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2014年10月29日(水)
“まだら景気”読む鍵 資本主義の寿命とカベ

ゲスト

水野和夫
日本大学国際総合政策学科教授
萱野稔人
津田塾大学国際関係学科教授

資本主義は限界? 世界経済のいま
秋元キャスター
「水野さんは、資本主義が終わりに近づいていると主張なさっているのですが、果たしてどういうことなのか。まずはこれまでの経済の動きを見ていきたいと思います。日本とアメリカのGDP成長率と近年の推移をまとめましたが、GDP成長率で見ますと1980年代後半以降、成長が鈍化していて、特に、リーマンショック以降というのは、なかなか高い成長率に戻ることができないですね。一方、金利の指標であります10年物の国債金利は1980年代初頭をピークに下げ続けているわけです。近年では、こうした低金利政策に加え、中央銀行が国債や債券などを購入するという金融緩和政策をとっているにもかかわらず、世界経済はまだ本格的な回復軌道に至らないというのが現状です。水野さん、この状況も資本主義の終わりを示していると考えますか?」
水野教授
「はい。特に、国債の利回りですけれども、日本は10年国債利回りで0.5%を少し下まわり、それから、アメリカはもう3%を下まわり、さらに、ドイツが現在0.9%を下まわっています。日本の0.5%とか、それから、ドイツの0.9%というのは、過去、金利の歴史は5000年ぐらい遡れるんですけれども…」
反町キャスター
「5000年前に金利があったのですか?」
水野教授
「はい」
反町キャスター
「5000年前に貸金業があったということですか?」
水野教授
「そうですね。貸し借りの記録が残っていて、業としてあったのかどうかは、たぶんないと思うんですけれども、5000年前にお金のやりとりがあって、そこからずっと金利が残っていた。20世紀になってから発見したということですけれども、その中で1%を切ったのは日本とドイツしかないですね。1度も人類史上1%を切ったということがないということが、現在起きていまして、それ以前の記録がいつだったかというと、イタリアの1600年代の前半に1.1%まで下がるという事態がありまして、現在の日本及びドイツの共通点はもちろん、金利が非常に低い、著しく低いということですけれども、その背後に、どういう共通点があるかと言いますと、どちらも優良な投資先が国内には残っていないという。当時のイタリア史という本があるのですが、リアルタイムで書かれていて、その本の中にイタリアにはもうこれ以上投資する先がないという記述がある」
反町キャスター
「その時、イタリアの豪商というか、ビジネスマンは海を渡って、どこそことか、そういう発想にはならなかったのですか?」
水野教授
「それはその少し前から、既にイタリア、確かコロンブスですね。それから、ポルトガルのエンリケ王子」
反町キャスター
「いわゆる大航海時代?」
水野教授
「はい。大航海時代に、地中海世界ではもう投資先がないということになって、大航海時代はイギリス、オランダが先に大航海に乗り出したのではなくて、地中海世界の国が大航海に乗り出しているんですね。それは投資先がないので、大西洋を渡って新しいフロンティアを見つけに行ったということですね。国内には投資先がなくて海外に、現在も同じですね。現在もグローバリゼーションで、日本にいろんな投資先がないので、それでグローバリゼーションということになっています」
反町キャスター
「新たなビジネス展開をする投資の対象となる、その場所やチャンスがなくなると金利が下がってくるのですか?」
水野教授
「そうです。投資先がないと利益がないわけですから。利益がないということは利息が払えないので当然利息は…。一方で、金余りも起きるんですね。当時のイタリアは南米から金銀を持ってくるんです。ですから、イタリアには金があり余って、ぶどう畑をどんどんつくっていくんですけれど、ぶどう畑も面積が限られていますので、これ以上つくるところがないということになって、お金はあるんですけれど、投資先がない。誰も借りてくれない。現在の日本は一応1600兆円の個人金融資産がありますので。銀行は預金を集めて、でも、優良な貸出先がないというので、現在国債を大量に買っているという。短期国債についてはマイナス金利が実現するという、そういうところまできている背後には、もう投資先がない」
萱野教授
「たとえば、先進国ではどんどん景気が悪くなっていって、利子率が下がっているんだと。利子率が下がるというのは、イコール利潤率が下がっているということでもあるというのがポイントだと思うんですね。要するに、銀行がお金を貸します、その時に、利益率よりも高く貸してしまった場合、借りる人はいないわけですよね。私が、たとえば、ビジネスをしたい。ラーメン屋でもいいですけれども、それで100万円を投資したら、5%ぐらいの利益があったと。そうしたら6%でお金を借りていたら、全然儲けが出ませんから、それよりはちょっと低いぐらいになる。だから、利子率と利潤率というのは、基本的には連動しているんですね。これが最初のポイントだと思いますよ」
反町キャスター
「低金利時代というのは、低利潤時代だということですか?」
萱野教授
「そういうことですよ。だから、現在、世界中、特に先進国で低金利になっているということは、それだけ利潤率が下がってしまったということですよね」

世界経済の今と未来
秋元キャスター
「先ほどから資本主義という言葉が何度も出てきているんですけれども、そもそも資本主義はどう定義されているのか、念のためおさらいしていきたいと思います。大辞林によりますと『商品経済の広範な発達を前提に、労働者を雇い入れた資本家による、利潤の追求を原動力として動く経済体制』ということですが、萱野さんは、この資本主義のシステムが現在どういう状態にあると考えていますか?」
萱野教授
「まずこの定義ですけれども、よくわかりませんよね。辞書に書いてあることにありがちですけれども、資本ということから出発した方がいいかなと思うんですよね。資本というのは、一番単純に考えてみたら、お金と思っていただければいいと思います。何かお金を稼ごうとする時に、手持ちのお金を投資します。土地を買ったり、あるいは機械を買ったりとか、人を雇ったりとかして、設備投資をして、たとえば、1000万円投資をしたら、1年後には1100万円になって返ってきた。そういう投資をしてリターンを得るというのが資本主義の根本というか、根幹ですよね。要するに、手持ちの資本というものがあって、それを投資して、それが増えて返ってくるという。これによって経済がまわるシステムが資本主義ということですよね。それを専門用語だと資本の自己増殖と言ったりするわけですよ。資本が自分で、人間をとり外してみると、資本が単に投下されて、また、大きくなって戻ってくる。結局、資本がどんどん増えていきますよねということで、よく資本の自己増殖というのが資本主義と言われるんですけれども、先ほど、何で金利の問題、あるいは利潤率の問題が大事になってくるかというと、結局、利潤率が低ければ、投資をしようというモチベーションが出てこないわけですよね。1000万円投資をしても1年後になって1001万円しか利益が出ないような経済であれば、わざわざ1000万円投資しようなんて思わないですよね。その間にリスクはありますから。たとえば、従業員が店のお金を持ち逃げしちゃうかもしれないし、あるいは店が火事になるかもしれない。何が起こるかわからない。そうしたらリスクを避けて誰も投資をしなくなる。一定の利潤が見込めるからこそ人々は投資をしようとするわけですよね。でも、どんどん利潤が下がっていった時に、果たして人々が資本の自己増殖を求めて、投資するかどうかということですよね」
反町キャスター
「現在の低金利時代、低利潤時代という、その先には資本主義は終焉の危機を迎えているのかどうか。ここはいかがですか?」
萱野教授
「そこは結構、難しい議論になってくるんですけれど、未来のことを予測するためには、過去を1回見てみるというのが良い方法だと思うんですね。先ほど、水野先生もずっと金利の500年ぐらいの変化を示してくれましたが、実はこういう別の研究もあるんですよ。どういう研究かというと、経済成長がその間どうなっていたのかという。経済成長率というのはもちろん、結局、利潤率に関係してくるわけですよね。経済成長率が10%であれば、基本的には利潤率はそれに近いところにあるはずだと思えるわけですからね。10%経済が大きくなるわけですからね。ですので、利潤率はどうだったのかということを調べた人がいるんですよ。2000年ぐらいの経済の歴史をずっと見ていって、本当に経済はどこで成長をしたのかと見ると、人類が、いわゆる我々が経済成長と言えるような現象を手にするというか、実現したのは19世紀以降ですよ。要するに、19世紀になるまでは資本主義は、たとえば、15世紀あたりから始まっているんですよね。でも、19世紀までは経済成長をしていないですよ。1人当たりGDPで見ても全然変化をしていない。実際に我々が現在、経済成長というような現象を手にしたのは19世紀以降。そうすると、何が言えるかというと、資本主義が15世紀ぐらいに出てきてから、300年、400年は成長をしていないですよね。つまり、経済成長をしない資本主義というのが過去に存在していることになるんですよ。一部の人は儲かっていたんですね、もちろん。東インド会社に投資できるような人達は儲けることができた。利潤率もそこそこ十何パーセントという高い利潤率を得ることができたわけですけれども、他の人は全然その恩恵に預かっていないですよね。おそらく現在でも、たとえば、産業によってはバイオ技術の部分だとか、あるいはエネルギーでもいいですけれども、高い収益率がある産業があるわけじゃないですか。そうなると、今後、全体としては低成長率で低利潤になっても、一部の産業だけは高利潤を実現して、そこに投資できる人だけが儲かっていくという、そういう意味での資本主義が残っていく可能性は結構あるんじゃないかなと私は思いますね。少なくとも資本主義がなくなるのかどうかは置いておいても、成長しない資本主義はやってくるだろうと。全体としては経済成長はしないけれども、資本主義はまわっていると。まわっているかどうかはわからないけれども、まわっているという言葉も難しいいですけれども、資本を投下できて、稼げる人もいるけれども、全体を均せば経済成長はしていない。そういう時代は近い将来というか、理論的にそんなに飛躍しなくても考えられるだろうということは言えると思うんですよね」

格差社会が導く結末
秋元キャスター
「先ほど、成長のない資本主義の状態という話がありましたけれども、今後そう遠くない将来ということなんですよね。そうなってきますと、気になるのが格差の拡大ということになるのですが、アメリカの富裕層上位1%の所得が国民総所得に占める割合の推移を示したものですけれども、つまり、どのぐらい富が偏っているかというのを示すグラフですが、1930年代頃から割合が減り続けていて、1970年代には富裕層の所得が占める割合が10%以下となり、富の偏在が低下したのですが、その後上昇に転じて、直近の2012年で22.46%。所得格差が大きく広がっていて、1920年代後半のレベルに近づいているわけですね」
萱野教授
「これは実は非常にショッキングなグラフですよ。どういうことかというと、アメリカの富裕層の所得の割合が下がった時って、時代を見ると、アメリカの高度成長の時代ですよね。要するに、どういうことかというと、経済の成長がある時というのは格差が縮まるんです。成長がなくなると格差が広がるんです。これは資本主義で常に見られる現象ですよね。ですので、成長なき資本主義というのが今後続くとすると、必然的に格差が広がっていくんですよね。理由はたくさんありますけれども、1番の理由は、経済成長をしている頃というのは、モノをつくって売るという規模がどんどん増えていくということですから、労働者が必要だし、働いてモノをつくってくれる人に給料を払う。その人達がモノをたくさん買う。それによって経済が増えていくので、どんどん中間層が出てきて、経済の底上げが起こるということですよね。それが1つの理由。さらに、モノが売れなくなってきたと。たとえば、住宅が売れなくなってきたといった時に、皆さんが投資家だとしますよ。お金をたくさん持っていたと。どこかお金儲けができるところに投資をしたいと思っていた時に、住宅があまり売れなくなってきた。でも、住宅市場しかなかった場合に、皆さんならどうするか。簡単な話で、私が買ってすぐに売るから、反町さん、買ってくださいとか、皆でどんどん買って、売って、買って、売ってとやれば、だんだん値段が上がっていきますよね。それで利益を稼ぐことができますよねという現象が起きるんですよね。何が起こるかというと、要するに、バブルですよ。実際の家が売れなくなったら、今度は取引の回数を増やすことによって、土地ころがしとか、不動産ころがしで、利潤を得ましょうよという動きが出てくるんですよ。そうすると、お金を持って投資できる人達はたくさん資産をあっちへやったり、こっちへやったりすることによって、その都度お金を稼ぐことができるけれども、投資できない人達は、庶民の人達は投資なんてできませんから、投資できるお金を持っていませんから、そこは所得が増えない。だから、格差が広がっていくということになりますし、現在のように新興国が成長していて、先進国は成長が止まっているという形になると、新興国に投資できるだけの資産を持っている人達は、どんどんお金を稼げることになっていくこともありますし、さらには、これはなかなか怖い話ですけれども、1800年以降、やっと人類は経済成長を実現したんだと。と言うことは、それまではゼロ成長だったわけですよ。経済成長をしていない、にもかかわらず、金利は結構高いですね。先ほど、私は成長をして、その成長率、利潤率に連動をして、利子も決まってくると言いましたけれども、実は成長率がゼロでも、金利が以外と高かったりするんですよ。なぜかと言うと、金利には2つの側面があって、1つは成長見込み、期待収益率と言いますけれども、これだけ投資をすれば10%の利益があるだろうと。だったら、私は8%で貸しますという。そういう要素と、もう1つはリスクプレミアムと言って、とにかく人に貸すこと自体がリスクですね。お金を貸す、返ってこないかもしれない。逃げちゃうかもしれないということは、あなた、あまり信用がないから50%で貸しますよとか、いわゆる消費者金融の方が銀行で借りるより高いのと一緒ですよね。リスクが高いから金利が高くなる。つまり、お金を持っている人、お金が必要な人は、どの時代でもいますから、お金を持っている人は経済が成長をしなくても、高い金利で貸すことができるんですよ。あなたはリスクがありますから、ちょっと金利を高くしますよと言って。その部分が上乗せされるので、成長率がなくても金利が高くなっちゃうんですね。地代を考えるとわかりやすいですよ、昔の。地主がいて、農民に土地を貸して、お前ら耕せと、地代をとるわけですよね。でも、地代は農業で採れた生産物からたくさん採っちゃう。それで昨年採れたよりももっと採っちゃうわけですよ。そうすると、農民は土地を借りて耕せば耕すほど、貧乏になっていく。地主はどんどん金持ちになっていく。これは、成長していなくても起きるんですよね。その場合、お金を貸せる人はすごく有利ですよ。その差もあるから」
反町キャスター
「そういう時代がこれからくる可能性がある?」
萱野教授
「広がる可能性がある。だから、賃貸住宅でもいいけれど、他に何かを貸せる人はどんどん儲かっていく可能性がある。でも、借りるしかない人達は、所得が増えないまま、むしろ借金が増えていく可能性もあると」

ポスト資本主義
秋元キャスター
「もし現在の資本主義が終わったとして、そのあとにくるものは何なのか。水野さん、いかがですか?」
水野教授
「資本主義が終わったあと、市場経済だけは残しておかないといけないと思うんですね。ですから、価格機能は残しておかないといけない。計画経済は、私はそういう意味ではダメだと思うんですね。市場機能を残しながら、でも、先ほどの資本の自己増殖はできない。ですから、資本主義ではない。定義からすると資本が自己増殖をしないわけですから、市場経済だけは残して。そうすると、利潤率ゼロで変ではないかということになるんですけれど、それは現在の日本やドイツを考えれば、何のために利潤を企業が確保するのかということを考えると、企業が利潤を確保していいのは、将来の設備投資をするためにいったん内部留保利益としてストックしておくわけですね。それで新しい、優良な投資先があった時に内部留保から、全部銀行から借り入れないで、一部、自己資本として工場を建てる。だけど、現在、住宅は十数パーセントが空家ですね。それから、食品ロス、1割から2割は食品を捨てている。それから、自動車メーカーで言えば、1000万台の生産能力があるんですけれど、国内であれば400万台弱ぐらいしか売れない。新幹線も、高速道路も、飛行場もいろんなものが日本の国内の中に資本ストックとしてありますから、新たにいったん内部留保を蓄積し、工場をつくってというのが正当化されるかどうかという。それをやった結果がパネル工場ですね。21世紀の初頭に何千億円投資をしたパネル工場の稼働率が上がらず、半年経って数千億円の損を出して売却するということがありましたね。だから、利潤を確保したものが全部特別損失として消えたわけです。そうすると、利潤率ゼロであっても十分必要な資本は、コンビニもいっぱい…」
反町キャスター
「経済成長するなと聞こえますよ」
水野教授
「十分ありますから、現在の資産を有効に使うだけでも、世界一豊かな生活が日本はできるところまできたという、おそらくドイツもそうだと思いますけれども」
反町キャスター
「経済成長を目指すべきでないということですか?目指して、変に投資するとかえって火傷するよという話。そういうことですか?」
水野教授
「そういうことですね。資本主義が資本の自己増殖だという定義だとすると、まだまだ資本を増やしていかないといけないんですけれども、資本主義が国民の大多数の人が豊かになる生活水準に引き上げるという目的に考えれば、もう十分、私は目的を達成したと思います」

資本主義限界説から見る アベノミクス①金融緩和
秋元キャスター
「アベノミクスの3本の矢ですが、1本目の大胆な金融政策については」
水野教授
「金融政策は人々の期待に働きかけて、設備投資を促すとか、そういうことを期待している。周りに物価の上昇を促してということですけれども、実際に家計がどんなふうに感じているかと言うと、これは日本銀行がアンケート調査で3か月に1度発表しているんですけれども、物価上昇を困ったことだと回答した人の割合が65%に達しました。一方、同じアンケート調査で、現在の景況感は良くなったと答えた人から悪くなったと答えた人の差し引きを指数化しています。上に上がれば、これは景気が良くなったと感じる人が多い。現在アベノミクスの第1の矢で消費者物価が3%台に乗っかってきました。これは4月からの消費税の2%分が入っていますけれども、そこでどういうことが起きたかと言いますと、物価上昇は困ったと答える人が急激に増えて、逆に景況感が悪くなったという人が増えてきているんですね。と言うことは、現在の段階では過半数の50%以上の人は、2013年の半ばぐらいから、ちょうど大胆な金融政策をやったあたりから困ったと考えた人が多いわけですので、人々の期待に働きかける政策をやっているのに、働きかけた人々は、皆困った困ったと言っているわけです。結果的に日銀が意図している働きかけは、現在のところ全くうまくいっていない。それはなぜかと言いますと、名目賃金が1%ぐらいしか上がらないのに、物価が3%も上がって所得の実質的な購買力が下がっている。しかも、その下がり方が1997年からの趨勢的な下がり方に比べて量的な金融緩和をしてから、より強く下向きに下がっている」
反町キャスター
「物価下落が続くような状態からは脱却しているのですか?」
水野教授
「しています」
反町キャスター
「政府の説明は、当初そういう状況が続くけれども、徐々に賃金の上昇カーブを超える時が、もう少し待ってくれという説明があるんですけれども」
水野教授
「それは、賃金はどうやって生み出すかというと、売上げから仕入れを引くんです。売上げから仕入れを引いた差額がいわゆる付加価値。付加価値が企業利益にまわるのか、それか賃金にまわるのか。それから、もう1つは、店舗の維持費、工場の維持費という、いわゆる固定資本減耗の3つに分かれてくるんですね。現在、何が起きているかと言うと、少し原油価格が下がっていますが、これはその背後に世界経済が悪いということですけれど、もうちょっと長期で見ると、売上げが少し増えるのですが、ほぼそれと同額、中間投入額が増える。中間投入額というのは、日本で言えばほとんど化石燃料です。化石燃料代がどんどんかさんでいくんですね。最初は1バーレル20ドルから100ドルに上がったのですが、現在80ドルですけれども、円が80円だったものが100円を超えましたので、ドル建ての原油価格が下がっても円建てでは一向に下がらなくて、逆にどんどん仕入額が上がっているんですね。でも、世界経済はそんなに良くないので、売上げがそんなに伸びない。と言うことは、差額の付加価値がどんどん縮まっていますから、縮まっている時に、固定資本減耗の設備の維持費は、過去の投資した一定割合ですから、決まって減らせない、大損してスクラップ化しない限りは。維持費が既に決まっているんです。企業利益は現在の資本主義下で言えば、株主の力が強いですから、配当性向を高めろということになり、そうすると、企業利益も減らせない。最後に賃金が調整項目になるわけですね。以前は、調整項目は企業利益が最後の差額だったんですけれど、現在はどうやって決まるかというと最後の差額は賃金ですから、売上げから仕入れを引いた付加価値がどんどん縮んでいく時に、どこで調整するかと言うと第3番目の賃金で調整する」
反町キャスター
「そうすると、好循環、好循環と言うではないですか。好循環を目指すんだと。経済が良い方向にまわっていって、それが賃金につながり、それが積極的な投資につながって、経済が大きくなっていく。この非常に幸せなシナリオは無理だと思った方がいいということですか?」
水野教授
「もう無理だと思います」

資本主義限界説から見る アベノミクス②『財政政策』
秋元キャスター
「2つ目の矢の財政政策ですが、国の借金1039兆円について」
水野教授
「現在のアベノミクスという短期間に限って言えば、これは消費税を上げる時に、それだけ景気に下押しする圧力がかかるから、事前に積極財政をやってきているわけです。現在、消費税を8%から10%に上げる議論が起きていること自体、積極財政が失敗に終わっているんです。積極財政は8%から10%に上げるために既に財政出動をしていたわけですから。していた効果がないから、現在、政府内で8%にしていいのか、10%にしていいのか、民間の人を呼んで聞いているわけですよね。あれ自体が、既に財政政策は効果がなかったということを世の中に知らしめている。100人呼ばなくても、積極財政は効果があるので8%から10%に予定通り上げますということを言わなきゃいけない。私は消費税は最後に上げるべきだと思います。最後に上げるというのは、他の法人税、所得税、金融資産課税とか、そういうところで税金を上げたあと、それでも足りない分は最後に消費税でお願いしますと」
菅野教授
「今後、少子高齢化がどんどん進んでいって、それを財政的に賄うためには10%では消費税率では足りなくて20%、30%までいかなければいけないという議論が時々ありますよね。そこから考えてみると10%では足りない。どこか削減しなくてはいけないですよ、やっぱり。私はこのまま財政が膨らんでいく中で、ちょっと消費税を上げたぐらいではもう追いつかないと思うんですよね。8%に上げる時もそうでしたけれども、これだけ3%も消費税上がるのだから社会保障をもっと充実させるはずですよねということで、世論は声を上げた。政府もそれに応えようとして、結局消費税で上がる分よりも結果的には公共投資も含めて、借金が増えちゃったわけですよ。だったら初めから上げなければいいのではないかという話になるわけですよね。本来は財政赤字を減らして、累積債務を減らして、少しでも減らしていくことの目的のために税を上げるわけですよね。上げる度に財政支出をいろんな形でしていったら意味がないと思うんです。税を上げて、繰り返していく度に借金が増えるという最悪な状況が続くと思うんですよね。なので、私は削ることが最初。財政を削減することが最初で、それで人々が税率を上げても何も自分達にとってサービスなんて良くならないという諦めの境地になったところで上げるべきだと思いますね。まだ我々は期待していますから。消費税を上げればもっと良くなる。でも、それによって政府債務が増えていきますから、政府債務が増えることによって最終的に日本経済そのものがダメになりますから。それよりも前に手を打つべき。だから、減らすのが先だと思います」

資本主義限界説から見る アベノミクス③『成長戦略』
秋元キャスター
「民間投資を喚起する成長戦略の規制緩和をどう見ていますか?」
水野教授
「規制緩和は、小泉総理の時からずっとやってきましたね。あるいはその前の労働の規制緩和は1990年代の後半から。労働の雇用の流動化で何が起きたかと言うと、非正規社員がリーマンショックの時に雇い止めが起きて大量の失業者が出たと。金融の自由化はもっと前から金融ビッグバーン、あるいはその前からやってきて、金融の規制緩和をやって何が起きたかと言うと3年に1度バブルが起きてはじけるということが起きましたよね。それから、規制緩和をして、成長をするというのは、私はほとんどそれは幻想だと思うんですね。日本が成長してきたというのは、規制があった時に結局、自動車と電機械産業で世界一になったわけですから、そこで規制があったのかと言うと全然規制緩和していたわけではないですよね。ですから、成長の機会がないから、規制緩和に頼るしかないというところで、先ほど、大胆な金融政策のところで、2013年に日銀の副総裁である岩田先生が期待に働きかけるというのは、おまじないのようなことだと自らおっしゃったわけですね、セミナーで。この規制緩和自体も、規制緩和をすれば成長するんだということは、おまじないのようなことだという気持ちでたぶんやっている」
反町キャスター
「萱野さんは成長戦略の可能性をどう見ていますか?」
菅野教授
「そこまで成長戦略は要らないとラディカルに言い切れないところがあって、少しでも成長を目指す、豊かさが少しずつでも実現されていくということは経済を考えるうえで大事だろうなと思うんですよ。今後、日本では人口が減っていく、労働者の数も減っていく中で何とか高齢者を維持するためには、1人当たりの生産性を上げていくしかないだろうと。そのへんでの成長戦略が必要になってくるだろうと。いわゆる国全体を経済的に維持するためにも、ある程度は必要になってくるのではないかなと思っているところがあるんですよね。ただ、成長戦略自体の難しさというのがあって、特に、アベノミクスで言うと、2つ目の機動的な財政政策と成長戦略はなかなか両立し得ないだろうと思っているんですよ。どういうことかと言うと財政政策の一番代表的なのは公共投資ですよね。公共投資をバンとやる。これは民間では利益が出ないところに投資をするわけですよ。と言うことは、不採算分を温存させることになるんですね。そこに労働者がいろんな工事があるからということでいっぱい集まってくる。本来、成長戦略はもっとこちらの方でいっぱい人材がほしいのに、こちらにとられてしまって新しい成長戦略のもとで成長が期待されているような分野が成長しなかったりするわけですね。人材の移動が行われないですよね。さらに言えば、公共投資にたくさんお金がいっているから、民間の企業が設備投資をして、ビルを建てようとしても、資材がすごく高くなっちゃって、建設労働者もいなくて、設備投資ができないですよ。本来、成長戦略は民間の設備投資をどんどん活性化させて、それによってイノベーションを起こして経済を成長していきましょうということなのに、全部政府の方の仕事に人材も資材もとられていってしまっていますから、民間が現在設備投資できなくなっちゃっているんですよ。ですので、私は財政政策と成長戦略はアベノミクスの中ではなかなか両立し難いものだと見ています」

水野和夫 日本大学国際総合政策学科教授の提言:『よりゆっくり より近くに より寛容に』
水野教授
「『よりゆっくり より近くに より寛容に』の反対が、よりはやく、より遠くに、より合理的に。これは反対語の概念が近代社会、あるいは資本主義の原理、原則ですね。それをずっとこれまで400年間やって日本は世界水準まで上がり、一歩前に出ようとすると逆風があるということでありますので、であれば、これまでの行動原理を全部反対側にするということが必要だと思います。これはなぜそう思うかと言いますと近代が出てきた時に古代ギリシャに見習えと、いわゆるルネッサンス。中世が近代に変わっていくということになりましたので、現在、近代システムから脱却しようとすれば、近代を否定して、その1つ前の中世、いわゆる新しい中世と言われていますけれども、その時の行動原理が『よりゆっくり より近くに より寛容に』ということです。近代も古代ギリシャに戻れということで、近代になったわけですから、戻る原理で新しいものを生み出すということだと思います」

萱野稔人 津田塾大学国際関係学科教授の提言:『危機に強い経済』
萱野教授
「今後、成長なき資本主義が続いていくとするならば、世界の経済は非常に不安定になっていくんですよ。たとえば、実態経済で成長しなくなるとバブルが起きやすくなります。金融取引によって利益を稼ごうとしますから。バブルが起きる、そうすると、どこかではじけますよね。それで世界が金融危機になる。その時、たとえば、非常に大樹に依存するようになる。たとえば、中国に設備投資をして中国に依存するような日本経済だったら、中国でバブルが崩壊した時にすごくダメージを受けるわけですよ。そういったことにならないような仕組みをつくっておきましょうと。そういう危機に強い経済構造をつくっておきましょう、さらに、債務危機も今後起きる可能性は高くなりますから、危機まで起きなくても非常に不安定、債務が膨らんでいって、非常に不安定になる地域が出てくる、その時にその影響をなるべく受けにくく、国民がちゃんと経済のもとで生活できるようにしておこうという経済システムを今後つくることが非常に重要になってきますね」