プライムニュース 毎週月曜~金曜よる8:00~9:55(生放送)

テキストアーカイブ

2015年1月22日(木)
“イスラム国”と標的 どう進む?期限と交渉

ゲスト

内藤正典
同志社大学大学院教授
宮家邦彦
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本人人質事件 “イスラム国”の思惑とは
秋元キャスター
「日本人2人の拘束映像にありました“イスラム国”と見られる声明文を、連日伝えていますが、『日本の首相へ。日本は“イスラム国”から8500キロも離れていながら、自発的に進んで十字軍に参加した』としたうえで、日本政府が約束した“イスラム国”関連の人道支援に関する2億ドルの支援について触れ、最後に『日本人の命を救うのに2億ドル支払うという賢明な判断をするように政府に迫る時間が72時間ある。さもなければ、このナイフがおまえ達の悪夢となるだろう』と脅迫しているのですが」
反町キャスター
「この話で言うと、いわゆる難民支援、避難民に対する支援というものを、総理が言ったことを受けてのメッセージ。コンテクストとしてこうなっているのですが、2億ドルという数字も含めてですよ。そういう意味でいうと、“イスラム国”は今回の総理が発表した難民支援、避難民支援というものを、行為そのもの自体に対して敵意があると。そう理解をしたということでよろしいですか?」
内藤教授
「いや、そうではないと思うんですよ。イスラム的に言えば、イスラムというのは弱者の救済というものを非常に重んじますから。現在、中東は弱者だらけですよね。シリアは内戦、リビアは崩壊寸前、イラクもイエメンも。そういう状況にあって、総理が言っているのは、中東に対して民衆支援を中心にして、あるいは難民に対する医療だとか、そういうことの支援をすると言っているんですから、その上げ足をとるのは本来まったく理にかなっていないということになるんです。ですから、無理やり、そこに十字軍というのを入れていると思うんです。十字軍の仲間だと言うことによって、逆に言えば、本来、日本政府がやろうとしている援助の話を消してしまって、これを悪意にとろうとすると。ちょっと論理の構成として無理があります」
反町キャスター
「十字軍の根拠としてこの話があると思うんですけれども、18日、総理の中東政策スピーチの中で、こういうことを総理は言っているわけです。特に『“イスラム国”と戦う周辺諸国に、総額で2億ドル程度支援をお約束する』と。この難民支援にしても、インフラ整備にしても、難民支援、避難民支援とは言いながらも、“イスラム国”がもたらす脅威を少しでも食い止めるためである。また、インフラ整備に関しては“イスラム国”と戦う周辺諸国に2億ドル支援すると。今言われたように難民支援、避難民支援、インフラ整備はイスラムの世界においては否定のしようがないものであるとしても、その前提として、“イスラム国”がもたらす脅威ないしは、“イスラム国”と戦う周辺諸国。ここの部分が、彼らのトリガーに触れたという説明はいかがですか?」
内藤教授
「そうだと思います。現地でのスピーチから上げ足をとるとして、ここの部分が1番とれるところですよね。ただ、ISILと戦う周辺諸国と言いますけれども、全てあのへんの国は同じように戦っているわけでは毛頭ないんですね。どこが戦っているかというと、当事国を見た時に、シリアは戦っています、イラクも戦うと言っていますけれども、しかし、周りの国になると間接的にやったり、アメリカと有志連合軍に一部で空爆に参加したりということであって、全面戦争の状態ではないわけですね。だから、おそらく非常に残念なことに上げ足をとられたのは、ここの部分だろうと思いますけれども、上げ足をとったことが正当だとは、私は思いません」

政府の情報収集は?
秋元キャスター
「今回の事件を受けまして、中東歴訪の日程を切り上げて帰国した安倍総理ですけれども、日本の情報収集、それから交渉ルートについては、このように話しています。『徹底した情報戦を展開していく必要がある、地球儀俯瞰外交で培ってきた中東各国との信頼関係、あらゆるチャンネル、ルートを最大限活かす』と発言しているのですが、その現状について、今日、菅官房長官は人質の安否がまだ確認できていないとしながらも、『中東各国との情報交換などあらゆる外交ルートを使い、早期解決に向けた対応を続けている。中山外務副大臣が、ヨルダン国王に日本人の解放の協力を要請し理解を得た』と述べているんですけれども」
反町キャスター
「過去の事件に対応された宮家さん、たとえば、過去において日本人の、高遠さんとか、香田さんとか、そういうようなケース、あとイランにおける中村さんとか、そういう対応の時というのは政府に働きかけたり、ないしは部族長に働きかけたり、そういう形でアプローチをして、それで壁にあてていく形でやっていたのではないかという話を聞いたことがあるんですけれども、今回のグループ、“イスラム国”に対しては、そういうアプローチが通用する相手と考えられますか?」
宮家氏
「これは内藤先生の方が詳しいけれど、私は最初に言うと、まず全ての人質事件は全てが特別です、1つ1つ別々です。従って、解決は全てケースバイケースだし、特効薬はないです。ですから、地道に情報を集めて、相手が何を求めているのか。そして、次に我々は何ができるのか。バランスを考えて何が1番良いオプションかを考えていく。これを瞬時にやらなければならないですね。そのために、いろんなところに網を張っておいて、その中で、釣りではないけれど、糸を張っておくわけですよね。そうすると、一本ピ、ピ、ピーンと来て、これがもしかしたらというのが、ダメだった。これかなと、パ、パ、パといって当たる時があるわけですよ。それがどう当たるかは全ての人質事件、別です。ただ、先ほどイラクの話がありました。2004年のケースですが、私が知っていることは限られていますけれども、少なくとも、現在と大きく違うのは3点ある。第1は、あの時はイラクの国内で起きました。イラクの国内には内戦が当時なかった。ファルージャは若干揉めていましたけれど、現在のような状況ではありません。第2に、大使館がありました。大使館が普通の情報活動、ないしネットワークを持っていましたね。第3には、言い方に気をつけなければいけないけれど、高遠さんの相手はファルージャのお兄ちゃんだったんです。素人だったんですね。少なくともプロのテロリストではなかったと。これは1番決定的に大きかった。だからこそ、イラクの国内で宗教指導者である部族長達と連絡をとった時に、比較的はやくわかった。これは幸運だったと思います。しかし、現在はどうなのですか。シリアの国内は内戦でしょう。大使館もないです。手足があれば情報が入るというものではないけれども、そのうえ相手は残忍なプロなんですよ。ですから、同じように考えるのは非常に危険で、1個1個手づくりでやっていかないと、昔こうだったからとか、あの時はこうだったというのはあまり意味がないと私は思っています」
秋元キャスター
「内藤さん、いかがですか?交渉の余地などは」
内藤教授
「もう1つ付け加えるとすれば、以前のケースはイスラムが前面に出ていないという。香田さん以降のイスラム過激派のいわゆる殺害になって、しかも、今回の場合は、イスラム過激派というのではなくて、1つのボディを持っていると。“イスラム国”と名乗っていますよね。これはもちろん、初めてのケースになります。あらゆる角度からの情報収集というのが非常に困難を極めるだろうなと思うのは周辺国のどこもがもちろん、“イスラム国”を嫌っているわけです。その中で嫌いながらも、実際に人質をとられ、かつ解放交渉をして、解放させたのはトルコですね。このトルコのやり方を見ているともちろん、私は外から見ているだけですけれども、確かにこれしかないのかなというぐらい外堀を、徐々に埋めるようなことをするんですね。これは普通の言論でやっているんですよ。たとえば、国内で“イスラム国”は敵だ、叩くべきだと声が上がった時に、大統領にせよ、首相にせよ、事柄の繊細さというものをわきまえろという形でポーンとはねるんですね。特に、野党がそう言うと、与党がポーンとそういうふうに返して。このやりとりだって、国境を跨いですぐ反対側に“イスラム国”がいるわけですから、トルコでどういうやりとりをしているかということは逐一わかる。わざとわかるように、政府首脳がそういう発言を繰り返すことによって、ある意味、敵だとは言っているのですが、必要以上には敵視していないよと」
宮家氏
「政治的メッセージを送っている」
内藤教授
「非常に上手な形で繰り返し、繰り返し送りましたね。その間もちろん、外交的に見てもトルコは、御承知のとおり、NATO(北大西洋条約機構)のメンバーですけれど、米国が再三に渡って、対“イスラム国”の戦闘に参加するように促しましたけれど、トルコは頑として首を縦に振らない。もちろん、人質がいた時はそうでしたけれど、しかし、人質が解放されたあとも一貫してやらない。隣国ですからね。やったら絶えず人質にとられるリスクがあるということですから、総理や官房長官が言っていることは、何も言えないという前提の下に言っているわけですから。ただ、従来の周辺国への依頼の仕方、もちろん、変えているとは思うのですが、たとえば、1つ、素人として恐縮ですけれども、外相、防衛相がイギリスで会合をやっていましたよね。あそこでイギリスに対して支援とか、協力というものを求めてしまうと、イギリスはそれこそ十字軍の真っ只中にいる国なので、これはちょっとそれを表に出す必要はなかったのではないのかなと思います。それはもちろん、内々に協力は要請したとしてもですよ。どうも、そういうところの動き方がちぐはぐに見えるんです、素人として見た時に。総理が出しているメッセージと、外相、防衛相がイギリスで言っていることとの間で。もともと予定されていたことなのだから仕方がないのかもしれませんけれども。もし十字軍というところを重視するならば、そういう対応をしてしまうと逆に目立つことになると。近隣国に支援を要請するという中でトルコを重視した方が良かったのではないのかと思っています。もちろん、ヨルダン、アンマンに現地対策本部を置くというのはいろいろなメリットがあるだろうということはよくわかるのですが、この2年、3年の間、トルコとの間には首脳の往来が非常に活発だった。2013年には安倍総理自身が2度トルコを訪れている。もちろん、原発の売り込みなどいろいろありましたが。2014年1月にエルドアン現大統領が、当時は首相ですけれども、訪日している。中東の中でこれだけ現在首脳の往来が活発である。なおかつトルコは極めて親日的な国である。さらに、人質の解放に実績がある。だったら、私はトルコに行き、日本国民が困っているのだということを訴えても良かったのではないかなと思う」

ハサン中田氏に見る “イスラム国”本質とは
秋元キャスター
「シリア国内の“イスラム国”支配地域にも、何度も出入りし、“イスラム国”の司令官と直接、情報交換できる立場であると公言するとともに、昨年10月“イスラム国”に北海道大学学生を仲介したとして家宅捜索を受けた同志社大学客員教授でイスラム学者のハサン中田氏が、今日、日本外国人特派員協会で、今回の日本人人質事件について会見を行いました。安倍総理の中東歴訪は非常にバランスが悪いと。難民支援と言いながらも、大半の難民がいるトルコが外れていて、訪問国は全てイスラエルに関係する国ばかりだと。アメリカとイスラエルの手先と認識される。人質が2人いることは外務省も把握していたのにわざわざ“イスラム国”と戦うと発言するのは非常に不用意。私の提案は身代金ではなく、トルコに仲介役になってもらい、“イスラム国”の支配下にある地域への人道支援を行うこと。交渉ができるようなら、私自身、“イスラム国”に行く準備があると話しているんですけれど、内藤さんはハサン中田氏と一緒に本を出版するなど親交があるということですが、今日の会見をどのように見ましたか?」
内藤教授
「彼に同志社大学の客員教授になってくださいと言ったのは私ですから。何で中田先生にそれを依頼したかというと、ちょっとこれから外れるんですけれども、2012年に同志社大学でアフガニスタンの和解と平和構築という会議をやりました。その時に、初めてタリバンが来たんですね。カルザイ大統領の側の高等和平評議会の顧問大臣も来た。反政府、政府側が1度に集まったんです。これなら意味のあることで、その直後に東京でアフガニスタンの復興支援国会合がありましたので、それまでまったく和平の兆しがないと見られたところに、一民間の大学だからできたんですけれど、その時にタリバンの代表と派遣についてカタールで交渉したのは中田先生だったんですね。そういう形で、我々もオフィシャルに交渉できませんので、確かに、彼はイスラム教徒ですし、イスラム法学の学者としての学識というのを評価されているわけで、こういう人が一定の情報を伝達する役割を担い得るというのは当然ですね。ただし、ここは難しいところで、この人質解放の交渉というのは政府がやっているわけですから、日本の場合にはそれと並行して、何か別の筋道というものを認めると、残念ながら、そういう状況にはないですし、コンセンサスもないです。ただ、普通だと民間人が勝手にやったりすると迷惑だという話も当然、出てくる。ただし、このケースの場合、イスラム教徒でなければ交渉できないと思うんです、私は。従来の部族長だとか、どこかの宗教指導者だとかというところまではいいのですが、しかし、“イスラム国”というのは国家ではないですね。国民は誰かと言ったらイスラム教徒ですよ。だから、それ以外の異教徒は庇護されるという形にはなりますので、イスラム教徒と平等にはならないんですね。税金を払えと。その代り守ってやるという関係です。そこに行って交渉するとなると、我々は非イスラム世界の側にいるわけですけれど、イスラムが何を考えるかということにかなり通暁していないと相手との交渉ができない」
反町キャスター
「ベースになるイスラム法に基づいた時に、お前の要求は正しいのか、いや、そうじゃないという、そういう渡り合いが必要だということですか?」
内藤教授
「そうなりますね。つまり、それができる人は、彼しかいないというのは事実です」
反町キャスター
「それはしょうがない、相手の土俵に乗ることですね。その場合、今回はそれしか方法がないという意味ですか?」
内藤教授
「つまり、相手の土俵に乗るということは、身代金を払うということを前提にしろと言っているわけではなくて、つまり、ああいう要求をしていることがイスラム法上、正当かどうかということも含めて議論ができる人が行かないと無理です。どんなに残忍で、東京のイスラム教徒の人達が今日、東京のモスクも声明を出していますけれども、あんな残忍なことをするのはイスラムと思えないという、ほとんどのイスラム教徒の人はそう思っていますし、それは事実ですね。しかし、だからと言って、彼らがイスラム教徒でないとは言えないです、あんなやつらはイスラム教徒ではないとは。彼らはイスラム教徒です、“イスラム国”の連中も。だとすると、イスラム法の土俵に乗って、そこで議論を展開できるプロがいないと交渉できないということです」
反町キャスター
「そうすると今日、中田さんは頼まれれば自分が行く用意があるという…」
内藤教授
「彼は本気でしょうね」
反町キャスター
「宮家さん、内藤さんのロジックはどうですか。イスラム法に通じた、イスラム教徒でないと今回の交渉には立ち会えないという」
宮家氏
「私は、交渉のプロではありません。しかし、いろんな交渉をやってきたつもりです。本当に交渉をやろうと思ったら、特に仲介しようと思うのであれば、私は何も喋りませんし、喋れません。たとえば、反町さんの奥さんが捕まって、交渉しないと解放してくれないと。俺が仲介してやるよと。反町さん、奥さんがどうなっているのと言いながら、記者会見を開きますか、私が。記者会見を開いてペラペラ喋る(人に)仲介者ができますか。それを仲介者として使いますか。私のプラクティカルな世界では、それがどんなに善意であっても、仲介者として機能しないと思います。なぜかというと秘密が守れないから。信頼が得られないからです。相手だってそうかもしれませんよ。真剣にやろうと思ったら、記者会見を開いて何かを喋る。それで本当に交渉ができるのでしょうか。だから、私は、できないと」
内藤教授
「日本がイスラム教徒の社会ならば、その通りなんですよ。ネゴシエーターがべらべら喋ってはダメなので。日本ではほとんど全てがイスラム教徒ではないですよね。イスラム教徒ではない国から、どういうメッセージを出すかとなったら、ああいうふうにオープンに喋る以外にはないです」
反町キャスター
「誰に向かって喋っているのですか?」
内藤教授
「“イスラム国”に向けて喋ったのでしょう」
反町キャスター
「“イスラム国”に向かって、俺が喋ってもいいかいと言っているのですか?」
内藤教授
「いや、アラビア語で喋っているメッセージがあって、あの部分は、解放してほしいということを言っているんです。だから、別に世界のイスラム教徒に向けて言っている。日本がイスラム圏の国だったら、そんなバカなことを一市民が言ったりしませんよ。言っても何もない。しかし、日本が逆に言うと、まったくイスラム世界にないということで、唯一ああいう声が出るというのを、たとえば、アルジャジーラが放送すれば、一定のインパクトが出てくる。だから、別に彼がネゴシエーターになれるかどうかというよりは、イスラム教徒がまず日本にいるんだ。日本にいて、こういうことを言っているんだという、まずそのレベルではないかと」
反町キャスター
「自分の信頼性が毀損することのリスクをとってまで、いわゆる、外国人特派員協会でイスラム系のアラブのメディアに対し、それを通じて伝えることを狙っていた?」
内藤教授
「だと思いますよ。あれをAFPが伝えたなら、おそらくとんでもない会見だというふうに決まっていますから。実際フランスの記者が聞いていましたけれど、“イスラム国”は傭兵ばかりで、イスラムと何の関係もないではないかという質問がありましたよね。彼はろくでもない連中ではないかという部分に答えていないですよね。我々の解釈でいうと、彼は信者だから答えないのかとなるんですけれども、実はそうではないですね。彼は、実はイスラム教徒であり、イスラム法学者ですから、イスラムに従えば、ある人物、集団がろくなやつか、ろくでもないやつかということは、神様が決めることになっているので、人間がお互いに言うことではないです。だから、彼はそこを言っていないんだと思うんです。ただ、そういう翻訳すら難しいわけですね、日本の場合には」
反町キャスター
「前提として、ああいう平場で言うことで、政府や他のいわゆる人質になっている人達からの信頼を毀損するリスクもとっているわけではないですか。あの喋りでは使えないよと現に皆思うわけだから」
内藤教授
「いや、ネゴシエーターのつもりで言っているのではないと思うんです、彼は。メッセージを伝えているだけです。だから、自分が言っているのはネゴシエーターになる意味ではほとんどないと思います。我々の言うネゴシエーターの意味ではないだろうと思います」

過激派組織“イスラム国” 真の狙いとは?
秋元キャスター
「“イスラム国”の目的は何であって、アルカイダ、タリバンとはどう違うのかについては」
内藤教授
「イスラム過激派の専門家の人達は由来を辿っていって、イラクのアルカイダから生まれてどうの…という、私はその話はここではしない。専門家ではないので。もうちょっと広く見た時に、先ほどもちょっと触れたんですけれど、たとえば、トルコの人達もそうだったのですが、トルコは徹底的な世俗主義の国で、イスラムというのは公に出てはいけないという原則をだいたい建国から80年ぐらい守っていたんですよ。守ったのは、誰が支援したかと言うと軍が支援したんですね。たとえば、フランスの問題もありましたが、フランスとトルコだけですよ、イスラム教徒なのに女性が学校でスカーフやベールを被っちゃいけないという規定を持っていた。フランスはヨーロッパの中で最も厳格な世俗主義をとっている国ですよね。だって、ドイツやイギリスだったら、別にスカーフ被っていていいので。それと同じルールで、イスラム教徒で埋め尽くされているトルコで何十年もやってきたんですよ。明日はヨーロッパになる、明日はヨーロッパになるという猛烈な執念があって。ところが、80年経って遂にそれが崩れたんです。元に戻っちゃったんですね。国民はもっとイスラムを表に出して、イスラム的な価値とか、公正・フェアネスとか、そういうものが行われる社会の方がいいと言っちゃった。しかし、軍はこれまでそういう芽が出る度にクーデターで潰した。最後の密室のクーデターというのが1997年。イスラム系の政治家が出てきた時にこれを潰してしまう。そのあとトルコで大震災があって、そのあたりから急に保守化してくるんですよ。9.11がありますでしょう。その翌年です、2002年に公正発展党の政権ができるんですけれども、今度はイスラムを表に出すと言い出した。何度も何度もそれを憲法裁判所が政党に解散命令を出すとか、出さないとか、そういうところまでいきながら、軍の力を削いで削いでやっとやったんですね。割とイスラムを出せる国にした。だから、“イスラム国”にも通じるだろうと思ったのはその点ですけれど。実は周りの国はなっていないです、そういうふうには。エジプトが一時トルコに次いで、そうなるかなと、アラブの春のあとに。いったんモルシ大統領が出てきた時に、政権基盤はムスリムの同胞団ですから、イスラム組織です。草の根型イスラムの改革をする。党が、軍が出てきてバーンと潰しちゃうと。周りを見るとエジプトで軍がクーデターを起こした時にいち早くエジプトを支援すると言ったのは、サウジアラビアとUAEです。イスラムの国なのに何でやるの。つまり、草の根型の民衆がこれまでの国はおかしいのではないかという形で意義を申し立ててくる。それをひどく恐れているんです。その点では、ヨルダンだろうとどこであろうとトルコ以外の国はほぼ全部そうです。トルコでそうであったように、イスラムというのを表に出して、ある程度イスラム的なシステムという中でいきたいと言っている人達が増えてきちゃっている。そうなると、これまでの国の枠組みというのは非常に生きづらいことになっちゃう、その中で。そうすると壊したい。でも壊れるわけはないですよ。現在の国家の仕組みはそんな柔なものではないですから。そんなに簡単には壊れない。そうなると空想的ではあれ、かつてカリフが支配していたようなイスラムの共同体の中で生きていく方が幸せかなと思う人が底辺からだんだん増えてきた」
宮家氏
「トルコというのはむしろいい方です。民度は高いし、文化もある。ヨーロッパになりきれなかったけれども。問題の根源はアラブの社会の統治能力が一向に向上しないことだと思うんです。いろいろな王国もつくった。アラブ社会主義で、ナセルもやった、シリアもイラクもそうですけれども、バース党社会主義をとらせたこともあった。議会制民主主義もうまくいかない。そうすると、社会主義もダメで、普通の民主主義もダメで、どうするか。結局、最後に宗教というものに帰ってきた。宗教がイスラムの歴史の中で、私は素人ですけれども、宗教が支配してうまくいった試しはあまりないですよ。だけども、民主主義はダメ、社会主義もダメ。最後に帰ってきた時に、普通の穏健なイスラム主義もダメ。どうもうまくいかないというところで、これは内藤先生のご専門ですが、オスマントルコというものがどんどん壊れていっている。サイクス・ピコ協定がありましたね、20世紀の頭に。あれはオスマントルコをぶっ壊して、簡単に言えば、ヨーロッパが民族国家のようなものをつくろうとした。シリアもつくった、イラクもつくった、ヨルダンもつくった。だけど、それも機能しない。結局、自分達にとってベストな生態というものをまだつくりきれていないと。この矛盾が未だに続いて、それが先にいくかと思うと、エジプトみたいにイスラム主義者にやらせてみたらダメなので、ガラガラポンで振り出しに戻る。それを繰り返しているように見える。それはトルコと全然違う、ペルシャとも違う。アラブの一部の国々で見られる、ちょっと難しい言い方ですが、統治の正当性がどうやっても確立できない。産みの苦しみみたいなもの。統治能力のなさと言ったら言い過ぎかもしれないけれども、そういうことが、まだ起きていないんだと思う。その点は、トルコとか、ペルシャとかの方がまだしっかりしている」
反町キャスター
「選挙というものになじまないのですか?」
宮家氏
「そこまでは言いたくはないけれど…」
内藤教授
「なじみますよ、それは」

“イスラム国”の思惑とは?
秋元キャスター
「内藤さんの著書の副題が『中東崩壊と欧米の敗北』ですが」
内藤教授
「中東は現在、全うな統治が行われているという国はだいぶ少なくなってきている。とにかく大国、エジプトは何とか軍が抑えていますけれど、これは非常に民衆の間に不満が溜まってくることは間違いない。前政権が力づくで排除して、もともと前の政権を支えていたムスリム同胞団というのは、ムバラクの政権の時には政治活動が禁止されていますから、草の根型で貧しい人に医療を提供し、そういう社会扶助の団体だった。それをテロ組織にしちゃったんですね。それはなかなか…では国家が全部面倒みて、社会保障をやってくれるのか。それができないから、そういうところをイスラム組織がやっていた。それごとテロ組織とやっちゃうと非常に不満が溜まりますね。チュニジアだけが、小さい国だけれども、何とか穏健なところでとどまっている。隣のモロッコは王政で比較的安定していますけれども、それ以外のところとなると、見るも無惨というか、もしくは破綻に近づいている国家が多すぎる。それは何でかということですけれども、彼ら自身の統治が自分達の手で選んだものではないので、どこからか王様が出てきたとか、軍がクーデターで政権をとったとか、彼らはちゃんとした民主主義がわからないわけではないので、その結果というものを担保するような、国際社会は随分努力したのですが、そこをやらないといけない。欧米の敗北と言っているのはこの間、9.11のあとのアフガニスタン侵攻もそうですし、イラク戦争もそうですけれども、あるいは現在の“イスラム国”への対応も。テロに対して戦うというのはいいのですが、軍事力でやり返した場合、これはテロリスト以外の付随する犠牲が出てしまう。“イスラム国”のプロパガンダの中に、ここだけは私は当たっていると思ったのがあって、自分達が欧米の市民のクビを切って殺す、イノセント。つまり、無辜の人。無実の人を殺したと言って世界が非難する。欧米諸国は、誤爆で死んだ人達を何と言っているかというとコラテラルダメージと言っている。これは随伴する犠牲、やむを得ない犠牲。それではすまないだろうという、その部分だけはおそらくほとんどのイスラム教徒は納得しちゃう、クビを切った部分は納得しませんよ。砲弾の部分はほぼ共通に思っちゃうんですね。だから、ことここに至っては、だから、日本の従来の姿勢の方が正しいです。武力によらないで人道支援でもって民心をどうやって安んじるかと」
宮家氏
「積極的平和主義の、私の理解は違うかもしれないけれども、日本の安全保障政策、国家安全保障政策というものをある意味で狭く見ていいのだと思うんですね。中東とどのように付きあってくるかという観点では、日本は基本的には部外者とは言わないが、しかし、遠いわけですよ、8500キロも。それのメリットもデメリットもある。確かに通いから知らないかもしれない。しかし、同時にそのような歴史の積み重ねの歴史問題が中東にもあるわけですよ。そうそれこそ内藤さんのおっしゃるようにまったく我々は、歴史的な重荷のないところで、ああいったことをやるのはいいことだと思いますよ。それだけでこの地域が安定するのかと言われたら、そうは言っても破壊は起きている、明らかに悪意を持って、統治機構が壊れているわけですから。そこにある程度のこれまで以上のものがあるかもしれません」

イスラム過激派のテロ その脅威に日本はどう対応
反町キャスター
「日本はテロとの戦いに参加すべきかどうか?」
宮家氏
「テロとの戦いというとおどろおどろしいけれど、テロがおかしいと思っている人達を助けることもテロとの戦いです。それはこれまでの延長上でできると思うし、積極的平和主義を中東で軍事力を使って日本が新しい何かをすることだと捉えられるのであれば、それはまったく違うのではないか」

内藤正典 同志社大学大学院教授の提言:『人間を知る』
内藤教授
「イスラムについて学ぶというのはもちろん、いいんですけれども、イスラムというのは法律が厳しい宗教だとか、あるいは暴力制があるのではないかとか、いろんなことを言われますが、そんな宗教で10億人も15億人も信者を惹きつけるわけがないですね。むしろ普段の、素顔のイスラム教徒のことを我々は知らなすぎる。イスラムがテレビのネタになる時というのは何らかの暴力か、紛争か、そういうことばかりです。しかし、普段の生活をしている15億人の人達が、何に怒るのか、何に喜ぶのか、何に悲しむのか、それを知らないというところが非常に現在の…それは外交に至るまで欠落していると思う。だから、まず人間を知ることからというのが私の提言です」

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の提言:『“一神教”を知る』
宮家氏
「絶対1つの神がいて、その神と人間とが契約を結ぶという発想が一神教の基本ですけれども、この世界観というのは日本と中国と東アジア、インドを除くと実は世界で支配的だということをまず考えないといけない。その中で、一神教にもいろいろな種類があって、イスラムというのはその中でも、私に言わせれば1番完成されたというか、変な意味ではなくて美しい宗教ですよ。世の中には東アジアでもない、キリスト教でもない。一神教の世界がある。それがイスラムです、そういうものがある。ハサン中田さんみたいな信者がいる。こういうことをまず知ること。そこから違うことがわかるわけですから、なぜ違うのだろう、どうして違うのだろうという興味を持っていただきたい。そうしないと、いつまで経っても内藤先生がおっしゃるように、偏見なり、場合によっては誤解が消えないと思います」