネスで負けたというような言い方をしますが、技術でも、ビジネスでも負けました。つまり、安くつくる技術がなければパソコン用のDRAMとしてはビジネスにならないからです」
反町キャスター
「安くつくる技術というのは日本にはないのですか?それとも、それに目を向けていないだけですか?」
湯之上氏
「1度高品質なものをつくって、それが定着すると、グレードを下げるというのは極めて難しいというか、できないです。半導体工場にも、開発センターにも、こういう高品質なモノをつくるというのは、文化として根づくんですね。それに逆らうということはほぼできないですね」
反町キャスター
「逆らうのに、抵抗するのは誰が抵抗するのですか?」
湯之上氏
「トップからトップダウンでこれは原価がこれこれでつくらなければいけないというのを、強烈に指し示さないといけないのだけれども、トップですらそういうコスト意識がなかった」
反町キャスター
「日本のメーカーには?」
湯之上氏
「はい。そうすると、半導体の技術者達、その時は私も技術者でしたけれども、非常に細分化されているんです。設計は大きく分けると4段階。プロセスも大きく分けて10段階。DRAMというメモリーをつくる工程は500工程以上になるんですけれども、1人が担当するのは2、3工程です。自分が担当している工程を間違いなく行うと。全体像は見えないわけです。最終的にその工程の全てのコストが積算され、DRAM1個はいくらとなるんですけれども、これは最初からいくらでつくるんだというと、トップダウンがあって、それ用の設計をゼロベースで行って、ゼロベースで行程フローを作成しないとそのような低価格のDRAMをつくることができないわけです。たとえが良いか悪いかわからないですが、トヨタはレクサスという高級車をつくっていますね。レクサスをつくっているトヨタに軽自動車をつくることができるかというと、レクサスを切って、貼って、削っていたら軽自動車になるかと言ったら、ならんわけですよ。軽自動車用の設計をゼロからしないと、軽自動車はつくれないわけですね。コンパクトカーもそうです。だから、ダイハツをグループ企業に囲っているんですけれども、1度レクサス仕様のDRAMをつくってしまって、それが標準になってしまうと、本当にゼロベースから設計し、工場をつくり直さないと、そういうものはつくれないです」
反町キャスター
「恐竜とは言いませんけれども…」
湯之上氏
「恐竜です。まさに」
後藤田議員
「世界の潮流は水平分業になっていますよね。日本は垂直分業的で、非効率で意思決定が遅くてということなので、海外向けのマーケットは戦略を変えて、第3国でつくって、そこで売るとか。そこで配当収益を得るとか、そういう戦略でやればいいんですよ。先進国のアッパークラスの所得の方に対しては高品質なものを売っていくと、戦略的にやってしかるべきなのでしょうね」

高コスト体質から抜け出せない背景
秋元キャスター
「なぜ日本は製造コストが高いのでしょうか?」
湯之上氏
「いくつか要因があるんですけれども、半導体を製造するには、半導体の製造設備を何百台も並べないといけないですね。これが相当この原価に効くんですけれども、先ほど言ったように、非常に高品質なモノをつくりたい。高性能なモノをつくりたいと。だから、製造コストの数がそれだけでまず増えている。たとえば、1番高い装置で言いますと、リソグラフィーの露光装置というのがあるんですね。回路を転写する装置です。それが1台50億円するんです。それが1つの標準的な工場では10台とか、20台いるわけです。それだけでも500億円とか、1000億円かかるわけですね。ですから、どれだけ簡単に装置を少なくシンプルにつくれるのか。安くつくるにはこれまず重要ですね。ところが、日本は高品質で成功してしまったから、そういうところに対する配慮がまるでない。それから、先ほど言ったように、1台50億円もする装置を使ったりするわけですよ。この50億円の装置を24時間フル稼働できればまだいいですけれど、日本のメーカーというのは処理効率のことをスループットと言ったりするんですけども、あまりこれも重視していなかった。先ほどの50億円の高い装置をつくるメーカーは、日本のニコン、キャノン、それと、オランダのASMLがあるのですが、日本が強かった頃はニコンとキャノンの天下だったんです。現在、オランダのASMLが80%のシェアをとるようになって、ニコンもキャノンも瀕死の状態ですね。それはどうしてそのようになったかと言うと、ASMLのスループットが抜群だからです」
反町キャスター
「スループットとは何ですか?」
湯之上氏
「処理効率、1時間の間にどれだけウェハーを処理できるか。ところが、日本のメーカーはなかなかこのオランダの装置を使わないです。処理効率にあまり関心がなかったわけです。そういうところでも大きなコスト予算が出てくるわけです。だから、なるべく少ない装置で単純なプロセスで安くつくりたいと。しかも、その装置の処理効率を上げて原価を下げたい。韓国のサムスン電子、台湾のTSMCなどはそういうところを追求しているわけです。コストこそ命であると」

後藤田正純 自由民主党国家戦略本部事務局長の提言:『現場回帰』
後藤田議員
「本当に市場が何を欲しているかという、もう1回世界が何を欲しているか、また、いろんな層が何を欲しているかというのをもう1回現場で考え直して、それをモノづくりに反映していっていただきたいし、企業内も経営者が現場の声を本当に、正確に吸いとるということですね。思い込みではなくて、そういったことをやる意味で、現場にもう1回帰って、良いモノではなくて、売れるモノをつくっていただきたいと。そう思っています」

中田行彦 立命館アジア太平洋大学教授の提言:『すり合わせ国際経営』
中田教授
「実は先ほど、メディアテックの話がありましたけれども、設計図があって、決まった部品を組みあわせればできると。こういうものは、中国は強いと思うのですけど、日本で本当にそんなのやっていいのかと。たぶんそれは中国に勝てないと思うんですね。日本はどういうことをすればいいか。それはすり合わせだと。そういうモジュールの組みあわせるという反対で、いろんな企業と連携し、そこで微調整をしながら、新しい会社をつくる。これがすり合わせです。そのすり合わせを使って、グローバル市場で勝つという形を考えています。ですから、日本ではすり合わせで何を強みとしてつくったらいいのか。アップルは構想力と言っていますけれど、同じようにコアとなる部分は日本でつくって、それを最適な場所で、グローバル市場に向かって生産すれば良いのではないかというのがこの考えです」

湯之上隆 微細加工研究所所長の提言:『ピン』
湯之上氏
「人間にはピンからキリまであると。おしなべて日本の教育というのはキリに標準をあわせて落第させない。ピンではなくて下の方に標準をあわせてきたと思うんですね。これには良いこともあって、非常に良質な労働力を確保できて、高度経済成長も実現したと。技術者には非常に真面目な人が多く、スペシャリストも多い。半導体の例で言うと500工程と多岐にわたるんですけれど、各工程にスペシャリストがいる。非常に真面目に仕事をする。だけども、足りないのは何かと言ったら、ピンだと思っているのですが、これは東芝からヒューレットパッカードを経てスタンフォード大学に行った西義雄さんという先生がいるんですけれども、半導体の世界では非常に有名ですけれど、湯之上君よ、世の中を見てご覧よ。一国を引っ張っているのも、一社を引っ張っているのも、一握りのピンだと。スタンフォード大学では、このピンをいかに、ピンとして育つように、教育はしない、アドバイスを与えるというようなことを聞いたことがある。日本に足りないのは明らかにピンだという気がするんです。各技術のスペシャリストはいると。だけど、その技術のスペシャリストは皆蛸壺に入っている。お互い隣の技術は知らないと。市場全体もよくわかっていない。原価構造もよくわかっていない。そういう人達の中から、トップが出ていってしまう。的外れな采配を振るってしまう。複数の技術に精通していて、市場のこともわかっていて、これをいったい何台、どこで売ると、どのぐらいの利益を得られるか、そういうこともわかると。こういう人が経営者になる、あるいは技術の責任者になる。こういうピン、だいたい好調な企業というのは社長がピンです。だから、ピンを見いだし、育てて、そのピンを活かす組織をつくる。これは政策でも、教育でもそうなんですけれど、それが日本に必要なことではないかと思います。実際やっている企業があります。トヨタですね。トヨタには主査制度があるらしいです。クラウンの主査というのは、クラウンの全ての事項に責任を持つ。主査は1つの会社の社長です、本当の社長は主査の助っ人です。こういうことをうまくやっているところは成功している。エレクトロニクスに残念ながら主査のような人はいない。だから、エレクトロニクスにもピンを」