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2014年11月25日(火)
総選挙“論点”は何か 忘れられた?社会保障

ゲスト

大日向雅美
恵泉女学園大学大学院教授
宮本太郎
中央大学教授

社会保障制度改革のあり方 一体改革はどうなるのか
秋元キャスター
「財務省の試算によりますと、来年10月に消費税率を10%に引き上げることによって2015年度の社会保障の充実に充てる予算は1兆8000億円程度とされていたのですが、8%のままだと4500億円減って、1兆3500億円程度になると見込まれているんですね。社会保障と税の一体改革を進めていく中で、片一方を担う税について、増税延期という決断が下されましたけれども、そのことをどのように受け止めていますか?」
宮本教授
「今度の社会保障改革。これは一体改革と紹介されたように、日本でおそらく初めて、世界でも珍しいと思うんですけれど、きちんと社会保障に全額還元する。使い道を指定して、税金を上げるということですね。国民とある種の契約だったわけですよね。だから、国民にしてみれば、現在の生活不安、介護とか、子育てに関わる生活不安を解消してくれるはずの社会保障改革、あるいは増税だったわけです。ただ、結局、重いコスト、少なくとも平成26年度のお金の使われ方というのは、国民が税金が返ってきたなと感じることができるようなやり方ではなかったのではないかということですね」
反町キャスター
「その時点で一体改革が破綻していたということですか?」
宮本教授
「だいぶ怪しくなってきたと思うんですよ。ただ、結局、現在の政府が国民にきちんと増税の結果を還元していくということを怠ったのではないか。さらに、そのうえで、また増税を延期してしまったということでだいぶ航路が怪しくなってきたんだけれども、社会保障と税の一体改革は暗礁に乗り上げたとまではいわないけれども、舳がかなり暗礁にひっかかっちゃっているという段階にきちゃったのかなという気はしますね」
反町キャスター
「税と社会保障の一体改革の通しているコンセプト、理念は、どういうことからそもそも始まったと捉えればよろしいのですか?」
宮本教授
「現在税金を払っている、社会保険料を払ったりしているのは現役世代だけど、この現役世代がしっかり働けなくなってしまっているということですよね。だから、日本の場合、これまで現役世代の雇用が安定していたんだけれど、だから、社会保障はかなりの部分が、人生後半というか、高齢世代向けになっていたんだけれど、これを少し仕切り直して、現役世代を支える社会保障にしていくと。だから、そういう意味では、現役世代が実感できる改革になるはずだったんだけれども、どうもそこが少なくて、今年度のお金の使われ方を見ている限りは約束通りにいっていなかったと」
反町キャスター
「たとえば、世論調査で見ていても、今回の消費税の引き上げ先送りはどうだというと、6割の有権者が良かったと。実際に、たとえば、これから選挙戦が始まりますが、各政党からも先送り反対の声というのもあがってこない。ものの見事に、先送りして良かったというところで揃っちゃっているわけですよ。この国民の声や政治の状況をどう感じていますか?」
宮本教授
「誰しも返って来ない税金はとられないでおいた方がいいですよね。消費税が10%になった時、つまり、5%上がった時に入ってくるお金というのは14兆円ぐらいです。そのうち、社会保障の充実に2.8兆円を使う。つまり、全体の2割ぐらい。これはちょっと割合が私は少ないと思います。それでも、2割は使うということになっているわけですね。今年8%になった段階、平成26年度の税収としてどれぐらい入ってきたのか。これは事業年度、要するに、税金を納める事業年度と予算年度がずれるので全額が入ってこないですね。現在5兆円入ってくるんですけれども、5兆円の2割をきちんと機能強化と社会保障の充実に使っているかというと、そうではなく1割を切っている。0.5兆円ぐらいしか使っていないわけですよ。ここが随分、約束が違うじゃないか。少なくとも返ってきたなと実感の感じられるお金の使われ方になっていなかったのと、もう1つは、どこにお金を使っているかというと、1つは、基礎年金の税金2分の1充当分ですね。それから、もう1つは、消費税が上がることで、社会保障の質そのものが少し高くなってしまうという、このことですよね。それから、もう1つは、後代へのツケまわしといいますか、要するに、借金の部分を少しでも返しておこうというところに結構なお金を使うわけですよ。1.3兆円ぐらいですね。ところが、これまでのように、なるべく財政支出は節約をして、少しでも借金を返しておこうという形の政治であるならば、この0.5兆円でも、だいぶ後代へのツケまわしを軽減すれば、これからの世代が助かるんだということになるわけですけれど、ちょっとアベノミクスの状況の中では話が違ってきちゃっているわけですよね。たとえば、2016年度予算では公共事業予算が12%増えたということで、どんどんそれ以外の部分からお金が漏れ出している部分があるわけです。そこで消費増税の部分でかなりの部分も借金返済に充てると言っても、ここでどんどん使っているじゃないか。このあたりの不信感もかなりあって、実際使われているお金、それから、随分と枠組みも崩れしまっている部分もある。そういったことが総体として、国民の側で不信となって強くなっていって、とられないでおいた方がいいというような判断に結びついてしまっているのではないかなと思います」

安倍政権の進め方をどう見るか
反町キャスター
「この番組の中でも経済成長をどうするのかという時、経済成長の基本になるのはセーフティーネットの充実だと。安心してチャレンジし、転んでも引っかかる網がちゃんとできること、ないし、そこで最低の生活ラインをすることが経済成長の安心感を持たれて経済成長の基盤づくりとなる議論、かつてこの番組で宮本さんはやったことがあると思いますけれども、アベノミクスの考え方である経済成長、現在のアベノミクスの考え方、社会保障というもの、どうも親和性がないような気がするんです。どう見たらいいのですか?」
宮本教授
「そこがアベノミクスというのが、どうも1960年代の発想が強すぎて、大きく世の中が変わってしまっているぞと、放っておいても、経済成長の成果が社会に均霑していく、行き渡っていくという条件がなくなっちゃっている。つまり、雨どいみたいなものがなくなっちゃっていて、水が行き渡らなくなっている、雨どいといいますか、水が行き渡らなくなっちゃっているんですね。その行き渡る道筋というものをきちんとつくるというのが、社会保障の新しい役割だと思うのですが、そういう発想というか、デザイン感覚がないのかなと思いますね」
大日向教授
「ある種、車の両輪で動く部分もあると思いますね。たとえば、医薬品とか、新技術のイノベーションで経済成長を高めていくというのが確かにあると。それは、全面的に、私は否定しないですね。ただ、社会保障の本来の目的は、自助ではカバーできないリスクを社会全体で応援しようというところにあるわけですね。ですから、そうした観点から社会保障の充実、安定化が必要。本当に困っている方、社会の底辺の方々にどれだけ手厚くできるか。つまり、社会の成熟度で考えるのが社会保障の基本だと私は考えます。ですから、あくまでも成長戦略は副次的なものと考えなければ、社会保障の在り方、そこにある危険性が高いと思います」
反町キャスター
「もう1つ、財政と社会保障の関係で、現在コストをいかにカットするかという話は大きな与党のテーマにもなっているわけですけれど、たとえば、マクロ経済スライド。これは物価上昇率に比べて、年金の伸び幅を低めに抑え、年金財政をより健全にしようという狙いだと思うんですけれど、過去においても、自民党政権の時からマクロ経済スライドが発動しない状況について、どうしても社会保障に対する、鉈という言葉はきついかな、要するに、鉈を振るということが、政治の中で非常にしにくい状況がずっと続いてきていますよね。ここのあたりはどう感じますか?」
宮本教授
「特に、これは先ほど現役世代の支援が弱いということと対応をするわけですが、高齢世代向けの支出が中心になってきたということですね。マクロ経済スライドも、実効することによってすごく政治的なリスクを伴うという問題がついてまわっていると思います。たとえば、現役世代向けの支援が割と充実している北欧社会を見てみると、若者が制度に関心を持たざるを得ないんですね。と言うのは、大学に行く場合も日本のように親がかりではなく、いろいろな奨学金の制度などを使うのが不可欠になっているわけですよね。日本とスェーデンと、たとえば、20代の若者の投票率を比較してみると、日本は30%台、38%ぐらいですけれども、スェーデンは80%に近い、倍ぐらいですよね。結果的に、政治も政府も若者の反応を、政治的に考慮せざるを得ないわけだけれども、日本は若者がそもそも投票に行かないという現実もありますので、どうしてもマクロ経済スライドを含めて、高齢世代の反応を気にするシルバーデモクラシーとなってしまっているというのが、1つの背景だと思いますね」
秋元キャスター
「視聴者からです。『消費税を上げる以前に、社会保障費が老人に偏り過ぎていることが問題だ。医療費をもっと削減するべき。現役世代にもっとまわすべきだ』という意見ですが」
宮本教授
「そこが難しいのは、高齢者世代のというのがひとくくりできないということだと思いますね。たとえば、現在、基礎年金しか受けていない高齢者の平均の年金の受給額というのは、4万9000円ですよね、月額です。これが単身であったりすると、これまで配偶者がいるとそれでも何とかなるかもしれませんけれど、単身であったりすると、大変厳しい経済状況で、現実に現在の単身の高齢者を見てみると、生活保護の受給水準以下の所得しかない世帯が約300万世帯ですね。そのうち、生活保護を受けているのは70万世帯ぐらいですので、場合によっては残りの200万世帯が生活保護を受けざるを得なくなってくるという状況すらあるわけですよね」
大日向教授
「私は子供の立場でいろんな会議に出ています。でも、必ずしも高齢者とVSと捉えることは良くないと思っていますね。そもそも日本の社会保障の給付費は、GDPに比べ、世界的に見て社会保障給付費が低いという国の特徴が2つあって、1つは発展途上国、もう1つは高齢化率が低い国です。それでいてそもそもパイが小さくなっているという。ですから、小さいパイを高齢者と子供で奪いあって、それは決して幸せなことではない。高齢者は安心した介護を受けられない、医療を受けられない。また現在の高齢者は若者にとって自分の親世代ですよね。その親世代の介護が十分できないと介護離職になるんです。親世代が安心して暮らせて、老後を生き、安心した良い死に方ができなければ、若い世代は、何で未来に夢を持って生きられるだろうか。そういうことを考えた時に、VSで捉えると何の生産性もないと思います」
反町キャスター
「日本の社会保障予算というのはまだまだ低いという話になるのですか?」
大日向教授
「低いと思います」
反町キャスター
「予算の話をすると、社会保障負担分が一番多くて、大変だ、大変だというのが政府の説明ですよね。これはどう思ったらよろしいのですか?」
大日向教授
「やはり低いと思います。ただ、低いということに対して負担も低い。ここをどう考えるかですね」
宮本教授
「日本は税金も安いですよね。租税負担率というのがだいたい22%ぐらいで、国民所得に占める割合はアメリカよりも低いんですね。結果的に低い、だから、社会保障の支出も非常に少ない、20%ちょっと欠けるぐらいなんですよ、だいたいGDP比で。そうなってくると、先ほども言ったように戻ってこない税金を皆諦めてしまっている。戻ってこない割には税金が高いなと。ショバ代みたいな感覚で、重税感だけはある。戻ってくることについても半ば諦めもあるということで、悪循環をどこかで断たなければいけない。その1つのきっかけが、今度の一体改革ではなかったのかなと思っているわけですけれど、それが頓挫しかかっているということだと思いますね」

どうなる? 子ども・子育て新制度
秋元キャスター
「社会保障の充実の中で2015年度の主な検討事項ですけれども、子ども・子育て支援新制度の実施と介護サービスの充実などがあるのですが、この子ども・子育て支援新制度について、安倍総理が予定通り来年4月にスタートするとしているのですが、これでひとまず安心ということになるのでしょうか?」
大日向教授
「いえ、決してそういうことではないですね。8%の増収分で、どこまで対応できるのか見極める必要があります。8%ですと保育の量の確保の拡充に留まってしまって、質の改善にまでどうしても手がまわっていかないんです。質の改善がされなければ、それだけ保育の量が増えても良い人材は集まらないわけです。そうすると、保育の運営もできなくなる。親も安心して子供を預けて働けないという悪循環になっていきますので、そこを慎重に見ていかなければいけない。1つ懸念しますのは、今度は増税をすることによって、安定財源を確保することだった。でも、安定財源なしでもし実施するとしたら、そもそも、一体改革のフレームを根本から崩しかねない。これは将来世代に対して私達が一番やってはいけないこと。つまり、ツケを残すということですからね。ここのところは、慎重に考えなくてはいけない。そもそも今回の一体改革は、歴史的に大変意義のあることだと思う。と言いますのは、これまで医療、年金改革だけだったのに少子化対策を入れていただけた。少子化対策、子ども・子育て支援。4番目に入ったものですが、重要性ではトップになっていたということは、それだけ危機だということです、人口減少。それから、子供達の育ちにくさ、親達の育児困難を放置していたら、日本の未来はないということ。ここのところにどれだけ果敢に本気で手を打てるかということですので。ここは大変心配をしています」
宮本教授
「1兆1000億円ぐらいの予算を、子ども・子育て支援に使うということは3党合意に書き込まれていることです。ところが、気がつくと4000億円というのは、削られてしまっているわけですね。この4000億円というのが質の拡充に非常に重要なところだったわけですよ。これから女性が子供を預けて働き始めるという時に、子供を預けることで、子供がかわいそうだというところがあるわけですね。皆躊躇しますよね。現在、小学校に子供を預ける、子供を行かせるのはかわいそうだと考える親はいないですよね。それなりの質が確保されるんですよ。たとえば、保育の人をちゃんと確保する。3歳児なら職員配置は20人に対して1人の保育士さんであるところを15人に対して1人にしていく。4、5歳児も1歳児もちゃんとやっていく。たとえば、3歳児の職員配置を、先ほど申し上げたように改善するには700億円かかるわけですよね。今度の選挙の費用はちょうど700億ですね。これがあれば、それができるかと。それは置いておいて、それを確保するのが、1兆1000億円という約束だったわけですよ。その質ができると子供を預けた方が、子供にとっても良いということになっていく。そうなると、専業主婦と働くお母さんの緊張感とか、働くお母さんが持っている悩みとかが解消されて、それで女性が本当に輝く社会というのが、スムーズに実現するはずだけれども、何でこの道筋をケチるかなというところがありますね。仮に1兆1000億円を使ったとしても、OECD、ヨーロッパの先進国諸国に比べると、GDP比で、家族、子供に使っているお金がまだ1.2%、1.3%ですよね。OECD諸国が2%を超えるぐらいのお金を使っていることに比べれば、まだ足りないんだけれど、そこすらきちんとしてくれないというのが大きな問題だと思いますよね」
反町キャスター
「国民の感触がそこに集中していれば、政治も予算をつけざるを得ないと普通は思うじゃないですか。今の話を聞いていると、先ほどのシルバーデモクラシーではないですけれども、子育て世代が政治に対する、きちんとした発信とか、要望とかしていない、ある意味、世代的に結局やらなかったことが現在自分の身に降りかかっている感じでもあるのですか?」
宮本教授
「長い間、日本の社会では子育てとか、介護というのは、『私』の問題だったんですよね。男性は雇用が約束されているんだけれども、その勤労所得で妻ががんばることとされてきた。その仕組みが根本的に壁に突き当たってしまっている。10年ぐらいですよね、子供、子育てがここまで政治の中心にせり上がってきたのは。でも、他方でそうした子供、子育ての問題を抱えている人達は、たとえば、利益集団のように組織されていないわけです。大きな影響力の行使の仕組みを欠いているわけです。だから、大事だ、大事だと言いながら、選挙が近づいてくるとスルーされてしまうというような現実だと思いますね」
大日向教授
「子供のことを一生懸命育てている当事者は子育て支援に敏感です。でも、子育てが終わった世代、あるいはお子さんがいない世帯には、私達には関係ないという考え方があるんですね。子供というものは社会の宝だと、社会保障制度構築のうえでも非常に大事だというコンセンサスがないのことが、この国の弱いところだと思います」

どう支える? 女性の活躍
秋元キャスター
「消費税増税の先延ばしによってどのような影響がありそうですか?」
大日向教授
「本当の女性の活躍と言うと、一部のキャリア女性ではなく、地道に働くことが生活の必須要件になっている、私達一般の女性が無理なく働けなくてはいけないわけです。一部のキャリア女性ですと、とかくいろんな援護体制があったりしますが、そうでないところの人達にとっては保育の制度、あるいは親の介護をどれだけ手厚くしていくかということがすごく大事です。手厚くすべきところが手薄になってしまって、結果的に本当に働くところが必要な女性達が、働けなくなる危険性は大きいだろうと思いますね。ですから、介護離職せざるを得ない。そうやって生活苦になっていくとか、悪循環になっていくようなことになってはいけないだろうと思っています」
秋元キャスター
「安倍政権が女性の活躍を推進しようとしている姿勢については、どのように見ていますか?」
大日向教授
「『202030』とお聞きになったことがあるかと思うのですが、2020年までにいろいろな分野の女性の活躍を30%まで上げると、長く掲げられてきたのですが、あまりムーブメントにならなかったんです。とにもかくにも旗を振っていただけるということは、私は一定の評価はします。でも、申し上げたようにそれが一部のキャリア女性だけのことになってしまうと、ジェンダーというのは、女性と男性の格差ではなく、女性間の格差につながっていく危険性がある。ここは気をつけなくてはいけないと思います」
宮本教授
「2020年までに管理職など全ての領域で女性が30%の比率を占めるようにする。こんなきらびやかな目標を掲げているんだけれども、現実の女性の姿はどうなっちゃっているかというと、現役世代の単身女性の3人に1人が貧困状態にあるという深刻な現実があって、これが先ほども言及した地方創生の問題と絡んでいるわけですよね。地方で女性が暮していけなくなっちゃって全部東京に流入してきている。ところが、東京でもきちんとした働き先を見つけるのが難しくて、ダブルワークでセカンドシフトは夜の仕事だったりする。にもかかわらず、貧困から脱却できなくてシェアハウスのようなところに住んでいる。つまり、地方発、東京流入型の貧困というべきものが女性の中に広がっているわけです。この女性の姿と推進法案のきらびやかな目標の乖離というのがはなはだしいと思うんですよ。いやしくも地方創生を掲げるならば、地方に住めなくなってしまって、故郷を捨てて東京に移らざるを得なくなっている女性にもっと寄り添わなければ地方創生は実現できないはずなのに、この点でもちぐはぐさというのが露骨になっているなと思います」

女性活躍と社会保障
反町キャスター
「第3号被保険者、専業主婦に対する基礎年金の枠を認めるかどうか。どんなふうに感じていますか?」
大日向教授
「長年の懸案ですね。多くの女性の生涯設計影響を持つことになりますので、一概に言えることではないのかもしれない。従って、多様な意見に耳を傾けつつ、しかしながら時代のベクトルとしては、制度の支え手を増やすということが日本社会には必要でしょう。ただ、その時に働き方は現在のような男性は家庭の責任も果たせないような働き方ではあってはいけない。それから、3号保険のあり方も多様ですね。純粋専業主婦というのでしょうか。まったく働かない収入もゼロの方はすごく少ないです。むしろ103万円、130万円の壁で働いている方々。この方々の働き方の議論をどうするかという多角的な議論はこれから必要でしょう。ですから、私は敢えて言えば、良い医療なり、良い介護なり、社会保障を享受するためには皆労働だと思っています。ただし、子育て期や要介護の時、男女を問わず多様な働き方も保障できる社会であってほしいと思います」
宮本教授
「現在これまでの長時間労働のように、無理矢理女性をはめ込んでいくような圧力になってしまっている。つまり、第3号被保険者を見直すとか、配偶者控除を見直すとか、そういう圧力になってしまっている。これはいかがなものかなと思うんです。実際、配偶者控除を廃止するというのも、背景には財務省の思惑というのがあって、これをなくしてしまえば6000億円が浮くんだというところがあるわけですよね。だったら、そうではなくて、もうちょっと働き方に中立的な控除でも、手当てでもいいんですけれど、子育ても支援するという含みも入れ、そういうニュートラルな制度に移していくのが本来のあり方かなと思いますね」

年金・医療・介護 消費税増税延期の影響
秋元キャスター
「医療・介護、年金弱者への対策が消費税増税の延期でどのような影響を与えると思いますか?」
宮本教授
「大変たくさんの低所得の高齢者がいるわけですね。これも放っておくと生活保護にいかざるを得ないという状況の中で、そこを何とか支えようというのが今度の給付金の主旨だったわけですね。これを790万人の人に、だいたい5600億円ぐらいかかると言われるんですけれども、きちんと配ろうと。ところが、おそらく棚上げになってしまう。これは非常に由々しいことだと思いますね。さらに言うならば、現在、地域包括ケアと言って住み慣れた地域にずっと住み続けられ、在宅で老後をおくれるような状況をつくろうと言っているわけですけれど、ご存知のように介護人材。介護の労働力があまりにも処遇が悪くて人が集まらないわけですよね、辞めてしまうわけですよ。これまでも、処遇改善の交付金はあったんですけれども、これがなかなか一時金とか、手当ての形では改善してくれるのだけれども、長期的な処遇の改善につながらなくて相変わらず人手不足である。こうした中で介護報酬を変えて、少しでも介護労働力が定着できるような条件をつくろうという話をしていたわけですけれど、これもどうやら実現が困難になっていく。そういう意味では、今度の増税見送りの影響は特に介護医療分野で大きいなと思います」

消費税増税の意味を考える
大日向教授
「給付と負担の割合から言って厳しいことも見える化をしなくてはいけない。その時に厳しさも享受して、高齢者でも豊かな方は痛み分けをしようとか、若年層も将来のために、少し痛みを…そういう痛み分けの哲学というのを一緒に出していくことが課題。別の言い方をしますと、社会保障の教育だと思います」
宮本教授
「日本は政治家や行政というのが信用ならんのだぞということを言い出して、一人前というところがあると思うんですけれども、それでは結局自分の首を絞めることがあって、政治や行政にお金を預けるわけですから、第2の財布にならなければいけないと思うんです。そのためには行政や政治を通してお金が返ってくるという道筋を納税者そのものがつくっていかないといけない。また政治がそこで存在証明をしていかなければいけないと思うんですけれども、信頼の度合いにすごく大きく差がついてしまっていると。今度の一体改革で税金と言うのは返ってくるんだと。返ってくる道筋と政治行政の信頼をあわせてつくっていくことを、ここで諦めてしまっていいのかなと思います」

宮本太郎 中央大学教授の提言:『納得感』
宮本教授
「これは社会保障の負担について、ちゃんとこれが循環しているなという納得感が非常に大事だと思うんですね。そのために、1つは、政治や行政の側がもっとちゃんとわかりやすく説明しなければいけないと思うんですね。もちろん、約束したことを実行していないというのはもちろん、大問題で、それ以前のことだけれど、実行したうえでもちゃんとそれを説明しなければいけない。もう1つは、納税者や市民の側も納得力というのを磨かないといけないと思うんですね。要するに、お金を払わないでも、ちゃんと社会保障をやってよという受け止め方は困りますね。どれぐらい痛みに耐えなければいけないのか。でも、お人好しで全部税金をとられているだけでも、困るわけでありまして、現在いろいろな財政状況や国のあり方からして、どのぐらい返ってくることが期待できるのか。どういう使い方を期待するべきなのか。それは納得力だと思うんですよ。だから、政治、行政の説明責任とあわせて、我々自身が高い次元で納得できるように、納得力を磨いていくことが大切だと思います」

大日向雅美 恵泉女学園大学大学院教授の提言:『痛み悲しみを分かち合う国民一人ひとりの勇気と優しさ』
大日向教授
「私は、社会保障というのは現在生きている私達が未来の社会に対する責任をどう果たせるかだと思うんですね。それがまず1つ。政治家に求めたいのは目先の経済動向とか、人気に惑わされない政治決断が必要。一方、私達国民1人1人は痛み、悲しみを分かちあう勇気と優しさが必要だと思います」