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2014年8月26日(火)
混迷極める中東情勢 『イスラム国』の正体

ゲスト

山内昌之
東京大学名誉教授 明治大学特任教授
宮家邦彦
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

混迷極める中東情勢 イスラム国とは
遠藤キャスター
「『イスラム国』が国家樹立宣言をするまでの流れを振り返ってみたいと思います。まず2003年3月にイラク戦争が始まり、そのあと2004年10月に、スンニ派過激派組織『イラクのアルカイダ』を設立します。2006年に組織名を『イラク・イスラム国』へ変更し、最高指導者にバグダディ氏を据えます。2011年の12月には米軍がイラクから撤退し、それをきっかけに行動を激化させて、今年6月、シリア北部からイラク中部までの一帯で、一方的に国家樹立を宣言、そして組織名を現在の『イスラム国』(ISIS)へと変更しました。こういう流れですが、これだけだとよくわからないところがあります。このイスラム国というのはいったいどんな組織なのでしょうか?」
山内教授
「これはもともと組織にして、しかし、現在はシリアの東部とイラクの西部をかなり実効支配している。その意味で自称国家になったという組織です。ですから、組織と国家が重なっている、非常にユニークな、言ってみるとアルカイダのようなテロ組織。これが国家をつくったと考えるとわかりやすいと思うんですね。これは地域的に言うと、ちょうどシリア砂漠という概念もありまして、これは現在の国境で言うとシリアとイラク、モスルを中心にするイラクに跨っていた地域、これがシリア砂漠ですが、ここに国境線が引かれたのは第一次世界大戦、今年で100年ですけれども、その結果、生まれた国境線。その背後にはイスラム国が否定しているサイクス・ピコ秘密協定という、イギリスとフランスの秘密協定、それに基づいた、セーブル条約とか、それから、いろいろなローザンヌ条約だとか、いろいろな第一世界大戦後の取り決めによって、現在の国境ができるのですが、そういう枠組みは第一に西欧の分割の産物であると、つまり、植民地帝国主義の産物であると。アラブの論理には関係ない、イスラムの論理に関係ない。第2に、イスラムにおいてはもともと国境とか、国家というものはない。イスラムとは元来、7世紀に生まれた時に、宗教と政治が一致していたわけですから、教団の広がり、すなわち組織というものが国家であると。教団国家として広がったわけだから、そこに国や地域の名前をかぶせるということにはなっていないんですね。この組織が目指しているのは、主観的に言えば、そうした初期の7世紀のイスラムが理想化したような状態。西洋的な国境や国家の概念が入る前。イスラムの本来の歴史、そこに遡って自分達こそが自分達の価値観と秩序、概念で、新しい中東というものをつくっていく、新しいイスラム世界をつくっていくという、主観的にはそういうことです。ですから、イスラム国と名乗っている」
反町キャスター
「たとえば、国家は、主権、領土、人民が3要素と言われますが、別に、彼らはその地域内をきちんと、武力による統治があるかもしれませんけれど、そこで領土を確定して、その域内の様々な制度を整えているわけではないですよね」
山内教授
「そういうことですね」
反町キャスター
「我々の考えているような国と、向こうが国と名乗っているから、我々も国とは言っているのですが、国かと言えば、国ではないですよね」
山内教授
「我々の考えている国というのは国際法、あるいは国際的な条約、協定、こういうことによって認知され、そこに統治正当性、支配、国民に対して、租税権、税徴収権、あるいは国民の担税権、税を支払う。そういうものもあり、かつ見返りとして、行政等々が機能するというものを国家というわけです。そういう意味で言うと、これはないですよ。ですから、主観的に彼らは自分達側が理想化している、そういうイスラム国家を目指しているということを言っているに過ぎない。実際、彼らが、たとえば、財源を考えてみても、早晩破綻せざるを得ないのは、彼らは石油を、モスルを獲得することによって、確かに油井、油田を手に入れたけれども、実際それをどうさばいていくかというところが、非常に難しいということです。ですから、石油収入はすぐに担保されるわけではないから、国としての維持というものが難しい。そもそもこういうジハード国家、このような暴力と軍事をこととする一種の侵略国家に対して、商取引をするようなところはないだろう。だから、財源という問題で非常に問題がある。2つ目は、彼らの現在の主要な財源は、モスルを落とした時に、中央銀行のモスルから4億ドルと言われていますけれど、それを詐取したわけです」
反町キャスター
「詐取というか、要するに銀行強盗をしたわけですよね」
山内教授
「わかりやすく言うとそういうことになります。それも尽きてくるということになります。だから、どうするかと言うと、結局、国内において、それを支援するような部族とか、支援勢力がでなければいけない」
遠藤キャスター
「宮家さん、その勢力というのはどのくらい拡大しているのでしょうか」
宮家氏
「いろんな数字がありますけれども、イラクに入る前にはだいたい1万人ぐらいと言われていたものが、現在5万人とも言われているんですね。そして、その中の相当の部分は外国人が入っているとも言われているので、どうでしょう、数万人の部隊がいるということなのでしょう。ただ、先ほどの山内先生のお話に、ちょっとだけ付け加えさせていただくと、わかりやすく、あまり単純化してはいけないのだけれども、これまで我々が慣れ親しんだと言ったら申し訳ないけど、アルカイダ的な、どちらかというと個人プレーで、少数で自爆テロをやる、天国に行けますよと。こういう話ですよね。ところが、それに比べると、このISISなるものは非常に組織的ですよね。人数もそうですけれども、これは軍隊経験のある人がどこかにいて、そして普通のテロリストを組織化して、軍事的にも、それから、行政的にもこれまでとは違うテロリスト集団をつくっているように思います。だから、軍事的にはイラク軍がやられちゃうぐらい非常に組織的な、つまり、アルカイダがイラク軍をやっつけることなんてあり得ないですよね。ところが、これは組織性があるからできる。組織性があるから、彼らは単にその敵を破壊すればいいのではなくて、領域をとりたい。その領域で行政をしたい。収入も得たい。ついでに宣伝もすると。だから、我々が言うような、主権国家としての国ではないんだけれども、しかし、彼らがやろうとしているのは一定の領域を組織的に統治したいという強い願望がある。彼らのもう1つの特徴はその残虐性ですよね。これはこれまでのアルカイダとは違って…」
反町キャスター
「アルカイダも十分残虐だったと思うんですけれども」
宮家氏
「その人達がけしからんと言っているので、相当なものだと思うのですが、非常にイラク的なものだと思います」
遠藤キャスター
「現在、勢力というのはどこまで広がっているのですか?」
宮家氏
「地図を見ていただきたいのですが、もともとはバクダッドの西のファルージャとか、ディアルとか、このあたりから生まれたものですが、その頃はイラクのアルカイダだったわけですよね。ところが、アメリカ軍とバクダッドの中央政府が掃討作戦をやってですね、散り散りバラバラになったんですよ。おそらく、北に逃げたんだと思うんですね。北の段階で、今度は米軍が撤退していくのですが、その頃、ちょうど2011年というのは、シリアで内戦が始まった。アラブの春なるものがあって、その結果、このラッカに、力の空白ができちゃうんですよ。ここに移動するんですよ。入っていったんですけれども、向こうにはアルカイダでも違うアルカイダ系がいて、だから、アルカイダの本部から『お前、ちょっとやめろ。シリアはシリアで別にあるんだ』と言われて破門されたわけです、簡単に言えば」
反町キャスター
「アルカイダに破門された?」
宮家氏
「そう。相当な人達ですよね。それでこの頃アレッポあたりにはどちらかと言うと穏健なというか、どっちもどっちなのですが、より穏健な反政府勢力がいて、それから、このダマスカスにですよ、ダマスカスの勢力がいたとしても、ラッカは、ある意味で真空地帯になっちゃって、それでラッカに強い勢力圏、ラッカを中心にね。それがだんだん強くなり過ぎて今度は凱旋です。イラクに戻ってきた。同時にもう1つユーフラテス川がありますよね。この川沿いに両方から降りてきて、勢力を拡大していると。こういう状態ですよね。ここモスルには、クルド人が住んでいます。バクダッドは簡単に言えば、シーア派ですから、バクダッドあたりまでは力がある程度維持できると。しかも、部族の支持もある程度得ている」
反町キャスター
「そのイスラム国に拘束されたとみられている、湯川さんですが、そもそも湯川さんはどうしてこういうところにいたのか。彼は現在どういう状況にあるのか。もしわかるところがあれば教えていただきたいのですが」
宮家氏
「いや、それはわからないですけれども、推測としか言いようがないので、失礼があったら申し訳ないですけど、軍事マニアの気持ちがどこかにあったのかもしれません。憧れがあったのかもしれません。それから、仕事としてプライベートアーミー、もしくは警備会社をつくるというのは、それは儲からないことではないんですよ。私はやりませんけれども、こんなことは。しかし、そういう人達もいます。その人達は日本で実戦経験がないですから、ある程度、経験が必要だと考えたら、それは一番いいところはシリアですよね。なにせシリアは現在テロのオリンピックをやっていますから。世界中からどんどん、テロリストが入ってきているわけですから、その意味では、彼はそういうものを目指したかもしれません。ただ、おそらく行った場所が悪かったんでしょうね」
反町キャスター
「我々の方で数字をまとめると、イスラム国に合流したと見られる若者。イギリスから500人、フランスから900人、オーストラリアからも150人、こういう西側諸国に一時的かもしれないけれども、籍を置く、西側の教育を受けた可能性もある、この若い青年達がなぜイスラム国の考え方に共鳴し、惹かれ、現地に行って、暴力行為を働くのか?」
宮家氏
「彼らの頭の中で洗脳されたか、信じているかは別として、キリスト教の世界がイスラムを冒涜し、搾取をする。そして支配をしているんだと。それに対して、自分達は戦わなければいけないというものがその国にいて、イギリス政府なり、フランス政府なり、アメリカ政府に対して不満を持っている。それが一緒になって行動に駆り立てられたと」
山内教授
「以前もロンドンをはじめ、ヨーロッパの都市でテロ事件が起きていますね。あれは移民の第2世代や第3世代、その移民というのはイスラム系の移民達ということになるわけですね。自分が生まれた母国であるはずの国が、ご指摘もあったように、基本的に言えば、キリスト教がアングロサクソンの国で、そこでイスラム教徒の自分達が疎外感を味わう。そこには失業の問題、あるいは高等教育を受けられない疎外感。こういうような社会的な要因で社会的なある種の不満といったものが累積。それは否定できないと思うんです。他方この中に白人の人達がいる。つまり、アングロサクソン、あるいはフランスの場合、いわゆるガリア人、ゲール人の末裔としての白い肌を持ったフランス人。彼らはなぜこういうところにいるかというと、改宗ですよね。改宗というのはいろいろあり得るんですが、1つに、最初は啓示宗教、神の啓示を受けた宗教としてのイスラムに対する共感から始まるということもある。それから、2つ目は、これは日本も含めた先進国の若者の、ある意味では知的な部分、あるいは非常に鋭敏な形でモノを考える部分にありがちだけど、自分達の父祖達、あるいは先祖達が犯した植民地主義、帝国主義の負の遺産というものに対する罪悪感。こうした中東、イスラム世界というのを植民地化して、長いこと支配し、国境も人為的に引いた。こういうことに対するある種の贖罪意識みたいなものが、最終的にこのような運動にも加わっていく動機の、少なくとも1 つである可能性はある」
反町キャスター
「イスラム国の、イラクとかシリアの中における展開、ここまでの成長の過程みたいなものを見てきたのですが、今度、イスラム国の持つ危険性をどのように感じていますか?」
宮家氏
「我々にとって一番危険なのはおそらく5万人とも言われる戦闘員。シリアだけでですよ。そのうち、おそらく外国人が2万人。そのうちの多くは欧米の人達。アメリカ、ヨーロッパ。パスポートもアメリカ、ヨーロッパのパスポートです。従って、ビザもなく、どこの国でも行けるし、それから、アメリカにもヨーロッパにも帰ってこられる。現在、戦っているから顔が黒くて、鬚を生やしているかもしれないけれど、彼らは、きれいに鬚を剃って、ピシッとネクタイを締めて帰ったら、わからないです。その恐怖が現在、アメリカの国内、ヨーロッパでも既に始まっていて、現在は、中東で忙しいけれども、いずれは必ずアメリカなり、ヨーロッパの中でテロが起きるのではないかと、危険だと言われているんですよね。私は、日本ではそういうことはまずあまりないと思いますけど、しかし、日本に来ないという理由がない。アメリカのパスポートで入ってこられちゃうわけです。そういったことを考えないといけないような、新しい種類の集団だと思っています」
反町キャスター
「その意味でイスラム国なるものが、たとえば、中東における、かつて勝手に欧米に引かれたと言っている国境線なり、欧米的な政治整理に対する否定から成り立っているにしても、その延長線上に、たとえば、アメリカ国内におけるテロとか、ヨーロッパにおけるテロというのは、彼らの中ではそれは同じものになるわけですか。目的のために本拠地を叩くみたいな意味になるのですか?」
宮家氏
「内部でも、近い敵か遠い敵か、すなわち、アメリカとか、欧米を叩くべきだというようなアルカイダ的な考え方と、いや、敵は近くにいるんだと。アラブ人だと。もしくは、そういった形で動いている組織もあるし、現在のところイスラム国は近い敵だと言われているんですけど、しかし、それが頭打ちになると、もしくはある程度支配権が確立すれば、そろそろ外に行くかとなりかねない。ひょっとしたら危険だと思っています」
山内教授
「結局アラブの春の逆説ですよね。アラブの春の逆説と言いますか、悪い結果。ムバラク政権とか、カダフィ政権、アサド政権は確かに悪い政権だったわけ。ところが、国内において、強権的かつ暴力的に人権も無視して、この種のテロリズムにつながる勢力を徹底的に弾圧したことがあるわけで。その間、彼ら側はアラブ世界には住めない、活動できないから外へ行った。アフガニスタンに行き、欧米でテロをするということになった。現在、アラブの春で、そういう秩序が崩れちゃっているというところがある。ですから、アラブの中でできるようになったわけです、いきなり。ですから、近いところで、彼らは、本来、自分達の敵の重要な1つは内部の敵。アラブの中、イスラムの中。遠い敵は異教徒、キリスト教世界のアメリカやイギリス。こういうものの区別が従来はあったかのように見えるけれども、もともとイスラムというのは、先ほども申しましたように国境というものを、それは観念的に否定をしているわけだから、どこに居ようとも、それはジハードや神の道のために殉じる。戦おうというのは、最終的にいえば、イスラムの国家、すなわち、これがイスラム国です、今日の。そこに通じる道ということで、テロがこれから拡散するということが懸念されると。つまり、本拠地国家をつくったということですよね。かつてアフガニスタンをなぜアメリカが叩いたかと、主権国民、国家としてのアフガニスタン。そこを根拠地にして、アルカイダが入って、タリバンと手を結んで、9.11などにつながるようなテロ行為を働いた。今回、このシリアとイラクに跨る国家が危険なのは、そうした根拠地国家というものをタリバンよりもはるかに強度の重武装、一個師団をともかくあるのを鹵獲したわけだから、そういうようなところで、もう1回、それが復活しつつあると。このリーダーのアブーバクル・アル・バクダディと言うのですが、バクダッド出身という意味だけども、もともとは。実際はティクリット、すなわちサダム・フセインの出身地と同じだという説がある。ティクリット生まれ。現在この集団がこのようになぜ伸び、かつ脅威を与えているかというと、ただ、テロリストではなくて、先ほど言われたように訓練された職業軍人や、あるいは治安要員でもいなければ説明がつかない要素がある。それがどこから来ているかというと、明らかにバース党の経験者ではないかと」
反町キャスター
「サダム・フセインの部下だった?」
山内教授
「うん。ですから、ティクリットにイスラム国が入った時、勢力を伸ばした時に、そこでおかしいことが起きる。ティクリットでサダム・フセインの写真を掲げながら、このイスラム国を歓迎するという現象が起きている。これには2つ意味があって、それはシーア派のマリキ政権がそれほどスンニ派、アラブの住民によって忌避されていたということ。だから、イスラム国であっても、同じスンニ派で、同じアクセント、アラビア語のアクセントを話す、自分達の同胞という意識も倒錯して持っている可能性がある。しかし、おかしいではないか。バース党やサダム・フセインは無神論者に近い。あるいは信仰などないような連中、非信者、不信者だと。なぜこれと手を組むのかというようなことがアルカイダ的には言えるわけ。ですから、アルカイダがおそらく、イスラム国を許せないと。領域国家をつくるイラクのアラブ人。イラクのアラブという観点から見れば、これは少しおかしいと言えば、おかしいけれども、とりあえずそこにスンニ派の国家をつくるということからすれば、いろんな政治的要素を実は利用しているというところあたりがあるのではないかと。これは推測の段階です、まだ。あるのではないかというところが、この組織の、非常に従来にない特徴」
反町キャスター
「山内さん、先ほどおっしゃった根拠地国家なるものが、もしそこにできる、できつつあるとすれば、心配するのは、それがどのぐらい長持ちするものなのかという。先ほど銀行を襲って4億ドルを盗りました。そのほかに石油の利権も盗っています。でも、その売りさばき方までわかっていないようです。そういう国があと身代金がどのぐらいなのか。人頭税と言っても何十億もとれるわけではない、形だけではないですか。その意味で言うとこの国の持続可能性をどのように見ていますか?」
山内教授
「私はそれほど、国家として、現在のような状態をずっと維持できるふうにはなかなか思い難い。だから、問題は、雇用がつくられて、多くの人間がリクルートされているんですよね。だから、軍事的に訓練された軍人、あるいはテロ要員としてリクルートされただけではなくて、この人達が細菌ウイルスのように、今度は、逆に欧米などに広がっていくことによって、こういうのが拡散していくというのが怖いという。そういう意味で、その土地にイラクとシリアに、イスラム国という名の国は消滅した。しかし、イスラム国というものを名乗る組織は、欧米にもひょっとして、日本にも広がっていくと、ウイルスのように。これが怖いと。だから、国としての持続性というのは、これは、私は…」
反町キャスター
「もたないですか?」
宮家氏
「全くその通り。イスラム国なるものはエピソードだと思っているんです。もちろん、どのくらい長く続くかわかりませんけれどね。ただ単に残虐で組織性があるだけではなく、その地域で、バグダッドの中央政府に不満を持っているスンニ派の部族達が一応、喧嘩しないでいる段階。だから、生き延びているわけです」
山内教授
「そういうことですね」
宮家氏
「あの人達は意外と大酒飲みですからね、そんな簡単に、ISIS言う通りになんてやめるわけがないですよ。大酒飲みですよ、イラク人は。全員ではないですよ」
反町キャスター
「イスラムは禁酒ですよ」
宮家氏
「禁酒ですよ、もちろん。でも、すごくお酒を飲みます。そういうような人達のところでISISのようなやり方が長続きするわけがないんです。ただ、先生がおっしゃったように根拠地、すなわち、聖域ですよ、一種の。サンクチュアリができてしまうと、そこでガン細胞とオバマさんは言ったけれど、ガン細胞が培養されているんです。培養されて、どんどん増えて、それが先ほど、山内先生がおっしゃったように世界中に広がっていくと。この方が怖いと思います」
反町キャスター
「それはどうしたらいいのですか?はやめに叩くしかないですよね」
宮家氏
「そうですね。ただ、オバマさんはこれまで、ずっとそれを我慢してきたというか、我慢もしてこない、嫌だった。その結果ですよ」

勢力拡大イスラム国 イラク情勢と実効支配
遠藤キャスター
「首相が変わることでイラクの政治情勢は安定するのでしょうか?」
山内教授
「なかなか難しいと思いますね。現在、根本的にいうと、もとからマリキ政権はシーア派による政権ですよ、中央政府と言っても。ですから、スンニ派はそこに、ほとんど関与していない、排除される。それともう1つ、今日はまだ出てきていませんけれど、北部にクルド人の自治区がつくられて、今回のイスラム国と中央のマリキ政権のイラクにおける対立。こういう状況で一番の利益を得ているのは誰かというとクルド人ですよね。クルド人はますます自治区というものを、事実上の自治国家から、さらに独立国家へと近づけようとする。キルクークという石油地帯も手に入れた。財政的な基盤もしっかりしている。それから、西側諸国等もそれに対して同情的である。トルコのエルドアン政権は、イラクのバルザーニという人を中心とするイラク自治区の権力、政権に対して非常に良い関係にあるんですね。そういういろんな諸条件を考えた場合、北におけるクルド人の分離、自立傾向がますます強まる。そうすると、スンニ派とシーア派の争いに加えて、クルドの自立化を考えると、イラクというものがもう1回まとまって、国民国家としてつくられていくかというと、国の枠組み、あるいは国の統合のあり方として言えば、私はうまくやっていくのはあり得ないと」
宮家氏
「アバディ新首相を支持するかというと、マリキ前首相が嫌だからです。スンニ派がいて、クルドがいて、シーア派がいる非常に複雑な地域の統一を維持するために弱い政権、弱い政治家ができますか。サダム・フセインは確かに悪い人だけれども、独裁で力を持っていたんです。しかし、アバディさんが本当に支持されているのはマリキさんから代わったことだけで、その後の彼の政治的な力量とか、どのような政策をするかについては全くまだテストされていないですよ。このテストが始まった途端におそらく相当大きな問題が出てくると思います」

どうなる?首都バグダッド
反町キャスター
「バグダッドがイスラム国の手に落ちる可能性をどのように見ていますか?」
宮家氏
「スンニ(派の)地域と違いまして、バグダッドはミックスですから、いろんな人達がいますので、そんなに簡単に土着の部族の支持とか、そういうものは得られない。ですから、私はそんなに簡単に落ちるとは思わない」
山内教授
「ひとまずマリキ氏の部隊というか、マリキ氏のもとで統制が乱れた部隊が、アメリカの顧問団が入ってきて、いろんなことを通し再建されつつある。それがアバディさんのもとで、確かに性格の弱い人かもしれないけれども、ひとまず挙国一致、和解を進めていくといううえではシンボリックに意味がある。そのことで部隊が統一される。再建されれば、バグダッドは防衛できる。しかし、一番の誤算はマリキ氏の部隊が弱かった。マリキ氏の部隊が、武装反乱、イスラム国に持ち堪えられなかったのは誤算。誰にとって最大の誤算かと言うと、1つはイランですよ。イランはその代わりに、シリアに対して革命防衛隊を派遣したように、イラクに関しても考えてなかったことだけれども、シーア派の民兵という形でイランの関与が強まっているんです。そうすると、イランは国外でシリアとイラクにおいて、しかも、必ずしも形勢が割に有利ではないというところで、イランが過剰関与していくということもイラン自身もおそれている。しかも、そこにまたアメリカが戻ってくるということになるわけでして、なかなかこれからのアバディ政権は多難だと思いますね」
反町キャスター
「イラクというのが、スンニ派、シーア派、クルド、この3つに分かれる可能性についてはどう思いますか?」
宮家氏
「それは常に可能性としてはおそれがあると思いますよ。三分割をいいと言っていた人もいるけれども、私はいいとは思わないが、自主的にこのまま続けていたら3つに割れていたかもしれません。ですから、そうならないようにする意味ではアバディさんが来たことはいいんです。ただし、常に分裂の爆弾を抱えていると言っていいのではないでしょうか」

アメリカの対応は
遠藤キャスター
「イラクが混迷を極めたことについて、アメリカの責任をどう見ますか?」
宮家氏
「アメリカの中東政策というのは、相当ジグザグがありましたね。特に同時多発テロが起きた2001年秋から少し変わってきた。そこでテロとの戦い、中東の民主化という動きをしました。戦争を8年、10年戦って何が起きたか。何も得るものはなかった。その間に中国は台頭する。今度オバマさんが何で選ばれたかと言えば、中東の戦争を止めよう、とんでもないということで選ばれた。中東では何もしたくない、介入はしない。この戦争はやめるんだと。だから、新しい戦争は絶対しない、介入もしない。シリアでどんなに毒ガスが使われようが、アサド政権がどんなに悪いことをしようとしても、とにかく介入はしない。そうすると、シリアで何が起きたかと言えば、どちらかと言うと穏健なイスラム主義者の反体制派ができたが、それに対して応援をしない。結果、そいつが強くならないからISISみたいなのが出てくる。バグダッドの方はもっと酷く、イラクがまさに戦争をしかけて、サダム・フセインを取り除いたのはよかったんだけれども、その後の国づくりに失敗しましたよね。その結果、中央政府が弱くなった。中央政府が弱くなれば、当然先ほどご説明したように軍隊も弱くなって、力の空白ができて、そこにまたISISが入ってくる。その意味では、間接的な責任というのかはわかりませんけれども、アメリカが良かれと思ってやったことが、結果的にイラクとシリアに置ける中央政府の不安定化と、過激派勢力の増長の原因になったと、私は思っている」
遠藤キャスター
「視聴者からの質問ですが『アメリカがアサド政権を敵視し続ける理由は何なのでしょうか?イスラム国を悪役にしてシリアと手を結ぶ方が、地域の安定やアメリカの利益にもつながるのではないのでしょうか?』とのことですが」
宮家氏
「それはそうですよ。本当は言っちゃいけないんだけれど、シリア政府を潰すと、私は2011年にアメリカが言い出した時に何で潰すの、あんな中東のへそみたいな大事な国で、中東の安定の要であるシリアのような国をこんなに安易にぶっ壊していいのですかということを言いました。その時には決断が下されていたみたいです。メールにいただいたことは、もっとはやく気がつくべきだったと思います。ようやくシリアのダマスカスでは『アメリカが何もしないからISISがこんなになっちゃったではないか、うちと組みませんか』とやっているわけですよ。アメリカも背に腹は代えられない。イラクを安定させようと思ったら、結局臭い何とかと同じで、シリアにいるISISを叩かない限りダメだと。そのためにはシリアのバシャールと組まざるを得ない。もしくは協力はできないけれど、一応同じ方向で動かざるを得なくなってきたなというのが、現在のアメリカの状況です」
山内教授
「これは私が学者として、市民としての感情だけれど、あまり皆触れていないが、この政権は一国主義的外交ですよ。一国主義的外交の非常に冷淡な性格を持っている。中東の弱者に対して、彼らが一度でも実体的に共感を示したということはない。それから、ヒューマニティがこの政権は希薄ですよ。ガザであれだけ2000人の市民達が犠牲を受けているのにオバマ大統領はそのために何をしたか。あるいは今回のイラク、シリアにおいても。ですから、イラク、シリアで政治の真空につけ入れられたというのは、アメリカ政府が、オバマ大統領もそうですが、選挙制度とか、民主化という形式面のことにはこだわるけれども、現地の住民の間で最も信頼できる部族も含めて、スンニ派でいうとバース党も含めて、そういう中の権威や信頼感を持てる人達を成長させ、変えていくような努力や、そういう勢力の育成に失敗したということですね」

山内昌之 東京大学名誉教授の提言:『冷静なリアリズム』
山内教授
「中東は非常に不条理な世界ですね。イラク、シリアのみならず今日は中心的な話題になりませんでしたが、特にガザを見ますと児童、子供達を含め…イラク、シリアでも同じですよ。多くの犠牲が出ている。こうした非常に不条理な世界に対して、我々も含め、世界の常識的な人間は心を痛める世界です。しかしながら、そういうことに対する共感、あるいは同情は我々市民として当然持つべき感情だけれども、同時にこういう複雑で常に混迷を極めている地域には冷静なリアリズムでモノを見なければいけない。たとえば、オバマ大統領がこのような平和主義的理念を持っているから、ノーベル平和賞を与えたと。まだ検証されてはいない。検証されていないけれども、そのような形は彼が中東問題解決にどれだけ実体的に何かをしたかと言うと、それはしていないわけです。私はちょっと冷たい言い方ですが。そういうことを含めて、私達は日本の外交も冷静なリアリズムで対処するべきだと思っています」

宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の提言:『専門家を育てる!』
宮家氏
「10年に1度中東に関心を持って、ああ大変だ大変だと言うのではないんです。先ほど、山内先生がおっしゃったようにここは不条理なところですから、常に変なことが起こるんです。それは必ず日本に影響がある。昨日、北京から帰ってきましたけれども、中国も引き続き中東の石油に依存します。現在はまだ中東のプレーヤーではありませんが、彼らはいずれもっと大きな役割を果たすようになりますよ。その時に、日本にどれだけの中東の専門家がいるのですか。僕も専門家ではないけれども、優秀な人はいるけれども、数が少なすぎる。もっと10年に1回、ああ大変だと要請するのではなくて、常に向上的に優秀な人材を育てて、戦争があろうがなかろうがこの地域をちゃんと調和させてほしい」